東京地方裁判所 昭和60年(ワ)3020号 判決 1987年1月30日
原告 株式会社ギヤラリー大和
右代表者代表取締役 大和実
原告 大和実
右両名訴訟代理人弁護士 服部正敬
右両名訴訟復代理人弁護士 村本道夫
被告 株式会社丸幸
右代表者代表取締役 山根康正
右訴訟代理人弁護士 川辺直泰
同 福地領
主文
一、被告は、原告株式会社ギャラリー大和に対し、金一三八四万三八七八円及びこれに対する昭和六〇年四月一一日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
二、原告株式会社ギヤラリー大和のその余の請求を棄却する。
三、被告は、原告大和実に対し、金一五〇〇万円及びこれに対する昭和五九年六月九日から完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。
四、訴訟費用は全部被告の負担とする。
五、この判決は、原告両名の勝訴部分に限り、仮に執行できる。
事実
第一、当事者の求めた裁判
一、原告両名
被告は、原告株式会社ギヤラリー大和(以下「原告会社」という。)に対し、一三八四万三八七八円及びこれに対する昭和六〇年四月一一日から完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。
主文第三項及び第四項と同旨
仮執行宣言
二、被告
原告両名の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告両名の負担とする。
第二、当事者の主張
一、請求原因
(原告会社)
1. 原告会社は、昭和五九年六月八日被告との間で合意した被告を貸主、原告会社を借主とする一億円の金銭消費貸借契約に基づく借受金債務の弁済等として、被告に対し次のとおり金銭を支払い又は債務を消滅させた。
(一) 昭和五九年七月二八日 六三八万二七五〇円
(二) 同年七月三〇日 五〇〇万円(相殺)
原告会社は、右同日、被告に対しブロンズ人形一個を一一〇〇万円で売り渡したが、原告会社及び被告は、その代金債権の一部五〇〇万円と被告の原告会社に対する本件貸金債権中五〇〇万円とを相殺することを合意し、もって原告会社は本件借受金債務中五〇〇万円を消滅させた。
(三) 同年九月一一日 五六一万七二五〇円
(四) 昭和六〇年三月三日 七七五〇万円
(五) 同年八月二九日 一七五〇万円
原告会社は、昭和五九年六月八日、被告に対し本件借受金債務弁済のために原告会社振出しで金額一七五〇万円満期昭和六〇年三月三日の約束手形一通を交付していたが、被告は右約束手形を株式会社丸菱に裏書譲渡した。株式会社丸菱は、原告会社に対し、右約束手形金請求の手形訴訟を提起し、その手形判決により昭和六〇年八月二九日右約束手形についての原告会社の預託金返還請求権の差押転付を受け、右手形判決は同月中に確定した。これにより原告会社は被告に対し一七五〇万円を支払ったこととなる。
2. 原告会社は西洋美術品の売買を業とする株式会社である。
3. 右各弁済及び相殺の結果、原告会社は一三八四万三八七八円の過払いをしたことになるので、原告会社は、被告に対し、不当利得返還請求権に基づき、右一三八四万三八七八円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である昭和六〇年四月一一日から完済に至るまで商事法定利率の年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。
なお、被告は、昭和六〇年七月五日午前一〇時の本件口頭弁論期日に、請求原因1(一)及び(三)の各金員を原告会社主張の借受金債務の弁済として受領したことを自白しており、原告会社は被告の右自白撤回に異議がある。
(原告大和)
4. 原告大和は、昭和五九年六月八日、被告との間で、被告において宅地に造成予定の町田市玉川学園八丁目六三七番一畑九九一平方メートル及び同番二畑九二八平方メートル(合計五八〇・四九坪)のうち東北端の角地部分九四・六一坪(以下「本件土地」という。)を、代金一億五九六万三二〇〇円、宅地に造成のうえ、昭和六〇年三月三一日限り所有権移転登記をし、かつ引き渡すとの約で買い受ける契約を締結し、即日手付金一五〇〇万円を支払った。
