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東京地方裁判所 昭和60年(ワ)12231号 判決 1988年2月22日

昭和五九年(ワ)第一四七九〇号事件原告 昭和六〇年(ワ)第一二二三一号事件被告

対馬テツ子

昭和五九年(ワ)第一四七九〇号事件原告

八木沢真一

右両名訴訟代理人弁護士

高橋耕

昭和五九年(ワ)第一四七九〇号事件被告 昭和六〇年(ワ)第一二二三一号事件原告

日本共産党青森県委員会こと

日本共産党青森県党組織

右代表者県委員長

小浜秀雄

右訴訟代理人弁護士

渡辺義弘

小林亮淳

鷲見賢一郎

横山慶一

主文

一  昭和五九年(ワ)第一四七九〇号事件原告ら及び昭和六〇年(ワ)第一二二三一号事件原告の各訴えをいずれも却下する。

二  訴訟費用は、昭和五九年(ワ)第一四七九〇号事件については同事件原告らの、昭和六〇年(ワ)第一二二三一号事件については同事件原告代表者県委員長小浜秀雄の各負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

(昭和五九年(ワ)第一四七九〇号事件)

一  請求の趣旨

1  被告は、原告対馬テツ子に対し、東奥日報、デーリー東北、陸奥新報、河北新報及び赤旗の各新聞紙上に、別紙1記載の謝罪広告を二段抜き、五センチメートル幅で各一回掲載せよ。

2  被告は、原告らに対し、それぞれ、各金一〇〇万円及びこれに対する昭和六〇年一月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  第2項につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

(昭和六〇年(ワ)第一二二三一号事件)

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、東奥日報、朝日新聞青森版、読売新聞青森版及び毎日新聞青森版の各新聞紙上に、別紙2記載の謝罪広告を二段抜き、五センチメートル幅で各一回掲載せよ。

2  被告は、原告に対し、金二九二万六三九三円及びこれに対する昭和六〇年一〇月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  第2項につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。(以下、昭和五九年(ワ)第一四七九〇号事件を「第一事件」、昭和六〇年(ワ)第一二二三一号事件を「第二事件」といい、第一事件原告・第二事件被告対馬テツ子を「原告対馬」、第一事件原告八木沢真一を「原告八木沢」、第一事件被告・第二事件原告を「被告」という。)

第二  当事者の主張

(被告の本案前の主張――被告の当事者能力について)

一  被告の当事者能力は、民事訴訟法四六条によつて認められるものである。

同条項の「法人ニ非サル社団」とは、実質上社団と認め得る程度に団体の実質を備えているもの、すなわち民法上の社団法人に準じて内部組織団体の意思決定手続、代表の方法、財産の管理、運営等が定められ、構成員の変動によつても同一性を失うことなく独立して活動する団体と認められる程度の社団性を備えたものと解されており、右要件を満たしていれば、たとえ特定の社団の下部組織であつても独立して当事者能力を認められる。

被告は、訴外日本共産党の下級組織であるが、以下1ないし5のとおり、同党の党大会及び中央委員会の方針と政策を青森県地方において具体化すべく自ら方針と政策を決定し、右方針と政策に従つて独自の活動を行つており、構成員である党員の変更によつても同一性を失うことはなく、財政面においては党費、大衆募金、機関誌赤旗購読代金等を党中央組織と配分取得して財政的基礎とし、独自にこれを管理・運営するとともに、固有の土地、建物、備品、自動車などを所有している。したがつて、被告は、民事訴訟法四六条により当事者能力を有することが明らかである。

1(被告の組織――機関及び代表者)

被告は、訴外日本共産党の全国組織に対し下級組織の関係にあるが、同時に独立した一つの団体として、独自の組織及び代表者を有し、その活動を展開しているものである。被告の組織に関する定めは、訴外日本共産党の規約である日本共産党規約(以下「党規約」という。)の中に定められている(第四章「都道府県組織」)。

被告の最高意思決定機関は、青森県党会議(以下「県党会議」という。)であり、県党会議の終了から次回の県党会議の開催までの指導機関は、青森県委員会(以下「県委員会」という。)である(党規約一七条二項)。県党会議は、青森県委員、准青森県委員及び代議員によつて構成されており(三八条一項)、その指導機関である県委員会を選出し(三九条(三))、県委員会は委員長及び常任委員会の委員を選出する(四二条一項)。

このようにして選出された県委員会委員長は、被告の機関である県委員会を代表するばかりでなく、被告の最高意思決定機関である県党会議を基礎として選出されていることから、被告をも代表する。したがつて、本件においては、県委員会委員長が被告の代表者である。

右のとおり、被告は、独自の組織及び代表者を有し、その構成員である党員の変更によつても同一性を失うことのない法人格なき社団である。

2(被告の名称)

被告は、党規約上の「都道府県組織」に該当するものであつて、その正式名称は「日本共産党青森県党組織」であるが、社会的には「日本共産党青森県委員会」の名称が一般に使用されている。右は被告の中の一機関の名称と同じではあるが、社会的には被告自体を表示する意味に用いられ、これが慣行化しているものである。

3(被告の規約)

被告の組織に関する定めは、前記のとおり、党規約の中に、一四条、一七条二項等のほかは、第四章「都道府県組織」(三八条ないし四四条)を中心として定められているところ、これらの規定は、都道府県組織にのみ適用のある規定であり、このことからしても、被告の組織が、固有の規約によつて意思形成の方法、代表の方法、財産の管理・運営等を確定し、自律的に運営されている団体であることは明らかである。なお、財産の管理・運営等に関しては、党規約五八条、六一条等の規定は、中央組織、地区党組織及び基礎組織にも適用のある規定であるが、都道府県組織にもそれに即した形で適用されるものであり、被告の組織は財産の管理・運営等についても固有の規約を有していると評価し得るものである。

4(被告の活動の独自性)

被告の最高意思決定機関である県党会議(党規約一七条二項)は、党大会及び中央委員会の方針と政策をその地方(青森県)において具体化し、都道府県の方針と政策を決定する権限を有している(三九条(二))。そして、被告は、自ら決定した方針と政策を県委員会の指導の下に実行し具体化するために独自に活動する(四一条)。このように、被告は、全国組織ないしその機関である党大会及び中央委員会の指導を受けつつも、その地方に即した具体的な方針や政策を決定し、被告自らの主体性と責任においてこれを実行し、具体化し、活動を展開しているのである。すなわち、以下のとおりである。

(一)  被告は、政治資金規制法に基づく政治団体として青森県選挙管理委員会に独自に届出をして活動し、その活動における収支についても、同法による収支報告を同委員会に対して自ら行つている。

(二)  青森県下における政治革新を目指す諸活動、すなわち、青森県知事選挙などの選挙活動、青森県内の政治上の諸問題に関する運動、青森県内の政治運動団体への加盟等は、いずれも被告がその主体性と責任の下で活動し、参加しているものである。また、被告は、青森県内外の諸団体からも独自の団体として取り扱われ、各種会合への参加要請を受けるなどしている。

(三)  被告は、本件における原告らによる誹謗中傷に対しても、独自に反撃のための宣伝カーによる広報活動を計画し実行するとともに、赤旗号外を自らの計画と費用で発行し、自らその費用負担を決定するなど、青森県内における原告らの反共デマ宣伝に対抗する政治活動を独自に展開した。

そして、原告らの一連の反共デマ宣伝に対する刑事告訴も、被告の独自の判断と決定で行つたものであり、検察庁もこれを正規のものとして受理している。また、本件第一事件に対する応訴や第二事件の提訴についての方針も、いずれも被告の独自の判断と決定で行つたものである。

