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東京地方裁判所 昭和60年(ワ)10866号 判決 1992年7月16日

主文

一  別紙支払金額目録記載の被告らは、原告に対し、それぞれ、同目録金額欄記載の金員及びこれに対する同目録年月日欄記載の日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告古城孝夫に対する請求を棄却する。

三  訴訟費用は、原告と被告古城孝夫との間で生じた分を原告の負担とし、その余をすべて被告古城孝夫を除くその余の被告らの負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

理由

【事 実】

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  別紙当事者目録記載の被告らは、原告に対し、それぞれ、別紙請求債権目録1ないし6の各被告名の請求額欄記載の金員及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は、被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は、すべて原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、郵政労働者の労働条件の維持改善並びに相互扶助等を主たる目的として組織された労働組合である。

2  被告らは、いずれも郵政職員であつて、もと原告の組合員であつたが、右組合員である間、原告の機関決定に基づく組合活動を理由として、郵政当局から、それぞれ、別紙請求債権目録1ないし6の「犠救金の支給事由」欄記載のとおり戒告、減給、停職等の行政処分を受け、これによつて昇給を延伸されるという昇給減号俸の損害を受けた。

3  そこで、原告は、全逓信労働組合犠牲者救済規定(以下「犠救規定」という。)の定めるところにより、各被告に対して、右昇給減号俸の損害に対する補償金として、別紙請求債権目録1ないし6の「犠救金の支給日」欄記載の日に、同目録の「犠救金の支給額」欄記載の金員をそれぞれ支給した。

4  原告の犠牲者救済制度(以下「犠救制度」という。)は、組合活動によつて原告の組合員が被つた損害を可及的に填補し、組合員の動揺を防止することによつて、その団結を維持し強化することを目的として設けられたものである。そして、昇給減号俸に対する犠救金の支給は、昇給減号俸が発生した昇給期を基準として、その対象者が組合員である期間引き続いて昇給減号俸による金銭上の損害を被るとの前提のもとで補償金を計算した上、六〇歳までの分を一時に(昭和四〇年八月までに処分が発令された場合)或いは三年毎に(昭和四三年以降の期の昇給減号俸の場合)又は一年毎に(昭和五六年四月以降の期の昇給減号俸の場合)、いずれも、前払の方法で行うものである。

したがつて、犠救金の支給を受けた組合員が支給対象期間内に原告を離脱する(脱退、除名等)とか又は昇給減号俸の事実が消滅する(実損回復)などした場合には、その時以降は救済を要しないことになるので、既に前払の方法で支給を受けた犠救金のうち右時点以降の分を原告に返戻しなければならない。

5  被告らには、次のとおり、別紙請求債権目録1ないし6の「返戻金の発生原因」欄に記載したとおりの返戻原因が発生している。

(一) 同欄に「実損回復」と記載されている被告らは、いずれも、同欄記載の年月日に実損回復を受けている。なお、実損回復とは、戒告、減給、停職等の行政処分により昇給が延伸されることによつて生じた昇給減号俸の損害が支給対象期間内に昇給期間の短縮、行政処分の取消或いは特別昇給などによつて減号俸がなかつたのと同じ状態に回復することである。

(二) 同欄に「脱退」と記載されている被告らは、いずれも、同欄記載の年月日に原告を脱退したものである。

(三) 同欄に「除名」と記載されている被告らは、いずれも、同欄記載の年月日に原告から除名されたものである。右被告らの除名理由は次のとおりである。

(1) 別紙請求債権目録2の被告番号四二・佐竹貞昭、四三・大森三千雄、四四・宮嶋博美、四六・中島定男、四七・深谷(名前略)、四八・野口隆及び五〇・遠藤三十二について

右の者らは、原告の東京中部地区本部の下部組織たる京橋支部の執行委員、青年部長という要職にありながら、原告の第八〇回中央委員会決定である一〇〇〇円の臨時組合費徴収(以下「一〇〇〇円臨徴」という。)に関する原告本部の指導企一八四号(以下「企一八四号」という。)に従わないばかりか、組合員を煽動して原告を脱退させ、新組織を結成するなどの反組織的行動を繰り返し、この間の原告の地区本部の指導を一切拒否し、昭和五八年八月一三日に指令五四号により権利停止の制裁に付され、その行動を戒められていたにも拘らず、その後も反組織的行動をますますエスカレートさせていた。あまつさえ、原告東京中部地区の組合員にとつて極めて重要な第一〇回地区定期大会を狙つて、昭和五八年一〇月三日、原告の分裂組織である郵政産業労働組合(以下「郵産労」という。)京橋支部を結成するという許しがたい暴挙を指導し、その執行部に就任している。

これを理由として、原告は、昭和五八年一〇月二五日の第八一回中央委員会(以下「八一回中央委」という。)で、右の者らの除名を決定した。

(2) 別紙請求債権目録4の被告番号二・鋤柄隆及び三・佐藤利彦について

右両名は、いずれも原告の中野支部の執行委員であつたが、支部長椛山卓郎らと共に、支部役員の一部のみを招集して昭和五八年七月一七日に第二六回支部執行委員会を開催し、同委員会の名を濳称して企一八四号撤回要求の決議を行い、原告の西北地区本部の交付する原告の全国大会代議員等選挙用投票用紙の受領を拒否し、同年八月一日には右選挙を不公正、非民主的と誹謗して選挙への不参加を訴える内容のビラを組合員に配布し、同趣旨のかべ新聞を掲示板に張り出し、原告が同月五日に発した支部執行権停止の指令五二号に従わず、翌六日から同月八日までの間支部執行委員会の名を濳称して右指令を誹謗するビラを組合員に配布し、同月二七日には原告を中傷、誹謗し原告からの離脱を訴えるビラを作成して組合員に配布した。右両名は、企一八四号、指令五二号は組合民主主義を破壊するものであるとして他の五二名と共に同月二九日付の脱退届を原告に提出して同日郵産労に加盟し、共に郵産労中野支部の執行委員に就任した。以上の右両名の行為は、労働組合の最も基本である団結権を踏みにじり、組合員を煽動して別の労働組合に加入したというものであつて、除名の制裁に値するものである。

これを理由として、原告は、昭和五八年九月二日の第三七回定期全国大会で、右の者らの除名を決定した。

(3) 別紙請求債権目録4の被告番号二六・加藤茂について

同人は、一〇〇〇円臨徴に応じておらず、昭和五八年七月二九日企一八四号の撤回を求めるビラに集配分会支部委員名を使い記名し、組合員に同一行動をとるように呼びかけ、同年八月一一日に中野商工会館で開かれた西北あり方懇集会への参加を呼びかけると共に自らも参加し、「企一八四号を撤回し労働組合の団結を」と題する団結署名に除名者等と共に呼びかけ人として記名し、別組織結成の準備と思われる行動に加わつた。

これを理由として、原告は、八一回中央委で、同人の除名を決定した。

(4) 別紙請求債権目録4の被告番号二七・石渡正夫について

同人は、一〇〇〇円臨徴に応じておらず、昭和五八年八月八日、西北あり方懇集会への参加呼びかけビラを除名者等と共に組合員に配布し、同年九月二九日指令第六号が発出され、原告の東京地本役員及び西北地区役員が原告の杉並支部に出向き、指令伝達の集会を開催した際、右の役員に対し罵声を浴びせる等意図的集会妨害の行動をとり、杉並あり方懇と題するあり方懇の情報と思われるものの発行責任者となつた。

これを理由として、原告は、八一回中央委で、同人の除名を決定した。

(5) 別紙請求債権目録4の被告番号二八・高草木元について

同人は、一〇〇〇円臨徴に応じておらず、「企一八四号を撤回し労働組合の団結を」と題する団結署名に除名者等と共に呼びかけ人として記名し、別組織結成の準備と思われる行動に加わり、昭和五八年九月二九日、指令六号発出に伴い原告の東京地本西北地区役員が行つた集会において、役員に罵声を浴びせ集会を混乱させると共に、同月三〇日には除名された者が連名で出したビラを組合員に配布し、反組織的行動を続けた。

これを理由として、原告は、八一回中央委で、同人の除名を決定した。

(6) 別紙請求債権目録4の被告番号三〇・双木進及び三二・市川松太郎について

被告双木進は原告の杉並支部の支部長、同市川松太郎はその執行委員であつたが、右両名は、杉並執行委員会が昭和五八年七月二五日に企一八四号の撤回を求めることを決定し、これを同月二六日付で原告の中央執行委員長あてに送付することにその機関として関与し、被告双木進は、同年八月一日に配られた一八支部三〇名連名のビラに記名し、同市川松太郎は右ビラを杉並支部の全組合員に配布した。更に、被告双木進は、同月一一日に企一八四号の撤回要求を支部長名で支部情報に掲載し、同市川松太郎は、右支部情報を支部の全組合員に配布した。杉並支部は、同月一八日に執行委員会連絡会を開き、一〇〇〇円臨徴未納者が支部委員会に出席することを容認し同月一九日に予定どおり支部委員会を開催することを決定したが、右両名はこれにその機関として関与した。杉並支部は、同月二〇日に企一八四号及びこれに関連する原告の地区本部指導は不当であり撤回すべきであるとの主張を支部執行委員会名で支部情報に掲載し、組合員に配布したが、右両名はこれにその機関として関与した。また、被告市川松太郎は、同日、「権利停止されている中野支部執行委員会の反論と声明」と題するビラを杉並支部の全組合員に配布した。同月二九日の杉並支部の執行委員会で、被告市川松太郎は、「地区での会議報告なら認めていないのでやる必要はない」「執行委員会は、事実上今日で終わり」「四・二八人事院闘争は書記長を中心に」等と執行権放棄と思われる発言をした。

これを理由として、原告は、八一回中央委で右両名の除名を決定した。

(7) 別紙請求債権目録4の被告番号五四・古城孝夫について

同人は、一〇〇〇円臨徴に応じておらず、企一八四号の撤回を求め、全国大会決定が団結の破壊につながるものだと主張してビラ配布を行い反組織的言動を継続した。

これを理由として、原告は、八一回中央委で同人の除名を決定した。

(8) 別紙請求債権目録4の被告番号五五・本多甲子夫について

同人は、一〇〇〇円臨徴に応じておらず、連名ビラに記名し、原告の玉川支部執行部の「中止せよ」との指導を無視して前後七回にわたり企一八四号撤回等反組織的主張を内容とするビラを組合員に配布し、昭和五八年八月一一日には分派行動である西北あり方懇に、同月二六日にはあり方懇グループの全都決起集会に参加すると共に、西北あり方懇の代表委員となり、同月二九日には支部執行委員会の指導を拒否して分裂組織である郵産労中野支部結成集会に参加し受付係を担当した。

これを理由として、原告は、八一回中央委で同人の除名を決定した。

(9) 別紙請求債権目録4の被告番号五九・石沢良友、六〇・藤本省幸及び六二・浅子博について

被告石沢良友及び同藤本省幸は、いずれも原告の世田谷支部の執行委員、同浅子博は、その青年部長であつたが、右の者らは、世田谷支部長が昭和五八年七月二七日に世田谷支部執行委員会決定として企一八四号の撤回を求める要請を原告の中央本部に行うことに同調し、同年八月三〇日に開催された支部執行委員会において、支部長が脱退、別組織結成という態度を表明して執行権を放棄したことに同調し、同年九月二二日に支部長が企一八四号の撤回要請をし、組合員に署名を呼びかけて中央本部に送付する等全国大会を公然と否定する行動をとつたことに同調した。

これを理由として、原告は、八一回中央委で右の者らの除名を決定した。

(10) 別紙請求債権目録4の被告番号六六・田上孝及び六七・土居健二について

右両名は、一〇〇〇円臨徴に応じておらず、前後五回にわたり企一八四号の撤回を求め原告の方針を否定する主張を記載した連名ビラを出し、反組織的言動を行つた。

これを理由として、原告は、八一回中央委で右両名の除名を決定した。

(11) 別紙請求債権目録5の被告番号六九・桜井新二について

同人は、昭和五八年七月二八日に企一八四号の撤回を求めるビラに組合役職名入りで記名して組合員に同一行動を呼びかけ、同年八月二三日に「今、支部の運動に何が大切か」と題するビラに記名して企一八四号及びこれに関連する指導を拒否する反組織的言動を公然と行つた。また、同人は、一八支部三〇名の連名ビラに記名し、企一八四号の撤回を中心とする反組織的言動を公然と行つた。

これを理由として、原告は、八一回中央委で右両名の除名を決定した。

(12) 別紙請求債権目録5の被告番号七〇・能渡由記雄について

同人は、昭和五八年七月二八日に企一八四号の撤回を求めるビラに組合役職名入りで記名して組合員に同一行動を呼びかけ、同年八月二三日に「今、支部の運動に何が大切か」と題するビラに記名し、企一八四号及びこれに関連する指導を拒否する反組織的言動を公然と行つた。同人は、同月一日に三〇名連記ビラに記名し、企一八四号の撤回を求めると共に同月二二日に当時執行権を停止されていた原告の中野支部執行委員会の主張を内容とするビラを配布し、反組織的言動を公然と行い、同月一一日には分派活動である西北あり方懇集会に参加した。

