東京地方裁判所 昭和59年(ワ)3619号 判決 1988年5月26日
原告 五十嵐輝機
<ほか一五名>
右原告ら訴訟代理人弁護士 板垣光繁
同 田辺幸雄
同 蒲田哲二
被告 三恵工業株式会社
右代表者代表取締役 井上美義
被告 井上豊
右両名訴訟代理人弁護士 梅澤秀次
同 荒井素佐夫
主文
一 被告三恵工業株式会社は原告らに対し、別紙物件目録(一)記載の土地の西側通路状部分(別紙図面記載のfile_2.jpgリイfile_3.jpgfile_4.jpgの各点を結ぶ範囲の土地)に同被告の運行供用にかかる自動車を駐車させてはならない。
二 被告三恵工業株式会社は原告らに対し、前項記載の土地に自動車を駐車させるなどして、原告らがこの土地を通行するのを妨害してはならない。
三 被告三恵工業株式会社は原告らに対し、別紙物件目録(一)記載の土地の南側に設置してある門扉(別紙図面記載F)を施錠して、原告らが右土地の南側部分からこの門を通ってこれに接する通路に通行するのを妨害してはならない。
四 原告らの被告三恵工業株式会社に対するその余の請求及び被告井上豊に対する請求をいずれも棄却する。
五 訴訟費用は、原告らと被告井上豊との間においては原告の負担とし、原告らと被告三恵工業株式会社との間においては、原告らに生じた費用の五分の四を同被告の負担とし、その余は各自の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1、2項は、主文第一、二項と同旨
3 被告ら両名は、原告らに対し、別紙物件目録(一)記載の土地の南側に設置してある門扉(別紙図面記載のF)の錠を撤去せよ。
4 被告ら両名は、原告らに対し、前項の門扉(別紙図面記載F)を施錠して、原告らが右土地の南側部分からこの門を通ってこれに接する通路に通行するのを妨害してはならない。
5 訴訟費用は被告らの負担とする。
6 仮執行の宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
(本案前の答弁)
本件訴えを却下する。
(本案の答弁)
1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 当事者と敷地に対する権利
(一) 原告らは、別紙物件目録(二)記載の建物(以下「本件建物」という。)の区分所有者であり、その各専有部分の建物番号及び床面積は別紙「ハイコーポ綾瀬区分所有者表」の「原告」欄記載のとおりである。
(二) 被告三恵工業株式会社(以下「被告三恵」という。)は、本件建物の区分所有者であり、その専有部分の建物番号及び床面積は同表の「被告」欄記載のとおりであり、被告井上豊(以下「被告井上」という。)は、被告三恵の取締役である。
(三) 原告ら及び被告三恵以外にも本件建物を区分所有している者があり、その氏名、各専有部分の建物番号及び床面積は同表の「訴外」欄記載のとおりである。
(四) 本件建物の区分所有者らは、本件建物の敷地である別紙物件目録(一)記載の土地(以下「本件土地」という。)につき、各専有部分の床面積に比例した共有持分を有している。
2 西側通路部分の通行妨害
被告三恵は、本件土地内の西側通路状の部分(別紙図面記載のA部分)が北側道路に面する付近(別紙図面記載のfile_5.jpgfile_6.jpgを結ぶ線付近)から南に向けて、当初二台の貨物自動車(登録番号足立四五ぬ四八二二[幅一・五六メートル、長さ三・八七メートル]及び登録番号足立四五は四六四六[幅一・六四メートル、長さ四・三六メートル])を常時駐車させ、その後も別紙図面記載のfile_7.jpgfile_8.jpgfile_9.jpgfile_10.jpgの各点を結ぶ場所付近に自己保有の自動車を常時駐車させている。
西側通路状の部分の幅員は約二メートルであるのに、右自動車の駐車により、その出入口が占拠されることになり、原告らの西側通路部分及び本件土地の南側敷地(別紙図面記載のC及びD部分)への通行及び使用が著しく妨害されている。
3 南面門扉の施錠による通行妨害
本件土地の南側には、公道に面して門(別紙図面記載のF)が設置されており、この門扉は「屋外附属施設及び設備」として区分所有者全員の共有に属する。しかるに、被告井上及び被告三恵は、この門扉を常時施錠し、その鍵を独占管理して、原告らが本件土地の南側からこれに接する公道への出入りするのを妨害している。
4 原告らの請求権
