東京地方裁判所 昭和60年(ワ)11705号 判決 1987年1月30日
原告
楢崎洋治
原告
楢崎幸子
右両名訴訟代理人弁護士
山下進
右両名訴訟復代理人弁護士
佐竹修三
被告
瀧本弘幸
右訴訟代理人弁護士
藤井冨弘
同
山本卓也
被告
日本土地改良株式会社
右代表者代表取締役
川戸雅貴
被告
株式会社日本ヱアロビクスセンター
右代表者代表取締役
川戸雅貴
右両名訴訟代理人弁護士
岡部文彦
同
小平恭正
同
本木隆夫
同
菊池善十郎
被告
有限会社東横配ぜん人紹介所
右代表者代表取締役
池田公明
右訴訟代理人弁護士
山﨑司平
主文
一 被告瀧本弘幸、同日本土地改良株式会社、同株式会社日本ヱアロビクスセンターは、各自、原告楢崎洋治に対し一四一九万九一一五円、原告楢崎幸子に対し一三一九万九一一五円及び右各金員に対する昭和六〇年七月二四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、それぞれ支払え。
二 原告らの被告瀧本弘幸、同日本土地改良株式会社、同株式会社日本ヱアロビクスセンターに対するその余の請求及び被告有限会社東横配ぜん人紹介所に対する請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用中、原告らと被告瀧本弘幸、同日本土地改良株式会社、同株式会社日本ヱアロビクスセンターとの間に生じたものは、これを二分し、その一を右被告三名の、その余を原告らの各負担とし、原告らと被告有限会社東横配ぜん人紹介所との間に生じたものは原告らの負担とする。
四 この判決は、主文第一項に限り、仮に執行することができる。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告らは、各自、原告楢崎洋治(以下「原告洋治」という。)に対し三九三三万四八七六円、原告楢崎幸子(以下「原告幸子」という。)に対し三八四三万四八七五円、及び右各金員に対する昭和六〇年七月二四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、それぞれ支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 第一項につき仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 事故の発生
(一) 日 時 昭和六〇年七月二三日午前五時二五分ころ
(二) 場 所 千葉県長生郡長柄町山之郷三一〇番地先路上
(三) 事故車両 普通乗用自動車(袖ケ浦五五さ八三三〇)
右運転者 被告瀧本弘幸(以下「被告瀧本」という。)
(四) 事故態様 被告瀧本が、事故車両を運転して、前記場所を進行中、制限速度違反のうえ、ハンドル操作を誤り、事故車両の右側前後車輪を道路右側の溝に落とし、ブレーキをかけないまま約二〇メートル暴走したため、事故車両の右側後部ドアが脱落し、折から、後部座席で仮眠中の訴外亡楢崎茂(以下「亡茂」という。)が車外に振り落とされ、頭部を地面等に激しく打ちつけ、頭蓋骨陥没骨折により即死した。
(右事故を以下「本件事故」という。)
2 責任原因
(一) 被告瀧本は、事故車両を、制限速度を遙かに超える時速約八〇キロメートルの高速で運転し、かつ、適切なハンドル操作をしなかつた過失により本件事故を発生させたものであるから、民法第七〇九条の規定に基づき、損害賠償責任を負う。
(二) 被告日本土地改良株式会社(以下「被告日本土地改良」という。)は、事故車両を所有し、これを自己のため運行の用に供していた者であるから、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)第三条の規定に基づき、損害賠償責任を負う。
(三) 被告株式会社日本ヱアロビクスセンター(以下「被告日本ヱアロビクス」という。)は、被告日本土地改良から事故車両を借りて使用し、これを自己のため運行の用に供していた者であるから、自賠法第三条の規定に基づき、損害賠償責任を負う。
(四) 被告有限会社東横配ぜん人紹介所(以下「被告東横」という。)は、配ぜん人紹介業を営み、亡茂との間で、同人を登録配ぜん人として勤務先の紹介斡旋を目的とする契約を締結し、本件事故当時、亡茂を被告日本ヱアロビクスにいわゆるパーティのヘルプ要員として派遣していたものであり、本件事故は、亡茂を宿泊所から被告日本ヱアロビクスへ同会社手配の事故車両により送迎中に発生したものである。
