東京地方裁判所 昭和61年(ヨ)2275号
申請人
越石洋一
同
酒井政典
同
松本満
同
橋本郁二
同
手塚和裕
右五名代理人弁護士
菊地紘
同
田崎信幸
同
保田行雄
被申請人
帝都自動車交通労働組合新橋支部
右代表者支部長
持田己利
右代理人弁護士
中野新
主文
本件申請をいずれも却下する。
申請費用は申請人らの負担とする。
理由
第一当事者の申立
一 申請人
1 被申請人は、申請人らに対して、申請人らが東京都地方労働委員会昭和六一年(不)第一及び第三七号不当労働行為救済申立事件の補佐人に就任し、あるいは証人として証言しようとすることを理由として、被申請人規約第七、八条に基づき、戒告、権利停止、除名など一切の制裁を加えてはならない。
2 申請費用は被申請人の負担とする。
二 被申立人
主文と同旨。
第二当裁判所の判断
一 当事者
被申請人が、帝都自動車交通株式会社(以下「会社」という。)で雇用される労働者で組織される帝都自動車交通労働組合の支部であり、会社新橋ハイヤー営業所で働く労働者で構成されていること、申請人らがいずれも被申請人の組合員であることは当事者間に争いがない。
二 差止請求について
疎明資料及び審尋の結果によれば、以下の事実が一応認められ、右認定を左右する疎明はない。
1 被申請人には、支部大会に次ぐ決議機関として幹事会が設置されているが、幹事会は昭和六〇年一〇月二二日、被申請人所属の組合員長岡良春(以下「長岡」という。)が会社から配転命令を受けたことに対して、被申請人として支援しないことを決定し、更に翌一〇月二三日から二五日にかけて行われた明番集会において、長岡を支援しないことを各組合員に提案したところ、大方の賛同を得た。長岡は、昭和六一年一月一三日東京都地方労働委員会に対し、会社を相手方として、右配転命令が不当労働行為にあたるとして救済申立てを行った(東京都地方労働委員会昭和六一年(不)第一号)。申請人らは右救済申立て事件について長岡の補佐人になることを申請し、右労働委員会からその許可を得るとともに、申請人らは長岡側の証人として採用された。そして同年六月二〇日、右労働委員会において申請人越石洋一の尋問の一部が行われ、以後順次他の申請人らの尋問が予定されている。
なお、この間の同年四月四日、長岡は、会社から解雇された。そこで長岡は、同月一五日右労働委員会に解雇が不当労働行為にあたるとして救済申立てを行った(東京都地方労働委員会昭和六一年(不)第三七号)。また申請人らはこの事件についての補佐人就任の申請をし、同年五月一四日その許可を得た。そして、この事件は右配転事件と併合されて審理されている。
2 こうした申請人らの行動に対し、幹事会は昭和六一年五月二〇日臨時幹事会を開き、申請人らの行動は右幹事会決定等に反するものであり、また長岡が右労働委員会に提出した救済申立書には支部の内部問題に触れる記載があることからも放置しえないとして、申請人らに補佐人、証人となることを中止するように勧告すること、そしてその返答いかんでは支部規約に基づき支部規約七条一ないし三号の制裁事由があるとして懲罰委員会を構成し、何らかの制裁をせざるを得ないこと、右返答を同月二一日までに行うことを決定し、その旨申請人らに通知した。ところが、申請人らは右五月二七日までに何らの返答もしなかったので幹事会は、懲罰委員会を設置することとした。
なお支部規約七条には制裁事由として、一号支部及び支部規約又は機関の決議に違反したとき、二号支部の統制、秩序を乱した行為のあったとき、三号支部の名誉を著しく傷つける行為のあったときと規定されている。
3 ところで、被申請人の行う制裁としては戒告、権利停止(なおその期間は長くとも六か月とされている)、除名があるが、戒告及び権利停止は幹事会が決定することもできるが、除名は支部大会(臨時大会も含む)でなければできないこととされている。そして支部大会で決定された除名処分は本部機関に上程してその審議決定を受けなければならないとされている。
また制裁を行う手続としては、まず幹事会が組合員に制裁事由があると認めたときには、懲罰委員会を構成する。懲罰委員会は常設の機関ではなく、その都度構成されるもので、その構成員は支部規約上支部役員を含む若干名となっているが、支部長は懲罰審議を要求する幹事会の代表者という立場から懲罰委員になることはなく、支部役員と一般組合員の中から幹事会が選任する。またその構成員数は従来の取扱いから五名又は七名程度とされている。そして懲罰委員会が構成されると、幹事会の諮問に基づいて審議されるが、審議の過程においては当該本人の意見を充分に聴取することが要求されている。そして懲罰委員会では、制裁を加えることの当否及びいかなる制裁を加えるかについて審議し、その結論を幹事会に答申する。幹事会は、これを受けて、その結論を尊重して制裁の当否及びいかなる制裁を加えるかを決定する。
なお、幹事会の制裁の決定について不満があれば、支部大会においてその当否を争うことができるとされている。
本件審尋終了時にはいまだ懲罰委員会の結論もでていない。
以上の事実を基礎に検討する。ところで、本件の如く事前の差止請求が認められるためには、申請人らに制裁が加えられることによって、損害賠償や名誉回復のための処分をもってしては著しく回復困難な損害を豪る虞が必要であるところ、本件においては、右認定のとおりいまだ制裁の是非及びいかなる制裁が加えられるかについての懲罰委員会の結論もだされていないこと、更に幹事会の制裁の決定があったとしても、これに対しては支部大会への不服申立の方法があり、また支部大会での決定については本部の審議決定が必要であることといった不服申立の方法等があることを考慮すれば、仮に支部長が必ず制裁する旨の発言をしているとしても、また、幹事会が懲罰委員会を設置したとしても、現段階においていまだ著しく回復困難な損害を豪る虞があるとはいえず、差止請求権を認めることはできない。
三 よって、申請人らの本件申請は被保全権利について疎明がないというべきであり、保証を立てさせて疎明にかえることは相当ではないから、本件申請を失当として却下することとし、申請費用につき民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり決定する。
(裁判官 遠山廣直)