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東京地方裁判所 昭和60年(ワ)11591号 判決 1993年8月30日

東京都新宿区新宿三丁目一番二二号

原告

株式会社アデランス

右代表者代表取締役

根本信男

右訴訟代理人弁護士

西川紀男

右訴訟復代理人弁護士

佐々木清得

富山市新富町一丁目三番二一号

アートスこと

被告

大野英樹

右訴訟代理人弁護士

友光健七

上柳敏郎

田中由美子

主文

一  被告は、原告に対し、金二八七万八○○○円及びこれに対する昭和六〇年一〇月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを六分し、その一を被告の、その余を原告の負担とする。この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告は、原告に対し、金一八二一万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言。

二  被告

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求の原因

(主位的請求)

1 原告は、次の特許権(以下「本件特許権」といい、その特許発明を「本件発明」という。)を有する。

特許番号 第九八六一五〇号

発明の名称 部分かつら

出願日 昭和五一年九月三〇日

出願公告日 昭和五四年六月二五日

登録日 昭和五五年二月七日

2 本件発明の特許願に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の記載は、本判決添付の特許公報(以下「本件公報」という。)の該当欄記載のとおりである。

3 本件発明は、次の構成要件からなるものである。

A 柔軟性に富む適宜肉厚の材料からなるかつら本体の外面に多数の毛髪を植設すると共に内面の任意位置に数個の止着部材を有してなる部分かつらにおいて、

B 前記止着部材が反転性能を有する彎曲反転部材と、

C 該彎曲反転部材に櫛歯状に形成連設された多数の突片と、

D 前記彎曲反転部材の反転運動に伴い前記多数の突片と係脱する摩擦部とからなり、

E 各突片が彎曲反転部材の反転に伴い倒伏したとき摩擦部との間に脱毛部周辺の毛髪を挟圧保持する構成とした

F ことを特徴とする部分かつら。

4 被告は、昭和五八年四月頃から、別紙被告製品目録(一)記載の部分かつら(以下「被告製品(一)」という。)を販売している。

5 被告製品(一)の構成は、次のとおりである。

a 合成樹脂材で低い凸面状に形成すると共に中央部に網状に形成したネット部111を設けて形成した薄肉皮殻12の凸状外面に毛髪14を設け薄肉皮殻12の内側部を形成する凹状内面の開口周縁近部であって、当該開口周縁をほぼ四等分する位置に対向して対をなす四個の止着部材13を設け、

b 当該止着部材13を巾状の薄板金属を長円形状に形成すると共に長軸上にほぼ同一巾板の中枠112を鋲着して形成した止着基台15を設けて形成し、該止着基台15の対向する外枠113、114を同一方向に凸面をなして彎曲する彎曲反転部材に形成すると共に、

c 一方の外枠113に長方形状の角筒に形成した軟質な合成樹脂材からなる摩擦部材17を被覆して設け、

d 対向する他の外枠114の表面に隔接して溶着し、櫛歯状に形成した金属線よりなる一三本の突片16を設け該突片16を外枠114の端縁で立ち上がらせると共に、中枠112に向いて負の勾配をもって斜傾して形成し中枠112とわずかな間隔を設けて形成すると共に、当該個所で正の勾配をもって斜傾して形成し、外枠113と相互圧力をもって接触させ外枠113の外側縁で先端部を負の勾配で折曲し、先端縁に玉状のすべり部115を設けて形成すると共に、

e 前記止着基台15と中枠112の結接個所に軟質の合成樹脂材で形成し、該止着基台15の長軸上の外側に伸延する巾状片に形成した取付部材116を鋲着して設けて形成し、該取付部材116を薄肉皮殻12に糊着して固定すると共に、

f 前記突片16が外枠113、114の反転に伴い倒伏したとき、摩擦部材17との間に脱毛部分周辺の毛髪を挟圧保持するように形成した部分かつら

6 本件発明の構成要件と被告製品(一)の構成とを対比すると、次のとおりである。

(一) 被告製品(一)の構成aの「薄肉皮殻12」は、本件発明の構成要件Aの「かつら本体」に相当する。

もっとも、被告製品(一)の構成aの「薄肉皮殻12」は、その材質及び形状が限定されており、また、被告製品(一)の構成aの「止着部材13」は、位置及び数が限定されている点で、本件発明の構成要件Aと相違している。

しかし、本件明細書の発明の詳細な説明中には、「部分かつら1は、適宜肉厚の軟質合成樹脂材あるいは布材等の柔軟性に富む材料で形成された部分かつら本体2と、該かつら本体2の内面の任意位置に附設された数個の止着部材3とからなっている。」との記載(本件公報一頁2欄九行ないし一三行)、「先ず、各止着部材3の彎曲反転部材5を第3図に示すように、反転させて突片6の各先端部が摩擦部7から仰起離脱させたうえで頭部の所要位置に載置する。」との記載(同二頁4欄一一行ないし一五行)があり、右記載並びに本件発明の特許願添付の図面(以下「本件図面」という。)中の第1図及び第3図によれば、本件発明の構成要件Aにおける右限定の結果による効果は、当然に予測されていたものであり、被告製品(一)の構成aの「薄肉皮殻12」及び「止着部材13」は、本件発明の構成要件Aの「かつら本体」及び「止着部材」に該当し、被告製品(一)の構成aは、本件発明の構成要件Aを充足する。

(二) 被告製品(一)の構成bの「止着基台15」は、本件発明の構成要件Bの「彎曲反転部材」に相当する。

もっとも、被告製品(一)の構成bの「止着基台15」は、「中枠112」を具備している点において、本件発明の構成要件Bの「彎曲反転部材」と相違している。

しかし、本件明細書の発明の詳細な説明中には、「この彎曲反転部材5を保持させている反転性能は、本実施例においては、前記薄板を予めU字状に形成しておき、その両自由端を互に内方に索引して両自由端に形成された内向突片を互に重合固定することにより、彎曲状態に形成して反転し得るようにして賦与されたものである。」との記載(本件公報一頁2欄三四行ないし二頁3欄二行)があり、右記載並びに本件図面中の第1図、第2図及び第5図によれば、本件発明の構成要件Aの「彎曲反転部材」は、脚片5aと脚片5bの彎曲縁に沿う長さが閉鎖枠に組枠された長軸上の長さよりも長く形成されているものである。また、構成要件Bにおける外枠113、114が彎曲反転するためには、閉鎖枠に組枠したとき彎曲面に沿う外枠113、114の長さが長軸上の中枠112の長さよりも長いことが必須の要件とされる。また、そのように構成されていれば、外枠113、114が反転するために中枠112を有することの特有の効果がなく、特に中枠112を具備する必要がない。したがって、被告製品(一)の構成bは、本件発明の構成要件Bを充足するものというべきである。

