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東京地方裁判所 昭和59年(ワ)14433号 判決 1986年5月29日

原告

安藤祐太

被告

金井正行

ほか三名

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告

1  被告金井正行(以下「被告金井」という。)は、原告に対し六〇〇万円及びこれに対する昭和五九年一二月二〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告松沢弥生(以下「被告弥生」という。)、同松沢理恵(以下「被告理恵」という。)は、各自原告に対し一五〇万円及びこれに対する昭和五九年一二月二〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

3  被告杉沢京子(以下「被告京子」という。)は、原告に対し三〇〇万円及びこれに対する昭和五九年一二月二〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は被告らの負担とする。

5  仮執行の宣言。

二  被告ら

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二原告の請求原因

一  原告は、昭和五八年六月一〇日午後九時二〇分ころ、自動二輪車(以下「本件二輪車」という。)に乗車して千葉県鎌ケ谷市初富二二番地先路上を走行中、前方の交差点の信号が赤信号に変つたので、交差点の停止線で停止しようとして、徐行しつつ、停止線手前で停車していた普通乗用車(運転手東山哲男)の右側に出たところ、折から対向車線を走行してきた被告金井運転の普通乗用自動車(以下「本件自動車」という。)と衝突し、路上に転倒して、右上腕開放骨折等の傷害を負つた。

二1  被告金井が本件交差点に進入したときは、対面信号の表示はすでに黄色に変つていたのであるから、右交差点を抜け出すまでには信号が赤色に変るかもしれないことを予想して交差点に進入してくる車の動静には格別留意し、他車との衝突、接触等の事故を起こすことのないようにすべき注意義務があるのに、被告金井は、これを怠り、脇見運転しながら黄色信号に気づかず、あるいは黄色信号であることを知りながらこれを無視し、漫然と自車を進行させた過失(信号無視、安全運転義務違反)がある。

よつて、被告金井は、原告に対し不法行為責任を負うべきである。

2  訴訟承継前被告松沢亮二(以下「亮二」という。)は、本件事故前本件自動車を他に譲渡していたとしても、右自動車の登録名義と強制保険加入名義が亮二に残されている以上、亮二が本件自動車についての一般的な支配権及び運行利益の帰属を失つたものとみることはできない。

よつて、亮二は、本件自動車の保有者として、原告に対して運行供用者責任を負うべきである。

三  原告は、本件事故により、自賠責保険五級相当の後遺症を残し、次のような損害を被つた。

1  治療費

(一) 東京病院松飛台 一一〇万八一四〇円

(二) 東京病院 八〇万円

(三) 東京慈東会医科大病院 一九万一八三五円

2  付添い看護料

(一) 東京病院松飛台分 六万円

昭和五八年六月一一日から同月二五日までの一五日間の入院分

(二) 東京病院分 三二万四〇〇〇円

昭和五八年六月二九日から同年九月一七日までの八一日間の入院分

(三) 東京慈東会医科大病院分 九万六〇〇〇円

昭和五九年五月一五日から同年六月七日までの二四日間の入院分

3  入院雑費 一二万円

4  慰藉料 一一四五万円

5  後遺症による逸失利益 四九四〇万八九六〇円

6  損害てん補 九二一万〇一五二円

四  ところで、亮二は、本訴係属中の昭和六〇年一〇月二六日死亡し、同人の子である被告弥生、同理恵及び同人の妻である被告京子は、亮二の権利義務を法定相続分にしたがい相続した。

五  以上のとおり原告の被つた損害は、前記三の1ないし5の合計六三五五万八七九五円から6のてん補金九二一万〇一五二円を控除した五四三四万八六四三円であるところ、原告は、被告金井に対しては右損害の内六〇〇万円、被告弥生、同理恵それぞれに対しては右損害の内各一五〇万円、被告京子に対しては右損害の内三〇〇万円、及びこれらに対する本訴状送達の日の翌日である昭和五九年一二月二〇日から各支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三被告金井の答弁及び主張

一  請求原因一の事実中、原告がその主張の日時にその主張の場所を本件二輪車に乗つて走行中、対向車線を走行してきた本件自動車と衝突し、路上に転倒して負傷したことは認めるが、その余の事実は否認する。

二  同二の事実は否認し、その主張は争う。

被告金井は、本件交差点の手前で信号が青であることを確認のうえ交差点に進入し、ほぼ交差点を通過し終えたころ、無免許で本件二輪車を運転していた原告が、停止中の対向車両の陰からセンターラインを越えて被告金井の走行する車線に進入してくるのを発見したので、道路の左側端いつぱいに自己の車両のハンドルを転把して急制動の措置をとつたが、原告の飛び出しがあまりに急であつたため、これとの衝突を回避することができなかつたものである。右のように、本件事故は、原告の一方的過失によるものであるから、被告金井には原告の損害を賠償する責任はない。

