東京地方裁判所 昭和61年(ワ)3830号 判決 1992年4月22日
《目次》
主文
事実
第一当事者の求めた裁判
一請求の趣旨
二請求の趣旨に対する答弁
第二当事者の主張
一請求原因
1 当事者
2 豊田商法
(一) 豊田商法の内容
(二) 豊田商法の欺まん性
(三) 豊田商法の展開と終えん
3 個人被告らの責任
(一) 豊田商法の顧客勧誘方法の違法性
(二) 個人被告らの不法行為
4 被告国の責任(甲事件のみ)
(一) 公正取引委員会の不作為の違法
(二) 通商産業省の不作為の違法
(三) 結論
5 原告らの損害
6 結論
二請求原因に対する個人被告らの認否及び主張
1 被告平嶋栄子、同長濵貞江、同柿沼光子こと鈴木光子及び同小林孝司
2 被告菊地準、同堀内敬至、同橋口宗弘、同吉川裕康、同江川捷夫、同鈴木良一、同赤江利子、同車田紀子及び同小栗重次
3 被告岡畑浩及び同横関幸子
4 被告長谷川健
5 被告三宅勝
6 被告大井絢子、同野原博子及び同野本好勝
7 被告井上鉄郎
8 被告三日市忠夫、同泉明子、同渡邉宏及び同千葉健一
三請求原因に対する被告国の認否及び主張
1 請求原因に対する認否
2 主張
(一) 豊田商事の事業者性
(二) 反射的利益論
(三) 公正取引委員会の作為義務
(四) 通産省の作為義務
第三不出頭被告
第四証拠<省略>
理由
第一はじめに
一争いのない当事者
二争いのある当事者
三書証の成立
第二豊田商法について
一豊田商事の組織
二豊田商法の内容
1 豊田商法の実態
(一) 純金の販売
(二) 純金ファミリー契約の締結
2 豊田商法の法的性質
三豊田商法の欺まん性
1 純金の価格上昇、無税及び即時換金性に関する表示について
2 純金ファミリー契約の安全確実性に関する表示について
(一) 純金の実在性
(二) 契約期間満了時の純金引渡しの可能性
(三) 純金ファミリー契約の安全確実性に関する表示の欺まん性
3 結論
四豊田商法が社会問題化した経緯
第三個人被告らの責任について
一勧誘行為における違法性
1 豊田商法におけるセールス方法
2 豊田商事従業員の高額な歩合給
3 豊田商事のセールス方法の違法性
二個人被告らの不法行為責任
1 個人被告らの違法行為
2 個人被告らの故意・過失
3 個人被告らの責任
第四被告国の責任について
一公正取引委員会の責任
1 公正取引委員会の権限
(一) 不公正な取引方法及び不当表示の規制
(二) 不公正な取引方法及び不当表示の規制に関する公正取引委員会の権限
(三) 公正取引委員会の権限の性格
2 豊田商事の事業者性
3 反射的利益論の適用の可否
4 公正取引委員会の作為義務
(一) 行政庁の権限不行使の違法性の判断基準
(二) 公正取引委員会の権限不行使の違法性
(三) 違法性判断の前提事実
(四) 本件における公正取引委員会の作為義務
5 結論
二通産省の責任
1 行政機関相互間の通報・協力義務
2 通産省の作為義務
第五原告らの損害について
第六結論
当事者目録
(別紙)書証の成立について<省略>
別表
当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり
主文
一 別紙三の一ないし三「原告」欄記載の各原告に対し、当該原告に対応する同表「被告」欄記載の各被告は、同被告に対応する同表「認容額」欄記載の金員及びこれに対する昭和六〇年七月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を、同被告に対応する同表「共同不法行為被告」欄記載の被告と同表「連帯責任額」欄記載の金員及びこれに対する昭和六〇年七月一日から支払済みまで年五分の割合による金員の限度で連帯して支払え。
二 原告福田伝次郎の被告大井絢子及び同三日市忠夫に対するその余の請求、原告遠藤マツノの被告大井絢子に対するその余の請求、原告荻上銀次の被告堀内敬至に対するその余の請求、原告奥知章の被告堀内敬至及び同橋口宗弘に対するその余の請求、原告石川君子の被告平嶋栄子及び同橋本孝二に対するその余の請求、原告坂井武の被告菊地準及び同柿沼光子こと鈴木光子に対するその余の請求、原告堤信子の被告熊谷裕次に対するその余の請求、原告佐々木正利の被告小林孝司に対するその余の請求、原告窪田すみえの被告長谷川健、同赤江利子及び同車田紀子に対するその余の請求、原告遠藤育子の被告菊田光利、同泉明子及び同大井絢子に対するその余の請求、原告新井マス子の被告堀江敬至及び同横関幸子に対するその余の請求並びに原告関根敬子の被告野本好勝に対するその余の請求をいずれも棄却する。
