東京地方裁判所 昭和59年(行ウ)129号 判決 1988年9月26日
原告 有限会社木部薬局
被告 日本専売公社関東支社長訴訟継承人 関東財務局長
代理人 遠山廣直 川島和雅 ほか四名
主文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告が昭和五八年一一月一五日付けで原告に対してした製造たばこ小売人不指定処分を取り消す。
2 被告が右同日付けで訴外三和建設株式会社に対してした製造たばこ小売人指定処分を取り消す。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、埼玉県上尾市宮本町三四四―一所在「アリコベール上尾B棟」一階に「ドラツグマートキベ」(以下「原告店舗」という。)を開店するにあたり、同店において医薬品、化粧品、医薬部外品、雑貨を販売するとともにたばこ及び喫煙具等の販売も行おうと計画し、昭和五八年二月一四日、右店舗を予定営業所として日本専売公社関東支社長(以下「関東支社長」という。)に対し、製造たばこ(以下「たばこ」という。)の小売人の指定申請をした。一方、訴外有限会社大原屋(以下「大原屋」という。)は、同月一九日、「アリコベール上尾C棟」一階の一部分を予定営業所として、訴外三和建設株式会社(以下「三和建設」という。)も同月二四日「アリコベール上尾B棟」一階の原告店舗の隣を予定営業所として、関東支社長に対し、それぞれたばこ小売人の指定申請をした。原告及び三和建設の両申請はいずれも指定の欠格条件に該当しないため、同支社長はこれをいわゆる競願として扱い、両者を比較した結果、たばこ小売業を営むについては三和建設がより適した条件を備えているとして、同年一一月一五日付けで三和建設をたばこ小売人に指定し(以下「本件指定処分」という。)、原告に対しては、廃止前のたばこ専売法(昭和二四年法律第一一一号。以下「専売法」という。三一条一項三号、四号に該当するとして不指定処分(以下「本件不指定処分」といい、本件指定処分と合わせて「本件各処分」という。)をしたが、大原屋の申請については原告及び三和建設と競合状態にないとして処理した。
2 しかしながら、本件各処分は違法である。
3 たばこ事業法(昭和五九年法律第六八号、以下「事業法」という。)附則二三条一項及び同法施行令(昭和六〇年政令第二一号)附則六条一項の規定により、昭和六〇年四月一日付けをもつて、関東支社長の権限は被告が承継した。
よつて、原告は本件各処分の取消しを求める。
二 請求原因に対する認否
請求原因1、3は認めるが、同2は争う。
三 被告の主張
1 たばこ小売人の指定基準について
(一) 専売法二条は、たばこの販売等の権能は国に専属すると規定し、三条は、国に専属する同権能は日本専売公社(以下「公社」という。)に行わせると規定し、さらに二九条一項は、「公社は、その指定した製造たばこの小売人に製造たばこを販売させることができる。」と、また同条二項は、「公社又は小売人でなければ、製造たばこを販売してはならない。」と規定している。このように、専売法は、たばこの販売等の事業について、単に行政上の目的から一般的に禁止しているのではなく、国家独占事業たること、すなわち専売制を採用しているのである。そして、たばこの販売等について専売制が採用された目的は、国の財政上の見地から必要な収入を確保するとともに、公衆のすべてにいかなる土地においても同一品質、同一価格のたばこを販売し、もつて、均等にたばこを供給することにあるのであるから、この目的を達成するためには、たばこ小売人の指定にあたつては、その数及び配置について専売品の定価維持、品質保持上の要請及び流通コストの低減等を考慮し、かつ、消費者への利便性の配慮を行い、たばこ小売人に対する指導援助の徹底を期する等により、専売事業の効率的、経済的運営を図るという勝れて企業政策的あるいは専門技術的な見地に立つた考慮に基づいてなされることを要するのである。
それ故にこそ、専売法三一条一項は、公社によるたばこ小売人の指定については、その適用に幅のあるところのあるいは公社によつて補充を要するところの抽象的な規定を設けているのであつて、各号の具体的適用、すなわち、三号にあつては、営業所をいかなる配置基準をもつてすることがたばこに対する需要量からみて適正かつ合理的であるのか、そして、この適正かつ合理的な営業所の配置をいかにして行うか、また、四号にあつては、営業所のたばこの標準取扱高をいかなる基準でいくらと定めるのが当該地域の環境特性及びたばこに対する需要量からみて適正かつ合理的であるのか、そして、この適正かつ合理的な基準をもとにして、当該営業所の取扱予定高をいかにして算出していくかについては、事柄の性質上一義的に定まるものではなく、専売法は、これを前述した企業政策的あるいは専門技術的見地に立つた公社の合理的な判断に委ねているものということができるのである。
(二) そこで、公社は、たばこ小売人の指定に際しての右判断のために、専売法三一条一項三号及び四号の規定の趣旨を具体化させた内部基準として、「たばこ小売人指定関係規程」(昭和四二年九月三〇日付け総裁達(促)第六八号、以下「規程」という。)及びこれの運用に関する「たばこ小売人指定関係規程運用要領」(昭和四二年九月三〇日付け販(促)第八四号、以下「要領」という。)を制定し、たばこ小売人の指定の適正かつ合理性を図り、あわせて、たばこ小売人の指定が恣意に流れるのを防止するとともに各指定相互間に矛盾、差異の生ずることがないように担保しているのである。
