東京地方裁判所 昭和61年(ワ)14364号 判決 1991年10月07日
原告
井上明子
右訴訟代理人弁護士
岩崎良平
同
村上誠
同
大須賀忠雄
同
赤松俊武
同
木村宏
同
吉田康
同
石川善一
右訴訟復代理人弁護士
鈴木高志
被告
株式会社フジタ
右代表者代表取締役
藤田一憲
被告
丸山謙治
同
武田晴夫
同
山川好英
右四名訴訟代理人弁護士
田宮甫
同
堤義成
同
鈴木純
同
行方美彦
右四名訴訟復代理人弁護士
白土麻子
被告
株式会社靖和
右代表者代表取締役
小林年子
被告
小林年子
同
的場映和
右三名訴訟代理人弁護士
田村公一
同
小原健
同
吉沢雅子
同
駒場豊
被告
協住不動産サービス株式会社
右代表者代表取締役
田中和夫
右訴訟代理人弁護士
設楽敏男
同
阪本清
同
坂本行弘
右訴訟復代理人弁護士
棚橋栄蔵
被告
出浦公男
右訴訟代理人弁護士
松原暁
右訴訟復代理人弁護士
大西英敏
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
被告らは、原告に対し、連帯して、金二二〇万円並びにこれに対する株式会社フジタ、同武田晴夫、同山川好英、同協住不動産サービス株式会社、同株式会社靖和、同小林年子及び同出浦公男は昭和六一年一一月二〇日から、被告丸山謙治は同月二一日から、被告的場映和は同月二八日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一争いのない事実等
1 当事者
(一) 原告は、東京都港区赤坂七丁目一八三番地に所在する鉄筋コンクリート造、陸屋根、地下一階付八階建建物である「ライオンズマンション赤坂」(以下「本件マンション」という。)の七〇六号室の所有者である。
(二)(1) 株式会社フジタ(旧商号フジタ工業株式会社。以下「被告フジタ」という。)は、ビルの建設等を行う会社であり、その関連会社として、城東土地株式会社(以下「城東土地」という。)、株式会社新都市開発機構(旧商号株式会社江東開発研究所。以下「江東開発」という。」及び商店街再開発株式会社(旧商号志木開発株式会社。以下「志木開発」という。)がある。<証拠略>
(2) 被告丸山謙治(以下「被告丸山」という。)は、被告フジタの開発事業本部都市開発事業部長の地位にあったもので、城東土地及び志木開発の取締役でもあったものである。
(3) 被告武田晴夫(以下「被告武田」という。)は、被告フジタの開発事業本部都市開発事業部営業部長の地位にあったものである。
(4) 被告山川好英(以下「被告山川」という。)は、被告フジタの開発事業本部都市開発事業部に所属する社員であり、城東土地の東京支店赤坂事務所長であったものである。
(三)(1) 被告株式会社靖和(以下「被告靖和」という。)は、昭和五九年九月一日に設立された、省エネルギー変電設備に関する調査・研究並びに機器及びシステムの開発販売等を目的とする会社であり、その本店は、本件マンション六〇四号室にある。
(2) 被告小林年子(以下「被告小林」という。)は、被告靖和の代表取締役であり、昭和五九年九月以降本件マンション六〇四号室を所有しているものである。
(3) 被告的場映和(以下「被告的場という。)は、昭和六〇年六月に被告靖和の取締役として同社に入り、一時同社の代表取締役の地位にあったものである。<証拠略>
(四) 被告協住不動産サービス株式会社(以下「被告協住」という。)は、不動産取引に関する金融等を主として行う会社である。
(五) 被告出浦公男(以下「被告出浦」という。)は、昭和五五年一二月から本件マンション五〇五号室を所有し、昭和六一年三月まで同室に居住していたもので、その間、昭和五八年五月から昭和六〇年五月まで後記管理組合の理事長の地位にあったものである。
2 管理組合及びその役員
(一) 本件マンションには、各居室の区分所有権者で構成されるライオンズマンション赤坂管理組合(以下「管理組合」という。)があり(管理規約一、一〇条)、居室の区分所有権を取得した者は当然に組合員になるものとされ、また、これを失った者は当然に管理組合から脱退するものとされている(規約一一、一二条)。
(二) 管理組合の役員として、理事長一名、副理事長一名、理事三名以上、監事一名が置かれることとなっており、右役員の任期は一年で、本件マンションに居住しまたはこれを使用する組合員またはその同居の家族の中から総会で選出されることとなっている(規約二九ないし三一条)。
昭和五九年五月から昭和六〇年五月までの管理組合の役員は、理事長被告出浦、理事藤井慶八、同杉山松蔵、同井上可津子(会計担当)、同山根幸夫、同松永絹子及び同松上隆子、監事山村聡であった。
3 管理組合総会
管理組合の総会には、毎年五月に開かれる定期総会と、必要に応じて開かれる臨時総会とがあり、臨時総会には、理事で構成される理事会の議決を経て理事長が招集するものと(規約三九条)、組合員の四分の一以上の総会招集要求があったときに理事長が招集するもの(規約四一条)との二つがあった。
4 管理費等
(一) 本件マンションの区分所有者は、組合員として、管理費(エレベーターの保守・電力費、ボイラーの保守・燃料費、共用部分の水道料・電燈費等)、修繕維持費及び組合費を管理組合に支払うものとされていた(規約一六条)。
ちなみに、被告小林の所有する六〇四号室の昭和五九年一〇月請求分の管理費は五万六〇〇〇円、修繕維持費は二万八〇〇〇円、組合費は二〇〇〇円であった。<証拠略>
(二) 右管理費、修繕維持費及び組合費のほかに、組合員は、自室で使用する水道料金及び電気料金を管理組合に支払うものとされていた。これは、本件マンションにおいては、管理組合と都水道局及び東京電力との間で供給契約が結ばれていて、管理組合が本件マンション全体の水道料金及び電気料金を一括して支払っていたからである。
ところで、本件マンションでは集中給湯方式が採用されており、各室で使用する湯については、子メーターがなかったため、実際にその部屋でいくらの湯が使用されたかその量を知ることができず、そのため、給湯に使われた水道料金は、本来の水道料金(これは各室の子メーターにより算出される。)に按分して負担するものとされていた。したがって、管理組合の請求する水道料金は、本来の水道料金に給湯のための水道料金を加えたものであった(以下、単に「水道料金」という場合には、この両者を合算したものをいう。)。しかし、これについては、かねてからその不公平さが指摘されていた。<証拠略>
ちなみに、被告小林の所有し被告靖和が使用する六〇四号室の昭和五九年一〇月請求分の水道料金は二万八六〇〇円、電気料金は二万一九〇六円であった<証拠略>。
(三) なお、右管理費、修繕維持費及び組合費は毎月二七日までに翌月分を納入するものとされ(規約一七条)、また、右水道料金及び電気料金は当月分を毎月末日までに支払うものとされていた。<証拠略>
5 被告フジタの関連三社の本件マンション居室の購入
(一) 城東土地は、昭和六〇年一〇月、本件マンション六〇七号室を、同年一二月、六〇八号室を、江東開発は、同年一二月、三〇四及び四〇六号室を、志木開発は、同年一二月、一〇一、二〇一及び七〇四号室をそれぞれ購入した。
(二) 被告出浦は、その所有にかかる本件マンション五〇五号室を昭和六〇年一二月二六日に被告靖和に売却し、被告靖和はこれを志木開発に売却した。
(三) 城東土地は、昭和六一年一月二七日ころ、本件マンション二〇五号室を購入した。
(四) 更に、城東土地は、昭和六一年二月一四日ころ、本件マンション五〇八号室を、江東開発は、同月二五日ころ、二〇九及び二一〇号室を、志木開発は、同年三月一〇日ころ、五〇二号室をそれぞれ購入した。
(五) 以上の各居室は、まず一旦被告靖和が前所有者から購入し、これを城東土地、江東開発、志木開発に売却する方法で行われた。
二原告の主張
1 被告らの不法行為
