東京地方裁判所 昭和59年(ワ)7200号・昭59年(ワ)7202号・昭59年(ワ)7205号 判決
一1 原告が本件実用新案権を有していたこと、本件明細書の実用新案登録請求の範囲の記載が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがなく、右争いのない事実及び成立に争いのない甲第一号証(本件公報)によれば、本件考案は、次の構成要件からなる折畳式可搬型陳列棚車であることが認められる。
A 下面両側部ヘキヤスタ8、8を付設させるとともに、その両端部を上方へ屈曲形成させてなる一対の下端縁形成用パイプ部材2、2を有すること
B 下端縁形成用棒部の両端に支柱形成用第一パイプ部3、3を固着させてなる一対の下端縁形成用パイプ部材4、4を有すること
C 上側縁形成用棒部の両端に支柱形成用第二パイプ部5、5を固着させてなる一対の上側縁形成用パイプ部材6、6を有すること
D 両端縁下部を嵌合部に形成させてなる一対の上端縁形成用パイプ部材7、7を有すること
E 下側縁形成用パイプ部材2、2の両端部と支柱形成用第一パイプ部3、3とを、また、該第一パイプ部3、3と上記第二パイプ部5、5とを、更に、該第二パイプ部5、5と上端縁形成用パイプ部材7、7の両端下部とを、それらの一方の側から挿入ロツド12、13……を突出させるとともに、これを他方のパイプ孔内へ回動可能、かつ、着脱自在に嵌合させて、平面方形状及び菱形状に可変可能な、また、組立て及び分解可能な枠車1としたこと
F 該枠車1の平面形状を方形状としたとき、該枠車1上面へ載置可能とする箱体9を上記枠車に付設させたこと
2 被告ニツコーが被告製品(一)を製造販売し、被告小原が被告製品(一)を販売していること、及び被告フジミが被告製品(二)を製造販売し、被告ホンダ綜合が被告製品(二)を販売していることは、当事者間に争いがない。
3 そこで、まず、被告製品(一)が本件考案の技術的範囲に属するか否かについて判断するに、被告製品(一)が本件考案の構成要件AないしD及びFを充足することは、当事者間に争いがないから、被告製品(一)が本件考案の構成要件Eを充足するか否かについて検討する。
(一) 前掲甲第一号証(本件公報)によれば、本件考案は、商品を展示陳列するための陳列棚車に係るものであるところ、従来、スチールパイプを用いた陳列棚車が広く用いられていたが、右棚車は、幅、奥行き及び高さともに大きくかさばり、折畳みができず、収納場所を広く要するとともに、予め組み上げられた形態を変えることができないという欠点があつたので、右欠点を解消して、組立分解が可能であり、かつ、組立状態において平面方形状に広げ、また、菱形状に折畳みができるようにすることを目的として、前認定の構成要件AないしFのとおりの構成を採用したものであることが認められるところ、原告は、本件考案の実用新案登録出願前、東京晴海で開催された二回にわたる店舗システムシヨーに折畳可能な棚車を展示し、また、これを一般に販売していたことは、当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第七号証、第一三号証、第一四号証、第一八号証、第二〇号証ないし第二二号証、第二五号証、原本の存在及び成立に争いのない乙第八号証の一、二、前掲乙第七号証により同号証の二枚目表左側の写真のカラーポジ写真の原版であることが認められる検乙第一号証、前掲乙第一四号証により同号証の一枚目表中央の写真のカラーポジ写真の原版であることが認められる検乙第二号証、証人中村清之助、同丸山定夫(ただし、後記採用しない部分を除く。)の各証言及び原告代表者渡辺武男の尋問の結果(ただし、後記採用しない部分を除く。)並びに弁論の全趣旨を総合すれば、右の折畳可能な棚車は、支柱を形成するための四本のパイプ、すなわち、下側形成用パイプ部材の起立部、支柱形成用第一パイプ部、支柱形成用第二パイプ部及び上端縁形成用パイプ部材の垂下部の各パイプを、一本の挿入ロツドを下側縁形成用パイプ部材の端部から上方へ突出させ、該ロツドに第一パイプ部、第二パイプ部、上端形成用パイプ部材の垂下部を順次回動可能、かつ、着脱自在に嵌合させて連結している、いわゆる一本のロツドを使用した構造を有するとともに、支柱形成用パイプ部と棒部とがいずれも溶接により固着されている別紙参考図第4図記載のとおりの枠車に、右枠車の平面形状を方形状としたとき、その上面に載置可能とする箱体を付設させたものであることが認められ(右認定に反する乙第一七号証の七、八、証人丸山定夫及び原告代表者渡辺武男の供述部分は、前掲証拠に照らしたやすく採用することができず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。)右認定の事実によると、本件考案の実用新案登録出願前、本件考案と同一の目的を有する右構成の折畳可能な棚車の技術的思想が存したものといわなければならない。そうすると、本件考案は、右先行技術と同一の目的を、先行技術にない新規な構成により達成した点にその考案性が存するものと解すべきである。
