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東京地方裁判所 昭和59年(ワ)2996号 判決 1988年2月29日

原告

アラーガン・インコーポレーテッド

右代表者

ディーン・エム・マッキャーン

右訴訟代理人弁護士

品川澄雄

吉利紗知子

右輔佐人弁理士

青山葆

柴田康夫

被告

ホーヤ株式会社

右代表者代表取締役

鈴木哲夫

右訴訟代理人弁護士

小池恒明

右輔佐人弁理士

浅村皓

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、別紙目録記載の製品(以下「被告製品」という。)を製造販売してはならない。

2  被告は、被告の所有する被告製品及びその仕掛品を廃棄しなければならない。

3  訴訟費用は、被告の負担とする。

4  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求の原因

1  原告は、次の特許権(以下「本件特許権」といい、その特許発明を「本件発明」という。)を有している。

特許番号 第一〇九七五八六号

発明の名称 コンタクト・レンズから蛋白質沈積物を取去る方法

出願日 昭和四九年四月二〇日(一九七三年四月二〇日及び一九七四年三月四日にアメリカ合衆国でした各特許出願に基づく優先権を主張)

公告日 昭和五三年一二月二三日

登録日 昭和五七年五月一四日

2  本件発明の特許出願の願書に添付した明細書(昭和五五年三月六日付手読補正書によつて補正したもの。以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の記載は、次の(一)及び(二)のとおりである(以下(一)記載の発明を「本件発明(一)」、(二)記載の発明を「本件発明(二)」という。)。

(一) ソフト・コンタクト・レンズを洗浄するのに十分な期間の間、有効量のプロテアーゼを含有する水溶液とソフト・コンタクト・レンズとを接触させることからなるソフト・コンタクト・レンズから蛋白質沈積物を除去する方法。

(二) 該水溶液が更に活性化有効量の非毒性サルファヒドリル基含有化合物を含んでいる右特許請求の範囲(一)記載のソフト・コンタクト・レンズから蛋白質沈積物を除去する方法。

3(一)  本件発明(一)及び(二)の構成要件は、右の特許請求の範囲の記載のとおりである。

(二)  本件発明は、ソフト・コンタクト・レンズの面上に沈積し、通常のデイリークリーナーによつては除去しえない蛋白質沈積物を除去する方法に関する発明である。ところで、蛋白質は、アミノ酸がペプチド給合によつて多数結合した天然高分子化合物であるところ、本件発明で用いるプロテアーゼは、蛋白質に作用してペプチド結合の分解を促進する酵素であつて、ソフト・コンタクト・レンズの物理的性質に影響を与えず、また、毒性もなく、ソフト・コンタクト・レンズの面上に付着している蛋白質沈積物を容易かつ完全に除去して、レンズの白濁を取り除く作用を有している。

4  被告は、被告製品を業として製造販売しており、また、製造販売の目的で被告製品及びその仕掛品を所有している。

5  被告製品は、本件発明のプロテアーゼに当たるパパイン及び中性プロテアーゼを全成分中に18.5パーセント含むコンタクト・レンズ洗浄用錠剤である。そして、被告製品の使用法は、定期的に週一回、その錠剤を二個のバイアルに各一錠あて入れて蒸留水と混ぜて水溶液を作り、これにコンタクト・レンズを左右一個あて入れて一晩(四時間以上)浸漬することとされており、これにより、デイリークリーナーによる毎日の洗浄によつては除去しえない蛋白質沈積物によるコンタクト・レンズの白濁や黄変を除去するのである。したがつて、被告製品は、特許法一〇一条二号所定の本件発明の実施にのみ使用する物である。

6  なお、被告製品の使用対象であるコンタクト・レンズは、ソフト・コンタクト・レンズと酸素透過性ハード・コンタクト・レンズであるが、酸素透過性ハード・コンタクト・レンズも、次に述べるとおり、本件発明にいうソフト・コンタクト・レンズに当たる。