(三) 被告製品(一)の構成dの「突片16」は、本件発明の構成要件Cの「突片」と同じく「櫛歯状」に形成されている。ただ、その数は、本件発明の「突片」は、「多数」であるのに対し、被告製品(一)の「突片16」は、「一三本」である。

ところで、本件明細書の発明の詳細な説明中には、「突片6は、第2図に示すように、前記反転部材5と同様に金属等の剛性に富む材料例えば鋼線材を屈曲、捻曲加工して櫛歯状に形成し、各先端を自由端として後端部を前記彎曲反転部材5の一方の脚片5aに溶接等の接着方法により固着されている。」との記載(本件公報二頁3欄三行ないし八行)、「櫛歯状に形成された各突片6が彎曲反転部材5の反転運動に伴い、その先端部を起伏させて倒伏状態において、その先端部と摩擦部7との間に介入する脱毛部周辺の毛髪、つまり、自毛を挟持するものである。」との記載(同二頁3欄三三行ないし三七行)、「突片6が摩擦部7との間に介入している自毛を挟持保持することとなり、部分かつら1が頭部の所望位置に定着固定される。」との記載(同二頁4欄二一行ないし二四行)があり、右記載及び本件図面第1図ないし第5図によれば、本件発明の構成要件Cの「多数」は、九本ないし一〇本を中心的な本数と想定しているものと認められ、一三本に限定した被告製品(一)の構成dの突片16は、本件発明の構成要件Cの「多数の突片」と比較して効果上の差異がない。

なお、被告製品(一)の構成dの「突片16」の形状の限定は、「突片16」と外枠の「摩擦部材17」との接触を毛髪の挟接に適したものにするための設計上任意に選択することのできる事項である。したがって、被告製品(一)の構成dの「突片16」は、仮に、本件発明の構成要件Cの「突片」と形状に差異があるとしても、その効果上の差異はなく、被告製品(一)の構成dは、本件発明の構成要件Cを充足する。

(四) 被告製品(一)の構成cの「摩擦部材17」は、本件発明の構成要件Dの「摩擦部」に相当する。

ところで、本件明細書の発明の詳細な説明中には、「前記摩擦部7は、第2図に示すように摩擦を生じさせ易いゴム材料からなり、前記突片6の下方にその突出方向と直交する方向に帯状に形成された彎曲部材5の反転に伴い、突片6と係脱するようになっている。本実施例にあっては、彎曲反転部材5の他方の脚片5bの上面にゴム板を貼着して形成したものであるが、これに代え、かつら本体2の相応面上に直接ゴム板等を貼着して形成してもよく、また、かつら本体2の相応面を粗面とし直接摩擦部7を形成することとしてもよい。この摩擦部7と突片6との間には彎曲反転部材5の反転運動に伴い、脱毛部周辺の毛髪すなわち自毛が挟持されることになる。」との記載(本件公報二頁3欄一五行ないし二八行)、「櫛歯状に形成された各突片6が彎曲反転部材5の反転運動に伴い、その先端部を起伏させて倒伏状態において、その先端部と摩擦部7との間に介入する脱毛部周辺の毛髪、つまり、自毛を挟持するものである。」との記載(同二頁3欄三三行ないし三七行)があり、右記載及び本件図面中の第1図ないし第3図と、被告製品(一)の構成dの「外枠113と相互圧力をもって接触させ」るとの記載とを併せみると、本件発明の構成要件Dの「摩擦部」と被告製品(一)の構成cの「摩擦部材17」との差異はなく、被告製品(一)の構成cは、本件発明の構成要件Dを充足する。

(五) 被告製品(一)の構成fは、本件発明の構成要件E、Fと一致している。

(六) 被告製品(一)の構成eについて検討する。

本件発明の「止着部材」は、本件明細書の発明の詳細な説明中の「さらに、止着部材3は、本発明の実施例においては、突片6の先端部がかつら本体2の中央部に向けられるように、かつら本体2の周辺部に附設されているが、これに代え、突片6の先端部がかつら本体2の周縁部に沿うように向きを代えて附設されるものであってもよい。」との記載(本件公報二頁3欄三七行ないし四二行)からみて、かつら本体の周縁部に附設されたものであるが、その附設手段を具体的なものに限定するような記載はない。仮に被告製品(一)の附設手段が本件発明の附設手段にない特有の取付効果を有するとしても、被告製品(一)の附設手段は、慣用的な手段と認められ、その効果上の差異がなく、まして、被告製品(一)は、本件発明の構成要件の全てを具備しているものであるので、特有の取付効果の有無を吟味するまでもない。

(七) よって、被告製品(一)は、本件発明の構成要件を全て充足し、本件発明の技術的範囲に属する。

7(一) 被告は、故意又は過失により、昭和五八年四月頃から昭和六〇年四月までの間に、被告製品(一)を別表(一)A-<1>ないし<5>、B-<1>ないし<6>の販売数量(販売個数)欄に記載のある者に対し、同欄記載のとおりの数、合計二三八個販売した。

原告は、被告製品(一)と同様の商品を一個当たり四九万七〇〇〇円で販売しているところ、被告の右販売により、当然売り上げるべき少なくとも二二九個分の販売価額一億一三八一万三〇〇〇円を喪失した。原告の昭和五九年の利益率は一六%であるところから、右販売価額の一六%に相当する一八二一万円が原告の現実に被った損害である。

(二) 仮に右(一)が認められなかったとしても、被告は、故意又は過失により、昭和五八年四月頃から昭和六〇年五月までの間に、被告製品(一)を、別表(一)の販売数量(販売個数)欄、販売金額欄に記載のある者に対し、販売数量欄記載のとおりの数量、販売金額欄記載のとおりの代金額で、合計二三八個販売し、その売上高は、合計五二一〇万五〇〇〇円である。

原告の被告製品(一)と同様の商品についての利益率は、少なくとも一六%であり、小規模で営業する被告のかつらの販売経費の売上高に占める割合は、大規模にかつら販売業を営む原告のかつらの販売経費の売上高に占める割合より小さくはなっても大きくなることはないから、被告のかつらの販売額に対する利益率は、少なくとも原告の利益率の一六%を下回るものではない。

そうすると、被告が右行為によって得た利益の額は、八三三万六八〇〇円(五二一〇万五〇〇〇円×〇・一六)を下らず、原告は、特許法一〇二条一項の規定によって、被告の右行為により右同額の損害を被ったものと推定される。

8 よって、原告は、被告に対し、民法七〇九条に基づき損害賠償金一八二一万円(予備的に、特許法一〇二条一項に基づき損害賠償金八三三万六八〇〇円)及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