三 甲事件原告らの被告国に対する請求、原告亡中村満雄訴訟承継人中村雄三の被告小林孝司に対する請求、原告新井マス子の被告渡邉宏に対する請求及び原告下田美知の被告千葉健一に対する請求をいずれも棄却する
四 訴訟費用は、別表四の一ないし三「原告」欄記載の各原告と当該原告に対応する同表「被告」欄記載の各被告との間において、同表「訴訟費用の負担」欄記載のとおりの負担とする。
五 この判決は、原告ら勝訴部分に限り、仮に執行することができる。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 別表一の一ないし一六「原告」欄記載の各原告に対し、当該原告に対応する同表「被告」欄記載の各被告及び被告国(甲事件原告らのみ)は、各自、同原告に対応する同表「請求額」欄記載の金員及びこれに対する昭和六〇年七月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 被告菊田光利、同上野健三、同橋本孝二、同及川次男、同三原宏治、同泉明子、同熊谷裕次、同斉藤秀信及び同武藤正三を除く被告ら
(一) 原告らの請求をいずれも棄却する。
(二) 訴訟費用は原告らの負担とする。
(三) 担保を条件とする仮執行免脱宣言(被告国のみ)
2 被告泉明子
原告遠藤マツノ及び同遠藤育子の請求をいずれも棄却する。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 当事者
原告らは、後記豊田商法の被害者であり、被告国を除く被告ら(以下「個人被告ら」という。)は、訴外破産者豊田商事株式会社(以下「豊田商事」という。)の元従業員である。
2 豊田商法
(一) 豊田商法の内容
豊田商事は、昭和五六年四月ころから、訪問販売により直接顧客に金(純度99.99パーセントの金、以下「純金」という。)又は白金(白金に関する商法も、契約の目的が純金から白金に代わる以外は純金に関する商法と同一であるので、以下純金に関する商法のみを記載する。)を売却し、同時に純金ファミリー契約を締結する商法(以下「豊田商法」という。)を遂行した。
豊田商法の内容は、豊田商事の社員が購入の見込みのある顧客に対し、
(1) 純金がインフレに強く、確実に年二割若しくは少なくとも物価上昇率以上の割合で価格が上昇していること
(2) 金地金の売買、相続又はその賃貸等には税金がかからないこと
(3) 金地金は安全な投資物件であり、いつでも換金できるから現金と同じであること
などを申し向けて、純金の現物を購入させ、同時に、
(4) 購入した純金を豊田商事が預かって有利に運用すること
(5) 購入額に応じて一年契約の場合は年一割の割合による金員を、五年契約の場合は年一割五分の割合による金員を年一回、それぞれ賃貸借料名下に支払うこと、右金員の一年契約の場合の支払期日及び五年契約の場合の第一回目の支払期日は純金の売買契約成立時とし、これを売買代金の一部に充てること、満期になれば、純金の現物を返還することなどを内容とする純金ファミリー契約を締結することにより、盗難の危険もなく、なお安全性が増し、また税金もかからず郵便貯金等より有利になること
などを申し向けて、顧客に豊田商事との間で同契約を締結させて、純金ファミリー契約証券を交付するというものであった。
(二) 豊田商法の欺まん性