これを理由として、原告は、八一回中央委で同人の除名を決定した。

(13) 別紙請求債権目録5の被告番号七一・柿崎春夫について

同人は、一〇〇〇円臨徴に応じておらず、分派活動である西北あり方懇集会の呼びかけ人や機関紙「きずな」の発行責任者となり、昭和五八年八月一一日には西北あり方懇集会に、同月二六日にはあり方懇グループの全都決起集会に参加して公然と分派活動を行つた。また、同人は、分裂組織である郵産労の機関紙(昭和五八年九月一日付)に「全逓本部は階級闘争をすてた」等とメッセージを送り、反組織的言動を公然と行つた。

これを理由として、原告は、八一回中央委で同人の除名を決定した。

(14) 別紙請求債権目録5の被告番号七二・鈴木昭好について

同人は、一〇〇〇円臨徴に応じておらず昭和五八年七月二〇日に企一八四号を撤回せよとのビラに記名し、企一八四号を否定し原告の地区指導を無視した支部委員会開催を求め、これを組合員に呼びかけ署名を求める等反組織的言動を公然と行つた。更に、同人は、保険分会組合員に対して全逓脱退届と別組織加入申込書に署名、押印させた。

これを理由として、原告は、八一回中央委で同人の除名を決定した。

(15) 別紙請求債権目録5の被告番号七三・石井信夫について

同人は、一〇〇〇円臨徴に応じておらず、昭和五八年七月二〇日に企一八四号を撤回せよとのビラに記名し、企一八四号を否定し原告の地区指導を無視した支部委員会開催を求め、これを組合員に呼びかけ署名を求める等反組織的言動を公然と行い、同年八月一日及び同月一五日にはいわゆる統一ビラを組合員に配布して反組織的言動を公然と行つた。

これを理由として、原告は、八一回中央委で同人の除名を決定した。

(16) 別紙請求債権目録5の被告番号七四・小野目正男について

同人は、一〇〇〇円臨徴に応じておらず、昭和五八年七月二〇日に企一八四号を撤回せよとのビラに記名し、企一八四号を否定し原告の地区指導を無視した支部委員会開催を求め、これを組合員に呼びかけ署名を求める等反組織的言動を公然と行つた。また、同人は、同年八月一五日に集配分会集会で配布された「支部委員会に対する基本的態度」と称する署名の呼びかけ人となり、自ら集会の場で朗読、提案し、企一八四号を否定し西北発一九六号を無視して支部委員会開催を求め、これを組合員に呼びかけ署名を求める等反組織的言動を公然と行つた。

これを理由として、原告は、八一回中央委で同人の除名を決定した。

(17) 別紙請求債権目録5の被告番号七五・中田満について

同人は、一〇〇〇円臨徴に応じておらず、昭和五八年七月二〇日に支部内で配布された「基本的人権の否定は許せない。中央本部は企一八四号を撤回せよ」と題するビラに記名し、自らも組合員に配布して同調を呼びかけ反組織的言動を公然と行つた。

これを理由として、原告は、八一回中央委で同人の除名を決定した。

(18) 別紙請求債権目録5の被告番号七六・千葉一について

同人は、一〇〇〇円臨徴に応じておらず、昭和五八年七月二〇日に支部内で配布された「基本的人権の否定は許せない。中央本部は企一八四号を撤回せよ」と題するビラに記名し、自らも組合員に配布して同調を呼びかけ反組織的言動を公然と行つた。また、同人は、同年八月一八日、支部内に「何よりも先に権利停止、任務凍結の指令撤回を」と題する地区内支部役員連名のビラを組合員に配布して同調を呼びかけ反組織的言動を公然と行つた。

これを理由として、原告は、八一回中央委で同人の除名を決定した。

(19) 別紙請求債権目録5の被告番号八二・三上誠について

同人は、一八支部三〇名の連名ビラや統一ビラに記名して反組織的言動を公然と行い、昭和五八年七月二六日に企一八四号の撤回要請を原告の中央本部に行い、同年八月二九日に集配分会会議を招集して企一八四号の撤回に同調するよう組合員に呼びかけ、支部執行委員でありながら同年九月三日には組合員に対し原告からの脱退を呼びかけた。

これを理由として、原告は、八一回中央委で同人の除名を決定した。

(20) 別紙請求債権目録5の被告番号八三・江利川嘉造について

同人は、昭和五八年七月二六日に企一八四号の撤回を求める文書を原告の中央本部に送付し、企一八四号の撤回を求めること及び原告の方針を誹謗することを内容とするビラを一〇数回にわたり組合員に配布して反組織的言動を公然と行い、同年八月二六日に分派行動であるあり方懇グループの全都決起集会に参加し、分裂組織である郵産労中野支部結成レセプションに参加する等分派・分裂行動を公然と行つた。

これを理由として、原告は、八一回中央委で同人の除名を決定した。

(21) 別紙請求債権目録5の被告番号八五・山本互について

同人は、昭和五八年八月二九日に集配分会会議を招集し、企一八四号の撤回に同調するよう組合員に呼びかけ、同年九月一三日、支部執行委員会の指導を拒否し、企一八四号の撤回を求めること及び原告の方針を誹謗すること等を内容とする支部情報を発行して、組合員に配布する等反組織的言動を公然と行つた。

これを理由として、原告は、八一回中央委で同人の除名を決定した。

(22) 別紙請求債権目録5の被告番号八六・坂本一夫について

同人は、昭和五八年七月二六日に企一八四号の撤回を求める文書を原告の中央本部に送付し、企一八四号の撤回を求めること及び原告の方針を誹謗することを内容とするビラを五回にわたつて組合員に配布して反組織的言動を公然と行い、組合員に対して原告を辞め郵産労に入ろうと呼びかけた。

これを理由として、原告は、八一回中央委で同人の除名を決定した。

(23) 別紙請求債権目録5の被告番号八八・菅原春夫、九一・小畑博及び九二・星加悟について

被告菅原春夫は、原告の石神井支部支部長、同小畑博及び同星加悟はいずれも同支部の執行委員であつたが、原告の西北地区本部執行委員会が昭和五八年七月一五日に石神井支部執行委員会に対して執行姿勢全般に問題があるとして具体的事実を指摘し反省を求め、支部執行委員会の見解を求めたにも拘らず、支部執行委員会は回答を行わず、支部機関紙に反省する必要はないとの見解が掲載されたが、右の者らは機関としてこれに関与した。被告菅原春夫は、昭和五八年七月二五日に石神井支部支部長名で企一八四号の撤回を求める要請書を原告の中央本部委員長あてに送付し、同年八月二二日には企一八四号の撤回を中央本部に働きかけるようにとの申入書を地区委員長に送付した。八月六日には全逓石神井支部緊急集会アピールと称して別組織の結成を呼びかけるチラシが配布されたが、右の者らは支部執行委員会の機関としてこれに関与した。石神井支部執行委員会は、八月二四日に職場集会を開催し、被告菅原春夫は、支部長として、「地区の指導、本部の指令の撤回が八月二七日までに行われなければ、八月二九日をもつて団結権を行使する。団結権の行使とは別組織の結成である。」旨を発言した。地区本部執行委員会は、石神井支部執行委員会の一連の行為を反組織的行動であると重視し、石神井支部に出向き支部執行部に対して口頭で規約に基づく勧告を行い、同時に職場集会を開催して原告の団結を守ろうと提起したが、被告菅原春夫は、支部長として、「企一八四号が撤回されなければ別組合を作らざるを得ない。」と発言した。

これを理由として、原告は、八一回中央委で右の者らの除名を決定した。

(24) 別紙請求債権目録5の被告番号一〇八・坂田千秋について

同人は、一八支部三〇名連名のビラ及び分派活動であるあり方懇グループの統一ビラに氏名を掲載して企一八四号の撤回を求め、原告の方針を誹謗する等公然と反組織的言動を行い、支部執行委員会において企一八四号が撤回されない限りすべての選挙は行うべきでないと主張し、地区指導に反して選挙管理委員会への指導を放棄し、企一八四号及びこれに関連する地区指導が撤回されない限り団結権を行使すると組合員に呼びかけ反組織的行動を行つた。

これを理由として、原告は、八一回中央委で同人の除名を決定した。

(25) 別紙請求債権目録5の被告番号一一〇・南公司について

同人は、分派行動である西北あり方懇集会の呼びかけ及び団結権行使の訴え等を内容とするビラや連名ビラを組合員に配布して原告の方針を誹謗し、反組織的言動を公然と行つた。

これを理由として、原告は、八一回中央委で同人の除名を決定した。

(26) 別紙請求債権目録5の被告番号一一二・豊島豊、一一三・山崎清及び一一四・笠間司平について

被告豊島豊は原告の杉並南支部副支部長、同山崎清は同支部書記長、同笠間司平は同支部執行委員であつたが、杉並南支部は、昭和五八年七月二五日に支部執行委員会名で企一八四号の撤回を求める要請書を原告の中央本部に送付し、右要請書を支部機関紙に掲載して支部組合員に配布したが、右の者らはこれに機関として関与した。同年八月二四日に杉並南支部の三役、執行委員三名及び青年部長名で企一八四号や制裁を撤回すること、これに対する回答を八月二九日までに行わない場合には団結権の行使を含め重大な決意で臨むことを内容とするアピールが発表され、右アピールは組合員に配布されると共に地区本部に送付されたが、右の者らはこれに関与した。杉並南支部三役は、同年八月三一日に職場集会を開催し、分裂組織である郵産労への加入呼びかけを行つた。同年九月二日には杉並南支部三役名で「全組合員と職員に訴えます。」というビラが配布されたが、そのビラの内容は、原告の全国大会の内容にも触れ、原告の運動とは断固として決別し、労働組合の原則にそつて職場に真の闘う労働組合を結成することを呼びかけるというものであつた。

これを理由として、原告は、八一回中央委で右の者らの除名を決定した。

(四) 別紙請求債権目録2の「返戻金の発生原因」欄に「再登録拒否」と記載されている被告らは、それに対応する年月日に再登録を拒否したことによつて原告の組合員としての資格を喪失したものである。

(1) 原告においては、組織的混乱から下部組織の再建を図る方策として、古くから再登録制度が採られてきた。その事例は、昭和五八年当時までに数例あり、原告内においては組合員資格喪失の一事由として確立した慣行となつており、組合員が再登録に応じない場合には原告から脱退したものと扱われることについて共通の認識があつた。

(2) 原告の京橋支部において再登録が行われるに至つた経緯は、次のとおりである。

京橋支部においては、支部役員が企一八四号に基づく指導を拒否して支部執行委員会としての任務を放棄し、一〇〇〇円臨徴既納者の報告さえも上部機関にしなかつた。そこで、原告の東京中部地区が支部会計監査を実施しようとしたが、支部役員らはこれも拒否した。このように、京橋支部役員らは、原告の下部組織としての任務を一切拒否する事態となつた。

そのため、原告は、昭和五八年八月一〇日に京橋支部執行委員会の執行権を停止し(指令五三号)、中部地区執行委員会に執行権を代行させた。しかし、支部役員らは、地区への業務引継を拒否し、組合員名簿、会計帳簿、預金通帳、現金等の引渡しもなかつたため、原告においては京橋支部の実情を一切把握できない状況にあつた。しかも、執行権停止の指令を無視してなおも「全逓京橋支部執行委員会」名によるチラシを発行、配布し、原告の全国大会代議員選挙のボイコットや原告本部への誹謗を続けた。そのような状況では、中部地区が支部執行権を行使することにも著しく不都合が生じたので、原告は、京橋支部役員らに対し、八月一三日に仮の制裁として権利停止を行つた。しかるに、支部役員らは、これを争つて仮処分を申請し(後に取下げ)、反組織的行動を更にエスカレートさせ郵産労への加入を勧誘するなどに及んで、支部役員らの原告からの離反は明白となつた。その結果、原告においては、京橋支部における一〇〇〇円臨徴の実情が全く把握できなかつたのみならず、支部の実態そのものの掌握ができない状態になつた。このような状態では、反組織的行動をとつた者に対する最高の統制処分である除名を課しても支部の基盤そのものを再建することは不可能であり、そもそも誰を除名処分とすべきかの特定も事実上不可能であつた。

このような状況下で、京橋支部においては、一〇〇〇円臨徴未納者を特定し、未納の動機が単に反組織的行動をとつていた支部役員の任務懈怠によるものか、或いは自ら積極的に反組織的行動をとり原告組合員として留まる意思を持たないことに起因するものかを明確にする必要があつた。そして、それを明確にすることが京橋支部における組織混乱を回復する唯一の方法であり、それなくしては京橋支部が崩壊する危険さえあつた。

そこで、原告は、昭和四九年八月二八日の全国大会で設けられた規約二三条三項に基づき、昭和五八年九月一九日、指令三号を発し、京橋支部に対して、再登録期間は九月二〇日から同月二二日まで、再登録受付時間は午前一〇時から午後六時まで、再登録受付場所は全逓会館第二会議室、再登録受付者は中央審査委員会という内容で、再登録手続を実施した。しかし、昭和五八年九月二〇日から同月二二日までの再登録期間内に、別紙請求債権目録2の「返戻金の発生原因」欄に再登録拒否と記載されている被告らからの再登録申請はなく、右被告らは、再登録期間の終了の翌日である同月二三日に原告の組合員資格を喪失したのである。

(3) 昭和四九年八月二八日の全国大会で設けられた規約二三条三項には、再登録の具体的手続要件、効果について特に明示していないが、この条項の新設当時、再登録手続は既に前例もあり、特に詳細な規定を設ける必要はなく、再登録制度は、これに応じなければ組合員資格を確定的に失う制度であることは原告組合員に明確に認識されていたものである。したがつて、要件、効果について明文の規定がなくとも、再登録に応じなかつた場合には、組合員資格を喪失することになるのである。

