東京地方裁判所 昭和61年(ワ)12102号 判決 1989年4月07日
原告
秋沢始夫
被告
高橋清照
ほか一名
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 原告
1 被告らは、原告に対し、各自二二九万四四三五円及び内金一九九万四四三五円については昭和六十一年一月九日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 仮執行宣言
二 被告ら
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二請求原因
一 交通事故の発生
昭和六一年一月八日午後〇時ころ、東京都江東区永代一―十三―四先路上において、被告高橋清照(以下「被告高橋」という。)運転の普通貨物自動車(足立四六す八九〇〇、以下「高橋車」という。)が、原告運転の普通乗用自動車(足立五五か三〇一二、以下「秋沢車」という。)に追突して、原告は外傷性頭頸部症候群、腰椎椎間板ヘルニア等の傷害を負つた(以下「本件事故」という。)。
二 被告らの責任
1 被告高橋
被告高橋は、前方不注視のまま前記場所を漫然と進行し、適切なブレーキ操作をしなかつた過失があり、また、高橋車を所有し、自己のために自動車を運行の用に供する者であるから、自動車損害賠償保障法三条により、原告の被つた損害を賠償する義務がある。
2 被告精興工業株式会社(以下「被告会社」という。)
(一) 被告会社は、被告高橋の使用者であるところ、本件事故は、被告高橋が被告会社の業務執行中に前記過失により惹起したものである。
(二) 仮に、被告会社が被告高橋の使用者でないとしても、被告会社は、被告高橋をして高橋車を持ち込ませ、被告会社の指揮監督のもとに運送行為を行つていたものであり、本件事故も、被告高橋が被告会社の業務を行つている際に起こしたものである。
(三) よつて、被告会社は、民法七一五条、自動車損害賠償保障法三条により原告の被つた損害を賠償する責任がある。
三 損害
1 休業損害 二一一万四二八八円
本件事故直前三か月(九一日間)の原告の収入合計は一〇九万三一六一円であり一日分の休業損害は一万二〇一三円であるから、原告が本件事故により就労できなかつた昭和六一年一月八日から同年七月二日までの一七六日分である。
2 慰謝料 一五〇万円
原告が本件事故により被つた傷害の程度等から、原告の受けた精神的苦痛を慰謝するには一五〇万円が相当である。
3 入院雑費 七万九〇〇〇円
原告は本件事故により昭和六一年一月九日から同年三月二八日まで七九日間入院したが、一日につき一〇〇〇円の入院雑費を要した。
4 通院交通費 二万二〇一〇円
原告は昭和六一年三月二八日に退院後、同年七月二日までの間、三一日通院したが、通院には電車及びバスを利用して片道七一〇円以上の交通費を要した。
5 弁護士費用 三〇万円
原告は、原告訴訟代理人に本件訴訟の追行を委任し、報酬を支払うことを約束した。
6 以上損害額合計 四〇一万五二九八円
四 填補
原告は、被告らから八七万四五一二円、労働者災害補償保険から八四万六三五一円の合計一七二万〇八六三円の支払いを受けている。
五 そこで、原告は、被告らに対し、各自前記損害額合計四〇一万五二九八円から既に支払いを受けた一七二万〇八六三円を控除した二二九万四四三五円及びこれから弁護士費用を控除した内金一九九万四四三五円に対する昭和六一年一月九日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
第三請求原因に対する認否
一 請求原因一項については、原告主張の日時場所において原告車に対し被告車が衝突したことは認めるが、原告が受傷したことは否認する。
二 同二項については、1は認めるが、2は争う。被告高橋は、独立して運送業を営んでいるもので、被告会社の従業員でもなければ、指揮監督下にある者でもない。
三 同三項については、いずれも知らない。
四 同四項については、認める。ただし、労働者災害補償保険からの支払いは一五一万二七二八円である。