(一) 本件明細書には、「所謂ソフト・コンタクト・レンズを作るのに使う親水性又は部(「物」と記載されているのは、誤記と解される。)分的に親水性のプラスチック材料が提案されている。」(本判決添付の「特許法第六四条の規定による補正の掲載」のとおり補正された同添付の特許公報(以下「本件公報」という。)一頁一欄三六行ないし二欄一行)と記載され、右「親水性又は部分的に親水性のプラスチック材料」の例として、「ポリヒドロキシエチルメタクリレートの三次元的な親水性重合体」(本件公報一頁二欄五行ないし六行)のほかに、「シリコーン及びその他の光学的に適当な可撓性材料で作られたレンズ」(同一頁二欄八行ないし九行)が挙げられている。また、本件明細書には、本件発明の解決課題として、第一に、ソフト・コンタクト・レンズは、水を吸収するために、洗浄剤がレンズ内に溜まつてレンズの寸法や色を損ない、また、眼の組織を痛めやすく、更には、洗浄剤の成分が濃縮されることによつて、装用者の眼に損傷を与えることがあること、第二に、ソフト・コンタクト・レンズは、装用を続けることによつて、通常の洗浄方法では除去することができない汚れがレンズの表面に沈積してレンズが不透明になることを挙げているところ、本件明細書に開示されているシリコーンを素材としたコンタクト・レンズ(以下「シリコーン・ラバー・コンタクト・レンズ」という。)も、右の二つの解決課題を有するものである。すなわち、シリコーン・ラバー・コンタクト・レンズは、酸素の透過性は最も優れていて、吸水性は少なく、軟らかいが、反発弾性が強く、光学性も非常に優れている。ただ、シリコーンは、それだけでは、面が疎水性であり、水濡れが悪く、コンタクト・レンズとして眼内に装用すると、刺激が強く、光学性が悪いという欠点があるので、その表面に親水性処理が施され、部分的に親水性のものにして実用に供される。このように、シリコーン・ラバー・コンタクト・レンズは、その表面に親水性処理が施されているため、僅かではあるが吸水性があり、また、その表面に付着した汚れのうち、蛋白質沈積物は、通常の洗浄方法であるデイリークリーナーによる方法によつては除去することが不可能であり、酵素洗浄剤を用いることによつて、はじめて除去することができる。したがつて、このような部分的に親水性のあるシリコーン・ラバー・コンタクト・レンズも、素材をポリヒドロキシエチルメタクリレートとする典型的なソフト・コンタクト・レンズと同様に、本件発明の前述の第一及び第二の解決課題を有するものである。以上によれば、本件発明のソフト・コンタクト・レンズは、シリコーン・ラバー・コンタクト・レンズのように表面に親水性処理を施したプラスチックからなるものも含むことが明らかである。ところで、酸素透過性ハード・コンタクト・レンズとして現在市販されているものは、ポリシロキサニルメタクリレートを用いた東洋コンタクトレンズの製品(商品名「メニコンO2」。以下「メニコンO2」という。)やセルローズアセテートブチレートを用いた京都コンタクトレンズの製品などであるところ、メニコンO2は、水酸基を有しているため、親水性を有しており、ポリヒドロキシエチルメタクリレートを素材とするコンタクト・レンズと比べ程度は低いが吸水性があるから、本件発明の前述の第一の解決課題を有するコンタクト・レンズといえるし、一方、通常のデイリークリーナーによる洗浄によつては除去しえない蛋白質沈積物により、レンズ表面が白濁するという本件発明の前述の第二の解決課題も有している。また、セルローズアセテートブチレートを素材をするコンタクト・レンズも、吸水性を有し、その構造中に水酸基を有する親水性の樹脂であつて、本件発明の前述の第一及び第二の解決課題を有するコンタクト・レンズである。このように、これらの製品は、いずれもその構造中に親水性基を有するプラスチック材料や、プラスチックレンズの表面に親水性基を形成することによつて親水性処理を行つたものを素材とするコンタクト・レンズであつて、本件明細書にいう「親水性又は部分的に親水性のプラスチック材料」に該当するから、本件発明のソフト・コンタクト・レンズに含まれる。

(二) メニコンO2等の酸素透過性ハード・コンタクト・レンズは、本件明細書に明記されていないが、次に述べるとおり、本件明細書が具体的に例示しているソフト・コンタクト・レンズと均等である。

ポリヒドロキシエチルメタクリレートを素材とする親水性のソフト・コンタクト・レンズ、シリコーン・ラバー・コンタクト・レンズ及び酸素透過性ハード・コンタクト・レンズ上に見出される蛋白質沈積物の主成分は、人の涙のリゾチームから成つている。このリゾチームの分子は、十七の全荷電を持ち、寸法三〇file_3.jpg×三〇file_4.jpg×四五file_5.jpgの楕円体であるのに対し、ポリヒドロキシエチルメタクリレートの孔の直径は8.0file_6.jpg±2.6file_7.jpgであり、また、シリコーン・ラバー・コンタクト・レンズ及び酸素透過性ハード・コンタクト・レンズの孔の直径はいずれも11.0file_8.jpg以下であるから、リゾチームは、右のコンタクト・レンズのいずれの材料中にも入り込むことができず、これらのコンタクト・レンズの表面にのみ沈積する。右の各コンタクト・レンズに蛋白質が沈積する機構は、正に帯電したリゾチームと負に帯電したレンズ表面との電荷の相互作用によるものであつて、単なる付着や吸着に比べて結合力が強く、通常の界面活性剤を成分とするデイリークリーナーによつては右の結合を切り離すことはできない。また、被告製品の組成物の一つであるパパインは、二一二のアミノ酸から成る回転楕円体の酵素であり、その寸法は、三〇file_9.jpg×三〇file_10.jpg×五〇file_11.jpgであつて、前記の各コンタクト・レンズの孔径より遥かに大きく、右のコンタクト・レンズのいずれの材料中にも入り込むことはできず、レンズの表面で蛋白質沈積物の除去を行う。したがつて、プロテアーゼによる蛋白質沈積物除去のメカニズムは、蛋白質沈積物がみられる右のすべてのコンタクト・レンズについて同じであるから、酸素透過性ハード・コンタクト・レンズは、本件明細書に明記されてはいないが、そこに具体的に開示されているソフト・コンタクト・レンズと均等であり、本件発明にいうソフト・コンタクト・レンズに当たる。