いま、これを本件各処分の理由とした専売法三一条一項三号及び四号についての規程及び要領についてみてみると、たばこ小売人を適正かつ合理的に配置するために、右三号につき規程三条で地域の住宅密集度、繁華街か否か等を指標とする環境区分に応じて五〇メートルから三〇〇メートルの間で標準距離を設定し、また、専売法三一条一項四号につき規程四条で右環境区分別に設けた等地に応じて一月当たり二〇万円から一八〇万円までの標準取扱高を定め、これらの環境距離及び標準取扱高に達しない申請者に対しては規程五条一項二号本文及び五号本文で、小売人の指定の欠格条件であることを明らかにし、専売法三一条一項本文で小売人に指定しないことができると規定している場合に該当することとしている。
(三) 主たる供給対象を同一にする地域内で欠格条件に該当しない二以上の申請が競合する場合については、規程五条二項で「二以上の申請が競合する場合は予定営業所の位置、その他の条件を比較し、優るものを小売人に指定するものとする。」と規定していわゆる競願処理方式を採用し、要領3・6でこの処理をする時間的、地域的範囲を定め、さらに競願の場合の比較基準として、予定営業所の位置、店舗の構造、兼業の種類、営業時間及びその他の五項目について比較検討して条件のより優るものを小売人に指定することとしている。
以上のとおり、これらの内部基準は、専売法三一条一項三号及び四号を具体化したもので適正かつ合理的なものであるから、これに基づいてたばこ小売人の指定について処理することは相当であり、何らの違法、不当もないことはいうまでもない。
2 本件各処分の経緯について
(一) 原告からたばこ小売人指定申請のあつた地域は、JR高崎線上尾駅東口駅前の市街地再開発事業による再開発地域であり、同地域には中高層の「アリコベール上尾A棟」「アリコベール上尾B棟」及び「アリコベールC棟」の三棟のビル、高架式歩行者専用道路並びにバス発着場及びタクシー乗降場が建設された。そして、「アリコベール上尾B棟」一階の一部分を予定営業所として原告から昭和五八年二月一四日付けで、また、「アリコベール上尾B棟」一階で原告と隣接する場所を予定営業所として三和建設から同月二四日付けで、それぞれたばこ小売人指定申請がなされ、いずれも指定の欠格事由に該当しないものと認められるものであつたので、両者を規程五条二項の定めにより競願として処理したものである。
また、「アリコベール上尾C棟」一階の一部分を予定営業所として同月一九日たばこ小売人指定申請をした大原屋については、原告店舗及び三和建設の店舗と大原屋の店舗とは異なる街路に面して位置しており、両街路の通行人の流れもかなり明確に異なつていることから、主たる供給対象も異なると認められたため、原告及び三和建設の申請とは競合状態にないものとして処理した。
(二) そこで、関東支社長は、原告と三和建設との条件を比較したところ、後述するように、原告は、要領3・6の「その他」の項目において三和建設よりやや優れているものと認められたが、店舗の構造、兼業の種類及び営業時間の各項目において三和建設のそれより劣つていると認められたため、総合的に指定の条件のより優る三和建設をたばこ小売人に指定し、条件の劣る原告を専売法三一条一項三号及び四号並びに規程五条二項により不指定としたものである。
3 競願比較の内容について
(一) 原告と三和建設との競願比較の内容は、次のとおりである。
(1) 予定営業所の位置について
両者の店舗は、同一街路に面し、かつ、同一建物内で隣接しているから、優劣の差はないと判断した。
(2) 店舗の構造について
原告店舗は、間口、奥行とも八・一メートルで、たばこ売場については間口一・八メートル、奥行二・〇メートルを予定していたのに対し、三和建設の店舗は間口八・一メートル、奥行二一・六メートルで、たばこの売場については間口一・五メートル、奥行一・〇メートルを予定していたから、たばこ売場の広さの点では原告に若干の優位性が認められるものの、店舗の奥行は原告の八・一メートルに対し三和建設は二一・六メートルであり、店舗全体の面積は三和建設の方が数倍広く、また、同社の兼業商品はすべて店舗内に収容する店舗形式を採用しているところから、店舗の構造については三和建設がやや優ると判断した。
(3) 兼業の種類について
兼業については、両者ともたばこを販売するに当たり、不適当と判断される業種ではないが、たばこ小売業を営むについてどちらの兼業がより適しているかについてみると、原告が医薬品、化粧品、医薬部外品、雑貨等の販売を予定していたのに対し、三和建設は、菓子、パン、弁当、缶詰、インスタント食品類、青果物等の食料品のほか、清涼飲料水、雑貨、雑誌、新聞等日用性があつて、消費者の利用度の高い多種の商品を販売するいわゆるコンビニエンス・ストアーを予定していたことから、消費者の利用度、集中性(集客力)の点からみて三和建設が優ると判断した。
(4) 営業時間について
原告は午前九時から午後九時までの一二時間営業を、三和建設は二四時間営業を予定していたことから、三和建設が優ると判断した。
(5) 「その他」について
原告は自動販売機の設置を予定し、また、従業人員五人、公衆電話なし、年中無休を予定していたのに対し、三和建設は自動販売機の設置の予定がなく、また、従業人員四人、パートタイマー一〇人、公衆電話なし、年中無休を予定していたところから、自動販売機の設置を予定していた原告がやや優ると判断した。
(二) 以上のとおり、各比較項目についてみると、三和建設は、店舗の構造、兼業の種類、営業時間の各項目において優位性が認められ、原告が「その他」の項目で優位であることを考慮してもなお、たばこ小売業を営むについてより適した条件を備えていると認められる。
したがつて、総合的にみて指定の条件の優る三和建設を小売人に指定し、条件の劣る原告を不指定とした本件各処分は、適法妥当なものである。
四 被告の主張に対する認否
1 被告の主張1は争う。
