東京地方裁判所 昭和60年(ワ)4142号 判決 1987年12月09日
原告
株式会社ダイヤモンド
右代表者代表取締役
小林光雄
右訴訟代理人弁護士
村田友栄
被告
国
右代表者法務大臣
林田悠紀夫
右指定代理人
岩田好二
同
草薙讃
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は、原告の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、原告に対し、一八〇〇万円及びこれに対する昭和五六年四月二四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は、被告の負担とする。
3 仮執行の宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 主文同旨
2 担保を条件とする仮執行免脱の宣言
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 本件の概要
(一) 認諾調書の騙取及びこれによる土地所有権移転登記
(1) 西村順司、堀川登及び吉賀昌彦(以下、それぞれ「西村」、「堀川」、「吉賀」という。)は、渡邉國太郎(以下「渡邉」という。)所有の別紙(一)物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)を同人に無断で吉賀が代表取締役をしている有限会社雅商事(以下「雅商事」という。)へ所有権移転登記手続をした上、これを他に処分して金員を騙取しようと企て、昭和五六年一月三〇日ころ、まず、情を知らない茨城県行方郡麻生町在住の司法書士越川豊樹(以下「越川」という。)をして、雅商事と渡邉が両者間に昭和五五年二月四日成立した本件土地の売買に関する紛争についての訴訟は水戸地方裁判所乙支部(以下「乙支部」という。)を管轄裁判所とすることに合意する旨の管轄合意書(以下「本件管轄合意書」という。)を作成させて、これを偽造した。
(2) 次いで、西村、堀川及び吉賀は、昭和五六年二月三日、乙支部に対し、雅商事を原告、渡邉を被告として、雅商事から渡邉に対して本件土地につき昭和五五年二月四日売買を原因とする所有権移転登記手続を求める訴状(以下「本件訴状」という。)をこれに本件管轄合意書を添付して提出し、右訴えは、同支部昭和五六年(ワ)第二号土地所有権移転登記手続請求事件(以下「本件訴訟事件」という。)として受理された。
(3) 本件訴訟事件の第一回口頭弁論期日は、昭和五六年二月二六日午後一時、乙支部において、裁判官T(以下「T裁判官」という。)及び書記官U(以下「U書記官」という。)が立ち会い、原告側は雅商事の代表者吉賀が、被告側は渡邉を装つた堀川がそれぞれ出頭して開かれ、堀川がT裁判官に対して原告雅商事の請求を認諾する旨の陳述をしたため、本件訴訟事件は請求認諾があつたものとして終了した。
(4) 吉賀らは、その後、乙支部から本件訴訟事件の認諾調書(以下「本件認諾調書」という。)の正本の交付を受け、昭和五六年三月二五日、これに基づいて、本件土地につき、渡邉から雅商事に対する昭和五五年二月四日売買を原因とする所有権移転登記を経由した。
(二) 原告の雅商事に対する貸金
本件土地につき雅商事名義の所有権移転登記手続を了した西村、堀川及び吉賀の三人は、友人の加藤隆一(以下「加藤」という。)に本件土地の処分を依頼し、同人をして、原告に対し、本件土地は雅商事の所有であり、これを担保として提供するので雅商事へ融資をしてほしい旨申し込ませた。原告は、雅商事から提示された本件土地の登記済証及び登記簿謄本等によつて、雅商事が本件土地を所有しており、抵当権その他の担保権を設定できるものと誤信し、昭和五六年四月二四日、雅商事に対し、二〇〇〇万円を弁済期同年六月二三日、利息月五分の約定で貸し付け、二箇月分の利息二〇〇万円を天引きして現金一八〇〇万円を交付した。そして、雅商事は、原告の右貸金債権を担保するため、原告に対し、本件土地につき、抵当権を設定するとともに、代物弁済の予約をし、その旨の抵当権設定登記(以下「本件抵当権設定登記」という。)及び代物弁済予約を原因とする所有権移転請求権仮登記(以下「本件仮登記」という。)をそれぞれ経由した。
なお、右抵当権等の権利者は登記簿上港建設株式会社(以下「港建設」という。)となつているが、原告と港建設とは、当時、いずれも三村光一が代表取締役を務め、両社の株式のほとんどを同人が所有し、人的組織も両社ともほぼ同一人で構成されていたところ、融資の申込みをしてきた加藤が、原告に対し、登記簿上に貸金業者である原告から融資を受けたことを表示することは、後日雅商事が本件土地を処分する際体裁が良くないので、形式上原告の親会社である港建設を抵当権者及び仮登記担保権者としてもらいたい旨要望したため、港建設を権利者として本件抵当権設定登記等が経由されたものであるから、本件抵当権等の実質上の権利者は原告であり、右抵当権等の実行により優先弁済を受けるのは原告であつた。