7  よつて、原告は、被告に対し、本件特許権に基づき、被告製品の製造販売の差止め及び被告製品若しくはその仕掛品の廃棄を求める。

二  請求の原因に対する被告の認否及び主張

1(一)  請求の原因1ないし3の事実は、認める。

(二)  同4の事実は、認める。ただし、被告製品は、ハード・コンタクト・レンズにも使用することができる。

(三)  同5及び6の事実は、否認する。

2  本件発明と被告製品とは、次に述べるとおり、除去する汚れの範囲、除去のための洗浄メカニズム及び洗浄効果において、明確に相違するから、被告製品は、本件発明の実施にのみ使用する物に当たらない。

(一) 本件発明は、ソフト・コンタクト・レンズに付着する蛋白質沈積物のみを除去する方法であるのに対し、被告製品は、蛋白質沈積物のほか、脂質、無機質、ムチン、化粧品、指からの汚れ及びそれらの複合汚れを除去することができる発泡洗浄剤である。

(二) 本件発明の方法は、プロテアーゼで蛋白質沈積物を分解する作用を利用するにすぎないが、被告製品によるときは、(1)発泡剤として重炭酸ナトリウムと無水クエン酸を用い、この発泡作用により、汚れを物理的に除去し、(2)界面活性剤として非イオン界面活性剤を用い、汚れを膨潤、可溶化させて除去しやすくし、(3)酵素としてパパイン及び中性プロテアーゼを用い、蛋白質沈積物を分解して除去するものであり、それぞれの協働作用によつて、これらの個別の作用を加え合わせた以上の相乗効果を有するのであるから、被告製品の洗浄メカニズムは、本件発明のそれとは異なる。

(三) 原告は、本件発明の出願公告後の特許異議の申立てに対する答弁書において、本件発明は、複数の化合物の相乗効果を期待するものではないということを強調しており、この点からも、被告製品の洗浄メカニズムは、本件発明のそれとは異なるものというべきである。

(四) 原告は、後記のとおり、本件明細書には、プロテアーゼの活性を高めるための活性剤を加えて用いる方法(本件発明(二))及び潤滑剤、緩衝剤、安定剤、殺菌剤等プロテアーゼの作用とは別個の作用を行う薬剤を同時に加えて用いる方法も開示されている旨主張するが、本件発明(二)は、本件発明(一)とは別発明であり、また、潤滑剤は、「利用者にとつてより一層快適にするのを助ける」(本件公報三頁六欄一二行ないし一三行)ために用いられるものであり、緩衝剤及び安定剤は、「くえん酸ナトリウム又はカリウム、くえん酸、硼酸、Na2EDTA、種々の混合物燐酸塩緩衝剤及びNaHCO-3を含む」(本件公報三頁六欄一五行ないし一八行)ものであつて、「約0.001乃至約2.5%、好ましくは約0.01乃至一重量%の範囲の量で使う」(本件公報三頁六欄一九行ないし二〇行)ものであるというのであるから、普通に洗浄液の緩衝及び安定化のために用いられるものであり、更に、殺菌剤は、文字どおり殺菌に用いるものであるから、これらの各剤は、いずれも蛋白質沈積物を取り去るプロテアーゼの作用を高めるものではなく、それとは直接関係のない別の目的に用いられるものである。このように、プロテアーゼの活性を高めるための構成は、本件発明(一)には何もなく、そのような構成を採るものは、本件発明(一)の技術的範囲に属しないのである。

3  コンタクト・レンズの装用者が被告製品を使用するのは、常に自己のソフト・コンタクト・レンズの蛋白質沈積物を自分で除去する場合、すなわち、個人的使用の場合であるから、特許法六八条にいう「業として」の実施には当たらない。原告は、特許法一〇一条二号の適用を求めているが、右規定が設けられた趣旨は、特許権侵害行為の緊密な協力者の行為を禁圧することにより、特許権者を保護しようとするものであるから、業としての実施がなく、特許権侵害行為が全く存しない本件の場合には、右規定の適用はない。

4  被告製品は、ハード・コンタクト・レンズ及び酸素透過性ハード・コンタクト・レンズの洗浄にも使用されるが、ハード・コンタクト・レンズ及び酸素透過性ハード・コンタクト・レンズは、本件発明にいうソフト・コンタクト・レンズには含まれない。したがつて、被告製品は、本件発明の実施にのみ使用する物ではない。