(五) 別紙請求債権目録2、4、5の「返戻金の発生原因」欄に「組合離脱」と記載されている被告ら(別紙請求債権目録4の被告番号五四・古城孝夫を除く。)は、それに対応する年月日に原告と相いれない別個独立の労働組合である郵産労又は東京中央郵便局労働組合(以下「東京中郵労組」という。)に加入したもので、これによつて、右加入日に確定的に原告から離脱し、原告組合員としての資格を喪失したものである。

被告古城孝夫は、昭和五八年一〇月二五日に除名されたが、同年一一月分以降の組合費その他原告の組合員として原告に納付することが義務づけられている費用の支払を一切行つておらず、原告の組合活動にも一切参加しておらず、原告の組合員としての権利主張も一切していない。更に、同被告は、除名に対しても原告の組合員資格を回復するための法的手続を採つていない。原告の規約四四条四項には、正当な理由なしに組合費を三か月以上滞納したときには警告、権利停止又は除名の制裁を受けるものと規定されているから、同被告は、組合費を三か月滞納した後である昭和五九年二月一日には原告を離脱したものである。

(六) 別紙請求債権目録2、4、5の「返戻金の発生原因」欄に除名と組合離脱が記載されている被告ら及び再登録拒否と組合離脱が記載されている被告らに対しては、二つの発生原因を選択的に主張する。

6  別紙請求債権目録1ないし6の「返戻金の発生原因」欄記載の発生原因に基づく返戻金の金額は、同目録「返戻金額」欄に記載されたとおりである。そして、返戻金の発生原因として除名と組合離脱又は再登録拒否と組合離脱とを選択的に主張している被告らについては、「返戻金額」欄に記載された金額が相違する場合があるが、どちらの発生原因が認められる場合でも、具体的に返戻請求する金額は、同欄に記載された金額のうちいずれか少ない方の金額とする。

被告らのうち原告からの未支給分がある者についての控除額は、別紙請求債権目録2、4の「未支給分控除額」欄記載のとおりであり、これらの被告に対しては同欄記載の金額を控除して請求する。

したがつて、原告の被告らに対する返戻金の請求額は、別紙請求債権目録1ないし6の「請求額」欄記載のとおりとなる。

7  よつて、原告は、被告らに対し、別紙請求債権目録1ないし6の「請求額」欄記載の金員及びこれに対する各訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1ないし3の事実は、いずれも認める。

2  請求原因4前段の事実(犠救制度の目的、犠救金の支払方法)は認め、後段の事実は否認する。

3  請求原因5について

(一) 請求原因5(一)の事実のうち、別紙請求債権目録1ないし6の「返戻金の発生原因」欄に実損回復と記載された被告らが対応する年月日にそれぞれ実損回復を受けたこと及び実損回復の意味が原告主張のとおりであることは、いずれも認め、原告が実損回復に基づく返戻請求権を有することは争う。

(二) 請求原因5(二)の事実のうち、別紙請求債権目録1、3ないし5の「返戻金の発生原因」欄に脱退と記載された被告らが対応する年月日にそれぞれ原告を脱退したことは認め、原告が脱退に基づく返戻請求権を有することは争う。

(三) 請求原因5(三)の事実のうち、別紙請求債権目録2、4、5の「返戻金の発生原因」欄に除名と記載された被告らが対応する年月日にそれぞれ原告から除名されたことは認め、その効力は争う。

原告主張の除名理由に対する認否は、以下のとおりである。

(1) 請求原因5(三)(1)の事実のうち、被告らが前京橋支部の執行委員や青年部長の役職にあつたこと、企一八四号の撤回を求めたこと、昭和五八年八月一三日に指令五四号により権利停止の制裁に付されたこと(ただし、被告遠藤三十二については否認する。)、同年一〇月三日に郵産労京橋支部を結成しその執行部に就任したことは、いずれも認め、その余は否認する。

(2) 請求原因5(三)(2)の事実のうち、昭和五八年七月一七日に第二六回支部執行委員会が開催され、企一八四号撤回要求の決議が行われたこと、被告佐藤利彦が同年八月一日にビラを配布し、かべ新聞を掲示板に張り出したこと、被告両名が八月五日に発せられた支部執行権停止の指令五二号の撤回を求めたこと、被告佐藤利彦が八月六日から八日までビラを組合員に配布したこと、被告佐藤利彦が八月二七日にビラを作成して組合員に配布したことは、いずれも認め、その余は否認する。

(3) 請求原因5(三)(3)の事実のうち、別組織結成の準備と思われる行動に加わつたことは否認し、その余は認める。

(4) 請求原因5(三)(4)の事実のうち、昭和五八年九月二九日に地本、地区役員に対し罵声を浴びせる等意図的集会妨害の行動をとつたことは否認し、その余は認める。

(5) 請求原因5(三)(5)の事実のうち、一〇〇〇円臨徴に応じていないこと、「企一八四号を撤回し労働組合の団結を」と題する団結署名に呼びかけ人として記名したと、昭和五八年九月二九日に指令六号が発出され、西北地区役員が集会を行つたこと、九月三〇日にビラを組合員に配布したことは、いずれも認め、その余は否認する。

(6) 請求原因5(三)(6)の事実のうち、昭和五八年八月二九日の執行委員会での被告市川松太郎の発言が執行権放棄と思われるものであることは否認し、その余は認める。

(7) 請求原因5(三)(7)の事実のうち、反組織的言動を継続したことは否認し、その余は認める。

(8) 請求原因5(三)(8)の事実のうち、一〇〇〇円臨徴に応じていないこと、連名ビラに記名し、企一八四号撤回を内容とするビラを組合員に配布したこと、昭和五八年八月一一日に西北あり方懇に、八月二六日に全都決起集会に参加したこと、西北あり方懇の代表委員になつたこと、八月二九日に郵産労中野支部結成集会に参加したことは、いずれも認め、その余は否認する。

(9) 請求原因5(三)(9)の事実のうち、被告石沢良友及び同藤本省幸が世田谷支部の執行委員であり、同浅子博が青年部長であつたこと、右の者らが世田谷支部長が昭和五八年七月二七日に世田谷支部執行委員会決定として企一八四号の撤回を求める要請を中央本部に行うことに同調したこと、世田谷支部長が九月二二日に企一八四号の撤回要請をし、組合員に署名を呼びかけて中央本部に送付したこと、右の者らがこれに同調したことは、いずれも認め、その余は否認する。

(10) 請求原因5(三)(10)の事実のうち、被告両名が一〇〇〇円臨徴に応じていないこと、連名ビラを出し企一八四号の撤回を求める主張を行つたことは認め、その余は否認する。

(11) 請求原因5(三)(11)の事実のうち、昭和五八年七月二八日に企一八四号の撤回を求めるビラに組合役職名入りで記名して組合員に同一行動を呼びかけたこと、八月二三日に「今、支部の運動に何が大切か」と題するビラに記名したこと、一八支部三〇名の連名ビラに記名して企一八四号の撤回を求めたことは、いずれも認め、その余は否認する。

(12) 請求原因5(三)(12)の事実のうち、昭和五八年七月二八日に企一八四号の撤回を求めるビラに組合役職名入りで記名して組合員に同一行動を呼びかけたこと、八月二三日に「今、支部の運動で何が大切か」と題するビラに記名したこと、三〇名連記ビラに記名して企一八四号の撤回を求めたこと、八月二二日に中野支部執行委員会の主張を内容とするビラを配布したこと、八月一一日に西北あり方懇集会に参加したことは、いずれも認め、その余は否認する。

(13) 請求原因5(三)(13)の事実のうち、一〇〇〇円臨徴に応じていないこと、西北あり方懇集会の呼びかけ人や機関紙「きずな」の発行責任者となつたこと、昭和五八年八月一一日に西北あり方懇集会に、八月二六日には全都決起集会に参加したこと、郵産労の機関紙編集者に電話でメッセージを送つたことは、いずれも認め、その余は否認する。

(14) 請求原因5(三)(14)の事実のうち、一〇〇〇円臨徴に応じていないこと、昭和五八年七月二〇日に企一八四号を撤回せよとのビラに記名したこと、支部委員会の開催を求め、これを組合員に呼びかけ署名を求めたことは、いずれも認め、その余は否認する。

(15) 請求原因5(三)(15)の事実のうち、一〇〇〇円臨徴に応じていないこと、昭和五八年七月二〇日に企一八四号を撤回せよとのビラに記名したこと、支部委員会開催を求め、これを組合員に呼びかけ署名を求めたこと、八月一日及び八月一五日に統一ビラを組合員に配布したことは、いずれも認め、その余は否認する。

(16) 請求原因5(三)(16)の事実のうち、一〇〇〇円臨徴に応じていないこと、昭和五八年七月二〇日に企一八四号を撤回せよとのビラに記名したことは、いずれも認め、その余は否認する。

(17) 請求原因5(三)(17)の事実のうち、一〇〇〇円臨徴に応じていないこと、昭和五八年七月二〇日に「基本的人権の否定は許せない。中央本部は企一八四号を撤回せよ」と題するビラに記名し、これを配布したことは、いずれも認め、その余は否認する。

(18) 請求原因5(三)(18)の事実のうち、一〇〇〇円臨徴に応じていないこと、昭和五八年七月二〇日に「基本的人権の否定は許せない。中央本部は企一八四号を撤回せよ」と題するビラに記名し、これを配布したこと、八月一八日に「何よりも先に権利停止、任務凍結の指令撤回を」と題する支部役員連名のビラを組合員に配布したことは、いずれも認め、その余は否認する。

(19) 請求原因5(三)(19)の事実のうち、一八支部三〇名の連名ビラや統一ビラに記名したこと、昭和五八年七月二六日に企一八四号の撤回要請を中央本部に行つたこと、企一八四号の撤回に同調するよう組合員に呼びかけたこと、被告三上誠が支部執行委員であつたことは、いずれも認め、その余は否認する。

(20) 請求原因5(三)(20)の事実のうち、昭和五八年七月二六日に企一八四号の撤回を求める文書を中央本部に送付したこと、企一八四号の撤回を求めるビラを組合員に配布したこと、八月二六日の全都決起集会に参加し、郵産労中野支部結成レセプションに参加したことは、いずれも認め、その余は否認する。

(21) 請求原因5(三)(21)の事実のうち、昭和五八年八月二九日に集配分会会議を招集し、企一八四号の撤回に同調するように組合員に呼びかけたこと、同年九月一三日に企一八四号の撤回を求める意見を支部情報に載せ、組合員に配布したことは、いずれも認め、その余は否認する。

(22) 請求原因5(三)(22)の事実のうち、昭和五八年七月二六日に企一八四号の撤回を求める文書を中央本部に送付したこと、企一八四号の撤回を求めるビラを配布したことは、いずれも認め、その余は否認する。

(23) 請求原因5(三)(23)の事実のうち、被告菅原春夫が石神井支部の支部長であり、同小畑博及び同星加悟が同支部の執行委員であつたこと、西北地区本部執行委員会が昭和五八年七月一五日に石神井支部執行委員会に反省を求め、支部執行委員会の見解を求めたこと、支部機関紙に反省の必要はないとの見解が掲載されたこと、被告菅原春夫が七月二五日に石神井支部支部長名で企一八四号の撤回を求める要請書を中央本部委員長あてに送付し、八月二二日には企一八四号の撤回を中央本部に働きかけるようにとの申入書を地区委員長に送付したこと、八月六日に石神井支部緊急アピールと称するチラシを配布したこと、石神井支部執行委員会が八月二四日に職場集会を開いたこと、西北地区本部が石神井支部に出向き支部執行部に勧告したことは、いずれも認め、その余は否認する。

(24) 請求原因5(三)(24)の事実のうち、一八支部三〇名連名のビラに氏名を載せたこと、企一八四号の撤回を求めたことは、いずれも認め、その余は否認する。

(25) 請求原因5(三)(25)の事実のうち、西北あり方懇集会への呼びかけを内容とするビラや連名ビラを組合員に配布したことは認め、その余は否認する。

(26) 請求原因5(三)(26)の事実のうち、被告豊島豊が杉並南支部の副支部長、同山崎清が同支部の書記長、同笠間司平が同支部の執行委員であつたこと、杉並南支部が昭和五八年七月二五日に支部執行委員会名で企一八四号の撤回を求める要請書を中央本部に送付し、右要請書を支部機関紙に掲載して支部組合員に配布したこと、八月二四日に杉並南支部の三役、執行委員三名及び青年部長名で企一八四号や制裁を撤回すること、これに対する回答を八月二九日までに行わない場合には団結権の行使を含め重大な決意で臨むことを内容とするアピールが発表され、右アピールは組合員に配布されると共に地区本部に送付されたこと、杉並南支部三役が八月三一日に職場集会を開催したことは、いずれも認め、その余は否認する。

(四) 請求原因5(四)の事実のうち、別紙請求債権目録2の「返戻金の発生原因」欄に再登録拒否と記載されている被告らについて、再登録が実施されたが、それらの被告らが再登録を拒否したことは認め、その余は否認する。

(五) 請求原因5(五)の事実のうち、別紙請求債権目録2、4、5の「返戻金の発生原因」欄に組合離脱と記載されている被告ら(被告古城孝夫を除く。)が、それに対応する年月日に郵産労又は東京中郵労組に加入したことは認め、その余は否認する。