5(被告の財政面)

被告の資金源は、党費、事業収入、寄付などである(党規約五八条)。党費は、中央委員会が決める一定の配分率の下に各級組織に配分されている(六一条)。さらに、被告は、政治資金規制法に基づく政治団体として、独自に寄付を受け、また、独自の事業によつて収入を得ている。そして、被告の支出もこれらの収入によつてまかなわれている。

被告は、固有の土地、建物、備品、自動車などを所有し、それらを自主的に管理、運営している。被告が所有する土地及び建物については、被告が法人格を有しないため、便宜上、県委員会委員長の個人名義で登記がされているが、これらの不動産についても、実質的には被告が管理し所有しているのである。また、被告が所有する自動車についても、被告が法人格を有しないため、便宜上、県委員会委員長の個人名義で登録がされているが、これらについても、実質的には被告が管理し所有していることに変わりはない。

被告の専従職員の給与支払に関する源泉徴収税、社会保険料等の徴収納付についても、被告は責任をもつて行つており、税務署や社会保険事務所も、現に被告を徴収者として取り扱つている。

二  以上のとおり、被告は、団体としてその代表者の定めがあり、意思決定機関としての県党会議の運営、規律などは党規約によつて規定されており、その構成員に変動があつても同一性を失うことのない組織を備えている。被告の活動は、党大会及び中央委員会の決定と指導を受けているが、被告自らの責任において、青森県地方に即した具体的な方針及び政策を決定し、それらを実行・具体化しており、また、独自に経済的活動を行つている。

したがつて、被告は、訴外日本共産党の下級組織ではあるが、それ自体が法人格なき社団(権利能力なき社団)として、一つの社会的存在としての独自の活動を展開しているものであり、民事訴訟法四六条によつて当然に当事者能力を認められる。

(第一事件)

一  請求原因

1(当事者)

(一)  原告対馬は、政治団体である訴外緑の党の党首であり、昭和五七年一月当時同党の機関誌である新生活新聞の編集及び発行責任者であつた。

原告八木沢は右当時訴外緑の党青森県本部の代表者であり、同年二月に行われる青森市議会議員選挙の立候補予定者であつた。

(二)  被告は、訴外日本共産党の青森県における県党組織である。

2(被告による告訴)

(一)  被告は、昭和五七年一月五日、青森地方検察庁に対し、原告対馬を名誉毀損罪の罪名の下に告訴した。被告は、右告訴において、原告対馬が発行責任者として発行した昭和五六年一二月二〇日付け新生活新聞の紙面に「県教育委員会ストリップ」、「しらじらしい日共ヌード劇場反対」との見出しの下に「日共の支配する教育の殿堂、青森県教育会館において日共教師どもが恥も外聞もなくヌード実演を行い、参加した教師が豆電灯で局部を照らして見ていたという事実は徐々にではあるが良心的な県民の激しいひんしゆくを買つている。」等の記事(以下「本件記事」という。)が掲載され右新聞が青森市内において多数配布されたことに関して、本件記事は虚偽の事実を掲載したものであつて、原告対馬は右記事によつて公然事実を摘示し訴外日本共産党の県党組織である被告の名誉を毀損した旨主張した。

(二)  被告は、昭和五七年二月一四日ころ、青森地方検察庁に対し、原告八木沢の次の行為につき被告訴人を氏名不詳者として名誉毀損罪及び公職選挙法違反の罪名の下に告訴した。被告は、右告訴において、同原告が青森市栄町二丁目二番一五号所在の自己の選挙事務所の二階窓付近に「日共教育会館ストリップ糾弾」と大きな文字で記載した看板(以下「本件看板」という。)を掲げたことに関して、同月二一日施行予定の市議会議員選挙において被告公認の立候補者を当選させない目的であえて虚偽の事実を掲記したものであつて、原告八木沢は本件看板の掲示によつて公然事実を摘示し訴外日本共産党の県党組織である被告の名誉を毀損した旨主張した。

(以下被告による右の各告訴を「本件告訴」という。)

3(本件告訴による名誉毀損及びその違法性)

(一)  本件記事及び本件看板の記載の根拠となつた事実は、次のとおりである。

(1) 昭和五五年一二月二三日青森県教育会館において青森市立浅虫中学校の忘年会が行われ、その際、右宴会に参加した教師らは、外部から呼び寄せた女性にストリップを演じさせ、真暗な部屋の中で右実演を懐中電灯で照らすなどの痴態に及んだ。

(2) 青森県教育会館(以下単に「県教育会館」という。)は、訴外財団法人青森県教育厚生会(以下「訴外教育厚生会」という。)の支配管理下にある施設であるところ、訴外教育厚生会の理事の大半は訴外青森県教職員組合(以下「訴外県教組」という。)及び訴外青森県高等学校教職員組合(以下「訴外高教組」という。)の出身者によつて占められており、その運営もまたこれらの各組合出身者の方針に従つて行われている。訴外県教組は、その執行部の大半が訴外日本共産党の党員又はその支持者で占められており、その組合員の構成もその主流は訴外日本共産党系であり、訴外日本共産党を組織として支持する組合であつて、正に同党の支配下にある組合ということができる。また、訴外高教組も、訴外日本共産党の指導の下に組織された訴外統一戦線促進労働組合懇談会(以下「訴外統一労組懇」という。)に正式に加盟しており、訴外県教組以上に同党の支配の強い組合である。右のとおり県教育会館は、訴外日本共産党の支配する右両組合によつて運営されているものであり、正に訴外日本共産党の支配する施設であるということができる。

また、右忘年会を主催した幹事である教師は、訴外県教組の役員選挙において訴外日本共産党系の候補者を公然と支持するなど、訴外日本共産党の支持者であつた。

(3) 以上によれば、右ストリップが訴外日本共産党の支配する県教育会館においていわゆる「日共教師」らによつて行われたという事実は明らかであるというべきであつて、本件記事及び本件看板の記載は、いずれもこのような客観的な事実に基づくものであつた。

(二)  被告は、昭和五七年二月二一日投票予定の青森市議会選挙において、被告推薦の候補者五名を擁していたため、前記新生活新聞の報道等の効果を減殺し、選挙を自己の有利に進めるため、選挙対策上本件告訴を行つたものである。

(三)  本件記事及び本件看板の記載は、右のとおりいずれも客観的な事実に基づくものであつたため、被告による本件告訴は、昭和五八年一〇月二八日、名誉毀損についてはいずれも嫌疑不十分、公職選挙法違反(原告八木沢)については嫌疑なしとして、すべて不起訴処分となつた。

(四)  以上のとおり、被告は、本件告訴において、名誉毀損罪を構成する余地のない客観的な事実に基づく本件記事の掲載及び本件看板の掲示について、右の不法な目的のために原告らを名誉毀損罪で告訴したものであつて、このような本件告訴は、いずれも、不当に原告らの社会的信用を傷つけ、その名誉を毀損する違法な行為というべきである。

4(被告の故意又は過失)

(一)  被告は、本件記事及び本件看板の記載が客観的な事実に基づくものであることを知りながら、あえて本件告訴を行つたものである。

(二)  被告は、相応の調査を尽くせば、本件記事及び本件看板の記載が客観的な事実に基づくものであることを容易に知り得たにもかかわらず、かかる調査を全く行うことなく、訴外教育厚生会の理事の説明のみに依拠して本件告訴を行つたものであつて、適切な調査義務を怠つた過失は明白である。

5(損害)