2 同2(一)のうち「アリコベール上尾B棟」一階の一部分を予定営業所として原告から昭和五八年二月一四日に、また、「アリコベール上尾B棟」一階で原告店舗と隣接する場所を予定営業所として三和建設から同月二四日にそれぞれたばこ小売人指定申請がなされたこと、関東支社長が原告と三和建設とを競願扱いしたこと、大原屋から「アリコベール上尾C棟」一階の一部分を予定営業所として昭和五八年二月一九日にたばこ小売人指定申請がなされたこと、原告店舗及び三和建設の店舗と大原屋の店舗とが異なる街路に面して位置していること及び関東支社長が大原屋については原告及び三和建設と競合状態にないものとして処理したことは認めるが、原告店舗及び三和建設の店舗と大原屋の店舗の主たる供給対象が異なることは否認する。原告店舗、三和建設の店舗及び大原屋の店舗におけるたばこの供給対象は上尾駅の乗降客を主体とするが、乗降客の流れは截然と区別されるものではなく、いろいろな経路で駅に出入りするのであるから、三者を競願として処理すべきである。
同2(二)のうち、関東支社長が総合的に指定の条件がより優るとして三和建設をたばこ小売人に指定し、条件が劣るとして原告を不指定としたことは認めるが、その余は争う。
3 同3(一)(1)の事実は認めるが、主張は争う。
同3(一)(2)のうち、原告店舗がたばこ売場として間口一・八メートル、奥行二・〇メートルを予定していたこと及び三和建設の店舗がたばこ売場として間口一・五メートル、奥行一・〇メートルを予定していたことは認めるが、主張は争う。
同3(一)(3)のうち、原告が医薬品、化粧品、医薬部外品、雑貨等の販売を予定していたこと及び三和建設がいわゆるコンビニエンス・ストアーを予定していたことは認めるが、主張は争う。
同3(一)(4)の事実は認めるが、主張は争う。
同3(一)(5)のうち、原告が自動販売機の設置を予定していたことは認めるが、主張は争う。
同3(二)の主張は争う。
五 原告の反論
1 専売法三一条一項三号、四号の違憲性
(一) 憲法が保障する営業の自由の趣旨からみて、たばこ販売は、営業活動として、本来ならば国民が自由に営むことができるはずのものであり、専売法がたばこ販売の権能を国に専属させ、これを公社に行わせる旨規定したのは、たばこ販売を国の財政収入確保の見地から国の独占とし、国民に対してその販売を一般的に禁止したものにほかならないのであつて、たばこ小売人の指定は右一般的禁止を解除するいわゆる「許可」に該当するというべきである。昭和五九年八月専売法が廃止されて、新たに事業法が制定され、その目的に国家の財政目的が掲げられ(一条)、たばこの販売は大蔵大臣の「許可」事項とされ、しかもそれは「当分の間」と定められたが、これはたばこ販売を規制するのは専ら国家の財政目的のためであることを改めて確認したものにほかならず、「当分の間」「許可」制としたのもたばこ販売のもつ本来的性質に由来したものなのである。専売法適用下にあつても、以上述べた趣旨に従つてたばこ小売人指定制度を解釈すべきであつて、たばこ専売制度は、国家の財政収入確保を本来的、かつ、唯一の目的としたものであるから、この目的に反しない限り広くたばこ小売人の指定申請を許可すべきである。したがつて、右目的をこえてたばこ販売を制限する専売法三一条一項三号、四号の規定が営業の自由を著しく侵害するものであることは明白であり、営業の自由を保障した憲法二二条に違反する。被告は、たばこ専売制度は公衆のすべてにいかなる土地においても同一品質、同一価格のたばこを販売し、もつて、均等にたばこを供給することをも目的とする旨主張するが、これは、たばこの販売を専売制としたことの結果にすぎないのであるが、仮に、右のような目的が存するとしても、専売法によりたばこは全国どこでも同一の製品が同一の価格で販売されることになつているのであるから、右目的達成のために専売法三一条一項三号、四号のごとき制限を加える必要性は一切なく、右目的をもつて右各規定による営業の自由の侵害を正当化することはできない。
また、専売法三一条一項三号にいう「営業所の位置……が製造たばこの小売業を営むのに不適当」とは、周囲の環境その他からして当該場所にたばこ小売店を設置することが望ましくないということを意味していることは明白であつて、規程三条のごとくたばこ小売人間に一定の距離を置かなければならないことまで含むものでないことは当然である。国家の財政収入確保という目的からいつても、消費者たる国民の利便性からいつてもかかる距離制限は不要であり、逆に距離制限はこれらの阻害要因以外のなにものでもないのである。したがつて、専売法三一条一項三号が規程三条のごとく距離制限を認めた規定であるとするならば、それはなんの合理的理由もなく不当に国民の営業の自由、職業選択の自由を侵害するものであつて、憲法二二条に違反することは明白であるし、右距離制限は既に指定を受けた小売人を不当に保護することになり、憲法一四条にも違反する。
さらに、専売法三一条一項四号が、規程四条のごとく、右距離制限との関連で取扱高を定めているとするならば、右規定も既に指定を受けている小売人を不当に保護するもので、かつ、なんの合理的理由もなく不当に国民の営業の自由、職業選択の自由を侵害するものであつて、憲法一四条、二二条に違反するものである。
2 規程及び要領の違憲、違法性
(一) 前記1で述べたとおり、距離制限を定めた規程三条及び右距離制限と関連して標準取扱高を定めた規程四条は、何の合理的理由もなく不当に国民の営業の自由、職業選択の自由を侵害し、かつ既に小売人の指定を受けた者を不当に保護するもので憲法二二条及び一四条に違反する。
