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東京地方裁判所 昭和60年(ワ)3023号 判決 1989年4月13日

原告

池 田   譲

外八九名

右原告九0名訴訟代理人弁護士

田 中 俊 充

池 田   治

大 隅 乙 郎

丸 山 和 也

丸 山 俊 子

森 岡 秀 雄

中 嶋 一 麿

岡 田   優

前 田 幸 男

高 山 達 夫

小野塚 政 一

笠 原 慎 一

吉 村 弘 義

山 田 有 宏

日本電信電話公社訴訟承継人

被告

日本電信電話株式会社

右代表者代表取締役

山 口 開 生

右訴訟代理人弁護士

渡 部 吉 隆

新 宮 賢 蔵

竹 田   穣

水 沼   宏

佐 藤 安 男

右指定代理人

近 藤 利 偉

豊 田 武 司

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、各原告に対し、別表1の各原告に対応する「請求金額」欄記載の金員及びこれに対する昭和五九年一一月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

昭和五九年一一月一六日午前一一時五0分頃、東京都世田谷区太子堂四丁目三番四号所在の、日本電信電話公社(以下「電々公社」という。)世田谷電話局管内世田谷通り地下の通信用ケーブル専用溝(洞道、以下「本件洞道」という。)内において、突然爆発音とともに火災が発生し、同日午後一一時頃下火になったものの、その後も延焼が続き、翌一七日午前四時五0分頃完全に鎮火した。右事故により、住宅用(一般家庭用)電話約七万回線、事務用(商店等業務用)電話約一万九000回線、専用回線約四000回線、合計約九万三000回線が不通となり、その復旧工事に九日を要し、同月二五日ようやく開通する程の通信網麻痺となった(以下においてこれを「本件事故」という。)。

2  電々公社の責任

(一) 債務不履行責任

電々公社は全国各地域に電話局を設置し、我が国の電話通信業務を独占的に営んでいた公共企業体である。

原告らは、いずれも別表1「加入電話」欄記載の各加入電話架設に伴い、世田谷電話局を通じ電々公社との間で電話役務提供契約を締結していた。但し、別表2「原告」欄記載の各原告は、それぞれ原告と同表「原告との続柄ないし関係」欄記載の続柄ないし関係を有する同表「名義人」欄記載の者の名義で加入電話加入契約を締結していた。

電々公社は右契約に基づき、原告らが電話基本料及び使用料を支払う代わりに、原告らに対し、いつでも、容易に、滞りなく電話の発信及び受信による通話ができるようにしなければならない債務があるのに、各原告に対し、本件事故のあった昭和五九年一一月一六日から別表1「不通期間」欄記載の各日数の間、全く右電話役務を提供しなかった。

(二) 国家賠償法一条の責任及び使用者責任

(1) 世田谷電話局局長江口誠(以下「江口局長」という。)は公務員であり、電々公社の被用者として、本件洞道内に収容されている住宅用電話回線、事務用電話回線、専用回線等電話ケーブルを管理、維持、補修する職務上の権限と義務を有していた。右は公権力の行使に当たる。

(2) 昭和五九年一一月一六日午前九時半頃、江口局長は、電々公社と大明電話工業株式会社(以下「大明」という。)。との間の昭和五八年一一月三0日付けの請負契約に基づき、大明に本件洞道内の増設ケーブルの断線箇所の探索修理工事(以下「本件工事」という。)を請け負わせ、大明は、右本件工事を明和通信工業株式会社(以下「明和」という。)に下請させた。

明和の従業員である稲森源和外三名は、同日午前一0時半頃、本件洞道に入溝し、バーナーの一種であるガソリントーチランプを開いてケーブル接続部分(ジョイント)を覆っている鉛を溶かして断線箇所を探索する作業をしていたが、同日午前一一時二0分頃、断線箇所を確認したので、世田谷電話局庁舎に待機していた大明の担当者に報告し、その処理方の指示を仰ぐため、ガソリントーチランプに種火を点けたまま本件洞道を退出した。

このため、種火状態になっていたガソリントーチランプの炎が、解鉛時ケーブルに展張されていたケーブル保護用シートに着火し、同シートが燃え始め、解鉛部にかけてあった作業着及び発泡ポリエチレン芯線被覆に燃え移り、拡大しながらケーブル外被に燃え移り、その結果、洞道内総延長一六五メートルに及ぶ範囲の電話ケーブル等が焼損した。

(3) 江口局長は、本件工事の具体的内容が狭い洞道内でガソリントーチランプによる解鉛作業を行うものであるために火災発生の危険性のある工事であることに鑑み、世田谷電話局職員の内より監督員を選任し、右監督員に、大明が現場代理人を定めて工事現場に常駐させ、右工事の運営、取締りを行っているか否かを監視させる義務があったのに、監督員の選任もせず、大明が現場代理人を工事現場に常駐させていたか否かも確認しなかった。

本件工事に現場代理人が常駐し、工事の運営、取締りを行っておれば、単純なミスから発生した右火災の発生を容易に防止しえたのであるから、前記義務を怠った江口局長には、職務を行うにつき重大な過失があったというべきである。本件においては、このように国民の財産に重大な損害をもたらす具体的危険の予見可能性があり、結果回避防止を容易になしえたのであるから、行政権限不行使の違法性がある。

(三) 使用者責任

(1) 稲森源和外三名には、前記作業を一時中断して洞道を退出する場合トーチランプを消してから現場を離れる注意義務があるのに、漫然これを怠り、右トーチランプを消し忘れた重大な過失がある。

(2) 大明と明和とは本件工事に関し元請下請の関係にあり、明和は大明の強い監督下にあるから、明和の被用者である稲森源和外三名は、本件洞道内における修繕作業に関しては大明の被用者であるといえる。

(3) 大明と電々公社との間では、昭和五七年九月二七日、昭和五八年度世田谷局ユニット増設工事(土木)〔その2〕についての電気通信設備工事請負契約(以下「本件請負契約」という。)が締結され、引き続き前記のとおり昭和五八年一一月三0日に昭和五九年度世田谷局ユニット増設その2―2工事(線路)に係る工事請負変更契約が締結され、本件工事は右の一連の契約に基づいてなされたものであるところ、本件請負契約の一条は、大明は契約書に基づき添付の図面及び仕様書に従い請負契約を履行しなければならないと定め、四条は、大明は図面及び仕様書に基づき工事費内訳明細書及び工程表を作成して電々公社に提出し、電々公社が審査して不適当と認めたときは大明と協議することができると定め、八条は、一括委任、一括下請又は電々公社が特に定めた工程の委任、下請を禁止しており、一一条は、電々公社は監督員を置くことができ、右監督員は図面及び仕様書で定めるところにより、大明の現場代理人に対する指示又は承諾、図面及び仕様書に基づく工程の管理、立会、工事の施行の状況の確認又は大明の供する材料の試験若しくは検査の権限を有することを定めている。

また、一三条は、電々公社又は監督員は、現場代理人その他大明が工事を施工するために使用している下請負者、労働者等について不適当と認めるときは大明に必要な措置をとることを求めることができると定め、一四条は、大明は自ら提供するいわゆる業提材料のうち特定のものについては使用前に電々公社の監督員の検査を受け合格したものでなければ使用できないと定め、一六条は、電々公社の監督員の立会のうえ施工するものと指定された工事については、大明は当該立会若しくは指示を受けて施工しなければならないと定めている。

更に、一七条は、電々公社は何時でも大明に支給材料及び貸与品を供与することができる旨定めており、一八条は、大明は工事の施工が図面又は仕様書に適合しないときは電々公社の監督員の改造、修補請求に従うべき旨定めており、二0条は、被告は必要があると認めたときは、何時でも工事内容を変更し又は工事の全部若しくは一部の施工を一時中止させることができると定め、二二条は、電々公社は特別の理由により大明に工期の短縮を求めることができると定めている。