5.(一) 被告は、本件土地の造成工事に着手せず、昭和六〇年二月二三日現在で、宅地造成のために必要な都市計画法三二条に定める同意も得てなく、同法三三条に定める開発許可申請もしていない状態にあり、履行期限である同年三月三一日までに造成をして引き渡すことは不可能であった。
(二) そこで、原告大和は、昭和六〇年二月二五日被告に到着した書面で本件売買契約解除の意思表示をした。
6. 仮に右履行不能による解除の理由がないとしても、
(一) 被告は、その後も本件土地の造成に着手せず、都市計画法三二条に定める同意も得ず、同法三三条に定める開発許可申請もしなかった。
(二) 原告大和は、昭和六〇年一二月二日、被告に対し、同月二〇日までに本件土地を造成のうえ所有権移転登記手続及び引渡しをするよう催告するとともに、右期限までに履行のない限り右期限の経過とともに本件売買契約を解除する旨の意思表示をした。
(三) 右期限が経過した。
7. 被告は不動産の売買等を業とする株式会社である。
8. よって、原告大和は、被告に対し、本件売買契約の解除に基づき、手付金一五〇〇万円の返還及び手付金支払の日の翌日昭和五九年六月九日から完済に至るまで商事法定利率の年六分の割合による利息の支払を求める。
二、請求原因に対する認否
1. 請求原因1の事実のうち、(二)(四)(五)の各事実は認めるが、(一)及び(三)の事実は否認する。(一)及び(三)の各日時に原告主張の各金員の支払を受けた事実は認めるが、右は利益分配金であって借受金債務の弁済ではない。すなわち、原告会社は、昭和五九年四月ころ、被告に対し、海外で美術品を購入する資金一億円の融通を求め、輸入した美術品を国内で販売した際に得られる利益五〇〇〇万円を折半するとのことであったので、被告は、融資金について利息の支払を受けるほかに利益配分の前渡金として一二〇〇万円の支払を受けることを原告会社との間で合意し、その支払を受けたものである。
被告は、昭和六〇年七月五日午前一〇時の本件口頭弁論期日に右(一)及び(三)が原告会社主張の債務の弁済であることを認めたが、右は被告訴訟代理人の思い違いによりした真実に反する自白であるから、これを撤回する。
2. 同2の事実は認める。
3. 同4の事実のうち、履行期限については否認するが、その余は認める。
4. 同5の事実のうち、(一)は否認し、(二)は認める。
5. 同6の事実のうち、(一)は否認し、(二)は認める。
6. 同7の事実は認める。
三、抗弁
1. (請求原因1に対し)
(一) 被告は、昭和五九年六月八日、原告会社との間で、合計一億円を、利息年一三・二パーセント、遅延損害金年三割、弁済期昭和六〇年三月三日との約で貸しつけることを合意し、同日、昭和六〇年三月三日までの利息九九〇万円及び担保設定費用預り金として五〇万円を控除して六〇六二万円を原告会社に交付し、更に昭和五九年六月一一日に一三二五万円、同月二六日に一五七三万円をそれぞれ交付した。
(二)(1) 原告会社は、右借受金の弁済のため、請求原因1(五)の約束手形を被告に交付していたが、原告会社は昭和六〇年三月三日の満期日に右約束手形を不渡りとし、これが強制執行によって弁済の効果を生じたのは請求原因1(五)のとおり昭和六〇年八月二九日であった。
(2) そのため、一七五〇万円はまず次の金員(合計四七三万二一五九円)に充当され、残額が貸金債権に対する弁済となる。
(ア) 昭和六〇年三月四日から同年八月二九日まで約定の年三割の割合による遅延損害金二五七万四六五七円
(イ) 約束手形金取立てのため、被告は弁護士斎藤純一に委任して預託金返還請求権の仮差押え、手形訴訟、本差押え、転付命令の各法的手続をとったが、これら手続の印紙代及び郵券代として一一万二〇五〇円、弁護士報酬二〇〇万円を要した。
(ウ) 右仮差押えのため保証金一七五万円を供託したことにより、昭和六〇年三月二二日から同年八月二八日まで年六パーセントの割合による四万五四五二円の損害を生じた。
2. (請求原因3ないし5に対し)
原告大和は、昭和六〇年二月二五日、被告に対し、手付金放棄により本件土地売買契約を解除する旨の意思表示をした。
