東京地方裁判所 昭和59年(ワ)2321号 判決
一 本件実用新案権が存在していたことは当事者間に争いがなく、原本の存在及び成立に争いのない甲第二号証によれば、原告がその主張の経緯で本件実用新案権の共有持分を取得したことが認められる。
二 次に、本件明細書の実用新案登録請求の範囲の記載が原告主張のとおりであることは当事者間に争いがなく、右争いのない事実と成立に争いのない甲第一号証の二によれば、本件考案は原告主張の構成要件AないしDからなるものであることが認められ、なお、この点は被告もこれを争わない。
三 被告が被告製品を製造し、群馬県を初め全国各地で販売し、販売のため展示していることは、当事者間に争いがない。
四 そこで、本件考案と被告製品とを対比する。
1 まず、被告製品は、打玉自動供給装置を備えたパチンコ遊技機であるから、本件考案の構成要件Dを充足することが明らかである。
2 次に、被告製品が本件考案の構成要件C、すなわち、昇降杆6をモーター9により定速回転するカム7に連結するとの要件を充足するか否かについて検討する。
前掲甲第一号証の二によれば、本件明細書の考案の詳細な説明の欄には、本件考案の目的等につき、「この考案はパチンコ遊技機の打玉を、玉打杆位置へ自動的に、しかも所定の速さを以て供給する装置で、(中略)該低い障害に隣接した通路3に定速玉送り片6を設け、これを原動軸に連結したものである。」(別添訂正明細書一頁左欄三四行目から四〇行目まで)との記載が、本件考案の実施例の動作に関する説明として、「送り片6は、モーター9によつて定速回転するカム7に係合して上下動を繰返している」(同頁右欄三一、三二行目)との記載及び「玉打杆4の前方に玉がなくなつても、送り片6が再び上昇しない限り後続位置の玉は供給されないから、送り片6の昇降速さよりも早い速さで玉を打つことはできない。」(同欄三九行目から四二行目まで)との記載が、また、本件考案の作用効果につき、「この考案装置は賞品玉は自動的に玉打位置に供給されるから客は玉を手で供給する面倒がなく、かつ敏速に玉を打つことができる。なお、その供給する速さは予め定められた速さ、例えば規則によつて定められた一分間一〇〇個にしておけば、この速さよりも早く玉打レバーを操作しても制限以上の早さで玉を打つことができないから、連続打の速さは制限され規則に反することを防ぐことができるものである。」(同二頁左欄二行目から右欄一行目まで)との記載があること、しかし、本件明細書における玉送り片ないし昇降杆6と玉打杆4との係合ないし連結あるいは玉打杆4とカム7との係合・連結の可能性については、本件明細書及び願書添付図面中に何らの記載も示唆もないことが認められる。
右に認定した本件明細書の開示内容、なかんずく、本件考案の作用効果に関する記載に照らして考えれば、本件考案は、玉を玉打位置へ一定の速度で自動的に供給することができ、かつ、その玉供給速度より速く玉打レバーを操作しうるものでなければならないのであり、したがつて、本件考案の構成要件Cにいう昇降杆6とカム7との連結とは、カム7の運動を、玉打杆4に伝えることなく、昇降杆6にのみ伝達し、玉打杆4の作動とは無関係に、昇降杆6を一定の速度で作動させるという構成のものに限られると認めるのが相当である。
原本の存在及び成立に争いのない乙第二三号証によれば、被告を請求人とする本件実用新案権に対する実用新案登録無効審判請求事件(特許庁昭和五五年審判第九八六二号)において、当時の登録名義人であつて被請求人である訴外長谷川初子は、本件考案が、昇降杆をモーターにより定速回転するカムに連結するという構成を採用することによつて、玉打レバーの操作速度に関係なく、発射位置へのパチンコ球の供給速度を一定にすることができるものである旨の主張をしていることが認められることも右の認定判断を裏付けるものというべきである。
ところで、被告製品の構造を示す別紙目録の記載によれば、被告製品においては、原告が本件考案にいう「昇降杆」に該当すると主張する玉送出片(25)が玉供給揺動レバー(24)と一体に形成され、玉供給揺動レバー(24)はL字状連係レバー(42)に係合され、L字状連係レバー(42)は連係ピン(41)と所定の遊び間隔をもつて連係配置され、連係ピン(41)は玉打杆(4)に取り付けられ、更に、玉打杆(4)は、これに取り付けられたアーム(31)及び玉打杆係合ピン(33)を介して、モーター(35)により定速回転する玉打用カム(34)に係合されているものであつて、換言すれば、玉送出片(25)が玉打杆(4)等を介して玉打用カム(34)に連結するという構成が採用されているのであり、その結果、玉送出片(25)が玉打杆(4)の作動に連動して上下動を繰り返すようになつていることが明らかである。
したがつて、被告製品は本件考案の構成要件Cを充足しないというべきである。以上の説示に反する原告の主張は採用することができない。
3 よつて、被告製品は、本件考案のその余の構成要件と対比するまでもなく、その技術的範囲に属しないこととなる。
五 以上の次第で、原告の請求はその余の点につき判断するまでもなく理由がないから、これを棄却することとする。