豊田商法は、次のとおり、違法な欺まん的、詐欺的取引であり、同時に私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独禁法」という。)二条九項、一九条、昭和五七年六月一八日公正取引委員会告示第一五号不公正な取引方法(以下「一般指定」という。)の8、9及び不当景品類及び不当表示防止法(以下「景表法」という。)四条二号に該当する行為でもあった。すなわち、独禁法一九条は、事業者は不公正な取引方法を用いてはならない旨規定し、同条が適用される不公正な取引方法については同法二条においてこれを定めているが、同条九項を受けた一般指定の8は、自己の供給する商品又は役務の内容又は取引条件その他これらの取引に関する事項について、実際のもの又は競争者に係るものよりも著しく優良又は有利であると顧客に誤認させることにより、競争者の顧客を自己と取引するように不当に誘引することを、同9は、正常な商慣習に照らして不当な利益をもって、競争者の顧客を自己と取引するように誘引することをそれぞれ右不公正な取引方法に該当する行為類型として規定している。また、景表法四条は、自己の供給する商品又は役務の取引について、同条一号ないし三号に掲げる表示をしてはならないと規定し、同条二号において、商品又は役務の価格その他の取引条件について、実際のもの又は当該事業者と競争関係にある他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認されるため、不当に顧客を誘引し、公正な競争を阻害するおそれがあると認められる表示を掲げている。豊田商法はこれらの規定に該当する行為であった。すなわち、
(1) 豊田商法の(一)の(1)記載の内容については、金は国際的スケールでの相場商品であり、国際政治経済の動きや需給関係に大きく左右され、その価格変動を的確に予見することは極めて困難な商品であるから、純金がインフレに強く、確実に年二割若しくは少なくとも物価上昇率以上の割合で価格が上昇するとの表示は、顧客の誤解を招くものであり、違法な欺まん的、詐欺的表示であると同時に一般指定の8及び景表法四条二号に該当するものであった。
(2) 同商法の(一)の(2)記載の内容については、金地金は物品税の課税対象外ではあるが、所得税、相続税の課税対象にはなっているから、金地金の売買、相続等に税金がかからないという表示は、虚偽であり、違法な欺まん的、詐欺的表示であると同時に一般指定の8及び景表法四条二号に該当するものであった。
(3) 同商法の(一)の(3)記載の内容については、純金ファミリー契約においては、純金をいつでも換金できることは表示されていたものの、契約上原則として中途解約はできないこととされ、やむを得ない事情があるときには解約には応ずるが、その場合には既に受け取った賃貸借料を返還し、かつ、契約金額の三〇パーセント以上を違約金等の名目で徴収することとされていたし、豊田商事は、事実上、右解約にはほとんど応ぜず、また満期における純金の返還にも容易には応ぜず、強硬に契約の更新を迫り、多数のトラブルが生じていたが、このことは契約締結に際しては表示されていないから、違法な欺まん的、詐欺的表示であると同時に一般指定の8及び景表法四条二号に該当するものであった。
(4) 同商法の(一)の(4)記載の内容については、金相場が必ず上昇するということはあり得ないため、純金そのものを有利に運用する方法はそもそも存在せず、年一割ないし一割五分の賃貸借料を交付するためには純金を売却し若しくは担保に供した上これを現金化して運用するか、又はそもそも当初から純金の現物を保有せず、顧客から受け取った現金を直接運用するかのいずれかの方法をとるしかないことになるが、このように純金を処分するなどして現金化し、又は当初から現物の裏付けを持たないのであれば、金地金が安全な投資対象であるとする表示は、著しく誤認を招く表示であり、違法な欺まん的、詐欺的表示であると同時に一般指定の8及び景表法四条二号に該当するものであった。
(5) 同商法の(一)の(5)記載については、賃貸借料名下に利子すなわち運用益の前払いがされ、かつ、利率が年一割ないし一割五分ということは、郵便局、銀行、証券会社等が扱っている各種金融商品より著しく有利であり、正常な商慣習に照らして、不当な利益であって、一般指定の9に該当するものであった。
(三) 豊田商法の展開と終えん
豊田商事は、昭和五六年四月ころから豊田商法を実施し、短期間に全国に支店網を設け、最盛期には約七五〇〇人の従業員を使用して全国的に同商法を展開し、顧客から集めた金銭は、総額で約二〇〇〇億円に達したが、同商法の顧客となった者の六割は六〇歳以上の老人であった。しかし、昭和六〇年六月一七日豊田商事会長永野一男(以下「永野」という。)が殺害されて事実上営業を停止し、同年七月一日破産宣告を受けるに至った。