被告らは、全員、意思相通じ、本件マンション居室の区分所有権を買い占めた上でこれを取り壊し新しい建物を建てるいわゆる再開発を企て、以下のような違法行為に及んだ。
(一) 管理費等の支払拒否等
(1) 被告小林、同的場及び同靖和による管理費等の支払拒否
被告小林は、前記のとおり、昭和五九年九月に本件マンション六〇四号室の所有者となり前記管理費、修繕維持費、組合費、水道料金及び電気料金(以下、これらをまとめて「管理費等」という。)を管理組合に支払うべき義務を負ったが、被告的場及び同靖和と意思相通じ、本件マンション買占めのために管理組合を財政的に破綻させようと企て、昭和五九年一〇月請求分から昭和六一年五月請求分までの管理費等のうち電気料金を除くその余の二九三万三六五九円の支払いをことさらに拒否し、更に、昭和六一年七月に右二九三万三六五九円を支払ったものの、再び同年六月請求分から同年一二月請求分までの管理費等の支払いをことさらに拒否した。これら支払拒否により、管理組合は都水道局からの昭和六一年九月請求分の水道料金二一〇万七九五〇円の支払いができなくなるなど、その財政的基盤が危うくなった。
(2) 被告フジタ、同丸山、同武田及び同山川による管理費等の支払拒否等
被告フジタは、被告丸山、同武田及び同山川と意思相通じ、本件マンション買占めのために管理組合を財政的に破綻させようと企て、その子会社である城東土地、江東開発及び志木開発(以下、これらをまとめて「関連三社」という。)をして、その所有にかかる本件マンションの前記一〇一、二〇一、二〇五、二〇九、二一〇、三〇四、四〇六、五〇二、五〇八、六〇七、六〇八及び七〇四号室の、前所有者の滞納管理費等と昭和六一年三月請求分以降の管理費等との支払いをことさらに拒否させ、その後同年七月から八月にかけて一部支払いをさせたものの、同年九月二〇日に前所有者の滞納管理費等と同年八月請求分との合計四八三万六五一九円を東京法務局に供託させた。更に、同年九月請求分の管理費等四八万一六九九円の支払いをことさらに拒否させた上、同年一〇月三〇日前同様供託させた。これら支払拒否及び供託により、管理組合は都水道局からの昭和六一年九月請求分の水道料金二一〇万七九五〇円の支払いができなくなるなど、その財政的基盤が危うくなった。
関連三社の供託理由は、管理費等の受領権限を有する理事長が管理組合には存在せず管理組合は受領不能というものであるが、たしかに当時理事長はいなかったものの、理事六名が共同責任体制をとっていたのであるから、受領不能とはいえず、支払いを拒否し供託をする理由とはなり得ない。
(二) 管理組合等の運営に対する不信感等の醸成
(1) 被告フジタ、同丸山、同武田及び同山川による管理組合等の運営に対する不信感等の醸成
被告フジタは、被告丸山、同武田及び同山川と意思相通じ、原告をはじめ他の区分所有者に対し、昭和六一年九月一一日付の書面(甲三〇)及び同月二二日付の書面(甲三一)において、管理組合には理事長が存在せず管理費等の受領権限を有する者がいない旨あるいは管理組合の運営が異常な状態にあり管理費等が横領されている旨の虚偽の事実を申し向け、原告をはじめ他の区分所有者に対し管理組合あるいは理事会の運営に対する不信感や不安を抱かせ、一部の区分所有者をしてことさらに管理費等の支払いを拒否させた。
(2) 被告小林、同的場及び同靖和による管理組合等の運営に対する不信感等の醸成
被告小林は、被告的場及び同靖和と意思相通じ、適法な理事が存在しないと主張して管理費等の支払いを拒否し続け、また、原告をはじめ他の区分所有者に対して、管理組合に対する不信感や不安を抱かせるよう積極的に働きかけ、これらにより、原告をはじめ他の区分所有者に対し管理組合あるいは理事会の運営に対する不信感や不安を抱かせ、一部の区分所有者をしてことさらに管理費等の支払いを拒否させた。
(三) 臨時総会の違法な招集
被告らは、全員、本件マンションの買占めを容易にするため理事会をその手中に納めることを意図し、理事選出のための臨時総会を開催することを考えたが、全組合員の四分の一以上の賛成があれば右臨時総会を開催することが可能であったことから、互に意思相通じ、組合員でない者をして臨時総会の開催を要求する旨の文書に署名させるなどして違法に臨時総会を開こうと企て、
(1) 臨時総会の開催を要求する旨の文書に、五〇八号室として被告山川が、六〇七号室として被告武田が、六〇八号室として被告丸山が、それぞれあたかも区分所有者のように装って署名捺印し、
(2) 右の文書に、区分所有者でない吉村弘一、西田米子、武正総一郎、奥村元美及び西田辰三をしてそれぞれ署名捺印させ、
(3) 当時既に五〇五号室の区分所有権を失っていた被告出浦において、昭和六一年二月一二日、総会招集区分所有者代表として、日時を同月一八日午後六時、場所を全共連ビル、議題を理事及び監事選任の件とする「臨時総会の開催について」と題する書面を作成して、原告をはじめ他の区分所有者に配付し、
もって、管理規約に違反する手続により臨時総会を招集した。
(四) 買占め資金の融資
被告協住は、関連三社が前記一〇一、二〇一、三〇四、四〇六、五〇五、六〇七、六〇八及び七〇四号室を購入するにあたり、被告フジタに対しその購入資金を融資し、また、関連三社が取得した右居室につきその登記名義を貸与し、もって、右(一)ないし(三)の各不法行為を幇助した。
2 被侵害利益
ところで、一棟の建物の区分所有者は、物理的には不可分な一棟の建物の一部を所有するにすぎないのであるから、他の区分所有者がその専有部分を自由平穏に使用収益する権利を侵害しないよう行動すべき義務を負っている。右1(二)及び(三)の行為はこの義務に違反するものである。
また、本件マンションのように、管理組合がマンション全体の水道料金及び電気料金を一括して都水道局及び東京電力に支払っている場合には、各区分所有者がその負担すべき料金の支払いを遅延したときは管理組合において水道料金及び電気料金の支払いができなくなり、ひいて水道及び電気の供給の停止を受けるに至るのであるから、その支払拒否ないし遅延滞納は厳にこれを慎むべきであり、あえて支払拒否ないし遅延滞納を継続して管理組合の財政的基盤を危うくしたときは、他の区分所有者に対しその自由平穏な使用収益権を侵害したものとして、損害賠償義務を負うものというべきである。これが、右1(一)の行為について原告が損害賠償を求める所以である。
3 損害 二二〇万円
(一) 慰謝料 二〇〇万円
本件マンションの区分所有権者である原告は、前記1の(一)ないし(四)の行為によって、その専有部分を自由平穏に使用収益する権利を侵害され、著しい精神的苦痛を受けた。これを慰謝するには少なくとも二〇〇万円が必要である。
(二) 弁護士費用 二〇万円
原告は、本訴の提起遂行を原告代理人らに依頼し、その費用として二〇万円を支払う旨約した。
三被告らの主張
1 被告小林、同的場及び同靖和
被告小林、同的場及び同靖和が、原告主張のような再開発を企てたことはなく、そのことについて他の被告らと意思相通じたこともない。
(一) 「原告の主張」1(一)(1)について
被告小林、同的場及び靖和が意思相通じて管理組合を財政的に破綻させようと企てたことはない。被告小林が昭和五九年一〇月請求分から昭和六一年五月請求分までの管理費等のうち電気料金を除くその余の管理費等の支払いを拒否したこと及び同年六月請求分から同年一二月請求分までの管理費等の支払いを拒否したことは認めるが、ことさらに拒否したものであるとの点及び右支払拒否により管理組合の財政的基盤が危うくなったとの点は否認する。支払拒否につき被告的場及び同靖和と意思相通じたこともない。