また、前記1で述べたとおり、国家の財政収入確保という目的からいつても、消費者たる国民の利便性からいつても距離制限は不要であり、逆に距離制限はこれらの阻害要因以外のなにものでもないし、距離制限は一定のテリトリーを保障することによつてたばこ小売人に一定のたばこ販売収入を確保させるものであるが、このようなことは専売法三一条一項三号の全く予想せざるところであるし、そもそも専売法三一条一項三号は、営業所の位置についての標準を公社が定める旨規定していないのであるから、規程三条が専売法三一条一項三号に違反する違法なものであることは明白である。
さらに、前記1で述べたとおり、規程四条は、既にたばこ小売人の指定を受けた者の保護に陥つており、国家の財政収入の確保の趣旨に基づいて定められた専売法三一条一項四号の定めを逸脱していることは明白であり、専売法三一条一項四号に違反している。
(二) 規程五条二項、要領3・6の定める競願処理方式は、何らの法的根拠もないのに、専売法三一条一項各号のいずれにも該当せず、公社の定めた規程に合致する場合でも小売人指定を受けられなくするものであり、専売法三一条一項の許容せざるところである。専売法三一条一項が「小売人の指定をしないことができる」としてその場合の欠格条件を制限的に列挙していることに照らすならば、専売法三一条一項各号のいずれにも該当しない場合には、先願主義をとるか、すべての申請者を指定すべきである。
また、規程八条は、「同一の月に受理した申請」について競願処理すべき旨規定しているが、1か月を単位として競願処理方式を定めた合理的根拠は存しない。
仮に、競願処理方式を採用するのであれば、憲法一四条の要請から、期間を区切つて小売人希望者を公募し右希望者の間で競願処理すべきであるから、規程五条、八条の定める競願処理方式は憲法一四条に違反する。
3 仮に、以上の主張が理由がないとしても、本件各処分は裁量権の著しい逸脱があり、違法である。
(一) 原告と三和建設との比較について、公社埼玉営業所の段階では原告に優位性を認めていたのに、関東支社長は異例にもこれを逆転させ、社会の一般常識、経験則を無視し、三和建設を優位におくために作為的に評点の操作を行い、三和建設が優位だとして本件各処分をした。
(二) 各競願比較項目について
(1) 予定営業所の位置
原告店舗の左脇には「アリコベール上尾B棟」の内部テナントに通じる通路があり、いわば角地に等しい位置にあるし、原告店舗のほぼ真正面には上尾駅に通じるブリツジの階段があり、予定営業所の位置については、原告に優位性が認められる。
(2) 店舗の構造
被告は、三和建設の店舗の大きさ、商品をすべて店舗内に収容する店舗形式をとらえて店舗の構造については三和建設に優位性が認められる旨主張するが、たばこ売場面積以外の店舗面積はここでは関係のない事柄であるし、店舗外に商品が陳列されていることにより、消費者が受けるイメージは必ずしも一概には決し得ない。むしろ、原告店舗のたばこ売場面積が、三和建設のそれの二・四倍であること、たばこ売場の間口も原告店舗のほうが大きく目立ちやすいこと、原告店舗のほうが全体としてオープン形式で三和建設の店舗より明るいこと、原告店舗には自動販売機を設置する予定であつたことからすれば、店舗の構造については原告に優位性が認められる。なお、被告は、自動販売機の設置の有無は「その他」の項目で判断すべき旨主張するが、どちらがより目立つかという観点から店舗の構造を見る場合、自動販売機が設置してあること自体、プラスに影響するし、ごく常識的に考えても、店舗の構造の優劣を競う場合、自動販売機は無関係とはいえない。
(3) 兼業の種類
原告店舗と三和建設の店舗とは隣合わせに存在し、対象とする顧客は主として上尾駅の利用客であつて、店舗の中でいかなる商品を売つているかに関係なく、駅を利用する際にたばこを買うから、本件においては兼業の種類は関係なく、両者には対等の評価が与えられるべきであるし、仮に、原告が兼業の種類において、劣るとしてもその度合いは被告が主張するほどではない。
(4) 営業時間
単に営業時間を形式的に比較すれば、三和建設が長いかもしれないが、自動販売機による販売もその店舗の営業であることには疑いがないから、形式的に開店中の時間が長いからといつて、三和建設に優位性を認めることは正しくない。現代社会では消費者も自動販売機の使用を当然と考え、特にたばこなどはよほどのことがないかぎり対面販売よりも自動販売機で買うほうが圧倒的に多いから、自動販売機が設置してあるほうが消費者にとつて利便であり、実質的には原告に優位性を認めるべきであるし、少なくとも両者に優劣をつけることはできない。
(5) その他
原告は、「アリコベール上尾B棟」三階にある結婚式場東武サロンのホールに自動販売機を設置する計画を有し、右ホールの管理人からその承諾を得ていたのであるから、三和建設に比べて売場が多く、また、原告店舗の前に自動販売機の設置を予定していたのであるから、「その他」については原告に格段に優位性が認められる。
(6) 以上の検討の結果を総合して考えれば、原告に優位性が認められることは明らかであるし、仮にそうでないとしても、少なくとも原告と三和建設との間に優劣はないから、規程一一条の先願主義が働き、原告をたばこ小売人に指定すべきであるから、本件各処分は違法である。
六 原告の反論に対する認否及び被告の再反論
1 原告の反論1は争う。
2 同2は争う。
3 同3(一)のうち、原告と三和建設との比較について公社埼玉営業所の段階では原告に優位性を認めていたのに、関東支社長がこれを逆転させたことは認めるが、その余は争う。たばこ小売人指定の決定権者はあくまで支部局長であり(規程一一条)、支所長は単に申請書を受理し、所要の調査をした後、当該調査結果を支部局長に進達する(規程六条)にすぎず、支部局長は、必要と認める場合は、進達を受けたものについて調査することができるものとされているのである(規程一〇条)。このように、支部局長は、支所長の調査結果に拘束されることなく、たばこ小売人指定を行うのであつて、支所長の意見と異なる決定も当然にあり得る。また、たばこ小売人指定に係る事務については、公平、公正に処理すべきものであることに加え、専門的、技術的知識も要求されるのであるが、営業所における業務は、受注活動が主であつて、指定申請の調査は従たるものにすぎず、調査件数も少ないのに対して、支社では、専門的にたばこ小売人指定関係事務を担当する者が指定申請の調査をし、判断するのであるから、支社の判断は、営業所の意見に比べ、より公正、公平であり、客観的である。