原告らは、本件土地及び南面門扉につき共有持分権を有するから被告らの各行為に対して、それぞれの共有持分権に基づき、保存行為として、妨害排除請求権及び妨害予防請求権を有している。
よって、原告らは、共有持分権に基づく妨害排除請求権及び妨害予防請求権に基づき、被告三恵に対し、西側通路部分における駐車の禁止及びこの部分に自動車を駐車させ原告らの使用を妨害してはならない旨の、また被告らに対し、南面門扉の錠の撤去及びこの門扉を施錠して原告らの南側敷地から道路への通行を妨害してはならない旨の判決を求める。
二 本案前の主張
原告らが、請求原因3及び4で主張する被告らの行為は、建物の区分所有等に関する法律(以下「建物区分所有法」という。)第六条第一項にいう「区分所有者の共同の利益に反する行為」であるから、かかる行為の停止、除去及び予防を請求するには、同法第五七条第一項の規定に基づいて行うべきである。そして、この規定による訴えを提起するには、集会の決議によらなければならないものとされているから(同条第二項)、個々の区分所有者が、集会の決議を全く経ることなく(集会に議題としてかけることもなく)、かかる訴えを提起することは許されないものと解するべきである。そうでないと、団体的法理を打ち出した建物区分所有法の趣旨は没却され、集団共同生活上の秩序は保たれない。原告らは、本件建物の区分所有者の集会の決議を全く経ることなく本訴を提起しているのであって、かかる訴えは、不適法であり、許されない。
三 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実は認める。
2 同2の事実中、被告三恵が原告ら主張の場所に自動車を駐車させていることは認めるが、その余は否認する。
3 同3の事実中、被告三恵が原告ら主張の門扉を施錠し、その鍵を管理していることは認めるが、その余は否認する。本件土地の南に接する公道は存在しない。なお、被告井上は、被告三恵の取締役として、その業務の一環として施錠等の任に当たっているものである。
4 同4の主張は争う。
四 抗弁
1 西側通路状部分の駐車について
(一) 被告三恵は、昭和五四年六月二九日原告らを含む本件建物の全区分所有者の同意を得て、本件土地内の西側通路状部分のうち、北側道路に面する付近(別紙図面記載の「B看板ポール位置」付近)から南に向けて七・二〇平方メートルにつき、左記内容による専用使用権を設定した(ハイコーポ綾瀬管理規約第八条と標記Ⅰ)。
目的 看板ポール設置用
期間 昭和五四年七月一日から建物存続中
使用料 月額七〇〇円
(二) 被告三恵は、当分の間、看板の設置を差し控えているが、右の専用使用権に基づいて自己保有の自動車を駐車させているのである。
2 南側の門扉について
(一) 被告三恵は、前項と同様、原告らを含む本件建物の全区分所有者の同意を得て、本件土地内の南側敷地のうち、別紙図面記載のC部分(同図面のイロハニホヘイの各点を結ぶ直線で囲まれた部分)二八・〇八平方メートルにつき、左記内容による専用使用権を設定した。
目的 商品置場
期間 昭和五四年七月一日から建物存続中
使用料 月額二八〇〇円
(二) そして同時に、LPガス集中装置に要する敷地として計画・用意された同図面記載のD部分(ニホヘトチニの各点を結ぶ直線で囲まれた部分)二七・六七平方メートルについては、将来東京ガスが敷設された場合には、その部分をC部分に加え、商品置場として、被告三恵に専用使用権を与えることとされていたところ、その後実際に東京ガスが敷設されたので、D部分についても被告三恵が専用使用権を有することとなった(ハイコーポ綾瀬管理規約第八条と標記Ⅰ)。
(三) したがって、南側敷地の全体につき、被告三恵が専用使用権を有しているのであって、被告三恵は、この権原に基づき、この敷地とその南側の通路との間に設置されている門を家具等の商品の出し入れに使用し、この部分に置く商品の盗難、破損等の予防のため、門扉を常時施錠し、その鍵を保管しているのである。なお、原告らは、本件土地の南面に接する通路を公道であるかのように主張するが、これは、水路の路肩部分が簡易舗装されて通行できる状態になっているにすぎない。
五 本案前の主張に対する原告らの答弁