このように電々公社と大明との間には事実上ないし実質上の指揮監督関係が認められ、電々公社の指揮監督に服している大明は、専ら自己の責任と裁量に基づいて仕事をしている独立性の高い通常の請負人とは根本的に異なるので、大明は電々公社の被用者と解して妨げない。

(4) しかも、本件事故当時、大明は、電々公社の指定業者であり、電々公社所有の通信設備に関する工事を専属的に請負っており、他方、電々公社は、工事部門がなく、電話工事はひとえに大明に委託していたので、大明は電々公社の実質的工事部門であった。また、電々公社と大明とは人事的にも天下りによるつながりがあった。

したがって、本件現場作業員である稲森源和外三名からみれば、少なくとも電話工事に関する限り、大明は電々公社そのものであるか、電々公社の影に埋没した存在であるといえる。

(5) したがって、本件現場作業員である稲森源和外三名は、前記2(三)(2)のとおり大明の被用者であるといえる以上、電々公社の被用者でもある。

仮に、稲森源和外三名が電々公社の被用者でないとしても、電々公社、大明、明和の関係を考えれば、電々公社の被用者と同視しうる者であって、報償責任の理論がもとになっている民法七一五条が類推適用されるべきである。

(四) 工作物責任、営造物責任

(1) 本件洞道は高さ二メートル、幅二.四メートルのトンネルで、その中に、世田谷電話局地下一階ケーブル室から通ずる電話回線のほか、データ通信、ファクシミリ回線等を収容したポリエチレン製被覆膜をもったケーブルを多数収容し、東は世田谷通りから国道二四六号線の下を渋谷方面に、西は同局から成城方向へ地下五メートルの所を走っている。本件洞道への工事用入口は同局庁舎内にあり、工事人は同局庁舎内からでなければトンネル内に工事に行けず、第三者がみだりに洞道内に入り込めない仕組になっている。その中の多数の通信用ケーブルシステムは電々公社が設置所有し、電話局地下のケーブル室を通じて管理している。更に、電話局庁舎内からしか洞道内に入ることはできないのであるから、本件洞道ないしその中のケーブルシステムは、同電話局の付属設備即ち電々公社の営造物でありかつ土地の工作物である。

(2) 前記ケーブルはポリエチレンで被覆されていたが、ポリエチレンは火気には弱い。東京のような大都市では、たとえ地下でも何時いかなる場合に火の危険がないとも限らないので、高度情報化社会における通信の重要性を考えれば、電々公社はケーブルを設置するにつき、もっとも火に強い材質を選ばなければならなかった。

また、右ケーブルシステムにトラブルが発生した場合でも、大きな事故に結びつかないよう主たる機能と同一のものを二重、三重に施し、副システムを採用することにより機能麻痺を免れるというフェイルセーフ思想が常識化しているのに、電々公社は事故防止予備設備の設置を怠っており、営造物(土地の工作物)としての本件洞道の設置に瑕疵があった。

(3) 電々公社は、右のとおり電々公社の設置したケーブルに火気に弱い材質を使用し、かつ、事故を未然に防ぐ副システムを採用していなかったのであるから、同ケーブルシステムを管理ないし保存する場合においても、高度情報化社会における同システムの重要性に鑑み、火災などにより多数の住民の電話回線が長期間不通にならないように、日頃万全の防火措置を講じてその営造物(土地の工作物)の維持、修繕及び保管に万全を期していなければならなかった。

しかるに、本件洞道については、スプリンクラーのような自動消火設備及び消火具のような消防設備もなく、火気に対しては全く無防備であり、電々公社は何らの消火防火策も講じていなかった。

したがって、営造物(土地の工作物)としての本件洞道の管理、保存に瑕疵があった。

(4) また、営造物の設置、管理の瑕疵とは、営造物それ自体の性状に欠陥のある場合はもちろん、危険防止のための措置についての不備ないし欠陥をも含むところの設置、管理者の負うべき事故発生回避義務ないし損害回避義務の違反であるというべきであり、右損害回避義務違反は、営造物の危険性の程度と被侵害利益の重大性との相関把握において具体的に決定される客観的義務違反であるというべきである。

本件についてこれを見れば、本件洞道には住宅用専用回線、事務用電話回線、専用回線、ファクシミリ回線、デジタル回線等がはりめぐらされており、これらの回線が不通になれば、その被侵害利益は重大であるから、特にトーチランプを用いて解鉛作業を行う場合には、厳格かつ厳重な作業管理が必要である。

すなわち、電々公社は、右作業に先立ち、洞道管理者として、本件洞道内で作業員がトーチランプを使う場合の注意義務はもちろん本件洞道に入る作業員の人数、入洞時間、途中で現場を離れてはいけないこと、作業終了予定時間、作業の手順等詳細に指示打合わせ、万全を期して入洞させるべきであった。

また、入洞後も現場作業員から逐次作業の進捗状況を無線、有線等の通信手段を利用して報告させ、工事の進捗状況を把握しなければならなかった。

更に、出溝時のトーチランプの消し忘れを防ぐため、トーチランプを使用する場合には、各工区毎に防火責任者を任命し、防火責任者に担当工区内を常時巡回させ、火気の有無をチェックさせるほか、トーチランプ使用後に作業員が現場を離れることを厳禁し、やむを得ず現場を離れるときはトーチランプを携行するよう指導するなど高度化した情報化社会に見合った管理体制の整備、指導をしなければならなかった。

ところが、電々公社は漫然と大明に本件洞道内の本件工事を依頼しただけであり、右打合わせ等の指示も与えず、適宜報告させる措置もとらず、指導、管理体制も不備であった。このため、大明は自ら右作業をなさず、明和に下請させただけであり、明和の作業員に対し大明も右打合わせもせず、指示も与えなかった。

特に作業を中断して作業員が現場を離れることは厳禁すべきであり、誰か必ず一名又は数人の作業員が現場に残るのが常識であるのに、明和の作業員はトーチランプに種火をつけたまま本件洞道を途中で退出したため、本件事故が発生したのである。

以上のとおり、電々公社は本件洞道の管理者として杜撰な管理をなしていたものであり、本件事故発生回避義務ないし損害回避義務違反があり、したがって、営造物としての本件洞道の設置、管理の瑕疵がある。

3  原告らの損害

原告らはいずれも肩書地で別表1「業種」欄記載の飲食店等を経営していたが、本件事故により昭和五九年一一月一六日から同表「不通期間」欄記載の期間、加入電話が不通になるとともに、出前や注文が途絶えるなど、同表「被害態様」欄記載の各被害態様により、売上減少による損害を受けたほか、いずれも営業活動に占める電話使用の割合が高いため、右通信途絶により、一体商売はどうなってしまうのか生きた心地がしない程精神的苦痛を受けた。各原告が受けた営業損害及び慰謝料の金額は、同表「営業損害」欄及び「慰謝料」欄記載のとおりである。

4  被告の成立

本訴提起後の昭和六0年四月一日、被告の成立(日本電信電話株式会社法附則三条一0項、一一条、一条)に伴って、電々公社は解散し、その一切の権利及び義務は、被告に承継された(同法附則四条)。

5  公衆電気通信法一0九条と国家賠償法、民法との関係

電々公社の通信役務不提供について限定賠償を定めた、公衆電気通信法一0九条は、国家賠償法五条の「別段の定」であるかのようであるが、公衆電気通信法一0九条は、電々公社の電話役務不提供に対し、電話加入者が電話使用料の五倍までの賠償を受けることができることを定めたに過ぎず、電話加入者が自ら受けた損害を立証して請求する場合にまで適用すべき規定ではない。