(三) 本件抵当権設定登記等の抹消
その後、港建設は、本件土地の真の所有者である渡邉から本件土地につき本件仮登記等の抹消登記手読を求める訴えを千葉地方裁判所に提起されて敗訴し、東京高等裁判所に控訴したが、昭和五八年五月三一日控訴棄却の判決を受け、右判決は確定した。その結果、同年八月一〇日、本件仮登記等は、抹消されてしまつた。
2 裁判官の行為の違法性
本件訴訟事件は、第一回口頭弁論期日において請求認諾があつたものとして終了しているが、右期日において請求を認諾する旨陳述した者は右事件の被告渡邉本人ではなく、同被告を装つた堀川であることは前記1(一)(3)のとおりであるから、請求認諾があつたものと認めて書記官に認諾調書を作成させたT裁判官の行為の違法性は明らかである。
また、U書記官は、昭和五六年二月四日本件訴訟事件の第一回口頭弁論期日の呼出状(以下「本件呼出状」という。)を訴状副本とともに被告渡邉に宛てて発送しているが、T裁判官が右期日指定の裁判をしたのは同月五日であるから、本件呼出状は期日指定の裁判がある前に発送されたものであつて、その送達は無効であり、更に、本件呼出状等は被告である渡邉本人に送達されていないから、本件訴訟事件の第一回口頭弁論期日は適法に開かれたものではない。したがつて、違法、無効な口頭弁論期日に請求認諾を認めて書記官に認諾調書を作成させた点からみても、T裁判官の行為は違法である。
3 被告の責任
(一) 本件訴訟事件はいわゆる本人訴訟であるから、裁判官としては、出頭した当事者の同一性を確認し、殊に、被告が請求を認諾しようとするときは、被告として出頭した者が被告本人であることを確認した上で訴訟手続を進行させる義務を負つているところ、特に、本件訴訟事件においては左記(1)ないし(4)記載のような当事者の同一性を疑わせる事情があり、被告の氏名が冒用されている疑いがあつたのであるから、右事件を担当したT裁判官としては、いわゆる本人訴訟において裁判官が通常行つているように、当事者として出頭した者に対して身分を証するものを呈示させるなどして当事者の同一性の確認を厳重にすべき義務があつたのであるが、同裁判官は、第一回口頭弁論期日において、被告渡邉本人として出頭した者に身分を証するものの呈示を求めることなく、漫然と訴訟手続を進行させ、被告渡邉本人による請求認諾があつたものと認めて、書記官に本件認諾調書を作成させてしまつた。したがつて、T裁判官にはその職務を行うについて過失があつた。
記
(1) 原告雅商事の本店所在地及び送達場所並びに被告渡邉の住所地がいずれも東京であり、本件土地の所在地が千葉市であるのに、わざわざ地理的条件の良くない乙支部を管轄裁判所とする旨の合意がなされ、しかも、その管轄合意書が訴え提起の前日に作成されていること。
(2) 本件訴状記載の被告渡邉の住所が本件土地の登記簿上の住所と異なつていること。
(3) 不動産の売買では代金の支払と引換えに登記手続をするのが一般的であるところ、本件訴状によれば、本件土地の売買価格は七四二五万円という高額であるのに、原告雅商事において何らの登記手続をしないまま代金全額を支払つたとされていること。
(4) 被告渡邉の答弁書には請求を認諾する旨の記載があり、原告雅商事において訴訟を提起する必要性が乏しかつたこと。
(二) また、本件訴状、本件呼出状等が本件訴訟事件の被告渡邉に送達されず、かつ、本件呼出状等がT裁判官による期日指定の裁判がある前に被告渡邉に発送されたことは、前記のとおりであるところ、T裁判官としては、本件訴状記載の被告渡邉の住所は、前記のように本件土地の登記簿上の同被告の住所と異なつていた上、本件訴状に添付されていた昭和五六年一月八日付け千葉市固定資産価格通知書記載の同被告の住所「千葉市南町三丁目二〇―一七」とも異なつていたのであるから、本件呼出状等を送達すべき被告の住所地を調査して、これらが被告渡邉本人に間違いなく送達されているかどうか十分確認し、また、本件呼出状等が期日指定の裁判後に適法に被告渡邉に宛てて発送されているかどうか確認し、本件呼出状等が期日指定の裁判前に発送され、かつ、被告渡邉本人に送達もされていないのに口頭弁論期日を開くことのないよう注意すべき義務があるのに、T裁判官は、右注意義務を怠り、本件呼出状等が期日指定の裁判前に被告渡邉に宛てて発送され、かつ、同被告に送達もされていないことを看過して第一回口頭弁論期日を開いて請求認諾を認めてしまつたものであつて、T裁判官にはその職務を行うについて過失があつた。
(三) よつて、被告は、国家賠償法一条一項により、原告の後記損害を賠償する責任がある。
4 損害