しかして、被告日本ヱアロビクスからの給料は被告東横から亡茂に支払われていたものであり、被告東横は、亡茂を自己の支配の下で稼働させていたものであるから、亡茂に対し、雇用契約上の安全配慮義務を負うものである。
また、被告東横は、被告瀧本をも自己の登録配ぜん人として、被告日本ヱアロビクスに派遣して稼働させていたものであり、本件事故は、右被告瀧本の過失によつて発生したものであるから、被告東横は、右安全配慮義務違反として民法四一五条の規定に基づき、また、被告瀧本の使用者として民法第七一五条の規定に基づき、損害賠償責任を負う。
3 損害
(一) 逸失利益 五四八六万九七五一円
亡茂は、昭和三八年七月三〇日生れの男子で、本件事故当時満二一歳であり、東洋大学四年に在学中であつたから、本件事故で死亡しなければ、卒業時の満二二歳から満六七歳までの四五年間、昭和五八年賃金センサス第一巻第一表、企業規模計、産業計、男子労働者、旧大・新大卒、全年齢平均給与額である年額四七二万三九〇〇円を下らない金額の収入を得られたはずであるから、右収入を基礎とし、生活費として五〇パーセントを控除したうえ、新ホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して、亡茂の逸失利益の現価を算定すると、次の計算式のとおり、その合計額は五四八六万九七五一円となる。
472万3900×0.5×23.2307=5486万9751
(二) 相続
原告らは、亡茂の両親であり、その死亡により右逸失利益の損害賠償請求権を法定相続分に従い、各二分の一の割合で相続取得した。
(三) 慰藉料 一五〇〇万円
亡茂は、原告らの長男であり、その死亡により、原告らの子は二男のみとなつたものであり、また、原告らは、亡茂を手塩にかけて養育し、将来に期待していたものであつて、亡茂の死亡による原告らの精神的苦痛は極めて大きく、これに対する慰藉料は原告ら各七五〇万円が相当である。
(四) 葬儀費用 九〇万円
原告洋治は、亡茂の葬儀を行い、これに少なくとも九〇万円を支出した。
(五) 弁護士費用 七〇〇万円
原告らは、被告らから損害額の任意の弁済を受けられないため、弁護士である原告ら訴訟代理人らに本訴の提起と追行を委任し、その費用及び報酬として、七〇〇万円を原告ら各二分の一宛支払う旨約した。
4 結論
よつて、原告らは、本件事故による損害賠償として、被告ら各自に対し、原告洋治において三九三三万四八七六円、原告幸子において三八四三万四八七五円、及び右各金員に対する亡茂死亡の日の翌日である昭和六〇年七月二四日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を、それぞれ求める。
二 請求原因に対する認否
(被告瀧本)
1 請求原因1(事故の発生)の事実中、(一)ないし(三)の事実、及び(四)のうち、被告瀧本が事故車両を運転して進行中、事故車両の右側前後車輪を道路右側の溝に落とし、事故車両の右側後部ドアが開いたため、亡茂が車外に落ち、頭蓋骨陥没骨折により即死したことは認める。
2 同2の(一)の事実中、被告瀧本が事故車両を制限速度を遙かに超える時速約八〇キロメートルの高速で運転したことは否認するが、被告瀧本に過失があり、被告瀧本が民法第七〇九条の規定に基づき、損害賠償責任を負うことは認める。
3 同3(損害)の事実はいずれも不知。
4 同4(結論)の主張は争う。
(被告日本土地改良、同日本ヱアロビクス)
1 請求原因1(事故の発生)の事実は認める。
2 同2の(二)及び(三)の事実及び被告日本土地改良、同日本ヱアロビクスの責任は認める。
3 同3(損害)の事実はいずれも不知ないし争う。
4 同4(結論)の主張は争う。
(被告東横)
1 同2の(四)の事実は否認し、被告東横の責任は争う。
被告東横は、職業安定法第三二条第一項但書の規定に基づき、労働大臣の許可を得て、特別な技術を必要とする職業に従事する者の職業を斡旋することを目的とする職業紹介事業者である。
職業紹介とは、「求人及び求職の申込を受け、求人者と求職者との間における雇用関係の成立を斡旋すること」(職業安定法第五条一項)であり、「供給契約に基づいて労働者を他人に使用させることをいう」「労働者供給」(職業安定法第五条第六項)とは、概念を異にするのである。