原告らは、被告による本件告訴によつてそれぞれ著しく名誉を傷つけられ、精神的損害を被つた。

右精神的損害を金銭に評価すると、各原告についてそれぞれ各一〇〇万円を下らない。

また、原告対馬については、同原告が告訴された事実は昭和五七年一月六日付け東奥日報や同日付け赤旗によつて広く報道されており、その名誉を回復するためには請求の趣旨第一項のとおりの謝罪広告の掲載によることが必要である。

6 よつて、原告らは、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償請求権に基づき、慰謝料として各一〇〇万円及びこれに対する不法行為の後(訴状送達の日の翌日)である昭和六〇年一月一一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める(請求の趣旨第二項)とともに、原告対馬から被告に対しては民法七二三条に基づき請求の趣旨第一項のとおりの謝罪広告の掲載を求める。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  請求原因1のうち、原告八木沢が昭和五七年一月当時訴外緑の党青森県本部の代表者であつたことは不知、その余は認める。

2  同2は認める。

3(一)(1) 同3(一)(1)のうち、昭和五五年一二月二三日青森県教育会館において青森市立浅虫中学校の忘年会が行われたことは認め、その余は不知。

(2) 同3(一)(2)は否認し、争う。

(3) 同3(一)(3)は争う。

(二) 同3(二)は否認する。

(三) 同3(三)のうち、被告による本件告訴が昭和五八年一〇月二八日名誉毀損についてはいずれも嫌疑不十分、公職選挙法違反(原告八木沢)については嫌疑なしとしてすべて不起訴処分となつたことは認め、その余は否認し、争う。

(四) 同3(四)は争う。

4(一)  同4(一)は否認する。

(二)  同4(二)は争う。

5  同5は争う。

三  抗弁(真実性の証明)

1(事実の公共性)

本件告訴は、いずれもいまだ公訴が提起されていない犯罪行為に関する事実についての告訴であつて、右摘示の対象となる事実が公共性を有することは明らかである。

また、訴外日本共産党は昭和六一年一月末日現在国会に四一、地方議会に三六一四の議席を有する全国的な政党であり、被告はその青森県における県党組織であつて、いずれも国政及び地方政治について重要な責任を負うものであつて、かかる訴外日本共産党及び被告への中傷及び誹謗につき真実を明らかにすることは、まさに公共の利害に関わる事柄というべきである。

2(目的の公益性)

本件告訴は、原告らのような反共デマ宣伝者が行つた悪質な反共デマ宣伝に対する正当な反撃として、民主主義、人権及び選挙の公正を守るために行われたものであつて、公益を図る目的に出たものであることは明らかである。

3(事実の真実性)

原告対馬による本件記事の掲載及び原告八木沢による本件看板の掲示は、本件告訴において指摘したとおり、いずれも殊更に虚偽の事実を摘示し訴外日本共産党の県党組織である被告の名誉を不当に毀損する違法な犯罪行為であつて、本件告訴はいずれも事実を指摘した正当な告訴である。

すなわち、訴外日本共産党に所属する教師が県教育会館で「ストリップ」ないし「ヌード実演」に参加した事実はないし、また、訴外日本共産党及び被告がこれらに関与したことも全くない。前記新生活新聞の記事及び選挙事務所の看板の掲示は、県教育会館内における青森市内の中学校職員の忘年会の席での余興を不当に誇張して問題としたものであるが、右宴会には訴外日本共産党に所属する教師は一人も参加しておらず、訴外日本共産党及び被告はこれに全く関与していない。

県教育会館は、訴外教育厚生会がその独自の寄附行為、規則等に基づき政治的中立の立場から他の諸団体によつて何ら拘束を受けない独立の機関を通じて自らの判断で設置及び管理運営する施設であり、訴外教育厚生会は訴外県教組及び訴外高教組はもとより訴外日本共産党及び被告とは全く別個独立の団体であつて、訴外日本共産党及び被告が訴外教育厚生会ないし県教育会館を支配するなどということはあり得ないし、現にかかる事実は存しない。また、訴外県教組及び訴外高教組は、組合員の政党支持の自由を方針としており、特定政党である訴外日本共産党及び被告に対して支持の組織決定を行つたことは全く皆無であつて、訴外日本共産党が訴外県教組及び訴外高教組を支配しているという事実は全くない。

以上のとおり、県教育会館内における中学校職員の忘年会の席での出来事と訴外日本共産党及び被告との間にはそもそも何らの関連も存しないのであつて、本件記事及び本件看板の記載は、原告らの所属する訴外緑の党の訴外日本共産党に対する一連の誹謗中傷の一環として、訴外日本共産党及び被告に対する有権者の評価を不当に低下させる目的で事実を殊更にねじ曲げて作出された虚偽の誹謗中傷であり、訴外日本共産党及び被告に対する名誉毀損罪を構成することは明らかであるというべきである。

四  抗弁に対する答弁

抗弁事実はすべて否認し、争う。

(第二事件)

一  請求原因

1(当事者)

(一)  原告対馬は、政治団体である訴外緑の党の党首であり、かつ、昭和六〇年当時同党の機関誌である日本新聞(新生活新聞の後身)の編集及び発行責任者であつた。

(二)  第一事件請求原因1(二)のとおり

2(原告対馬の不法行為)

(一)(関連事件及び右事件に対する判決の概要)

(1) 県教育会館の管理運営主体である訴外教育厚生会は、昭和五六年一二月二六日、原告対馬を被告として、本件記事による報道内容が名誉毀損及び業務妨害を構成する不法行為であるとして、名誉回復及び損害賠償を求める訴えを青森地方裁判所に提起した(同庁昭和五六年(ワ)第四九二号事件)。

右訴えの提起と併せて、訴外教育厚生会は、右同日、青森地方検察庁に対し、本件記事について原告対馬を名誉毀損罪及び業務妨害罪の罪名の下に告訴したが、同検察庁は、昭和五八年一〇月二八日、嫌疑不十分を理由に原告対馬を不起訴処分とした。

原告対馬は、昭和五九年三月二六日、訴外教育厚生会を反訴被告として、右告訴が名誉毀損を構成する不法行為であるとして、名誉回復及び損害賠償を求める反訴を提起した(同庁昭和五九年(ワ)第一一六号事件。以下右本訴及び反訴を併せて「別件」という。)。

(2) 青森地方裁判所は、右別件に対して、昭和六〇年二月五日、両当事者の本訴及び反訴をいずれも棄却する旨の判決(以下「別件判決」という。)を言い渡した。

判旨は、本訴事件に関しては、本件記事は青森市議会議員選挙を間近に控えて対立政党である訴外日本共産党を非難攻撃する目的で掲載されたものであつて訴外教育厚生会自体の評価に対して与えた影響は必ずしも大きくないことなどを理由として、結論においてはその請求を棄却したものの、その理由においては、本件記事の表現及び内容は新聞として正当な評論の範囲を逸脱しており、宴会で出席者がたまたま常軌を逸した行為に及んだことに藉口してこれを誇張宣伝し、訴外日本共産党を非難攻撃する材料にしようとする意図に出たものであつて正当な行為ではない旨判示して、本件記事を厳しく批判している。また、判旨は、反訴事件に関しては、本件記事の表現及び内容は右のとおり新聞として正当な論評の範囲を逸脱していたものであるから、訴外教育厚生会においてこれにより名誉及び信用が害されたと信じたことについては相当な理由があり、訴外教育厚生会に右告訴につき故意又は過失は認められない旨判示して、原告対馬の請求を排斥している。

(二)(別件判決に関する原告対馬の報道内容)

訴外緑の党の機関誌日本新聞(新生活新聞の後身)の編集及び発行責任者である原告対馬は、右の別件判決について、昭和六〇年二月一一日付け日本新聞(別紙3)及び同年六月一四日付け同紙号外(別紙4)の各紙面において、右各別紙記載のとおりの記事を掲載し、これらを青森県内において多数配布した。

