東京地方裁判所 昭和61年(ヨ)2239号
債権者
岩田勝巳
債権者
大内英夫
債権者ら代理人弁護士
佐々木幸孝
同
鈴木篤
同
吉沢寛
同
木村裕
債務者
栗田運輸株式会社
右代表者代表取締役
栗田留吉
右代理人弁護士
青山周
主文
1 債務者は、債権者岩田勝巳に対し、金一一九万八三九〇円及び昭和六一年七月二五日から本案の第一審判決言渡しに至るまで毎月二五日限り金二一万八七〇〇円を仮に支払え。
2 債務者は、債権者大内英夫に対し、金一三一万九七〇〇円及び昭和六一年七月二五日から本案の第一審判決言渡しに至るまで毎月二五日限り金二三万八四二三円を仮に支払え。
3 債権者らのその余の申請を却下する。
4 申請費用は債務者の負担とする。
理由
第一当事者の求めた裁判
一 債権者ら
1 債権者らが、債務者に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。
2 債務者は、債権者岩田勝巳に対し、金二二万四八九〇円及び昭和六一年一月一六日から本案判決確定に至るまで、毎月金二一万八七〇〇円を毎月二五日限り仮に支払え。
3 債務者は、債権者大内英夫に対し、金二七万七五八五円及び昭和六一年一月一六日から本案判決確定に至るまで、毎月金二三万八四二三円を毎月二五日限り仮に支払え。
4 申請費用は債務者の負担とする。
との裁判を求める。
二 債務者
1 本件申請をいずれも却下する。
2 申請費用は債権者らの負担とする。
との裁判を求める。
第二当裁判所の判断
一 当事者間に争いのない事実
債務者は、運送業を営む会社であって、その従業員数は約六〇名程度である。債権者岩田は、昭和五六年三月から、債権者大内は同年九月から、それぞれ債務者会社に雇用され、トラック運転手として勤務していた。債務者会社には従前労働組合は存在しなかったところ、昭和六〇年三月一六日債務者会社の従業員により労働組合江戸川ユニオン栗田運輸分会(以下「組合」という。)が結成され、債権者岩田が分会長に、債権者大内が副分会長になった。組合はその後名称を「わかば会」と改めたこともあった。債務者会社は、会社の職制に対する暴行等を理由として、同年七月一三日付けで、債権者らを解雇した。右の解雇に関し、同年九月一六日、債権者らの委任を受けた労働組合江戸川ユニオンと債務者会社との間で、「債務者会社は、債権者らに対する前記解雇を撤回し、職場復帰を認める。債権者らは同年七月一三日から同年一二月一二日までの五か月間出勤停止処分とする。」ことを内容とする合意(以下「九月一六日付け合意」という。)が成立した。債務者会社は、同年一二月一三日出勤し、就労を求めた債権者らに対してその就労を拒否し、以後就労拒否の態度を変えていない。賃金については、債務者会社は、債権者岩田に対して、同年一二月分として金九六八〇円、昭和六一年一月分として金一二万六〇〇〇円を支払い、債権者大内に対して、昭和六〇年一二月分として金九六八〇円、昭和六一年一月分として金一二万五〇〇〇円を支払ったが、その後の賃金は支払っていない。債務者会社の賃金は、前月一六日から当月一五日までの分を当月二五日に支払うこととなっている。
以上の事実は当事者間に争いがない。
二 疎明資料及び審尋の結果によれば、次の事実が一応認められ、この認定に反する疎明はない。
債務者会社は、昭和六〇年一二月一一日付けの書面で、債権者らに対し、九月一六日付け合意に基づく一二月一三日からの職場復帰を当分の間延期する旨の通知をした。その理由は、債権者らが、右合意以後、会社に来て事実に反することを記載したビラを配布し、社長に罵声をあびせたりするなどの挑戦的態度をとったため、他の従業員の中には債権者らの復職を望まない者も大勢おり、トラブルも考えられるからというものであった。これに対し、債権者ら及びこれから委任を受けた江戸川区労働組合協議会事務局長楠田正治は、債務者会社と交渉を行い、同月一三日、債務者会社代表者栗田留吉と右楠田正治との間で、「昭和六〇年九月一六日付けで協定された岩田勝巳、大内英夫両名の職場復帰問題は昭和六〇年一二月一三日をもって職場復帰することを確認する。ただし、両名の就労に際しては会社側よりいくつかの問題点の提起があり、円満に解決を図るために早急に話し合いを行うものとする。」旨の書面による合意が成立した。その後、債務者会社と江戸川区労働組合協議会や債権者らとの間で、債権者らの就労問題についての話合いが何回か行われたが、債務者会社は、他の従業員が債権者らの就労に強く反対しており、債権者らの就労を認めると混乱が生ずることが懸念されることを主たる理由として、債権者らの就労を拒否する態度を続けている。
三 債務者会社は、債務者会社と江戸川区労働組合協議会との昭和六〇年一二月一三日付けの合意によって、債権者らの就労問題は、債務者会社と江戸川区労働組合協議会との話し合いによって円満解決を図ることになっているところ、現在話し合い中であって、未だ合意に達していないから、債権者らに対して賃金を支払うべき義務はないと主張する。