5  原告は、酸素透過性ハード・コンタクト・レンズも本件発明にいうソフト・コンタクト・レンズに含まれる旨主張するが、次に述べるとおり、酸素透過性ハード・コンタクト・レンズは、本件発明にいうソフト・コンタクト・レンズには含まれない。

(一) 本件明細書には、「所謂ソフト・コンタクト・レンズを作るのに使う親水性又は部分的に親水性のプラスチック性材料」(本件公報一頁一欄三六行ないし三七行)として、第一に、「不足勝ちの交差結合をした重合体ヒドロゲル構造を持ち(「を」と記載されているのは、誤記と解される。)、弾力的で軟らかく透明なヒドロゲルの外観を持つ水性反応媒質中のポリヒドロキシエチルメタクリレートの三次元的な親水性重合体」(同一頁二欄二行ないし六行)、第二に、「シリコーン及びその他の光学的に適当な可撓性材料で作られたレンズ」(同一頁二欄八行ないし九行)がある旨記載され、続いて、右第一及び第二のレンズの双方を受けて、「こう云うレンズの主な利点は軟らかさ並びに光学的な適性である。」(同一頁二欄一〇行ないし一一行)旨記載されており、右記載によると、本件発明のソフト・コンタクト・レンズは、「軟らかさ」(可撓性)を持つものであることが明らかである。それゆえ、シリコーンを材料とするコンタクト・レンズであつても、硬いハードなコンタクト・レンズ、すなわち、シロキサン誘導体を材料とする酸素透過性ハード・コンタクト・レンズは、本件発明のソフト・コンタクト・レンズには当たらず、また、シリコーン以外のものを材料とする酸素透過性ハード・コンタクト・レンズ、すなわち、セルロース誘導体、スチレン共重合体、含フッ素重合体等の材料からなる酸素透過性ハード・コンタクト・レンズも、その硬さゆえに、本件発明にいうソフト・コンタクト・レンズに含まれるとみることは不可能である。ちなみに、各レンズの硬さについて、ビツカース硬度をみると、ソフト・コンタクト・レンズとシリコーン・ラバー・コンタクト・レンズは、軟らかすぎて計測不能であるが、ハード・コンタクト・レンズは、Dryで23.0、Wetで21.3、酸素透過性ハード・コンタクト・レンズの一つであるメニコンO2は、Dryで8.6、Wetで7.6である。

また、厚生省薬務局監修の「医療用具の一般的名称と分類」と題する文献では、「ハード・コンタクト・レンズ」を「親水性並びに非親水性のプラスチック材料で作られた(主に非含水性)硬いレンズである。」と定義し、「ソフト・コンタクト・レンズ」を「親水性並びに非親水性のプラスチック材料で作られた(主に含水性を有する)軟らかいレンズである。」と定義しているが、これによつても、ハード・コンタクト・レンズとソフト・コンタクト・レンズとは、主に硬いか軟らかいかの相違及び非含水性か含水性かの相違によつて区別されているのであつて、非含水性の硬い酸素透過性ハード・コンタクト・レンズは、本件発明にいうソフト・コンタクト・レンズということはできない。

(二) 親水性のソフト・コンタクト・レンズは、一五〇重量パーセントまでの水を吸収することができるという性質を有しているため、ハード・コンタクト・レンズでは使用することができる洗浄剤が、ソフト・コンタクト・レンズでは、レンズ内に溜まつて眼及びレンズに悪い影響を与えるため使用することができないという課題を解決するために、本件発明は、ソフト・コンタクト・レンズに影響を与えず、また、利用者の眼にとつて毒性でない蛋白質分解酵素であるプロテアーゼを含有する水溶液とレンズとを接触させるという方法を採択しているのである。また、原告は、昭和五五年七月二三日付の特許異議答弁書の「本件発明の背景」の項において、「ソフト・コンタクト・レンズ(親水性コンタクト・レンズで多孔性であり、水分を一五〇重量パーセントまで吸収する性質を有する)は、その発売以後、その多孔性及び水分吸収性により生ずるレンズの着用時の汚れの問題が種々の分野で研究されてきた。すなわちこのレンズ表面に於ける汚れ、就中異物の沈積付着がレンズの透視力を著しく減ずるという重大な問題を有していることが段々と明らかになつてきた。」と述べ、本件発明のソフト・コンタクト・レンズを右の括弧書きで定義し、その結果、本件発明は、その後の査定で特許されたものである。してみると、本件発明の対象であるソフト・コンタクト・レンズは、一五〇重量パーセントまでの水を吸収することができる親水性のソフト・コンタクト・レンズであると解すべきである。ところが、酸素透過性ハード・コンタクト・レンズは、同レンズの素材自体が疎水性であり、親水性処理をする場合も、それは、レンズの表面に行うのであるから、洗浄剤がレンズ内に溜まる問題は存在しえず、また、レンズの吸水率も、それぞれ酸素透過性ハード・コンタクト・レンズの一つであるメニコンO2が1.4重量パーセント、同じくシリコーン・ラバー・コンタクト・レンズが0.5重量パーセント以下であつて、一五〇重量パーセントまでの水を吸収することはありえない。右の各レンズの吸水率は、ハード・コンタクト・レンズの吸水率1.3重量パーセントと同程度なのである。