原告は、前記1(二)のとおり、雅商事が本件土地を所有していて、これに抵当権その他の担保権を設定できるものと誤信して二〇〇〇万円を貸し付け、右貸金債権を担保するため雅商事から本件土地につき抵当権の設定を受け、また、代物弁済の予約をして本件抵当権設定登記等を経由したが、前記1(三)のとおり、渡邉により本件仮登記等を抹消されてしまつたため、右貸金の回収が不可能となり、結局、利息天引き分を除いて現実に交付した一八〇〇万円相当の損害を被つた。原告の右損害は、前記3の裁判官の過失によつて生じたものである。
5 よつて、原告は、被告に対し、国家賠償法一条一項に基づき、前記4の損害一八〇〇万円及びこれに対する損害発生の日である昭和五六年四月二四日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1(一)(1) 請求原因1(一)(1)の事実は知らない。
(2) 同1(一)(2)の事実のうち、昭和五六年二月三日乙支部に本件訴状がこれに本件管轄合意書を添付して提出されたこと、右訴えが同支部昭和五六年(ワ)第二号土地所有権移転登記手続請求事件として受理されたことは認め、その余は知らない。
(3) 同1(一)(3)の事実のうち、本件訴訟事件の第一回口頭弁論期日が昭和五六年二月二六日午後一時乙支部においてT裁判官及びU書記官が立ち会つて開かれ、原告雅商事代表者吉賀と称する者及び被告渡邉と称する者が出頭し、被告渡邉と称する者が原告雅商事の請求を認諾して訴訟が終了したことは認め、その余は知らない。
(4) 同1(一)(4)の事実のうち、本件訴訟事件の原告雅商事が本件認諾調書の正本の交付を受けたことは認め、その余は知らない。
(二) 同1(二)及び(三)の各事実は、知らない。
2 同2の主張は争う。
3 同3の主張のうち、一般論として口頭弁論期日に当事者として出頭した者が当事者本人であることを確認して訴訟を進行する義務が裁判官にあることは認め、その余は争う。
4 同4の事実は知らず、その主張は争う。
三 被告の主張
1 本件訴訟事件の経過
(一) 昭和五六年二月三日、乙支部に対し、本件訴状が提出された。
(二) 乙支部受付係書記官は、本件訴状に原告雅商事の代表取締役吉賀及び被告渡邉作成名義の昭和五六年二月二日付けの本件管轄合意書が添付されていたので、本件訴状を同支部同年(ワ)第二号土地所有権移転登記手続請求事件(本件訴訟事件)として受理した。
(三) 本件訴状記載の当事者の表示は、別紙(二)記載のとおりであり、また、本件訴状記載の「請求の趣旨」及び「請求の原因」は、別紙(三)記載のとおりであつた。
(四) 本件訴訟事件は、事務分配の定めにより、乙支部のT裁判官の担当するところとなり、また、同支部のU書記官が係書記官となつた。
(五) T裁判官は、昭和五六年二月五日、本件訴訟事件の第一回口頭弁論期日を同月二六日午後一時と指定したが、U書記官は、これに先立つ同月三日、右のように期日指定されることを予想して、原告雅商事に対し、右期日を事実上告知して期日出頭請書を提出させるとともに、同月四日、被告渡邉に対し、本件訴状副本、本件呼出状及び答弁書提出催告状を郵便により発送し、同月一〇日、本件呼出状等が被告渡邉に送達された。
(六) 昭和五六年二月一二日、本件訴状副本等の送達についての郵便送達報告書が乙支部に送付されてきたが、右報告書には、送達年月日として「昭和五六年二月一〇日一一時」、送達の場所として「墨田区緑四―九―一〇」、送達方法として「受送達者本人に渡した。」との記載があり、受領者の押印又は署名の欄に「渡辺」と刻した印影が押捺されていた。
(七) 昭和五六年二月二三日、乙支部に被告渡邉作成名義の答弁書(以下「本件答弁書」という。)が送付されてきた。右答弁書には、「請求の趣旨に対する答弁」及び「請求の原因に対する答弁」として別紙(四)記載のとおりの記載がなされ、作成者として「渡邉國太郎」と記載され、その名下に「渡邉國太郎」と刻した印影が押捺されていた。
(八) 本件訴訟事件の第一回口頭弁論期日は昭和五六年二月二六日午後一時過ぎから開かれ、原告雅商事の代表者吉賀と称する者及び被告渡邉と称する者が出頭したので、T裁判官は、右両名に対しそれぞれ氏名、住所等を口頭で質問して、吉賀本人、渡邉本人であるか否かを質したところ、両名とも右本人である旨答えたので、同裁判官は、両当事者本人が出頭しているものと判断し、手続を進めた。そして、同裁判官は、原告雅商事代表者と称する者に対し、本件訴状の記載によつて原告側の売買についての主張を再確認した上、被告渡邉と称する者に対し、売買に関する事実が原告雅商事の主張どおりであるのか否か、本件答弁書には「原告の請求を認諾する。」とあるが、認諾の意味を理解しているのか否か、あるいは真に認諾する意思があるのか否か等について質問し、被告渡邉と称する者の応答から、事実関係については争いがなく、被告側も真に認諾する意思であると判断し、最終的に右事件は認諾によつて終了させてもよいとの結論に到達した。そこで、同裁判官は、本件訴訟事件は請求認諾によつて終了した旨宣言し、同期日の審理を終えた。