しかし、債務者会社と江戸川区労働組合協議会との昭和六〇年一二月一三日付け合意の趣旨は、前記認定の合意書面の文言及び前記一、二記載の右合意に至る経過に照らせば、債務者会社は、九月一六日付け合意に従い同年一二月一三日に出勤停止処分が解けた債権者らを職場復帰させることを確認したうえ、債権者らを現実に就労させるについては、種々の問題点があるため、これを猶予し、双方で話し合いを行うこととするというものであると解するのが相当であって、これによって、話し合いの期間中は債権者らに対して賃金を支払わないことが合意されたものと認めることは到底できない。
また、債務者会社が債権者らの就労を拒否している主たる理由は、前記認定のように、債務者会社の他の従業員が債権者らの就労に強く反対しており、債権者らの就労を認めると混乱が生ずることが懸念されるというものであるが、他の従業員が債権者らの就労に反対していることだけでは、債務者会社が債権者らの就労を拒否する正当な理由にならないことはいうまでもなく、これが正当とされるためには、他の従業員が債権者らの就労に反対することがやむを得ないと認められるだけの事情が存在し、債務者会社において債権者らの就労を拒否することもやむをえないと認められる場合であることを要するものというべきである。しかし、疎明資料及び審尋の結果によっても、他の従業員が債権者らの就労に反対することがやむをえないと認められるだけの事情が存在すると認めるに足りない。すなわち、疎明資料及び審尋の結果によれば、債務者会社の従業員で組織する栗田運輸従業員組合及びその前身である若葉会従業員組合は、九月一六日付け合意の内容に不満をもち、債務者会社に繰り返し債権者らの職場復帰及び就労に強く反対する旨を申し入れているが、その理由とするところは、同年一二月二日付けの書面によれば、組合が同年一〇月九日に発行したビラの内容が挑発的であること及び同年七月一三日の事件は債権者らに非があることを主張するものであり、昭和六一年一月二七日付けの書面によれば、債権者ら及び労働組合江戸川ユニオンは九月一六日付け合意により金銭を得ているが、これはゴネ得であることを主張するものであり、昭和六一年三月二五日付けの書面によれば、債権者ら及びその支援者らが職場に多勢乱入し作業妨害をし罵声を浴せたこと、債権者ら及びその支援者らが取引銀行にいやがらせをするといっていることを聞いたこと、従業員組合の組合員の自宅に江戸川区労働組合協議会からいやがらせの電話がされたことを主張するものであると認められるところ、その中のあるものは、債務者会社がその権限に基づいて締結した九月一六日付け合意の内容に反対するというものにすぎず、また、ビラ配布の件については、そのビラ(<証拠略>)の内容には特に不穏当な部分は見受けられないし、その余の点についても、債権者ら及びその支援者らが主張に係る違法不当な行為を行ったことを認めるべき疎明は存在しないのである。そうすると、債務者会社の就労拒否については正当な理由が存在するとの疎明はないというべきである。
更に、債務者会社は、債権者らは就労をしていないのであるから、賃金請求権を有しないと主張するけれども、前記のように債権者らは昭和六〇年一二月一三日以降就労を申し出ているのに債務者会社が正当な理由なく就労を拒否しているのであり、また、前記のように、同日付けの合意により就労のための話し合いの期間中は債権者らに対して賃金を支払わないことが合意されたと認めることもできないのであるから債権者らが賃金請求権を有することは明らかである。
四 疎明資料によれば、昭和六〇年四月から六月までの三か月間における債権者岩田の賃金の平均月額は金二一万八七〇〇円、債権者大内のそれは金二三万八四二三円であることが一応認められる。そうすると、債権者らは昭和六〇年一二月一三日以降右の月額の賃金請求権を有するものということとなる。そして、前記一に記載した事実によれば、昭和六〇年一二月二五日支払分以降昭和六一年六月二五日支払分までの未払賃金額は、別紙計算書記載のとおりであって、債権者岩田については金一一九万八三九〇円、債権者大内については金一三一万九七〇〇円となる。
なお、債権者らは、昭和六〇年夏期一時金についても請求権があると主張するが、九月一六日付け合意において夏期一時金について何ら触れるところがないのであって、債権者らが夏期一時金の請求権を有することの疎明がないといわなければならない。
五 保全の必要性
債権者らは、雇用契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める旨の仮処分を求めているが、債権者らが債務者会社に対し雇用契約上の権利を有する地位にあることは債務者会社において争わないところであるから、この点についての保全の必要性はない。
次に、賃金仮払いについて考えると、疎明資料及び審尋の結果によれば、債権者らは、いずれも債務者会社からの賃金収入を主たる収入源として生計を維持していたものであって、債務者会社からの賃金の支払を受けられないことにより生活に困窮していることが一応認められるので、昭和六〇年一二月一三日以降本案の第一審判決の言渡しに至るまでその賃金の仮払いを命じる必要性があるものと認められる。
六 むすび
よって、本件申請は、主文第一、二項記載の限度で理由があるから、保証を立てさせないでこれを認容することとし、その余は失当であるから、却下し、申請費用の負担につき民訴法八九条、九二条ただし書を適用して、主文のとおり決定する。
(裁判官 今井功)