五 同五項については、争う。
第五証拠
本件記録中証拠関係目録記載のとおりである。
理由
一 請求原因一項については、原告が受傷したか否かの点を除き、当事者間に争いはない。
原告は、本件事故により外傷性頭頸部症候群、腰椎椎間板ヘルニア等の傷害を負つた旨主張し、成立に争いのない甲第五号証、第一三号証、第一四号証、第三一号証、乙第三号証ないし第五号証、原告本人尋問の結果によれば、原告は、本件事故後、救急車で柳橋病院に運ばれ、同病院で吉岡利孝医師の診断を受け、外傷性頭頸部症候群及び外傷性腰椎椎間板ヘルニアと診断され、昭和六一年一月九日から入院治療し、同年三月二八日に退院し、以後通院し、同年七月二日治癒したことが認められるところ、被告らは、本件事故は高橋車がわずか時速三キロメートル程度の速度で追突したもので、その衝撃は極めて軽微であり、原告の頭頸部に生理的範囲を越える過伸展、過屈曲を生じる余地がなく、外傷性頭頸部症候群等が発現した事実はないから、本件事故と原告主張の傷害との間には因果関係が存しない旨主張する。
1 成立に争いのない甲第二一号証によれば、「被告高橋は、ゴツンと音がして止まつたので、秋沢車とぶつかつたと思つた。止まると同時にぶつかつた。衝撃はほとんどなく、秋沢車は止まつたままの状態でした。前に押し出されたようなことはありません」、「被告高橋が車から降りてみたら、高橋車と秋沢車の間隔が一メートルないし一・五メートル空いていたけれども、それは原告が秋沢車を前に移動させたからである」等の記載があり、被告高橋は被告本人尋問においても右同様に述べているが、原告は、原告本人尋問において、「下車して見たときは一メートル強間が空いていた」、「原告は、下車前に秋沢車を動かしていない」旨述べて、秋沢車の移動については被告高橋と異なる供述をしているし、甲第四号証では、被告高橋は実況見分に立ち会つた際、「秋沢車は追突後〇・七メートル押し出された」等と指示説明していたのであり、また、弁論の全趣旨により成立の認められる乙第二号証によれば、「高橋車が秋沢車に時速約一〇キロメートルで追突した」旨の記載があり、被告高橋の署名捺印がなされているので、これらと矛盾している甲第二一号証、被告高橋本人尋問の結果は直ちに採用しがたい。
2 成立に争いのない甲第一五号証、第一六号証、弁論の全趣旨により成立の認められる甲第一号証の一、二によれば、技術アジヤスター吉川泰輔が、秋沢車の写真等から同車の損傷状態を確認し、解析をした結果として、本件事故では停止していた秋沢車に高橋車がブレーキを掛けたが停止できず、時速三キロメートルで衝突し、これによつて秋沢車は時速二・五キロメートルに速度変化したから、秋沢車には〇・三六G程度の平均加速度が生じ、加速度の最大値としては平均加速度の二倍程度が考えられているので、〇・七二Gの加速度が本件事故の瞬間に起きたと判断されるから、本件事故によつて原告が傷害を負つた可能性は考えにくい旨結論づけている。
右結論は、被告らの前記主張に添うようではあるが、自動車工学的立場からのものであり、秋沢車及び高橋車の損傷の部位、損傷の大きさの特定は、甲第一号証の一、二の写真により大体可能であるとしていることに拠るものであり、大体というものではあるが、「右写真によれば、高橋車のフロントバンパーの右端部の位置が僅かに狂つている」、「衝突直前にハンドルを左に回してフロントバンパーの右端部を秋沢車の後部右端部に衝突せしめたことが分かる」、「秋沢車にはリヤバンパー右端部と右リヤフエンダー後端部に軽微な変形が認められる」、「バンパーの変形は右端部の局部に限定されていて、この部分の変形に伴つて右リヤフエンダー後端に僅かな損傷が発生したのである」、「修理費として三万二五〇〇円の請求を受けているが、大半はバンパーの部品代であることから右リヤフエンダーの損傷は軽微であつた」とし、「追突がバンパーの全体で起これば壊れにくいが、本件事故の場合、秋沢車及び高橋車の壊れ具合からして五分の一を越えているとは見られない」、「バンパーの全幅の約五分の一の部分にのみ衝撃を受けているので、エネルギー式からつぶれ体積によつて当分布に加わつたものと等価に扱わなければならない」等として右結論に至つている。