同3(二)(1)のうち、原告店舗の左脇には「アリコベール上尾B棟」の内部テナントに通じる通路があること及び原告店舗のほぼ真正面には上尾駅に通じるブリツジの階段があることは認めるが、その余は争う。駅に通じるブリツジの階段は原告店舗の真正面にあるが、右階段を利用する通行客は、三和建設の店舗の前をも通過する位置関係にあるし、原告店舗の左脇にある「アリコベール上尾B棟」の内部に通じる通路には三和建設の店舗の出入口もあるから、原告店舗と三和建設の店舗は位置的条件においては何ら優劣はない。
同3(二)(2)のうち、原告店舗のたばこ売場面積が三和建設のそれの二・四倍であること及びたばこ売場の間口が原告店舗のほうが大きいことは認めるが、その余は争う。
同3(二)(3)は争う。
同3(二)(4)は争う。自動販売機は、対面販売の補完的機能を果たすにすぎないものであり、対面販売を上回る機能を有するものではないから、営業時間について原告が優位であるとの原告の主張は根拠がない。
同3(二)(5)のうち、原告が店舗の前に自動販売機の設置を予定していたことは認めるが、その余は争う。仮に、原告が店舗以外に自動販売機を設置する計画を有していたとしても、その自動販売機でたばこ販売をするには公社の許可が必要なのであつて(法三〇条四項)、このような場合に売場が多いということはできない。また、たばこ小売人の指定は、人と店舗を特定して行うのであるから、競願比較に当たつても、申請者の当該店舗における条件を比較して行うものである。したがつて、この点からも、原告主張の「アリコベール上尾B棟」三階に自動販売機を設置することが、「その他」の売場の多い場合に該当しないことは明らかである。
第三証拠 <略>
理由
一 請求原因1及び3については、当事者間に争いがない。
二 まず、原告は、本件各処分の根拠となつた専売法三一条一項三号、四号は違憲である旨を主張するので、この点について検討する。
専売法二条はたばこの販売等の権能は国に専属する旨を、同法三条はこの権能は公社に行わせる旨を、同法二九条は公社はその指定したたばこの小売人にたばこを販売させることができ、公社又は小売人でなければたばこを販売してはならない旨を規定している。このように、専売法がたばこについて専売制を設けた趣旨は、国の財政上の収入を確保するとともに、国民に対し、いかなる土地においても同一品質のたばこを同一価格で販売することにより、その需要を均等に満たす機会を与え、かつ、簡便にたばこを購入できるようにすることにあると解すべきであり、右制度は公共の福祉を実現するためのものであるということができる。
そして、右のたばこ専売制の目的を達成するためには、小売人が適正に配置されかつ適正な経営規模を有することが必要不可欠であるというべきである。けだし、たばこという商品の性質上、一定地域における需要はほぼ一定しているものと考えられるから、必要以上に小売人が集中すれば一人当たりの売上げは減少することになり、かくては過度の在庫のため品質が低下することは避けられず、また、一定地域に過度に小売人が集中すれば、その経営規模は零細化し、公社による効率的な指導、監督は困難となり、ひいては国の財政収入が減少する虞れがあるからである。専売法三一条一項三号が「営業所の位置……が製造たばこの小売業を営むのに不適当と認められる場合」を、同項四号が「製造たばこの取扱の予定高が公社の定める標準に達せず、その他著しく不適当と認められる場合」を欠格条件としたのも、小売人が適正に配置されかつ適正な経営規模を有することが必要不可欠であるとの考慮にでたものと解することができるのであつて、右欠格条件の定めは、たばこ専売制の目的を達成するために必要かつ合理的なものであるといわなければならない。
してみると、専売法三一条一項三号、四号により欠格条件に該当するとして小売人に指定されないことがあつたとしても、右制限は公共の福祉を実現するための必要かつ合理的なものであるというべきであるから、右各規定が憲法一四条、二二条に違反するということはできない(なお、専売法三一条一項三号が小売人の適正配置のための距離制限を、同項四号が地域別の標準取扱高を設定することを認めた規定であり、これらの距離制限等が小売人を適正に配置し、適正な経営規模を保持させるための手段として合理的なものであることは、後記のとおりであるから、これらの点も含めて右各規定が違憲ということができないことは、事柄の性質上当然である。)。
原告は、事業法がその目的に国家の財政目的を掲げ、たばこの販売を当分の間大蔵大臣の許可事項としたのもたばこ販売のもつ国家の財政目的という本来的性質に由来するものであり、専売法適用下でも同様に解釈すべきであるから、右目的に反しない限り広くたばこ小売人の指定をすべき旨を主張するが、たばこ専売制の目的が国家の財政目的に限られないこと、また、国家の財政目的を達成するためにも小売人の適正配置、適正な経営規模の保持が必要であることは、前記のとおりであるのみならず、事業法はたばこ専売制度の廃止に伴う所要の調整をすることを目的とする(事業法一条)ものであるから、事業法の規定に基づいて専売法の解釈をすることは相当でないものというべきであつて、原告の右主張は採用することができない。
