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東京地方裁判所 昭和59年(特わ)377号 判決 1984年6月27日

裁判所書記官

浅野正久

本店所在地

東京都葛飾区白鳥四丁目六番六号

ニューロング工業株式会社

右代表者代表取締役

長勇三郎

本籍

群馬県藤岡市藤岡五三九番地の五

住居

東京都葛飾区立石八丁目四四番八号

会社役員

長勇三郎

大正六年三月一九日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官三谷紘出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

一、被告人ニューロング工業株式会社を罰金五四〇〇万円に、被告人長勇三郎を懲役二年にそれぞれ処する。

二、被告人長勇三郎に対し、この裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人ニューロング工業株式会社(以下「被告会社」という。)は、東京都葛飾区白鳥四丁目六番六号に本店を置き、製袋機械及び特殊工業用ミシン等の製造販売を目的とする資本金一億円の株式会社であり、被告人長勇三郎(以下「被告人」という。)は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、製品等の期末棚卸の一部を除外するなどの方法により所得を秘匿した上、

第一  昭和五五年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が七億六〇六五万六二七七円あった(別紙(一)修正損益計算書参照)のにかかわらず、同五六年二月二八日、東京都葛飾区立石六丁目一番三号所在の所轄葛飾税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が三億九二九一万七二〇五円でこれに対する法人税額が一億三九八六万六八〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和五九年押第七一五号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額二億九二二七万六三〇〇円と右申告税額との差額一億五二四〇万九五〇〇円(別紙(三)税額計算書参照)を免れ

第二  昭和五六年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が四億七七九七万七五一円あった(別紙(二)修正損益計算書参照)のにかかわらず、同五七年三月一日、前記葛飾税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が三億四六六九万五七五三円でこれに対する法人税額が一億二九〇六万七〇〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和五九年押第七一五号の2)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額一億八四一六万九三〇〇円と右申告税額との差額五五一〇万二三〇〇円(別紙(三)税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全事実につき

一、被告人の当公判廷における供述

一、被告人の検察官に対する供述調書二通

一、近藤清吉及び田村丑松(四通)の検察官に対する各供述調書

一、葛飾税務署長作成の証明書

一、登記官作成の被告会社の登記簿謄本

一、収税官吏作成の次の各調査書

1  期首製品棚卸高調査書

2  期末製品棚卸高調査書

3  当期製品製造原価調査書

4  消耗工具器具備品費(製造原価)調査書

5  事務用品費(製造原価)調査書

6  減価償却費(製造原価)調査書

7  期首仕掛品半製品繰越高調査書

8  期末仕掛品半製品繰越高調査書

9  価格変動準備金繰入損調査書

10  海外投資等損失準備金戻入調査書

11  事業税認定損調査書

判示第一の事実につき

一、収税官吏作成の次の各調査書

1  当期買入部品(製造原価)調査書

2  構築物除却損調査書

一、押収してある法人税決議書(昭和五五年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度にかかるもの)一袋(昭和五九年押第七一五号の1)

判示第二の事実につき

一、収税官吏作成の次の各調査書

1  当期材料仕入高(製造原価)調査書

2  修繕費(製造原価)調査書

3  印刷費(製造原価)調査書

4  雑収入調査書

5  価格変動準備金戻入益調査書

6  固定資産特別償却費調査書

一、押収してある法人税確定申告書(昭和五六年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度にかかるもの)一袋(昭和五九年押第七一五号の2)

(法令の適用)

一  罰条

1  被告会社

判示第一の事実につき、昭和五六年法律第五四号による改正前の法人税法一六四条一項、一五九条一、二項、判示第二の事実につき、右改正後の法人税法一六四条一項、一五九条一、二項

2  被告人

判示第一の所為につき、行為時において昭和五六年法律第五四号による改正前の法人税法一五九条一項、裁判時において右改正後の法人税法一五九条一項(刑法六条、一〇条により軽い行為時法の刑による)、判示第二の所為につき、右改正後の法人税法一五九条一項

二  刑種の選択

被告人につき、いずれも懲役刑を選択

三  併合罪の処理

1  被告会社

刑法四五条前段、四八条二項

2  被告人

刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(重い判示第二の罪の刑に加重)

四  刑の執行猶予

被告人につき刑法二五条一項

(量刑の事情)

被告会社は、ミシン修理及び部品販売を目的として昭和一六年に被告人により設立された長ミシン商会が、戦後法人成りして業務を拡大し、社名も変更した上発展してきたものであり、被告人が過半数の株式を有する従業員約三九〇名の会社であるが、昭和四八年頃から、業績が悪化した場合に備え会社内に含み資産を留保しておくことを目的として、被告人の指示により、仕掛品、半製品の期末棚卸の一部を除外する方法で所得を秘匿していたところ、昭和五四年二月に労働組合が結成され、被告人において争議の発生等を危惧し会社の将来の業績に不安を抱いたことや、昭和五五年に製品を値上げした結果前期に比べて大幅な利益の増加が見込まれたことなどから、被告人の指示により、昭和五五年及び同五六年の両事業年度につき、製品等の期末棚卸の一部を除外するなどの方法で更に大がかりな所得の秘匿を行った上、判示の過少申告により合計二億七五一万一八〇〇円の法人税を免れたものである。被告人自らが設立し発展させてきた被告会社について、その業績が悪化した場合を慮り、これに対処するため会社内部に含み資産を留保しておきたいとの心情についてはこれを理解できないわけではないが、そのために所得を秘匿し、法人税を免れるに至っては目的のために手段を選ばないものとして非難されるべきであり、脱税の動機としてこれを殊更斟酌することができないことは当然であり、所得の秘匿が昭和四八年頃から継続して行なわれてきたものであることや本件逋脱額が高額であることを考えると被告人の刑事責任は厳しく追及されるべきものである。しかし、本件は、会社の内部に含み資産を留保する目的のみで行われ、その手段も製品等の期末棚卸の一部除外にほぼ限定されているところ、すでに被告会社は、昭和五四年から同五六年の三事業年度につき修正申告した上、本税、重加算税等をすべて納付していること、被告人は長ミシン商会設立後四〇年間以上も真面目に事業に従事してきた勤勉な企業人であり、被告会社にとってかけがえのない人物であることが認められるが、本件犯行を反省悔悟し、今後の過ちなきを誓っており、また前科前歴もないことなど被告人に有利な情状も存するので、これら諸般の事情を総合勘案した上、主文のとおり量刑する。

(求刑 被告会社につき罰金六〇〇〇万円、被告人につき懲役二年)

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小泉祐康 裁判官 田尾健二郎 裁判官 石山容示)

別紙(一)

修正損益計算書

ニューロング工業株式会社

自 昭和55年1月1日

至 昭和55年12月31日

<省略>

修正損益計算書

自 昭和55年1月1日

至 昭和55年12月31日

<省略>

別紙(二)

修正損益計算書

ニューロング工業株式会社

自 昭和56年1月1日

至 昭和56年12月31日

<省略>

修正損益計算書

自 昭和56年1月1日

至 昭和56年12月31日

<省略>

別紙(三)

税額計算書

<省略>

<省略>

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