(三) 本件発明は、すべてのコンタクト・レンズを対象として特許出願され、出願公告されたが、その後特許異議の申立てがあり、原告は、昭和五五年三月六日付手続補正書で特許請求の範囲を減縮し、「コンタクト・レンズ」を「ソフト・コンタクト・レンズ」と訂正し、それに伴う明細書の訂正もした。したがつて、右の特許請求の範囲の減縮により、ソフト・コンタクト・レンズに含まれないものは、本件発明の技術的範囲から除かれたことになる。

(四) 原告が本件発明の実施品として製造し、日本において参天アラガン株式会社により販売されている製品の使用説明書にも、「ソフト・コンタクト・レンズ用」と「酸素透過性ハード・コンタクト・レンズ用」との記載がある。これは、原告自身も、酸素透過性ハード・コンタクト・レンズが、ソフト・コンタクト・レンズとは別の商品カテゴリーに属することを認めたものである。

(五) 原告は、本件発明のソフト・コンタクト・レンズは、本件明細書に具体的に示されているものに限定されず、その均等物をも含む旨主張するが、前述のとおり、本件発明のソフト・コンタクト・レンズは、一五〇重量パーセントまでの水を吸収することができるものである旨本件明細書に明記されているから、それ以外の均等物まで含むと解する余地はない。また、特許請求の範囲を「コンタクト・レンズ」から「ソフト・コンタクト・レンズ」に減縮している以上、右減縮に反する均等の主張は許されない。更に、酸素透過性ハード・コンタクト・レンズのように、本件発明の特許出願時の技術水準からは考えられなかつた新たなカテゴリーに属するコンタクト・レンズについて均等を論じることはできない。

三  被告の主張に対する原告の反論

1(一)  被告の主張2(一)について

被告製品を週一回定期的に使用する目的は、毎日の洗浄では除去しえない蛋白質沈積物を除去することにあるから、たとい、被告製品が、レンズに付着する蛋白質以外の汚れをも除去するとしても、そのことによつて、被告製品の製造販売が本件特許権の間接侵害を構成しないことにはならない。

(二)  同2(二)について

本件明細書には、本件発明の方法を実施するに当たつて、プロテアーゼの活性を高めるための活性剤を加えて用いる方法(本件発明(二)の方法)はもちろん、潤滑剤、緩衝剤、安定剤、殺菌剤等プロテアーゼの作用とは別個の作用を行う薬剤を同時に加えて用いる方法も、本件発明の実施の態様であり、本件発明の技術的範囲に属することが、明らかにされている(本件公報三頁六欄一一行ないし三二行)。また、被告製品にはそもそも相乗効果があるとは認められない。

(三)  同2(三)について

原告は、特許異議の申立てに対する答弁書においては、特許異議の申立てで引用された発明は、複合汚染の除去を目的とするものであるから、複数の成分を必須の要件とするのに対し、本件発明は、複数成分の併用を必須の要件とはしていない旨述べたのであつて、他成分を併用することを本件発明の技術的範囲から除外する旨述べたものではない。

2  被告の主張3について

特許法一〇一条二号は、方法の発明の「実施にのみ使用する物」を製造販売する行為については、「業として」ということを要件としているが、これを購入する者が、その物を特許発明の方法に用いる行為については、「業として」ということを要件として定めていないことはもとより、そもそも、同号は、同号に定める行為自体を独立して「侵害するものとみなす」と規定しているにすぎないのであつて、同号に該当する物が、購入者によつて特許発明の対象である方法に用いられたか否かということは、要件とはしていないのであるから、同号に該当する「物」の購入者が「業として」これを使用する場合でなくとも、間接侵害は成立するのである。

3  被告の主張4について

被告は、被告製品はハード・コンタクト・レンズにも使用される旨主張するが、ハード・コンタクト・レンズの汚れは、普通、デイリークリーナーにより容易に除去されるのであつて、その洗浄に被告製品を用いる必要性はないから、被告製品の説明書にハード・コンタクト・レンズの洗浄にも使用できる旨記載されているとしても、現実には、ハード・コンタクト・レンズに用いられることはなく、少なくとも、ハード・コンタクト・レンズについての被告製品の使用は、社会的、経済的にみて実用的な用途とはいえない。また、被告は、被告製品は、酸素透過性ハード・コンタクト・レンズにも使用しうる旨主張するが、従来、ある特許発明の方法の実施に使用する以外に実用的用途が知られていなかつた物について、新たに別用途が開発された場合、間接侵害が成立しなくなるのは、その新たに開発された用途が、社会経済的にみて、明らかに別異の用途である場合に限られなければならないところ、被告製品の酸素透過性ハード・コンタクト・レンズへの用途は、かかる意味での別異の用途ではない。すなわち、酸素透過性ハード・コンタクト・レンズは、前述のとおり、部分的に親水性のプラスチック素材からなるレンズであるところ、本件発明は、通常のデイリークリーナーでは除去することができないこのレンズ面上の白濁沈積物を除去するのであるから、これと同一の被告製品の用途が、間接侵害の成立を妨げるに足りる他の用途といえないことは明らかである。