三 次に、原告は、規程三条、四条、五条及び八条、要領2・3及び3・6の各規定が違憲、違法である旨を主張するので検討する。
前判示のとおり、専売法三一条一項三号、四号は、たばこ小売人を適正に配置し、適正な経営規模を保持させることを目的とする規定であるが、前判示のたばこ専売制を設けた目的を達成するために、たばこ小売人をいかなる基準で配置することが合理的であるか、適正な経営規模を保持させるために標準取扱高をどのように定めるのが合理的であるかということは、事柄の性質上一義的に決まるものではないため、専売法は抽象的な規定を設けるにとどめ、その運用については公社の企業政策的、専門技術的見地に立つた合理的判断に委ねていると解するのが相当である。そして、小売人指定についての判断を画一的に行い、指定が恣意的に行われることを防止するために、公社が専売法の右規定の範囲内で内部的な運用基準を作成し、これに基づいて小売人指定の事務を行うことは、専売法の右規定の趣旨に合致するものということができる。
右見解に立つて検討するに、<証拠略>によれば、公社ではたばこ小売人指定に関する事務の運用基準として規程及び要領を定めていること、規程三条は小売人の環境区分別標準距離を、四条は小売人の等地(その定め方は要領2・3で規定されている。)別標準取扱高を定め、五条一項二号、五号で予定営業所と小売人の営業所との距離が三条の標準に達しない場合、たばこの取扱いの予定高が四条の標準に達しないと認められる場合には支部局長は原則として小売人の指定をしてはならない旨を定めていること、規程五条二項は支部局長は二以上の申請が競合する場合は予定営業所の位置、その他の条件を比較し優るものを小売人に指定する旨を定めていわゆる競願処理方式を採用し、規程八条二項で競願処理のための比較調査書は、同一の月に受理した申請及び特に必要と認める申請のなかに二以上の競合するものがある場合に作成するものとされ、さらに、要領3・6は同月中及び実地調査前に提出された申請で、配置計画場所または小売人の配置に最も適当な場所を基点として、その環境区分に応じた標準距離の二分の一の範囲内にあるもの及びこの範囲外にあるものであつても主たる供給対象を同一にすると認められるものについては競願の範囲に含める旨を定め、競願処理すべき時間的、地域的範囲を明らかにするとともに競願の比較基準を定めていることが認められるところ、たばこ小売人間の距離制限、標準取扱高の定めはたばこ小売人を適正に配置し、適正な経営規模を維持させるための手段として合理的なものであるということができるし、競願処理を定めた規定も、近接した時点で複数の申請が出され、距離制限、予定取扱高の関係からその全部について指定をすることができない場合における処理の方法として合理性を有しているということができるのであつて、結局、規程及び要領の右各規定は、専売法三一条一項三号、四号の規定の趣旨を具体化したものであり、右法条の運用のために公社に与えられた裁量の範囲を逸脱した違法なものでないことは明らかである。また、専売法三一条一項三号、四号の各規定がたばこ小売人の適正配置、適正経営規模について規定したもので、違法に違反しないことは前判示のとおりであるところ、距離制限、標準取扱高の定めが右法条の趣旨を具体化したもので、その規定の範囲内のものであることは右のとおりであるから、規程及び要領の右各規定が違憲であるということもできない。
したがつて、原告の主張は採用することができない。
四 そこで、本件各処分の適否について検討する。
1 まず、原告は、原告、三和建設及び大原屋の三者を競願として処理すべき旨を主張するので検討する。
原告が原告店舗を予定営業所として昭和五八年二月一四日に、三和建設が原告店舗の隣の店舗を予定営業所として同月二四日に、大原屋が「アリコベール上尾C棟」一階の一部分を予定営業所として同月一九日にそれぞれたばこ小売人の指定申請をしたこと、関東支社長が原告及び三和建設の両申請は指定の欠格事由に該当しなかつたためこれを競願として処理し、大原屋の申請は右両申請とは競合しないとして処理したことは前記のとおり当事者間に争いがなく、規程五条二項が支部局長は二以上の申請が競合する場合は予定営業所の位置、その他の条件を比較し優るものを小売人に指定する旨を定め、いわゆる競願処理方式を採用し、規程八条二項が競願処理のための比較調査書は同一の月に受理した申請及び特に必要と認める申請のなかに二以上の競合するものがある場合に作成すべき旨を規定していること、要領3・6で同月中及び実地調査前に提出された申請で、配置計画場所または小売人の配置に最も適当な場所を基点として、その環境区分に応じた標準距離の二分の一の範囲内にあるもの及びこの範囲外にあるものであつても主たる供給対象を同一にすると認められるものについては競願の範囲に含める旨を定めていることは、前記認定のとおりである。
ところで、<証拠略>によれば、規程五条一項二号は予定営業所と小売人の営業所との距離が標準距離に達しない場合は小売人の指定をしてはならないが、予定営業所が交通機関の乗降場の近傍等特にたばこの小売業を営むのに適当と認められる場所にある場合にはこの限りではない旨を定め、要領2・5(3)イ(イ)は右の「特にたばこの小売業を営むのに適当と認められる場所にある場合」の適用については交通機関の乗降場の近傍の場合は小売人の営業所との距離が環境区分別の標準距離の一区分左の距離を満たしていなければならない旨を、同ロ(ロ)は異なる人の流れに面している場所については標準距離を適用しない旨を定めていることが認められるのであるから、交通機関の乗降場の近傍で人の流れが異なる場合には、規程五条一項二号の定める距離制限の適用はなく、したがつて、交通機関の乗降場の近傍で人の流れが異なる場所を予定営業所として二つの申請が出された場合には、右両申請をなした者は、他に欠格事由が存しない限りたばこ小売人に指定されるのであつて、競願処理はなされないと解するのが相当である。