同条は、損害が不可抗力により発生した場合又は損害の発生につき利用者に故意もしくは過失があったときを除き、利用者において、電々公社に故意、過失のあること及び損害額を主張立証しなくとも、電々公社の電話役務不提供の事実を主張しさえすれば、少なくとも所定の損害賠償額の請求ができることに意味があり、ただ具体的な額は、役務不提供の事実を掌握している電々公社ないし被告が役務不提供の程度に応じて裁量して決めることができるだけで、その限りにおいて国家賠償法、民法の規定に優先して適用されるのである。このように、右特則により故意、過失及び損害の立証その他の点で、手続上、民法では得られない保護を受けられる代わりに、賠償を求めることのできる場合が限定され、また、その損害額も予め定められた一定の額に限定されているのである。このような取扱いが、公企業の利用関係における賠償問題の定型的画一的な処理のために合理的であることは疑いがないが、それが合理的根拠を持つ範囲においてのみ国家賠償法及び民法の特則たる地位を与えられているだけであり、それ以上に国家賠償法及び民法の各規定の適用を全面的に排除するものではない。つまり、公衆電気通信法の規定は、国家賠償法及び民法の各規定と重畳的に適用される規定であり、公衆電気通信法に規定する要件を満たす限りそれに従うが、公衆電気通信法に規定する要件は満たさないが国家賠償法、民法に規定する要件を満たすならば、それによることになる。

6  公衆電気通信法一0九条の違憲性

憲法一七条が国家無責任の原則を放棄したことにより、国及び公共団体は公権力の主体としての特権的地位を捨てて、私人と同一の責任を負うに至ったのである。もとより、憲法一七条は、被害者は「法律の定めるところにより」損害賠償を請求し得る旨定めているので、損害賠償請求権行使の要件を法律の定めに譲っているが、国家無責任の原則の放棄が明白に示されたものと解すべきであり、法律は、賠償の要件及び程度を定めるに止まり、したがって、国等の責任を無条件で否定することは違憲である。

公衆電気通信法一0九条が民法及び国家賠償法の特則規定であり、いかなる場合にもそれらに優先適用されるとすれば、同条は、憲法一七条に違反し違憲無効である。

何故ならば、電話加入者が、電話不通のいかなる場合にも一日に三00円ないし四00円の補償しか得られないとすれば、今日の国民の経済感覚からすれば全く補償がないのと等しく、無条件免責を規定したに等しいからである。新憲法の下では、国は原則として賠償責任を免れず、電話通信利用をめぐる国ないし電々公社と国民との関係は契約関係であり、国及び電々公社は契約当事者たる地位に基づいて、国民に対し契約責任ないし不法行為責任を負うのが当然であり、国及び電々公社が国及び公社であるがゆえに持つべき特権なるものは考慮されてはならない。憲法一七条もこの観点から国家補償の実現に必要な法制度の樹立を義務づけ、その線に添って立法されたのが国家賠償法であるから、公衆電気通信法一0九条のように電々公社に対し無条件免責に等しい責任制限を認めるような規定を設けることは、国家賠償法を抜け殻にし、同法を定めて国等の国民に対する補償を全からしめようとした憲法一七条に違反する。

また、公衆電気通信法一0九条が実損害の立証を要求しているとすれば、極めて立証困難でかつ厳しい要件を定めたことになり、国民に損害賠償の途を閉ざすことになるので、違憲無効である。

7  公衆電気通信法一0九条の制限適用論

仮に、公衆電気通信法一0九条が憲法違反でないとしても、同条が民法及び国家賠償法に優先して適用されることが許されるのは合理的根拠を持つ範囲内においてのみであって、電々公社側が故意又は重大な過失によって利用者に損害を与えた場合あるいは営造物の設置、管理に重大な瑕疵がある場合には、電々公社が民法または国家賠償法により責任を負わないとする合理的根拠は全くないので、公衆電気通信法一0九条は優先適用されるべきではない。

前記のとおり、本件事故は電々公社が下請していた明和の作業員らの初歩的ミスにより発生していたもので、同人らに重大な過失があったことは明らかであり、また、電話設備の設置管理ないし保存が、情報化社会の重要性に比して危険防止措置が極めて杜撰であったことから電々公社には営造物(土地の工作物)の設置、管理、保存において重大な瑕疵があったことは明らかである。

8  よって、本件については公衆電気通信法一0九条のみが適用されるものではないので、原告らは被告に対し、請求原因2の各法条による損害賠償請求権に基づき、原告らの受けた別表1「請求金額」欄記載の各損害金及びこれに対する債務不履行又は不法行為が継続した最後の日の翌日である昭和五九年一一月二六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による各遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否及び被告の主張

1  請求原因1の事実(本件事故)について

昭和五九年一一月一六日午前、本件洞道内で火災が発生し、爆発音が発生したこと、同夜下火になったものの、その後も延焼が続き、翌一七日午前に完全鎮火したこと、右事故により住宅用電話約七万回線、事務用電話約一万九000回線が不通になった事実は認めるが、その余の事実は否認する。不通となった専用回線は約三000回線であり、完全復旧したのは同月二四日午前九時五0分である。なお、完全復旧までの間に復旧工事により逐次不通回線が回復し、通話可能回線が増加していった。

2  請求原因2(一)の事実について

電々公社が原告らの主張のような公共企業体であり、世田谷電話局が電々公社の設置した電話局の一つであったことは認める。

契約の締結については、電々公社が世田谷電話局を通じて別表3記載の三0名の原告らと加入電話加入契約を締結し、同原告らの電話の不通期間が別表1「不通期間」欄記載の日数であったことは認める。

別表4記載の原告ら二五名が電々公社と加入電話加入契約を締結していた事実は認めるが、加入電話が不通となったことについては否認する。本件は、公衆電気通信法一0九条一項三号により賠償されるべきであるが、同条項の「加入電話により通話をすることができない場合」とは当該加入電話により発信及び受信の双方が全く機能しなかった場合をいうものであるから、「不通」とは右の意味で理解されるべきである。同原告ら二五名は世田谷局以外の電話局を通じて契約を締結しており、世田谷管内以外の地域においては、本件事故による「不通」期間というものは存在しなかった。

別表2記載の原告らのうち原告有限会社松屋商店(20)を除く三一名の原告らについては、原告ら主張の加入電話が別表2「名義人」欄記載の者の名義で加入電話加入契約を締結していた事実は認めるが、右名義人と各原告らとの続柄ないし関係及び不通期間は不知。

原告有限会社松屋商店(20)については、原告ら主張の加入電話が伊東善康名義で加入電話加入契約が締結されていた事実は否認する。右電話はイトウヨシオ名義で契約を締結している。右加入電話の不通期間は不知。

原告呉和江(7)及び同楡忠男(41)については、電々公社と加入電話加入契約を締結していた事実は認めるが、不通期間は不知。

原告吉田忠義(48)については、加入電話加入契約締結の事実及び原告ら主張の加入電話の不通期間は不知。

加入電話加入契約については、「迅速且つ確実な公衆電気通信役務を合理的料金であまねく、且つ、公平に提供することを図ること(公衆電気通信法一条)」とされていたが、原告ら主張の債務があることは否認する。

仮に、本件工事に際し、大明、明和またはその作業員に過失があったとしても、これらの者は、電々公社の電話加入契約に基づく債務の履行に関して、電々公社の履行補助者ではなく、信義則上も電々公社と同一視することはできない。また、後記のとおり電々公社における本件洞道の管理は万全であったので、仮に、電々公社に債務不履行があったとしても、電々公社に帰責事由のない火災に起因するものであり、被告に債務不履行責任はない。