被告小林が管理費等の支払いを拒否したのは、管理組合による管理、経理等があまりにも杜撰であり、特に水道料金の請求が異常に高かったこと(のちに、昭和六二年五月、莫大な量の地下漏水が生じていたことが判明している。)、昭和六〇年一一月以降管理組合には理事が存在しなくなったこと、被告靖和の事務所である六〇四号室の改装工事をしようとしたところこれを妨害されたこと、等による。被告小林は、規約に従って正規の理事が選出された後は、支払拒否分も含めて管理費等を支払っている。
(二) 「原告の主張」1(二)(2)について
被告小林が適法な理事が存在しないと主張して管理費等の支払いを拒否し続けたことは認めるが、他の区分所有者に対して管理組合に対する不信感や不安を抱かせるよう積極的に働きかけたことはない。支払拒否につき被告的場及び同靖和と意思相通じたこともない。管理費等の滞納は以前からあった。
(三) 「原告の主張」1(三)について
被告小林、同的場及び同靖和が本件マンションの買占めを容易にするため理事会をその手中に納めようと意図したことはない。
被告小林が理事選出のための臨時総会を開催することに賛成し、臨時総会の開催を要求する旨の文書に区分所有者でない西田米子、武正総一郎、奥村元美及び西田辰三の氏名を使用したことは認めるが、それは、被告靖和が同人らの名義で居室を購入したため当時同人らが区分所有者として登記されていると思っており、同人らに臨時総会の開催を要求する権限があると思っていたからである。また、被告小林が区分所有者でない被告山川、同武田及び同丸山の氏名を右の文書に使用したことは認めるが、これは、被告小林が居住者である同被告らに臨時総会の開催を要求する権限があると錯覚していたからである。したがって、当初から管理規約に違反した臨時総会を開こうとしていたわけではない。
(四)「原告の主張」3について
原告は、その専有部分を自由平穏に使用収益する権利を侵害されてはいない。
2 被告フジタ、同丸山、同武田及び同山川
被告フジタ、同丸山、同武田及び同山川が本件マンションについて原告主張のような再開発を企てたことはなく、それについて他の被告らと意思相通じたこともない。被告フジタが関連三社をして本件マンションの居室を購入せしめたのは、他の場所での再開発事業に伴い居住者等に一時立ち退いてもらう必要があり、その一時立退先用の仮住居として本件マンションが適当であったからである。本件マンションを買い占めて取り壊し、新しいマンションを建てるために購入させたのではない。被告フジタにはその意思すらなかった。
(一) 「原告の主張」1(一)(2)について
被告フジタ、同丸山、同武田及び同山川が意思相通じて管理組合を財政的に破綻させようと企てたことはない。関連三社が前所有者滞納分と昭和六一年三月請求分からの管理費等の支払いを拒否したこと及び同年九月二〇日に供託したことは認めるが、ことさらに拒否したものであるとの点及び右支払拒否等により管理組合の財政的基盤が危うくなったとの点は否認する。同年九月二〇日に供託したのは、前所有者滞納分と同年八月請求分とであり、同年三月請求分から同年六月請求分までは、同年七月四日から数回に分けて支払っており、また、同年七月請求分の管理費等も同年八月に支払っている。また、同年九月請求分の管理費等の支払いを拒否しこれを同年一〇月三〇日に供託したことは認めるが、ことさらに拒否したものではない。
関連三社が管理費等の支払いを拒否したのは、被告山川が会計担当の前理事井上可津子に対し請求内容を問い合せたところ「請求のまま支払えばよい。」などと言って納得のいく回答をしなかったこと、特に前所有者滞納分について具体的な説明を求めたのに全く説明がなかったこと、等によるものであり、供託をしたのは、徴収した管理費等を監視用カメラの購入費用に充てるなど管理費が不当な目的のために使用されている疑いがあったこと、関連三社がその所有にかかる居室の改装工事を申し入れたところ、管理組合を自称する者らがこれを許さず、工事をさせなかったこと、更に、管理組合を自称する者らがマイクを使って被告フジタを誹謗する演説をしていたこと、関連三社が管理組合代理人として被告フジタらに文書を送付していた弁護士村上誠に対し理事長の氏名等五項目について回答を求めたところ、なんらの回答もなかったこと、昭和六一年八月請求分から管理費等の振込口座が事前になんらの説明もなく一方的に変更されたこと、等による。
(二) 「原告の主張」1(二)(1)について
被告武田が昭和六一年九月に区分所有者に対して書面を作成、配付したことはあるが、その中で、管理組合には理事長が存在せず管理費等の受領権限を有する者がいない旨あるいは管理組合の運営が異常な状態にあり、管理費等が横領されている旨述べたことはない。原告が指摘する甲三〇及び三一号証に記載されたことは事実であり、虚偽ではない。また、管理費等の滞納は以前からあった。
(三) 「原告の主張」1(三)について
被告フジタ、同丸山、同武田及び同山川が本件マンションの買占めを容易にするため理事会をその手中に納めようと意図したことはない。
被告フジタ、同丸山、同武田及び同山川は、被告出浦が昭和六一年二月一二日に招集した臨時総会には一切関与しておらず、被告丸山、同武田及び同山川が臨時総会の開催を要求する旨の文書に署名したこともない。あとから、被告的場より、名前を使わせてもらった旨聞かされただけである。
(四) 「原告の主張」3について
原告は本件マンション七〇六号室を賃貸しており、居住していないのであるから、七〇六号室を使用収益する権利を害されることはない。
3 被告協住
被告協住が原告主張のような再開発を企てたことはなく、これについて他の被告らと意図相通じたこともない。
(一) 「原告の主張」1(三)について
被告協住が本件マンションの買占めを容易にするため理事会をその手中に納めようと意図したことはない。被告協住は、被告出浦が昭和六一年二月一二日に招集した臨時総会には無関係である。
(二) 「原告の主張」1(四)について
被告協住が被告フジタに対して関連三社の本件マンション居室の購入資金として金銭を融資したことは認めるが、関連三社に登記名義を貸与したとの点は否認する。右融資が原告の主張する不法行為の幇助にあたるとの主張も争う。
被告協住は、被告フジタに融資した担保として関連三社の購入にかかる居室を譲渡担保により受け取っただけである。
4 被告出浦
被告出浦が原告主張のような再開発を企てたことはなく、これについて他の被告らと意思相通じたこともない。
「原告の主張」1(三)については、被告出浦が理事会をその手中に納めようと意図したことはない。被告出浦は、昭和六〇年一二月二六日にその所有にかかる本件マンション五〇五号室を被告靖和に売却したが、臨時総会の招集権者代表となってくれるよう前理事会の代理人龍前弘夫弁護士と被告小林の代理人田村公一弁護士とから頼まれたため、これを引き受け、被告靖和との右売買契約を合意解除した上、臨時総会を招集したものである。他の被告らの意を受けて招集したものではない。また、招集の時点では被告出浦は五〇五号室の所有権者であったものである。
被告出浦は、被告的場に頼んで、臨時総会の開催を要求する旨の文書に七名の署名を集めてきてもらったが、当然に本人の承諾を得ているものと思っていたし、また、そこに記載された者が本件マンションの区分所有権者であると思っていた。したがって、違法に臨時総会を開こうと企てたこともない。
第三当裁判所の判断
一認定事実
証拠(<省略>弁論の全趣旨。以下に掲げる書面)によれば、次の事実が認められる。
1 本件マンションは、昭和四四年四月に建設され、四九室を有し、当初大京管理株式会社がその管理を行っていたが、その後昭和四九年八月ころから、区分所有者が管理組合を作って自主的に管理をするようになった。(<証拠略>)
2 本件マンションは、昭和五九年当時において、建物の老朽化、管理の不十分さ、水道料金の高額さ、管理組合の経理内容等が問題となっており、ごく一部の区分所有者においては、相当額の管理費等を滞納していた。(<証拠略>)