これを本件についてみるに、原告店舗及び三和建設の店舗と大原屋の店舗とが異なる街路に面していることについては当事者間に争いがなく、右争いのない事実に<証拠略>(但し、後記採用しない部分を除く。)を合わせると、原告らからたばこ小売人指定申請のあつた地域はJR高崎線上尾駅東口駅前の市街地再開発事業による再開発地域であり、原告らの店舗は主として上尾駅の乗降客を顧客としていること、原告及び三和建設の店舗が面する街路と大原屋の店舗が面する街路とはほぼ直角に交差しており、上尾駅を利用するために右両街路を通行する必要はなく、現に、大原屋の店舗が面する街路を通行する乗降客は原告店舗の面する街路は通ることなく上尾駅に出入りしているし、原告店舗の面する街路を通行する乗降客のかなりの部分は、原告店舗の前の階段を利用し、高架式歩道を経由して上尾駅に出入りするため、大原屋の店舗の面する街路を通らないこと(原告代表者尋問の結果中右認定に反する部分は、前掲各証拠に照らし採用しない。)、以上の事実が認められるのであつて、右認定の事実によれば、原告及び三和建設と大原屋とは交通機関の乗降場の近傍で人の流れが異なる場所を予定営業所として申請が出されたということができるから、原告及び三和建設と大原屋とを競願処理する必要はないものというべきである。
したがつて、原告の主張は採用することができない。
2 次に、原告は原告と三和建設との比較について、公社埼玉営業所の段階では原告に優位性を認めていたのに、関東支社長は異例にもこれを逆転させ、三和建設を優位におくために作為的に評点を行い、本件各処分を行つた旨を主張するので検討するに、原告と三和建設との比較について公社埼玉営業所の段階では原告に優位性を認めていたのに、関東支社長がこれを逆転させたことは当事者間に争いがないが、<証拠略>によれば、支社長はたばこ小売人となろうとする者からの指定申請を受けたときは、所要の調査書を作成添付して支部局長に進達する(規程六条一項)にすぎず、支部局長がたばこ小売人の指定の決定をする(規程一一条一項)ことが認められるところ、<証拠略>によれば、公社埼玉営業所長は右規程にいう支所長に、関東支社長は同じく支部局長にあたることが認められるのであるから、関東支社長が公社埼玉営業所長の意見と異なる評価をしたとしても、それだけでは何ら違法のそしりを受けるものではなく、また、関東支社長が三和建設を優位におくために作為的に評価を行つたとの点については、これを認めるに足りる証拠がない。
したがつて、原告の右主張は採用することができない。
3 そこで進んで、三和建設が原告よりたばこ小売人として優るとした関東支社長の判断の当否について検討する。
(一) 前判示のとおり、要領3・6は競願の比較基準を定めており、<証拠略>によれば、右比較基準の内容は別表記載のとおりであることが認められるところ、原告は自動販売機の設置の有無を「その他」の項目のみで判断するのは不当であり、「店舗の構造」、「営業時間」の各項目でも自動販売機の設置の有無を考慮すべきである旨を主張するので検討する。
前記のとおり、要領3・6の定める比較基準では、「店舗の構造」の項目では広さ、明暗等で消費者が好感を持てるか否かを基準として比較し、「営業時間」の項目ではその地域における適当な営業時間をもつか否かを基準として比較すべきこととされており、<証拠略>によれば、競願比較をするにあたり自動販売機の設置の有無は「その他」の項目でのみ考慮されており、「店舗の構造」、「営業時間」の各項目では考慮されていないことが認められる。
ところで、競願の比較基準において、いかなる事情をどの程度斟酌するかは、事柄の性質上、公社の企業政策的、専門技術的見地に立つた合理的裁量に委ねられていると解するのが相当であるところ、自動販売機が設置されているからといつて直ちに店舗の印象が向上し、消費者の好感度が増すとは考えられないから、「店舗の構造」の項目で自動販売機の設置の有無を考慮しないからといつて公社に与えられた裁量の範囲を逸脱しているということはできないものであり、「営業時間」の項目についても、<証拠略>によれば、自動販売機で販売されるたばこの銘柄は限定されざるを得ず、また、まとめ買いが困難であること、自動販売機による販売では未成年者の喫煙防止が十分に行われない虞れがあること、一万円札等の高額紙幣が使用できないことが認められるのであつて、右各事業に自動販売機は故障をすることもあり、釣銭がなくなつて使用できないこともあるなどの公知の事実を合わせ考えると、自動販売機による販売は、いわゆる対面販売と同等に評価することはできず、対面販売を補充するにすぎないものというべきであるから、自動販売機によつて販売の行われている時間を営業時間に含めないからといつて裁量の範囲を逸脱しているということはできない。したがつて、原告の主張は採用することができない。
(二) そこで、各比較項目について検討する。
(1) 予定営業所の位置
原告と三和建設の両店舗が同一街路に面し、同一建物内で隣接していることは当事者間に争いがなく、右事実によれば、予定営業所の位置については両者に優劣はないということができる。原告は、原告店舗の左脇には「アリコベール上尾B棟」の内部に通じる通路があるし、原告店舗のほぼ正面には上尾駅に通じるブリツジの階段があるから予定営業所の位置については原告に優位性が認められる旨を主張し、右事実については当事者間に争いがないが、<証拠略>によれば、その位置関係からして原告店舗のほぼ正面にあるブリツジを利用し、かつ原告店舗の前を通行する者は三和建設の店舗の前をも通過すること、原告店舗の左脇にある「アリコベール上尾B棟」の内部に通じる通路には三和建設の店舗の出入口も設置されていることが認められるのであつて、右事実をも合わせ考えると、前記事実も原告に優位性を生じさせるに足りるものということはできない。