4(一)  被告の主張5(一)について

被告は、コンタクト・レンズのソフトとハードの区別について、厚生省薬務局監修の文献を引用するが、硬いか軟らかいかは、基準とする硬さが定められなければ判別しえず、基準として不適当である。

(二)  同5(二)について

親水性のソフト・コンタクト・レンズは一五〇重量パーセントまでの水を吸収する旨の本件明細書の記載は、ポリヒドロキシエチルメタクリレートという本件明細書に例示されている一つのコンタクト・レンズの素材例についての説明であつて、本件発明のソフト・コンタクト・レンズの範囲を規定するものではない。

(三)  同5(三)について

本件明細書の発明の詳細な説明の項には、特許出願当初からソフト・コンタクト・レンズの洗浄方法が記載されていたが、その特許請求の範囲の項には、本件発明の洗浄方法の対象を単に「コンタクト・レンズ」と記載しており、この記載は、ハード・コンタクト・レンズをも包含するかのような不明瞭な記載であつたから、原告は、特許法六四条の規定に基づき、明瞭でない記載の釈明としての補正をしたのであつて、特許請求の範囲の減縮としての補正をしたのではない。

第三  証拠関係<省略>

理由

一請求の原因1及び2の事実は当事者間に争いがなく、右争いのない事実と<証拠>によれば、本件発明(一)及び(二)の構成要件は、それぞれ請求の原因2(一)及び(二)のとおりであると認められる。

二被告が被告製品を製造販売していることは、当事者間に争いがない。

三被告製品が本件発明の実施にのみ使用する物であるか否かについて以下判断する。

1  前掲甲第一、第二号証によれば、(1)本件発明は、第一に、親水性のソフト・コンタクト・レンズが一五〇重量パーセントまでの水を吸収することができるという性質を有するために、他の場合には洗浄のために使うことができる組成物が、レンズ内に吸収、濃縮され、ソフト・コンタクト・レンズを眼に着用したときに放出されて、眼の結膜及び角膜の傷つきやすい組織を傷め、また、レンズ内に溜まつて、寸法、色等を含めレンズの物理的な特性に影響を与えて、レンズ自体を傷つけ、汚すという結果を招くことがあること、第二に、レンズの着用者の眼を傷つけないような普通の洗浄方法、例えば、普通の塩水に浸けること又は煮沸することによつては取り除くことができない不透明な材料(蛋白質沈積物)がレンズの表面に付着し、その材料がレンズの面上に徐々に溜まることによつて、レンズを不透明にし、更に、レンズが不透明になる前でも、レンズの着用者の眼に対する刺激が増加し不快の念を与えるということ、以上二つの課題を解決することを目的として、前記本件発明(一)及び(二)の構成を採用し、これにより、右の目的を達成したものであること、(2)本件発明にいうソフト・コンタクト・レンズは、親水性又は部分的に親水性のプラスチック材料を素材とするものであり、その具体例としては、弾力的で軟らかく透明なヒドロゲルの外観を持つ水性反応媒質中のポリヒドロキシエチルメタクリレートの三次元的な親水性重合体、又はシリコーン及びその他の光学的に適当な可撓材料で作られたレンズがあり、その利点は、いずれも軟らかさ及び光学的な適性を有するレンズであること、また、本件発明の実施例において使用されているパウシュ・アンド・ロム社のコンタクト・レンズも、前記のポリヒドロキシエチルメタクリレートを素材とする軟らかいレンズであること、更に、本件明細書には、本件発明にいうソフト・コンタクト・レンズが軟らかいレンズであることの記載はあつても、硬いレンズをも含むことを示唆するに足りる記載は一切存しないこと、以上の事実が認められる。また、<証拠>によれば、厚生省薬務局監修の「医療用具の一般的名称と分類」と題する文献では、「ハード・コンタクト・レンズ」を「親水性並びに非親水性のプラスチック材料で作られた(主に非含水性)硬いレンズである。」、「ソフト・コンタクト・レンズ」を「親水性並びに非親水性のプラスチック材料で作られた(主に含水性を有する)軟らかいレンズである。」とそれぞれ定義していることが認められ、更に、<証拠>によれば、その余の文献においても、一般に硬いレンズをハード・コンタクト・レンズ、軟らかいレンズをソフト・コンタクト・レンズと分類していることが認められる。以上によれば、本件発明の「ソフト・コンタクト・レンズ」は、「ソフト」という言葉が意味するとおり、軟らかいレンズを意味するものであつて、硬いレンズはこれに含まれないものと認めるのが相当である。