3  請求原因2(二)の事実について

(一) 請求原因2(二)(1)の事実のうち、世田谷電話局長江口誠が電々公社の被用者であったことは認めるが、その余は否認する。

(二) 請求原因2(二)(2)の事実のうち、電々公社と明和との間に昭和五八年一一月三0日付けの請負契約があったこと、及び明和の従業員の事実上の作業内容、被害の程度は概ね認めるが、その余の事実は否認する。明和の従業員はケーブル整理という作業目的で洞道内に入溝しており、ケーブル接続部分の解鉛作業は、断線修理のためでなく未だ引渡前で未完成であった前記請負工事の手直し作業として明和が独自に判断して行ったものである。右洞道内に入溝したのは四名であるが、当該作業を行ったのは二名だけである。

(三) 請求原因2(二)(3)の事実は否認ないし争う。

電々公社は、前記請負契約に係る本件工事を含む工事につき渡辺忠を監督員に任命していた。監督員は、請負契約の的確な履行を担保するため、注文者の代理人として、設計図書に従って工事が施工されているか否かを監督するのが任務であり、工事の全般的な進行状況を把握するのが、その職務の眼目である。本件工事のように、ケーブルの接続不良箇所の点検、修理という線路工事の施工途中の日常的作業部分に監督員の立会いが必要とされたり現場代理人から立会いを求められることはない。

4  請求原因2(三)の事実について

(一) 請求原因2(三)(1)の事実は否認する。

(二) 同2(三)(2)の事実のうち、大明と明和との間に元請下請の関係があったこと、稲森源和外三名が明和の被用者であったことは認め、その余の事実は否認する。

(三) 請求原因2(三)(3)の事実のうち、電々公社と大明との間で本件請負契約及び工事請負変更契約が締結され、本件工事は右の一連の契約に基づいてなされたものであること及び本件請負契約に、原告ら主張の条項が存在することは認めるが、その余の主張部分は否認する。右条項は通常の請負契約でも約定されるもので、使用者責任発生の根拠とはなりえない。

(四) 請求原因2(三)(4)の事実は否認する。

電々公社には直営の工事部門もあり、電話の取付け工事、線路工事等を行っているが、規模等の条件により、外部の業者に請負わせることもある。具体的な請負業者の選定は競争入札の方法によっており、この入札参加資格として一ないし三級の認定業者に分類している。本件工事は一級認定の九業者のうち、競争入札により大明が落札したものである。大明は電々公社とは別個独立した法人格を有する東証一部上場企業であり、電々公社の実質的工事部門ではない。

(五) 請求原因2(三)(5)の主張は争う。

請負人である大明、下請人である明和は、注文者の電々公社から独立して活動しており形式的にも、実質的にも電々公社との間に雇用関係がないので、原告らの民法七一五条に基づく主張は失当である。

5  請求原因2(四)の事実について

(一) 請求原因2(四)(1)の事実は大筋においては認める(ただし、洞道は地下三ないし五メートルの範囲の深さで設けられている。)が、ケーブルシステムが公の営造物または土地の工作物であることについては否認する。

「公の営造物」とは、本来、一般市民の利用、立ち入りの予定されている講学上の公物(人的施設を含まない「公共用物」)をいうところ、本件ケーブルはこれを予定していないので、公の営造物にあたらない。

また、本件ケーブルは、土地に接着して成立しているものではなく、洞道内部の単なる物的設備に過ぎないので土地の工作物とはいえない。

(二) 請求原因2(四)(2)は争う。電々公社が本件ケーブルの外被としてポリエチレン製のものを選定したのは、気密性等の物理的条件、抗張力等の機械的条件、耐蝕性等の化学的条件、価格等の経済的条件等を総合的に検討し、ポリエチレンが局外用ケーブル外被の素材として最も優れていると判断したことによるのであるから、設置、管理の瑕疵に該当しない。また、電話回線の二ルート化は、二重設備とするため莫大な経費がかかり、利用者に多額の出費を余儀なくさせるので、現段階においては原告らが主張するようなすべての加入者の二ルート化は不可能である。

(三) 請求原因2(四)(3)は争う。なお、本件洞道内には、消防設備として手動式可動型消火器が備わっていた。洞道内にスプリンクラーの設備がなかったことは認めるが、それは本件洞道が防火対象物ではなかったからである。

(四) 請求原因2(四)(4)は争う。

(1) 営造物の設置、管理の瑕疵とは「営造物が通常有すべき安全性を欠いたこと」であり、原告らの主張するように事故発生回避義務ないし損害回避義務と解することは、国家賠償法二条に主観的要件を取り込むものであり、国の無過失責任を定める一方で、営造物の設置、管理の瑕疵については故意、過失という主観的要件を除外した同条の立法趣旨に反し、許されない。

(2) 本件洞道の管理責任者は、電々公社の地区管理部長であり、本件洞道に通じるケーブル室の管理責任者は世田谷電話局長であった。

世田谷電話局長は、洞道入出管理者(第一電話設備課長)を選任し、同管理者において、作業員の洞道入溝時に、入溝者名、責任者、入溝目的等を確認の上、洞道入出口の解錠をし、洞道への入出につき厳重な管理をしていた。

のみならず請負工事における事故防止、安全対策につき、大明らの請負業者に対し、共通仕様書等により絶えず注意を喚起していたばかりでなく、洞道内の工事について、人身事故、設備事故等を防止すべく、安全管理を徹底するよう文書をもって請負業者に指示していた。

したがって、電々公社は本件洞道を万全の配慮をもって管理しており、管理に瑕疵はない。

(3) また、本件工事は断線していたケーブルの修理作業ではなく、引渡前の未完成であった請負工事についての未完成部分の手直し作業であり、本件事故当時本件ケーブルの管理は電々公社ではなく大明の責任において行っていたので、本件ケーブルが仮に公の営造物ないし土地の工作物にあたるとしても、被告に営造物責任ないし土地の工作物責任は発生しない。

6  請求原因3について

原告らの加入電話の不通期間についての主張に対する認否は、前記二2(1)のとおりであり、その余の事実は不知。

7  請求原因4の事実は認める。

8  請求原因5は争う。

公衆電気通信法一0九条は、損害を賠償すべき場合と賠償金額とを限定したものであり、同条項の料金の五倍の限度において賠償するとは、実損害のいかんを問わず一律に五倍の賠償をすることをいうのではなく、五倍の範囲内において実損害を賠償するという意味である。したがって、同条項は、債務不履行及び不法行為に関する規定の特則を定めたものであり、国家賠償法五条の「国又は公共団体の損害賠償の責任について民法以外の他の法律に別段の定めがあるとき」に該当するので、電々公社が公衆電気通信役務を提供すべきであるのに提供しなかったことにより利用者に損害を加えた場合、その賠償責任については専ら特別法規たる公衆電気通信法一0九条が適用され、一般法規たる民法等の規定は一切適用がないものと解すべきである。公企業は、一般に、社会福祉を維持増進することを目的として経営される事業であり、必ずしも収支相償うことを建前とするものではなく、時には国民の税を投入して経営されるものであり、その事業による利益の享受は、できるだけ広く一般国民に均霑させるべきである等の特殊性を持つ事業であるから、この事情に即した特別の定めをすることにも十分な理由があるというべきである。

9  請求原因6は争う。

憲法一七条は、具体的規定ではなく、「法律の定めるところにより」賠償を求めることができるとしており、損害賠償の要件、限度等をすべて実定法の定めるところに譲っているのであるから、いわゆるプログラム規定であって、損害賠償に関する立法の指針を示したに過ぎず、国又は公共団体がいかなる場合にいかなる限度で責任を負うかは、専ら、国の立法政策に任しているのであって、直接憲法一七条より一定の提言を導き出すことは許されない。