したがつて、予定営業所の位置については両者に優劣の差はないとした関東支社長の判断に誤りはない。
(2) 店舗の構造
原告がたばこ売場として間口一・八メートル、奥行二・〇メートルを予定していたこと及び三和建設がたばこ売場として間口一・五メートル、奥行き一・〇メートルを予定していたことは当事者間に争いがなく、原告店舗が間口、奥行とも八・一メートルを予定し、三和建設の店舗が間口八・一メートル、奥行二一・六メートルを予定していたことは、原告において明らかに争わないからこれを自白したものとみなす。そして<証拠略>によれば、三和建設の店舗は商品をすべて店内に収容しているのに対し、原告店舗は商品の一部を店外に陳列していることが認められる。
右事実によれば、たばこ売場の面積については原告に優位性が認められるものの、たばこ販売についてはそれほどの面積を必要としないから、たばこ売場の面積にそれほど重きをおく必要性がないこと、たばこ売場の間口については両者に大差がなく、店舗全体の面積、店舗の形式については消費者の好感度において三和建設に優位性が認められるということができることを考えると、店舗の構造については三和建設がやや優るというべきである。なお、<証拠略>によれば、公社埼玉営業所は店舗の構造については三和建設がやや劣ると判断していたことが認められるが、<証拠略>によれば、公社埼玉営業所で調査を担当した飯島康二は原告店舗及び三和建設の店舗の建築工事中に調査をしたにすぎないことが認められるから、公社埼玉営業所では的確な判断をすることが困難であつたというべきであり、その判断を重視することはできない。
したがつて、店舗の構造については原告がやや劣るとした関東支社長の判断に誤りはない。
(3) 兼業の種類
原告店舗において医薬品、化粧品、医薬部外品、雑貨等の販売が予定されていたこと、三和建設の店舗がいわゆるコンビニエンス・ストアーを予定していたことは当事者間に争いがなく、三和建設の店舗が菓子、パン、弁当、缶詰、インスタント食品類、青果物等の食料品のほか、清涼飲料水、雑貨、雑誌、新聞等の販売を予定していたことは、原告において明らかに争わないからこれを自白したものとみなす。右事実によれば、両者の取扱品目はいずれも日常性があるが、三和建設のほうがより他品目を扱つており、購買層も広範であるということができるから、集客力の点で勝つているということができ、したがつて、兼業の種類については原告が劣つているということができる。なお、<証拠略>によれば、公社埼玉営業所は兼業の種類については原告がやや劣ると判断していたことが認められるが、<証拠略>によれば、公社埼玉営業所では工事中に調査をしたことを考慮し、各項目について劣つているか否かだけを考え、優劣がある場合に一ポイントしか差をつけなかつたことが認められるから、右判断は前記認定の妨げになるものではない。
したがつて、兼業の種類については原告が劣つているとした関東支社長の判断に誤りはない。
(4) 営業時間
原告店舗が午前九時から午後九時までの一二時間営業を、三和建設の店舗が二四時間営業を予定していたことは当事者間に争いがなく、<証拠略>によれば上尾駅の朝の通勤時間帯は午前七時から七時四、五〇分であることが認められるから、原告店舗は朝の通勤時間帯には開店していないのであつて、これらの事情によれば、営業時間については原告が劣るということができ、この点についての関東支社長の判断には誤りがない。
(5) その他
原告が自動販売機の設置を予定していたことについては当事者間に争いがなく、原告が従業人員五人、公衆電話なし、年中無休を予定していたのに対し、三和建設が自動販売機の設置の予定がなく、従業人員四人、パートタイマー一〇人、公衆電話なし、年中無休を予定していたことは原告において明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。右事実によれば、原告は「その他」の項目で考慮すべき事情の一つである自動販売機の設置予定に関しては優つているものの、その他の事情については両者に優劣がつけがたいのであるから、「その他」については三和建設がやや劣つているということができる。
原告は、自動販売機の設置予定の有無を重要視すべき旨を主張するが、前判示のとおり、自動販売機による販売は対面販売と同等に評価できず、対面販売を補充するにすぎないものというべきであるから、自動販売機の設置予定の有無で結局二〇〇点満点のうち六点しか差が生じないとしても、先に述べた公社の裁量の範囲を逸脱しているということはできない。
また、原告は、原告店舗のほか「アリコベール上尾B棟」三階にある結婚式場東武サロンのホールに自動販売機を設置する計画があり、右ホールの支配人からその承諾を得ていたから、原告の方が売場が多い旨を主張するが、原告が営業所外である東武サロンのホールで自動販売機によつてたばこを販売するためには、専売法三〇条四項によりたばこ小売人の指定の外に公社の許可が必要とされるのであるから、いまだ右許可が与えられるか否か不明の段階で右事情を考慮に入れることは相当ではない。
したがつて、「その他」については三和建設がやや劣るとした関東支社長の判断に誤りはない。
(6) 以上判示のところから明らかなように、要領3・6の定める比較基準により原告と三和建設との優劣を比較すると、原告が劣るとした関東支社長の総合判断に誤りはない。
五 よつて、本件各処分には何らの違法がなく、原告の本訴請求はいずれも理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 宍戸達徳 北澤晶 中山顕裕)
別表 <略>