東京地方裁判所 昭和59年(ワ)4954号 判決 1985年11月27日
原告
上羽哲郎
ほか一名
被告
太田清澄
ほか一名
主文
一 被告らは、各自、原告上羽哲郎に対し九八万八一〇〇円、同横尾敏明に対し一五〇万一五四二円、及び右各金員に対する被告太田清澄は昭和五九年五月一八日から、同すばる交通株式会社は同月一五日から、各支払ずみまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。
二 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は、これを四分し、その一を原告らの、その余を被告らの、各負担とする。
四 この判決は、主文第一項に限り、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告らは、各自、原告上羽哲郎(以下「原告上羽」という。)に対し一一六万八一〇〇円、同横尾敏明(以下「原告横尾」という。)に対し二七二万四五〇〇円、及び右各金員に対する被告太田清澄(以下「被告太田」という。)は昭和五九年五月一八日から、同すばる交通株式会社(以下「被告会社」という。)は同月一五日から、各支払ずみまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 第1項につき仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 事故の発生
被告太田は、昭和五七年七月一一日午前三時五五分ころ、タクシーを運転中、東京都中央区日本橋馬喰町二―三―一先路上において、信号待ちのため停車中の原告らが乗車している普通乗用自動車に追突した(右事故を、以下「本件事故」という。)。
2 責任
(一) 被告太田は、前方不注視の過失によつて本件事故を発生させたものであるから、民法第七〇九条の規定に基づき、損害賠償責任がある。
(二) 被告すばる交通株式会社は、前記タクシーの保有者であるから、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)第三条の規定に基づき、損害賠償責任がある。
3 傷害等
(一) 原告上羽
原告上羽は、本件事故により両肩部・膝部打撲、頚部捻挫の傷害を負い、その治療のため、井口整形外科病院に昭和五七年七月一七日から同年八月一日まで入院し、同年七月一二日から昭和五八年四月一六日まで通院(実日数三七日)した。
(二) 原告横尾
原告横尾は、本件事故により頚部捻挫、腰部捻挫、両膝関節捻挫、右踵骨挫創の傷害を負い、その治療のため、江川整形外科医院に昭和五七年七月一二日から昭和五八年九月二一日まで通院(実日数一一三日)したが、自賠法施行令第二条別表後遺障害等級表(以下「等級表」という。)第一四級に該当する後遺障害が残り、自賠責保険の査定により、後遺障害第一四級の認定を受けた。
4 損害
(一) 原告上羽
(1) 休業損害 七九万三〇〇〇円
原告上羽は、本件事故当時、満二二歳で無職であつたが、現在勤務している会社に就職が内定していたのであるから、少なくとも満二二歳の男子の平均給与額(月額一九万〇一〇〇円)を基準とした休業損害が認められるべきであり、同原告の入院期間は一六日、実通院日数は三七日であるから、この実通院日数を三倍した一一一日間に入院日数を加えた一二七日間が休業期間となり、休業損害は七九万三七三二円となる。このうち七九万三〇〇〇円を請求する。
(2) 入院雑費 一万二八〇〇円
原告上羽は、前記入院期間(一六日)中、一日当たり八〇〇円の雑費を支出した。
(3) 通院交通費 一万八五〇〇円
原告上羽は、前記実通院三七日につき、一日当たり五〇〇円の交通費を支出した。
(4) 傷害慰藉料 五二万七〇〇〇円
原告上羽の前記入通院日数等に照らし、その傷害に対する慰藉料は、五二万七〇〇〇円が相当である。
(5) 弁護士費用 一三万五〇〇〇円
原告上羽は、被告らから損害額の任意の弁済を受けられないため、弁護士である原告ら訴訟代理人に本訴の提起と追行を委任し、その費用及び報酬として、前記損害合計額の約一割に当たる一三万五〇〇〇円を支払う旨約した。
(6) 損害のてん補 三一万八二〇〇円
原告上羽は、前記損害に対するてん補として、自賠責保険から三一万八二〇〇円の支払を受けた。
(二) 原告横尾
(1) 休業損害 一九五万七〇〇〇円
原告横尾の事故前三か月間の平均月収は一五万二二六六円であり、実通院日数は一一三日間であるから、その三倍の三三九日間を休業日数とすると、その損害額は一六九万七〇〇〇円(一〇〇〇円未満切捨)となり、これに昭和五七年年末の賞与が三三万円支給されるべきところ七万二〇〇〇円しか支給されなかつたので、その差額を約二六万円としてこれを加えると、休業損害額は一九五万七〇〇〇円となる。