そこで、右先行技術を考慮しつつ、本件考案の構成要件について考察するに、前掲甲第一号証によれば、(1) 本件考案は、前認定の目的をもつて、構成要件AないしFの構成を採用し、これにより、所期の目的を達成するとともに、各部材がパイプ製であるため軽くてしかも丈夫であり、キヤスタを有するため商品陳列のまま移動することができて便利であるという作用効果を奏するものであり、また、(2) 本件明細書の考案の詳細な説明の項には、本件考案の構成要件Eについて、図面の説明として、「支柱形成用第一パイプ部3、3のパイプ孔には上下両端部をそれぞれ突出させて挿入ロツド12が嵌着させてあり、そのロツドの下方突出部は下側縁形成用パイプ部材2の端部内へ、又上方突出部は上側縁形成用パイプ部材6、6の支柱形成用第二パイプ部5、5の下端部内へそれぞれ回動可能にかつ着脱自在に嵌合させてあり、又上端縁形成用パイプ部材7、7の両端下部からは挿入ロツド13……が突出され、該挿入ロツドを支柱形成用第二パイプ部5、5内へ上方から回動可能にかつ着脱自在に挿入される。」(本件公報一頁二欄二〇行ないし三〇行)と記載され、また、願書添付の図面にも右と同様の連結構造のみが示されていることが認められ(他に右認定に反する証拠はない。)、右認定の事実に先行技術に関する前説示を併せ考えると、本件考案の構成要件Eは、二本以上の挿入ロツドを用いる構成を意味するものと解するのが相当である。原告は、公知の折畳可能な棚車は、前認定のような一本のロツドを使用した構造のものではない旨主張するが、前示採用しない証拠のほかには、右主張に添う証拠はないから、原告の右主張は、採用することができない。なお、原告は、本件考案において重要な点は、構成要件AないしDの各部材を平面方形状と菱形状とに変形することができ、しかも、組立て、分解が可能な枠車1に組み立てることができるように、支柱形成用パイプが、そのパイプ孔内に嵌合された挿入ロツドにより回動可能に、かつ、着脱自在に嵌合されるように構成されていることであつて、挿入ロツドが一本であるか複数であるかを問わないものである旨主張するが、本件考案の構成要件Eは、二本以上の挿入ロツドを用いる構成を意味するものと解すべきことは、前説示のとおりであり、したがつて、原告の右主張も、採用の限りでない。なおまた、原告は、本来、実用新案登録請求の範囲の記載に当たつて、図面中の符号が用いられることがあるところ、右符号は、その考案の技術内容をより理解しやすくするための補助的手段にすぎず、考案の技術的範囲に影響を及ぼすものではないから、本件考案の技術内容が右符号を用いて図示されたもののみに限定解釈されるべきいわれはない旨主張するところ、実用新案登録請求の範囲に願書添付の図面中の符号が用いられているからといつて、そのことから直ちに考案の技術的範囲が願書添付の図面に記載されたものに限定されるものとは解されないが、前認定判断によると、本件考案の構成要件Eは、符号の記載の有無にかかわらず、前示のとおり解されるのであるから、原告の右主張もまた、採用するに値しない。なお更に、原告は、明細書の考案の詳細な説明の項に考案の効果を記載することが不可欠とされているから(実用新案法五条三項)、仮に、本件考案が、挿入ロツドの数を問題とするものであるならば、本件明細書の考案の詳細な説項の項に、挿入ロツドを二本ないし複数本としたことによる効果が記載されていなければならないのに、そのような記載はない旨主張するが、前認定の本件考案の目的、構成及び効果に照らすと、挿入ロツドの数いかんによる効果が本件明細書に記載されていなければならないとする理由はないから、原告の右主張も、採用するに由ないものといわざるをえない。また、原告は、本件明細書の考案の詳細な説明の項には、支柱部分のパイプとロツドの嵌合関係について、「尚それ等の嵌合は上記実施例に限るものではなく、要するに一方のパイプ部材の端部から挿入ロツド12、13を突出させておき、これを他方のパイプ孔内へ回動可能に嵌合すればよい。」(本件公報一頁二欄三〇行ないし三四行)と記載されており、右記載によると、二本のロツドを使用する構成以外の構成を採りうることが示唆されているから、二本のロツドを使用する構成のものに限定的に解すべき理由はない旨主張するところ、前掲甲第一号証によれば、右記載内容は、本件考案は右記載の前に記載されている実施例に限定されないとするものであるが、一本のロツドを用いた構成のものも含むとの趣旨であるとは認めることができず、したがつて、原告の右主張もまた、採用することができない。