請求原因5(五)の事実のうち、被告古城孝夫の離脱の主張は、時機に後れた攻撃防御方法であるから、民訴法一三九条により却下されるべきである。すなわち、原告は、弁論終結期日の一週間前である平成三年一二月一一日の第三七回口頭弁論期日において、突如として被告古城孝夫の離脱の主張を行つたが、被告らについての離脱の主張は、平成元年二月二二日の第一七回口頭弁論期日に陳述された原告の同日付準備書面(一〇)において確定されており、この段階では、被告古城孝夫については離脱の主張はされないこととなつたのであり、弁論終結の間際になつて右のような主張を行うことは、いたずらに訴訟を遅延させるものだからである。

4  請求原因6の事実のうち、被告らは、原告が被告らに対して返戻金請求権を有すること自体を争うが、仮に、原告が主張するように、実損回復に基づく返戻請求権が認められる場合にはその金額が別紙請求債権目録1ないし6の「実損回復による返戻金額」欄記載のとおりであること、同目録の「返戻金の発生原因」欄記載の除名、脱退、再登録拒否又は組合離脱の日に被告らがそれぞれ組合員資格を喪失したものとして原告に返戻請求権が認められる場合にはその金額が同目録の「返戻金額」欄記載のとおりであること、被告らの未支給分控除額が同目録の「未支給分控除額」欄記載のとおりであることは、いずれも認め、その余は争う。

三  被告らの主張

1  実損回復に基づく返戻請求について

(一) 原告は、特別昇給制度の導入を承認した第三四回臨時全国大会(昭和五六年二月二四日から同月二五日まで静岡県熱海市で開催)において、実損回復に基づく返戻請求はしないことを確認したが、この間の経緯は次のとおりである。

昭和三〇年から始まつた春闘をめぐつて郵政当局の原告組合員に対する行政処分が相次ぎ、犠救金の財政的負担が過重となつてきたことから、原告は、昭和三五年の年末闘争において、郵政当局に対し、行政処分による昇給減号俸についての実損回復を要求したところ、昭和三六年に郵政当局から特別昇給制度についての考え方の大枠が示された。それ以来、原告が実損回復を主張し、郵政当局が特別昇給の実施を主張するという平行線の状態が一五年以上続いたが、幾つかの曲折を経て、昭和五二年の原告の第三〇回全国大会では、条件付きながら、実損回復と特別昇給制度との抱き合わせ交渉に入ることが承認された。そして、昭和三〇年以来の昇給減号俸が延べ約一二万号俸に達する中で、特別昇給制度の導入に対する抵抗を減殺する形で段階的に実損回復が先行実施され、遅れて昭和五六年二月に開催された第三四回臨時大会において特別昇給制度の導入が承認されるに至るが、その前年の昭和五五年九月に開催された第三三回全国大会では、特別昇給制度の導入に対する承認を得るためのほか、返戻請求による組織の動揺防止の必要及び膨大な事務量の回避の観点から、実損回復に基づく返戻請求権を行使するには決議機関の決議によらなければならないことが確認された。しかして、昭和五六年二月の第三四回臨時全国大会において、正式に特別昇給制度の導入が承認されたが、その際、返戻請求する旨の決議は行われなかつたのみならず、この点についての議論も全くされなかつた。

このように第三四回臨時全国大会における決定を見る限り、特別昇給制度の導入による一括の実損回復については返戻請求しないことが確認されたことは、明白である。現に、第三三回全国大会後の地区会議などにおいて、原告の担当責任者が一括の実損回復については返戻請求しないとの説明をしており、それ故にこそ、第三四回臨時全国大会では返戻請求が問題にもされず、第三三回全国大会決定を更に進めて「返戻請求しない」ことが確認されたのである。

右のとおり、原告の全国大会において一括の実損回復については返戻請求をしないことが確認され、しかも、犠救金受給者の減少によつて犠救金の財政的逼迫という問題は完全に解消され、実損回復に基づく返戻請求の必要もなくなつたのであるから、被告らに対する実損回復に基づく返戻請求は理由がない。

(二) 原告の第三三回全国大会において、一括の実損回復に基づく返戻請求権を行使するには、原告の決議機関の決議によらなければならないこととされたが、今日まで実損回復に基づく返戻請求権の行使について原告の決議機関の決議は行われていない。そして、当然のことながら、原告の在籍組合員に対しては、実損回復に基づく返戻請求は行われていない。したがつて、被告らに対しても、実損回復に基づく返戻請求は認められない。原告が被告らに対して本件訴訟を提起し返戻請求をしていること自体から、原告の決議機関による「黙示の決議」があつたということはできないし、実損回復は、それ自体が独立の返戻事由なのであるから、実損回復だけでは返戻請求ができずに「離脱」ないし「組合員資格の喪失」を返戻請求の加重的要件とするような解釈も成り立たない。

仮に、実損回復に基づく返戻請求権の行使については決議機関の決議によることを第三三回全国大会において決定した際に、将来離脱する者には適用されないという制限を付していたものとすれば、それは、二つの点で違法、不当なものであつて無効である。すなわち、そのような制限を付けることは、組合在籍中の債務についてその後離脱した者とそうでない者を差別待遇する点で組合員の平等取扱原則(労働組合法五条二項三号)に反し、「離脱すると返戻請求するぞ」というものである点で不合理な団結強制となる。したがつて、そのような制限があつたとしても無効であり、被告らに対する実損回復に基づく返戻請求は認められない。

(三) 実損回復に基づく返戻請求の趣旨は、不当利得の返還という点にあるが、被告らを含む原告の組合員は、実損回復が行われるようになつた昭和五五年からの数年間、実損回復分の返戻に代えて、犠救制度のための臨時徴収に応じてきたのであるから、実質的にみて不当利得をしていない。また、支給された犠救金は、原告の組合員から徴収された犠救制度のための資金(臨時徴収分を含む。)の範囲内で賄われており、原告には損失がない。むしろ、被告ら及び原告組合員から返戻を受けるとすれば、臨時徴収した分が原告の不当利得となる。

したがつて、実損回復に基づく被告らに対する返戻請求は理由がない。

(四) 権利濫用

(1) 本件で問題となつている実損回復は、特別昇給制度と抱き合わせで導入されたという特殊性があるほか、昇給延伸となつた組合員全員が時期は分かれるが数年のうちに約一二万号俸の昇給減号俸を回復されるという前例のない、恐らく、今後も生ずる可能性のない極めて特異なケースであり、原告の犠救規定がそもそも全く予定していないケースである。昇給延伸となつた組合員全員について実損回復がされたのであるから、過去に実損回復が行われた個別的な昇給延伸の解消や裁判による例外的な処分取消などとは異なり、昇給延伸等の不利益が回復されない組合員との均衡を図る必要がないため、特に返戻させなくとも不均衡を生じない場合である。そして、原告の第三三回全国大会以降今日まで一〇年以上経つが、実損回復に関する返戻問題について、返戻請求権を行使するとの機関決定はされていない。原告の主張によれば、実損回復がされた月以降の分についての返戻請求権が実損回復のされた月の翌月の一日から発生するのであるから、昭和五五年から始まつた実損回復分のうちの大半の返戻請求権は既に時効消滅している筋合となる。また、昭和五四年ころには約一二万号俸あつた昇給減号俸も平成元年一〇月には約七〇〇号俸まで減少し、犠救特別会計の財政事情は著しく好転し、それまで毎年行われていた臨時徴収も不要となり、犠救特別会計に納入する金員も一か月六〇円から五〇円に減らされ、財政上の事情から実損回復に基づく返戻請求をしなければならない理由はなくなつたのである。原告は、昇給減号俸の一部が実損回復した者について、返戻相当金と以後の支給分を対等額で相殺する方法によつて容易に返戻を受けることができるにも拘らず、そのような方法をとらず実損回復しない部分については従来どおり支給して、返戻請求する意思を放棄しており、在籍の組合員の誰もが返戻請求はもうされないであろうと考えるに至つているのである。このように、原告の内部では時間の経過により既に決着のついている問題であるにも拘らず、本件訴訟の被告らのみに対して返戻請求をすることは、権利の濫用として許されない。

(2) 原告は、組合員約一七万人中の二パーセント以下である三一〇〇人の一〇〇〇円臨徴の未納者について組織的不払があると称して、企一八四号を発し、多数の組合員からの異議や批判があるにも拘らずこれを強引に実行し、支部の団結を破壊し、被告らを原告から組織的に排除してしまつた。一〇〇〇円臨徴は、昭和五八年二月の第八〇回中央委員会において決定されたものであるが、この大会の第二号議案である「組合費の臨時徴収(案)」は、一〇〇〇円臨徴が日本社会党の選挙資金のためのものであること、組合員に納入を義務づけるものであることを明示しており、一〇〇〇円臨徴が組合員の思想、信条の自由、政党支持の自由を侵害するものであつて違憲、無効なものであることは明らかである。企一八四号は、組合員からの異議や批判を無視し、一〇〇〇円臨徴の未納者について選挙権、被選挙権を奪い、説得しても納入に応じない組合員については権利停止の制裁をとることなどを内容とするものであり、組合民主主義を蹂躪するばかりでなく、違憲、無効なものである。

原告は、このように憲法に違反する企一八四号を発し、その撤回による未納者の選挙権等の回復と正常な組織運営を求めるという当然の行為をした被告らを不法にも組織的に排除し、団結を破壊し尽くしておきながら、その一方で、自らの生活と権利を守るために他の方法が残されていない状態のもとで止むを得ない選択として別組合を結成し或いはこれに参加したことを捉えて、組合員ではなくなつたとの口実のもとに、被告らに対してのみ、しかも原告の組合員であつた期間にまで遡つて、返戻請求をするものである。被告らは、「権利の全逓」を下から支える先進的活動家として、労働条件の維持、向上と組織の拡大のために、長年にわたり職場労働者の先頭に立つて積極的に活動してきた者であり、原告の方針、指令を忠実に実行し、自ら主体的かつ献身的に活動に参加し、そのことの故に郵政当局から処分の矢面に立たされたもので、原告組合員の権利や利益の擁護と組織拡大の礎となつた犠牲者として犠救金の支給を受けていたのである。

したがつて、原告がこのような被告に対してのみ返戻請求をすることは、権利の濫用であつて許されない(請求債権目録6の被告らについては、この主張は行わない。)。

(3) 昭和五八年夏から秋にかけて企一八四号によつて執行権停止、権利停止、除名が乱発され各支部の団結が破壊された状況のもとで、被告らのように原告から組織的に排除された者のほか、原告の違法、不当な方針についていけず、全部で二、三万人に上る人々が原告から離れていつた。その中には、犠救金の支給を受け実損回復した人も多数存在していた。しかし、原告は、昭和五八年以降に除名、再登録拒否、脱退などで原告が排除し又は追い出した人々の中から、未組織者や全郵政に加入した人々を除き、提訴時に郵産労又は東京中郵労組に加入していると判断した人々のみを対象にして本件訴訟を提起したのである。つまり、原告は、原告に在籍せずかつ郵産労又は東京中郵労組に加入した人のみを対象とするという二重の基準によつて、被告らを狙い打ちにしたのである。原告の組合員の減少に歯止めをかけるためには、「脱退をすれば犠救金の返還を求められる。」「裁判を起こされる。」という状況を作り出す必要があつたために、原告から組織的に排除され原告の対極に位置する郵産労グループを狙い打ちにして本件訴訟を提起したのであり、極めて不法な意図に基づく訴訟といわざるを得ない。

本件における実損回復に基づく返戻請求は、右のとおり、訴訟制度を悪用した不法な意図に基づく請求であり、権利の濫用である(請求債権目録6の被告らについては、この主張は行わない。)。

(4) 原告の組合員に対しては、決議機関の決議がないので実損回復に基づく返戻請求ができないにも拘らず、組織的に排除された被告らに対しては、原告から離脱したということを理由として実損回復に基づく返戻請求がされている。しかし、離脱したことのみによつて原告の組合員と被告らとの取扱いを差別すべき合理的理由は全くない。また、実損回復に基づく返戻請求は、同時期に原告を離れた者の中から未組織者や全郵政に加入した者を除き、原告が郵産労又は東京中郵労組に加入したと判断した者のみを対象として行われている。しかし、郵産労に加入した被告らと未組織者や全郵政に加入した者との間にその取扱いを差別すべき合理的理由はない。したがつて、実損回復に基づく返戻請求は、労働組合法五条二項三号に定められている平等取扱い原則に違反し、原告規約四〇条一号に定められている均等取扱い原則に違反するものである。以上により、実損回復に基づく返戻請求は権利の濫用であつて、認められないものである。

(5) 以上の(1)ないし(4)の一つの理由(請求債権目録6の被告らについては(1)及び(4)の一つの理由)だけによつても実損回復に基づく返戻請求が権利の濫用であることとは明らかであるが、(1)ないし(4)の理由(請求債権目録6の被告らについては(1)及び(4)の理由)を併せ考えると、それが権利濫用であることは疑う余地がないというべきである。

(五) 昭和三六年七月二〇日以前に犠救金の支給を受け或いは犠救金の支給を受けるべき権利を取得した被告らに対する請求について

原告の犠救制度における返戻義務の存否、返戻事由の範囲、返戻方法などは、原告の組織上の観点や財政事情更には犠救金の支払方法などによつて時期ごとに区々となつており、犠救金の返戻請求が明文の規定の有無に拘らず、前払支給の必然的結果として認められるべきであるということにはならない。そして、昭和三六年七月二〇日の犠救規定細則の改訂によつて犠救金の返戻規定が創設されたのであるから、それ以前に犠救金の支給を受け或いは犠救金の支給を受けるべき権利を取得した組合員については、右返戻規定が適用される余地はなく、返戻請求は理由がないことになる。