3 個人被告らの責任
(一) 豊田商法の顧客勧誘方法の違法性
豊田商法は、違法な欺まん的、詐欺的商法であったのみならず、個人被告らがこれを展開する過程で行った契約締結に至る顧客勧誘方法も、次のとおり、極めて巧妙かつ強引なセールスを会社ぐるみで組織的に、かつ、社会的弱者に対して集中的に行う違法なものであった。
(1) 巧妙さ
個人被告らは、顧客を勧誘するに際し、純金のイメージを最大限に利用してその確実性、安全性を説くとともに、顧客が純金の現物を取得していると錯覚させ、純金は絶対に損をしないと信じさせた。
(2) セールス方法の組織性
個人被告らのセールス方法は、まず、テレファンレディーと呼ばれる女子従業員が、無差別に電話をかけて顧客の資産状態などを聞き出し、そのデータに基づき、外交員が顧客の家に直行し、「トイレを貸してくれ」、「車の中にキーを忘れてドアをロックしたので、電話を貸してほしい」、「会社に電話をしたいので、電話を貸して欲しい」などと虚言や口実を述べて顧客宅へ上がりこみ、数時間から一〇時間以上にわたり執ようかつ強引にセールスを行い、この間、見せ掛けの親切行為をして人情に訴えるなどして強引に契約を締結させ、場合によっては豪華設備を殊更に施した豊田商事営業所の応接室に同行し、同所から出られないように多数の社員で説き伏せるなどして契約を締結させ、さらには顧客の預金通帳及び印鑑を預かり、これを解約することにより現金を調達することなどを内容とするものであっで、これらの方法は、会社ぐるみでマニュアルに従って統一的に実施された。
(3) ノルマと高額な歩合給
個人被告らのうち、外交員には一般の水準を上回る固定給に加え、販売額の一二パーセント以上の歩合給が支給され、成績上位者には賞金が与えられたし、営業内勤とよばれる管理職は、月間ノルマを達成すると歩合給である管理職手当と同額の賞与が与えられたため、外交員に毎日ノルマを課して締付けを図り、外交員も、高額の歩合給を得るためになりふりかまわず違法商法を実践した。
(4) 社会的相当性を逸脱したセールス方法
個人被告らは、独り住まい又は老夫婦のみの世帯の居宅に上がり込み、老齢のため体力、気力が衰え、判断力が低下しているのに乗じ、長時間にわたり強引、執ようで、かつ、甘言虚言をまじえた巧妙なセールストークを用いて契約を迫り、原告らが預貯金、証券等を所有していることを知るやこれを取り上げて契約締結に応ぜざるを得なくし、なおも不安を抱く原告らに対しては一流ビル内にある豊田商事の支店・営業所に同行させ、一見豪華な調度で飾った応接室に案内し、純金の実物を示したり、大勢の電話係のいる部屋を見せるなどして、原告らに豊田商事が一流企業であると誤信させ、役職を有するベテラン社員がかわるがわる一層巧妙かつ執ような勧誘を行って契約させた。また、契約の対象となった主婦、老人に対し、翻意させないために、他の家族に話さないように口止めしたり、預貯金の払い戻しに同行したり、息子等になりすまして手続を代行するなど、およそ社会的相当性を逸脱した形でのセールスを行った。
(二) 個人被告らの不法行為
別表一の一ないし一六「原告」欄記載の各原告に対応する同表「被告」欄記載の個人被告らは、豊田商事の従業員として、豊田商法が前記のとおり不公正な取引方法で、欺まん的、詐欺的な商法であり、契約締結に至る勧誘方法も違法であることを認識し又は認識し得べきであったにもかかわらず、各被告に対応する同表「原告」欄記載の各原告に対し、同表「被告の関与の有無・態様」欄記載の関与態様をもって、豊田商事並びに各取引に関与した当該原告に対応する同表「被告」欄記載の他の被告ら及び同表「関与従業員」欄記載の豊田商事元従業員らと共同して同商法を遂行し、右原告らとの間で、同表「取引年月日」欄記載の日に、同表「取引量」欄記載の量の純金の現物の売買契約を締結し、右売買代金名下に同表「支払金額」欄記載の額の金員の交付を受けた。なお、同表「被告」欄に記載のない各原告は、被告国に対してのみ本訴請求をしている者である。
個人被告らの関与態様と責任の証拠は、次のとおりである。