3 昭和五九年五月に開かれた定期総会において、前記のとおり、理事として被告出浦、藤井慶八、杉山松蔵、井上可津子、山根幸夫、松永絹子及び松上隆子が選出され、監事として山村聡が選出された。そして、その後の理事会において、被告出浦が理事長に選ばれた。
4 被告小林は、全国共済農業協同組合連合会(全共連)に勤務していたが、昭和五九年九月一四日ころ、津田宗一郎から本件マンション六〇四号室を購入し、被告靖和の本店事務所として使用を開始したが、水道料金が異常に高いことに驚き(なお、後記のとおり、のちに大量の漏水が生じていたことが判明している。)、水道配管等について調査するよう理事長の被告出浦ないし理事会に申し入れた。(<証拠略>)
5 被告出浦は、被告小林から右の申入れがあったこと等から、本件マンションの塗装計画を一時中止して、水道配管やボイラーの改修工事を優先することとし、組合員の同意を得るために、理事会の決定に基づき臨時総会を招集し、右臨時総会を昭和五九年一二月一七日に開催したところ、先の理事会で右工事の実施に賛成していた理事が総会では工事の実施に反対したため、結局右工事の実施が決定されなかったことから、いたく気分を害し、また、右総会での決定を予定して、漏水の有無を調査するためその間の断水を防ぐべく山県製作所に発注していた補助タンクの設置工事も、結局被告出浦が独断で発注したことになって、その代金の一部を個人負担させられることとなり、他の理事に対しいたく憤慨していた。(<証拠略>)
6 被告小林は、本件マンションに入居後、最初の一か月は管理費等を支払ったものの、昭和五九年一〇月請求分から、水道料金が異常に高いこと(同年一〇月請求分の水道料金は、八立方メートル使用で二万八六〇〇円、同年一一月請求分は、九立方メートル使用で三万三八〇〇円であった。<証拠略>)、理事会によるマンションの管理が十分でないこと、管理費等の請求内容及び使途にも問題があるとして、その支払いを拒否し、理事会に対して水道料金の高額さについての調査を求めるとともに、管理費等の請求内容及び使途について質問するなどし、また、他方で、都水道局にも異常がある旨の通知をした。(<証拠略>)
その後、被告小林は、昭和六〇年一月八日ころ、管理費等のうち電気料金は支払ったものの、その余の管理費等については、その後もその支払いを拒否した。(<証拠略>)
7 昭和六〇年五月二三日、管理組合の定期総会が開かれ、被告出浦のほか、前記藤井慶八、杉山松蔵、井上可津子、山根幸夫、松永絹子及び松上隆子が理事に再選出され、また、山村聡が監事に再選出された。(<証拠略>)
しかし、被告出浦は、同日開かれた理事会において、他の理事の協力が得られないので理事を続けることができないとして、理事辞任の意思を表明し、他の理事もこれを承認した。そして、他の理事の互選による理事長の選出もなされなかったため、同日以降、管理組合には理事長が存在しない状態となった。(<証拠略>)
8 昭和六〇年一〇月一四日、無人ボイラー設置の件、出浦理事解任の件等を議題として、管理組合の臨時総会が開かれたが、同総会において理事に対する不信任案が提出され、これが可決されたため、同月三一日、前記藤井慶八、杉山松蔵、井上可津子、山根幸夫、松永絹子、松上隆子及び山村聡は、「辞意表明」と題する文書(甲六)に署名押印して、これを各組合員に配付した。
なお、右臨時総会において新しい理事が選出されなかったため、同年一〇月三一日以降管理組合には役員が全くいない状態となった。
9 その後、前記臨時総会で議長をつとめた前理事の山根幸夫は、組合員の求めにより理事業務引継ぎのため、「経過説明」(甲一〇)と題する文書を作成して、組合員に配付したが、被告出浦は、右「経過説明」の内容が事実に反するものであり、かつ、自己の前理事長としての業績を過小に評価するものであるとして、いたく立腹し、昭和六〇年一一月に自ら反論の書面(甲一二)を作成して、組合員に配付した。また、被告小林も、右「経過説明」の内容が自己の名誉を著しく侵害するものであるとして、山根幸夫に強く抗議した。(<証拠略>)
10 右のとおり、昭和六〇年一〇月末日以降管理組合には役員が全く存在しない状態となったため、前監事の山村聡は、早急に新役員を選出するための臨時総会を開く必要があるとして、被告小林や原告、更には他の組合員などに臨時総会の開催を呼びかけるなどした。(<証拠略>)
11 ところで、被告フジタは、再開発に際して取壊し予定のマンション等に居住している人々を一時他のマンションに居住させる必要があったことから、仮住居用のマンションを探していたところ、被告武田は、知人の被告的場から、本件マンションの存在を知らされ、本件マンション内に右仮住居用の居室二〇戸程度を購入しようと考え、昭和六〇年一〇月、被告的場に対して、その購入方を依頼した。
12 右の依頼を受けた被告的場は、被告小林と協議の上、被告靖和において購入し転売することとし、本件マンションの居室の購入につとめ、昭和六〇年一〇月に六〇七号室を、同年一二月に一〇一、二〇一、三〇四、四〇六、六〇八及び七〇四号室をそれぞれ購入し、そのころ、これらを、前記のとおり、城東土地、江東開発及び志木開発の関連三社に転売した。被告フジタは、関連三社を育成するとの方針から、自らは購入しないで関連三社に購入させた。(<証拠略>)
もっとも、これらの居室を関連三社が購入するにあたっては、その購入資金を被告協住が被告フジタに融資し、この融資金が購入のために使用されたため、関連三社は、その購入にかかる右各居室を譲渡担保として被告協住に提供し、結局、全区分所有者から直接被告協住に所有権移転登記がなされた(なお、その後の昭和六一年三月に、被告協住から関連三社に所有権移転登記がなされている。)。
また、管理組合に対しては、昭和六一年一月二〇日ころまでに、六〇七号室の所有者が被告武田であるとして、六〇八号室の使用者が被告丸山であるとして届けられ、また、二〇一号室の所有者が西田米子、三〇四号室の所有者が武正総一郎、四〇六号室の所有者が奥村元美、七〇四号室の所有者が西田辰三であるとして、届けられた。(<証拠略>)
なお、これらの居室の管理費等は、被告協住に登記名義がある間は、同被告において負担していた。
13 本件マンション五〇五号室の所有者であった被告出浦は、前記のとおり、右五〇五号室を昭和六〇年一二月二六日に被告靖和に売却し、被告靖和は、そのころこれを志木開発に転売した。但し、前同様の理由から、直接被告協住に所有権移転登記がなされた。
14 このような状況の下で、原告は、昭和六〇年一二月から翌昭和六一年一月にかけて、本件マンションが被告靖和等の業者によって買い占められており、被告小林の管理費等の不払いも管理組合を財政的に破綻させるための一手段であり、やがて居住者に対する種々の嫌がらせや追出工作が始まるものと考えるに至り、危機感を募らせ、被告靖和、同小林及び同的場、被告協住、更には被告小林に同調していると考えていた被告出浦をも敵視するようになり、その旨を前理事にも告げるなどして、買占め阻止への協力、団結を訴えた。(<証拠略>)
なお、当時原告はその所有にかかる七〇六号室には居住していなかった。
15 城東土地は、昭和六一年一月二七日ころ、被告靖和が買い取った本件マンション二〇五号室を同社から購入した。
16 一方、前認定のとおり、管理組合には昭和六〇年一〇月末以降理事等の役員が存在しない状態となっていたが、前監事山村聡の顧問弁護士であった龍前弘夫弁護士と被告小林の顧問弁護士であった田村公一弁護士とは、昭和六一年一月、協議の上、新役員を選出するための臨時総会を早急に開くことを決め、その招集を前理事長の被告出浦に依頼することとした。
17 右の依頼を受けた被告出浦は、前認定のとおり、山根幸夫の作成した「経過説明」にいたく立腹していたことから、総会で自己の理事長としての業績を明らかにしようとも考え、右臨時総会の招集者代表となることを承諾した。