(予備的請求)

9 仮に主位的請求が被告製品(一)一個についてしか認められないとしても、被告は、昭和五八年四月頃から昭和六〇年五月までの間に、別紙被告製品目録(二)記載の部分かつら(以下「被告製品(二)」という。)を販売した。

10 被告製品(二)の構成は、次のとおりである。

a' 柔軟性に富む適宜肉厚の材料からなるかつら本体2の外面に多数の毛髪4を植設するとともに、内面の任意位置に数個の止着部材3を有してなる部分かつらにおいて、

b' 前記止着部材3が反転性能を有する彎曲反転部材5と、

c' 該彎曲反転部材5に櫛歯状に形成連設された多数の突片6と、

d' 前記彎曲反転部材5の反転運動に伴い前記多数の突片6と係脱する摩擦部7とからなり、

e' 各突片6が彎曲反転部材5の反転に伴い倒伏したとき、摩擦部7との間に脱毛部周辺の毛髪を挟圧保持する構成をした

f' 部分かつら。

11 本件発明の構成要件と被告製品(二)の構成とを対比すると、被告製品(二)の構成a'は本件発明の構成要件Aを、被告製品(二)の構成b'は本件発明の構成要件Bを、被告製品(二)の構成c'は本件発明の構成要件Cを、被告製品(二)の構成d'は本件発明の構成要件Dを、被告製品(二)の構成e'は本件発明の構成要件Eを、被告製品(二)の構成f'は本件発明の構成要件Fをそれぞれ充足する。

12(一) 被告は、故意又は過失により、昭和五八年四月頃から昭和六〇年五月頃までの間に、被告製品(二)を、別表(一)の販売数量(販売個数)欄、販売金額欄に記載のある者(但し、別表(一)のNo.B-一一七のスズキサトルを除く。)に対し、販売数量欄記載のとおりの数量、販売金額欄記載のとおりの代金額で、合計二三七個販売し、その売上高は、合計五一九〇万五〇〇〇円である。

原告の被告製品と同様の商品についての利益率は、少なくとも一六%であり、小規模で営業する被告のかつらの販売経費の売上高に占める割合は、大規模にかつら販売業を営む原告のかつらの販売経費の売上高に占める割合より小さくはなっても大きくなることはないから、被告のかつらの販売額に対する利益率は、少なくとも原告の利益率の一六%を下回るものではない。

(二) そうすると、被告が右行為によって得た利益の額は、八三〇万四八〇〇円(五一九〇万五〇〇〇円×〇・一六)を下らず、原告は、特許法一〇二条一項の規定によって、被告の右行為により右同額の損害を被ったものと推定される。

13 よって、原告は、被告に対し、更に予備的に被告製品(二)の販売による損害賠償金八三〇万四八〇〇円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求の原因に対する被告の認否

(主位的請求について)

1 請求の原因1ないし3は知らない。

2 請求の原因4のうち、被告が昭和六〇年四月頃原告の関係者と思われる者に被告製品(一)を一個販売したことは認め、その余は否認する。

3 請求の原因5は認める。

4(一) 請求の原因6(一)のうち、本件発明の構成要件Aと被告製品(一)の構成aとの相違点を指摘した部分は認め、その余は否認する。

(二) 請求の原因6(二)のうち、本件発明の構成要件Bと被告製品(一)の構成bとの相違点を指摘した部分は認め、その余は否認する。

特に、構成要件Bにおける外枠113、114が彎曲反転するためには、閉鎖枠に組枠したとき彎曲面に沿う外枠113、114の長さが長軸上の中枠112の長さよりも長いことが必須の要件とされ、また、そのように構成されていれば、外枠113、114が反転するために中枠112を有することの特有の効果がなく、特に中枠112を具備する必要がない旨の原告の主張は、明白な誤りである。

即ち、本件発明の構成要件Bは、「金属材料あるいは硬質合成樹脂材等の剛性に富む材料からなる薄板で彎曲反転性能を有し、且彎曲反転させたときその状態を維持するように形成されて」(本件公報一頁2欄二五行ないし二八行)おり、その「反転性能は、本実施例においては、前記薄板を予めU字状に形成しておき、その両自由端を互に内方に索引して両自由端に形成された内向突片を互に重合固定することにより、彎曲状態に形成して反転し得るようにし」(同頁2欄三五行ないし二頁3欄二行)たものである。これに対し、被告製品(一)の構成bは、ステンレス薄板をプレスにより形成した平角状のS字状で、その対角線部(中枠112)は他より幅広とされており、そのため両端を固着すると右対角線部は両脚部(外枠113、114)より長く又幅広であるためいずれかの片面に膨出し、それにつられて対角線部に連続する両脚部も反り彎曲することとなるものである。

つまり、本件発明の構成要件Bは、薄板を「U字状に形成し」「その両自由端を互に内側に牽引して」(本件公報一頁2欄三六ないし三七行)固定することによって脚片が彎曲反転するのであるのに対し、被告製品(一)の構成bにおいては、中枠112の長さが外枠113、114によって形成される楕円状の空間部分の長軸の長さより長いことによって、中枠112が彎曲反転するのである。

したがって、被告製品(一)の構成bは、中枠112があるからこそ彎曲反転するのであり、中枠112の存在は決定的なものであって、本件発明の構成要件Bを充足しない。

(三) 請求の原因6(三)のうち、本件発明の構成要件Cと被告製品(一)の構成dとの相違点を指摘した部分は認め、その余は否認する。

(四) 請求の原因6(四)ないし(七)は否認する。

5 請求の原因7のうち、被告が鈴木悟(別表(一)中のNo.B-一一七スズキサトル)に対し、被告製品(一)を一個、代金二〇万円で販売したことは認め、その余は否認する。

被告は、被告製品(一)の止着部材について、大谷春美から、「某社の特許に抵触するかどうか問題がありますが、専門家の回答では、何ら抵触しません。某社が何らかの問題を出してくるかも知れませんが問題になりません。弁理士及び弁護士が専門に担当しておりますのでご安心下さい。」などと言われたり、弁理士作成の「かつら用ストッパー」に関する実用新案登録願の写しや出願番号を示されたりし、何ら問題になると思わずに入手したものである。したがって、被告には故意も過失もない。

また、被告は、被告製品(一)を一個販売する際、止着部材を付けたことによって、止着部材なしの場合に比べて被告製品(一)の価格を高くしておらず、したがって、被告は、止着部材の付着によって利益を得ていない。