したがつて、被告東横は、配ぜん人を派遣したものではなく、求人者である被告日本ヱアロビクスと求職者である亡茂及び被告瀧本との雇用関係の成立を斡旋したにすぎないから、被告東横は、亡茂に対し、雇用契約上の安全配慮義務を負うことも、民法第七一五条の規定に基づく使用者責任を負うこともないのである。
2 同3(損害)の事実はいずれも不知ないし否認する。
3 同4(結論)の主張は争う。
三 抗弁
1 (被告ら)
原告らは、本件事故による損害に対するてん補として、自動車損害賠償責任保険(以下「自賠責保険」という。)から二五〇〇万円、労働者災害補償保険(以下「労災保険」という。)から三四三万〇三二〇円の支払を受け、これを原告ら各二分の一宛各自の損害に充当した。
2 (被告日本土地改良、同日本ヱアロビクス)
本件事故は、被告東横の従業員である被告瀧本が、同じく被告東横の従業員である亡茂を同乗させて、被告東横の業務に従事すべく事故車両を運転中に惹起したものであるから、いわゆる同僚災害であつて、損害の公平な分担の原則上、好意同乗の法理によつて二割を下らない減額がなされるべきである。
四 抗弁に対する認否
1 抗弁1の事実は認める。
2 同2の好意同乗の主張は争う。
第三 証拠<省略>
理由
一請求原因1(事故の発生)の事実は、原告らと被告日本土地改良、同日本ヱアロビクスとの間において争いがなく、同(一)ないし(三)の事実、及び(四)のうち、被告瀧本が事故車両を運転して進行中、事故車両の右側前後車輪を道路右側の溝に落とし、事故車両の右側後部ドアが開いたため、亡茂が車外に落ち、頭蓋骨陥没骨折により即死したことは、原告らと被告瀧本との間において争いがない。
また、同2の(一)のうち、本件事故の発生につき、被告瀧本に過失があり、被告瀧本が民法第七〇九条の規定に基づき、損害賠償責任を負うことは、原告らと被告瀧本との間において争いがなく、同(二)及び(三)の事実及び被告日本土地改良、同日本ヱアロビクスの責任は、原告らと被告日本土地改良、同日本ヱアロビクスとの間において争いがない。
二そこで、被告東横の責任について判断する。
1 <証拠>によれば、
(一) 被告東横は、労働大臣の許可を得て、配ぜん人の職業紹介事業を営む者であること、右職業紹介事業は、配ぜん人に関する限り、申込の内容が法令に違反する等の場合以外は、いかなる求人及び求職の申込についてもこれを受理しなければならないこととされ、また、職業紹介を行うに当たつて所定の手数料以外にいかなる名義でも手数料又は報酬を受けないこととされていること、そして、右手数料は、申込を受理した場合に、申込者から一件につき四〇〇円、就職が決定した場合に、賃金が支払われた日以降に求人者から支払われた賃金の一〇〇分の一〇を受領することとされていること、
(二) 亡茂及び被告瀧本は、被告東横の紹介により、昭和六〇年七月二〇日から被告日本ヱアロビクスに配ぜん人として雇用され、宿泊所と被告日本ヱアロビクスとの間を、同じく被告東横の紹介により被告日本ヱアロビクスに配ぜん人として雇用された我喜屋とともに、被告日本ヱアロビクスの従業員の運転する事故車両で送迎を受けて稼働していたところ、本件事故の前日、被告日本ヱアロビクスの従業員が運転をしなかつたため、事故車両を我喜屋が運転して宿泊所へ帰り、翌朝(本件事故当日)、事故車両を我喜屋が運転して亡茂及び被告瀧本らを同乗させて宿泊所を出発したが、途中で被告瀧本が替わつて運転中に本件事故が発生したこと、
以上の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
2 右の事実に、職業安定法第五条第一項に「この法律で職業紹介とは、求人及び求職の申込を受け、求人者と求職者との間における雇用関係の成立をあつ旋することをいう。」と規定されていて、職業紹介が、同条第五項にいう「労働者の募集」及び同条第六項にいう「労働者供給」と区別されていることを勘案すると、被告東横は、求人者である被告日本ヱアロビクスと求職者である亡茂及び被告瀧本との間の雇用関係の成立を斡旋したにすぎないものといわざるをえず、亡茂及び被告瀧本と被告東横の間に雇用契約が成立し、あるいは、その間に実質的にみて雇用関係と同視しうるような支配関係が存在したものと認めることはできないから、畢竟、被告東横は、亡茂に対し雇用契約上の安全配慮義務を負うことも、また、被告瀧本の過失による本件事故につき、民法第七一五条の規定に基づく使用者責任を負うこともないものといわざるをえない。