各区分所有者は、建物区分所有法第五七条の規定が新設された後においても、同条による集団的請求の他に、共有持分権に基づく個別的な物件的請求訴訟を提起することができるものと解すべきである。本件の場合、原告らは集会の議決を経ていないが、ハイコーポ綾瀬管理組合規程第三三条によると、「総会の議事は組合員の過半数が出席し、その議決権の四分の三以上の多数で決する。」とされているところ、被告三恵が議決権の三七・二二パーセントを有しており、被告三恵は、原告らから再三にわたる話合いにも全く応じないのであって、仮に総会に議題として上程しても、議決されないことが明らかである。このような状況の下において、集会の決議がなければ訴訟要件を欠くことになると、区分所有者の利益を不当に害する結果となり、このような解釈は許されない。
六 抗弁に対する認否
1 抗弁1の事実中、被告三恵が北側道路に面する付近(別紙図面記載の「B看板ポール位置」付近)から南に向けて七・二〇平方メートルにつき専用使用権を設定したとの点は否認し、主張は争う。ハイコーポ綾瀬管理規約第八条と標記Ⅰによれば、被告三恵に専用使用権が与えられた部分は、「建物の北側道路に面する部分」であって、その位置は、面積、用途等からして、建物の北側の円柱(同図面のG)を中心にした細長い部分(同図面記載のH部分=幅約〇・六五メートル、長さ約一一メートル)と考えるべきである。被告三恵が自動車を駐車させている場所は、「建物の北側道路に面する部分」ではないし、面積、用途等からしても、被告三恵に専用使用権が与えられた場所ではない。被告三恵が自動車を駐車させている場所には、区分所有者全員共有の水道メーター施設があるし、万一火災発生の場合、ここに駐車車両があると、各室南側のベランダから南側敷地に降り、西側通路状の部分を通って北側公道へと避難することが不能もしくは極めて困難となる。
2 抗弁2の事実は否認する。
被告三恵に専用使用権が与えられたという南側敷地のうちの二八・〇八平方メートルは、規約上その位置が特定されていない。その理由は、商品置場が商品の保管場所ではなく、荷捌きのための一時的なものと考えられたからである。また、LPガス集中装置に要する敷地は、別紙図面記載のE部分(約七・五平方メートル)であって、二七・六七平方メートルではない。また、LPガス集中装置が不要になった場合の跡地につき、被告三恵に専用使用権を付与すべきものと解する根拠はない。しかも、門扉自体について、被告三恵がこれを独占的に使用・管理することのできるとする根拠はどこにもない。
七 再抗弁
仮に、ハイコーポ綾瀬管理規約第八条と標記Ⅰの規程が西側通路を塞ぐような位置を定め、また南側敷地の全体を被告三恵の専用使用権の対象とするような定めをしているとするならば、このような規定は、民法第九〇条に違反する無効の規定である。
八 再抗弁に対する認否
再抗弁の主張は争う。
第三証拠《省略》
理由
一 本件訴えの適否について
被告らは、原告らが本訴において排除・禁止を求めている被告らの行為は、建物区分所有法第六条第一項にいう「区分所有者の共同の利益に反する行為」であるから、かかる行為の停止、除去及び予防を請求するには、同法第五七条第一項の規定に基づいて行うべきであると主張する。しかしながら、右の規定は、区分所有者が自己の持分権に基づき、これを侵害する行為の停止、除去及び予防の請求を必ずしも排除した趣旨とは解されないのみならず、原告らの本訴請求は、区分所有建物の敷地である本件土地及びその附属施設である門扉が原告らの共有に属するものであるとし、その共有持分権に基づく保存行為として、請求しているものであることが明らかであって、かかる請求ができることは、建物区分所有法第二一条、第一八条の規定からも明らかであるから、被告らの右主張は理由がない。
二 そこで、本案について判断するに、請求原因1の事実は、当事者間に争いがない。
三 西側通路部分の通行妨害について
1 請求原因2の事実中、被告三恵が本件土地内の西側通路状の部分(別紙図面記載のA部分)の北側道路に面する付近(同図面記載のfile_11.jpgfile_12.jpgの各点を結ぶ線付近)から南に向けて、当初二台の貨物自動車(登録番号足立四五ぬ四八二二[幅一・五六メートル、長さ三・八七メートル]及び登録番号足立四五は四六四六[幅一・六四メートル、長さ四・三六メートル])を常時駐車させ、その後も別紙図面記載のfile_13.jpgfile_14.jpgfile_15.jpgfile_16.jpgの各点を結ぶ場所付近に自己保有の自動車を常時駐車させていることは、当事者間に争いがない。