原告は、被告のかつらの販売額に対する利益率は、原告の利益率の一六%を下回るものではない旨主張し、その理由として、小規模で営業する被告のかつらの販売経費の売上高に占める割合は、大規模にかつら販売業を営む原告のかつらの販売経費の売上高に占める割合より小さくはなっても大きくなることはないと述べるが、これは明らかな誤りであり、逆に、大企業ほど規模の利益により利益率が高くなりうるのであって、仮に原告の論理が正しいのなら、原告は、全体的な利益率を上げるため自己を分割(分社)して、「小規模の利益」を享受してきたはずである。

6 請求の原因8は争う。

(予備的請求について)

7 請求の原因9のうち、被告が昭和五八年頃から昭和六〇年頃までの間に顧客四七名に対して被告製品(二)五九個を販売したことは認め、その余は否認する。

8 請求の原因10は認め、同11は否認する。

9 請求の原因12のうち、被告が、別表(二)記載のとおり(但し、番号B-一一七鈴木悟を除く。)顧客四七名に対して被告製品(二)五九個を代金総額一三四七万八〇〇〇円で販売したことは認め、その余は否認する。

被告製品(二)に付着した止着部材は、顧客が被告方に持ち込んだ原告のストッパーであり、これを顧客の希望に応じ、被告がサービスで付着したにすぎず、被告は、右止着部材の付着によって何ら利益を得る意思がなく、現に利益を得ることがなかった。

また、仮に被告製品(二)の販売が本件特許権を侵害するとしても、右のような経過においては、被告が本件特許権を侵害しないと考えたことに過失はない。

第三  証拠関係

本件記録中の書証目録及び証人等目録のとおりであるからこれを引用する。

理由

第一  主位的請求について

一  成立に争いのない甲第一号証によれば請求の原因1の事実が、成立に争いのない甲第二号証(本件公報)によれば請求の原因2の事実が、右甲第二号証及び弁論の全趣旨によれば請求の原因3の事実がそれぞれ認められ、被告が昭和六〇年四月頃被告製品(一)を一個販売したこと及び請求の原因5の事実は当事者間に争いがない。

二  前記甲第二号証によれば、本件発明は、頭髪の部分的な脱毛状態を隠蔽する際に使用する部分かつらに関するものであること(本件公報一頁1欄二七行、二八行)、頭髪が部分的に脱毛しているときに、これらを部分かつらによって隠蔽することはしばしば行われるところであるが、この場合に、平静時はもちろん、激しい運動を行う場合にも、部分かつらによる隠蔽状態が確実に維持されなければならないところ、部分かつらを頭部の所望位置に止着する手段としては、従来、脱毛部分に直接部分かつらを止着する場合と、脱毛部分周辺の頭髪に部分かつらを止着する場合があったが、本件発明は、後者、すなわち、脱毛部分周辺の頭髪である自毛に部分かつらを止着する場合のものに係るものであって、従来提供されているものとは異なった構成により、取付け、取外し操作が容易で、特に、止着時に激しい動作をしても離脱することのないものの提供を目的としたものであること(同欄二九行ないし同頁2欄六行)、本件発明は、右目的を達成するため、特許請求の範囲記載のとおりの構成を採用したものであること、そして、本件発明は、右構成を採用したことにより、止着部材を反転するだけの簡単な操作で部分かつらを装着することができ、しかも、脱毛部周辺の毛髪である自毛に保持させるので、激しい運動を行ったり、頭部に汗をかいたりしても、容易に脱落することがなく、また、簡単な操作で部分かつらを頭部から取り外すことができるので、頭部を洗ったり、あるいは、部分かつらを洗ったりすることを容易に行うことができるという効果を奏すること(同二頁4欄二八行ないし三六行)、以上の事実が認められる。

三  被告製品(一)が本件発明の技術的範囲に属するか否かについて判断する。

1  被告製品(一)が本件発明の構成要件Aを充足するか否かについて

本件発明の構成要件Aの「かつら本体」は、本件明細書の特許請求の範囲中には、「柔軟性に富む適宜肉厚の材料からなる」ものとの記載があるのみでそれ以外に材料及び形状に特段の限定がなく、本件明細書の発明の詳細な説明中には、本件発明の実施例として、「適宜肉厚の軟質合成樹脂材あるいは布材等の柔軟性に富む材料で形成された部分かつら本体2」との記載(本件公報一頁2欄九行ないし一一行)があることが認められるところ、被告製品(一)の構成aの「薄肉皮殻12」は、合成樹脂材で低い凸面状に形成されており、更に、成立に争いのない甲第六号証の一(一一九枚目。「鈴木悟」についての顧客管理カルテ)、乙第四二号証、証人落合正武の証言及び被告本人尋問の結果によれば、被告製品(一)の「薄肉皮殻12」は人工皮膚とネットをベースにしており、人工皮膚にせよネットにせよ顧客の頭部に密着するものであって適宜の肉厚のそれなりに柔らかい材質のものを使用しており、柔軟性に富むものと認められるから、被告製品(一)の「薄肉皮殻12」は、本件発明の「柔軟性に富む適宜肉厚の材料」からなる「かつら本体」に当たるものと認められる。

被告製品(一)の薄肉皮殻12の凸状外面には毛髪14が設けられているから、本件発明の「かつら本体の外面に多数の毛髪を植設する」に該当し、また、被告製品(一)の止着部材13は、本件発明の「止着部材」に相当する(その具体的構成については2以下に判断する。)ものと認められる。

被告製品(一)の止着部材13は、「かつら本体」である薄肉皮殻12の「内側部を形成する凹状内面」のうちの開口周縁近部に、当該開口周縁をほぼ四等分する位置に対向して対をなして「四個」設けられているから、本件発明の構成要件Aの「内面の任意位置に数個の止着部材を有してなる」場合に当たるものと認められる。