3. (請求原因3ないし5に対し)
(一) 被告は、本件売買契約締結直前から本件土地を含む六三七番一及び同番二の各土地の開発許可申請をしていたが、原告会社及び原告大和からそれぞれ右二筆の土地に対して仮差押えがなされたため、解放金供託により執行が取り消されるまでの間、開発許可審査手続が事実上停止されたこと及び行政庁から開発について近隣住民の同意を得るよう行政指導がなされ、この同意取得に手間どったことの二つの理由により開発許可の取得が遅れ、昭和六〇年一一月二八日に開発許可がなされた。
右の理由により、この間の遅延について被告には帰責事由がない。
(二) また、本件土地は市街化区域内にある農地であるため、原告大和に対する所有権移転登記をするためには、売主買主が連署して実印を押捺した農地法五条一項三号の農地転用届出書及び売主買主双方の印鑑証明書を農業委員会に提出して受理証明を受ける必要がある。
そこで、被告は、原告主張の請求原因5(二)の催告を受けたのち、昭和六〇年一二月七日原告大和に到達の書面をもって同原告に対し同月一〇日までに実印及び印鑑証明書を持参するよう催告したが、原告大和はこれに応じなかった。
(三) 以上の理由で、原告大和のした契約解除は効力がない。
四、抗弁に対する認否
1. 抗弁1(一)の事実のうち、利息及び遅延損害金に関する約定は否認するが、その余は認める。なお、担保設定の合意はなかった。同(二)の事実のうち、(1)は認めるが、(2)は争う。
2. 同2の事実は否認する。
3. 同3(一)の事実のうち、原告会社及び原告大和からそれぞれ二筆の土地に対して仮差押えがなされたことは認めるが、その余は争う。
第三、証拠<省略>
理由
一、原告会社の請求について
1. 請求原因1の事実は、同(一)及び(三)の合計一二〇〇万円の支払が一億円の借受金債務の弁済としてなされたものか否かの点を除けば、すべて当事者間に争いがない。
そして、右一二〇〇万円の支払の趣旨に関する自白撤回の許否について判断するに、被告は右一二〇〇万円は原告会社の西洋美術品の仕入れに融資で協力することによる利益分配金であると主張するところ、被告代表者は右主張に副う供述をし、成立に争いない乙一号証によれば本件金銭消費貸借契約書中にも同趣旨の記載が存在することが認められるけれども、被告代表者尋問の結果によれば右利益分配金なるものは原告会社において現実に利益をあげたか否かにかかわりなく支払われるものであったと認められるうえ、成立に争いない甲八号証及び一〇号証によれば、被告は請求原因1(一)(三)の各金員受領の際、これを貸付金の返済と明記した領収証を原告会社に交付した事実が認められるから、右利益分配金なるものは被告の原告会社に対する金融に関し債権者の受ける元本以外の金銭であって、利息制限法三条により利息とみなされるものであり、自白が真実に反するとの被告の主張は理由がなく、自白の撤回は許されない。
したがって、右一二〇〇万円も本件一億円の借受金債務の弁済として支払われたことについては、当事者間に争いがない。
2. そこで、原告会社のした右弁済による不当利得の成否を判断する。
(一) 抗弁1(一)の事実中、原告会社と被告との間で、昭和五九年六月八日、弁済期を昭和六〇年三月三日として一億円の金銭消費貸借の合意が成立したこと、昭和六〇年三月三日までの利息九九〇万円及び担保設定費用預り金五〇万円を控除して、三回にわたり合計八九六〇万円が原告会社に交付されたことはいずれも当事者間に争いがなく、右金銭消費貸借契約において利息が年一三・二パーセントと合意されたことは前掲乙一号証及び原告大和本人尋問の結果により、また遅延損害金が年三割と約定されたことは右乙一号証によってそれぞれ認めることができる。
また、原告大和本人尋問の結果によれば、被告は、被告がその取引銀行に担保を設定して融資を受け、その融資金を原告会社に貸し渡すとの名目で、担保設定に要する費用として五〇万円を天引きし、原告会社もこれに同意した事実が認められるが、被告が右のような担保を設定した事実を認めるに足りる証拠はないから、右五〇万円はこれを原告会社の負担に帰せしめる根拠がなく、利息制限法三条の適用の対象となるものである。