そして、《証拠省略》によれば、西側通路状の部分の幅員は二・一メートルであって、右のような自動車の常時駐車によって、右通路状の部分から北側公道への出入口を大幅に塞ぐ状態となっていること、本件建物の二階ないし六階の南側の居住者は、火災等の危急の場合、南面のベランダを通り、一階南西に設置された避難用タラップを利用して南側敷地に降り、門(F)から南側通路に出るか、又は西側通路状部分(A)を通って北側公道に出るかのいずれかの避難経路があるだけであって、西側通路状部分の出入口付近に常時自動車が駐車され、この出入口を塞ぐ状態となっていることは、右居住者の安全面において問題であること、また被告三恵が常時自動車を駐車させている場所の真下には、本件建物の水道メーター等の設備があり、ここに常時自動車を駐車させることは、この面からも問題があること等の事実が認められる。
2 被告らは、右駐車の根拠を被告三恵に付与された専用使用権に基づくものであると主張する(抗弁1)。そこで考えるに、《証拠省略》によれば、次の事実が認められ、この認定を左右する証拠はない。
(一) 本件土地は、もと被告三恵の所有であったが、被告三恵は、昭和五三年八月ころ訴外章栄興業株式会社(以下「章栄興業」という。)及びD建築設計株式会社(以下「D建築設計」という。)との間で、被告三恵が本件土地の一部を章栄興業に譲渡し、これを共有としたうえ、章栄興業が本件土地にD建築設計の設計・監理にかかる六階建の建物を建築し、右譲渡を受けた持分の対価として完成建物の一部(区分所有権)を譲渡するとの契約を締結した。
(二) 右の契約に基づき、D建築設計が設計・監理を行い、章栄興業が施工して昭和五四年五月ころ完成した建物が本件建物(通称「ハイコーポ綾瀬」)であって、被告三恵は右契約に基づき、別紙「ハイコーポ綾瀬区分所有者表」の「被告」欄記載の区画の区分所有権を取得し、他方、章栄興業はその余の区画(三階に四戸、四ないし六階に各五戸)の区分所有権を取得して、原告らその他の者に分譲した。
(三) 右のとおり分譲を受けた者らが入居する前の昭和五四年六月下旬ころ、章栄興業は「ハイコーポ綾瀬管理規約」「ハイコーポ綾瀬管理組合規程」「ハイコーポ綾瀬管理委託細則」等の規約類の原案を作成し、これをあらかじめ右の入居者らに配付したうえ、同年六月二九日ころ右の入居者らを一堂に集めて説明会を開き、この席で被告三恵及び原告ら含む区分所有者ら全員が右規約等を承諾した。
(四) このようにして承諾された「ハイコーポ綾瀬管理規約」の第八条は、「特定箇所の専用使用」と題して、
(1項)
各区分所有者は共有部分及び土地の一部を後記標記Ⅰ(以下この部分を専用使用部分という)の通り、又、東京ガスが敷設された場合はLPガス集中装置の設置に要する敷地を標記Ⅰ記載の商品置場に加え特定の区分所有者及び管理者等(以下専用使用者という。)に専用使用させることを承諾する。
のように規定しており、そして、ここで引用する標記Ⅰは、次のように記載されている。
(標記Ⅰ)
名称
位置
用法
専用使用者
面積
①電気室
一階
電気室として
東京電力株式会社
一三・七七m2
②通路
一階店舗の前面道路に面する部分
店舗来訪者用通路として
一・二階店舗区分所有者
三八・八八m2
③二階専用階段
二階専用階段部分
二階店舗通行用として
二階店舗区分所有者
一六・一六m2
④商品置場
建物の南側敷地の一部
商品置場として
一階店舗区分所有者
二八・〇八m2
⑤広告塔
塔屋
看板取付用として
一階店舗区分所有者
⑥看板ポール設置用敷地
建物の北側通路に面する部分
看板ポール設置用として
一階店舗区分所有者
七・二〇m2
3 右のとおりであるから、被告三恵が西側通路状部分の出入口付近に専用使用権を有するか否かは、右規約の解釈如何の問題である。そこで考えるに、被告らは、標記Ⅰの「看板ポール設置用敷地七・二〇m2」が西側通路状部分の出入口付近であると主張し、《証拠省略》中には、右主張に沿う部分がある。しかしながら、「建物の北側通路に面する部分」がこの部分であるとするには、文言上疑義がないわけではなく、仮に被告らの主張に従うとしても、別紙図面のfile_17.jpgfile_18.jpgfile_19.jpgfile_20.jpgの各点を結ぶ範囲の面積は、《証拠省略》によれば、八・四平方メートル(2.100m×4.000m)となり、七・二〇平方メートルという面積がどの範囲を指しているのかも不明である。