したがつて、その余の点について判断するまでもなく、原告らの被告東横に対する請求は理由がないものというべきである。
三進んで、損害について判断する。
1 逸失利益 三八四二万八五五〇円
原告洋治本人の尋問の結果によれば、亡茂は、昭和三八年七月三〇日生れの男子で、本件事故当時満二一歳であり、東洋大学経済学部二年に在学中であつたことが認められ、右認定に反する証拠はない。
右の事実によれば、亡茂は、本件事故で死亡しなければ、卒業予定時の満二四歳から満六七歳までの四三年間、昭和六〇年賃金センサス第一巻第一表、企業規模計、産業計、男子労働者、旧大・新大卒、全年齢平均給与額である年額五〇七万〇八〇〇円を下らない金額の収入を得られたものと推認することができる(右推認を左右するに足りる証拠はない。)から、右収入を基礎とし、生活費として五〇パーセントを控除したうえ、ライプニッツ式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して、亡茂の逸失利益の死亡時における現価を算定すると、次の計算式のとおり、その合計額は三八四二万八五五〇円(一円未満切捨)となる。
507万0800×0.5×15.1568=3842万8550
2 相続
原告洋治本人の尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告らは、亡茂の両親であり、その死亡により右逸失利益の損害賠償請求権を法定相続分に従い、各二分の一の割合で相続取得したことが認められ、右認定に反する証拠はない。
したがつて、原告らの取得額は各一九二一万四二七五円となる。
3 慰藉料 一五〇〇万円
原告洋治本人の尋問の結果によれば、亡茂は、原告らの長男であり、亡茂の死亡による原告らの精神的苦痛は極めて大きいことが認められ、右認定に反する証拠はなく、右の事実に、亡茂の年齢、その他本件において認められる諸般の事情を総合すると、亡茂の死亡による原告らの慰藉料としては、各七五〇万円をもつて相当と認める。
4 葬儀費用 九〇万円
原告洋治本人の尋問の結果によれば、原告洋治は、亡茂の葬儀を行い、これに少なくとも九〇万円を支出したことが認められ、右認定に反する証拠はない。
5 好意同乗による減額 なし
前記認定の本件事故に至つた経緯、同乗の理由によれば、本件事故につき、好意同乗による減額をすべき事情があるものとは認め難いし、他に好意同乗による減額を相当とするような事実関係を認めるに足りる証拠はないから、畢竟、被告日本土地改良、同日本ヱアロビクスの好意同乗の抗弁は理由がないものというべきである。
6 損害のてん補 二八四三万〇三二〇円
以上の原告らの損害額は、原告洋治二七六一万四二七五円、原告幸子二六七一万四二七五円となるところ、原告らが本件事故による損害に対するてん補として自賠責保険から二五〇〇万円、労災保険から三四三万〇三二〇円の支払を受け、これを原告ら各二分の一宛各自の損害に充当したことは、当事者間に争いがないから、これを控除すると、残損害額は、原告洋治一三三九万九一一五円、原告幸子一二四九万九一一五円となる。
7 弁護士費用 一五〇万円
原告洋治本人の尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告らは、被告瀧本、同日本土地改良、同日本ヱアロビクスから損害額の任意の弁済を受けられないため、弁護士である原告ら訴訟代理人らに本訴の提起と追行を委任し、その費用及び報酬を支払う旨約したことが認められるところ、本件訴訟の難易、審理の経過、前示認容額、その他本件において認められる諸般の事情を総合すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用としては、原告洋治八〇万円、原告幸子七〇万円をもつてそれぞれ相当と認める。
四以上によれば、原告らの被告らに対する本訴請求は、本件事故による損害賠償として、被告瀧本、同日本土地改良、同日本ヱアロビクス各自に対し、原告洋治において一四一九万九一一五円、原告幸子において一三一九万九一一五円、及び右各金員に対する本件事故発生の日ののちである昭和六〇年七月二四日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、右限度でこれを認容し、右被告三名に対するその余の請求及び被告東横に対する請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官小林和明)