しかし、被告出浦は、前認定のとおり既にその所有にかかる本件マンション五〇五号室を被告靖和に売却していたため、被告的場に対して、先になした被告靖和との売買契約を解除してくれるよう申し込み、被告小林の了承及び志木開発の了承を得た上(これにより、被告協住名義の所有権移転登記は、その後昭和六一年二月一五日に錯誤を原因として抹消された。)、更に、臨時総会の招集要求には組合員の四分の一以上の賛成が必要であったことから、自らは八名程度の賛成者を集めることとして、被告的場に七名の賛成者を集めてくれるよう依頼した。
そこで、被告的場は、被告小林と相談の上、臨時総会の招集を要求する旨の書面に、被告丸山、同武田及び同山川の氏名を、同被告らの了承を得ることなく記載し、また、被告小林の了解を得て、前記西田米子、武正総一郎、奥村元美及び西田辰三の氏名を右の書面に記載した。しかし、右の七名の者はいずれも本件マンション居室の区分所有者ではなかった。(<証拠略>)
被告出浦は、自ら吉村弘一(一〇一号室)ら八名の賛成者を集め、こうして、昭和六一年二月一二日、「総会招集区分所有者代表出浦公男」の名で、「臨時総会の開催について」と題する書面(甲二一)を作成、配付し、同月一八日に全共連ビルで議題を理事及び監事選任の件とする臨時総会を開く旨を組合員に知らせ、これへの出席を訴えた。(<証拠略>)
18 これに対し、原告は当時、被告出浦を被告靖和ないし被告協住等による本件マンションの買占めに協力する者であると考えており、被告出浦の行なった右臨時総会の招集も業者が管理組合の理事会をその手中に納めるためのものであるとして嫌悪し、同被告が昭和六〇年一二月二六日に五〇五号室の区分所有権を売却していることを登記簿謄本により確認したこともあって、別途臨時総会を開催することとし、昭和六一年二月一六日、「総会招集権者代表井上明子(馬淵晴子)」の名で、「臨時総会招集通知書」(甲二五)を作成して配付し、同月二七日に赤坂東急ホテルで理事及び監事選出のための臨時総会を開く旨を組合員に知らせ、併せて、同時に配付した「臨時総会開催にあたって」と題する書面(甲二五)で、被告出浦の招集した臨時総会には同被告が既に五〇五号室の区分所有権を失っているので出席する必要はない旨述べた。(<証拠略>)
19 被告出浦の招集した臨時総会は、昭和六一年二月一八日、全共連ビルで開かれたが、定足数を充たさずに単なる集会に終った。
他方、原告の招集した臨時総会は、同月二五日、区分所有権の買占めについてなおその実態を調査する必要があるとして延期されるに至った(<証拠略>)。そして、原告は、同月二七日、区分所有権の買占めと居住者への追出工作を阻止し管理組合の正常な機能と運営を回復するためとして、「ライオンズマンション赤坂住民の生活と権利と自治を守る会」(以下、「守る会」という。)を結成し、自らその代表者となるとともに、前記井上可津子ら前理事が主要なメンバーとなった。(<証拠略>)
20 このような中、城東土地は、昭和六一年二月一四日ころ、本件マンション五〇八号室を、江東開発は、同月二五日ころ、二〇九及び二一〇号室を、志木開発は、同年三月一〇日ころ五〇二号室を購入した。これらの居室も、一旦被告靖和が前所有者から購入してこれを関連三社に転売するという形で行われた。(<証拠略>)
21 ところで、以上認定のとおり、昭和六一年三月当時、関連三社は、本件マンションの一〇一、二〇一、二〇五、二〇九、二一〇、三〇四、四〇六、五〇二、五〇八、六〇七、六〇八及び七〇四号室の合計一二室の区分所有権を取得しており、前所有者が滞納していた管理費等についてもその支払義務を承継するに至っていたが(規約一三条)、被告山川において、管理組合からの管理費等の請求につきその内容を前記井上可津子に問い合せたところ、同女から「請求どおり支払えばよい。」などと言われて、明確な回答が得られなかったため、関連三社は、被告フジタの指示により管理費等の支払いを拒否することとして、同年三月請求分からそれを支払わず、前所有者滞納分についてもその支払いを拒否した(なお、被告協住名義になっていた間の管理費等については、前示のとおり、同被告が支払っていた。)。
22 このころ、原告は、水道料金が異常に高いのは、関連三社が購入した右各居室及び被告靖和が使用する居室において、管理組合を財政的に破綻させるために大量の湯がたれ流されているためであると考えていた。
23 前認定のとおり、前理事藤井慶八、杉山松蔵、井上可津子、山根幸夫、松永絹子及び松上隆子並びに前監事山村聡は昭和六〇年一〇月三一日に辞意を表明し、以後管理組合には役員が存在しない状態となっていたが、昭和六一年五月一九日、これらの者(山根幸夫を除く。)は、原告ないし守る会の強い意向を受けて(<証拠略>)、突如「通知書」なる書面(甲四〇)を組合員に配付して、辞意を撤回するとし、再び役員としての職務を開始し、井上可津子が理事長代行を称した。しかし、これらの者が理事としての職務を開始するとした後も、毎年五月に開かれることとなっている定期総会は開かれず、その招集手続さえもとられなかった。(<証拠略>)
原告は、右井上可津子らの辞意撤回・職務再開を本件マンションの買占めに戦う勇気ある決断として支持する旨の声明書(甲四一)を守る会代表者名で作成して配付し、右辞意を撤回した理事で構成される理事会を「再建理事会」と呼んだ。(<証拠略>)
24 そして、原告は、昭和六一年六月一日、自己が区分所有権を有し当時守る会が使用していた本件マンション七〇六号室を、管理組合にその事務所として(但し、守る会と共同使用)、賃料月額一五万五〇〇〇円で賃貸した。(<証拠略>)
25 その後、原告は、前記辞意を撤回した理事で構成される理事会をして、組合の金銭により約四〇〇万円する監視用のカメラを購入せしめ、前記七〇六号室の組合事務所にそのモニターテレビを設置して、本件マンションに出入りする者らの動向を監視させた。(<証拠略>)
26 被告小林は、このころ、依然として、電気料金を除くその余の管理費等の支払いを拒否していたが、その理由は、前記6で述べた水道料金の高額さ、理事会による管理の不十分さ、管理費等の請求内容及び使途に対する疑問、に加えて、昭和六〇年一一月以降は理事が不在であって管理費等の受領権限を有する者がいないと考えていたことであった。
27 ところが、昭和六一年七月、管理組合(管理者理事長代行井上可津子)名で管理費等の支払請求訴訟が提起されたため、同月、被告小林は、その請求にかかる同年五月請求分までの管理費等合計二九三万三六五九円を支払った。(<証拠略>)
28 しかし、その後、被告小林は、被告靖和が使用している六〇四号室の内装工事をしようとしたところ、守る会のメンバーによって妨害されるなどしたため、昭和六一年六月請求分から再び管理費等の支払いを拒否した。(<証拠略>)
29 関連三社も、被告小林に前記訴訟が提起された後の昭和六一年七月四日から同年八月二日までの間に、数回に分けて、滞納中の管理費等のうち同年三月請求分から同年六月請求分までを支払ったが(同年八月二二日までに七月請求分も支払った。)、しかし、前所有者滞納分はなお支払わなかった。(<証拠略>)
30 昭和六一年八月一二日、被告山川が、関連三社の所有する前記居室を前記仮住居として使用するため、その室内工事(畳、絨毯の張替え等)を管理組合に届け出たところ、管理組合は、「警告書」なる書面(甲四七ないし四九)を発してこれを許さなかった。それでも、被告山川が二〇一号室の工事を実施しようとしたところ、同月二〇日、前記井上可津子ら守る会のメンバー数名が資材の搬入を阻止した。(<証拠略>)
また、原告をはじめ守る会のメンバーは、このころ、拡声器により、前記七〇六号室から外に向けて、被告フジタや被告靖和らを批難し退去を求める旨の演説を音量大きく繰り返し、また、被告フジタ、同靖和、同小林らの工事関係者の立入りを禁止する旨のビラを本件マンションの玄関に大きく貼るなどした。(<証拠略>)