まず、同表「被告の関与の有無・態様」欄に○と記載された個人被告は、対応する同表「原告」欄記載の各原告に対し、豊田商事並びに各取引に関与した当該原告に対応する同表「被告」欄記載の他の被告ら及び同表「関与従業員」欄記載の豊田商事元従業員らと共同して、右関与の有無・態様の記載欄に対応する同表「取引年月日」、「取引量」、「支払金額」欄各記載のとおり、2の(一)及び3の(一)記載の違法な内容の豊田商法を直接実施したものであるから、当該行為による当該原告の被害について豊田商事並びに右被告ら及び元従業員らと共同不法行為責任を負う。
同表「被告らの関与の有無・態様」欄に①と記載された個人被告は、対応する同表「原告」欄記載の各原告が豊田商法によって豊田商事と最初に契約を締結するまでの直接の担当者及び共同行為者であり、豊田商事並びに各取引に関与した右原告に対応する同表「被告」欄記載の他の被告ら及び同表「関与従業員」欄記載の豊田商事元従業員らと共同して右関与の有無・態様の記載欄に対応する同表「取引年月日」、「取引量」、「支払金額」欄各記載のとおり、2の(一)及び3の(一)記載の違法な内容の豊田商法を実施したものであるから、その後の豊田商事及びその従業員による豊田商法の実施に関与したか否かを問わず、会社ぐるみの共同不法行為の第一原因者として、自ら行った行為及び当該原告のその後の豊田商法による被害について豊田商事並びに右被告ら及び元従業員らと共同不法行為責任を負う。
次に、同表「被告の関与の有無・態様」欄に②と記載された個人被告は、対応する同表「原告」欄記載の各原告が豊田商法によって豊田商事との最初の契約を締結した後に当該原告に対する豊田商法の実施に関与し、豊田商事並びに各取引に関与した当該原告に対応する同表「被告」欄記載の他の被告ら及び同表「関与従業員」欄記載の豊田商事元従業員らと共同して右関与の有無・態様の記載欄に対応する同表「取引年月日」、「取引量」、「支払金額」欄各記載のとおり、2の(一)及び3の(一)記載の内容の違法な豊田商法を実施した者であり、豊田商事の一員であることから会社ぐるみの犯行の責任をすべて負うのみならず、①の行為者の不法行為を積極的に利用承継したことによって①の行為者との間でも共同不法行為を構成することになるから、自ら行った行為及びその関与前の当該原告の豊田商法による被害についても豊田商事並びに右被告ら及び元従業員らと共同不法行為責任を負う。
さらに、同表「被告の関与の有無・態様」欄に④と記載された個人被告は、○、①及び②の各行為者の上司であって、対応する同表「原告」欄記載の各原告に対して直接豊田商法を実施しない場合であっても、現実の行為者に豊田商法の実施を指示、命令した者として、豊田商事並びに各取引に関与した右原告に対応する同表「被告」欄記載の他の被告ら及び同表「関与従業員」欄記載の豊田商事元従業員らと共同して右関与の有無・態様の記載欄に対応する同表「取引年月日」、「取引量」、「支払金額」欄各記載のとおり、2の(一)及び3の(一)記載の内容の違法な豊田商法を実施したものであるから、豊田商事並びに右被告ら及び元従業員らと共同不法行為の責任を負う。
4 被告国の責任(甲事件のみ)
(一) 公正取引委員会の不作為の違法
(1) 公正取引委員会の権限
公正取引委員会は、不公正な取引方法を用いる業者があるときは、事件関係人の出頭を命じて審訊し又は報告を求めること、鑑定人に出頭を命じて鑑定をさせること、帳簿書類その他の物件の所持者に対し右物件の提出を命ずること、営業所その他必要な場所に立ち入り、業務及び財産の状況、帳簿書類その他の物件を検査することの各権限を有し(独禁法四六条、景表法七条一項)、また、当該行為を差し止め、その他当該行為を排除するために必要な措置を命じ(独禁法二〇条、景表法六条)、さらには裁判所に緊急停止命令の申立てをすることができる(独禁法六七条一項)。
右排除措置命令又は緊急停止命令申立て権限を発動するか否かは、公正取引委員会の裁量によるが、右裁量権の行使は合理的なものであることを要し、独禁法及び景表法の性格、立法趣旨、従前の運用基準、当該行為の相手方の数・反復継続性・伝播性その他当該事件の性格、他の規制方法の有無等を基礎として、権限の発動が必要かつ適当であると認められる場合に、合理的理由なく右権限を発動しないときは、右不作為は違法となるというべきである。