以上によれば、被告製品(一)は、本件発明の構成要件Aを充足するものというべきである。

2  被告製品(一)が本件発明の構成要件Bを充足するか否かについて

(一) 本件発明の構成要件Bの「彎曲反転部材」は、「反転性能を有する」ものであるが、本件明細書の特許請求の範囲の記載上、「反転性能を有する」という以外に特段の限定がなく、本件明細書の発明の詳細な説明中には、「彎曲反転部材5は、金属材料あるいは硬質合成樹脂材等の剛性に富む材料からなる薄板で……彎曲反転部材5の中央部をその下面から上面に向けて押圧すると、第3図に示すように、上方に反転し、また、この状態から彎曲反転部材5の中央部をその上面から下面に向けて押圧すると、第4図に示すように、下方に反転するように形成されている。」との記載(本件公報一頁2欄二五行ないし三四行)が、また、本件発明の実施例について、「この彎曲反転部材5を保持させている反転性能は、本実施例においては、前記薄板を予めU字状に形成しておき、その両自由端を互に内方に索引して両自由端に形成された内向突片を互に重合固定することにより、彎曲状態に形成して反転し得るようにして賦与されたものである。」との記載(本件公報一頁2欄三四行ないし二頁3欄二行)があることが認められ、右認定の事実によれば、本件発明の彎曲反転部材は、例えば、金属材料あるいは硬質合成樹脂材等の剛性に富む材料からなる薄板で、その中央部を下面から上面に向けて押圧すると上方に反転し、また、この状態からその中央部を上面から下面に向けて押圧すると下方に反転するとの構成であれば足り、その形状には特段の限定がないものと認められる。そうすると、「巾状の薄板金属を長円形状に形成すると共に長軸上にほぼ同一巾板の中枠112を鋲着して形成した止着基台15を設けて形成し、止着基台15の対向する外枠113、114を同一方向に凸面をなして彎曲する」との構成を有する被告製品(一)の「彎曲反転部材」は、本件発明の構成要件Bの「反転性能を有する彎曲反転部材」に該当するものと認められる。

(二) 被告は、本件発明の構成要件Bは、薄板を「U字状に形成し」「その両自由端を互に内側に牽引して」固定することによって脚片が彎曲反転するのであるのに対し、被告製品(一)の構成bにおいては、中枠112の長さが外枠113、114によって形成される楕円状の空間部分の長軸の長さより長いことによって、中枠112が彎曲反転するのであり、したがって、被告製品(一)の構成bは、中枠112があるからこそ彎曲反転するのであり、中枠112の存在は決定的なものであって、本件発明の構成要件Bを充足しない旨主張する。

しかしながら、薄板を「U字状に形成し」「その両自由端を互に内側に牽引して」固定する構成は、右認定判断のとおり、本件発明の一実施例に過ぎず、右認定のとおり、本件発明の彎曲反転部材は、「U字状に形成し」、「その両自由端を互に内側に牽引して」固定するという構成に限定されるものではないから、被告の右主張は採用することができない。

(三) したがって、被告製品(一)は、本件発明の構成要件Bを充足する。

3  被告製品(一)の構成dが本件発明の構成要件Cを充足するか否かについて

被告製品(一)の構成dの「突片16」は、本件発明の構成要件Cの「突片」に相当するものと認められる。

被告製品(一)の「突片16」は、本件発明の彎曲反転部材に相当する彎曲反転部材の止着基台15の外枠114の表面に隔接して溶着し櫛歯状に形成されているから、本件発明の「彎曲反転部材5に櫛歯状に形成連設された」突片に当たるものと認められる。

また、被告製品(一)の「突片16」は、「一三本」設けられているから、本件発明の構成要件Cの「多数」設けられた突片に当たるものと認められる。

そうすると、被告製品(一)は、本件発明の構成要件Cを充足するものというべきである。

4  被告製品(一)が本件発明の構成要件Dを充足するか否かについて

本件発明の構成要件Dの摩擦部の材質や形状は、本件明細書の特許請求の範囲の記載上特段の限定がなく、本件明細書の発明の詳細な説明中には、「前記摩擦部7は、第2図に示すように摩擦を生じさせ易いゴム材料からなり、前記突片6の下方にその突出方向と直交する方向に帯状に形成された彎曲反転部材5の反転に伴い、突片6と係脱するようになっている。本実施例にあっては、彎曲反転部材5の他方の脚片5bの上面にゴム板を貼着して形成したものであるが、これに代え、かつら本体2の相応面上に直接ゴム板等を貼着して形成してもよく、また、かつら本体2の相応面を粗面とし直接摩擦部7を形成することとしてもよい。」との記載(本件公報二頁3欄一五行ないし二五行)があることが認められ、右事実によれば、被告製品(一)の「一方の外枠113に」被覆された「長方形状の角筒に形成した軟質な合成樹脂材からなる摩擦部材17」も本件発明の止着部材を構成する構成要件Dの「摩擦部」に当たるものと認められる。

本件発明の構成要件Dの摩擦部は、「彎曲反転部材5の反転運動に伴い前記多数の突片6と係脱する」という構成をとるものであるところ、被告製品(一)は、突片16が外枠113、114の反転に伴い倒伏したとき、摩擦部材17との間に脱毛部周辺の毛髪を挟圧保持するように形成されているから、その彎曲反転部材の外枠113、114の反転運動に伴い「摩擦部材17」と「突片16」とが係脱することが明らかである。

したがって、被告製品(一)は、本件発明の構成要件Dの「彎曲反転部材5の反転運動に伴い前記多数の突片6と係脱する」という構成を充足する。

5  被告製品(一)が本件発明の構成要件E、Fを充足するか否かについて

右5の認定判断によれば、被告製品(一)は、本件発明の構成要件Eを充足するものと認められる。

被告製品(一)が本件発明の構成要件Fを充足することは明らかである。

6  以上によれば、被告製品(一)は、本件発明の構成要件を全て充足するから、本件発明の技術的範囲に属する。

なお、被告製品(一)の構成eによると、被告製品(一)は、止着部材13の薄肉皮殻12に対する附設手段として、「前記止着基台15と中枠112の結接個所に軟質の合成樹脂材で形成し、該止着基台15の長軸状の外側に伸延する巾状片に形成した取付部材116を鋲着して設けて形成し、該取付部材116を薄肉皮殻12に糊着して固定する」との手段を採るものであるが、本件発明は、止着部材のかつら本体に対する附設手段について何ら限定をしていないのであるから、被告製品(一)が右の構成を採っているということは、被告製品(一)が本件発明の技術的範囲に属するとの前記認定を左右するものではない。

その他右認定を覆すに足りる証拠はない。

四  右認定のとおり、被告による被告製品(一)の販売行為は、本件特許権を侵害するものであるから、被告は、特許法一〇三条の規定により、右侵害行為について過失があったものと推定され、被告の右侵害行為は不法行為に当たる。

被告は、被告製品(一)の止着部材について、大谷春美から、「某社の特許に抵触するかどうか問題がありますが、専門家の回答では、何ら抵触しません。某社が何らかの問題を出してくるかも知れませんが問題になりません。弁理士及び弁護士が専門に担当しておりますのでご安心下さい。」などと言われたり、弁理士作成の「かつら用ストッパー」に関する実用新案登録願の写しや出願番号を示されたりし、何ら問題になると思わずに入手したのであるから、被告には故意も過失もない旨主張する。