(九) その後、右期日の結果に基づき、U書記官によつて本件認諾調書が作成された。
2 裁判官の当事者確認行為に訴訟手続違背がないことについて
いわゆる本人訴訟の場合に、当事者として出頭した者が真に当事者本人であるか否かを確認する方法については、民事訴訟法及び民事訴訟規則には何らの規定もなく、裁判所の合理的な裁量に委ねられており、裁判所は相当と認める方法によりこれをすることができ、訴訟の当事者であることの合理的な確証を得れば足りるものと解される。このことは、口頭弁論期日への出頭だけでなく、認諾があつたり和解が成立する場合も、基本的には同様と解される。
ところで、訴訟は社会で発生する法的紛争の一当事者から他の当事者を相手方として(通常は)訴状を提出して提起され、法定の厳格な送達手続により被告の呼出しが行われ(原則的な送達方法である郵便による送達においては、裁判所書記官によつて呼出状等が発送され、地理と事情に通じている郵便集配人が受取人と名宛人との同一性につき厳格な確認方法を踏む等の法定の方法により送達がなされ、郵便集配人は、送達方法、送達年月日時及び送達の場所を記載し、受領者の署名又は押印を得た郵便送達報告書を裁判所に提出することになつている。)、定められた口頭弁論期日に対立当事者が対席してその審理が進められるもので、被告の氏名が冒用されるなどして全く関係のない者が口頭弁論期日における審理に被告として関与するなどということはほとんど考えられず、真実の被告本人が出頭する高度の手続的情況的保障があるものというべきである。したがつて、氏名冒用を一見して疑わせるような特段の事情のない限り、当事者にその身分を証するものの呈示を求めるなどの方法をとる必要はなく、通常は、被告として出頭した者に対し、代理の者でないか否かの趣旨を含めて、必要に応じて本人であるか否かを質問したり、氏名、住所等のいわゆる人定事項に関する質問をしたりして当事者の同一性の確認をすれば足りるものというべきである。
そこで、本件訴訟事件についてみてみるに、本件訴訟事件の経過は、前記1のとおりであつて、訴状提出から第一回口頭弁論期日に至るまでの過程に氏名冒用等を伺わせるような客観的な事実は存しなかつた。そして、T裁判官は、事件の呼上げをして第一回口頭弁論期日を開廷し、各当事者として出頭した者に対し、交互に氏名、住所等の人定事項を口頭で尋ねる等して、これに対する法廷における当事者の態度等を総合した結果、被告渡邉として出頭した者が同被告本人であるとの確信を得たものである。殊に、本件訴訟事件は売買契約に基づく土地の所有権移転登記手続を求めるものであり、契約当事者である原・被告はお互いを認識できる状況下にあるところ、相手方たる原告雅商事の代表者も、被告渡邉として出頭した者の同被告本人との同一性について何らの異議を差し挾むことなく訴訟活動を行つていたのであつて、被告渡邉の氏名冒用を疑わせるような特段の事情は全く伺うことができなかつた。加えて、同裁判官においては、事案の性質上慎重を期すべく、請求原因事実などの事案の内容や、認諾の意味を理解しているかどうかなどを、被告渡邉と称して出頭した者に問い質し、このようなやりとりの中から間接的にも本人であるか否かの確認をしているのであるから、同裁判官がとつた当事者の確認方法は相当であり、以上のような確認により本件訴訟事件の当事者が出廷しているとの心証を得たのであつて、これらの同裁判官の行為には訴訟手続の違背はない。
3 期日指定前の呼出状の発送について
前記1(五)のとおり、U書記官が本件呼出状を被告渡邉宛てに発送したのは昭和五六年二月四日であり、T裁判官が期日指定の裁判をしたのは同月五日であり、本件呼出状が被告渡邉に送達されたのは同月一〇日である。
右事実経過によると、本件呼出状発送の段階では、その発送には瑕疵があるものといわざるを得ないが、被告への到達前であるその翌二月五日にT裁判官が本件呼出状記載の日時に第一回口頭弁論期日を指定する裁判をしたことにより、本件呼出状の発送は瑕疵のないものとなり、したがつて、同月一〇日に有効な呼出状の送達があつたものというべきである。けだし、裁判官が期日指定の裁判をした段階で期日を決定する行為が成立しており、期日の呼出しは単にその期日に出頭すべき旨の要求に過ぎないのであるから、送達時までに呼出状記載のとおりの期日指定がされていれば、その呼出しは、当事者に何ら不利益を与えるものではなく、何ら瑕疵のないものといわざるを得ない。
したがつて、右送達が無効であることを前提とする原告の主張は失当である。