ちなみに、《証拠省略》によれば、「電気室」の一三・七七平方メートルは、5.100m×2.700mによって算出することができ、また「通路」の三八・八八平方メートルは、3.600m×10.800mの計算結果と合致するところから、別紙図面file_21.jpgfile_22.jpgfile_23.jpgfile_24.jpgfile_25.jpgの各点を結ぶ範囲であると推認できる。なお、原告らは、「看板ポール設置用敷地七・二〇m2」を店舗前の円柱(G)の左右の細長い部分(H)であるというが、そうすると、右の「通路」と一部重なり合う結果となるし、標記Ⅰに記載されている位置の説明からも無理があって、採用できない。
また、専用使用権は、それが設定された際に合意又は規約において定められた用法に限定された権利であって、その用法の限度において、他の共有権者のその部分に対する使用を制限し、又は排除し得るにすぎないものというべきところ、「看板ポール設置用敷地七・二〇m2」は、「看板ポール設置用として」の権利であるから、これを常時自動車の駐車場所として使用することは、規約で定められた用法に違反するものである。
4 このように、「看板ポール設置用敷地七・二〇m2」は、その位置に疑義があることに加え、被告三恵がこれを自動車を常時駐車させる場所として使用することは、規約に定められた用法に違反するのであるから、「看板ポール設置用敷地七・二〇m2」を自動車を駐車させる権原の根拠とする被告らの主張は、結局理由がない。
四 南面門扉の施錠による通行妨害について
1 本件土地の南側の通路に面している部分に門扉(別紙図面F)が設置されていることは当事者間に争いがない。
《証拠省略》によると、この門扉は、当初の被告三恵と章栄興業との契約に基づき、章栄興業が本件建物の建築の一環として、本件土地の周囲の鉄製フェンスとともに施工・設置したものであって、被告三恵が別途作ったものではないことが認められる。そして、この鉄製フェンス及び門扉は、その性質上、本件土地に附属する施設としてハイコーポ綾瀬管理規約の対象となる物件であり(同規約の第一条の3)、同規約の第三条の3所定の「屋外附属施設及び設備」に含まれ、区分所有者全員の共有に属するものというべきである。
2 しかるに、被告三恵がこの門扉を施錠し、その鍵を独占的に管理していることは、当事者間に争いがない。原告らは、被告井上も門扉を施錠し、その鍵を管理していると主張するが、《証拠省略》によれば、被告井上は被告三恵の取締役として、右門扉の施錠及び鍵の管理に当たっていることはあるにしても、これを独自の権限として行っているとは認められず、他にこの事実を認めるに足りる証拠もない。
3 被告らは、その権限の根拠として、本件土地の南側敷地の全体につき、被告三恵が専用使用権を有しており、この権原に基づき、この敷地とその南側の通路との間に設置された門を家具等の商品の出し入れに使用し、この部分に置く商品の盗難・破損等の予防のため門扉を常時施錠し、その鍵を保管していると主張する(抗弁2)。
そこで先ず、南側敷地の専用使用権について検討するに、前段認定の事実によると、標記Ⅰ記載のとおり、「建物の南側敷地の一部二八・〇八m2」が「商品置場として」一階の店舗区分所有者、すなわち被告三恵に専用使用権が付与されている。被告らは、その位置を、別紙図面のイロハニホヘイの各点を結んだ範囲であると主張するところ、標記Ⅰに示された位置の記載と《証拠省略》によると、その位置が、ほぼ本件建物一階南面にシャッターが設置されている箇所と南側の鉄製フェンス及び門扉との間の敷地部分ということはできるものの、これを正確に確定するに足りる証拠はない。ちなみに、《証拠省略》によると、建物の南面と鉄製フェンス及び門扉との間は四・一六メートルであるから、右の面積から逆算すると、「商品置場」の東西の幅員は約六・七五メートルとなり、シャッターの幅よりやや広いことが容易に見て取れるのであるが、被告らの主張するように、別紙図面記載のホヘの各点を結ぶ線と建物南面との間に幅約三五センチの細長い部分が含まれることを肯定させるに足りる証拠はない(前記のとおり、本件建物の南面西側には、避難用タラップが設置されているが、仮に被告ら主張のとおりだとするならば、そのタラップの真下部分を被告三恵の専用使用権が設定された「商品置場」ということになり、極めて不合理である。)。