したがつて、実損回復に基づく返戻請求のうち昭和三六年七月二〇日以前に犠救金の支給を受けるべき権利を取得した別紙「昭和三六年七月三〇日以前の犠救金」記載の被告らに対する返戻請求は理由がない。

2  除名に基づく返戻請求について

(一) 原告が主張する除名理由は、整理すると、一〇〇〇円臨徴に応じていないこと、企一八四号の撤回を求めてビラ配布、署名、呼びかけ等を行つたこと及び別組織の準備と思われる行動に参加し或いは郵政あり方懇運動に参加したことの三つに分けられるが、いずれも除名理由として認められないものである。

(二) 一〇〇〇円臨徴は、日本社会党への明確な選挙資金である上、納入が強制されるものであつて、組合員の思想、信条を踏みにじるもので無効である。したがつて、被告らが一〇〇〇円臨徴に応じていないことは何ら問題とならず、除名事由には当たらない。

(三) 企一八四号が組合民主主義を否定し、思想、信条の自由を踏みにじるものであり、各支部の団結を破壊するものである以上、被告らがその撤回(選挙権、被選挙権の回復、思想、信条の自由の擁護)を求めたのは当然である。組合員が違憲、違法な指令に反対し批判することは、正当な組合活動であり、このことは、支部役員である場合にも基本的に異ならない。相互批判の自由、執行部批判の自由は組合民主主義の不可欠の要素である。そして、批判の自由を実質的に保障するものが、ビラ、チラシ、ポスターであり、集会なのである。被告らの企一八四号の撤回を求める行為こそが、憲法、労働組合法、組合民主主義の原則に適合するのであり、原告が被告らのこのような行為を捉えて組織的に排除したのは、明白に違法であり、除名理由とならないことは明らかである。

(四) 被告らは、もつぱら企一八四号の撤回、選挙権、被選挙権の回復、組合民主主義の回復による正常な組織運営を求めて活動したのであつて、除名処分がされる前に別組織準備の行動をとつたことはない。また、被告らの一部が郵政あり方懇に参加したことは事実であるが、郵政あり方懇は、ナショナルセンターのあるべき姿を学習し、懇談する場にすぎず、組合員があるべき労働組合や望ましい労働運動について意見交換をし、その将来像を展望することは、基本的に自由である。これらの行為が分派活動にも別組織準備にも当たらないことはいうまでもない。したがつて、郵政あり方懇に参加したことは除名理由とはならない。

(五) 原告の主張する除名理由は、除名理由とはなり得ないものであつて、被告らに対する除名処分は、除名理由がないにも拘らず行われたものであつて、統制権の濫用として無効である。

3  再登録拒否を理由とする請求について

(一) 犠救金の返戻請求は、犠救規定に明確な根拠がある場合にしか認められないもので、返戻事由の不当な類推解釈、拡張解釈は許されず、制度趣旨などの一般的理由による返戻請求は認められるべきでない。原告の犠救規定には、返戻を求める根拠として「再登録に応じず組合員資格を喪失した場合」という明文の規定は存在しない。また、再登録に応じないことが犠救規定に定める返戻事由としての脱退、除名に該当しないことは明らかである。

したがつて、再登録に応じないことは、犠救金の返戻請求の根拠とはならず、再登録拒否を理由とする犠救金の返戻請求は理由がない。

(二) 京橋支部において原告が行つた再登録は、企一八四号に従わない組合員を組織的に排除しようとの目的のもとに行われたものであり、一〇〇〇円臨徴、企一八四号及び特定政党の支持の強制に従うかどうかが唯一の再登録の審査基準とされたのである。原告のこのような再登録は、組合員の思想、信条、良心の自由と団結権を奪う憲法違反の暴挙であり、この違法な再登録に応じないとしても組合員資格を失うことはないというべきである。

原告による再登録は、組合員の意に反して組合員資格を剥奪するものであるから、その効果は除名と異ならないものである。除名については原告の規約にも慎重な手続と要件が定められているのに、本件再登録が行われた当時は、再登録については規約二三条三項に「中央執行委員会は、組合員の再登録及び各級機関の執行権を停止する権限を有し、全国大会と中央委員会に責任を負う。」と定められていただけであり、具体的な手続や再登録の審査の要件、効果を定めた規定は存在していなかつた。本件再登録は、除名の手続を潜脱する実質的な除名にほかならず、再登録に応じなかつたことを理由にして組合員資格を剥奪することは許されない。

このように、再登録の拒否によつては組合員資格を失うことはないのであるから、それを理由とする返戻請求は許されない。

4  脱退、離脱を理由とする請求について

(一) 原告の犠救制度の具体的内容は、原告の規約等によつて創設的に規定されるべきもので、具体的規定を抜きにして制度趣旨から当然にその給付要件、給付水準、返戻事由が導き出されるわけではない。組合員に対する犠救金の返戻請求権も明文の根拠規定があることによって初めて発生するものである。しかるに、原告の犠救規約の返戻事由には離脱は規定されていないから、離脱は返戻請求の理由とはなり得ない。

(二) 原告や主張する離脱なる概念は、判例、学説が採用していないもので、法的概念として成り立たない無意味なものである。原告は、除名、再登録拒否の被告らについて郵産労への加入をもつて選択的に離脱を主張する一方、その他の被告らについては郵産労への加入をもつて脱退を主張しているが、離脱が法的に無意味であり、除名、再登録拒否によつて被告らが組合員資格を失わないことは、前述のとおりであるから、原告の離脱の主張は郵産労への参加による脱退を指すものとして初めて法的に意味を持つ。そこで、原告が離脱或いは脱退を主張するすべての被告らについて、その郵産労への参加による脱退を理由とする返戻請求が許されないことを以下において述べる。

(三) 原告は、企一八四号の発出によつて、日本社会党への選挙資金である一〇〇〇円臨徴の未納者については、納入までの間選挙権と被選挙権を停止し、更に事情聴取と勧告、警告を経ても納入しない者は権利停止とすることとしたが、選挙権と被選挙権は労働組合の意思形成と団結権の行使にかかわる組合員の最も基本的な権利であり、この権利を奪うことは除名に等しい効果を持つ。原告は、選挙権と被選挙権を奪うことにより、未納の被告らの団結権を侵害しこれを組織的に排除したのである。

このような原告の被告らに対する組織的排除が進められていた昭和五八年当時、郵政省は、どのような施策を行おうとしていたのであろうか。まず、昭和五八年三月には、五年間に一万四〇〇〇人以上の労働者を減らす郵政効率化計画が決められ、労働組合に提示されていた。また、昭和五八年一〇月から昭和五九年二月にかけて、全国の鉄道郵便局を全部廃止して、七〇〇〇人の労働者を配置換えする合理化も推進されていた。これらの郵政当局の合理化に抵抗し、時間短縮、職業病、過労死等の問題に対処するためにも、労働者共済、労働金庫利用のためにも、原告から組織的に排除された被告らとしては、ただばらばらに「裸で狼の前に放り出された」ままでいるわけにはいかなかつたのである。そこで、郵政省の合理化に抵抗し、賃上げを実現し、共済等で生活を守るために新しい組合を作ろうということになり、各職場に郵産労の各支部と東京中郵労組(後に郵産労と組織統一)が組織され、被告らはこれに参加した。このように、郵産労の各支部等の結成と被告らのそこへの参加は、原告の不法な組織的排除によつて止むを得ずとられた結果であつて、被告らが自ら求めたものでは決してない。団結権を侵害し組織的排除を行い、職場労働者の団結を不法に破壊し尽くしたのが原告であり、止むを得ず郵産労或いは東京中郵労組の組織を確立してかろうじて職場労働者の団結を守つたのが被告らである。郵産労或いは東京中郵労組の組織は、原告に残つて職場の団結を守ることが不可能となり、他の方法が残されていない状況のもとでの誠に止むを得ない選択であつた。

犠救制度は、憲法上の団結権もしくはそのコロラリーとして捉えるべきものあるから、犠救金の返戻請求権の発生についても、自ずから労働者の団結の維持強化という制度目的からする限定がある。団結を弱め破壊する返戻請求は許されない。したがつて、原告の犠救規定に返戻事由として定められている脱退は、あくまで任意の脱退に限られるのであつて、本件のように、団結権(組合員として組合の組織運営に参加する権利)を剥奪され、組織的に排除された結果、別組合への参加を余儀なくされた場合は、これには当たらないというべきである。

(四) 本件のように、被告らの思想、信条の自由と団結権を侵害ないし剥奪し、これを組織的に排除した原告が、その結果として余儀なくされた別組合への参加を口実として返戻請求することは、権利の濫用として許されない。

5  被告古城孝夫に対する離脱を理由とする請求について

原告は、被告古城孝夫について組合費を滞納した三か月後に離脱したと主張するが、原告は、同被告については別に除名の主張をしており、除名を主張する原告が他方で組合費の滞納を主張すること自体矛盾である。また、同被告は、処分当初から除名の無効を主張しており、被告古城孝夫には原告の組合員としての主張が一切ないとの主張は、真実とかけ離れている。

第三  証拠《略》

【理 由】

一  請求原因1ないし3及び4前段(犠救制度の目的、犠救金の支払方法)の事実は、いずれも、当事者間に争いがなく、《証拠略》によれば、原告の犠救規定上、昇給減号俸に対する犠救金の支給は、その対象者が原告の組合員としての資格を有する間又は組合員である期間行うと規定されていることが認められる。

二  実損回復に基づく返戻請求について

1  請求原因5(一)の事実のうち、別紙請求債権目録1ないし6の「返戻金の発生原因」欄に実損回復と記載された被告らが同欄記載の年月日にそれぞれ実損回復を受けたこと及び実損回復の意味が原告主張のとおりであることは、いずれも、当事者間に争いがない。

《証拠略》によれば、原告の犠救制度における犠救金の返戻事由について、以下の事実が認められる。すなわち、原告の犠救制度においては、当初は犠救金の返戻に関する規定がなかつたが、昭和三六年七月二〇日に犠牲者救済規定施行細則一五条六号に返戻規定が創設され、そこで「脱退(退職、死亡を除く)、除名、特別組合員(規約別表第一の特別組合員表<2>該当のもの)、その他一時立替金を支給する理由が消滅したとき」を犠救金の返戻事由とすることが規定された。返戻規定は、その後、犠牲者救済規定施行細則から犠救規定の中に移し変えられ、昭和四七年六月二八日に改訂施行された犠救規定四六条一号ただし書に、「脱退、除名、給与改正その他の理由により昇給減号俸の事実が消滅した場合」が返戻事由として規定され、少なくとも昭和六〇年七月までは、右規定は変更されていない。

右事実によれば、昇給減号俸の事実がなかつたのと同じ状態に回復する場合である実損回復は、右返戻規定が定める「その他一時立替金を支給する理由が消滅したとき」或いは「給与改正その他の理由により昇給減号俸の事実が消滅した場合」に該当するから、別紙請求債権目録1ないし6の「返戻金の発生原因」欄に実損回復と記載されている被告らは、それぞれ、原告に対して、実損回復に基づいて犠救金を返戻しなければならないものというべきである。

2  これに対し、被告らは、原告の実損回復に基づく返戻請求は認められないとして、その理由を詳細且つ多岐にわたり主張するので、以下、この点について判断する。

(一) 被告らは、特別昇給制度と抱き合わせで実施された一括の実損回復については、原告の昭和五六年二月の第三四回臨時全国大会において返戻請求をしないことが確認されたから、原告の実損回復に基づく返戻請求は理由がないと主張する。

しかし、本件の全証拠によつても、原告の第三四回臨時全国大会において特別昇給制度と抱き合わせで実施された一括の実損回復について返戻請求をしないことが確認されたことを認めることはできない。《証拠略》によつても、第三三回定期大会において返戻請求をしないと決定された旨の報告が大会後の支部代表者会議において行われたと聞いているとか或いは返戻請求はしないというのが組合員の共通の認識であつたという程度のもので、第三四回臨時全国大会において返戻請求をしないことが確認されたことの裏付けとはなり得ないものである。被告ら主張のように、第三三回全国大会において実損回復に基づく返戻請求権を行使するには決議機関の決議によらなければならないことが決定されていたのに、実損回復の原因となる特別昇給制度の導入を正式に承認した第三三回臨時全国大会においては、返戻請求する旨の決議が行われなかつたのみならず、この点についての議論も全くされなかつたものとしても、このことから、特別昇給制度の導入による一括の実損回復については返戻請求をしないことが確認されたものと解することはできない。また、前記争いのない請求原因4前段のとおり、昭和五六年以降の期の昇給減号俸に対する犠救金の支給方法が従来の三年毎から一年毎に改訂されたからといつて、同様に、特別昇給制度の導入による一括の実損回復については返戻請求をしないことが確認されたものと解することはできない。

したがつて、被告らの右主張は採用することができない。

(二) 被告らは、原告の第三三回全国大会において、特別昇給制度と抱き合わせで実施される一括の実損回復に基づく返戻請求権を行使するには、原告の決議機関の決議によらなければならないことが決定されたが、それ以後今日に至るまで、実損回復に基づく返戻請求権を行使することについて原告の決議機関の決議は行われていないから、原告の実損回復に基づく返戻請求は理由がないと主張する。