また、仮に本件呼出状の送達に何らかの瑕疵があるとしても、呼出しは、当事者の訴訟追行上の利益を保障し、その便宜を図ることを主たる目的とする行為であるから、その瑕疵による不利益を当事者が甘受するならば、責問権の放棄・喪失の対象となるところ、本件訴訟事件の第一回口頭弁論期日には本件訴状副本及び本件呼出状の送達を受けた被告渡邉と称する者が出頭し、異議なく弁論をしているのであるから、当然に前記のような呼出しに関する瑕疵については責問権の黙示の放棄あるいは喪失が認められるべきである。したがつて、裁判所は、呼出しに何らかの瑕疵があるとしても、むしろ、訴訟経済上も弁論を開くべきことが要請されていたというべきであるから、呼出しの瑕疵を理由に期日を開くべきでないとする原告の主張は失当である。
更に、本訴請求は、本件訴訟事件の被告に対する本件呼出状等の送達を受けた第三者が被告渡邉とせん称し請求を認諾したことに起因して原告が損害を被つたとするものであるが、前述のような呼出しの瑕疵を看過して期日を開いたことと本件認諾調書が作成されたこととの間には法的な因果関係も認められないというべきである。
4 裁判官の職務行為と国家賠償責任について
前記2のとおり、本件訴訟事件における担当裁判官の行為には何らの職務上の義務違反はないから、国家賠償法上違法とされる余地はないが、そもそも判決・決定などの典型的な争訟の裁判に限らず、裁判官の独立が要請される司法権固有の行為であり、かつ、当該事件についての公権的最終判断性を有する行為(例えば、裁判上の和解、請求の放棄・認諾等の成立を認める行為)並びにこれに必然的に随伴する事実認定及び法律判断を内容とする行為については、当該裁判官が違法又は不当な目的をもつて裁判をしたなど裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認めうるような特別の事情がある場合にのみ国家賠償法上の違法を限定すべきである(最高裁判所昭和五七年三月一二日第二小法廷判決・民集三六巻三号三二九頁参照)。
そこで本件についてみると、本件で違法性が主張されている裁判官の過誤は、損害との因果関係からみれば、結局のところ当事者でない者の陳述を当事者本人の請求認諾の陳述と認めたことであると考えられる。このように裁判所として当事者の特定の訴訟行為の成立と効力を認める場合には、その前提となる当事者本人の同一性の確認の問題は、その訴訟行為が真実の当事者によるものであることという訴訟行為の基本的要件の充足についての認定・判断の問題である。そして、原告の提示した請求についての被告と称する者の陳述に、請求認諾の成立と効力を認めるかどうかは、ひとえに、裁判官による請求自体の適否の判断を含む認諾の要件を充足しているかどうかの認定・判断にかかつているものである。その意味で、裁判官の右認定・判断は、正に争訟手続における公権的最終判断性を有する司法権固有の行為というべきである。したがつて、本件においても、裁判官が違法又は不当な目的をもつてその職務行為をしたなど、裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認めうるような特別の事情がない限り、国家賠償法上の違法の問題は生じないというべきであり、T裁判官の行為にそのような特別の事情がないことは明らかであるから、同裁判官の行為には何ら違法の問題は生じない。
四 被告の主張に対する認否
1 被告の主張1の事実について
(一) (一)ないし(七)及び(九)の各事実は認める(ただし、(五)の事実のうち、本件呼出状等が被告渡邉に送達されたその点は除く。)。
(二) (八)の事実のうち、本件訴訟事件の第一回口頭弁論期日が昭和五六年二月二六日に開かれ、被告渡邉と称する者が原告の請求を認諾して訴訟が終了したことは認め、その余は知らない。
2 同2ないし4の各主張はいずれも争う。
第三 証拠<省略>
理由
一本件の経緯
1 当事者間に争いがない事実
昭和五六年二月三日、乙支部に、原告を雅商事、被告を渡邉とし、本件土地について昭和五五年二月四日売買を原因とする所有権移転登記手続を求める本件訴状が提出され、同支部受付係書記官は、本件訴状に本件管轄合意書が添付されていたので、これを同支部昭和五六年(ワ)第二号土地建物所有権移転登記手続請求事件(本件訴訟事件)として受理したこと、本件訴状記載の当事者の表示は別紙(二)記載のとおりであり、請求の趣旨及びその原因は別紙(三)記載のとおりであつたこと、本件訴訟事件は事務分配の定めにより乙支部のT裁判官の担当するところとなり、同支部のU書記官となつたこと、U書記官が、同月三日、原告に対し、本件訴訟事件の第一回口頭弁論期日を同月二六日午後一時と事実上告知して期日出頭請書を提出させるとともに、同月四日、被告に対し、本件訴状副本、本件呼出状及び答弁書提出催告状を郵便により発送したが、T裁判官が実際に右期日を指定したのは同月五日であること、同月一二日、右呼出状等の郵便送達報告書が麻生支部に送付されてきたが、右送達報告書には、送達年月日として「昭和五六年二月一〇日」、送達場所として「墨田区緑四―九―一〇」、送達方法として「受送達者本人に渡した。」との記載があり、受領者の押印又は署名の欄に「渡辺」と刻した印影が押捺されていたこと、同月二三日、乙支部に渡邉作成名義の本件答弁書が送付されてきたが、本件答弁書には、作成者名下に「渡邉國太郎」と刻した印影が押捺され、「請求の趣旨に対する答弁」及び「請求の原因に対する答弁」として別紙(四)記載のとおりの記載がなされていたこと、本件訴訟事件の第一回口頭弁論期日がT裁判官及びU書記官立会いの上開かれ、被告として出頭した渡邉と称する者が原告の請求を認諾して訴訟が終了したこと、U書記官は右期日の結果に基づき本件認諾調書を作成し、本件訴訟事件の原告雅商事が本件認諾調書の正本の交付を受けたこと、以上の各事実は当事者間に争いがない。