(三)(各記事掲載による名誉毀損及びその違法性)

原告対馬による右各記事の掲載は、前記別件判決において訴外教育厚生会の本訴請求が結論的には棄却されたことを奇貨として、自らの反訴請求が棄却されたことを秘し、同判決の内容を不当に歪曲して報道することによつて、被告に対する社会的評価を侵害し、その名誉及び信用を毀損する違法な行為である。すなわち、以下のとおりである。

(1) 別件判決は、原告対馬及び訴外教育厚生会双方の請求を棄却し、しかもその理由中においては本件記事による新聞報道が厳しく批判して訴外教育厚生会の告訴を是認しているのであり、実質的には訴外教育厚生会勝訴(原告対馬敗訴)と評すべきものである。

しかるに、原告対馬は、昭和六〇年二月一一日付け日本新聞(別紙3)において、「日共・教育厚生会敗訴、緑の党勝訴」、「二月五日、教育会館ストリップの判決が下された。日共・教育厚生会の告訴棄却。緑の党は勝利した。」等の見出しの下に、「日本共産党の支配する青森県教育会館において、日共教師どもがストリップに興じた事実は、青森県民はもとより、全国で多くの人々を驚がくさせ、激しい怒りを買つている。」、「ストリップが行われたことは、もはや動かし難い事実であり、裁判所も認めているのである。」等の記事を掲げ、別件判決の一部を恣意的に引用することによつて、同判決の内容を不当に歪曲し、あたかも同判決において訴外日本共産党及び被告が支配する県教育会館で同党及び被告所属の教師がストリップに興じたと裁判所が認定したかのごとく虚偽の報道をした。

(2) 別件判決は、訴外教育厚生会と原告対馬との間の訴訟に関するものにすぎず、訴外日本共産党は何らその当事者となつていない。また、同判決は前記のとおり実質的には訴外教育厚生会勝訴(原告対馬敗訴)と評すべきものであつた。

しかるに、原告対馬は、同年六月一四日付け同紙号外(別紙4)において、「緑の党に対する提訴・日共ことごとく敗退」、「ストリップの事実を暴かれて、逆に提訴する日本共産党」、「敗訴にあわてふためく日共の醜態」、「日共の支配する教育会館でストップはあつた。」等の見出しの下に、「青森地裁は二月五日、日本共産党の支配する教育会館でストリップショーが行われた事実(一九八〇年、十二月二十三日)を認めました。」等の記事を掲げ、また、「主文」との見出しの下に主文の内容を全く記載せずに理由の中から本件記事が読者に与える印象を述べた部分を抜き出して記載するなど、別件判決の一部を恣意的に引用することによつて、同判決の内容を不当に歪曲し、あたかも同判決において訴外日本共産党及び被告が支配する県教育会館で同党及び被告所属の教師がストリップに興じたと裁判所が認定し、その結果訴外日本共産党が右訴訟の当事者として敗訴したかのごとく虚偽の報道をした。

(四)(原告対馬の故意)

右のとおり別件判決の内容を不当に歪曲した虚偽の報道が原告対馬の故意に基づくものであることは明らかである。

3(損害)

右各記事は訴外日本共産党及び被告に関して国民(特に青森県民)に誤つた印象を与え、同党及び被告の社会的評価を侵害し、その名誉及び信用を毀損するものである。

(一)  右のとおり侵害された被告の名誉及び信用を回復するためには、請求の趣旨第二項のとおり謝罪広告の掲載によることが必要である。

(二)  被告は、かかる各記事による被告の名誉及び信用の失墜を防ぐため諸々の対抗手段をとらざるを得ず、そのために以下の諸費用の支出を余儀なくされた。

(1) 反論ビラ印刷費 五四万四二〇〇円

(2) 赤旗号外印刷費 六万九七一〇円

(3) 宣伝カー運行軽油代金

一万二四八三円

(4) 弁護士費用 三〇万円

合計 九二万六三九三円

(三)  右名誉及び信用の毀損による損害を金銭に評価すると、二〇〇万円が相当である。

4 よつて、被告は、原告対馬に対し、民法七二三条に基づき請求の趣旨第一項のとおりの謝罪広告の掲載を求めるとともに、不法行為に基づく損害賠償請求権に基づき、財産的損害九二万六三九三円及び精神的損害に対する慰謝料二〇〇万円の総計二九二万六三九三円並びにこれに対する不法行為の後(訴状送達の日の翌日)である昭和六〇年一〇月一七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する答弁

1  請求原因1は認める。

2(一)(1) 同2(一)(1)は認める。

(2) 同2(一)(2)のうち、別件判決の存在は認め、その内容は争う。

(二) 同2(二)は認める。

(三) 同2(三)は否認し、争う。

(四) 同2(四)は否認し、争う。

3  同3は争う。

第三  証拠<省略>

理由

第一被告の当事者能力について

本件においては、本案についての実体的判断に先立つて、被告につき民事訴訟法上の当事者能力が認められるか否かが問題となるので、以下この点について判断する。

一般に、法人格を有しない団体が民事訴訟法四六条の「法人ニ非サル社団」、すなわち権利能力のない社団として訴訟上当事者能力を認められるためには、団体としての組織を備え、構成員の変動にもかかわらず団体そのものが存続し、かつ、その組織によつて代表の方法、総会の運営、財産の管理その他団体としての主要な点が確定しているものであることを要する。

すなわち、ある特定の団体が権利能力のない社団であるというためには、単に構成員の変動によつて団体の同一性が失われないというだけでなく、その社会的活動面及び財政経済面のいずれにおいても、構成員によつて組織される機関を通じて当該団体としての最終的な統一的意思を自律的に決定することが可能であり、かつ、そうした意思決定の機構及び手続が制度的に確立されていること、したがつて、当該団体の構成員及び所定の方法に従つて選任された代表者等の執行機関は、右の機構及び手続に従つて決定された団体の意思による拘束を受けると同時に右団体の意思のみに拘束され、他に何らの制約も受けることなく右団体の決定を当該団体の名において自律的に実行し得るものであることを要すると解すべきである。

<証拠>を総合すると、訴外日本共産党の規約である党規約には、同党の中央組織である党大会及び中央委員会とともに、その下部組織として都道府県組織、地区組織及び基礎組織等の下級組織の機構が規定されているところ、被告は、同党の都道府県組織の一に該当する青森県における県組織であつて、同党の下部組織であること、したがつて、その正式名称は「日本共産党青森県党組織」であるが、社会的には被告の執行機関の名称である「日本共産党青森県委員会」の名称が一般に使用されており、右名称が社会的には被告自体を表示する意味に用いられ、これが慣行化していることが認められる。

このように訴外日本共産党の下部組織(党規約上の名称は「下級組織」。以下「下級組織」という。)である被告が前記のような要件を備えた権利能力のない社団であるというためには、その社会的活動面及び財政経済面のいずれにおいても、党の中央組織から完全に独立した自律的な意思決定の機限を有しており、かつ、そうした最終的な意思決定の機構及び手続が中央組織との関係において制度的に確立され保障されていることを要するというべきである。