(2) 逸失利益 二三万一〇〇〇円
原告横尾の収入は、平均月収一五万二二六六円のほか賞与年六六万円であるところ、同原告は、前記後遺障害により、その労働能力を五パーセント喪失し、喪失期間は二年間であるから、新ホフマン式計算法により逸失利益の現価を算定すると、その金額は二三万一〇〇〇円(一〇〇〇円未満切捨)となる。
(3) 通院交通費 五万六五〇〇円
原告横尾は、前記実通院一一三日につき、一日当たり五〇〇円の通院費を支出した。
(4) 慰藉料 一四六万円
原告横尾の前記通院日数等に照らし、その傷害に対する慰藉料は七一万円が相当であり、前記後遺障害の程度等に照らし、その後遺障害に対する慰藉料は七五万円が相当である。
(5) 弁護士費用 三七万円
原告横尾は、被告らから損害額の任意の弁済を受けられないため、弁護士である原告ら訴訟代理人に本訴の提起と追行を委任し、その費用及び報酬として、前記損害合計額の約一割に当たる三七万円を支払う旨約した。
(6) 損害のてん補 一三五万円
原告横尾は、前記損害に対するてん補として、自賠責保険から一三五万円の支払を受けた。
5 よつて、原告らは、本件事故による損害賠償として、被告ら各自に対し、原告上羽において一一六万八一〇〇円、同横尾において二七二万四五〇〇円、及び右各金員に対する被告太田については同被告に対する訴状送達の日の翌日である昭和五九年五月一八日から、被告会社については同被告会社に対する訴状送達の日の翌日である同月一五日から、各支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実は認める。
2 同2の事実及び被告らの責任は認める。
3 同3の事実は不知。
4 同4の事実中、(一)の(6)及び(二)の(6)の各損害のてん補がなされた事実は認め、その余は不知。
5 同5の主張は争う。
第三証拠
証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。
理由
一 請求原因1(事故の発生)の事実並びに同2(責任)の事実及び被告らの責任は、いずれも当事者間に争いがない。
二 次に、原告らの傷害等について判断する。
1 原告上羽の傷害と治療経過
成立に争いのない甲第一号証及び原告上羽本人の尋問の結果によれば、原告上羽は、本件事故により両肩部・膝部打撲、頚部捻挫の傷害を負い、事故当日、救急病院で手当てを受けたのち、井口整形外科病院に昭和五七年七月一二日から昭和五八年四月一六日まで通院(実日数三七日)し、その間、昭和五七年七月一七日から同年八月一日まで同病院に入院して治療を受けたことが認められ、右認定に反する証拠はない。
2 原告横尾の傷害、治療経過及び後遺障害
成立に争いのない甲第二号証及び原告横尾本人の尋問の結果によれば、原告横尾は、本件事故により頚部捻挫、腰部捻挫、両膝関節捻挫、右踵骨挫創の傷害を負い、事故当日、救急病院で手当てを受けたのち、江川整形外科医院に昭和五七年七月一二日から昭和五八年九月二一日まで通院(実日数一一三日)して治療を受けたが、同日、症状固定の診断を受け、後頭部痛等の等級表第一四級に該当する後遺障害が残り、自賠責保険の査定により、後遺障害第一四級の認定を受けたことが認められ、右認定に反する証拠はない。
三 進んで、原告らの損害について判断する。
1 原告上羽の損害
(一) 休業損害 四二万五〇〇〇円
原告上羽本人の尋問の結果によれば、原告上羽は本件事故の一週間位前にそれまで勤務していた日本観光という会社を退職し、本件事故当時は無職であつたが、昭和五七年八月一日からサンブレーンという会社に勤務する予定であつたこと、しかるに、本件事故で受傷したため、予定どおりにサンブレーンに勤務することができず、同年一〇月中旬ころに至つて同会社に勤務することができたこと、サンブレーンに入社後の同原告の給与は月額一七万円であつたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
右の事実によれば、原告上羽は、本件事故で受傷しなければ、予定どおり昭和五八年八月一日からサンブレーンに入社し、同日以降月額一七万円の収入を得られたものと推認することができるから、同原告は、右八月一日から一〇月中旬までの二・五か月間、一か月当たり一七万円の休業損害を被つたものというべきであり、その金額は四二万五〇〇〇円となる。
(二) 入院雑費 一万二八〇〇円
弁論の全趣旨によれば、原告上羽は、前示の入院期間(一六日)中、一日当たり八〇〇円を下らない雑費を支出したことが認められ、右認定に反する証拠はない。
(三) 通院交通費 一万八五〇〇円
原告上羽本人の尋問の結果によれば、原告上羽は、前示の実通院三七日につき、平均して、一日当たり少なくとも五〇〇円のタクシー代、バス代等の通院交通費を支出したことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