次に、被告らは、LPガス集中装置に要する敷地として計画・用意された同図面記載のD部分(ニホヘトチニの各点を結ぶ直線で囲まれた部分)二七・六七平方メートルも「商品置場」に加えるべきであると主張するところ、なるほど、前段認定のハイコーポ綾瀬管理規約第八条の文言の「又、東京ガスが敷設された場合はLPガス集中装置の設置に要する敷地を標記Ⅰ記載の商品置場に加え」との部分は、その文脈上括弧に入れて読むことができ、またそうするのが自然な読み方であると解されるから、LPガス集中装置の設置が不要になった場合の跡地は、商品置場に加え、その専用使用権者、すなわち被告三恵に専用使用権が付与されたものと解釈することができる。しかしながら、その位置が別紙図面のE部分を超えて被告ら主張の範囲の土地であることを肯定させるに足りる的確な証拠はない。
4 右のとおりであるから、被告三恵が「商品置場」として専用使用権を有する部分は、本件建物の南面のシャッターのある付近から南側及びE部分であるということができる。してみると、その部分を通らなければ門(F)を利用して南側に接する通路に出ることはできないような位置関係にあるということができる。
また、右専用使用権の用法は、「商品置場として」であって、その趣旨は、《証拠省略》によると、商品の搬入・荷捌き及びこれに附随した商品の置場所を意味してことが認められるのであって、これを反面からいえば、右権利は、商品以外の物品をこの場所に恒常的に置くことを許容するものでないことは明らかである。
5 以上のとおり、本件土地の南側に設置された門(F)は、被告三恵が専用使用権を付与された土地に面し、これを通らなければ利用できないような位置関係にあるわけではあるが、右の権利は限定されたものであって、他の区分所有者の通行まで禁止されるものとは解されず、してみると、門扉の独占的な使用権を被告三恵に付与したものと解することは到底できないし、これを肯定させるに足りる根拠も見出し得ない。前記のとおり、本件建物の二階ないし六階の南側の居住者は、火災等の危急の場合、南面のベランダを通り、一階南西に設置された避難用タラップを利用して南側敷地に降り、門(F)から南側通路に出るか、又は西側通路状部分(A)を通って北側公道に出るかのいずれかの避難方法があるが、北側公道に出ることのできないような危急の場合を考えると、門(F)を利用するしかなく、これが特定の区分所有者の独占的な使用・管理に委ねられていることは、居住者の安全上問題がある。被告らは、この門の南に接しているのは、いわゆる公道ではなく、単に水路の路肩部分が簡易舗装されて通行できるようになっているにすぎないと主張するが、このことは、右の結論を何ら左右するものではない。
五 原告らの権利について
以上認定したところに基づいて考えるに、原告らは、西側通路状の部分を含む本件土地及びその附属施設たる門扉の共有持分を有するのであるから、その持分に応じてこれを使用する権利を有しているのであり、これを違法に妨害する者に対しては、それが第三者であると他の共有持分権者であるとを問わず、少なくとも妨害行為の禁止を求めることがでるものというべきである。すなわち、西側通路状部分についていえば、原告らは被告三恵に対し、この部分に自動車を駐車させることの禁止及び自動車を駐車させるなどして原告らの通行を妨害する行為の禁止を求めることができ、また、門扉についていえば、原告らは被告三恵に対し、門扉に施錠して原告らが南側敷地を利用して門を通行するのを妨害する行為の禁止を求めることができるものというべきである。ところで原告らは、門扉の錠の撤去をも求めているのであるが、被告三恵もまたその共有持分を有しているのであって、同被告が門扉に錠をかけること自体は、原告らの共有持分を侵害する行為とはいえないから、その撤去を求めることは許さないものといわざるを得ない。許されないのは、門扉とその鍵を独占的に使用・管理する行為であって、今後これをいかに使用・管理するかは、建物区分所有法第一八条第一項の規定に則り、集会の決議をもって決するのが相当である。
六 結論
以上のとおりであるから、原告らの被告三恵に対する本訴請求は、前段で示した限度において正当として認容するが、その余は失当として棄却し、また被告井上に対する請求は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条の規定を適用し、なお、仮執行の宣言は相当でないから付さないこととして、主文のとおり判決する。
(裁判官 原健三郎)
<以下省略>