2 右争いがない各事実に、<証拠>を総合すれば、次の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
(一) 西村、堀川及び吉賀の三名は、吉賀が代表取締役をしている雅商事が渡邉から本件土地を買い受けたことにして、雅商事を原告、渡邉を被告とする本件土地の所有権移転登記手続請求の訴えを提起し、堀川が渡邉になりすまして請求を認諾して、本件土地の所有名義を渡邉から雅商事に移転した上、これを他に処分して金員を騙取することを共謀し、昭和五六年一月三〇日ころ、まず、情を知らない茨城県行方郡麻生町在住の司法書士越川をして、いずれも渡邉の住所を堀川がそのころ時々出入りしていた友人の加藤方とする、雅商事と渡邉が両者間に昭和五五年二月四日成立した本件土地の売買に関する紛争について提起する訴訟については乙支部を管轄裁判所とすることに合意する旨の本件管轄合意書及び雅商事が渡邉に対して本件土地につき右売買を原因とする所有権移転登記手続を求める本件訴状を作成させ、堀川が本件管轄合意書の末尾にほしいままに「渡邉國太郎」と署名し、その名下に「渡邉國太郎」と刻した印鑑を押捺した。なお、本件訴状には、被告渡邉の前記住所の記載とともに、別紙(二)記載のように本件土地の登記簿上の住所が併記されていた。
(二) 西村及び吉賀は、昭和五六年二月三日、越川に同行して乙支部に赴き、越川が同支部に本件管轄合意書を添付して本件訴状を提出した。乙支部の受付係書記官小峰昭三は、本件訴状に本件管轄合意書が添付されていたので、乙支部に合意管轄があるとして、これを同支部同年(ワ)第二号土地所有権移転登記手続請求事件(本件訴訟事件)として受理した。本件訴訟事件は、乙支部の事務分配の定めにより、T裁判官の担当するところとなり、U書記官が係書記官となつたが、同書記官は、右同日、その場で、越川と同行して来た吉賀に対し、後にT裁判官が本件訴訟事件の第一回口頭弁論期日を同月二六日午後一時と指定することを予想して、その旨事実上告知し、吉賀に右期日についての期日出頭請書を提出させた。
(三) U書記官は本件訴状及び本件管轄合意書などの添付書類に不備がないことを確認した上、昭和五六年二月四日、本件訴状副本、同月二六日午後一時の口頭弁論期日についての本件呼出状及び答弁書提出催告状を、本件訴状に被告渡邉の住所として記載された場所に宛てて発送した。
そして、T裁判官は、同月五日、本件訴訟事件の第一回口頭弁論期日を同月二六日午後一時と指定した。
(四) 昭和五六年二月一〇日、本件訴状副本等が加藤方に配達され、当時加藤と同棲していて、予め堀川から本件訴状副本等の受領を依頼されていた佐々木初音がこれを受領し、郵便送達報告書の所定欄に堀川から預かつていた「渡辺」と刻した印鑑を押捺し、同日中に本件訴状副本等を堀川に渡した。
同月一二日、右郵便送達報告書が乙支部に送付されてきたが、右送達報告書には、送達年月日として「昭和五六年二月一〇日」、送達場所として「墨田区緑四―九―一〇」、送達方法として「受送達者本人に渡した。」との記載があり、受領者の押印又は署名の欄に「渡辺」と刻した印影が押捺されていたため、U書記官は、前記訴状副本等が被告の渡邉本人に送達されたものと判断した。
(五) 西村ら三名は、原告の請求を認諾する旨を記載し、作成者名下に「渡邉國太郎」と刻した印鑑を押捺した渡邉作成名義の本件答弁書を偽造して、昭和五六年二月二〇日、郵便により、これを乙支部に発送し、本件答弁書は、同月二三日、乙支部に到達した。
(六) T裁判官は、本件訴訟事件の記録を検討して、本件訴状副本及び本件呼出状が被告渡邉本人に送達されているものと判断し、昭和五六年二月二六日午後一時過ぎ、U書記官立会いの下に、本件訴訟事件の第一回口頭弁論期日を開いたところ、原告雅商事の代表取締役である吉賀及び被告渡邉を装つた堀川が法廷に出頭した。そこで、T裁判官は、まず、原告として出頭した者に対しては同人が雅商事の代表取締役の吉賀であることを、被告として出頭した者に対しては同人が渡邉本人であることを、それぞれの氏名を呼び上げて確認し、次に、本件訴状及び本件答弁書の内容について簡単な質問を発して間違いないかどうか確認し、特に被告渡邉を装つた堀川に対しては原告の請求を認諾することに異議がないことを確認し、請求認諾で終了することで問題はないかどうかを検討した上で、結局、被告渡邉本人による請求認諾があつたものと認めて本件訴訟事件を終了させた。そして、その後、これに基づきU書記官が本件認諾調書を作成した。