31 右のような事情により、被告小林はなおも管理費等の支払いを拒否した。(<証拠略>)
32 昭和六一年八月二六日、関連三社は、管理組合の代理人として前記「警告書」なる書面を関連三社に送付してきた弁護士村上誠に対し、右「警告書」に記載された質問に答えるとともに、逆に、現在の理事長は誰か、五月に開かれるべき定期総会はどうなったのか、など五項目について質問をしたが、同弁護士は回答しなかった。(<証拠略>)
33 更に、昭和六一年八月請求分からは、なんらの連絡もなく、管理費等の振込銀行が変更された。(<証拠略>)
34 このような状態の中で、被告武田は、被告フジタの指示により、「フジタ工業株式会社開発事業本部都市開発事業部営業部長」の肩書を付して、昭和六一年九月一一日付の「管理組合の異常事態について」と題する書面(甲三〇)を配付し、また、同月二二日付の「管理組合の正常化について」と題する書面(甲三一)を配付した。
前者には、「管理組合には理事会がない。」旨、「理事と称する者が、当社関係会社が管理費を払っているのに、未払いということにして、スピーカーで隣棟まで聞こえよがしにがなり立てている。」旨、「居住者に対しても、『白紙委任状を出せ』とか、『もし委任状を出さなければここに住めなくしてやる』とかの脅迫が横行しているようである。」旨、「多くの居住者から救いを求める声が当社に寄せられている。」旨、「『いったい管理費はどこへ消えてゆくのか』などの皆様方の不安は、そのまま当社にとっても大きな不安である。」旨、「理事と称する者も誰かに扇動されているにすぎない。」旨の各記載がある。
また、後者には、「九月一一日付の書簡については、多数の者から、当マンション管理組合の現在の運営方法が異常なので正常化して欲しいという声を頂いた。」旨、「皆様方の声を要約すると、『理事でもない人が理事と称して管理費を使っているのではないか。』、『管理組合の印鑑が盗用されているのではないか』、『ひとりだけマスコミに騒がれていい気になっている』、『水道代が異常に高い』等の声があった。」旨の各記載がある。
35 そして、関連三社は、昭和六一年九月二〇日、管理組合には管理費等を受領する権限のある適法な理事長が存在しないことを理由に、前所有者の滞納分と同年八月請求分との合計四八三万六五一九円を東京法務局に供託した。右四八三万六五一九円のうち約三五七万円は、前所有者の滞納分であった。(<証拠略>)
更に、関連三社は、同年一〇月三〇日、同年九月請求分四八万一六九九円を前同様供託した。(<証拠略>)
36 このような中で、昭和六一年一一月六日、原告を本島自柳、本島英子、野村智昭、野村芳江、木村嵯峨子、保富操、松永絹子、井上可津子、株式会社ギャラクシー・エンタープライズ及び原告とする本訴が提起された。
37 その後、昭和六一年一一月二八日、理事長代行を称する前記井上可津子は、被告フジタらの買占めに対決するとして、同年一二月五日に臨時総会を開く旨を告げて組合員を招集した。(<証拠略>)
右臨時総会は、同日、東京トラック事業健保会館において開かれ、原告が議長をつとめて議事が進行され、かねてからその不公平さが指摘されていた集中給湯方式の廃止等を決議するとともに、新理事として木村嵯峨子、保富みさを、奥山善三、内桶充子、野村智昭及び松永絹子を選出し、新監事として本島自柳を選出した。そして、新理事会(松永絹子は辞任)は、その後木村嵯峨子を理事長に選出した。(<証拠略>)
38 ところが、新理事会は、その後、原告の意向に反し、それまでの被告フジタ、同靖和、同小林らに対する態度を変更し、同被告らとの紛争を対話によって解決する方針を打ち出し、管理組合事務所を原告の所有する七〇六号室から移転することを決めた。(<証拠略>)
39 昭和六二年一月八日、関連三社の代理人である堤義成及び行方美彦弁護士と管理組合代理人である岩崎良平弁護士は、右三社が東京法務局に供託している供託金の還付を右三社において受けた上管理組合に支払うことを合意し、これに基づいて、関連三社は、供託金の還付を受けて、昭和六一年一〇月請求分までの管理費等と前所有者滞納分とを全て支払った。(<証拠略>)
また、昭和六二年一月九日、管理組合は、関連三社との間で、関連三社の所有する居室について内装工事を認める旨の協定書を取り交わした。(<証拠略>)
40 被告小林も、理事が適法に選出されたとして、滞納中の昭和六一年六月請求分以降の管理費等を支払った。(<証拠略>)
41 原告は、昭和六二年一月一四日ころ、新理事長木村嵯峨子の態度は本件マンションの買占めに屈するものであって守る会に対する背信的態度であるとして、同女を強く批難し、同女を守る会から除名する旨の通知をした。これをみて、前記内桶充子、保富みさを、野村智昭、野村芳江、井上可津子、松永絹子、藤井慶八、松上隆子及び杉山松蔵は、守る会に対して脱会届を提出した。更に、その後、これらの者は、原告に対し、守る会に出した闘争資金(一人で一〇〇万円出した者もいる。)の収支状況を報告して欲しい旨の書面(甲一二五の二)を送付したが、原告はこれに激怒し、回答を拒否している。(<証拠略>)
42 なお、本件マンションにおいて水道料金が異常に高かったのは、一階消火栓への配管破損によって生じた大量の漏水が原因であることが、その後の調査で判明し、応急の措置を施したところ使用水量は激減した。(<証拠略>)
しかし、原告は、現在でも、水道料金が異常に高かったのは、関連三社が購入した各居室及び被告靖和が使用する居室において、管理組合を財政的に破綻させるために大量の湯がたれ流されていたためであると考えている。
43 その後昭和六二年六月までに、原告を除くその余の前記原告らは、全て本件の訴えを取り下げた。
以上の事実が認められる。
二判断
1 管理費等の支払拒否等について
(一) 被告小林の管理費等の支払拒否について
(1) 原告は、前掲(「原告の主張」1(一)(1))のとおり、「(1)被告小林は、昭和五九年九月に本件マンション六〇四号室の所有者となりながら、被告的場及び同靖和と意思相通じ、①同年一〇月請求分から昭和六一年五月請求分までの管理費等のうち電気料金を除くその余の支払いを拒否し、②更に、昭和六一年七月に右滞納分を支払ったものの、再び同年六月請求分から同年一二月請求分まで管理費等の支払いを拒否したが、それらは正当な理由によるものでなく、(2)かつ、右支払拒否により管理組合の財政的基盤が危うくなったのであるから、被告小林の右支払拒否は、原告をはじめ他の区分所有者のその専有部分を自由平穏に使用収益する権利を侵害したこととなり、原告に対し損害賠償義務を負うものである。」旨主張する。
(2) たしかに、被告小林は、前認定のとおり、昭和五九年一〇月請求分から昭和六一年五月請求分までの電気料金を除くその余の管理費等の支払いを拒否し、また、同年六月請求分から同年一二月請求分までの管理費等の支払いを拒否している。