そこで、以下、被告について右の各要件の具備の有無を検討することとする。

一被告の社会的活動面における独立性の有無

1  訴外日本共産党の機構・組織についてみるに、<証拠>によると、党規約には、同党の機構・組織に関して次のように定められていることが認められる。

すなわち、その前文において、「日本共産党の組織原則は、民主主義的中央集権制である。」旨明記され、「決定にたいしては、少数は多数にしたがい、下級は上級にしたがい、積極的にこれを実行しなくてはならない。」、「集中的指導をよわめる無原則的な自由主義や分散主義とたたかわなくてはならない。」(以上、前文(三))、「民主主義的中央集権制にもとづき、党員の自覚と厳格な規律による全党の統一と団結こそは、党の生命であり勝利の保障である。したがつて、すべての党員は、いかなる場合にも党の統一をかたく守らなくてはならない。」、「党規律をみだし、決定を実行せず、統一をやぶり、派閥をつくり、分派活動をおこなうことは、党を破壊する最悪の行為である。党の政治方針や組織原則をそこなうような行動はゆるされない。」(以上、前文(四))等と定められている。

さらに、これを受けて、党規約の第二章「組織原則と組織構成」においては、その冒頭に「党の組織原則は、民主主義的中央集権制である。」(一四条前文)旨明記され、「党の決定は、無条件に実行しなくてはならない。個人は組織に、少数は多数に、下級は上級に、全国の党組織は、党大会と中央委員会にしたがわなくてはならない。」(同条五号)と定められ、徹底した中央集権制の組織原則に基づき下級組織は上級組織ないし党全体(中央組織)の決定に無条件に従うべきことが具体的かつ制度的に義務付けられている。

もつとも、党規約の右第二章の中には、当該下級組織及び当該地方の実情を考慮して、①「地方的な性質および地方的に決定すべき問題は、その地方の実情におうじて、都道府県機関と地区機関で自主的に処理する。」(二〇条一項後段)、②「党の政策問題について、下級組織は、党の組織内で討論をおこない、その上級機関に自分の意見を提出することができる。」(二一条二項本文)、③「もし、上級機関の決定が、下級組織の実情にあわないとみとめたばあいには、下級組織は上級機関にその決定の変更をもとめることができる。」(同条三項本文)といつた規定が設けられているが、これらについては、それぞれ、①「下級組織の決定は、上級機関の決定とくいちがつてはならない。」(二〇条二項)、②「ただし、上級機関が決定したのちは、それにしたがい、実行しなくてはならない。」(二一条二項ただし書)、③「ただし、上級機関がなおその決定の実行をもとめたばあいには、下級組織は無条件にこれを実行しなくてはならない。」(同条三項ただし書)と定められており、前記の各規定が適用される場合においても、下級組織は最終的には上級機関の決定に従わなければならず、上級機関の最終的決定に反してまで独自に活動することは許されないことが明記されている。すなわち、基本的には下級組織の自主的処理に委ねられるべき「地方的な性質および地方的に決定すべき問題」についても、上級機関の異なる決定があれば下級組織はこれに従わなければならず、上級機関はいつでも下級組織の自主的処理の権限を剥奪することができるのであつて、最終的な決定権はあくまでも上級機関に留保されているのである。

このような党の組織原則に基づいて、党規約第三章「中央組織」には、党大会の権限として、「党の方針と政策を決定する。」(二六条二号)ことなどが定められ、また、中央委員会の権限として、「党大会からつぎの党大会までのあいだ、党大会の決議を実行し、党の全活動を指導する。」(二七条)という基本的権限に基づき、「対外的に党を代表する。」(二八条一号)、「党の方針と政策を、全党の実践によつてたしかめ、さらにただしく発展させる。」(同条二号)、「下級組織を点検し、指導するため、中央委員会の代表および組織者を派遣する。」(同条四号)、「中央委員会の必要におうじて、下級組織の委員として選出されたものを移動配置することができる。」(同条六号)「党の財産および資金を管理する。」(同条八号)等の権限が定められている。

また、党規約第四章「都道府県組織」には、都道府県組織の議決機関である都道府県会議について、その構成や招集手続(三八条)などと共に、「党大会と中央委員会の方針と政策をその地方に具体化し、都道府県の方針と政策を決定する。」(三九条二号)などの権限が定められており(同条各号)、また、都道府県組織の執行機関である都道府県委員会について、その構成などと共に、「中央機関の決定をその地方に具体化し、都道府県会議の決定を実行し、都道府県の党活動を指導する。」(四一条)権限を有する旨定められている。

2  以上認定の党規約の諸規定に照らすと、訴外日本共産党においては、党規約上、党の下級組織は、最終的には上級機関(中央組織)の決定に従わなければならず、上級機関(中央組織)の最終的決定に反してまで独自に活動することは許されないこととされており、基本的には下級組織の自主的処理に委ねられるべき「地方的な性質および地方的に決定すべき問題」についても、上級機関(中央組織)の異なる決定があれば下級組織はこれに従わなければならず、上級機関(中央組織)はいつでも下級組織の自主的処理の権限を剥奪することができるものとされ、最終的な決定権はあくまでも上級機関(中央組織)に留保されていることが認められる。したがつて、都道府県組織の議決機関である都道府県会議の権限及び都道府県組織の執行機関である都道府県委員会の権限についての前記の定めは、あくまでも中央組織の決定した方針と政策に沿つてその枠内において当該地方における個々の具体的適用ないし実行の方法を決定し遂行し得るというにとどまり、それ以上に都道府県組織独自の決定権限を定めた規定ではなく、しかも、その具体的実行方法の決定において中央組織の決定した方針と政策から逸脱した場合には、中央組織はいつでも都道府県組織の権限を剥奪して党としての最終的意思決定を貫徹することができるものであると認められる。

被告は、前記のとおり、このような党規約上に規定された都道府県組織の一である。そして、<証拠>を総合すると、被告を初めとする各都道府県組織には各組織に固有の規約は存在せず、以上認定したような党規約の中の都道府県組織に関する規定のみが被告を初めとする各都道府県組織を規律する規約であることが認められる。このように、党規約上都道府県組織の一である被告に対してその社会的活動面に関して党の中央組織から独立した自律的な意思決定の権限は与えられておらず、被告固有の規約も存在しない以上、党内において被告にはそのような自律的な意思決定の機構及び手続は制度的に保障されていないものというべきである。

以上の認定、判断に反する証拠はない。

3  被告は、都道府県組織の議決機関である都道府県会議の権限に関する前記党規約三九条二号、都道府県組織の執行機関である都道府県委員会の権限に関する前記党規約四一条等を根拠として、当該地方の実情に即した具体的な方針や政策の決定、実行に関する被告の活動の独自性を主張するが、右各規定をもつて党規約上都道府県組織の一である被告が党の中央組織から独立した自律的な意思決定の権限を有することの根拠となし得ないことは、右に判示したとおりであり、被告の右主張は理由がない。

また、<証拠>の各青森県党会議決議(案)は、被告の議決機関である青森県党会議がその権限において行つた決議の内容を記したものであるが、これらが訴外日本共産党の中央組織である党大会ないし中央委員会の方針や政策による拘束を受けない被告独自のものであると認めるに足りる証拠はなく、かえつて、その記載に照らすと、これらは党大会ないし中央委員会の方針や政策に沿つてそれを青森県内の実情に即して具体的に表したものであることがうかがわれるのであつて、これらの決議は、党規約の各規定に基づき都道府県組織の権限の枠内において行われたものであり、党規約所定の権限を超えるものではないというべきである。したがつて、これらの決議の存在は前記2の認定を左右するに足りるものではない。

4  被告は、被告が政治資金規制法に基づく政治団体として独自に届出をして活動し、同法による収支報告を自ら行つていることを主張し、この事実をもつて被告の活動の独自性の根拠としているので、この点について判断する。