憲法一七条を実施するために制定された国家賠償法が「国又は公共団体の賠償責任について民法以外の他の法律に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。」としているのは、国又は公共団体の賠償責任には、私人相互間の利害の調整を主眼として定められた私人の賠償責任とは異なるものがあることを是認しているにほかならない。したがって、国又は公共団体の賠償責任について、民法等の一般原則と異なる法理を導入した特別規定を設けることも、それが合理的理由に基づくものである以上、憲法一七条の趣旨に反するものとは言えない。

公衆電気通信業務は、定型的な役務を常時、大量且つ瞬間的に反復、継続して提供するものであるから、その運営にあたっては、近代的な技術、施設をもってしても、ある程度の誤謬、故障は避けられないのが実情である。しかも、個々の利用者の行う通信の価値、内容は千差万別であって、通信の誤謬、故障によって被ることのあるべき損害の額を事前に予測することは不可能である。したがって、もし通信の誤謬、故障に基づく損害をことごとく賠償しなければならないとすれば、莫大な予算を必要とし、企業の財政的基礎を危殆に陥らせ、電気通信役務を「合理的な料金で、あまねく、且つ、公平に」提供するという公衆電気通信業務の目的を達することが不可能となることは明らかである。

もともと、公衆電気通信業務は、郵便、鉄道等と同様、国民の日常生活に欠くことができないものであるから、公共の福祉を維持、増進する見地から、これを「合理的料金で、あまねく、且つ、公平に」一般の利用に供することをもって使命としている。したがって、その利用の条件は、画一定型化され、利用者は、画一定型化された利用条件に従ってこれらの企業を利用し得るに過ぎない。そして、このような企業の利用条件の画一定型化の結果として、利用者側における個別的事情を無視せざるを得ないことになる。

公衆電気通信法一0九条は、この種企業における利用条件の画一単純化の現れであって、右の公衆電気通信業務の使命達成のための不可避的方法であるという本質的な合理性に基づくものであるから、憲法一七条に違反するものではない。

10  請求原因7は争う。

前述のとおり、憲法一七条は指針規定であるから、同条から直接一定の具体的提言を導き出すことは許されず、電々公社の故意、重過失を限定賠償制度の適用除外事由とするかどうかは、専ら、立法政策に任されている。公衆電気通信法一0九条が、ひとしく限定賠償制度を採用している鉄道営業法一一条の二第三項、一二条四項のように故意、重過失についての適用除外事由を設けていないことは、電々公社の故意、重過失をもって限定賠償制度の適用除外事由としないという趣旨に出たものと解すべきである。したがって、たとえ、電々公社に故意、重過失があった場合においても、公衆電気通信法一0九条が優先して適用されるべきであり、原告ら主張の制限的適用論は、立法論の域を出ず、現行法の解釈論としては採用しえない。

11  請求原因8は争う。

第三  証拠関係<省略>

理由

一原告らは、電々公社の承継人である被告(被告が電々公社の一切の債権及び債務を承継したことは、当事者間に争いがない(請求原因4)。)に対し、本件洞道内での火災によるケーブル焼損を原因とするその加入電話の不通につき、民法四一五条、七一五条一項、七一七条一項、国家賠償法一条一項、二条一項の各規定を根拠に損害賠償を請求するのに対し、被告は、電々公社の公衆電気通信役務の不提供については、もっぱら、公衆電気通信法一0九条のみが排他的に適用されるので、民法及び国家賠償法を根拠とする原告らの請求は失当であると主張するところ、他方、原告らは、公衆電気通信法一0九条がいかなる場合にも、前記の民法及び国家賠償法の各規定に優先して排他的に適用されるならば、憲法一七条に違反すると主張する。

そこで、公衆電気通信法一0九条の解釈及び同条と前記の民法、国家賠償法の各規定との適用関係並びに原告らの憲法一七条違反の主張の当否について判断するに先立ち、まず原告らが電々公社の責任原因として主張する各事実関係について検討する。

二本件事故(火災)の発生及び被害状況

請求原因1の事実のうち、昭和五九年一一月一六日午前、本件洞道内において火災が発生したこと(以下「本件火災」という。)、同夜下火になったものの、その後も延焼が続き、翌一七日午前に完全鎮火したことは当事者間に争いがない。

調査嘱託の結果によれば、本件火災は、同月一六日午前一一時五二分に一一九番覚知され、同日午後一0時一一分に鎮圧され、同月一七日午前四時三七分に鎮火したこと、本件火災により、本件洞道内総延長一六五メートル及びこの範囲内に敷設されていた電話ケーブル等が焼損したことが認められ、<証拠>によれば、右ケーブルの焼損のため、世田谷電話局の全利用者の通信が途絶し、加入電話八万八八一七回線、公衆電話一三七七回線、専用線・特定通信回線二七五六回線、加入電信回線二三一回線、電報中継回線三回線、データ通信設備サービス用回線七四回線が不通となったが、鎮火の日より復旧工事に着手し、電話は同月二四日に、専用線等は同月二六日に全面開通したことが認められる。

三本件洞道及び本件洞道内のケーブルの状況

1  本件洞道が高さ二メートル、幅二.四メートルのトンネルで、その中に世田谷電話局地下一階ケーブル等から通ずる電話回線、データ通信、ファクシミリ回線等を収容したポリエチレン製被覆膜をもったケーブルを多数収容し、東は世田谷通りから国道二四六号線の下を渋谷方面に、西は同局から成城方向へ地下を走っていること、本件洞道への工事用入口は、同局内にあり、工事人は同局庁舎内からでなければ洞道内に工事に行けず、第三者がみだりに洞道内に入り込めない仕組になっていること(請求原因2(四)(1))は当事者間に争いがない。

2  前項の争いのない事実に加えて、<証拠>によれば、次の各事実が認められる。

(一)  本件洞道に入溝するためには、世田谷電話局庁舎第三棟内の二つの扉(うち一つは電子ロック扉)を通過して同局庁舎地下一階のケーブル室に入り、右ケーブル室を通り抜けなければならなかったが、右ケーブル室及び洞道への出入口の管理は江口局長の責任においてなされていた。作業員は洞道入溝時に、電話局長から洞道への入出の管理の権限をゆだねられていた第一電話設備課長に対し、入溝目的、入溝者数等を届け出て入溝を申し出、同課長はこれを確認した上で入出口の解錠を行っていた。

(二)  本件洞道は、道路のマンホールからも入溝できる構造になっていたが、マンホールから入溝する場合には、その周囲をバリケードで囲まなければならなかったので、電話局庁舎から洞道に入溝するのが一般的であり、また、普段はマンホールの蓋は施錠されていた。

(三)  本件洞道は、世田谷電話局庁舎第三棟の北西端で右ケーブル室に接し、そこから同電話局敷地の地下を通って同局舎南側の世田谷通りに達し、世田谷通りに沿って、その地下をほぼ東西方向に延びていたが、ケーブル室の管理責任者は世田谷電話局長であり、本件洞道そのものの管理責任者は世田谷電話局を所管する電々公社東京港地区管理部長であった。

(四)  通信用ケーブル線は、洞道内の道路の左右両端の数段の各棚状のものの上に敷設されており、右ケーブル線の構造及び材質は、各ケーブル線により一様ではなかったがほぼ同一構造であり、ケーブル一条につき、直径0.三二ないし0.九ミリメートルの素線(銅線)を四00ないし三六00本収容し、各素線は、周囲を発泡ポリエチレンで被覆されて芯線を形成し、右芯線を収容するケーブルの外側を、内被(アルミニウム又はスチール、クラフト紙、透明ビニール)及び外被(ポリエチレン)が覆っていた。