(四) 傷害慰藉料 七五万円
原告上羽の前示の傷害の部位、程度、入通院日数等に照らし、その傷害に対する慰藉料としては、七五万円をもつて相当と認める。
2 原告横尾の損害
(一) 休業損害 六六万四〇四二円
成立に争いのない甲第三号証及び原告横尾本人の尋問の結果によれば、同原告は、本件事故当時、株式会社関東クラウンに勤務し、事故前三か月間の平均給与月額は一五万二二六六円であつたこと、同原告は、本件事故による受傷のため昭和五七年七月一二日から同年一〇月二〇日までのうち八〇日間同会社を欠勤し、その間給与の支給を受けることができなかつたこと、その後出勤したのちは、従前どおりの給与の支給を受けることができたものの、同年一二月の賞与は、本来同年六月と同様三三万円の支給を受けることができたはずであるところ、これを七万二〇〇〇円に減額されたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
右認定の事実によれば、次の計算式のとおり、原告横尾の休業損害額は、六六万四〇四二円(一円未満切捨)となる。
152,266×80÷30+330,000-72,000=664,042
(二) 逸失利益 二三万一〇〇〇円
原告横尾が等級表第一四級に該当する後遺障害を被つたこと及び同原告の収入が給与月額平均一五万二二六六円と賞与三三万円が年二回であることは、前示のとおりであり、原告横尾本人の尋問の結果によれば、原告横尾は、前示の休業期間ののちは、直接の給与の減額はないものの、有給休暇を利用して欠勤したり、現在でも首のうしろの痛みなどがあり、営業成績が低下して、賞与に影響が出るなどの状況にあることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
右の事実によれば、原告横尾は、前示の後遺障害により、その労働能力を症状固定日から二年間、五パーセントの割合で喪失したものと認めるのが相当であるから、右収入(年収二四八万七一九二円)を基礎とし、ライプニツツ式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して、症状固定日を基準とした逸失利益の現価を算定すると、次の計算式のとおり、その金額は二三万一二三四円(一円未満切捨)となり、同原告が請求する二三万一〇〇〇円を超えることが明らかである。
2,487,192×0.05×1.8594=231,234
(三) 通院交通費 五万六五〇〇円
原告横尾本人の尋問の結果によれば、原告横尾は、前記実通院一一三日につき、タクシーあるいは家族の自動車で通院したこと、右タクシー代は一回の往復につき七〇〇円ないし八〇〇円であつたことが認められ、右認定に反する証拠はない。
右の事実によれば、原告横尾は、右通院のため、タクシー代、ガソリン代等として、平均して一日当たり少なくとも五〇〇円の交通費を支出したものと推認することができるから、その損害額は、五万六五〇〇円となる。
(四) 慰藉料 一七五万円
原告横尾の前示の傷害の部位、程度、通院日数、後遺障害の程度等に照らし、その傷害に対する慰藉料としては一〇〇万円、後遺障害に対する慰藉料としては七五万円をもつて相当と認める。
3 損害のてん補
前記損害に対するてん補として、自賠責保険から、原告上羽が三一万八二〇〇円の、原告横尾が一三五万円の、各支払を受けたことは、当事者間に争いがない。
よつて、前示の各原告の損害額から右損害てん補額を控除すると、原告上羽の損害額は八八万八一〇〇円、原告横尾の損害額は一三五万一五四二円となる。
4 弁護士費用
弁論の全趣旨によれば、原告らは、被告らから損害額の任意の弁済を受けられないため、弁護士である原告ら訴訟代理人に本訴の提起と追行を委任し、その費用及び報酬を支払う旨約したことが認められるところ、本件訴訟の審理経過、訴訟の難易、前記認容額、その他本件において認められる諸般の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用としては、原告上羽分一〇万円、原告横尾分一五万円をもつて相当と認める。
四 以上によれば、原告らの被告らに対する本訴請求は、本件事故による損害賠償として、被告ら各自に対し、原告上羽において九八万八一〇〇円、同横尾において一五〇万一五四二円、及び右各金員に対する被告太田については本件事故の日ののちである昭和五九年五月一八日から、被告会社については本件事故の日ののちである同月一五日から、各支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める限度で理由があるから、右限度で認容し、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 小林和明)