しかしながら、①当時本件マンションの水道料金はその使用水量に比して異常に高かったこと(例えば、前認定のとおり、被告小林が所有する六〇四号室の昭和五九年一〇月請求分の水道料金は、八立方メートル使用で二万八六〇〇円、同年一一月請求分は、九立方メートル使用で三万三八〇〇円であった。)、②昭和五九年一二月一七日に開かれた臨時総会においても、この水道料金の高額さに対する調査方法が決められなかったこと、③そして、昭和六〇年五月二三日に開かれた理事会においては理事長の選出がなされなかったため、以後管理組合にはその管理者たる理事長が存在しない状態となったこと、④更に、同年一〇月一四日の臨時総会においては理事に対する不信任案が可決され、同月三一日に理事等が全員辞任したため、同日以降管理組合には役員が全く存在しない状態となり、銀行口座に振り込まれる管理費等を正当に管理できる者はいなくなったこと(管理規約にも、理事が存在しなくなったときの規定はない。)、⑤その後、山根幸夫の作成した「経過説明」と題する文書をめぐって前理事会内部の対立が一気に表面化し、前理事に対する信頼がなくなったこと、⑥毎年五月に開かれることとなっている定期総会も、昭和六一年五月には開かれず、仮に前理事井上可津子らの辞意撤回を有効とみるとしても、これらの者の理事としての任期は遅くとも昭和六一年五月末日をもって満了しているものと考えられ(規約三一条、三九条二項)、その翌日以降は再び管理組合には役員が存在しない状態となったこと、⑦辞意を撤回した理事で構成される理事会は組合の金銭を使用して約四〇〇万円もする監視用のカメラを購入しているが、たとえそれが本件マンションの買占めを阻止するための手段であったとしても、なお、その購入には疑問が残ること、⑧被告小林は、被告靖和が使用している六〇四号室の内装工事をしようとしたところ、守る会のメンバーによってこれを妨害されたこと、⑨加えて、原告をはじめ守る会のメンバーは、昭和六一年夏ころ、拡声器により、被告フジタや同靖和らを批難し退去を求める旨の演説を音量大きく繰り返し、また、被告フジタ、同靖和、同小林らの工事関係者の立入りを禁止する旨のビラを本件マンションの玄関に貼るなどしたこと、⑩昭和六一年八月請求分から、事前になんらの連絡もなく、管理費等の振込銀行が変更されたこと、以上の点を考慮すると、被告小林の前記管理費等の支払拒否が管理組合に対する不法行為を構成するとは到底解されないところである。また、被告小林の支払拒否の結果管理組合の財政的基盤が危うくなったとの事実も、本件全証拠によるも認めることができない(却って、管理組合は、前認定のとおり、被告小林が管理費等の支払いを拒否している間に、約四〇〇万円もする監視用カメラを購入しているのである。)。(なお、仮に被告小林の管理費等の支払拒否が管理組合に対する不法行為を構成するとしても、原告は、管理組合の財政的基盤が危うくなったことによって損害(その専有部分を自由平穏に使用収益する権利の侵害)を受けたといういわゆる間接被害者であって、間接被害者たる原告が被告小林に損害の賠償を請求し得るためには直接の被害者である管理組合と一体的関係がなければならないと解せられるところ、本件全証拠によるも原告が管理組合とそのような一体的関係にあるものとは認められないから、原告がその損害の賠償を同被告に請求することはできないというべきである。)。
なお、被告的場及び同靖和については、右支払拒否について被告小林と意思相通じていたことを認めるに足る証拠はなく、その余の被告らについても同様である。
(二) 関連三社の管理費等の支払拒否等について
(1) 原告は、前掲(「原告の主張」1(一)(2))のとおり、「(1)被告フジタは、被告丸山、同武田及び同山川と意思相通じ、関連三社をして、①その所有にかかる一二室の前所有者の滞納管理費等と昭和六一年三月請求分以降の管理費等との支払いを拒否させ、その一部を同年九月二〇日東京法務局に供託させ、②更に、同年九月請求分の管理費等の支払いを拒否させて、同年一〇月三〇日前同様供託させたが、これらは正当な理由によるものでなく、(2)かつ、右支払拒否及び供託により管理組合の財政的基盤が危うくなったのであるから、関連三社の右支払拒否及び供託は、原告をはじめ他の区分所有者のその専有部分を自由平穏に使用収益する権利を侵害したこととなり、これを行わしめた被告フジタ、同丸山、同武田及び同山川も原告に対し損害賠償義務を負うものである。」旨主張する。
(2) たしかに、関連三社は、前認定のとおり、昭和六一年三月請求分からの管理費等の支払いと前所有者の滞納分についての支払いを拒否し、その後同年七月四日から数回に分けて同年三月請求分から同年六月請求分までの管理費等を支払ったものの、前所有者滞納分は支払わず、更に、同年八月二二日までに七月請求分を支払った上、同年九月二〇日に前所有者滞納分と同年八月請求分とを供託し、同年一〇月三〇日にも同年九月請求分を供託している。そして、これらの支払拒否及び供託は、被告フジタの指示によるものである。
しかしながら、右(一)(2)に掲記した①ないし⑩の事情のほか、①関連三社が、昭和六一年八月一二日にその所有する居室の室内工事を管理組合に届け出たところ、管理組合がこれを許さなかったこと(しかし、右室内工事は規約二四条の管理組合の承認を要する事項にはあたらない。)、②同年八月二六日、関連三社はそのころ管理組合の代理人として行動していた弁護士村上誠に対し、理事長は誰かなどと五項目の質問をしたが、同弁護士は回答をしなかったこと、③更に、関連三社が最後まで支払いを拒否して供託した管理費等のうち多くは前所有者の滞納分であり、この滞納を放置していた管理組合にも落度がなかったとはいえないこと、以上の点を考慮すると、関連三社の前記管理費等の支払拒否及び供託が管理組合に対する不法行為を構成するとは到底解されないところである。したがって、これを指示した被告フジタに不法行為責任が発生することはない。また、関連三社の支払拒否等の結果管理組合の財政的基盤が危うくなったとの事実も、本件全証拠によるも認めることができない(却って、管理組合は、前認定のとおり、関連三社が管理費等の支払いを拒否している間に、約四〇〇万円もする監視用カメラを購入しているのである。)。(なお、仮に関連三社の管理費等の支払拒否及び供託が管理組合に対する不法行為を構成するとしても、間接被害者たる原告がその損害の賠償を被告フジタに請求することができないことは、前記(一)(2)で説示したとおりである。)。
なお、被告丸山、同武田及び同山川については、関連三社の右支払拒否ないし供託について被告フジタと意思相通じていたことを認めるに足る的確な証拠はなく、仮にこの点を推認するとしても、関連三社の支払拒否及び供託が管理組合に対する不法行為を構成しない以上、被告丸山、同武田及び同山川に不法行為責任が生ずることはない。その余の被告らについては、関連三社の右支払拒否等について被告フジタと意思相通じていたことを認めるに足る証拠がない。
2 管理組合等の運営に対する不信感等の醸成
(一) 原告は、前掲(「原告の主張」1(二))のとおり、「(1)被告フジタは、被告丸山、同武田及び同山川と意思相通じ、原告をはじめ他の区分所有者に対して、管理組合には管理費等の受領権限を有する者がいない旨あるいは管理組合の運営が異常な状態にあり管理費等が横領されている旨の虚偽の事実を申し向けて、管理組合あるいは理事会の運営に対する不信感や不安を原告をはじめ他の区分所有者に抱かせ、一部の区分所有者をしてことさらに管理費等の支払いを拒否させた。(2)被告小林は、被告的場及び同靖和と意思相通じ、適法な理事が存在しないと主張して管理費等の支払いを拒否し続け、また、原告をはじめ他の区分所有者に対して、管理組合に対する不信感や不安を抱かせるよう積極的に働きかけ、これらにより、原告をはじめ他の区分所有者に管理組合あるいは理事会の運営に対する不信感や不安を抱かせ、一部の区分所有者をしてことさらに管理費等の支払いを拒否させた。右(1)(2)によって、原告はその専有部分を自由平穏に使用収益する権利を侵害された。」旨主張する。
(二) しかし、原告の指摘する被告武田作成の昭和六一年九月一一日付の「管理組合の異常事態について」と題する書面(甲三〇)のうち、右原告の主張との関係で問題となり得るのは、「居住者に対しても、『白紙委任状を出せ』とか、『もし委任状を出さなければここに住めなくしてやる』とかの脅迫が横行しているようである。」旨述べた部分、「『いったい管理費はどこへ消えてゆくのか』などの皆様方の不安は、そのまま当社にとっても大きな不安である。」旨述べた部分であり、また、被告武田作成の同月二二日付の「管理組合の正常化について」と題する書面(甲三一)のうち、同様に問題となり得るのは、「皆様方の声を要約すると、『理事でもない人が理事と称して管理費を使っているのではないか』、『管理組合の印鑑が盗用されているのではないか』との声があった。」旨述べた部分である。
