東京地方裁判所 昭和59年(行ウ)17号 判決
【主文】
本件訴えを却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
【事実】
「第一 当事者の求めた裁判
一 原告
1 特許番号第六四四〇七三号の特許権にかかる原告の第一一年分特許料納付書について、被告が昭和五七年七月五日付けでした不受理処分を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決
二 被告<省略>
第二 当事者の主張
一 原告の請求の原因
1(一) 原告は、昭和四三年五月三〇日名称を「塵埃焼却装置」とする発明につき特許出願(昭和四三年特許願第三六三八八号)をし、同四六年一〇月二一日出願公告を経た後、同四七年五月八日特許登録原簿への設定登録を得た(特許番号第六四四〇七三号。以下「本件特許権」という。)。
(二) 原告が昭和五七年一月二一日本件特許権にかかる第一一年分特許料納付書(以下「本件納付書」という。)を提出したところ、被告は、同年七月五日付けで、「権利消滅後の差出(本権は第七〜一〇年分特許料不納により昭和五二年一〇月二一日に権利消滅した。)」との理由により、本件納付書を不受理とする旨の処分(以下「本件不受理処分」という。)をした。
(三) 原告は、昭和五七年九月一三日被告に対し、本件不受理処分につき行政不服審査法に基づく異議申立をしたが、被告は、同五九年一月二六日右申立を却下する旨の決定をし、同決定書は同月二七日原告に送達された。
2 本件不受理処分は、以下に述べるとおり違法であつて、取り消されるべきものである。
本件不受理処分は、本件特許権にかかる第七年分から第一〇年分までの特許料が納付されていないことを前提とするものである。しかしながら、原告は昭和五〇年一〇月二〇日第五年分から第一〇年分までの特許料を既に納付しているのであつて、このことは受付票の記載から明らかである。すなわち、原告は右同日、第五年分から第一〇年分までの特許料の額に相当する収入印紙を貼付した納付書を受付票とともに、特許庁登録課受付係へ提出したところ、受付係員は納付書と受付票の各項目(納付年分、事件の表示等)につき記入の誤りがあるか否かを確認したうえ、受付票に押印して原告に返却したものであるから、右受付票は第五年分から第一〇年分までの特許料の納付につき十分な証明力を有するものである。仮にそうでないとしても、右の事情に照らせば、原告が第一〇年分までの特許料を納付したと確信したのは当然であり、この点につき原告には過失がない。しかるに、被告は本件不受理処分に及んだものであるから、本件不受理処分は違法である。
3 よつて、原告は本件不受理処分の取消しを求める。
二 被告の本案前の申立の理由
本件訴えは、以下に述べるとおり、訴えの利益を欠くから却下されるべきである。
すなわち、特許権者は特許法一〇七条一項に規定する特許料を、第四半分以降については前年以前に納付しなければならず(同法一〇八条二項本文)、右納付期限までに特許料を納付せず、更にその後六か月の期間内に通常の特許料に合わせて割増特許料を納付しないときは、その特許権は当初の納付期限が経過したときにさかのぼつて消滅する(同法一一二条一ないし三項)。ところで、原告は、昭和五〇年一〇月二〇日第五、第六年分の特許料を納付したものの、第七年分以降の特許料を納付していないので、本件特許権は、第七年分の特許料の納付期限が経過した昭和五二年一〇月二一日消滅したものである。したがつて、本件特許権の消滅後に提出された本件納付書の不受理処分の取消しを求める本件訴えは、訴えの利益を欠くものである。
三 請求の原因に対する被告の認否及び主張
1 請求の原因1の事実は認める。同2の事実中、原告が昭和五〇年一〇月二〇日第五、第六年分の特許料を納付したことは認めるが、その余は否認する。
2 受付票の性格等について
(一) 特許料の納付は納付書によらなければならないところ(特許法施行規則六九条一項)、第四半分以降の特許料の納付書が特許庁登録課受付係の窓口に提出されると、納付書記載の特許料額に相当する収入印紙が貼付されているか否かを確認したうえ、右貼付のある場合は納付書に「適」印及び受付印を押して受け付ける。その際、納付者が控えとして納付書のコピーや書類提出簿に受付印を要求すれば、押印して返却するが、控えがない場合は、納付者をして窓口に置いてある受付票に提出者名、書類の種別、書類名、事件の表示(ただし、納付年分、収入印紙額は任意的記載事項)を記入させ、余白に受付印を押印して交付している。次いで、納付書に基づき年金受付簿に所定事項を記入したうえ、納付書を年金係に送付する。その後年金係において納付書を受理するか否かの実体的方式審査を行い、適式なものは受理して特許登録原簿の特許料記録部に納付があつた旨の記録をし、更に右受理の証として、納付書下部の領収書に納付年分、金額等を記載し、納付年月日と特許庁を押印した後、納付者へ送付する。
右の取扱い例から明らかなように、受付票は単に書類が特許庁に受け付けられたことを確認するためのものにすぎず、特許料の納付等を直接証明するものではない。
(二) 本件特許権については、特許登録原簿に、昭和五〇年一〇月二〇日に第五、第六年分の特許料のみが納付された旨記録され、右同日付け納付書には「第五、六年分 金九〇〇〇円」と記載され、また、年金受付簿にも右納付書と同様の記載がなされているのであつて、右の各記載に照らすと、原告の援用する受付票の「第五〜一〇年分」との記載は真実に反するものといわなければならない。
3 本件不受理処分の適法性について
既に述べたとおり、本件特許権については第七年分から第一〇年分までの特許料が納付された事実はなく、本件特許権は昭和五二年一〇月二一日をもつて消滅しているから、被告が右消滅後に提出された本件納付書を不受理としたことにつき何ら違法はない。」
(野崎悦宏 安倉孝弘 一宮和夫)