(2) 公正取引委員会の不作為の違法性及び過失
ア 不公正な取引方法の要件該当性
豊田商法は、前記のとおり、独禁法二条九項、一九条、一般指定の8、9及び景表法四条二号に該当する欺まん的表示を使用して顧客に誤認を生ぜしめる不公正な取引方法であったが、さらに、殊更金取引に不慣れな老人や婦人を対象とし、これらの者に対し、契約を成立させるために長時間説得し、セールスマンを交代させたり複数のセールスマンで説得したり、家事の手伝いや添い寝をするなどの不当な圧迫を加えていたから、一般指定の14にいう優越的地位の濫用にも該当する。
なお、独禁法又は景表法の目的は、不公正な取引方法を禁止、制限し、公正な競争秩序を維持することにより、他の業者及び消費者の利益を確保することにあるから、詐欺的商法のみを行う業者であっても不公正な取引行為を行う者は、法適用の主体である事業者に該当する。また、独禁法又は景表法は、消費者の保護を目的とするから、不当表示により消費者の利益が害されている事実があり、その不当表示に対する直接の規制立法がない場合には、これらの法律が適用されるというべきである。仮に、その適用のためには公正競争阻害性が必要であるとしても、不当表示があれば、特段の事情がない限り、公正な競争が阻害されたといえるし、豊田商法により全国の金地金販売業者、金を販売している銀行、証券会社、デパート等との公正競争が阻害されたことは明らかであり、郵便局、銀行等の金融機関も不当に預貯金を解約されたことによって、競争を阻害されたといえるから、公正競争阻害性に欠けるところもない。
イ 公正取引委員会の権限行使の不可欠性
豊田商法に対する私法的救済は、これを求める者だけに対する個別的救済に止まり、詐欺・強迫の周辺的行為とされる欺まん的行為、不当威圧行為については直接の救済規定がなく、右商法が破綻した場合には事実上被害の回復は困難となることが予想された。また、同商法のような詐欺的経済取引事犯に関しては、詐欺の認定が困難であり、かつ、被害拡大後は強制捜査に着手すれば直ちに業者の倒産に結びつくおそれがあるので、警察当局は捜査に慎重となる傾向が強かった。さらに、企業から提供される情報と消費者が求める情報との不一致により、一般消費者は知り得る情報も限定され、仮に情報を得たとしてもその正誤を判断するに足りる知識も経験も有していないから、企業からの客観性、信憑性のある情報が与えられない状態を放棄することは、重大な社会的危機につながるおそれがあった。以上のことからすれば、豊田商法による被害の発生を防止するためには、公正取引委員会の権限行使が不可欠であった。
ウ 公正取引委員会の権限行使の可能性
公正取引委員会は、消費者保護会議(消費者保護基本法一八条に基づいて設置された内閣総理大臣を会長とする消費者行政の企画、実施に関する政府の最高意思決定機関)の構成員であり、金の現物まがい取引に関する消費者被害を防止するための取締り強化などを決定した第一五回消費者保護会議が開催された昭和五七年一一月一二日の時点で、豊田商法の存在及び内容並びに同商法を取締り消費者の保護を図ることが政府の緊急の政策として求められていることを認識し又は認識し得て、同年一一月中には排除措置命令又は緊急停止命令の申立てをすることが可能であった。仮に、そうでないとしても、悪徳商法被害者対策委員会会長の堺次夫(以下「堺」という。)が同委員会事務局を訪れ、独禁法四五条の事実の報告として豊田商法の内容とその被害の実情を述べるとともに、同法等の適用による被害の発生防止を求めた昭和五八年九月三〇日の時点又は衆議院商工委員会において豊田商法についての討議がされた同年一〇月四日の時点で、これらの点を認識し又は認識し得たというべきである。
エ 公正取引委員会の権限行使による被害発生防止の可能性
公正取引委員会が前記の権限を行使し、排除措置命令が出されれば、過去の例からしても業者はそれに従って業務を停止したと考えられ、また、不公正な取引方法であることが認定されれば、業者は無過失でも損害賠償義務を負うこととなるし(独禁法二五条)、さらに、立入調査等の結果を警察又は検察に報告することにより、これら捜査機関による強制捜査が行われ、あるいはマスコミの報道等を通じて、豊田商法による被害の拡大を防止することが可能であった。
