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東京地方裁判所 昭和60年(特わ)2407号 判決 1985年12月19日

本店所在地

東京都豊島区南池袋一丁目一九番四号

昭和住設株式会社

右代表者代表取締役

原英明

本籍

東京都練馬区南大泉四丁目六六四番地

住居

同都同区南大泉四丁目一九番一六号

会社役員

原英明

昭和二二年一月一七日生

右の者らに対する法人税法違反被告事件について、当裁判所は、審理して次のとおり判決する。

主文

被告人昭和住設株式会社を罰金七〇〇〇万円に処する。

被告人原英明を懲役一年六月に処する。

被告人原英明に対し、この裁判の確定した日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人昭和住設株式会社(以下被告会社という。)は、東京都豊島区南池袋一丁目一九番四号(昭和五五年一一月三〇日以前は同区東池袋三丁目一三番一七号)に本店を置き、住宅附属機器の製造及び阪売等を目的とする資本金五〇〇万円の株式会社であり、被告人原英明(以下被告人という。)は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括していたものであるが、被告人は、被告会社の業務に関し法人税を免れようと企て、売上及び雑収入の一部を除外し、架空の外務員報酬を計上する等の方法により所得を秘匿したうえ、

第一  昭和五五年一〇月一日から同五六年九月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が二億六九五〇万八八七五円(別紙(一)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、同五六年一一月三〇日、同都豊島区西池袋三丁目三三番二二号所在の所轄豊島税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一億八九四一万〇三八五円でこれに対する法人税額が七八三六万七八〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和六〇年押第一三三三号の1)を提出し、そのまま法定の納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額一億一二〇〇万八九〇〇円と右申告税額との差額三三六四万一一〇〇円(別紙(三)脱税額計算書参照)を免れ

第二  昭和五六年一〇月一日から同五七年九月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が八億二〇六七万四九九五円(別紙(二)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、同五七年一一月二九日、前記豊島税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二億九一九二万一二四〇円でこれに対する法人税額が一億二一二五万八二〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号の2)を提出し、そのまま法定の納期限を徒過させ、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額三億四三三三万四五〇〇円と右申告税額との差額二億二二〇七万六三〇〇円(別紙(三)脱税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全事実につき

一  被告人の

(イ)  当公判廷における供述

(ロ)  検察官に対する供述調書四通

一  浅子寿夫(二通)、西村文秀、丸山憲次及び野口隆一の検察官に対する各供述調書

一  収税官吏作成の左記調査書

(イ)  売上高調査書

(ロ)  賞与調査書

(ハ)  福利厚生費調査書

(ニ)  接待交際費調査書

(ホ)  賃借料調査書

(ヘ)  租税公課調査書

(ト)  販売雑費調査書

(チ)  外務員報酬調査書

(リ)  受取利息調査書

(ヌ)  雑収入調査書

(ル)  交際費損金不算入額調査書

一  検察官作成の報告書

一  登記官作成の商業登記簿謄本

判示第一の事実につき

一  押収してある法人税確定申告書(昭和五六年九月期分)一綴(昭和六〇年押第一三三三号の1)

判示第二の事実につき

一  収税官吏作成の左記調査書

(イ)  商品仕入高調査書

(ロ)  外注費調査書

(ハ)  運賃調査書

(ニ)  支払手数料調査書

(ホ)  交際費損金不算入額調査書(補正分)

(ヘ)  事業税認定損調査書(補正分)

一  押収してある法人税確定申告書(昭和五七年九月期分)一綴(同押号の2)

(法令の適用)

法律に照らすと、被告会社の判示各所為は、いずれも法人税法一六四条一項、一五九条一項に該当するので、情状によりそれぞれ同法一五九条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから同法四八条二項により各罪につき定めた罰金の合算額以下において、被告会社を罰金七〇〇〇万円に処する。

被告人の判示各所為は、いずれも法人税法一五九条一項に該当するので、それぞれ所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第二の罪の刑に法定の加重をした刑期範囲内で被告人を懲役一年六月に処し、後記情状を考慮し、同法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から三年間右刑の執行を猶予する。

(量刑の事情)

本件は、いわゆる住宅エクステリア製品の製造・阪売を業とする被告会社の代表取締役である被告人が、被告会社の業務に関し二期分合計で二億五五〇〇万円余の法人税を免れた事案であり、その脱税額が甚だ高額であり、その税ほ脱率も五七年九月期においては六四パーセントを超えており、被告人の納税意識は極めて薄いといわなければならない。被告人は昭和五四年五月被告会社を設立し、被告人の経営手腕と外務員の強化によって短期間のうちに業績を上げるに至ったものであるところ、被告人は、本件当時は設立後日が未だ浅かったところから、不況に備えて被告会社の基盤を強化するため本件脱税を企てたものと認められ、動機じたいにおいて格別しんしゃくに値するものはない。もっとも、本件犯行の手段ないし態様をみると、各期の所得秘匿行為の主なものは、売上高の除外、外務員に対する架空報酬及び架空賞与の計上であり、その金額は相当多額ではあるが、その方法は証憑書類の偽造や改ざんを伴うものではなく、比較的単純なものであったものと認められる。また、本件脱税によって蓄積した裏金の大部分は架空名義の預貯金として積み立てられており、被告人個人の用途にはほとんど費消されていなかったものと認められる。

以上によれば、本件犯行の犯情は軽視できないものの、なお犯行の態様においては必ずしも悪質とはいえないうえ、被告人は本件犯行を捜査及び公判廷において終始認め、再犯なきを誓っており、本件脱税分については修正申告のうえ本税及び附帯税すべてを完納していること、被告会社の内部監査を強化していること、被告人に前科、前歴がないことなど被告人のため斟酌すべき事情も認められるので、今回に限り被告人に対し刑の執行を猶予し、その自戒に委ねるのが相当であると判断した。

(求刑、被告会社につき罰金八〇〇〇万円、被告人につき懲役一年六月)

検察官櫻井浩、弁護人鈴木輝雄(主任)ほか二名各出席

(裁判官 小泉祐康)

別紙(一)

修正損益計算書

昭和住設株式会社

自 昭和55年10月1日

至 昭和56年9月30日

<省略>

別紙(二)

修正損益計算書

昭和住設株式会社

自 昭和56年10月1日

至 昭和57年9月30日

<省略>

別紙(三)

脱税額計算書

昭和住設株式会社

自 昭和55年10月1日

至 昭和56年9月30日

<省略>

自 昭和56年10月1日

至 昭和57年9月30日

<省略>

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