(1) 《証拠略》によれば、昭和五五年九月に開催された原告の第三三回全国大会において、特別昇給制度と抱き合わせで実施される一括の実損回復に基づく返戻請求権を行使するには決議機関の決議によらなければならないことが決定されたこと、ところが、特別昇給制度の導入を正式に承認した昭和五六年二月の第三四回臨時大会においてはもとより、その後今日に至るまで、実損回復に基づく返戻請求権を行使することについての決議機関の決議は行われていないことが、それぞれ、認められる。

しかし、この決定は、実損回復に基づく返戻請求権を放棄するとか或いは返戻金の支払義務を免除するというものではなく、返戻請求権を行使するには決議機関の決議によらなければならないというもので(《証拠略》によれば、第三三回全国大会において承認された分科会報告の内容は、実損回復された方々には「原則的に規定に従つて返納してもらいます。ただし、いろいろ複雑な事情……がありますので、具体的取り扱いにつきましては、中央本部が慎重に検討して決議機関に諮ることにしたいと思います。」というものであることが認められる。)、あくまで返戻請求権の行使の可能性を残したものであることが明らかであるし、《証拠略》によれば、原告がこのような決定をしたのは、特別昇給制度と抱き合わせで実施される一括の実損回復に基づく返戻請求権を一律的に行使すると、組合内部の組織的な動揺が生ずる危険があるのでこれを防止する必要があることと、対象となる組合員の数が膨大で事務量が大変であることからこれを回避する必要があるためであることが認められるから、この決定は、原告の組合員に対して返戻請求権を行使することを当然の前提としたものであつて、決定後に除名、脱退などによつて原告の組合員ではなくなつた者に対して返戻請求権を行使する場合をも予定したものではないと解するのが相当である。いいかえれば、この決定は、原告がその組合員に対して有する実損回復に基づく返戻請求権の行使に対して一定の制限を定めたものに止まり、除名、脱退その他の原因で原告の組合員ではなくなつた者を対象としたものではないから(組合員でなくなつた者との関係では、上述したような組織的な動揺を防止する必要や膨大な事務量を回避する必要はない。)、決議機関の決議が必要なのは、原告が返戻請求をする時点でなお原告の組合員である者に対してのみであると解するのが相当である。そして、弁論の全趣旨によれば、本件で実損回復に基づく返戻請求を受けている被告らは、少なくとも、訴え提起の時点では原告の組合員ではなかつたことが認められるから、原告の決議機関の決議は必要でなく、この点に関する被告らの主張は理由がない。

(2) また、被告らは、原告の組合員でなくなつた者に対して第三三回全国大会の決定の効力が及ばないと解することは、労働組合法五条二項三号が規定する組合員の均等取扱い原則に反し、「離脱すると返戻請求するぞ」というものであるから、不合理な団結強制であつて許されないと主張する。

しかし、労働組合は、「労働者が主体となつて自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的」とするもので(労働組合法二条)、その組合員である労働者の利益を第一義としたものであるから(《証拠略》によれば、原告の組合規約も、昭和三二年当時から現在に至るまで一貫して、「組合は、組合員の団結と相互扶助の組織とによつて、組合員の労働条件の維持改善、組合員の協同福利の増進等を実現することを目的とする。」旨を規定していて、原告の組合員である労働者の利益を第一義としたものであることを明示していることが認められる。)、原告が組合員である者と組合員でなくなつた者とで取扱いを異にしたからといつて、組合員の均等取扱い原則に反するものとはいえないし、組合員でなくなつた者に対して第三三回全国大会の決定の効力が及ばないと解することが組合からの脱退をある程度は抑制することがあるとしても、脱退自体を禁ずるものではないから、未だ不合理な団結強制ということはできず、被告らの主張は理由がない。

(3) したがつて、原告の第三三回全国大会の決定に関する被告らの主張は、いずれも、採用することができない。

(三) 被告らは、実損回復に基づく返戻請求の趣旨は不当利得の返還という点にあるが、被告らを含む原告の組合員は、実損回復が行われるようになつた昭和五五年からの数年間、実損回復の返戻に代えて犠救制度のための臨時徴収に応じてきたから、実質的にみて不当利得をしておらず、また、支給された犠救金は原告の組合員から徴収された資金の範囲内で行われていて原告には損失がないから、実損回復に基づく返戻請求は理由がないと主張する。

しかし、原告の犠救制度が「その他一時立替金を支給する理由が消滅したとき」或いは「給与改正その他の理由により昇給減号俸の事実が消滅した場合」を返戻事由として規定しているのは、犠救金の前払支給を受けていた組合員に昇給減号俸の回復その他犠救金支給の前提たる事実が消滅するという事由が生じたときは前払支給分のうち右事由が生じた時期以降の分を返戻するのが当然であるとの理由によるものであつて、その基本的な精神に共通するものがあるのは別として、不当利得の制度そのものを規定したわけではないから(犠救制度においては、昇給減号俸の回復その他犠救金支給の前提たる事実が消滅するのみで足り、右減号俸の回復等の結果として「他人ニ損失ヲ及ホシタ」ことは返戻の要件として規定されていないし、返戻の範囲についても「利得ノ存スル限度」に限るとか「悪意ノ受益者」を別扱いにすることも規定されていない。)、民法七〇三条以下に定める不当利得の要件を満たさなければ返戻義務が認められないというものではない。また、被告らを含む原告の組合員が、実損回復が行われるようになつた昭和五五年からの数年間、犠救制度のために臨時徴収に応じてきたとしても、被告らが臨時徴収に応じた金額と本訴において返戻請求を受けている実損回復分とが同額であることはもとより、前者が後者の返戻に代えてされたものであることを認めるに足りる証拠はない。

したがつて、被告らの主張は採用することができない。

(四) 権利濫用の主張について

(1) 被告らは、本件で問題となつている実損回復は特別昇給制度の導入と抱き合わせで実施された全部で約一二万号俸にも及ぶ前例のない、恐らく今後も生ずる可能性のない原告の犠救規定が全く予定していない極めて特異なケースで、昇給延伸となつた組合員全員について実損回復がされたのであるから、特に実損回復分を返戻させなくとも昇給延伸等の不利益が回復されない組合員との均衡を図る必要がないものである上、原告の第三三回全国大会において特別昇給と抱き合わせで実施される実損回復に基づく返戻請求権を行使するには原告の決議機関の決議によらなければならないことが決定されてから一〇年以上が経過し、昭和五五年から始まつた実損回復分のうち大半の返戻請求権は既に時効消滅してしまつていることなどにより、実損回復に基づく返戻請求権の行使という問題は原告の内部では時間の経過により既に決着のついているのであるから、このことを権利濫用を基礎づける事情として考慮すべきであると主張する。

しかし、右主張のとおり、本件で問題となつている実損回復が特別昇給制度の導入と抱き合わせで実現されたという特殊性があるもので、数年のうちに全部で約一二万号俸に及ぶ昇給減号俸が回復されるという前例のない、恐らく今後も生ずる可能性のない極めて特異なケースであるとしても、それが原告の犠救規定の全く予定していない場合であるということはできない。犠救規定のどこにも、本件のような大規模な実損回復には適用がないことを明らかにした条項はない。また、組合員の全員が等しく同額ずつの昇給減号俸の損害を受けていたことはもとより、その全員が同額ずつの実損回復を受けたことを認めるべき証拠はなく、かえつて、個々の組合員によつて昇給減号俸の損害ひいては実損回復の金額が同じでないことは、別紙請求債権目録の記載によつて明らかであるから、特に被告らに対して返戻をさせなくとも、昇給減号俸の損害を受けることなく犠救金の費用のみを負担していた組合員或いは昇給減号俸は回復したがその金額が被告らと同じでない組合員との間で均衡を図る必要がない場合であるということはできない。更に、被告らが主張するように、実損回復に基づく返戻請求権の行使という問題が原告の内部では時間の経過により既に決着がついているとしても、それは原告の内部的な問題に過ぎないし、実損回復に基づく返戻請求権の行使について組合員でなくなつた者と組合員である者との間で異なる取扱いをしたからといつて直ちに不当ということはできないから、実損回復に基づく返戻請求権の行使という問題が原告の内部では時間の経過により既に決着がついているからといつて、原告の組合員でなくなつた被告らとの関係で権利濫用を基礎づける事情として考慮すべきことにはならない。

したがつて、この点についての被告らの主張は採用することができない。

(2) 被告らは、原告は、憲法に違反する企一八四号の撤回による未納者の選挙権等の回復と正常な組織運営を求めるという当然の行為をした被告らを不法にも組織的に排除し、団結を破壊し尽くしておきながら、自らの生活と権利を守るために他の残された方法がない状態のもとで止むを得ない選択として別組合を結成し或いはこれに参加したことを捉えて、組合員ではなくなつたとの口実のもとに、「権利の全逓」を下から支える先進的活動家として原告組合員の権利や利益の擁護と組織拡大の礎となつた犠牲者としての被告らに対してのみ、しかも原告の組合員であつた期間にまで遡つて、返戻請求をしているのであつて、このことを権利濫用を基礎づける事情として考慮すべきであると主張する。

しかし、実損回復に基づく返戻請求権は、犠救金の前払支給を受けた組合員がその支給対象期間内に昇給期間の短縮や特別昇給等によつて減号俸がなかつかたのと同じ状態に回復したことを根拠として認められるものであつて、犠救金の前払支給を受けた組合員がその後も引き続いて原告の組合員資格を有することは返戻請求権の行使の要件ではない。したがつて、原告が、犠救金の前払支給を受けた後にその組合員でなくなつた被告らに対して組合員であつた期間にまで遡つて返戻請求をしているからといつて、不当ということはできない。

もつとも、被告らが原告の組合員でなくなつたことについては、原告が企一八四号を出したこと、一〇〇〇円臨徴未納者の選挙権、被選挙権を停止したこと、徴収事務を忠実に行わないとして支部執行委員会等の執行権を停止するなどしたことが、何らかの動機になつたものとしても、被告らとしては、原告に留まつた上で企一八四号や選挙権停止等の不当性を訴え、後述のとおり裁判上の救済を求めることも十分に可能であつたのであつて、それにも拘らず、かかる方途を講ずることなく、その多くは企一八四号の発出から二か月ないし五か月の短期間内に、自ら原告を脱退して別組合を結成し或いはこれに参加したのであるから、被告らが原告の組合員でなくなつたことについては、その自由意思に基づく選択が決定的な要因となつているものというほかはない。原告からの脱退とか別組合への加入というのは、慎重な考慮と相当の決断を要する行為である上、裁判上の救済の可能性をも勘案すれば、未だ、原告から不法に組織的に排除された被告らが自らの生活と権利を守るために他の残された方法がない状態のもとでした止むを得ない選択であつたとまでは認めることができないからである。したがつて、このことを権利濫用を基礎づける事情として考慮すべきであるという被告らの主張は採用することができない。

なお、裁判上の救済の状況及びこの点に関する被告らの対応としては、次の事実が認められる。すなわち、《証拠略》によれば、最高裁判所は、昭和五〇年一一月二八日の判決において、「労働組合が組織として支持政党又はいわゆる統一候補を決定し、組合員に対してその選挙運動への協力及び費用の負担を強制することは許されない。」旨を判示して、昭和四〇年代から多くの下級審判決が採用していた同旨の見解を支持することを明らかにしていたもので、特定の政党又は候補者支持のための組合費の徴収の許否については、一〇〇〇円臨徴が問題となるよりも相当以前に、裁判上では既に解決済みであつたこと、本件当時、原告の杉並支部集配分会の役員であつた被告加藤茂、同高草木元、同中塚憲二、同河野渉二、同石渡正夫、東京国際支部長であつた被告岸勝利ら及び「企一八四号撤回・制裁無条件解除を求める中郵連絡協議会」に所属する者らは、右最高裁判所だけでなく下級審判決をも引用しながら、「社会党とその候補者への選挙資金の義務的徴収が憲法に違反し許されないことは、社会的にはもちろんのこと、法的にも学説としても既に決着がついている。」とか「政治資金強制徴収は違法無効」「本部、違法性を承知で強行」などとして、一〇〇〇円臨徴と企一八四号を批判し或いはこれに抗議するビラを配布しており、裁判例の傾向はかなりの程度まで被告らの間に周知されていたものと推認されること、したがつて、一〇〇〇円臨徴及びこれに関連して行われた選挙権、被選挙権の停止或いは執行権の停止等については、被告らとしては、裁判上の救済を求めることが十分に可能であり、しかも、救済の目的を達成し得る蓋然性が相当に高かつたものと認められる。

現に、《証拠略》によれば、京橋支部は、一〇〇〇円臨徴と企一八四号の違法を主張して、支部執行権停止等の効力停止を求める仮処分を申し立てたところ、昭和五八年九月八日の審尋期日において、裁判所から執行権停止の解除を内容とする和解案を提示されていたこと、右仮処分の経過を伝えるビラの中には、京橋支部を含む一〇支部の支部長、副支部長、書記長らの氏名が連記されたものや姫路支部教宣部作成のものなどがあり、仮処分申立ての事実も被告らの間に広く知られていたと解されることが、それぞれ、認められる。もつとも、《証拠略》によると、この仮処分申立ては、原告が和解の経緯について事実に反するウソの宣伝をしたことや京橋支部の組合員に対する再登録手続の実施によつて組織全体が排除されたことにより仮処分の意味がなくなつたためとして、取下げによつて終了したことが認められるが、裁判上の救済に関する前記のような客観的状況のもとで、他の多くの被告らがこの救済を求めなかつた理由なり真意については、本件の全証拠によつても明らかではない。被告ら主張のように、憲法に違反する企一八四号の撤回による未納者の選挙権等の回復と正常な組織運営を求めるという当然の行為をしただけであるのに原告から不法にも組織的に排除されたというのが事実の経過であるとすれば、排除の対象となつた被告らとしては、当然に裁判上の救済を求めて然るべきであつて、それにも拘らず、前記のような批判や抗議をしたのみで、右仮処分申立て以外に裁判上の救済を求めた事例が認められず、右仮処分申立ても右説示のような理由で取り下げていることは、被告らとしては、むしろ、その自由意思に基づく選択として、裁判上の救済よりも原告からの脱退及び別組合の結成、参加という手段を選択したものと解するほかはない。