しかし、右結論は、写真により秋沢車の損傷の部位、大きさの特定等をしているものであつて、写真による制約はまぬがれがたく、必ずしも十分な特定ができているとは思われない。成立に争いのない甲第四号証によれば、「秋沢車の損傷程度は、後部バンパーの擦過、右後部フエンダー凹損」、「高橋車は秋沢車に追突後〇・五メートル進んで停止し、秋沢車は追突後〇・七メートル押し出された」とされている。更に、成立に争いのない甲第三号証(甲第一八号証)によれば、「右後部フエンダー凹損は、ウレタンバンパーと右後部のフエンダーの間に隙間があるのが押されてくつついた状態で、完全に押してかぶさつて入り込んでいる状況になつていて、間隔は全くない」旨の記載がなされていて、右記載は甲第一号証の二の写真からみても直ちに不合理とすることはできない。また、本件事故におけるウレタンバンパーの復元がどの程度のものであつたか不明確であり、バンパーの全幅の約五分の一の部分にのみ衝撃を受けているとするのも、写真に拠る限界から必ずしも明確ではなく、追突がバンパーの全体で起これば壊れにくいというのであるから損傷の程度のみでは正確な加速度はでてこないものと思われる。
また、成立に争いのない甲第一七号証、第一九号証、弁論の全趣旨により成立の認められる甲第一二号証も、「秋沢車に生じた加速度は一・六Gとなるが、実際にはスリツプしていない可能性が高く、かつ、本件事故現場は下り勾配である。計算された一・六Gは平坦な道路で完全にタイヤがロツクされた状態の算出であることを考えれば、一・六Gより遥かに小さい加速度と推定される」としていて、被告らの前記主張に添うようではある。
しかし、成立に争いのない甲第二五号証の「むちうち損傷」によると、「追突される前車がブレーキをかけていないと、追突によつて速度〇の状態から加速されるから、その分だけ乗員の受ける後方へのGは大きくなる。従つて、追突されたことによる衝撃をより少なくする意味では、前車はブレーキをかけて停止しているほうが被害は少なくてすむと考えられる」とされていて、これによれば反対に加速度は一・六Gより大きくなるものと認められる。
ところで、成立に争いのない乙一〇号証によると、「外力と頸椎捻挫の関係ですが、いわゆる「ねちがい」も頸椎捻挫であるが、寝ているときにかかる外力は、あまりたいしたものではないけれども、首の筋肉が弛緩しているからこそ、わずかな外力でも起きうるものです。このことは、急性腰痛(腰椎捻挫)についても言いうることです。外力がほとんどかからない中腰の状態でも(例えば朝起きて顔を洗つているとき)、その姿勢自体から腰に負担がかかり急性腰痛(腰椎捻挫)となる例は少なくない」とされ、成立に争いのない甲第六号証によると、「重いものを抱き上げる場合には、上肢が梃子の槓粁となり、脊椎の上下関節突起間の関節が支点になつて、椎間板には大きな力が加わつてくる。抱き上げる重さの約一五倍の力が椎間板に作用する。もしも、五キログラムの重さのものを持ち上げようとすると椎間板には七五キログラムの力が働く」とされ、また、成立に争いのない甲第九号証によると、「頸椎部は、その長さ、運動性、上部に思い頭を支えている点などから、鞭と同一視することはできず、従つて、その運動も似て非なるものである」というものであり、成立に争いのない甲第一三号証によると、「原告にみられる頸椎の石灰化あるいは四、五の椎間板の不安定性ということが、普段のままの状態であればなんら症状を訴えなかつたのに、外部からの弱い衝撃が誘因となつて症状が現れてくるというようなこともありえると思われる」としているし、甲第一九号証によると、「先行する疾患等で可動範囲が狭い人は二G、三G程度の弱い外力であつても頸椎捻挫となることはありえる」、「首から下が完全に固定され、かつ、首が限界の後屈状態であれば、腰を押されたときに、頸椎捻挫が起こり得る」というものであるから、本件事故当時の原告の姿勢、筋肉の緊張度、支点の位置、力の方向、体質等を考慮しないで頸椎損傷等の発生機序を加速度Gのみで単純に判断し、加速度Gが小さいことを理由に頸椎損傷等の発生を否定し去ることは相当でないものと思われる。
