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東京地方裁判所 昭和60年(ワ)9588号 判決

一 請求の原因1ないし3の事実は当事者間に争いがなく、右争いのない事実中、請求の原因2及び3の事実と成立に争いのない甲第二号証によれば、本件考案の構成要件は、請求の原因3(一)記載のとおりであると認められる。

二 成立に争いのない甲第六ないし第八号証、第一一号証の一、二、被告製品の一部で、その両端部分の裏面材及び芯材を切除し、その切除部分を逆さに積み重ねたものであることについて争いのない検甲第三号証の一ないし三並びに請求の原因4のうちの当事者間に争いのない事実によれば、被告は、別紙目録記載のとおりの被告製品を販売していることが認められる。

三 そこで、被告製品が本件考案の技術的範囲に属するか否かについて判断する。

1 前掲甲第二号証によれば、(1)本件考案は、合成繊維束や鉱物性繊維塊を利用した吸音板、断熱板、濾過材等の機能の低下を防止するための考案に関するものであること、(2)合成繊維束や鉱物性繊維塊を容器等に詰めた吸音板や断熱板ないしは濾過材は、時日の経過するに伴い繊維と繊維との間隙が振動等のため次第に狭められ、したがつて、単位容積当たりの空間が次第に減少して吸音、断熱、濾過等の機能が低下する傾向があること、(3)本件考案は、このような機能の低下を防止することを解決課題として、前示実用新案登録請求の範囲のとおりの構成を採用し、これにより、所期の解決課題を達成したものであること、(4)本件考案の繊維積層体の構成及び作用効果に関して、本件明細書の考案の詳細な説明の項には、「粒状の発泡合成樹脂、真珠岩または黒曜石を小粒に粉砕して焼成したパーライト等軽量多孔質の素材を繊維と繊維との空隙内に束材として介在せしめ、このような繊維束または繊維塊を目的に応じ容器内に或は施設内に層状に積層するものである。例えばガラス繊維束1の繊維と繊維との空隙2内にパーライト粒3を点在せしめ、これを容器4内に層状に詰め合わせた吸音板5においては、前記パーライト粒3が繊維と繊維との間に束材となつて介在するので時日が経過しても繊維間の間隙が狭まることなく、従つて吸音効果の低下を来たす虞れが少い。」(本判決添付の実用新案公報(以下「本件公報」という。)一頁一欄二七行ないし二欄一二行)、「本案は繊維と繊維との空隙内に束材として軽量多孔質材を介在せしめることによりその吸音、断熱、濾過の機能の低下を防止し得るので、これら繊維束、繊維塊を用いた吸音板、断熱板、濾過材等の耐用性を高めるのに効果がある。」(本件公報一頁二欄一六行ないし二一行)と記載されていること、以上の事実が認められる。

2 他方、被告製品は、前認定のとおり、別紙目録に記載されているとおりのものであつて、カラーステンレス鋼板の表面材、ロツクウール短繊維、パーライト、接着剤及び少量の染料、又はロツクウール短繊維、少量のグラスウール、パーライト、接着剤及び少量の染料を適宜混合した芯材、並びにガラスネツト貼りのアルミ箔の裏面材から成るものであり、そして、表面材の内側と芯材の一面、及び芯材の他面と裏面材の内側とがそれぞれ接着剤で接着され、かつ、芯材を構成する素材相互間が接着剤でほぼ接着された金属サイデイングであるところ、前掲甲第六ないし第八号証、第一一号証の一、二、成立に争いのない甲第三号証の一、二、第五号証の一、二、第一〇号証の一ないし六、乙第二号証の一ないし五、被告製品の一部の断面写真であることについて争いのない甲第一四号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第九号証及び弁論の全趣旨によれば、被告製品は、表面材に芯材の素材を載せ、その上に裏面材を載せて、これを加圧加熱して成型されるものであつて、芯材は、パーライト、ロツクウール短繊維及びグラスウールが無秩序に互いに方向性のない状態で接着剤によりほぼ密着して一体化されており、パーライト粒の周囲に空隙は見られない場合が多く、空隙が存在する場合にも、その空隙の大きさはパーライト粒の大きさに比較し相当小さいものであり、被告製品の断面図の顕微鏡写真(前掲甲第九号証)に示されているパーライトとその周囲の空隙の大きさとを比較すると、パーライトの断面に比較し、周囲の空隙はその十数分の一程度にしかすぎないこと、芯材の各素材は相互にほぼ密着されているため、振動などによつて、ロツクウール短繊維、グラスウール、パーライトの相互の位置が変動することはないこと、以上の事実が認められる。