(七) その後、西村らは、昭和五六年三月三日、原告雅商事代表者吉賀名義で乙支部から本件認諾調書正本の交付を受けた上、同月二五日、これに基づき、本件土地につき渡邉から雅商事に対する昭和五五年二月四日売買を原因とする所有権移転登記手続を行つた。
(八) 本件土地につき雅商事名義の所有権移転登記手続を了した西村、堀川及び吉賀の三人は、堀川の友人である加藤に本件土地の処分を依頼し、加藤は、昭和五六年四月二四日、原告に対し、本件土地が雅商事の所有であるとして、雅商事名義に所有権移転登記を経由した本件土地の登記簿謄本を示し、本件土地を担保に雅商事に対する二〇〇〇万円の融資を申し込んだ。これに対し、原告は、雅商事が本件土地を所有しており、貸金の担保として有効に抵当権その他の担保権を設定できるものと誤信して、雅商事に対して二〇〇〇万円を貸し付けることとし、右二〇〇〇万円から利息二〇〇万円を天引きした一八〇〇万円を、加藤を介して、雅商事に対し、右同日に現金五〇〇万円、同月二五日に現金一二〇〇万円、同月二八日に現金一〇〇万円の三回に分割して交付した。そして、原告は、右貸金債権を担保するため、雅商事から、本件土地につき、抵当権の設定を受け、かつ、代物弁済の予約をして、原告の関連会社である港建設名義で本件抵当権設定登記及び本件仮登記を経由した。
(九) 港建設は、昭和五六年六月二六日、本件土地につき、同社が同日代物弁済の予約完結権を行使したことを原因として所有権移転の本登記を経由した(これに伴い、本件抵当権設定登記は抹消された。)が、同年七月二九日、渡邉から、千葉地方裁判所に対し、右所有権移転本登記及び本件仮登記の抹消登記手続を求める訴えを提起され、昭和五八年六月一六日、これに敗訴し、同年八月一〇日、右各登記を抹消された。
二被告の責任について
以上の事実に基づき、まず、本件訴訟事件においてT裁判官が第一回口頭弁論期日を開いて手続を進行させ、被告渡邉本人による請求認諾があつたものと認めた点ににつき、同裁判官に過失があつたか否かについて検討する。
1 いわゆる本人訴訟において、裁判官は、口頭弁論期日に原告あるいは被告として出頭した当事者が真に原告本人あるいは被告本人であることを確認すべき職務上の注意義務があることはいうまでもないが、その確認方法については、民事訴訟法及び民事訴訟規則その他の関係法規に特別の定めはなく、したがつて、当事者の氏名冒用を疑うべき特段の事情がない限り、当事者にその身分を証するものを呈示させるなどの方法をとる必要はなく、裁判所(官)の合理的な裁量に基づき、相当と認める方法によりこれを実施すれば足りるものと解するのが相当である。ところで、民事訴訟手続は、紛争の一当事者が利害対立関係にある他の当事者を相手方として訴えを提起し、特別送達という厳格な送達手続により相手方である被告の呼出しをした上で、相対立する当事者が口頭弁論期日に出頭して審理が進められるという構造であつて、紛争の相手方である真実の被告本人が出頭する高度の蓋然性があり、被告の氏名が冒用されて紛争に関係のない者が被告として出頭するなどということは通常考えられないところである。
しかして、本件訴訟事件は、原告雅商事の代表取締役である吉賀と被告渡邉と称する堀川らの共謀により極めて巧妙に仕組まれたものではあるが、本件訴状の提出から被告渡邉への訴状副本等の送達を経て第一回口頭弁論期日が開かれるまで、U書記官が期日指定前に本件呼出状を被告渡邉に発送したことを除き、外形上格別の問題もなく訴訟手続が進行してきた。そして、右のような状況の下で、T裁判官は、前示のとおり、第一回口頭弁論期日において、原告として出頭した者に対しては同人が雅商事の代表取締役の吉賀であることを、被告として出頭した者に対しては同人が渡邉本人であることを、それぞれその氏名を呼び上げて確認し、次に、本件訴状及び本件答弁書の内容について簡単な質問を発して間違いないかどうか確認し、特に被告に対しては原告の請求を認諾することに異議がないことを確認し、請求認諾で終了することで問題はないかどうかを検討した上で、結局、被告渡邉本人による請求認諾があつたものと認めて本件訴訟事件を終了させたのであり、この間に被告の氏名の冒用を疑うべき特段の事情があつたものとは認められないから、T裁判官が行つたような当事者の同一性の確認方法が不相当なものであつて、同裁判官にその職務を行うにつき過失があつたものということはできない。