ケーブルの長さに限度があるので、ケーブルに接続点が生じるが、右接続部分は鉛管で覆われ、ケーブルと鉛管の隙間はハンダ付けをして密閉されていた。

また、ケーブル線の外被のポリエチレンは、ガソリントーチランプの炎を一分間接炎した後、ガソリントーチランプを離すと独立燃焼をする性質を有するものであった。

四電々公社と大明との間の契約関係

1  電々公社と大明との間で、昭和五七年九月二七日、昭和五八年度世田谷局ユニット増設工事(土木)〔その2〕についての本件請負契約が締結されたこと、右契約に、請求原因2(三)(3)記載の各条項が存したこと(請求原因2(三)(3))は、当事者間に争いがない。

もっとも、右争いがない事実及び<証拠>によれば、前記条項とほぼ同一内容の条項がいわゆる四会連合協定の工事請負契約約款中に存することが認められる。

2  前項の事実に加えて、<証拠>を総合すれば、次の各事実が認められる。

(一)  前認定のユニット増設工事(土木)は、通信線路工事に属するもので、ケーブルを収容するマンホール及びパイプ(管路)を増設する工事であったが、当時の世田谷電話局管内全体の増設規模が大きかったので、同局管内をその1、その2、その3と三分し、その1を訴外協和電設株式会社が、その2を大明が、その3を訴外東洋電気通信工業株式会社がそれぞれ請け負い、三社が並行して工事を行ったが、大明の請け負ったユニット増設工事(土木)〔その2〕は、請負代金が六億一七00万円、工期が昭和五七年一0月一六日着工、同五八年一一年二九日完成と定められていた。

(二)  昭和五八年一一月三0日、電々公社と大明との間で、工事請負変更契約書をもって、昭和五九年度世田谷局ユニット増設その2―2工事(線路)についての請負契約が締結されたが(以上の事実については当事者間に争いがない。)、これは前記ユニット増設工事(土木)〔その2〕の追加工事で、洞道内、管路内及び電柱と電柱との間に架渉される電話ケーブルの増設並びにこれに伴う電柱増設を工事内容とするものであった。右変更契約書では、請負代金の増額が三億一000万円、工期が同年一二月一二日着工、地下の工事を同五九年一一月三0日、電柱に架けるケーブルの増設工事を同六0年一月一八日完成と約定されていたほか、前記の工事内容、請負代金増額分及び前払金の支払方法等が定められ、右の事項以外はすべて本件請負契約の条項のとおりとすると定められていた。

(三)  電々公社が電気通信線路工事を業者に発注し、請負契約を締結する場合には、一般に電気通信線路工事に高度の技術を要するため、電々公社が事前に右工事を実施できる資格を審査して認定し、規模により一ないし三級に分類していた。前記世田谷局ユニット増設工事(土木)〔その2〕については、電々公社の指名した一級資格を有する九者が競争入札に参加し、その結果、大明が落札したものであった。

(四)  なお、電々公社又は被告の退職者の中で、大明の取締役となった者もおり、大明の売上高の九割は、電々公社からの受注であり、電々公社に対する営業上の依存度が高かったが、大明が電々公社以外の工事をする場合に、電々公社の承諾が必要であったわけではなく、資本の面でも大明は電々公社とは関係がなかった。

3  また、<証拠>を総合すれば、次の各事実が認められる。

(一)  電々公社は、前記ユニット増設工事につき、東京電気通信局建設部線路工事課に所属する渡辺忠を監督員に任命し、大明は技術主幹の今博一を現場代理人に選任し、同人は主任技術者をも兼ねていた。電々公社では、東京電気通信局建設部長が、監督員の任免の権限を有し、大明では線路部長が右現場代理人の選任を行った。

(二)  右監督員は、請負契約の的確な履行を担保するため、注文者である電々公社の代理人として、工事が契約どおりに、設計図どおりに施工されているか否かを監督すべき任務を有し、東京電気通信局建設部長の通達により現用の市外ケーブルの切替え等重要な工事については立ち会わなければならないと定められていた。

(三)  また、右現場代理人は、請負契約の的確な履行を確保するため、請負人である大明の代理人として、工事現場に常駐し、その運営、取締りを行い、安全の確保を図るほか、請負代金額の変更、請負代金の請求及び受領並びに契約解除を除く請負契約上の一切の大明の権限を有するものとされていた。前記ユニット増設工事がなされていた際、世田谷電話局の工事エリア内の複数の場所で作業員が工事を行っていたので、右現場代理人は、その全てに連絡が取れ、指揮監督ができる世田谷電話局付近の西馬込の工事現場事務所に詰め、必要に応じて監督員に立会いを求める場合は当然現場代理人も工事に立ち会い、それ以外の場合は、自らの裁量により工事に立ち会っていた。

五大明と明和との間の契約関係及び本件火災発生当日の作業内容

<証拠>によれば、次の各事実が認められる。

1  大明は、前記昭和五九年度世田谷局ユニット増設その2―2工事(線路)に含まれる数百のケーブル接続工程のうち本件洞道付近を含む約半数の工程を明和に下請けさせた。これは、大明と電々公社との間の本件請負契約八条一項の電々公社が特に定めた下請禁止工程にも、同条二項本文の禁止する一括下請にも該当しないものであった。

2  昭和五九年一一月初旬、前記増設工事で新設されたケーブルの接続箇所に接続不良部分があることが判明し、本件洞道付近については接続不良部分の探索及びその修理も明和が行うことになり、明和の作業員は、接続不良部分の探索を開始した。

接続不良部分の探索及び修理も前記増設工事を完成させるための一過程であり、本件火災発生当日、前記増設工事は未完成で、新設のケーブルも電々公社に未だ引き渡されていなかった。

3  本件火災発生当日の同月一六日午前、明和の作業員の稲森源和、永友雅志、鳴神藤十郎及び金丸正敏が本件洞道内に入溝し、ガソリントーチランプを使用してケーブル接続点の鉛管とケーブルとの隙間のハンダを加熱溶解して取り除き、鉛管を取り外して(解鉛)、接続部分を露出させ、接続不良部分を探索する作業を行った。その結果、前記明和の作業員のうち二名の者は、接続不良部分を発見したが、同人らがその場ですぐできるほど修理方法が簡単ではなかったので、大明の現場代理人らに修理方法を相談するため、また時間的にも昼に近かったこともあって、午前の作業をそれまでとして本件洞道から退出した。

4  ガソリントーチランプを使用してのケーブル線の接続不良箇所の探索及び接続は、日常的な作業であり、ガソリントーチランプは数十年前から使用されている器具で特に危険な器具でもなかったため、本件においても、大明の現場代理人は、作業員に探索方法の手順等を指示するだけで、自ら探索作業に立ち会わず、監督員にも立会いを求めなかった。前記二名の明和の作業員以外に作業に立ち会った者はいなかった。

六洞道内火災防止のための対策

1  本件洞道内にスプリンクラーのような自動消火設備が設置されていなかったこと(請求原因2(四)(3))は当事者間に争いがない。

また、被告は、本件洞道内のケーブルにつき、副システムが採用されず、電話回線が二ルート化されていなかったことを明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。