しかしながら、被告本人尋問の結果によれば、被告は、従前原告に勤務し、退職前には富山支店長の地位にあって、原告が本件特許権を有すること、かつらの付着方法として、両面テープ、接着剤、編み込み、止着部材による方法があり、本件発明は「ワンタッチピン」すなわち止着部材を含む部分かつらに関する発明であることを知っていたことが認められるのであって、大谷春美から、「某社の特許に抵触するかどうか問題がありますが、専門家の回答では、何ら抵触しません。某社が何らかの問題を出してくるかも知れませんが問題になりません。弁理士及び弁護士が専門に担当しておりますのでご安心下さい。」などと言われたり、弁理士作成の「かつら用ストッパー」に関する実用新案登録願の写しや出願番号を示されたりした事実があったとしても、それだけでは被告製品(一)が本件特許権を侵害するものではないと考えたことについて過失がなかったとは認められない。

五  被告の右不法行為によって原告の受けた損害額について検討する。

1  被告が昭和六〇年四月頃被告製品(一)を一個販売したことは当事者間に争いがなく、前記甲第六号証の一、弁論の全趣旨によって真正に成立したものと認められる甲第五号証及び被告本人尋問の結果によれば、右一個を販売した相手は別表(一)B<5>中のB-一一七に当たる鈴木悟こと平木隆夫であることが認められる。また、本件全証拠によっても、被告が右認定の数量以上に被告製品(一)を販売したことを認めるに足りない。

原告は、被告の被告製品(一)の販売により、原告が売り上げるべき販売価額一億一三八一万三〇〇〇円を喪失した旨主張するが、右認定のとおり、被告は被告製品(一)を一個だけ販売したものであるところ、被告が右販売をしなければ、その客が原告から部分かつらを購入したものと認めるに足りる証拠もないから、原告の右主張は採用できない。

2  次に、特許法一〇二条一項の規定に基づいて推定される原告の損害について判断する。

前記甲第五号証、成立に争いのない甲第七号証ないし甲第九号証、乙第四二号証、証人落合正武の証言及び被告本人尋問の結果によれば、被告は、二万円で仕入れたかつら本体に止着部材四個を附設し被告製品(一)として二〇万円で販売したこと、被告は、大谷春美から右止着部材を一本当たり約一〇〇〇円で購入したこと、被告は被告製品(一)以外のかつらも販売しているが、被告の営業活動に要する必要経費は、家賃、電気代、ガス代、水道料金、光熱費程度であって、被告製品(一)を販売するに当たって特別高額の販売費、一般管理費として計上すべき費用がないこと、多額の宣伝広告費を支出し、本社部門を有している原告の昭和五八年三月から昭和六一年二月までの三年間の営業利益を一年間毎に見ると、最も少ない年度でも一六%であることが認められ、右によれば、被告製品(一)一個当たりの必要経費は、原告の同様の商品に要する経費を上回るものではないと推認される。そうすると、被告製品(一)の販売価格に対する利益率は一六%を下ることはなく、被告製品(一)一個の販売行為による利益の額は、その販売額の一六%に当たる三万二〇〇〇円を下らないものと認められる。

したがって、原告は、被告が被告製品(一)を販売したことによって三万二〇〇〇円の損害を受けたものと推定される。

3  被告は、被告製品(一)を一個販売する際、止着部材を付けたことによって、止着部材なしの場合に比べて被告製品(一)の価格を高くしておらず、したがって、被告は、右止着部材の付着によって利益を得ていない旨主張するが、前記認定のとおり、損害の額の算定で問題となるのは、右止着部材の付着による利益ではなく、部分かつら本体に右止着部材を附設して完成した被告製品(一)の販売による利益であるから、被告の右主張は、失当である。

第二  予備的請求について

一1  被告が昭和五八年頃から昭和六〇年頃までの間に被告製品(二)を販売したこと、その個数、金額も別表(二)記載の五九個、一三四七万八〇〇〇円(番号B-一一七鈴木悟分を除く)の限度で当事者間に争いがない。

2  前記甲第六号証の一、乙第四二号証、成立に争いのない甲第六号証の二、被告本人尋問の結果(後記信用できない部分を除く)によれば、被告が販売した部分かつらを頭に装着する方法には、ストッパーで付ける方法、両面テープで装着する方法、接着剤で接着する方法、編み込みで装着する方法等があること、ストッパーで付ける部分かつらを使用している客がスペアとして別の方法で付ける部分かつらを使用することは多少はあるが多くはないこと、被告が販売したストッパー付部分かつらのストッパーは、鈴木悟こと平木隆夫に販売したもの以外は本件特許の実施品である部分かつら用の原告製のストッパーであったこと、したがって、被告の顧客カルテにストッパー付の部分かつらの販売が明記されていない顧客であっても、部分かつらの販売の記載がありかつカルテの御来店日記入欄にピン(ストッパー)の修理、ピン(ストッパー)の販売等が記載されているか、既にストッパー付の部分かつらを使用していることがカルテ上明らかな別表(一)中のNo.A-九、No.A-四〇(但し、被告の争う一個)、No.A-九九、No.A-一一五、No.B-四、No.B-一八、No.B-四四(但し、テープの販売も記録されているので、二個の内一個二二万円のみがストッパー付とする。)、No.B-五三、No.B-五七、No.B-八五、No.B-一一三、No.B-一五三の各顧客及び顧客カルテにストッパー付の部分かつらの販売が明記されている別表(一)のNo.A-一二〇の顧客に対しても、原告主張のとおり被告製品(二)を販売したものと認められ(但し、No.A-四〇については被告の争う一個分、No.B-四四は一個分代金二二万円のみ)、その合計は一九個、四三一万円となる。

前記乙第四二号証及び被告本人尋問の結果中右認定に反する部分は、前記各証拠に照し信用できない。

3  原告は、被告が被告製品(二)を二三七個販売した旨主張するが、被告の自白した分と前記2認定の分を超える被告製品(二)の販売を認めるに足りる証拠はない。

4  よって、被告は被告製品(二)を、合計七八個、代金総額一七七八万八〇〇〇円で販売したものである。

二  請求の原因10の事実は当事者間に争いがなく、右争いのない事実並びに前記甲第二号証、被告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、請求の原因11の事実が認められる。したがって、被告製品(二)は、本件発明の技術的範囲に属するものであり、被告が被告製品(二)を販売したことは、本件特許権の侵害に当たる。

なお、被告本人尋問の結果によれば、被告が販売した被告製品(二)に付けられたストッパーには、原告の顧客であった客から、その客が原告から買い受けた本件発明の実施品である部分かつらのストッパー(中古品及び新品)をもらい受けたものが含まれていたことが認められるが、ストッパーの入手方法が右のとおりであっても、被告製品(二)の販売が本件特許権の侵害であることに変わりはない。