3 まず、以上認定の本件考案の内容及び被告製品の構造に基づき、被告製品が本件考案の構成要件Cを充足するか否かについて検討する。

ところで、被告製品が本件考案の構成要件Cを充足するか否かに関して、原告は、被告製品のパーライトは空隙を保持するものでなくとも、それは、被告製品が本件考案の技術的範囲に属するか否かとは関係のないことである旨主張するのに対し、被告は、被告製品のパーライトは、空隙を保持するための束材として介在せしめているものではなく、本件考案のパーライトの使用とはその目的及び作用効果を異にする旨主張するので、この点から審案するに、本件考案についての前認定の事実によると、本件考案は、繊維積層体内の繊維間の空隙を保持するために多孔質素材を介在せしめているものであつて、繊維積層体内に積極的に空隙を確保することを目的としているのに対し、被告製品は、前示のとおり、芯材の各素材を接着剤と混合したうえ、表面材及び裏面材と加圧加熱して一体成型したものであり、このような製造法による場合には、芯材の素材間の空隙が減少することは明らかであつて、被告製品には、繊維間の空隙を確保しようとする技術的思想は存しないものといわざるをえない。また、本件考案の多孔質素材は、右のとおり、繊維積層体内の繊維間の空隙を保持するためのものであるから、多孔質素材の周囲には、それによつて支えられる空隙が存在しなければならないのに対し、被告製品の芯材の各素材は、前認定のとおり、接着剤によりほぼ密着して一体化されており、パーライト粒の周囲に空隙は見られない場合が多く、空隙が存在する場合にも、その空隙の大きさはパーライト粒の大きさに比較し相当小さいものである。もつとも、芯材を熱圧着した場合であつても、素材(繊維塊、繊維束、パーライト粒)相互を完全に密着させることは困難であつて、ある程度の間隙が素材相互間に残ることの避けがたいことは、容易に推測しうることであるところ、被告製品に見られる間隙も、前認定のその大きさや断面全体の状態などに照らすと、このような製造上不可避的に生ずる空隙にすぎないものと認められる。以上の事実を総合して考察すると、本件考案の空隙は、積極的に多孔質素材によつて確保される空隙であるのに対し、被告製品の空隙は、積極的に意図して保持している空隙ではなく、本来、素材相互を熱圧着したことにより消滅すべき空隙が製造上不可避的に生じてしまつたものであつて、本件考案にいう空隙とはその技術的意味を全く異にするものであり、したがつて、このような空隙がパーライトの周囲にあるからといつて、被告製品のパーライトが空隙を支承する束材として用いられているとは、到底認めえないものというべきである。

そうすると、被告製品のパーライトは、束材として介在せしめたものではないのであるから、被告製品は、本件考案の構成要件Cを充足しないものといわなければならない。

4 次に、被告製品が本件考案の構成要件Dを充足するか否かについて検討するに、本件考案についての前認定の事実によると、本件考案は、繊維間の空隙が振動等のため次第に狭められるのを防止することを解決課題として、多孔質素材を束材としてこれら繊維間に介在せしめたものであつて、その繊維積層体は、束材として多孔質素材が存在しない場合には、振動等により繊維間の空隙が狭まつてしまうようなものであると認められるから、前示被告製品の構造にみられるように、芯材の各素材が接着剤で接着されていて振動等により素材間の空隙が狭まることのないものは、そもそも本件考案が達成した解決課題を有しないものであり、また、本件考案の繊維積層体について、本件明細書には、前認定のとおり記載されているが、その反面、前掲甲第二号証によるも、本件考案の繊維積層体に各素材が接着剤で接着されたものを含むことを示唆する記載が存しないことが認められ、これら事実を併せ考えると、芯材の各素材が接着剤で接着されていて振動等により素材間の空隙が狭まることのないものは、本件考案にいう繊維積層体には含まれないものと解すべきである。他方、被告製品の芯材の各素材は、前示のとおり、接着剤によりほぼ密着して一体化されており、振動などによつて相互の位置が変動することはないのである。してみると、被告製品は、本件考案にいう繊維積層体に当たらず、本件考案の構成要件Dも充足しないものといわざるをえない。この点に関して、原告は、たとえ、接着剤が付加されたとしても、束材の機能が消滅してしまうものではなく、被告製品にあつても、その製造の過程において、パーライトの束材としての機能を不可欠のものとしている旨主張するが、被告製品のパーライトが束材として介在せしめたものでないことは、前説示のとおりであるから、原告の右主張は、採用することができない。