3 甲第一二号証は、「被害者供述調書でも、停車中の衝突時に身体を捩るような特別な姿勢をしていたとの供述もみられないことから、腰部が座席で後方から前方へ押されて腰椎へ傷害が発生することは考えられない」としているけれど、被告高橋本人尋問の結果によれば、昭和六一年一月一一日、被告高橋が、原告を見舞いに行つた際、「原告は、座り直そうとして腰を浮かしたときに当たつた」旨を話しているのであつて、これは原告が被害者供述調書を取られる以前のことであり、成立に争いのない甲第一四号証、原告本人尋問の結果によれば、「原告は、衝突時、座席を移動させるため、左にあるレバーに左手をかけ、右手にハンドルを持ち、右足はブレーキペダルを踏み、左足は床につけ、やや左向きかげんに前傾姿勢を取つていた」等と述べているところであり、運転者が、かような姿勢を取つていて不意に追突による衝撃を受けた場合に、それが比較的軽い部類に属したとしても、運転者の頸部に過伸展、腰部に無理な動きが生じて、頭頸部症候群等の傷害を受ける可能性を否定することはできない。
ところで、甲第五号証、第一四号証、原告本人尋問の結果によれば、原告は、本件事故後、頸部に痛みを感じ、柳橋病院において薬物療法、理学療法の治療を受けていて、甲第一三号証によれば、「初診時の症状は、頸部に関しては頸部痛、頸椎の運動時痛、特に後屈の痛みが強かつた。左上肢の鈍痛、倦怠感があり、握力の低下が認められた。右が一二・五キログラム、左が三一・五キログラム、右利きである。腰部に関しては腰痛、右下肢の鈍痛、下肢の挙上テスト七〇度で陽性、右下腿部から足にかけての知覚領域鈍麻、右足の長拇趾伸筋の筋力などの低下、根症状を思わせる所見があつた」、「レントゲンの結果は、頸椎に関しては頸椎の四番目から六番目に項中隔靱帯の石灰化が認められる。頸椎の四番目と五番目の椎間板に不安定性が見られる。腰椎に関しては単純写真からでは特に所見がない」、「昭和六一年一月一四日、原告に対してミエログラフイーを行い、腰椎に関しては通過傷害はなかつたが、頸椎に関しては四、五、六番に多少通過傷害があつた」というものであつて、これらによれば、原告が同病院で述べた頸部の痛みの主訴の信用性に疑いを抱くことはできないから、原告は、本件事故により外傷性頭頸部症候群の傷害を負つたとするのが相当である。
4 外傷性椎間板ヘルニアについては、原告は本人尋問において本件事故により腰を痛めた旨述べていて、甲第一四号証においても同様の記載があり、乙第一〇号証によると、「身体を捻つた状態だと腰椎椎間板ヘルニアになりやすい」などと、原告が本件事故により外傷性腰椎椎間板ヘルニアを負つた旨の原告主張に添うようではある。
しかし、成立に争いのない甲第二三号証、第二四号証によると、「外傷性腰椎椎間板ヘルニアの所見はレントゲンフイルムからは認められない」、「椎間板ヘルニアは、人間の椎間板は二〇歳ぐらいから少しずつ水分を失つて弾力が減少し、椎間板の外の線維輪が脆弱になり、ちようどガスのゴム管が弱くなるようになつて、立つて歩くという軽微な外力が毎日加わることによつて少しずつ変性して起きるものであり、外力により起きることは実際にはあり得る筈がないほど希なものであつて、仮に外力により起きたとすれば患者は脊髄震盪症で悶絶する」、「レントゲンフイルムの所見として頸椎、腰椎に変化が見られるが、これは経年性のものである」、「腰椎間板ヘルニアないしその疑いと診断することができないではないが、本件事故によつて発生したものとは認められない」というのであり、甲第一三号証でも、「かなりの腰痛が一番最初に出るようです。ただそれは千差万別です。ものすごい痛みを訴える場合と、そうでない場合もある。そうでない場合は、線維輪が破れていても神経根に触れていない場合です」旨の記載があり、成立に争いのない甲第八号証は、「明瞭な外傷が機転となつて発症するものは約四分の一から二分の一といわれ、年齢とともに進行する椎間板変性の役割を除外することはできない」とし、甲第九号証も、「椎間板ヘルニアは、はつきりした外傷によるものよりも外傷歴が不分明で小外傷の負荷が繰り返され、ときにはこれに椎間板の年齢的な変化が加わつて起きる場合の方が多い点、本疾患はほかの損傷とやや趣を異にする」としていて、以上の様なことからすると、腰椎椎間板ヘルニアは、日常生活における軽微な外力の積み重ねによつて起きることが多いので、原告の主張する外傷性腰椎椎間板ヘルニアが本件事故により生じたものとするには疑念が残るから、外傷性腰椎椎間板ヘルニアと本件事故との間には相当因果関係を認めることができない。