(二) 抗弁1(二)については、金銭を目的とする債務の不履行に基づく損害賠償債権は、民法四一九条一項により、特約がない限り法定利率又は約定利率の限度でしか成立しないから、被告の抗弁1(二)は、主張自体失当である。
3. 以上によれば、天引き利息九九〇万円及び担保設定費用名目の五〇万円は、六〇六二万円に対する昭和五九年六月八日から同六〇年三月三日まで二六九日分年一三・二パーセントの割合による利息五八九万七二四六円(以下、計算においては円位未満はすべて切り捨てる。)の限度を超える四五〇万二七五四円が七一〇二万円(六〇六二万円、九九〇万円及び五〇万円の合算額)に対する弁済に充てたものとみなされる結果、残元本は六六五一万七二四六円であり、その後昭和五九年六月一一日に一三二五万円、同月二六日に一五七三万円の各元本とこれに対する各交付日以降の利息債権が発生したものであるから、
(一) 昭和五九年七月二八日に弁済した六三八万二七五〇円は、一三二五万円に対する同年六月一一日から七月二八日まで四八日分の利息二三万五円、一五七三万円に対する同年六月二六日から七月二八日まで三三日分の利息一八万七七二五円及び右元本合計二八九八万円中の五九六万五〇二〇円の弁済に充当され、弁済期までに利息の発生する残元本は二三〇一万四九八〇円となり、
(二) 昭和五九年七月三〇日の相殺分五〇〇万円は、そのうち一万六六四六円が元本二三〇一万四九八〇円に対する同年七月二九日及び同月三〇日の利息の弁済に、残額四九八万三三五四円が元本の弁済に充当され、利息の発生する残元本は一八〇三万一六二六円となり、
(三) 昭和五九年九月一一日の五六一万七二五〇円は、そのうち二八万四〇四円が残元本一八〇三万一六二六円に対する昭和五九年七月三一日から同年九月一一日まで四三日分の利息に、残額五三三万六八四六円が残元本の弁済に充当され、利息の発生する残元本は一二六九万四七八〇円、残元本合計七九二一万二〇二六円となり、
(四) 昭和六〇年三月三日の七七五〇万円は、そのうち七九万四二四一円が残元本中一二六九万四七八〇円に対する昭和五九年九月一二日から同六〇年三月三日まで一七三日分の利息に、残額七六七〇万五七五九円が残元本合計七九二一万二〇二六円の弁済に充当され、残元本は二五〇万六二六七円となり、
(五) 昭和六〇年八月二九日の一七五〇万円は、そのうち三六万八七三〇円が残元本二五〇万六二六七円に対する昭和六〇年三月四日から同年八月二九日まで一七九日分の年三割の割合による遅延損害金に、残額一七一三万一二七〇円中の二五〇万六二六七円が残元本全額の弁済に充当され、
一四六二万五〇〇三円だけ弁済超過となる。
4. そして、請求原因2の事実は当事者間に争いがなく、原告会社は、本件金銭消費貸借契約から生ずる不当利得返還債務は商事債務であるとして、年六分の割合による遅延損害金の支払を求めるのであるが、不当利得返還債務は法律の規定によって発生する債権であるから、商行為によって生じた債権ではないと解すべきであり、遅延損害金に関する請求は年五分の限度でのみ理由がある。
5. よって、原告会社の請求は、不当利得金一三八四万三八七八円の支払を求める部分は全部理由があるけれども、これに対する遅延損害金は訴状送達の日の翌日であること記録上明らかな昭和六〇年四月一一日以降年五分の限度でのみ理由があり、その余は理由がない。
二、原告大和の請求について
1. 請求原因4の事実(土地売買契約の締結及び手付金支払)は、履行期限の点を除いて当事者間に争いがなく、成立に争いない甲一号証及び原告大和本人尋問の結果によれば、売主である被告は昭和六〇年三月末日までに本件土地を宅地に造成し、分筆のうえ所有権移転登記及び引渡しをすべきことが約定された事実を認めることができ、この認定に反する被告代表者尋問の結果は前掲証拠と対比すると措信できない。
そして、被告は、原告が、昭和六〇年二月二五日、解約手付に基づく解除権を行使したと抗弁するけれども、この事実を認めるに足りる証拠はない。