2  被告製品が酸素透過性ハード・コンタクト・レンズにも使用される洗浄剤であることは、当事者間に争いがないところ、<証拠>によれば、酸素透過性ハード・コンタクト・レンズは、硬いレンズであり、ハード・コンタクト・レンズに分類されるものであることが認められ、また、<証拠>によれば、東洋コンタクト・レンズから販売されている酸素透過性ハード・コンタクト・レンズの一種であるメニコンO2にしても、ビツカース硬度がDryで8.6、Wetで7.6である(ハード・コンタクト・レンズは、Dryで23.0、Wetで21.3である。)のに対し、親水性のソフト・コンタクト・レンズ及びシリコーン・ラバー・コンタクト・レンズは、軟らかすぎて硬度の計測が不能であることが認められる。してみれば、メニコンO2等の酸素透過性ハード・コンタクト・レンズは、硬いレンズであつて、ハード・コンタクト・レンズに分類されるべきものである以上、本件発明にいう「ソフト・コンタクト・レンズ」には当たらないものというべきである。また、<証拠>によれば、酸素透過性ハード・コンタクト・レンズは、酸素透過係数がポリヒドロキシエチルメタクリレートを素材とするソフト・コンタクト・レンズと同程度に高く、形状が硬いため、より角膜の代謝を阻害しないコンタクト・レンズとして、昭和五四年に商品化されて以来高い評価を得ていることが認められ、右認定の事実によれば、被告製品の酸素透過性ハード・コンタクト・レンズへの用途は、社会通念上、経済的、商業的ないしは実用的な用途であると認めることができる。したがつて、被告製品は、本件発明にいうソフト・コンタクト・レンズには含まれない酸素透過性ハード・コンタクト・レンズにも使用される洗浄剤であるから、この点において本件発明の実施にのみ使用される物ということはできない。この点に関して、原告は、本件発明にいうソフト・コンタクト・レンズの素材として本件明細書に開示されているシリコーンにより作られたシリコーン・ラバー・コンタクト・レンズは、表面に親水性処理が施されているため、僅かではあるが吸水性があり、また、表面に付着した汚れのうち、蛋白質沈積物は、通常の洗浄方法であるデイリークリーナーによる方法によつては除去することが不可能であり、酵素洗浄剤を用いることによつて、はじめて除去することができるのであつて、このような部分的に親水性のコンタクト・レンズも、原告主張の本件発明の前記第一及び第二の解決課題を有するものであるところ、酸素透過性ハード・コンタクト・レンズとして現在市販されているポリシロキサニルメタクリレートを用いたメニコンO2及びセルローズアセテートブチレートを用いた京都コンタクトレンズの製品も、いずれも表面が親水性を有しており、ポリヒドロキシエチルメタクリレートを素材とするコンタクト・レンズと比べ程度は低いが吸水性があり、本件発明の第一の解決課題を有し、かつ、通常のデイリークリーナーによる洗浄によつては除去しえない蛋白質沈積物により、レンズ表面が白濁するという本件発明の第二の解決課題も有しているから、前記のシリコーン・ラバー・コンタクト・レンズと同じく、本件発明にいうソフト・コンタクト・レンズに含まれる旨主張する。しかしながら、本件発明にいうソフト・コンタクト・レンズは、前説示のとおり、軟らかいレンズを意味するものと解すべきところ、<証拠>によれば、シリコーン・ラバー・コンタクト・レンズは、軟らかいレンズであると認められるのに対し、酸素透過性ハード・コンタクト・レンズは、前説示のとおり、硬いコンタクト・レンズであるから、両者を同列に論じえないのみならず、また、<証拠>によれば、本件明細書には、本件発明にいうソフト・コンタクト・レンズの素材として、ポリヒドロキシエチルメタクリレートとシリコーン及びその他の光学的に適当な可撓性材料が挙げられているが、これらの素材で作られるコンタクト・レンズについて、「こう云う親水性ソフト・レンズが一五〇重量パーセントまでの水を吸収することが出来ると云う性質の為に、他の場合には洗浄の為に使うことが出来る組成物が吸収され、ソフト・コンタクト・レンズを目にはめた時、後で放出される。この放出は吸収よりずつと遅いことがあり、その為、洗浄剤が次第にレンズ内に溜まる。このように溜まつたことにより、遂には寸法、色等を含めてレンズの物理的な特性に影響が出る。これはコンタクト・レンズ自体を傷つけ又は汚し、或いは結膜及び角膜の傷つき易い組織を傷めると云う有害な結果を招くことがある。硬質コンタクト・レンズは、目立つ程の水を吸収せず、(即ち0.01乃至0.4パーセント)、従つて硬質コンタクト・レンズの分野では有効な防腐剤を使うことによつて問題は生じない。」