(3) 被告らは、原告は、企一八四号の発出や違法、不当な原告の方針についていけずに原告を離れた全部で二、三万人の組合員の中から、未組織者や全郵政に加入した人々を除き、郵産労又は東京中郵労組に加入した者のみを対象として本件訴訟を提起したもので、訴訟制度を悪用した不当な意図に基づく請求であつて、このことを権利濫用を基礎づける事情として考慮すべきであると主張する。

《証拠略》によれば、昭和六〇年九月七日付の全逓新聞には「犠救立替金返還で提訴、三一七人の郵産労グループに」との記事が掲載されていることが認められるので、本件訴訟は、原告が東京中郵労組を含む郵産労グループに属する者を対象として提起したものと推認することができる。しかし、原告の被告らに対する実損回復に基づく返戻請求権が認められることは前記認定のとおりであつて、権利の行使自体が許されない場合ではないし、後に三2で述べる原告と郵産労又は東京中郵労組との関係のほか、原告の組織防衛の必要をも考えれば、その対象が郵産労グループに属する者に限られているからといつて、直ちに訴訟制度を悪用した不当な意図に基づく請求として権利濫用であるということはできず、被告らの主張は採用することができない。

(4) 被告らは、被告らに対する実損回復に基づく返戻請求は原告の組合員との差別的取扱いであり、また、被告らと同時期に原告を離れた者のうち未組織者や全郵政に加入した者には実損回復に基づく返戻請求をしておらずこれらの者との差別的取扱いであるから、労働組合法五条二項三号の均等取扱い原則、原告規約四〇条一項一号の均等取扱い原則に違反することを権利濫用を基礎づける事情として考慮すべきであると主張する。

しかし、労働組合法五条二項三号及び原告規約四〇条一項一号は、いずれも、組合員として在籍する者の均等取扱いを保証したものであつて、組合員以外の者をも対象にしたものではないから、原告が、組合員である者と組合員でなくなつた者とで異なる取扱いをしたからといつて均等取扱い原則に反するものとはいえず、また、組合員でなくなつた者相互の間で取扱いが異なつたとしても均等取扱い原則に反するものということはできない。更に、請求の対象が郵産労グループに属する者に限られているからといつて、直ちに権利濫用であるといえないことは前記説示のとおりである。

したがつて、被告らの主張は採用することができない。

(5) 以上によれば、特別昇給と抱き合わせで実施された実損回復に基づく返戻請求を権利濫用であるとする被告らの主張は、すべて理由がないというべきである(被告らが権利濫用の理由として主張するところの全部を合わせたからといつて、結論が異なることはない。)。

(五) 被告らは、昭和三六年七月二〇日以前に犠救金の支給を受け或いは犠救金の支給を受けるべき権利を取得した別紙「昭和三六年七月二〇日以前の犠救金」記載の被告らに対しては返戻規定の適用がなく、右被告らに対する実損回復に基づく返戻請求は理由がないと主張するので、この点について判断する。

原告の犠救制度においては、当初は犠救金の返戻規定が定められておらず、昭和三六年七月二〇日に至つて初めて犠牲者救済規定施行細則一五条六号に返戻規定が創設され、そこで「脱退(退職、死亡を除く)、除名、特別組合員(規約別表第一の特別組合員表<2>該当のもの)、その他一時立替金を支給する理由が消滅したとき」が犠救金の返戻事由として規定されたことは、前記二1に認定のとおりである。しかし、原告の犠救制度は、組合活動によつて組合員が被つた損害を可及的に填補することによつて組合員の動揺を防止し、その団結を維持、強化することを目的として設けられたもので、犠救金の支給も対象者が原告の組合員としての資格を有する間又は組合員である期間行われるものであることは、前記一に説示のとおりである。そして、このような犠救制度の趣旨、目的に照らせば、原告による犠救金の支給は、その対象者が原告の組合員資格を有すること及び昇給減号俸等の損害が存在していることを当然の前提としたものであつて、一定の支給対象期間に見合う犠救金を前払支給の方法で受け取つた者について、その支給対象期間内に原告の組合員資格の喪失或いは昇給減号俸等の損害の消滅という事実が発生した場合には、前払支給された犠救金のうち右事実が発生した時期以降にかかる部分は当然に返戻しなければならないと解するのが相当である。昭和三六年七月二〇日に規定された返戻事由は、このような内容を確認的に規定したものであつて、もともと返戻義務がないのに新たに返戻義務を課したという意味での創設的なものではないと解されるから、この種の明文の規定がなければ返戻請求権を行使することができないものではないというべきである。昇給減号俸等による損害が一定期間存続するとの前提でこれに見合う犠救金の前払支給を受けた組合員が右期間の中途で昇給減号俸等の損害を回復したにも拘らず、なお前払支給を受けた犠救金のみは保持しうるという根拠は見出すことができない。被告ら主張のように、原告の犠救制度においては、返戻義務の存否、返戻事由の範囲、返戻方法などに関する規定が、原告の組織上の観点や財政事情更には犠救金の支給方法などによつて時期ごとに区々となつているとしても、その時々の技術的な理由によるものに止まり、犠救制度の趣旨、目的から導かれる返戻義務そのものを左右するものではないと解するのが相当である。

したがつて、別紙「昭和三六年七月二〇日以前の犠救金」欄記載の被告らは、実損回復に基づく返戻義務を免れることはできないから、この点についての被告らの主張は採用することができない。

三1  脱退に基づく返戻請求について

請求原因5(二)の事実のうち、別紙請求債権目録1、3ないし5の「返戻金の発生原因」欄に脱退と記載された被告らが同欄記載の年月日にそれぞれ原告を脱退したことは、当事者間に争いがない。

そして、昭和四七年六月二八日改訂施行の犠救規定四六条一号ただし書に、犠救金の返戻事由として「脱退、除名、給与改正その他の理由により昇給減号俸の事実が消滅した場合」が規定され、その後少なくとも、昭和六〇年七月まで返戻事由に関する規定が変更されていないことは、前記二1認定のとおりであるから、別紙請求債権目録1、3ないし5の「返戻金の発生原因」欄に脱退と記載されている被告らは、原告に対し、それぞれ、脱退に基づいて犠救金を返戻しなければならないものというべきである。

2  組合離脱に基づく返戻請求について

(一) 請求原因5(五)の事実のうち、別紙請求債権目録2、4、5の「返戻金の発生原因」欄に組合離脱と記載されている被告ら(被告古城孝夫を除く。)が同欄に記載された年月日にそれぞれ郵産労又は東京中郵労組に加入したことは、当事者間に争いがない。

(二) 《証拠略》によれば、郵産労中野支部の結成を伝える昭和五八年八月二九日付のビラには、「一九八三年八月二九日、中野・大学生協会館ホールにおいて、郵政産業労働組合(郵産労)中野支部結成大会が行なわれました。冒頭、全逓との訣別宣言を高らかにうたい、出席者全員の大きな拍手で確認されました。」との記載があること、郵産労京橋支部の結成を伝える昭和五八年一〇月六日付のビラには、「特定の政党の利益を守るために基本的人権を侵害し、民主主義をじゆうりんしながら、それを恥じない全逓では、もはや国全体の人権と民主主義を守りえないことは明白である。また、郵政省の国民サービス切り捨て労働者いじめの『効率化計画』に反対せず、『事業の共通の認識』にたつてこれに協力しようとする全逓本部の方針に、私たちの将来を預けることはできない。あまつさえ全逓本部は、私たちの原則的たたかいと団結の力により、実効があがらないことを理由に、『再登録』という組織つぶしをおこなつてきた。全組合員の資格を奪い、排除するという暴挙に対し、私たちは満腔の怒りをこめてこれに抗議する。同時に、私たちは無防備のままの状態を続けることなく、自らの生活と権利を守るために闘う組織、堅固な砦を構築しなければならないことを決意した。」との記載があること、東京中郵労組の結成を伝える昭和五八年一一月三日付のビラには、「全逓本部は、生産性の向上と『合理化』の推進本部となりさがつた。中郵の支部執行部もこれに手を貸し、同罪である。これは、私たちの利益とまつ向から反するものである。全逓本部の『一〇〇〇円臨徴』を踏み絵とする分裂策動が、この『合理化』とたたかう組合員の排除を目的とするものであることが明白となつた。私たちは、このような全逓本部の排除の論理と行動に対し、満身の怒りをこめて抗議するものである。ここに至つて、私たちは、自らの生活と権利を守るために、徹底した民主主義につらぬかれた組織、堅固な砦を職場に構築しようと決意した。私たちは、自らの行動によつて、新しい団結をつくり出さなければならない。全逓本部と中郵支部執行委員会によつて固定化された分裂を打ち破る道は、彼らによつて投げ捨てられた組合民主主義の旗、伝統あるたたかいの旗を拾いあげ、その旗の下に結集して前進する以外に道はない。これが、この東京中央郵便局労働組合である。」との記載があること、郵産労京都中京支部の結成を伝える昭和五八年一一月二八日付のビラには、「私たちは、何よりも職場の団結を守り労働組合の原則に立つたあり方を求め努力してきたが、全逓の分裂、排除の固定化は止まるところがない。すでに、年末首繁忙、五九・二時間短問題を放置できない今日、一日も早く当局と交渉を再開させねばなりません。私たちの闘いの組織、新しい労働組合は誕生しました。」との記載があること、当初独立の労働組合として結成された東京中郵労組は、その後に郵産労と組織統一をしたこと、郵産労は政党としては日本共産党と協力協同関係にあることが、それぞれ、認められる。

(三) これらの事実によれば、郵産労及び東京中郵労組は、いずれも、原告と対立しこれから決別する形で結成された原告とは本質的に相いれない性格を有する別個独立の労働組合であつて、郵産労又は東京中郵労組の組合員の地位と原告の組合員の地位とは客観的に両立し得ないものというべきであるから、被告らは、郵産労又は東京中郵労組に加入することによつてそれと同時に原告の組合員たる資格を喪失したものと解するのが相当である。同じ労働者が右のような性格の相いれない別個独立の労働組合に同時に加入して両者の組合員資格を併せ有することは、実際的にみて不可能であると解されるからである。そして、原告の犠救制度にあつては、一定の支給対象期間に見合う犠救金を前払支給の方法で受け取り、その支給対象期間内に組合員資格の喪失又は昇給減号俸等の損害の消滅という事実が発生した場合には、前払支給された犠救金のうち右事実が発生した時期以降にかかる部分は当然に返戻しなければならないものであることは、前記二2(五)に説示したとおりであるから、別紙請求債権目録2、4、5の「返戻金の発生原因」欄に組合離脱と記載されている被告ら(被告古城孝夫を除く。)は、組合離脱に基づき犠救金を返戻しなければならないものと解するのが相当である。原告の犠救制度は、前記一に説示のとおり、その組合員としての資格を有する間又は組合員である期間について昇給減号俸等の損害を補償するものであるから、犠救金の前払支給を受けていた組合員が、その支給対象期間内に原告とは本質的に相いれない性格を有する別個独立の労働組合に加入し原告の組合員とは客観的に両立し得ない地位を取得したことにより原告の組合員たる資格を喪失した場合には、犠救規定が返戻事由として規定する脱退又は除名の手続きが採られているかどうかに拘らず、犠救金を返戻する義務を負うと解するのが制度の趣旨に合致するものというべきだからである。

3  これに対し、被告らは、脱退、離脱に基づく返戻請求は認められないと主張するので、この点について判断する。

(一) 被告らは、原告の犠救規定の返戻事由に離脱ということは規定されていないから組合離脱は返戻請求の根拠となり得ないと主張するが、返戻義務は、犠救制度の趣旨、目的から当然に導かれるものであつて、組合員たる資格の喪失又は昇給減号俸等の損害の消滅の事実が発生した場合には、明文の規定の有無に拘らず前払支給された犠救金のうち右事実が発生した時期以降にかかる部分を返戻しなければならないものであることは、前記二2(五)に説示のとおりであるから、被告らの主張は採用することができない。前項の(一)(二)で説示した事情のもとでは、原告とは本質的に相いれない性格を有する別個独立の組合たる郵産労又は東京中郵労組に加入した被告らについて、右加入と同時に原告から黙示的に脱退したものとして捉え、これを理由とする返戻義務を構成するまでの必要はないと解される。

(二) 被告らは、犠救金の返戻請求権の発生については労働者の団結の維持強化という犠救制度の制度目的からする限定があり、本件の返戻請求は団結を弱め破壊するものであるから、脱退、離脱に基づく返戻請求は認められないと主張するが、犠救金の返戻請求について被告ら主張のような限定が認められるべきか否かはともかくとして、原告がその組合員でなくなつた者に対して犠救金の返戻請求をすることが組合員の団結を弱め破壊するものでないことは明らかであるから、被告らの主張は採用することができない。