<証拠>を総合すると、被告は、政治資金規制法に基づく政治団体として届出をし、その選挙費用等に関する収支について同法による収支報告を行つていることが認められる。

しかしながら、政治資金規制法に基づく政治団体の届出及び収支報告は、同法一条に明記されているように、政党その他の政治団体及び公職の候補者により行われる政治活動が国民の不断の監視と批判の下に行われるようにするため、政治団体の届出並びに政治資金の収支の公開及び授受の規制その他の措置を講ずることにより、政治活動の公明と公正を確保し、民主政治の健全な発達に寄与することを目的として法律が要求している制度であつて、同法が政治団体の届出及び収支報告書の提出を基本的には各地方ないし区域を単位としてさせることとしている(同法六条)のも、専ら右の規制を実効あらしめるための法技術的観点に基づくものとみるべきであり、同法に基づく規制は、民事訴訟法上の当事者能力の有無(自律的決定権の有無)という観点とは全く異なる政策的な観点から設けられている制度というべきであるから、かかる目的及び趣旨に基づく政治資金規制法上の政治団体として実際に届出及び収支報告を行つているからといつて、そのことが民事訴訟法上の当事者能力(自律的決定権の存在)を肯定すべき理由となり得ないことは明らかである。

したがつて、被告が政治資金規制法に基づく政治団体としての届出及び収支報告を行つていることを被告の民事訴訟法上の当事者能力(被告の活動の独立性)を認めるべき根拠として掲げる被告の主張は、理由がない。

5  被告は、青森県知事選挙などの選挙活動、青森県内の政治上の諸問題に関する運動、青森県内の政治運動団体への加盟等、青森県下における諸々の政治活動は、いずれも被告がその主体性と責任の下で活動し参加しており、また、青森県内外の他の団体からも被告は独自の団体として取り扱われている旨主張し、右事実を被告の活動の独自性の根拠としているので、この点について判断する。

<証拠>を総合すると、被告は青森県知事選挙などの青森県下の諸選挙においては青森県における被告としての方針を決定しそれに沿つて選挙活動を行つていること、被告は、三沢基地問題、陸奥湾における日米合同演習問題、核兵器反対運動、売上税問題等、青森県内における政治上の諸問題に関して、他の政治団体等の諸団体への呼びかけや参加の要請を旨とする文書、自衛隊、県知事、内閣総理大臣等に対する抗議文、申入書、声明文等の文書を被告名義で(社会的に被告自体を表示する名称として使用され慣行化している「日本共産党青森県委員会」の名称の下に)発行し、集会を行うなどの活動を行うなどの活動を行つていること、被告は青森県内の政治的親睦団体である訴外「日本の平和と民主主義をめざす青森懇談会(略称青森県革新懇)」(以下「訴外青森県革新懇」という。)に被告名義で(その名称については前同)加盟していること、医療問題、国鉄分割民営化問題、アフリカ援助問題、春闘問題、売上税問題等に関する青森県内の関係諸団体からの各種委員会への参加要請ないし援助要請は被告を名宛人として(その名称については前同)発せられていること、以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

しかしながら、第一に、被告の選挙及び政治上の諸問題に関する諸活動については、それらが訴外日本共産党の中央組織である党大会ないし中央委員会の方針や政策による拘束を受けない被告独自のものであると認めるに足りる証拠はなく、かえつて、党大会ないし中央委員会の方針や政策に沿つてこれを青森県内の実情に即して具体的に実行したものであることがうかがわれるのであつて、右は、党規約の各規定によつて定められた前記認定の都道府県組織の権限の枠内にとどまるものであり、党規約所定の権限を超えるものではないというべきである。したがつて、それらの諸活動の存在は前記2の認定を左右するに足りるものではない。

第二に、訴外青森県革新懇は、前記のとおり青森県内における政治的諸団体の連合体にすぎず、このような性格の訴外青森県革新懇に加盟した団体であるからといつて、そのことは、被告が訴外日本共産党内部において中央組織から独立した自律的決定権を有することの根拠となり得るものではない。

第三に、青森県内の関係諸団体からの各種要請が被告を名宛人として発せられているといつても、そのことは、被告が訴外日本共産党の青森県における下級組織として県内において広くその存在及び活動を知らされていることを示すにすぎず、それ以上にそうした下級組織である被告が訴外日本共産党内部において中央組織から独立した自律的決定権を有することの根拠となり得るものではない。

以上のとおりであるから、被告の青森県内における諸活動等を被告の独立した自律的決定権を認めるべき根拠として掲げる被告の主張は、いずれも理由がない。

6(一)  被告は、被告を非難する原告らの本件記事等に対しても、反撃のため宣伝カーによる広報活動を計画し実行するとともに、赤旗号外を自らの計画と費用で発行するなど、青森県内における原告らの反共宣伝に対抗する政治活動を独自に展開した旨主張し、右事実を被告の活動の独自性の根拠としているので、この点について判断する。

<証拠>を総合すると、訴外日本共産党を非難する原告らの本件記事等に対して、被告の構成員らは宣伝カーによる反論の広報活動を実行したこと、党の機関誌である赤旗の号外(発行者名義は党中央委員会)に原告ら及び原告らの所属する訴外緑の党に対する反論の記事が掲載されたが、右号外については、被告の構成員らが関与してその記事内容を作成し、発行費用は被告の予算の中から支出したこと、被告は原告ら及び訴外緑の党に対する反論の記事を掲載したビラを党の地区組織の一である訴外日本共産党東青地区組織(以下「東青地区組織」という。)に委託して同組織の名義で(被告と同様社会的に慣用化して使用されている「日本共産党東青地区委員会」の名称の下に)発行させ、その費用は被告の予算の中から支出したこと、これらの方法により青森県内における党内組織全体によつて原告らの訴外日本共産党に対する非難や攻撃に対抗する活動が行われたこと、以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

しかしながら、<証拠>を総合すると、原告ら及びその所属する訴外緑の党は、本件記事掲載の相当以前から現在に至るまで党の機関誌、ビラその他の媒体を通じて訴外日本共産党に対して言論による激しい非難や攻撃を繰り返してきたこと、これに対し、訴外日本共産党においても、党の機関誌である赤旗(前記の号外以外にも多数)等に再三にわたつて反論の記事を掲載するなど、訴外緑の党及び原告らのそうした非難や攻撃に対抗する言論活動を党全体の活動として現在に至るまで一貫して行つてきたこと、したがつて、訴外緑の党の非難や攻撃に対抗する言論活動については党の中央組織としてもこれを当然の活動として推進してきたこと、以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

右認定の事実に徴すると、前記認定の被告の構成員らが行つた宣伝カーによる広報活動、被告の構成員らがその記事作成に関与した赤旗号外や東青地区組織が被告の委託を受けて発行したビラなどによる言論活動は、いずれも訴外日本共産党全体としての訴外緑の党及び原告らに対抗する言論活動の一環として行われたものというべきであつて、これを党の中央組織の方針とは無関係の被告独自の独立した活動と認めることはできない。

(二)  また、被告は、本件告訴並びに第一事件の本件訴えに対する応訴及び反訴(第二事件)の提起はいずれも被告独自の判断と決定で行つた旨主張し、右事実を被告の独自性の根拠としているので、この点について判断する。

<証拠>を総合すると、本件告訴は、被告において事前に党の中央組織と協議することなく被告内部で決定され、被告を告訴人として(その名称については前同)行われ、青森地方検察庁はこれを受理したこと、また、原告らによる第一事件の本件訴えに対する被告の応訴及び反訴(第二事件)の提起は、被告内部の決定に基づいて行われ、特段党の中央組織に対して明示に承認を求めることはされなかつたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