たしかに、これらは、措字やや穏当を欠くものの、しかし、①事実管理組合には当時理事は存在しない状態であったこと(規約の解釈上、辞任した全理事が新理事の選出まで理事としての職務を行うことができるとしても、それをもって理事が存在しているということではできない。)、②原告をはじめ守る会のメンバーが拡声器によって被告フジタを批難する旨の演説を繰り返し、また、被告フジタの工事関係者の立入りを禁止する旨のビラを本件マンションの玄関に貼るなどしていたことから、右各書面の配付は、その防御、対抗上なされたものと認められること、③その他、本件紛争の経緯・内容、等に徴すると、右各書面の記載が違法であるとは未だいえず、不法行為を構成しないというべきである。
被告小林、同的場及び同靖和、被告協住並びに被告出浦については、右各書面の作成、配付について被告武田と意思相通じていたことを認めるに足る証拠はない。
(2) 次に、被告小林が適法な理事が存在しないことを理由の一つとして管理費等の支払いを拒否し続けていたことは前認定のとおりである。しかし、前説示のとおり右支払拒否は不法行為を構成しないのであるから、仮に原告が右支払拒否を知って管理組合あるいは理事会の運営に対する不信感や不安を抱いたとしても、被告小林は不法行為責任を負わないというべきである。なお、被告小林が原告をはじめ他の区分所有者に対して管理組合に対する不信感や不安を抱かせるよう積極的に働きかけたことを認めるに足る証拠はない(原告が指摘する<証拠略>ではその認定に不十分である。)。
被告的場及び同靖和については、右支払拒否について被告小林と意思相通じていたことを認めるに足る証拠はなく、その余の被告らについても同様である。
(3) 原告は、被告武田及び同小林の右各行為によって区分所有者の一部に管理費等の支払いを拒否する者が出てきた旨主張するが、管理費等の滞納は以前からあったのであり、被告武田及び同小林の右行為によって新たに支払拒否が生じたことを認めるに足る証拠はない(原告の指摘する<証拠略>から直ちにそのように認定するのは困難である。)。
3 臨時総会の違法な招集について
(一) 原告は、前掲(「原告の主張」1(三))のとおり、「被告らは、互に意思相通じた上、違法に臨時総会を開こうと企て、(1)臨時総会の開催を要求する旨の文書に、被告山川、同武田及び同丸山がそれぞれあたかも区分所有者のように装って署名捺印し、(2)右の文書に、吉村弘一、西田米子、武正総一郎、奥村元美及び西田辰三をして区分所有者でないのに署名捺印させ、(3)当時既に五〇五号室の区分所有権を失っていた被告出浦において「臨時総会の開催について」と題する書面を作成して配付し、もって、管理規約に違反する手続により臨時総会を招集した。原告は、これにより、その専有部分を自由平穏に使用収益する権利を侵害された。」旨主張する。
(二)(1) しかし、臨時総会の開催を要求する旨の文書に被告山川、同武田及び同丸山が署名した事実はなく、同被告らの氏名を書いたのは、前認定のとおり被告小林と相談した被告的場である。これについて被告山川、同武田及び丸山は事前に承諾していなかったものであるから、原告の主張はその前提を欠くものである。なお、被告的場及び同小林の右行為について、被告フジタ、同靖和、同協住及び同出浦が意思を相通じていたことを認めるに足る証拠はない。
(2) 次に、たしかに、右の文書に区分所有者でない西田米子、武正総一郎、奥村元美及び西田辰三の各氏名を記載したのは、前認定のとおり被告小林の了解を得た被告的場であり(吉村弘一の氏名を被告的場が記載したことを認めるに足る証拠はない。却って、弁論の全趣旨によれば、被告出浦が吉村弘一本人に署名してもらっていることが認められる。)、被告的場及び同小林の右行為によって管理規約に違反した招集が被告出浦によってなされたことは前認定のとおりである。しかしながら、①右招集の当時組合員の間には早急に臨時総会を開いて理事等の役員を選出すべしとの声が高まっていたこと、②しかし、当時管理組合には理事長はもちろん理事も監事も存在せず、管理規約に従った臨時総会を招集することは不可能であったこと、③そのような中で被告出浦が臨時総会を招集したものであること、④結果的には被告出浦の招集した臨時総会は定足数を充たさずに不成立に終っており、なんらの決議もなされていないこと、⑤原告自身も(被告出浦も同様であるが)、本来管理規約上招集行為ができないのに、招集行為を行っていること(規約三九条二項、四一条によれば、臨時総会の招集権者はあくまでも理事長であると解せられ、他の組合員は単に招集要求権を有しているにすぎないものと解せられる。)、⑥その他、被告出浦の臨時総会招集に至る経過、等に鑑みると、被告的場及び同小林の右行為は、少なくとも原告に対する関係においては未だ違法とはいえないというべきである。
なお、被告的場及び同小林の右行為について被告フジタ、同丸山、同武田及び同山川、被告靖和、同協住並びに被告出浦が意思を相通じていたことを認めるに足る証拠はない。
(3) 更に、原告は、右臨時総会招集当時被告出浦は五〇五号室の区分所有権を失っていた旨主張するが、前認定のとおり、被告出浦は、右招集行為に先立ち、被告靖和との売買契約を解除し、志木開発もこれを了承して、五〇五号室の区分所有権を回復していたものと認められるのであるから、原告の主張はその前提を欠くものである。
仮に、右臨時総会招集の当時被告出浦が五〇五号室の区分所有権を失っていたとしても、右(2)に述べた①ないし⑥の事情に照らすと、被告出浦の招集行為は、少なくとも原告に対する関係においては未だ違法とはいえないというべきである。
4 買占め資金の融資について
(一) 原告は前掲(「原告の主張」1(四))のとおり、「被告協住は関連三社が本件マンションの居室を購入するにあたり、被告フジタにその購入資金を融資し、また、関連三社が取得した右居室につきその登記名義を貸与して、前記の、被告小林の管理費等の支払拒否行為、関連三社の管理費等の支払拒否行為等、管理組合等の運営に対する不信感等の醸成行為、臨時総会の違法な招集行為を各幇助した。」旨主張する。
(二) たしかに、被告協住が関連三社の本件マンション居室の購入にあたりその購入資金を被告フジタに融資したこと、その融資金が購入のために使用されたことは前認定のとおりであり、一方、被告小林が管理費等の支払いを拒否したこと、被告フジタの指示により関連三社が管理費等の支払いを拒否し供託したこと、被告武田が被告フジタの指示により「管理組合の異常事態について」と題する書面等を作成して配付したこと、被告的場が被告小林と相談の上臨時総会の開催を要求する旨の文書に区分所有者でない被告山川、同武田及び丸山の各氏名を記載し、また、被告小林の了解を得て区分所有者でない西田米子、武正総一郎、奥村元美及び西田辰三の各氏名を記載し、これらによって、管理規約に違反する招集が被告出浦によってなされたことは前認定のとおりである。
しかしながら、被告協住の被告フジタに対する融資行為と右各行為との間に自然的因果関係または法的因果関係を認めることは困難であり、また、そもそも、前説示のとおり右各行為は不法行為を構成しないものであるから、被告協住の被告フジタに対する融資行為も不法行為を構成しないというべきである。
なお、原告は、被告協住が関連三社に登記名義を貸与した旨主張するが、被告協住は、前認定のとおり、譲渡担保として関連三社が購入した居室の所有権を取得したものであり、関連三社に登記名義を貸与したものではないから、原告の右主張は採用できない。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官原田敏章 裁判官姉川博之 裁判官梶智紀)