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東京地方裁判所 昭和59年(特わ)1255号 判決 1984年8月03日

本店所在地

東京都豊島区東池袋三丁目一番一号

ジャパンライフ株式会社

(右代表者代表取締役相川孝)

本籍

群馬県伊勢崎市平和町二一番地

住居

東京都新宿区歌舞伎町二丁目四番三号

ノア新宿一一五二号

会社役員

山口隆祥

昭和一七年三月一三日生

右両名に対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官三谷紘出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

一  被告人ジャパンライフ株式会社を罰金七五〇〇万円に、被告人山口隆祥を懲役二年にそれぞれ処する。

二  被告人山口隆祥に対し、この裁判確定の日から四年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人ジャパンライフ株式会社(以下「被告会社」という。)は、東京都豊島区東池袋三丁目一番一号(昭和五七年八月二三日以前は同都千代田区麹町五丁目七番地)に本店を置き、羽毛布団等の販売を目的とする資本金四億五一四〇万円(昭和五九年六月二二日以前は二億円)の株式会社であり、被告人山口隆祥は、被告会社の代表取締役(昭和五八年二月二八日以降は取締役営業部長)として同会社の業務全般を統括していたものであるが、被告人山口は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、架空仕入を計上するなどの方法により所得を秘匿したうえ、

第一  昭和五五年三月一日から同五六年二月二八日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億二六五三万五五三九円(別紙(一)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、同五六年四月二八日、東京都千代田区神田錦町三丁目三番地所在の所轄麹町税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が、一三八一万二一三八円でこれに対する法人税額が五三七万四〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和五九年押第九五八号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額五〇四五万九六〇〇円と右申告税額との差額四五〇八万九二〇〇円(別紙(三)ほ脱税額計算書参照)を免れ

第二  昭和五六年三月一日から同五七年二月二八日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が六億三三三〇万四七七五円(別紙(二)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、同五七年四月三〇日、前記麹町税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一億一三九九万九三七五円でこれに対する法人税額が四七七〇万四五〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号の2)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額二億六五九七万七二〇〇円と右申告税額との差額二億一八二七万二七〇〇円(別紙(三)ほ脱税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全事実につき

一  被告会社代表者の当公判廷における供述

一  被告人山口の当公判廷における供述

一  被告人山口の検察官に対する供述調書(昭和五九年四月一四日付)

一  柴田克一、加藤敏彦の検察官に対する各供述調書

一  収税官吏作成の次の調査書

期首商品棚卸高調査書

期末商品棚卸高調査書

洗剤仕入棚卸調査書

当期商品仕入高調査書

給料手当調査書

株式評価額調査書

受取利息調査書

有価証券売却益調査書

役員賞与調査書

預金利息源泉所得税調査書

一  被告会社の登記簿謄本二通、閉鎖登記簿謄本二通

判示第一の事実につき

一  収税官吏作成の次の調査書

支払手数料調査書

有価証券売却損調査書

一  押収してある昭和五六年二月期法人税確定申告書一袋(昭和五九年押第九五八号の1)

判示第二の事実につき

一  収税官吏作成の次の調査書

退職金調査書

棚木物件調査書

雑費調査書

雑収入調査書

価格変動準備金繰入調査書

手形割引料収入調査書

一  豊島税務署長作成の証明書(昭和五八年五月六日付)

一  検察事務官作成の捜査報告書

一  押収してある昭和五七年二月期法人税確定申告書(同押号の2)

(法令の適用)

一  罰条

(一)  被告会社

判示第一の事実につき、昭和五六年法律第五四号による改正前の法人税法一六四条一項、一五九条一、二項

判示第二の事実につき、右改正後の法人税法一六四条一項、一五九条一、二項

(二)  被告人山口

判示第一の事実につき、行為時において右改正前の法人税法一五九条一項、裁判時において改正後の法人税法一五九条一項(刑法六条、一〇条により軽い行為時法の刑による)