三  右二認定のとおり、被告による被告製品(二)の販売行為は、本件特許権を侵害するものであるから、被告は、特許法一〇三条の規定により右侵害行為について過失があったものと推定される。

被告は、被告製品(二)に付着した止着部材は、顧客が被告方に持ち込んだものを顧客の希望に応じ、被告がサービスで付着したにすぎず、被告は、右止着部材の付着によって何ら利益を得る意思がなく、また、現に利益を得ることがなかったのであり、このような経過においては、仮に被告製品(二)の販売が本件特許権を侵害するとしても、被告が本件特許権を侵害しないと考えたことに過失はない旨主張する。

しかしながら、前記第一の四及び右一2認定のとおり、被告は、従前原告に勤務し、退職前には富山支店長の地位にあって、原告が本件特許権を有すること、かつらの付着方法として、両面テープ、接着剤、編み込み、ストッパーによる方法があり、本件発明は「ワンタッチピン」すなわちストッパー(止着部材)に関する発明であることを知っていたばかりでなく、被告本人尋問の結果によれば、原告が製造販売している止着部材が本件特許権にかかるものであることを認識していたものと認められるのであって、被告主張のような事実の経過があっても、過失がないとはいえないことは明らかであって、被告の右主張は採用できない。

四  そうすると、被告は、前記一のとおり、被告製品(二)七八個、代金合計一七七八万八〇〇〇円の販売による原告の損害について賠償責任がある。

被告製品(一)の販売価格に対する利益率が一六%を下ることがないことは前記第一の五2に認定のとおりであり、被告製品(二)七八個の販売による利益の額は、その販売額の一六%に当たる二八四万六〇〇〇円(一〇〇〇円未満切捨て)を下らないものと認められ、特許法一〇二条一項の規定により右利益額が原告の損害額と推定される。

第三  結論

以上によれば、原告の本訴請求のうち、被告に対する損害賠償金二八七万八〇〇〇円及びこれに対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和六〇年一〇月二〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める部分は理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条本文、仮執行宣言について同法一九六条一項を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 西田美昭 裁判官 宍戸充 裁判官 櫻林正己)

被告製品目録(一)

別紙被告製品(一)図面のとおり

一 合成樹脂材で低い凸面状に形成すると共に中央部に網状に形成したネット部111を設けて形成した薄肉皮殻12の凸状外面に毛髪14を設け薄肉皮殻12の内側部を形成する凹状内面の開口周縁近部であって、当該開口周縁をほぼ四等分する位置に対向して対をなす四個の止着部材13を設け

二 当該止着部材13を巾状の薄板金属を長円形状に形成すると共に長軸上にほぼ同一巾板の中枠112を鋲着して形成した止着基台15を設けて形成し、該止着基台15の対向する外枠113、114を同一方向に凸面をなして彎曲する彎曲反転部材に形成すると共に

三 一方の外枠113に長方形状の角筒に形成した軟質な合成樹脂材からなる摩擦部材17を被覆して設け

四 対向する他の外枠114の表面に隔接して溶着し櫛歯状に形成した金属線よりなる一三本の突片16を設け該突片16を外枠114の端縁で立ち上がらせるとともに、中枠112に向いて負の勾配をもって斜傾して形成し中枠112とわずかな間隔を設けて形成すると共に、当該個所で正の勾配をもって斜傾して形成し、外枠113と相互圧力をもって接触させ外枠113の外側縁で先端部を負の勾配で折曲し、先端縁に玉状のすべり部115を設けて形成すると共に

五 前記止着基台15と中枠112の結接個所に軟質の合成樹脂材で形成し、該止着基台15の長軸上の外側に伸延する巾状片に形成した取付部材116を鋲着して設けて形成し、該取付部材116を薄肉皮殻12に糊着して固定すると共に

六 前記突片16が外枠113、114の反転に伴い倒伏したとき、摩擦部材17との間に脱毛部分周辺の毛髪を挟圧保持するように形成した部分かつら

第1図

<省略>

第2図

<省略>

第3図

<省略>

第4図

<省略>

被告製品目録(二)

別紙被告製品(二)図面のとおり

一 柔軟性に富む適宜肉厚の材料からなるかつら本体2の外面に多数の毛髪4を植設すると共に、内面の任意位置に数個の止着部材3を有してなる部分かつらにおいて

二 前記止着部材3が反転性能を有する彎曲反転部材5と

三 該彎曲反転部材5に櫛歯状に形成連設された多数の突片6と

四 前記彎曲反転部材5の反転運動に伴い前記多数の突片6と係脱する摩擦部7とからなり

五 各突片6が彎曲反転部材5の反転に伴い倒伏したとき、摩擦部7との間に脱毛部周辺の毛髪を挟圧保持する構成をした

六 部分かつら

第1図

<省略>

第2図

<省略>

第3図

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第4図

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第5図

<省略>

別表(一)

<省略>

<省略>

<省略>

<省略>

<省略>

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別表(二)

<省略>

<19>日本国特許庁(JP) <11>特許出願公告

<12>特許公報(B2) 昭54-16785

<51>Int.Cl.2A 41 G3/00 識別記号 <52>日本分類 125 E 72 庁内整理番号 68G5-3B <24><44>公告 昭和54年(1979)6月25日

発明の数 1

<54>部分かつら

<21>特願 昭51-117531

<22>出願 昭51(1976)9月30日

公開 昭53-42970

<43>昭53(1978)4月18日

<72>発明者 根本信男

調布市入間町1の35の28

<71>出願人 株式会社アデランス

東京都新宿区新宿3の17の5カワセピル4階

<74>復代理人 弁理士 小田治親

<57>特許請求の範囲

1 柔軟性に富む適宜肉厚の材料からなるかつら本体2の外面に多数の毛髪4を植設すると共に内面の任意位値に数個の止着部材3を有してなる部分かつらにおいて、前記止着部材3が反転性能を有する彎曲反転部材5と、該彎曲反転部材5に櫛歯状に形成連設された多数の突片6と、前記彎曲反転部材5の反転運動に伴い前記多数の突片6と係脱する麻擦部7とからなり、各突片6が彎曲反転部材5の反転に伴い倒伏したとき摩擦部7との間に脱毛部周辺の毛髪を挾圧保持する構成としたことを特徴とする部分かつら。