二 請求原因二項の1については当事者間に争いはないから、被告高橋は、本件事故により原告が外傷性頸部症候群の傷害を負つたことにより被つた損害を賠償する責任がある。同項の2については、甲第二一号証によれば、被告高橋は、被告会社に五、六年前から勤め、四年位前から高橋車を使用して被告会社の配達を専属的に行つていて、他の仕事はしていないこと、被告会社の従業員同様にタイムカードを押していること、被告会社から距離、時間に関係なく、燃料代、トラツク費用含めて一日一万四〇〇〇円が支払われること等が認められ、以上のことからすると被告会社は、高橋車の運行供用者と認めるのが相当であるから、自動車損害賠償保障法三条により原告が本件事故により被つた損害を被告高橋同様に賠償する責任がある。
三 損害
前記のとおり、原告が本件事故により負つた傷害は、外傷性頭頸部症候群と認められるところ、甲第五号証によれば、原告が頸部痛を訴えていたのは昭和六一年二月七日ころまでで、後は腰痛の訴えに終始するようになるから、原告が本件事故により負つた外傷性頭頸部症候群は、前同日ころに治癒したものと認めるのが相当であるから、治療日数を五〇日として原告の損害を算定すれば足りるものと認められるので、原告の損害は次のようになる。
1 休業損害 六〇万〇六五〇円
弁論の全趣旨により成立の認められる乙第六号証、第七号証、弁論の全趣旨によれば、本件事故直前三か月の原告の収入合計は一〇九万三一六一円であり、一日分の休業損害は一万二〇一三円であるから、原告が本件事故により就労できなかつたものと認められる治療日数五〇日分を被告らにおいて賠償するのが相当であるから六〇万〇六五〇円が認められる。
2 慰謝料 三〇万円
原告が本件事故により負つた傷害の程度等から、原告の受けた精神的苦痛を慰謝するには被告らにおいて三〇万円を支払うのが相当と認められる。
3 入院雑費 五万円
一日につき一〇〇〇円の五〇日分を認めるのが相当であるから五万円と認められる。
4 通院交通費 〇円
原告が本件事故により負つた外傷性頭頸部症候群は前記日数五〇日をもつて治癒したものと認められるから、それ以後の通院は本件事故と相当因果関係があるものとは認められないので、通院交通費は〇円となる。
5 以上損害合計 九五万〇六五〇円
四 填補
原告が被告らから八七万四五一二円の支払いを受けていることについては当事者間に争いはなく、成立に争いのない甲第三三号証の一、二によれば、原告は労働者災害補償保険から一五一万二七二八円の支払いを受けていることが認められる。右支払い合計二三八万七二四〇円のうち、原告が本件訴訟において請求していない治療費に当てられた分は控除して考えるのが相当であるところ、本件事故により原告が負つた外傷性頭頸部症候群に対する治療費は甲第三三号証の一によれば多くても一〇七万三七五二円を越えることはないから、これを控除して、原告は、少なくとも一三一万三四八八円の損害填補を受けていることが認められる。
従つて、被告らが原告に対し賠償すべき前記認定の損害は全て填補されている。
五 弁護士費用
前記のことから、被告らが原告に対し賠償すべき前記認定の損害は全て填補されており、原告は本件訴訟においてこれを請求することは許されないのであるから本件訴訟追行のための弁護士費用は本件事故と相当因果関係のある損害と認めることはできない。
六 以上によれば、原告の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 原田卓)