さらに、<証拠>によれば、本件火災以前に、本件洞道内で火災が発生することを想定して消火訓練を実施し、あるいは消火訓練を計画したことはなかったことが認められる。

2  <証拠>によれば、次の各事実が認められる。

(一)  電々公社は、請負工事の事故防止及び安全対策につき、請負人に対し、標準実施方法、共通仕様書に示される安全対策を基本として、指導文書を出すなど一般的な指導を行っていたが、洞道内工事については、「とう道内火災事故防止について」(京工第七四号、昭和五四年四月二四日)と題する指導文書を東京電気通信局長名で電気通信設備工事の請負人の各社社長宛に発し、指導の徹底方を要望していた。

右指導文書は、洞道構築現場及び既設洞道内での火災事故防止に関するもので、既設洞道内での火災事故防止については、洞道内の作業現場で火気を使用する場合、安全責任者は、

(1) 消火器を携帯すること

(2) トーチランプのガソリン補給は、絶対に行わないこと

(3) トーチランプを使用するときは、作業現場を整理して、可燃物等は付近におかないこと

(4) 作業灯を仮設する場合は、ソケット付キャップタイヤケーブルを用いること

(5) 作業灯の電球は、金属製保護カバーを使用して保護すること

と規定していた。

(二)  大明は、電々公社から前記の指導を受けて、これを下請に周知徹底していたが、本件事故以前において「とう道内作業時の事故防止対策」と題する文書を作成し、作業員にわかりやすく周知させていた。右文書は、火気を使用する場合、洞道用消火器及び金属製バケツ等を携帯することと規定し、火気使用上の注意として、

(1) 火気使用に当たっては、周囲の可燃物に対し適切な措置を行うこと

(2) ガソリン等引火しやすい溶剤の持ち込みは必要最小限に止め、その取り扱いには十分注意すること

(3) 毎日の作業終了後、引火しやすい溶剤等危険物は必ず洞道から搬出し残置しないこと

(4) 洞道内でトーチランプの給油を行わないこと

(5) 喫煙するときは、喫煙場所を定め金属製バケツに水を入れ使用するなど安全に配慮すること

(6) 作業現場を離れるときは、火気のないことを確認すること

を規定していた。

(三)  大明はまた、前記増設工事の着工に際してゼロ災会議を開き、作業工法及び安全対策等の下請会社に対する指導周知を図った外、日々の作業当日、毎朝作業出発前に作業員を集合させて安全ミーティングを行って、現場代理人から作業員に必要な指示、注意を与えていた。また、随時講習会を開いて下請会社の従業員も参加させるなどして安全対策を実施してきていた。

3  なお、<証拠>によれば、本件火災を契機として、被告は、既設のケーブルにはガラス繊維製の防火シートをかぶせて難燃化を行い、新設ケーブルについては難燃ケーブルを使用し、また共同溝と電話局庁舎の境に防火壁を設置して延焼防止を図るなどして洞道内火災事故対策を行っていることが認められる。

七本件火災の原因

<証拠>によれば、本件火災当日の昭和五九年一一月一六日、明和の前記作業員二名が、本件洞道内で、前記五3で認定のガソリントーチランプを使用しての解鉛の作業を行った際、付近に敷設されている既存のケーブルを、ガソリントーチランプの炎あるいは溶解して落下するハンダから保護するため、既存のケーブルに防炎性のケーブル保護用シート(綿製のシートに難燃性の処理がしてある。)を掛けていたこと、世田谷消防長は、本件火災の発火の原因について、種火状態になっていたガソリントーチランプの炎が解鉛時にケーブルに展張されていたケーブル保護用シートに着火したものと推定し、その結果、ケーブル保護用シートが燃え始めて、解鉛部にかけてあった作業着及び発泡ポリエチレン芯線被覆に燃え移り、拡大しながらケーブル外被に燃え移ったものと延焼の状況を推定していることが認められる。

右認定の事実と前記五3で認定した本件火災発生当日の作業内容及び前記三で認定した本件洞道内のケーブルの状況についての事実を総合すると、本件洞道内でガソリントーチランプを使用して解鉛の作業を行った前記二名の明和の作業員は、ガソリントーチランプの種火を消さずに本件洞道から退出したため、その炎がケーブル保護用シートに着火して本件火災の原因となったものと推認するのが相当である。

<証拠>によれば、大明の取締役線路部長であった柳澤忠男は、本件火災発生当日の夜、前記二名の明和の作業員から、本件洞道から退出する際ガソリントーチランプの火を消した旨の報告を受けていることが認められるが、右報告内容についての証言は前記推認による認定事実に照らし採用することができない。

八電々公社の責任原因として原告らが主張する事実関係についての判断

1  請求原因2(一)(債務不履行責任)について

(一)  電々公社が別表3記載の原告ら三0名と加入電話加入契約(公衆電気通信法二七条)を締結していたこと、本件事故により、同原告らの加入電話が別表1「不通期間」欄記載の各日数の間不通となり、その間同原告らが公衆電気通信役務(同法二条三項)の提供を受けることができなかったことは当事者間に争いがない。

(二)  そこで、その余の原告らと電々公社との間の加入電話加入契約の存否についての判断はさておき、まず電々公社の右原告ら三0名に対する前記役務の不提供について、電々公社に帰責事由があるか否かについて判断する。

(1) 前記七で認定したとおり、本件火災は、前記二名の明和の作業員が、ガソリントーチランプの種火を消さずに本件洞道から退出したために発生したものであり、同作業員らは、作業を一旦中断して洞道から退出する場合には、ガソリントーチランプの火を完全に消して、火気のないことを確認すべき注意義務があるのにこれを怠った過失があるということができる。

しかし、前記六2で認定したとおり、電々公社は、請負工事の事故防止及び安全対策につき、以前から請負人に一般的指導を行うほか、既設洞道内の作業現場での火災事故を防止するため火気使用の場合の注意事項につき指導文書を請負業者に発して注意喚起に努めており、これを受けて、請負人である大明は、下請会社を通じてその作業員に文書で火気使用上の注意の周知徹底を図り、また、ゼロ災会議、安全ミーティング、講習会により安全対策を徹底していたものである。

したがって、電々公社としては、本件工事のような既存洞道内における作業でトーチランプ等の火気を使用する場合の火災発生の危険性を認識し、これを防止すべく、請負人に対する指導及び指導文書による注意の喚起により、請負人を通じて下請の作業員に対し、火気使用上の注意についての指導が行われるようにして、洞道内火災発生防止のための相当な措置を講じていたものということができる。

もっとも、前記五4で認定したとおり、電々公社は前記二名の明和の作業員のガソリントーチランプを使用しての本件ケーブル線の接続不良箇所の探索作業に、電々公社の監督員、大明の現場代理人あるいはその他の者を立ち会わせることはなかったのであるが、右作業は、前記五4で認定したとおり、本件工事としては日常的な作業であり、ガソリントーチランプは数十年前から使用されている器具で特に危険なものでもなかったこと、前記二名の明和の作業員が、電々公社の注意喚起を受けての大明からの火気使用についての指導に従っていれば、本件火災を防止することができたことに照らし、電々公社は、前記請負人に対する指導、注意喚起以外に、更に進んで、本件工事の前記作業に電々公社の監督員、大明の現場代理人、その他の者を立ち会わせる注意義務まで負っていたということはできない。

したがって、本件火災はもっぱら前記二名の明和の作業員の過失に起因するものということができ、電々公社には、本件火災発生につき何らその注意義務違反の事実は存せず、電々公社に過失があったとはいえない。

(2) また、前認定のとおり、前記二名の明和の作業員には過失が認められるが、前記四及び五で認定したとおり、同作業員らは電々公社から電話ケーブル等の増設工事を請け負った大明からケーブル接続工程を下請けした明和の作業員で、明和の下請けした工事の一部に従事中に本件火災を生じさせたのであり、また、右工事で増設中のケーブルは、まだ電々公社が加入電話加入者に公衆電気通信役務を提供するために供されていなかったのであるから、同作業員らは、電々公社が加入電話加入者に公衆電気通信役務を提供するにつき、その債務の履行補助者といえないことは明らかである。