(三) 被告らは、組合員としての組合の組織運営に参加する権利である選挙権、被選挙権を剥奪し被告らを不法にも組織的に排除した原告が、その結果として余儀なくされた別組合への参加を口実として、脱退又は離脱に基づく返戻請求をすることは権利の濫用として許されないと主張する。

しかし、前記二2(四)(2)で述べたとおり、原告が企一八四号を出したこと、一〇〇〇円臨徴未納者の選挙権、被選挙権を停止したことなどが、被告らが原告の組合員でなくなる何らかの動機になつたものとしても、原告に留まつた上で企一八四号や選挙権停止等の不当性を訴え、裁判上の救済を求めることも十分に可能であつたにも拘らず、被告らは、かかる方途を講ずることなく、企一八四号の発出から二か月ないし五か月の短期間内に、自ら原告を脱退して別組合を結成し或いはこれに参加することによつて原告から離脱したもので(被告らの中には、昭和六〇年や昭和六三年になつてから別組合に参加することによつて原告から離脱した者もあるが、これらの中で脱退又は離脱に基づく犠救金の返戻義務が認められるべき者はない。)、その自由意思に基づく選択が決定的な要因となつているのであるから、被告らの脱退及び別組合への加入による離脱が原告から不法にも組織的に排除された結果として行われた止むを得ない選択であつたとまでは解することができない。

したがつて、脱退又は組合離脱に基づく返戻請求が権利の濫用であるとする被告らの主張は採用することができない。

四  被告古城孝夫に対する請求について

1  被告らは、被告古城孝夫の離脱の主張について、時機に後れた攻撃防御方法として民訴法一三九条により却下されるべきであると主張する。しかし、本件記録によれば、被告古城孝夫に対する離脱の主張がされたのは、平成三年一二月一一日の第三七回口頭弁論期日においてであるところ、右主張については、その一週間後に開かれた同月一八日の第三八回口頭弁論期日において、被告らから反論が行われたのみで原告からは特に証拠調べの申し出でもなく、同期日で弁論終結に至つたことが明らかであるから、原告の右主張が訴訟の完結を遅延させるものではなく、民訴法一三九条の要件を満たさないというべきである。

2  原告は、被告古城孝夫は、昭和五八年一一月分以降組合費その他原告の組合員として原告に納付することが義務づけられている費用の支払を一切せず、原告の組合員としての権利主張も一切していないから、同人は組合費を三か月滞納した後である昭和五九年二月一日には原告を離脱し、組合員資格を喪失したものであると主張する。しかし、仮に原告が主張する事実が認められるとしても、組合費の支払をしていないこと或いは組合員としての権利主張を一切しないことによつて当然に組合員資格を喪失するものとはいえないから、被告古城孝夫が昭和五九年二月一日に原告を離脱し組合員資格を喪失したとの原告の主張は採用の限りでない。

3  《証拠略》によれば、原告は、被告古城孝夫ついては、一〇〇〇円臨徴に応じておらず、企一八四号の撤回を求め、全国大会決定が団結の破壊につながるものと主張してビラ配布を行い、反組織的行動を継続しているものとし、このことを理由として、昭和五八年一〇月二五日の八一回中央委で除名の決定をしたことが認められる。

そこで、被告古城孝夫に対する除名の効力について検討する。

(一) 《証拠略》によれば、一〇〇〇円臨徴の決定及び企一八四号の発出に至る経緯について、以下の事実を認めることができる。すなわち、日本労働組合総評議会(以下「総評」という。)は、昭和五七年一〇月二一日に開かれた第六七回臨時大会において、「われわれは、来るべき総選挙、八三年政治決戦に対して、国民の利益を守る新しい政権をつくることを目標にして、護憲、政治倫理の確立、国民生活擁護の三つの課題で結束し、自民党政治を打倒するよう、社会党はじめ全野党、全労働団体、国民諸階層、諸団体に積極的によびかけていく。そして秋年闘争をたたかい抜き、八三政治決戦に勝利するために、組合員一人当たり千円のカンパを拠出し、態勢を強化する。」として、組合員一人当たり一〇〇〇円のカンパを決定した。そして、原告は、これを受け、昭和五八年二月に開かれた第八〇回中央委員会において、八三年政治闘争資金は「総評第六七回臨時大会で承認決定されたもので、目的は『護憲』『政治倫理の確立』『国民生活擁護』『八三政治決戦に勝利』すなわち地方選、参議院選、想定される衆議院選の運動方針決定にともない提案承認されたものです。金額を含め決定にいたる経過について議論のあつたところですが、使途を含めた具体的取扱いを関係会議の協議決定によるという条件を付して義務カンパとして承認決定となつたものです。徴収金額は一人一〇〇〇円です。」として、組合員一人当たり一〇〇〇円を臨時組合費として徴収することが提案され、そのとおり決定された。

ところが、右一〇〇〇円臨徴に反対して納入期限を過ぎても納入しない支部や組合員がいたことから《証拠略》によると、納入期限を三か月経過した昭和五八年六月三〇日現在で、全未納の支部が一三、未納の組合員が一一四支部で三一一〇名に上つたことが認められる。)、原告の中央執行委員会は、昭和五八年七月六日、一〇〇〇円臨徴の完納に向けて、次のような企一八四号を発出した。

「(1) 未納者のいる支部は、支部執行委員会を中心に未納者を皆無にするため全力をあげること。地区本部はその指導に万全を期すこと。催告状の発出、家庭訪問をふくむ説得徴収活動などあらゆる手段をとつて完納にむけてとりくむこと。一定の期限をきつて督促をし説得をしても応じないものについては、支部執行委員会として未納組合員に対し、その実情を調査し権利の行使に一定の制約が生じることを勧告しておくこと。

(2) 支部執行委員会として前項の指導を忠実に執行しない場合は、地区本部は地方本部と協議のうえ執行権停止も行うなど指導に万全を期すこと。なお、支部執行委員(含三役)や、青年部、婦人部の役員として、機関決定に違背し納入義務を履行しなかつたり、あるいは徴収指導を怠り行わない場合は、地区本部指導により役員としての任務凍結を行うこと。なお、期間は納入までの間とする。さらに、支部執行権を停止した場合の実情調査と勧告(規約四七条)は、地区委員会が行うこと。

(3) 未納組合員の選挙権および被選挙権について納入までの間これを停止する。この緊急措置については、規約四八条一項にもとづくものであるので、関係機関は可及的速やかに中央本部制裁委員会に報告のこと。

(4) 事情聴取と勧告、警告を経ても納入しないものについては、規約にもとづく手続きのうえに『権利停止』を行うことを原則に関係機関協議のうえ対処のこととする。

(5) 問題があれば本部企画組織部に報告のこと。」

(二) 右のように、一〇〇〇円臨徴は、八三年政治闘争資金に充てるための資金を臨時組合費の形で徴収するというもので、選挙権、被選挙権或いは支部執行権の停止などの手段によつてその完納を図ろうとしたものであるが、《証拠略》によれば、昭和五八年六月三〇日付の毎日新聞には、「大単産が候補を擁立するため総評に「オンブにダッコ」というのが、社会党の全国区選挙だつたが、今回はこれが多少様変わりした。総評は、今回、傘下組合員に千円カンパを呼びかけ十億円を作り、五億円を衆院選挙用に残して五億円を参院選に注ぎ込んだ。うち四億円は比例代表区候補を抱えた単産が独自で使い、一億円は社会党に献金。社会党はこれに借金などのやりくりで五億円を調達、計六億円で今回の選挙を戦つたという。」との記事が掲載されていること、昭和五八年六月一二日付の朝日新聞には、社会党は「おおざつぱにいつて、総評から五億円を調達し、党が五億円を借金。計十億円で、党本部の選挙費用をまかなう予定だ。……総評が出す五億円は、『八三決戦用に』と集めた千円カンパの一部で、衆院選用にまだ五億円とつてある。」との記事が掲載されていること、昭和五八年五月二八日付の全逓財三九号には、一〇〇〇円臨徴は「総評第六七回臨時大会で承認決定されたもので……地方選、参議院選、さらには衆議院選の運動方針決定にともなう活動資金として決定になつたものです。もちろん使途について関係会議の協議決定を経て支出することになつており、すでに闘つた地方選、そうして目前に控えた参議院選を含めて一人当たり五〇〇円を総評に納入したところです。従つて残り五〇〇円について、これまた予想される衆議院選と全逓推せん候補の闘いにむけ現在、留保しているところです。」と記載されていること、原告が昭和五八年までの各種選挙において推薦したのは、社会党公認候補又はその推薦候補に限られていたことが、それぞれ、認められ、これらの事実によれば、前記のような手段に訴えることによつて完納を図ろうとした一〇〇〇円臨徴は、原告が社会党の公認候補又は推薦候補のための選挙活動資金を捻出するために行つたものということができる。証人高頭進の証言中、この認定に反する部分は採用しない。

(三) しかし、労働組合は、組合員の労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的とするものであつて、組合員がいかなる政治的思想、信条を有し、選挙においてどの政党又は候補者を支持するかは、本来、組合員の個人的な自由に属する事柄であるから、労働組合が特定政党の候補者のための選挙活動資金を臨時組合費という形で徴収決定して組合員にその負担を強制することは、組合員の政治的自由を制約するものとして許されず(前記二2の(四)(2)に掲記の最高裁判決参照)、本件においても、原告の組合員は一〇〇〇円臨徴を納付すべき法律上の義務を負わないものと解するのが相当である。したがつて、被告古城孝夫が一〇〇〇円臨徴に応じていないことは除名理由とはならない。

また、企一八四号は、右認定のとおり、一〇〇〇円臨徴未納者について納入までの間選挙権、被選挙権を停止するなどの緊急措置をとることによつて未納者を皆無にすることを各級機関に求めたもので、選挙活動資金の負担強制を内容とするものであり、一〇〇〇円臨徴と同様に、組合員の政治的自由を制約するものであつて違法というほかはないものである。したがつて、組合員が違法な企一八四号についてビラなどの手段によつて批判することは特に問題がなく、企一八四号の撤回を求め、全国大会決定が団結の破壊につながるものと主張してビラ配布を行うことは、反組織的言動には当たらず、これまた、除名理由とはならない。

(四) 以上によれば、原告が被告古城孝夫の除名理由として主張するところは、いずれも、除名理由には当たらないものであつて、同被告に対する除名の決定は無効というべきである。

したがつて、被告古城孝夫は、原告の組合員資格を喪失していないから、原告の被告古城孝夫に対する犠救金の返戻請求は理由がないことになる。

五  被告古城孝夫以外の被告らに対する除名及び再登録拒否の主張について

原告は、被告古城孝夫以外にも、相当数の被告について除名の主張をしているが、返戻金の発生原因として除名のみを単独に主張している被告はなく、いずれも、除名と組合離脱とを選択的に主張しているところ、原告としては、どちらの返戻原因が認められる場合でも、具体的に返戻請求する金額は別紙請求債権目録の「返戻金額」欄に記載された金額のいずれか少ない方の金額とするというのである。原告は、当初の段階では、選択的に主張する返戻原因に基づく返戻金額をその金額の異同を調整しないままの状態で請求していたが、終局段階に至つて、どちらの返戻原因が認められる場合でも、返戻請求する金額はいずれか少ない方の返戻金額とするとして、選択的に主張する返戻原因に基づく返戻金額を一致させ、請求を減縮したものである。そうすると、除名と組合離脱とを選択的に主張している場合には、どちらか一方の返戻原因が認められさえすれば、具体的に返戻請求する金額は返戻原因のいかんに拘わらずいずれか少ない方の金額となるから(したがつて、ほかに実損回復の返戻原因がある場合における最終的な請求額は、右いずれか少ない方の金額と実損回復による返戻金額の合計額となる。)、除名の返戻金額が組合離脱の返戻金額より少ない被告らについてはもとより、その逆に、組合離脱の返戻金額が除名の返戻金額より少ない被告らについても、返戻原因として組合離脱を認めることができる限りは、除名については特に判断する必要がないことになる。そして、このことは、再登録拒否と組合離脱が選択的に主張されている被告らについての再登録拒否についても妥当するものである。

したがつて、被告古城孝夫以外の被告らについての除名の効力及び原告がした再登録拒否の効力については、特に判断の必要がない。

六  請求原因6の事実のうち、別紙請求債権目録1ないし6の「返戻金の発生原因」欄記載の返戻原因に基づく返戻請求権が原告に認められる場合には、その金額が同目録の「返戻金額」欄(返戻金の発生原因が実損回復である場合には「実損回復による返戻金額」欄)に記載されたとおりであること、被告らの未支給分控除額が同目録の「未支給分控除額」欄記載のとおりであることは、いずれも、当事者間に争いがない。

したがつて、被告古城孝夫を除くその余の被告らは、原告に対し、それぞれ、実損回復、脱退或いは組合離脱に基づく返戻金として、別紙請求債権目録1ないし6の「請求額」欄記載の金員を返戻すべき義務がある。

七  結論

以上によれば、原告の本訴請求は、別紙支払金額目録記載の各被告らに対し、同目録金額欄記載の金員(別紙請求債権目録1ないし6の「請求額」欄記載の金員を移記)及びこれに対する同目録年月日欄記載の日(各被告に対する訴状送達の日の翌日)から支払済みに至るまで年五分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるのでこれを認容し、被告古城孝夫に対する請求は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 太田 豊 裁判官 坂本宗一)

裁判官山本剛史は転補につき署名押印することができない。

(裁判長裁判官 太田 豊)

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