(本件公報一頁二欄一八行ないし三四行)と記載されていることが認められ、他方、<証拠>によれば、シリコーン・ラバー・コンタクト・レンズは、表面が親水性処理されているだけで、中の素材が疎水性であることが認められ、以上認定の事実によると、シリコーン・ラバー・コンタクト・レンズは、本件発明のソフト・コンタクト・レンズの素材として本件明細書に開示されているシリコーンにより作られたものであり、かつ前認定の本件発明の第二の解決課題を有するものとしても、親水性処理されたレンズの内側に洗浄剤が吸収されるというようなことはほとんど起こりえないのであるから、前認定の本件発明の第一の解決課題を有するコンタクト・レンズであると認めることは困難であり、更に、<証拠>によれば、酸素透過性ハード・コンタクト・レンズの一つであるメニコンO2は、素材が疎水性であつて、表面が親水性処理されているものの、その吸水率は、本件発明のソフト・コンタクト・レンズの素材であるポリヒドロキシエチルメタクリレートが四三ないし六七重量パーセントであり、ハード・コンタクト・レンズが1.3重量パーセントであるのに対し、右ハード・コンタクト・レンズの吸水率とほぼ等しい1.4重量パーセントであることが認められ、右認定の事実によると、少なくともメニコンO2等の酸素透過性ハード・コンタクト・レンズは、吸水性のソフト・コンタクト・レンズとは、この点で全く異なるのであつて、洗浄液がレンズ内に吸収され、眼の組織を傷め、また、レンズの物理的な特性に影響を与えるという前認定の本件発明の第一の解決課題を有するコンタクト・レンズとは異なるものであると断じざるをえない。以上によれば、原告の前記主張は、採用することができない。また、原告は、(1)本件発明のソフト・コンタクト・レンズは、本件明細書に具体的に示されているものに限定されず、その均等物をも含む、(2)従来、ある特許発明の方法の実施に使用する以外に実用的用途が知られていなかつたものについて、新たに別用途が開発された場合、間接侵害が成立しなくなるのは、その新たに開発された用途が、社会経済的にみて、明らかに別異の用途である場合に限られなければならないところ、被告製品の酸素透過性ハード・コンタクト・レンズへの用途は、通常のデイリークリーナーでは除去することができないこのレンズ面上の白濁沈積物を本件発明と同一の方法により除去するものであるから、別異の用途ではなく、間接侵害の成立を妨げるに足りる他の用途とはいえない旨主張するが、前説示のとおり、本件明細書に実施例として開示されているポリヒドロキシエチルメタクリレート並びにシリコーン及びその他の光学的に適当な可撓性材料で作られたレンズは、いずれも軟らかいレンズであるのに対し、酸素透過性ハード・コンタクト・レンズは、硬いレンズであるから、そもそもこの点において本件明細書に具体的に示されたものと均等とみることは相当ではない。また、原本の存在及び成立について争いのない乙第六号証によれば、原告は、本件発明の出願公告後の昭和五五年三月七日、本件明細書の特許請求の範囲の項を補正し、従来「コンタクト・レンズ」の洗浄方法について特許を求めていたものを、「ソフト・コンタクト・レンズ」の洗浄方法と訂正したことが認められ、他方、酸素透過性ハード・コンタクト・レンズは、既に昭和五四年には商品化されていたことは前認定のとおりであり、右認定の事実によれば、当時ハード・コンタクト・レンズに分類される酸素透過性ハード・コンタクト・レンズが存在したのに、右の補正は、あえて特許請求の範囲の項の「コンタクト・レンズ」を「ソフト・コンタクト・レンズ」と補正したのであるから、たとい、右の補正が原告主張のとおり明瞭でない記載の釈明であるとしても、右補正により、ハード・コンタクト・レンズに分類されていた酸素透過性ハード・コンタクト・レンズは、本件発明の対象とするコンタクト・レンズには含まれないことを明らかにしたものといわざるをえない。したがつて、原告の右主張は、いずれも採用するに由ないものというべきである。

四以上によれば、原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について、民事訴訟法八九条の規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官清永利亮 裁判官設楽隆一 裁判官富岡英次)

別紙目録

一 左の組成を有するコンタクトレンズ洗浄用錠剤

1 パパイン及び中性プロテアーゼ

18.5%

2 リパーゼ 1.4%

3 ヒアルロニダーゼ 1.4%

4 レンチナーゼ 1.4%

5 非イオン界面活性剤 2.2%

6 EDTA−2ナトリウム 4.3%

7 食塩 12.9%

8 重炭酸ナトリウム及び無水クエン酸

37.6%

9 無水炭酸ナトリウム 6.5%

10 ホウ砂 8.6%

11 ポリエチレングリコール 5.2%

(商品名「ホヤクリーンHOYACLEAN」)

二 使用対象レンズ

ソフト・コンタクト・レンズ、酸素透過性ハード・コンタクト・レンズ

以上

別紙特許公報〔昭五三−四七八一〇〕<省略>

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