5 以上のとおり、被告製品は、本件考案の構成要件C及びDを充足しないものであるから、本件考案の技術的範囲に属しないものというほかはない。

四 よつて、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとする。

〔編注〕本件における請求の原因は左のとおりである。

1 原告は、次の実用新案権(以下「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という。)について専用実施権(昭和五五年一〇月三一日設定登録)を有している。

登録番号  第一二九〇一四四号

考案の名称 繊維積層体

出願日   昭和四九年一二月二八日

公告日   昭和五三年九月二日

登録日   昭和五四年六月一四日

2 本件考案の実用新案登録出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書という。)の実用新案登録請求の範囲の記載は、次のとおりである。

「天然繊維、合成繊維、無機繊維等の繊維束または繊維塊の繊維間の空隙内に粒状の多孔質素材を束材として介在せしめ、適宜の厚さに積層して成る繊維積層体。」

3(一) 本件考案の構成要件は、次のとおりである。

A 天然繊維、合成繊維、無機繊維等の繊維束または繊維塊の繊維間の空隙内に、

B 粒状の多孔質素材を、

C 束材として介在せしめ、

D 適宜の厚さに積層して成る繊維積層体。

(二) 本件考案は、繊維積層体からなる断熱板、吸音板等の機能低下防止に関する考案であつて、繊維積層体の空隙内に、粒状の多孔質素材を束材として介在させたことにより、繊維積層体内の間隙を確保し、もつて、断熱、吸音等の機能低下を防止する効果を奏するものである。

4 被告は、別紙目録記載の金属サイデイング(以下「被告製品」という。)を製造し、これを「スワンサイデイング」の商品名で販売している。

5 (一) 被告製品は、本件考案の構成要件を充足している。すなわち、

(1) 被告製品の芯材を構成するロツクウール短繊維又はグラスウールは、本件考案の構成要件Aの「無機繊維」に該当し、それらの束又は塊は、同要件の「繊維束または繊維塊」に該当する。

(2) 被告製品のパーライトは、本件考案の構成要件Bの「粒状の多孔質素材」に該当する。

(3) 被告製品のパーライトは、各ロツクウール短繊維塊又は束(又はグラスウール束)間、又はその繊維間に無秩序に介在し、被告製品の芯材を構成している繊維と繊維の狭まりを防止する支承材(束材)の機能を奏しており、したがつて、被告製品は、本件考案と同様、繊維束または繊維塊の繊維間の空隙内に粒状の多孔質素材を「束材として介在せしめ」ているから、本件考案の構成要件Cを充足する。

(4) 被告製品の芯材は、パーライトを介在せしめたロツクウール短繊維又は同繊維とグラスウールを適宜の厚さに積み重ねたものであるから、本件考案の構成要件Dの「適宜の厚さに積層して成る繊維積層体」に該当する。

(二) 被告製品には、別紙目録記載のとおりの表面材及び裏面材があるが、これらは、金属サイデイングとしての実用上当然の構成であつて、本件考案の構成要件とは関係のないものである。

(三) 被告製品は、優れた断熱性、遮音性を有することが期待されており、本件考案と同一の作用効果を奏するものである。

6 以上のとおり、被告製品は、本件考案の技術的範囲に属するから、原告は、被告に対し、実用新案法二七条一項の規定に基づき、被告製品の製造販売の差止を求める。

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