しかしながら、原告ら及びその所属する訴外緑の党は、本件記事掲載の相当以前から党の機関誌、ビラその他の媒体を通じて訴外日本共産党に対して言論による激しい非難や攻撃を繰り返していたこと、これに対し、訴外日本共産党においても、党の機関誌である赤旗(前記の号外以外にも多数)等に再三にわたつて反論の記事を掲載するなど、訴外緑の党及び原告らのそうした非難や攻撃に対抗する言論活動を党全体の活動として一貫して行つてきたこと、したがつて、訴外緑の党及び原告らの非難や攻撃に対抗する言論活動については党の中央組織としてもこれを当然の活動として推進してきたことはいずれもさきに(一)において認定したとおりであり、さらに、右認定の事実に<証拠>を総合すると、本件告訴の後、被告と党の中央組織との間では本件記事及び看板をめぐる問題に関する対策について第一事件の訴えが提起される前に協議が行われたが、本件告訴について党の中央組織の側から特段反対の意思が示されたことはなく、むしろ刑事告訴、民事訴訟の提起ないし提起された民事訴訟に対する応訴や反訴の提起、党の機関誌である赤旗への反論の記事掲載など、原告ら及び訴外緑の党に対抗する措置として既に実行されあるいは将来実行することが考えられる手段については、中央組織の側からもこれを積極的に支持する姿勢が示されたこと、その結果、第一事件の訴え提起後において、党の機関誌である赤旗には、右訴えに対する被告の応訴及び被告からの提訴(第二事件)についてこれを支持する論調の記事(被告の応訴については、「『緑の党』裁判で日本共産党」との見出しの下に被告の主張を「日本共産党側」の主張として紹介し、右応訴を訴外日本共産党としての対応と位置付けている。)が掲載されたこと、その後現在に至るまで第一事件の本件訴えに対する応訴や被告からの提訴(第二事件)等の被告の対応に関して党の中央組織の側から特段反対の意思が示されたことはなく、これを支持する姿勢が維持されていること、以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

以上認定の諸事実に徴すると、本件告訴並びに第一事件の本件訴えに対する応訴や被告からの提訴(第二事件)は、いずれも訴外日本共産党全体として従前から訴外緑の党の非難や攻撃に対して一貫して対抗措置を採つてきた経緯に沿つて、党の中央組織の事後ないし事前の承認及び支持の下に党全体の方針の一環として行われたものというべきであつて、これを党の中央組織の方針とは無関係の被告独自の独立した活動と認めることはできない。

また、被告を告訴人とする告訴が受理された事実に関しては、当該捜査機関が本件告訴を受理したからといつて、被告の民事訴訟法上の当事者能力の有無につき別段判断が示されたというわけではなく、また、民事訴訟法上の当事者能力に関する判断は、捜査機関が当該告訴を受理するか否かによつて左右されるものではないから、右事実をもつて被告の民事訴訟法上の当事者能力を肯認する根拠とすることはできない。

(三)  したがつて、本件記事及び看板を初めとする原告らの一連の非難や攻撃に対する被告の対応をとらえてこれを被告の活動の独立性の根拠とする被告の主張は、理由がない。

7 以上のとおり、訴外日本共産党においては、党規約上都道府県組織の一である被告に対してその社会的活動面に関して党の中央組織から独立した自律的な意思決定の権限は与られておらず、被告は中央組織の決定した方針と政策に沿つてその枠内において青森県地方における個々の具体的適用ないし実行の方法を決定し遂行し得るにとどまり、被告固有の規約も存在しない以上、党内において被告には自律的な意思決定の機構及び手続は制度的に保障されていないものというべきであり、また、被告が実際に行つている諸活動についても、いずれも、党の中央組織の決定した方針と政策に沿つてその枠内で当該地方における具体的な適用ないし実行を行つているにとどまり、これを党規約所定の権限の範囲を超えた被告独自の活動と認めることはできないというべきである。

したがつて、被告について、その社会的活動面に関して党の中央組織から独立した自律的な意思決定の権限を認めることはできないというべきである。

二被告の財政経済面における独立性の有無

1  訴外日本共産党の財政面に関する規約上の規定の内容についてみるに、<証拠>によると、党規約には、第九章「資金」において、党の資金源の調達方法に関して、「党の資金は、党費、党の事業収入および党への寄付などによつてまかなう。」(五八条)、「党費は実収入の一パーセントとする。」(五九条一項)、「入党するものは、入党にさいし、入党費をおさめる。」(六〇条)等と定められており、党費の金額及び納入方法並びにその各党内組織への配分の決定方法に関しては、「入党費の額は中央委員会で決定する。」(六〇条)、「党費の納入方法と各級指導機関への配分率は、中央委員会がきめる。」(六一条)と定められていること、また、そうした中央委員会の権限として、第三章「中央組織」において、中央委員会は「党の財産および資金を管理する。」(二八条八号)権限を有していることが明記されていること、都道府県組織を初めとする党の下級組織(下部組織)の財政上の権限及びその中央組織との関係については別段規定が設けられていないことが認められる。

また、被告を初めとする各都道府県組織には固有の規約は存在せず、党規約上の規定以外にその権限を規定する規約が存在しないことは、前記認定のとおりである。

したがつて、訴外日本共産党において、都道府県組織を初めとする党の下級組織(下部組織)の財政上の権限及びその中央組織との関係がどのように定められているかについては、党費に関する配分方法の定め方等の一部の事項を除いては、党規約の各規定上必ずしも明らかではないというべきである。

2  そこで、訴外日本共産党及び被告における財政経済面の実際の運用の態様についてみるに、<証拠>を総合すると、

(一) 訴外日本共産党における党費の徴収方法は、各党員が自己の所属する組織(原則として基礎組織(支部)、県委員の場合は県党組織)に自己の収入の一パーセントを納入し、その合計の中から中央委員会の決定した配分率に従つて当該組織において一定の割合で活動資金をプールした上で残余をその直近の上級機関に納入し、当該上級機関も同様に一定の割合で活動資金をプールした上で残余を更にその直近の上級機関に納入し、最終的に中央委員会への納入が行われるというものであり、その各組織間の配分の割合は、すべて党規約に定められているとおり中央委員会の決定した配分率に従つて行われていること、被告は右の定めのとおり中央委員会の決定した配分率に従つて党費の配分を受けていること、

(二) 党費以外の財源としては、被告は、党の機関誌赤旗の販売による収入等の事業収入や募金、寄付など、被告の構成員の青森県下における諸活動等によつて資金を得ているが、これらの資金についても、被告は中央組織と配分して取得していること、

(三) 選挙資金に関しては、被告は、被告自体の事業収入や募金などによつて取得した資金のほかに、中央委員会から本部交付金と称する資金の分配による援助を受けていること、

(四) 資金の運用に関しては、被告を単位とする予算及び計算の下に、原則として被告内部において資金の運用方法が決定されてそれが実行され、収支計算が行われていること、したがつて、被告の構成員らの青森県下における諸活動の費用に関しては、原則として被告の配分取得した資金(予算)の中から被告名義で(社会的に被告自体を表示する名称として使用され慣行化している「日本共産党青森県委員会」の名称の下に)支出されていること、

(五) 被告の専従職員の給与支払に関する源泉徴収税及び社会保険料(厚生保険料、労働保険料)に関しても、被告は、被告名義で(前同様「日本共産党青森県委員会」の名称の下に)徴収納付を行つていること、税務署や社会保険事務所もこのように被告名義の徴収納付を承認し、被告宛てにその請求を行つていること、