ところで、本件訴訟事件の原告雅商事の本店所在地並びに本件訴状に記載された同原告の送達場所及び被告渡邉の住所がいずれも東京都内であり、本件土地の所在地が千葉市であるのに、乙支部を管轄裁判所とする本件管轄合意書が提出され、しかも、その作成日付が本件訴状提出の前日であることは、前示のとおりであつて、いささか不自然な感もないわけではなく、また、本件訴状に記載された被告渡邉の住所が本件土地の登記簿上の住所と異なること、本件訴状に記載された請求原因事実によれば、原告雅商事は被告渡邉に対して登記手続未了のまま代金七四二五万円全額を支払つたとされていること、本件答弁書には原告の請求を認諾する旨の記載があり、また、現実に被告渡邉と称する者が出頭して原告の請求を認諾する旨陳述していることは、いずれも前示のとおりであるが、これらのことは、訴訟において通常起こり得ないことではなく、前示の本件訴訟事件の経緯を勘案すれば、いまだ被告の氏名冒用を疑うべき特段の事情があつたものとは認められない。そして、他に右特段の事情を認めるに足りる証拠はない。
2 次に、原告は、本件訴訟事件において本件訴状副本及び本件呼出状が期日指定の裁判がある前に被告渡邉に宛てて発送され、しかも、被告渡邉本人に送達されていないから、第一回口頭弁論期日を適法に開くことができないのに、T裁判官はこれを看過して訴訟手続を進行させ、被告による請求認諾を認めてしまつた過失がある旨主張する。
しかしながら、本件訴訟事件において、U書記官が本件呼出状を発送したのが昭和五六年二月四日であり、T裁判官が本件呼出状に記載された期日につき期日指定の裁判をしたのが同月五日であること、本件呼出状が本件訴状に記載された被告渡邉の住所地に送達されたのが同月一〇日であることは前示のとおりでああるから、U書記官が本件呼出状を発送した時点においては、その発送は瑕疵があるものといわざるを得ないが、前示のとおり本件呼出状の送達時までにはそこに記載されたとおりの期日指定の裁判がなされているのであり、かつ、右呼出しを有効と認めても当事者に何ら不利益を与えるものではないから、その瑕疵は治癒されたものというべきである。また、本件訴状副本等が被告渡邉本人に送達されなかつたことは原告主張のとおりであるが、被告渡邉本人が本件訴状副本等を受領した旨の記載のある郵便送達報告書が乙支部に送付され、被告渡邉本人作成名義の本件答弁書が同支部に提出され、第一回口頭弁論期日に被告渡邉と称する者が出頭していることは前認定のとおりであり、これに前示のとおり本件訴訟事件において被告の氏名冒用を疑うべき特段の事情を認めることができないことを合わせ考えると、T裁判官が本件訴状副本等が被告渡邉本人に送達されているものと判断して第一回口頭弁論期日を開いて訴訟手続を進行させたことに過失を認めることはできない。
三結論
よつて、原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官石井健吾 裁判官木下秀樹 裁判官増田稔)
別紙(一)物件目録
(換地前の土地の表示)
一 千葉県千葉市今井町一三二番の二
宅地 89.25平方メートル
二 同所 一三六番の二の一
宅地 33.05平方メートル
三 同所 一三六番二の二
宅地 522.31平方メートル
四 同所 一三六番の三
宅地 26.44平方メートル
五 同所 一三六番四
宅地 56.19平方メートル
(換地後の土地の表示)
南部二工区ブロック七三―三―二
552.06平方メートル
以上
別紙(二)
東京都新宿区高田馬場三丁目四六番一二号
送達場所
東京都三鷹市深大寺四〇五九番地 吉賀方
原告 有限会社雅商事
右代表者代表取締役 吉賀昌彦
(電 〇四二二―三二―〇〇六九)
東京都墨田区緑町四丁目九―一〇番地
薄倉ビル 五〇一号
登記簿上の住所
千葉県千葉市今井町八五番地
被告 渡邉國太郎
別紙(三)
請求の趣旨
一 被告は原告に対し、別紙目録記載の土地(本件土地のこと。以下同じ。)について昭和五五年二月四日売買を原因とする所有権移転登記手続をせよ。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決を求める。
請求の原因
一 原告は、被告から昭和五五年二月四日別紙目録記載の土地を、次の契約内容で買受けた。
(一) 買受代金 七四二五万円
(二) 代金支払方法
契約日手付金として金二〇〇〇万円
昭和五五年四月三日金一〇〇〇万円
所有権移転登記手続完了と同時に残金四四二五万円
二 原告は、被告に対し前項約旨に従い、契約日に金二〇〇〇万円、昭和五五年四月三日金一〇〇〇万円、及び残金四四二五万円は登記手続未了であるが同年五月二四日支払つた。
三 そこで原告は被告に対し、別紙目録記載の土地について、昭和五五年二月四日売買を原因とする土地所有権移転登記手続を求めるため本訴に及ぶ。
別紙(四)
請求の趣旨に対する答弁
一 原告の請求を認諾する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
との判決を求める。
請求の原因に対する答弁
請求原因第一項の事実は認める。
同第二項は争う。
同第三項は第二項の結果により認める。