判示第二の事実につき、右改正後の法人税法一五九条一項

二  刑種の選択

被告人山口につき、いずれも懲役刑を選択

三  併合罪の処理

被告会社につき、刑法四五条前段、四八条二項

被告人山口につき、刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(重い判示第二の罪の刑に加重)

四  刑の執行猶予

被告人山口につき、刑法二五条一項

(量刑の理由)

被告人山口は、昭和四六年四月ジェッカーチェーン株式会社(のちにジェッカーフランチャイズチェーン株式会社と商号変更)を設立し、代理店を介しての健康食品、マッサージ器の訪問販売を行っていたが、昭和五一年一一月倒産し、その後しばらくイオン源水器の製造販売や洗剤の製造販売に従事したのち、昭和五四年一月右会社の子会社として設立されていた株式会社を被告会社名に商号変更して、座椅子式指圧器をいわゆる講習販売方式により販売し、次いで羽毛布団を主力商品として販売方式も代理店方式に改め、年々売上を伸ばしていたところ、被告会社の業績が順調に推移し、かなりの利益が上がるようになるにともない、前に会社を倒産させ多くの従業員を見捨てる結果となった過去の経験にかんがみ、被告会社も同じ轍を踏まないため、一〇億円程度の裏資金を確保したいと考え、架空仕入を計上したり、架空退職金を計上するなどして、本件犯行に及んだものであり、会社の将来に備えて資金を確保しようという動機自体は、心情として理解できないわけではないが、手段として脱税を行うことの不当はいうまでもなく、その結果本件において脱税額が二事業年度で合計二億六三三六万円余の高額に達していることは、特に犯情が悪質であるといわなければならない。加えて所得秘匿の方法をみても、架空仕入を計上するためわざわざ会社を設立させたり、架空の退職金を計上した者で会社を設立させた形をとりその会社から取引保証金の名目で同額を回収するなど周到、巧妙であって、犯行の態様が悪質である点も看過できず、右犯行を計画し、推進した同被告人の本件刑責は軽視することができない。

しかしながら他面、被告人山口は本件脱税で得た資金を個人的に費消しているわけでなく、現在すべて会社資産として公表に受け入れていること、また本件発覚後強くその非を悟り、捜査、公判を通じて終始犯罪事実を認め、改悛の態度を示しているうえ、本件事業年度の被告会社の所得につき修正申告をして、本税をはじめ必要とされる各種の税をすべて納めていること、さらに被告人山口は本件の責任を感じて被告会社の代表取締役の地位を辞し、取締役営業部長として営業活動に専念するとともに、相川孝を代表取締役に迎え、機構の確立と堅実な組織の運営を行うべく努力し、経理の面でも、専門的知識・経験を有する者を配置し、監査法人による監査を受けるなどして改善の措置を講じ、被告会社として再び過ちを犯さぬよう体制を整えていること、被告人には前科として傷害罪による罰金と業務上過失傷害罪による執行猶予付禁錮刑があるが、これらはその後相当年数が経過していることなど被告人に有利に斟酌すべき事情も存し、これらを総合勘案すると、被告人山口に対しては今回を限りその刑の執行を猶予するのを相当と認め、主文のとおり量刑する次第である。

(求刑被告会社罰金九〇〇〇万円、被告人山口懲役二年)

(裁判長裁判官 小泉祐康 裁判官 田尾健二郎 裁判官 石山容示)

別紙(一) 修正損益計算書

ジャパンライフ株式会社

自 昭和55年3月1日

至 昭和56年2月28日

<省略>

別紙(二) 修正損益計算書

ジャパンライフ株式会社

自 昭和56年3月1日

至 昭和57年2月28日

<省略>

修正損益計算書

ジャパンライフ株式会社

自 昭和56年3月1日

至 昭和57年2月28日

<省略>

別紙(三) ほ脱税額計算書

会社名 ジャパンライフ株式会社

(1) 自 昭和55年3月1日

至 昭和56年2月28日

<省略>

(2) 自 昭和56年3月1日

至 昭和57年2月28日

<省略>

(注) 税率適用誤り税額960,000円を含む。

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