(六) 現在被告の事務所として使用されている建物及びその敷地である土地は、被告が募金において寄付を受けた資金によつて取得した物件であるが、被告の旧代表者須藤昭四郎(以下「須藤」という。)の個人名義で登記がされていること、右須藤と被告との間では確認書と題する書面が取り交わされ、その中で、右土地建物は被告の所有物件であつて被告が法人格を有しないために便宜上右取得当時の代表者須藤の名義で登記をしたものである旨を相互に確認し合つていること、また、被告の事務所において使用されている自動車二台は、被告の予算の中から支出された資金によつて取得された物件であるが、所有者名は売主である自動車販売会社の名義、使用者名は被告の構成員である訴外矢木正及び同沢田半右衛門の名義でそれぞれ登録されていること、右各訴外人と被告との間では確認書と題する書面がとり交わされ、その中で、使用者については被告が法人格を有しないために便宜上右各訴外人の名義で登録をしたものであり、その後代金(分割払)の完済によつて右各自動車の所有権は移転しているが登録名義が未変更のままになつているものである旨を相互に確認し合つていること、

(七) 被告は、党費のみならず党費以外の財源によつて得られた資金に関しても、その運用の結果をすべて中央委員会に報告することとされておりこれを実行していること、

以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はなく、また、

(八) 被告が政治資金規制法に基づく政治団体としての届出及び収支報告を行つていることは、前記一4において認定したとおりである。

3  以上の事実によると、被告は、党費については党規約の定めのとおり中央委員会の決定した配分率に従つて配分を受けているにとどまるけれども、その他の財源に関しては、事業収入や募金、寄付など、青森県下における諸活動等によつて自ら資金を取得しており、また、資金の運用に関しても、被告を単位とする予算及び計算の下に、被告内部において資金の運用方法を決定・実行して収支計算を行い、被告の青森県下における諸活動の費用や右活動に必要な諸財産の購入費を被告の資金(予算)の中から被告名義で支出するなど、一定の範囲において被告を単位とする経済的活動を行つているものということができる。

しかしながら、前記一において訴外日本共産党の機構・組織について認定したとおり、党規約上、訴外日本共産党において党の下級組織に対して社会的活動面における自律的決定権は与えられておらず、被告にはそのような自律的決定権は制度的に保障されていないこと、また、実際に、被告の青森県下における諸活動は、いずれも党の中央組織の方針ないし政策の枠内のものであつて、党規約に定められた都道府県組織としての権限を何ら超えるものではないこと、さらに、前記2において認定したとおり、被告は、党費のみならずそれ以外の財源による資金についても党の中央組織と配分して取得するにとどまり、特に選挙資金に関しては中央委員会から本部交付金と称する資金の分配による援助を受けていること、資金の運用の結果についてはすべて中央委員会に報告することとされこれを実行していること、以上の事実が認められるのであつて、これらの諸事実に照らすと、前記のように一定範囲において被告を単位とする経済的活動が行われているからといつて、直ちに被告につき財政経済面において党の中央組織から完全に独立した決定権が存すると認めることはできない。かえつて、前記の党規約上の訴外日本共産党の機構・組織及び経済面における前記の被告と中央組織との間の関係からすると、被告のそうした経済的活動は、被告の報告を受けた中央委員会からみてそれが当該地方の実情に照らして適切なものと承認し得る範囲において被告の自主的処理に委ねられているにすぎず、それが不相当なものと認められる場合には党の中央組織としてはその自主的処理の権限を剥奪することもできるのであるから、最終的な決定権はやはり中央組織に留保されているものと解するのが相当であつて、被告において中央組織の明示の決定に反してまで独自に財政経済的活動を行い得るものと解することはできない。

なお、前記の事実のうち、政治資金規制法に基づく政治団体としての届出及び収支報告(前記2(八))に関しては、同法の目的及び趣旨(前記一4において判示したとおり)に照らすと、右事実が被告の独立性の根拠となり得ないことは、その社会的活動面のみならず財政経済面に関しても前記一4において判示したところと全く同様の理由によつて明らかであり、右事実を被告の独立性の根拠とする被告の主張は、理由がない。

また、前記の事実のうち、源泉徴収税及び社会保険料の支払名義(前記2(五))の点に関しては、税務署や社会保険事務所における納税者ないし納付者の認定は、所轄署の決定の必要性もあり原則として各地方ないし地域を単位として行われるのが通例であり、民事訴訟法上の当事者能力の有無(自律的決定権の有無)とは全く異なる徴収事務上の形式的、政策的な観点から判断されるべきものであるから、税務ないし社会保険の実務上納税者ないし納付者として認定されたからといつてそのことが民事訴訟法上の当事者能力(自律的決定権)を肯定すべき根拠となるものではなく、右の点に関する被告の主張は、理由がない。

4 以上のとおり、一定の範囲において被告を単位とする経済的活動が行われている事実は認められるけれども、そのことによつて直ちに被告につき財政経済面において党の中央組織から完全に独立した決定権が存すると認めることはできず、党規約上の訴外日本共産党の機構・組織及び経済面における被告と中央組織との間の関係からすると、被告の右経済的活動は、党の中央組織からみてそれが当該地方の実情に照らして適切なものと承認し得る範囲において被告の自主的処理に委ねられているにすぎず、それが不相当なものと認められる場合には中央組織としてはその自主的処理の権限を剥奪することもできるのであるから、最終的な決定権は中央組織に留保されているものと解するのが相当であり、被告において中央組織の明示の決定に反してまで独自に財政経済的活動を行い得るものと解することはできない。

したがつて、被告につき、財政経済面に関し党の中央組織から完全に独立した自律的決定権を認めることはできない。

三以上のとおり、被告については、社会的活動面及び財政経済面のいずれにおいても党の中央組織から完全に独立した自律的決定権を認めることはできず、したがつて、民事訴訟法上の当事者能力を肯認することはできない。

第二結論

右の次第で、本件第一事件の訴えは、民事訴訟法上の当事者能力を有しないものを被告として提起された訴えであり、また、本件第二事件の訴えは、民事訴訟法上の当事者能力を有しないものが原告となつて提起した訴えであつて、いずれも不適法な訴えであるから、その余の点について判断するまでもなく、本件第一及び第二事件の各訴えをいずれも却下することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条一項本文及び九九条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官新村正人 裁判官近藤崇晴 裁判官岩井伸晃)

別紙1 謝罪広告

日本共産党青森県委員会は、昭和五六年一二月二〇日付新生活新聞の一面トップおよび二面末尾に掲載した日本共産党及び青森県教育会館に関する記事を虚偽の報道として、昭和五七年一月五日、青森地方検察庁に編集長対馬テツ子を名誉棄損罪等で告訴しました。

しかし、右報道にある「県教育会館においてヌード実演」との点は真実であり、告訴も不起訴に終わりました。右の誤った告訴により、新生活新聞社の営業を妨害し、その編集長対馬テツ子の社会的信用を著しく傷つけました。誠に申しわけありません。

よって、ここに深く謝罪するとともに将来にわたって再びかかる不法なる行為なきことを誓約いたします。

別紙2 謝罪広告

日本新聞社こと対馬テツ子は、昭和六〇年二月一一日付日本新聞及び同年六月一四日付同紙号外において、“日共が支配する青森県教育会館で、日共教師らがストリップショーに興じていた。これらの点を青森地方裁判所も判決で認めた”旨報道しました。

右報道は、全くの虚偽事実を報道したもので、日本共産党青森県委員会の名誉と社会的信用を著しく傷つけるものです。誠に申し訳ありません。

ここに深く謝罪するとともに、将来にわたって再びかかる不法な行為は一切行わないことを誓約致します。

昭和  年  月  日

日本新聞社こと 対馬テツ子日本共産党青森県委員会 御中

別紙3 日本新聞(一九八五年二月一一日)<省略>

別紙4 日本新聞号外(一九八五年六月一四日)<省略>

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