(二) これに対して、被告製品(一)は、本件考案の四本の支柱形成用パイプに対応する、下側縁形成用パイプ部材2の起立部2b、支柱形成用第一パイプ部3、支柱形成用第二パイプ部5及び上端縁形成用パイプ部材7の垂下部7bの各パイプの連結を、挿入ロツド12を下側縁形成用パイプ部材2の端部から上方へ突出させ、該ロツドに、第一パイプ部3、第二パイプ部5、上端縁形成用パイプ部材7の垂下部7bを順次嵌合させることによつて行う構造を有していることは、当事者間に争いがないから、支柱形成用パイプを二本以上のロツドに回動可能、かつ、着脱自在に嵌合して連結する構造を有していないことが明らかである。
(三) そうすると、被告製品(一)は、本件考案の構成要件Eを充足せず、したがつて、本件考案の技術的範囲に属しないものというべきである。
4 次に、被告製品(二)が本件考案の技術的範囲に属するか否かについて判断するに、本件考案の構成要件Eは、前示のとおり解するのが相当であるところ、被告製品(二)は、挿入ロツド12を下側縁形成用パイプ部材2の両端から上方へ突出させ、該ロツドに、第一パイプ部3、第二パイプ部材5、第三パイプ部6b及び上端縁形成用パイプ部材7の端部を順次回動可能に嵌合する構造であることは、当事者間に争いがないから、被告製品(二)は、構成要件Eを充足しないことが明らかであり、したがつて、本件考案の技術的範囲に属しないものというべきである。
5 以上によれば、原告の被告らに対する本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がないものといわざるをえない。
二 よつて、原告の本訴請求は、いずれもこれを棄却することとする。
〔編註その一〕本件における実用新案権は左のとおりである。
考案の名称 折畳式可搬型陳列棚車
出願 昭和四八年五月二五日
公告 昭和五二年三月一八日
登録 昭和五二年一〇月二八日
登録番号 第一二〇一四九九号
〔編註その二〕本件に関する目録は左のとおりである。
目録(一)
別紙図面に図示し、左に説明する構造を有する折畳式可搬型陳列棚車
一 図面の説明
第一図は、折畳式可搬型陳列棚車の斜視図
第二図は、その棚車の分解斜視図
第三図は、その棚車本体としての枠車を折畳んだ状態で示す斜視図である。
二 図面符号の説明
1 枠車 2 下側縁形成用パイプ部材
3 支柱形成用第一パイプ部 4 下端縁形成用パイプ部材
5 支柱形成用第二パイプ部 6 上側縁形成用パイプ部材
7 上端縁形成用パイプ部材 8キヤスタ
9 箱体 12 挿入ロツド
24 布
三 構造の説明
折畳式可搬型陳列棚車は、棚車本体としての枠車1と、該枠車上へ嵌合させた箱体9とで形成されている。なお、第一図の枠車は、前面と左右両端面とに布24を紐がけしている。
まず、枠車1について説明すると、該枠車は、第二図が最も明白に示すように、前後一対の下側縁形成用パイプ部材2、2と、左右一対の下端縁形成用パイプ部材4、4と、前後一対の上側縁形成用パイプ部材6、6と、左右一対の上端縁形成用パイプ部材7、7とで形成されている。
一対の下側縁形成用パイプ部材2、2は、水平に設けたパイプ部2a、2aの下面左右両側部にキヤスタ8、8を付設させており、かつ、パイプ部の両端部を上方へ屈曲させて起立部2b、2bとしている。該起立部からは、挿入ロツド12、12が、該ロツド下端部を起立部2b、2b内に嵌合固定させて垂直に起立させている。
左右一対の下端縁形成用パイプ部材4、4は、水平に設けた下端縁形成用パイプ部4a、4aの前後両端に、それぞれ支柱形成用第一パイプ部3、3下部を、該パイプ部が垂直になるよう固定させている。
上側縁形成用パイプ部材6、6は、水平に設けた上側縁形成用パイプ部6a、6aの左右両端に、支柱形成用第二パイプ部5、5上部を、該パイプ部が垂直になるよう固定している。
上端縁形成用パイプ部材7、7は、水平に設けた上端縁形成用パイプ部7a、7a両端を下方へ弯局させて垂下部7b、7bとしている。
上記各部材は、支柱形成用第一パイプ部3、支柱形成用第二パイプ5、垂下部7bを、それぞれ挿入ロツド12に可動可能に、かつ、着脱自在に、下方から順次嵌合させてある。
このように形成された枠車1は、上記各部材に分解可能であるとともに、また、枠車に組立てることが自在であり、また、第三図が示すようにほぼ菱形状に折畳むことができ、更に、第一図のように平面長方形に拡げることができる。
枠車を拡げた状態で、第一図のように箱体の両側部9a、9a下面を、上側縁形成用パイプ部6a、6a上面に載置させ、かつ、箱体の左右両端板9b、9b外面を、上端縁形成用パイプ部材7、7の内面に当接させて箱体9を着脱自在に嵌合させることが可能であり、該嵌合により枠車の折畳みは不能となる。
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(以下省略)
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