発明の詳細な説明

本発明は、頭髪の部分的な脱毛状態を陰蔽する際に使用する部分かつらに関するものである。

頭髪が部分的に脱毛しているときにこれを部分かつらによつて陰蔽することはしばしば行われるところであるが、この場合に、平静時は勿論、激しい運動を行う場合にも、部分かつらによる陰蔽状態が確実に維持されていなければならない。ところで部分かつらを頭部の所望位置に止着する手段としては、従来脱毛部分に直接部分かつらを止着する場合と、脱毛部分周辺の頭髪に部分かつらを止着する場合とがある。本発明は、特に後者すなわち脱毛部分周辺の頭髪つまり自毛に部分かっらを止着する場合のものに係るものであつて、従来提供されているものと異つた構成からなり、取付け、取外し操作が容易で特に止着時に激しい動作をしても離脱することのないようにしたものである。

以下、本発明の実施例を図面について詳述する。

第1図乃至第4図は、本発明の第一の実施例に係る部分かつらを示し、部分かつら1は、適宜肉厚の軟質合成樹脂材あるいは布材等の柔軟性に富む材料で形成された部分かつら本体2と、該かつら本体2の内面の任意位置に附設された数個の止着部材3とからなつている。

上記かつら本体2の外面には、毛髪4が植設されており、脱毛部分を陰蔽した際に、その使用状況が外見から容易に判別し得ないようになつている。

上記止着部材3は、第2図に示すように、かつら本体2の周辺部に取り付けられた彎曲反転部材5と、該彎曲反転部材5の一方の脚片5aに櫛歯状に形成連設された多数の突片6と.上記彎曲反転部材5の反転により多数の突片6と係脱する他方の脚片5bよりなる摩擦部7とで構成されている。

そして前記の彎曲反転部材5は、金属材料わるいは硬質合成樹脂材等の剛性に富む材料からなる薄板で彎曲反転性能を有し、且彎曲反転させたときその状態を保持するように形成されている。すなわち、彎曲反転部材5の中央部をその下面から上面に向けて押圧すると、第3図に示すように、上方に反転し、また、この状態から彎曲反転部材5の中央部をその上面から下面に向けて押圧すると、第4図に示すように下方に反転するように形成されている。この彎曲反転部材5を保持させている反転性能は、本実施例においては、前記薄板を予めU字状に形成しておき、その両自由端を互に内方に索引して両自由端に形成された内向突片を互に重合固定することにより、彎曲状態に形成して反転し得るようにした賦与されたものである。また前記突片6は、第2図に示すように、前記反転部材5と同様に金属等の剛性に富む材料例えば銅線材を屈曲、捻曲加工して櫛歯状に形成し、各先端を自由端として後端部を前記彎曲反転部材5の一方の脚片5aに溶接等の接着方法により固着されている。尚この突片6は、第5図に示すように、彎曲反転部材5と多数の突片6とを一体に形成したものであつてもよい。この突片6が前記彎曲反転部材5の一方の脚片5aに固着されて一体的に形成された場合には、前記彎曲反転部材5の反転運動に伴い、突片6の各先端は前記摩擦部7の上面から仰起して離れ(第3図)、あるいは倒伏して密接することになる。(第4図)。又、前記摩擦部7は、第2図に示すように摩擦を生じさせ易いゴム材料からなり、前記突片6の下方にその突出方向と直交する方向に帶状に形成され彎曲反転部材5の反転に伴い、突片6と係脱するようになつている。本実施例にあつては、彎曲反転部材5の他方の脚片5bの上面にゴム板を貼着して形成したものてあるが、これに代え、かつら本体2の相応面上に直接ゴム板等を貼着して形成してもよく、また、かつら本体2の相応面を粗面とし直接摩擦部7を形成することとしてもよい。この摩擦部7と突片6との間には彎曲反転部材5の反転運動に伴い、脱毛部周辺の毛髪すなわち自毛が挟持されることになる。

上記止着部材3は、以上のように、彎曲反転部材5と、該彎曲反転部材5に連設され櫛歯状に形成された多数の突片6と、該突片6と係脱する摩擦部7とからなることを特徴とするものであり、櫛歯状に形成された各突片6が彎曲反転部材5の反転運動に伴い、その先端部を起伏させて倒伏状態において、その先端部と摩擦部7との間に介入する脱毛部周辺の毛髪、つまり、自毛を挾持するものである。さらに、止着部材3は、本発明の実施例においては、突片6の先端部がかつら本体2の中央部に向けられるように、かつな本体2の周辺部に附設されているが、これに代え、突片6の先端部がかつら本体2の周縁部に沿うように向きを代えて附設されるものであつてもよい。ただ、前記実施例のように、かつら本体2の中央部に突片6の先端部が向くように止着部材3を附設する場合には、部分かつら1の装着が容易に行われるばかりでなく取外しも引き剥すことによつても容易に行い得る。これに絞べて他の実施例のようにかつら本体2の周縁部に突片6の先端部が沿うように止着部材3を附設する場合には、部分かつら1の装着は容易に行われるが、一旦装着した後はその取外し、特に引き剥しによることが容易に行われない欠点がある。従つて、前記実施例のように突片6の先端部がかつら本体2の中央部に向くように止着部材3を附設することが望ましい。

本発明に係る部分かつら1を使用するには、先ず、各止着部材3の彎曲反転部材5を第3図に示すように、反転させて突片6の各先端部が摩擦部7から仰起離脱させたうえで頭部の所要位置に載置する。しかるときは各止着部材3の突片6と摩擦部7との間に自毛が各突片6間を通じて介入するから、部分かつら1の位置をよく定めたうえで外部から、つまり毛髪4上からかつら本体2を介して各止着部材3に順次押圧力を加えれば、すなわち、止着部材3の彎曲反転部材5に、第4図に示すように、反転運動を起こさせれば、突片6が摩擦部7との間に介入している自毛を挾圧保持することとなり、部分かつら1が頭部の所望位置に定着固定される。また、部分かつら1を取り外すときは、各止着部片3の彎曲反転部材を手指により操作して反転させて引張れば簡単に引き剥すことができる。

上記したように本発明によれば、止着部材を反転するだけの簡単な操作で部分かつらを装着することができ、しかも、脱毛部周辺の毛髪つまり自毛に保持させるので激しい運動を行つたり、頭部に汗をかいたりしても容易に脱落することがない。また、簡単な操作で、部分かつらを頭部から取り外すことができるので、頭部を洗つたり、わるいは部分かつらを洗つたりすることを容易に行い得る。

図面の簡単な説明

第1図は本発明の実施例に係る部分かつらの内面を示す平面図、第2図は止着部材を拡大して示す平面図、第3図および第4図は止着部材の作動状態を示す側面図、第5図は他の実施例に係る止着部材を示す平面図である。

1……部分かつら、2……かつら本体、3……止着部材、4……毛髪、5……彎曲反転部材、6……突片、7……摩擦部材。

第1図

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第2図

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第3図

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第4図

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第5図

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特許公報

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