2. 請求原因5の解除の成否について判断するに、原告は、売主にとっての履行期限である昭和六〇年三月三一日までに被告が売買契約の目的である土地を造成のうえ右期限に所有権移転登記及び引渡しをすることが不可能であることが期限到来前既に確定的であるときは、履行不能であるとの見解のもとに、請求原因5(一)(二)の主張をするけれども、それは単なる履行遅滞の問題であって(履行期限の経過前では履行遅滞にもなり得ない。)、履行不能の問題ではないから、契約の履行期限到来前にした請求原因5の解除は、効力を生じないといわなければならない。
3. そこで、請求原因6の解除の成否について判断する。
(一) 請求原因6(二)の事実(催告及び始期付解除)は当事者間に争いがない。
(二) 土地売買契約において、売主が売買の目的である土地を宅地に造成のうえ所有権移転及び引渡しをする義務を負う場合、売主のする宅地造成工事それ自体は買主に対する給付であるというよりは履行の準備行為であるというべきであるが、売主が履行期を経過しても宅地造成工事を完了しないときは、それだけで履行遅滞を生じ、買主は、自己の債務の履行の提供をしなくても、催告により契約を解除できると解するのが相当である。
しかるところ、成立に争いない甲三号証、乙四号証、原告大和本人及び被告代表者各尋問の結果によれば、被告は、本件売買契約の履行期限である昭和六〇年三月三一日を徒過したのち、同年一一月二一日付でした開発行為の申請に基づき同年一一月二八日付東京都多摩東部建築指導事務所長から本件土地を含む町田市玉川学園八丁目六三六番二、六三七番一及び同番二の三筆の土地についての開発行為許可を受けたものの、催告のあった同年一二月二日から催告に示された期限である同年一二月二〇日の経過に至るまで、宅地造成工事に着手すらせず、現地は、右時点で、灌木及び雑草が密生する凹地状の山林ないし原野の状態で、宅地としての利用は不可能であったことが認められるから、右履行遅滞について売主の責めに帰すべきでない特段の事由がない限り、原告のした契約解除は有効である。
(三) 被告は、原告会社及び原告大和が六三七番一及び同番二の土地について相次いで仮差押えをしたこと並びに行政指導により開発工事についての近隣住民の同意取得が必要であったところ、右同意取得に手間どったことを理由として、被告の債務不履行とはならないと主張する。
しかして、成立に争いない甲六、七号証によれば、原告大和は、昭和六〇年二月二六日、東京地方裁判所から六三七番一及び同番二の各土地に対する仮差押命令を受け、同月二七日その登記がなされ、同年五月一〇日の執行取消しにより同年五月一四日右仮差押登記が抹消されるまでの間仮差押えが存続した事実が認められるけれども、二か月余の間右仮差押えが存続したことによっては、右仮差押えの執行取消し後六か月余の間開発許可を取得せず、催告期間満了までにはほぼ七か月を経過した事情のもとで、被告の履行遅滞を正当化できるものではなく、被告主張の原告会社からの仮差押命令の存在は当事者の相違により原告大和に対する被告の抗弁事由とはならないし、開発行為に対する近隣住民の同意の必要性も被告の債務不履行責任を阻却するものではない。
被告は、更に、原告大和が農地に関する登記申請手続に必要な協力をしないと抗弁するけれども、本件土地売買契約は土地を宅地化したうえでその所有権を買主に取得させ且つ引き渡すことを目的としているから、宅地化しない土地について所有権移転登記義務の履行の提供をしても債務の本旨に従った履行の提供とはならないものであり、この点に関する被告の主張も理由がない。
4. そうすると、原告のした前記契約解除は有効であり、請求原因7の事実は当事者間に争いがないから、支払済みの手付金一五〇〇万円及びこれに対する手付金支払の日の翌日昭和五九年六月九日から完済に至るまで商事法定利率の年六分の割合による利息の支払を求める原告大和の請求はすべて理由がある。
三、よって、原告会社の請求を前記理由のある限度で認容し、その余を棄却し、原告大和の請求を全部認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条を、仮執行宣言につき同法一九六条一項を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 稲守孝夫)