(3) 以上の点からすれば、本件においては、豊田商法によって、公正で自由な取引秩序が害され、国民の財産に対する不法な侵害が全国的規模により継続されている状況にあり、公正取引委員会が前記権限を行使しなければ右侵害を防止することができず、他方、これを発動すれば容易にその侵害を防止することができ、右権限の行使が客観的に期待される状況にあったのであるから、公正取引委員会が前記時点で排除措置命令又は緊急停止命令申立ての権限を発動しなかった不作為は違法であり、かつ、この点について過失があった。
なお、不特定多数の消費者の利益が害されている場合に公正取引委員会が権限を行使することは個々の消費者の被害を防止することになり、このことは独禁法の目的に沿うゆえんであるし、同法の適用による自由かつ公正な事業者間の競争の確保により得られる個々の消費者の利益、すなわち自己の望む商品をそれにふさわしい条件で購入する個々の消費者の利益及びこれを実現するための正しい商品知識を与えられる利益は、同法が保護している利益ないしは法的保護に値する利益であるから、これら個々の消費者の利益が反射的利益にすぎないとはいえない。
(二) 通商産業省の不作為の違法
(1) 豊田商法の存在及び内容の認識
昭和四六年、アメリカ合衆国が金とドルとの交換を停止し、我が国においても昭和四八年に金の輸入が、昭和五三年に金の輸出がそれぞれ自由化されるに及び、インフレ・ヘッジないし利殖を目的として金が認識されはじめ、昭和五一年ころから金の私設市場が乱立し、社会的トラブルが頻発するようになった。これに対しては、警察当局が商品取引所法八条の先物取引をする商品市場に類似する施設として取り締まる方針を打ち出したが、昭和五五年、政府は同法に基づく政令指定商品ではない金については同法八条の適用はないとの公式見解を出した。その後、昭和五六年九月、通商産業省(以下「通産省」という。)は、金私設市場における被害の発生を防止することを直接の動機として金を同法二条に基づき政令指定商品とした。
豊田商事は、右金の政令指定に先立つ昭和五六年四月ころから豊田商法を全国的規模で実施したが、これが出現したころから、通産省産業政策局消費経済課又は各地の通産局消費者センターに金の現物まがい取引に関する被害報告が多数寄せられた。この苦情数は、同省に寄せられた苦情の中で、昭和五六年度では繊維製品に次いで二番目に、昭和五七年度では最も多かった。また、同省作成の昭和五六年度消費者相談報告書には、金の現物売買と称しながら、現物は取引業者が賃借する形をとり、一般投資家から購入代金を支払わせる豊田商法が紹介された上、この取引は、契約内容があいまいで、かつ、難解に作られており、一般投資家は契約の内容を理解できないまま不当な損失を被っているケースが多いと記載されており、同省では、右報告書作成時点で豊田商法の存在及び内容を認識していた。
(2) 豊田商法による競争秩序侵害の認識
通産省は、豊田商法による一般投資家の被害を防止するために、昭和五六年から同省の公報誌「かしこい消費生活のしおり」や一般新聞等で、金を買う場合は信用のおける業者から買うように国民に呼び掛け、また、金の私設市場対策として同省の行政指導により昭和五四年に設立された業者の自主団体である社団法人日本金地金流通協会(以下「流通協会」という。)に対し、登録店制度を広く知らしめるように指導したが、右事実によれば、同省において、豊田商法が金小売業界全体の競争秩序を侵害するものであることを認識していたことが明らかである。
(3) 豊田商法の欺まん性についての認識
通産省が昭和五八年五月に発行した「通産省の消費者行政」誌には、豊田商事の行っている「純金○○契約」は、幻の商法という新手の取引であり、利益の先渡しといって買付代金の一〇パーセントを手渡し、純金の現物は一年間運用預りとする方法で一年後には、純金の現物か時価に見合う現金を返還するというものであるが、大量の純金の現物の裏付けがあるとは考えられず、純金という相場商品を運用して利益を挙げ、確実に顧客に一割の配当を行い得る営業があるとも考えられないし、多くの顧客が一度に解約を申し出た場合には最終的には倒産に追い込まれて顧客の投下資本は返還されない可能性が強いことから、極めて不明朗な取引といわざるを得ない旨の記載があり、これによれば、通産省では、右発行以前である昭和五七年八月までには、豊田商法が常識的には成り立たない商法であることを認識していたというべきである。