三  同三の1ないし5の事実は不知、同6の事実は認める。

四  仮に、被告金井に何らかの過失があるとしても、原告の過失が重大であるから、九パーセントの過失相殺がなされるべきところ、原告は、既に自賠責保険から合計九二〇万円余の支払を受けているので、本訴請求は棄却されるべきである。

第四被告弥生、同理恵、同京子の答弁及び主張

一  請求原因一の事実は不知。

二  同二の2の事実中、本件自動車の登録名義が亮二に残されていた事実は認めるが、その余の事実は否認し、その主張は争う。

亮二は、昭和五八年五月二二日、本件自動車を訴外小森秀一(以下「小森」という。)に代金一七五万円で売り渡してその代金を受領し、小森は、同年六月六日、被告金井に本件自動車を代金一九〇万円で売り渡して代金を受領したので、亮二は、小森に対し、登録名義の移転に必要な書類をすべて交付したが、小森と被告金井との間の売買において車庫証明の入手などの関係で移転登録が遅れている間に本件事故が発生したにすぎないから、亮二は自賠法上の運行供用者ではない。

三  同三の事実は不知。

四  同四の事実は認める。

五  同五の主張は争う。

第五証拠関係

当事者双方の証拠の提出、援用、認否は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

第一被告金井に対する請求について

一  請求原因一の事実中、原告がその主張の日時にその主張の場所を本件二輪車に乗つて走行中、対向車線を走行してきた本件自動車と衝突し、路上に転倒して負傷したことは当事者間に争いがない。

二  右当事者間に争いない事実、成立に争いない甲第一号証の一ないし五の各記載、証人東川哲男の証言、原告及び被告金井各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

1  本件事故現場は、松戸市串崎方面からくめぎ山方面に通ずる県道市川停車場線と右県道から松戸市松風台方面に通ずる道路とが交差するT型交差点の松戸市串崎寄りの直近であつて、同交差点には、多投式定周期の信号が設置されている。県道市川停車場線は、アスフアルト舗装の平坦な車道(幅員約六・六メートル)となつており、付近の交通規制は最高速度四〇キロメートル毎時、駐車禁止、追い越しのための右側部分のはみ出し禁止とされており、道路中央には黄色ペイントの実線一本が引かれている。

2  被告金井は、スポーツシヨツプ、旅行代理店、中古車販売業を営んでいたものであるところ、本件自動車(七四年型ベンツ)を小森オートから購入して友人に転売することになつたが、右自動車の電気系統を整備するため、これを運転して友人の西島方に赴く途中、本件事故現場に差しかかつた。被告金井は、県道市川停車場線をくぬぎ山方面から松戸市串崎方面に向け時速約四〇キロメートルで進行し、本件交差点手前約二六・八メートル付近で信号を確認したところ、対面信号が青色を表示していたし、先行する二台の車両も右折進行する状況にあつたため、右交差点を通過するべくやや減速して右交差点に進入した。被告金井は、右交差点進入後反対車線を松戸市串崎方面から進行してきた対向車が右交差点手前で停止したことを認め、他に右交差点に進入してくる車両がなかつたところから、右交差点内をそのまま進行していたところ、右交差点を通過し終ろうとする直前右交差点手前で停止している対向車の陰から突然斜めにセンターラインを越えて自車の走行車線に進行してくる原告運転の本件二輪車を発見したので、これとの衝突を回避するため道路の左側にハンドルを切るとともに急制動の措置をとつたが間に合わず、本件二輪車と衝突し、その後約一一・六メートル進行して道路の左端に停止した。

3  他方、原告は、昭和五七年三月中学を卒業し昭和五八年六月ころは市川にある田中建設に就職し配管工事に従事していたものであるが、運転免許がないのにかかわらず同年五月ころから友人より本件二輪車を借り受け、通勤のためこれを使用していた。原告は、事故当夜、勤務先の事務所から帰宅するため本件二輪車に乗車し、時速三〇ないし四〇キロメートルの速度で県道市川停車場線を松戸市串崎方面からくめぎ山方面に向つて走行し、本件交差点手前一〇ないし二〇メートルの地点に差しかかつた際、同一方面に先行する東川哲男の運転する普通乗用車が黄色信号のため右交差点手前で停止しようとするのを認めたのでやや減速して走行し、右先行車の後方五ないし六メートルの地点に接近したのであるが、その時既に先行車が完全に停車していたため、対向車が走行してくることはないものと軽信し、右先行車の右前に出るべく、突然ハンドルを右に切り時速約二五キロメートルの速度でセンターラインを越えて斜めに対向車線に進入したところ、反対車線上を被告金井運転の本件自動車が走行してきたため、ハンドルを切ったりブレーキをかけたりするいとまもなく本件自動車に衝突した。