(3) したがって、電々公社の別表3記載の原告ら三0名に対する本件の公衆電気通信役務の不提供という債務不履行は、いずれにしても電々公社の責に帰すべからざる事由に基づくものというべきであるから、電々公社がその債務不履行責任を負うことはない。

(三)  そうである以上、別表3記載の原告ら三0名以外の原告らについても、それぞれの加入電話加入契約の締結の事実及び当該加入電話の不通の事実を検討するまでもなく、右原告らの債務不履行を理由とする請求は失当である。

2  請求原因2(二)(国家賠償法一条の責任及び使用者責任)について

電々公社は、前記ユニット増設工事につき渡辺忠を監督員に任命し、大明は現場代理人兼主任技術者として今博一を選任していたこと、及び右監督員の任免の権限は東京電気通信局建設部長が有しており、世田谷電話局長にはなかったことは、前記四3において認定したとおりである。

したがって、世田谷電話局長が監督員の任免の権限を有すること及び監督員が選任されていなかったことを世田谷電話局長に過失があることの根拠とする原告らの請求原因2(二)の主張はそれ自体失当であり、右過失を前提とする電々公社の請求原因についての主張も理由がない。

なお、本件洞道におけるガソリントーチランプを使用しての作業に、大明側の現場代理人も電々公社側の監督員も立ち会ってはいなかったが、そのことにつき電々公社に注意義務違反の事実は認められず、また本件火災発生防止措置の点でも電々公社に注意義務違反の事実を認め難いことは、前記八1で認定したとおりである。そして、ガソリントーチランプを使用しての作業について右に認定した一般的危険の認識を超えて、明和の作業員の過失による本件火災の発生を電々公社の職員において具体的に予見し、又は予見できた事情は、本件全証拠によっても認めるに足りない。したがって、行政権限不行使の違法をいう請求原因2(二)の主張は、いずれにしても理由がない。

3  請求原因2(三)(使用者責任)について

原告らは、本件火災発生当日に本件洞道に入溝した明和の四名の作業員は電々公社の被用者であると主張するので、まずこの点について判断する。

前記四及び五において認定したとおり、電々公社は、大明に昭和五八年度世田谷局ユニット増設工事(土木)〔その2〕及びその追加工事である昭和五九年度世田谷局ユニット増設その2―2工事(線路)を請け負わせ、大明は明和に右追加の増設工事のうち、ケーブル接続工程の約半数を下請させたのであるから、これらの工事についての契約上の地位関係は、電々公社は注文者、大明は請負人、更に大明、明和の関係は元請、下請の関係に当たり、前記明和の作業員と電々公社との間に直接の雇傭契約がないことは明らかである。

もっとも、民法七一五条の規定する使用者及び被用者の関係は、必ずしも雇傭契約の場合に限らず、請負契約の場合であっても、請負人が独立の地位を有することなく注文者の指揮監督に服する場合も含まれると解される。

前記四1及び2において認定したとおり、本件請負契約に、請求原因2(三)(3)記載の各条項が存し、右条項は昭和五九年度世田谷局ユニット増設その2―2工事(線路)の請負においてもなお効力を有していたのであるが、右条項とほぼ同一内容の条項は、いわゆる四会連合協定の工事請負契約約款中にも存するものであって、原告主張の前記条項があるからといって、本件請負契約が特に一般の工事請負契約と異なるということはできない。また、前記条項を内容的に検討しても、大明が請け負った作業内容全般にわたって、大明が電々公社の指揮監督に服することまでを定めた規定は見当たらず、前記条項が存するからといって、大明が直ちに請負人としての地位の独立性を失うものではないから、電々公社の被用者であると認めることはできず、他に大明が電々公社の被用者であり、ひいては、前記明和の作業員が電々公社の被用者であることを認めるに足りる証拠はない。

また、前記四2(四)において認定したとおり、電々公社の退職者の中に、大明の取締役となった者もあり、大明の売上高の九割が電々公社からの受注であって営業上の依存度が高かったにせよ、大明が電々公社以外の工事をする場合に、電々公社の承諾が必要であったわけではなく、資本の面でも大明は電々公社とは関係がなかったことに照らし、右の事実のみをもって大明を電々公社と同視することはできない。

以上のとおりであるから、その余について判断するまでもなく、電々公社が右明和の四名の作業員を被用者とする使用者責任を負うことはなく、請求原因2(三)の主張もまた理由がない。

4  請求原因2(四)(工作物責任、営造物責任)について

原告らは、洞道内のケーブルの被覆の材質が火に弱かったこと、ケーブルに副システムが採用されていなかったこと、洞道内に消防設備がなく、消火防火策も講じられていなかったこと、洞道内でトーチランプを使用しての解鉛作業を行う場合の作業管理が杜撰であったことが、本件洞道の土地の工作物としての設置・保存の瑕疵であり、公の営造物としての設置・管理の瑕疵であると主張するので、この点につき判断する。

本件洞道内のケーブルの外被はポリエチレンであり、右外被にガソリントーチランプの炎を一分間接炎すれば、独立燃焼を起こすことは、前記三2(四)において認定したとおりであり、また、本件洞道内のケーブルにつき副システムが採用されていなかったこと、本件洞道内にスプリンクラーのような自動消火設備が設置されていなかったことは、前記六1において認定したとおりである。

しかしながら、本件火災は、前認定のとおり、作業員が本件洞道から退出する際のガソリントーチランプの種火の消し忘れにより発生したものであって、本件洞道及び本件洞道内のケーブルの性質上当然に発生するものではなく、右作業員が火災発生防止のための注意義務を尽くせばこれを容易に防止することができたものである。

したがって、洞道内ケーブルの外被がポリエチレンであり、右ケーブルに副システムが採用されておらず、洞道内に自動消火設備が設置されていなかったからといって、直ちに、本件洞道及び洞道内ケーブルが通常有すべき安全性に欠けていたということはできないというべきである。

のみならず、本件の洞道の管理についても、前記三2(一)において認定したとおり、本件洞道に入溝するためには、世田谷電話局庁舎内のケーブル室を通過しなければならなかったところ、同電話局局長において厳重な入出管理を行っており、また、前記六2において認定したとおり、洞道内におけるトーチランプを使用する作業についても、電々公社は、事故防止及び安全対策につき請負人に一般的指導を行うほか、火災事故を防止するため火気使用の場合の注意事項につき指導文書を請負業者に発して注意喚起につとめ、更に、請負人を通じて下請の作業員に対し火気使用上の注意についての指導がなされるようにしていたのであるから、電々公社に本件洞道の管理に不完全なところがあったということはできない。

以上のとおりであるから、いずれにしても本件洞道及び洞道内ケーブルの設置・管理に瑕疵があったという事実を認めることはできないので、その余について判断するまでもなく、電々公社が工作物責任、営造物責任を負うことはなく、請求原因2(四)の主張もまた理由がない。

九結論

以上に検討したとおり、原告らの主張する各責任原因につきこれを肯認するに足りる証拠はなく、したがって電々公社の承継人である被告が本件事故につき責任を負うべき理由がないことが明らかであるから、請求原因5以下の公衆電気通信法一0九条の解釈及び同条と民法四一五条、七一五条一項、七一七条一項、国家賠償法一条一項、二条一項との適用関係並びに原告らの提起した憲法一七条違反の主張について特に判断するまでもなく、原告らの本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官荒井史男 裁判官安間雅夫 裁判官阪本 勝)

別紙<省略>

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