東京地方裁判所 昭和59年(ワ)15120号 判決
一 請求の原因1の事実は、当事者間に争いがない。
二 同2の事実は、当事者間に争いがなく、右争いのない事実及び成立に争いのない甲第一号証(本件公報)によれば、本件考案は、次の構成要件からなるものであることが認められる。
A 靴下の脚部カバー筒部のフツトカバー部に対する取付中心が、フツトカバー部の前端から後端にかけてほぼ2対1の位置になるように取付けること
B 踵が後方へ丸味を呈して膨出するように形成すること
C 右A、Bを特徴とする靴下
三 原告は、本件考案の構成要件Aの「靴下の脚部カバー筒部のフツトカバー部に対する取付中心が、フツトカバー部の前端から後端にかけてほぼ2対1の位置になるように取付けること」の「2対1」とは、別紙説明図面(一)に赤線をもつて表示したように、底部材の周縁上の長さであるTQとHQが2対1の比率になることを意味するとの解釈を前提として、被告製品は本件考案の技術的範囲に属する旨主張するので、以下この点について審案するに、前掲甲第一号証によれば、(1)本件考案は、従来の靴下が、履いている人が動き回ると、下がつて踵の部分が足裏側に回ることがあり、これが足裏側に異物が入つたような感触となつて、履いている人に不快感を与えることに鑑み、このような不都合を生じさせない靴下の提供を目的として、靴下の脚部カバー筒部の取付位置に考慮を払い、脚部カバー筒部のフツトカバー部に対する取付中心が、従来のものはフツトカバー部の前端から後端にかけて3対1若しくは4対1であつたのに対し、この割合を2対1とし、踵が後方へ丸味を呈して膨出するようにしたことを特徴とするものであること、(2)この構成要件Aの「2対1の位置」について、本件明細書には、実施例の説明として、「底部材1の爪部材1aの周縁に前面側部材の彎曲線2aを合着するとともに、前面側部材2の両側踵2b、2cを底部材1の両側縁1b、1cに沿つて踵側に合着していき、底部材1の爪先部1aの前端から後端にかけて2/3のところでこの合着を一旦停止する。一方、底部材1の踵部1dの周縁には背面側部材3の彎曲線3aを合着するとともに、両側縁3b、3cを底部材1の両側縁1b、1cに沿つて爪先側に合着していき、底部材1の後端から前端にかけて1/3のところでこの合着を一旦停止する。この停止点は、前記前面側部材2の底部材1への合着停止点に合致するわけである。」(本件公報一頁二欄一九行ないし三一行)との記載及び「脚カバー筒部4のフツトカバー部5に対する取付位置は、フツトカバー部5の前端から後端にかけて2:1すなわち前記停止点の位置にある。」(本件公報二頁三欄三行ないし六行)との記載があること、(3)本件願書添付の図面の第3図には、本件考案の実施品についての使用状態を示す側面図が示されており、同図においては、側面図で表示されている靴下の前端から2/3、後端から1/3のところが構成要件Aにいう取付中心であることを示す寸法補助線が図示されていることが認められ、右認定の事実を総合して判断すれば、本件考案の構成要件Aは、「脚部カバー筒部のフツトカバー部に対する取付中心」が、靴下の底部材の長手方向の中心線上で測定して、底部材の前端からほぼ2/3、後端からほぼ1/3の位置になるように、脚部カバー筒部をフツトカバー部に取付けることを意味するものと認めるのが相当である。原告は、前認定の本件明細書の実施例の記載から、構成要件Aにいう「脚部カバー筒部のフツトカバー部に対する取付中心」の位置は、靴下の底部材の周縁において測定すべきである旨主張するが、本件明細書の「前端から後端にかけて2/3のところ」、「後端から前端にかけて1/3のところ」との記載からは、構成要件Aにいう「脚部カバー筒部のフツトカバー部に対する取付中心」の位置の測定経路は、底部材の長手方向の中心線上であるとも、また、底部材の周縁であるとも解しうるところであつて、この記載から直ちに原告主張のように解することはできず、かえつて、本件願書添付の図面の第3図には、構成要件Aの「脚部カバー筒部のフツトカバー部に対する取付中心」の位置の測定経路が、底部材の長手方向の中心線上であることが明示されており、これと本件明細書の前記記載とを総合して考察すれば、構成要件Aは前示のとおり認定判断せざるをえず、したがつて、原告の右主張は、採用することができない。また、原告は、本件考案の目的は、自然な足首の形状にフイツトし、長時間にわたつて履いてもずれ落ちることのない靴下を提供することにあるところ、被告が主張するように、取付中心の位置を定めるのに底部材の長手方向の中心線上の測定によつたのでは、足首の幅の狭いものと広いものとで中心線の長さの持つ意味が異なり、本件考案の右目的を達成することができないことになるから、この点からいつても、靴下の形状の測定は、靴下の幅を考慮に入れた周縁測定でなければならない旨主張するが、前掲甲第一号証によれば、本件明細書には、脚部カバー筒部のフツトカバー部に対する取付中心の位置を定めるのに、靴下の幅を考慮にいれるべきことを示唆するような記載は全くなく、また、本件考案の目的が靴下の幅を考慮に入れたものであることを示唆するような記載もないことが認められ、しかも、前認定の本件考案の目的にしても、靴下の幅を考慮にいれなければ達成することができないものということもできず、したがつて、原告の右主張は、本件明細書に基づく主張であるとは認められず、採用しえないものといわざるをえない。他方、原告が被告製品を表示するものであるとする別紙物件目録の記載によれば、被告製品は、底部材の長手方向の中心線上でみた場合、脚部カバー筒部のフツトカバー部に対する取付中心が、フツトカバー部の前端から後端にかけてほぼ2対1の位置になるように取付られているものとは、到底いえないものであるから、被告製品は、本件考案の構成要件Aを充足せず、本件考案の技術的範囲に属しないことが明らかである。
四 よつて、原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないから、これを棄却することとする。
〔編註〕本件における実用新案権は左のとおりである。
登録番号 第一三六九二六五号
考案の名称 靴下
出願 昭和四九年六月三日
出願公告 昭和五五年七月九日
登録 昭和五六年二月二六日