右認定に反する前掲甲第一号証の四、五の記載部分、証人東川哲男の証言及び原告本人の供述部分は、いずれも前掲各証拠に照らしてたやすく措信することができず、他に前記認定を左右しあるいは覆えすに足りる確かな証拠はない。

三  そこで、被告金井の責任原因の存否について判断するに、右認定の事実によれば、被告金井は、本件交差点手前で対面信号が青色であることを確認して右交差点に進入した後は対面信号を確認していないのであるが、対向車が右交差点手前の反対車線の停止線付近で停止したのを確認するとともに、他に右交差点に進入する車両のないことをも確認して右交差点をそのまま通過しようとしたのに対し、原告は、右交差点に停止している先行車の右に出るべく、しかも反対方向からの交通に全く注意を払わず突然ハンドルを右に切りセンターラインを越えて対向車線に進入したため本件事故が発生したというべきであるから、本件事故は、原告の一方的過失によつて発生したものと解するのが相当であつて、被告金井の自動車運転上に信号無視、安全運転義務違反の過失があるとする原告の主張は採用することはできない。

四  してみると、原告の被告金井に対する本訴請求は、その余の点に判断を進めるまでもなく理由がなく、失当としてこれを棄却すべきである。

第二被告弥生、同理恵、同京子に対する請求について

一  前掲甲第一号証の二ないし五の各記載、証人東山哲男の証言、原告及び被告金井各本人尋問の結果を総合すれば、原告がその主張の日時にその主張の場所を本件二輪車に乗つて走行中、対面車線を走行してきた被告金井運転の本件自動車と衝突し、路上に転倒して負傷したことが認められ、右認定と反する証拠はない。

二  そこで、亮二の責任原因の存否について判断するに、本件事故当時本件自動車の登録名義が亮二に残されていたことは当事者間に争いがなく、成立に争いない丙第四ないし第六号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる丙第一ないし第三号証の各記載、証人小森秀一の証言、被告金井本人尋問の結果を総合すると、次の事実が認められる。

1  小森は、昭和五八年五月ころ、「小森オートモービルス」という名称で中古車販売業を営んでいたが、同月ころ、知人の被告金井からベンツの中古車を買い求めたいとの依頼を受けたものの、注文に適したベンツの中古車の在庫がなかつたため、業者仲間の「ユニバーサル自動車」の蛭田にベンツの中古車を探してほしい旨依頼した。

2  その後、右蛭田からベンツの中古車が見付かつたとの知らせを受けたので、小森は、保管場所に赴いて現物の本件自動車を確認したうえ、これを一時借用して自己の店舗にまで回送し被告金井に見せたところ、被告金井がこれを気に入りこれを買いたいということであつたため、右蛭田から本件自動車を買い取つて被告金井に転売することにした。

3  そこで、小森は、右蛭田と交渉を進めたところ代金一七五万円で本件自動車を買い受ける話しがまとまつたが、本件自動車は亮二の所有であつたため、同月二三日蛭田の指示により代金一七五万円を大陽神戸銀行の亮二の預金口座(口座名オートブルゲン)に振り込んで支払い、その二、三日後に蛭田から本件自動車の登録名義を変更するに必要な書類を受領した。

4  そして、小森は、同年六月初め被告金井に本件自動車を代金一九〇万円で転売し、そのうち一〇〇万円を受領したので同月七日ころこれを被告金井に引き渡したところ、被告金井が本件自動車の電気系統を整備するため、これを運転して友人方に赴く途中、本件事故に遭遇したものである。

以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

三  右認定の事実のよれば、本件事故当時本件自動車の登録名義は亮二に残されていたとはいえ、本件自動車は亮二から小森を経て被告金井に転売されていて被告金井がこれを運行の用に供していたものというべきであり、亮二が本件自動車を保管していてガソリン代や修理費を負担していたとか、亮二と被告金井との間に主従の関係があつたとか等についての特段の主張、立証がないから、亮二は、本件自動車の運行について、社会通念上、指示、制禦をなしうべき地位にあつたと判断することはできず、亮二が本件自動車の運行供用者であるとする原告の主張は採用に由ないものといわざるをえない。

四  してみると、原告の亮二ないし被告弥生、同理恵、同京子に対する本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく失当としてこれを棄却するべきである。

第三結論

以上の次第であるから、原告の本訴請求は、すべて理由がないからこれを失当として棄却すべく、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 塩崎勤)

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