仮に右時点までに右の点の認識があったとはいえないとしても、昭和五八年一〇月四日の衆議院商工委員会において豊田商法の問題が集中的に論議され、その席上、全国的に展開されている同商法は六〇歳ないし八〇歳という老人を集中的にねらい、一人暮しや病床にある者、精神分裂症、老人性痴呆症の老女までも対象としているなどの異常な実態が明らかにされた上、前述のような問題性と右商法に対する対策の必要性が指摘されたのに対し、通商産業大臣官房参事官は、関係各省と連絡をより一層密にして行く旨答弁しているのであるから、通産省としては、同日までに、豊田商法が常識的には成り立たない商法であることを認識していたというべきである。
(4) 通産省の不作為の違法性及び過失
通産省は、このように、昭和五七年八月又は遅くとも昭和五八年一〇月までの時点で、豊田商法による一般投資家の被害が拡大しつつあり、かつ、将来深刻な事態が発生することを予見していたといえるから、右時点で、単に前記のようなPRをするに止まらず、行政の一体性の原則から、立入検査権等の強制権限を有する公正取引委員会に情報を提供してその職権の発動を促し、物的・人的に同委員会の権限発動に協力し、被害の拡大を防止すべき職務上の作為義務があり、かつ、同委員会がその権限を行使することによって、豊田商法による被害の発生を極めて容易に防止することが可能であったにもかかわらず、右義務を怠り、その結果、原告らに後記損害を発生させたものであるから、通産省の右不作為は違法であり、かつ、この点について過失があった。
(三) したがって、被告国は、公正取引委員会及び通産省の右違法な不作為により、豊田商事及びその従業員と共同して原告らに後記損害を与えたものであるから、国家賠償法一条一項、民法七一九条に基づき、原告らに対し、個人被告らと共同不法行為責任を負う。
5 原告らの損害
原告らは、別表一の一ないし一六「原告」欄記載の各原告に対応する同表「被告」欄記載の各被告及び同表「関与従業員」欄記載の豊田商事元従業員が豊田商法を行ったことにより、各原告に対応する同表「取引年月日」欄記載の日に、当該取引年月日に対応する同表「取引量」欄記載の量の純金(取引量の下に白金と括弧書きしたものについては白金)を購入し、純金ファミリー契約を締結したことにより、対応する同表「支払金額」欄記載の金員を右被告ないし元従業員に支払い、同表「総支払金額」欄記載の金額の損害を被った。なお、同表「受領金額」欄記載の金額は、個々の損害に対する填補の趣旨ではなく、同表「総支払金額」欄記載の金額から右金額を控除して同表「請求額」欄記載の各請求額を特定する趣旨において主張する。
6 よって、原告らは、個人被告らに対しては民法七〇九条、七一九条に基づき、被告国に対しては国家賠償法一条一項、民法七一九条に基づき、別表一の一ないし一六「原告」欄記載の各原告に対応する同表「被告」欄記載の各被告及び被告国に対し、連帯して、同表「総支払金額」欄記載の金額から同表「受領金額」欄記載の金額を控除した同表「請求額」欄記載の各金員及びこれに対する不法行為の後である昭和六〇年七月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する個人被告らの認否及び主張
1 被告平嶋栄子、同長濵貞江、同柿沼光子こと鈴木光子及び同小林孝司
(一) 請求原因に対する認否
請求原因1の事実のうち、原告らが豊田商法の被害者であることは知らないが、その余は認める。
同2の(一)の事実のうち、豊田商事の社員が顧客に対し、「純金はインフレに強い」、「金地金に税金がかからない」、「安全、いつでも換金」及び(4)、(5)の各内容の申し向けをしたことは認め、その余は否認する。
同2の(二)の事実は、否認ないし争う。
同2の(三)の事実のうち、永野が殺害され、豊田商事が破産宣告を受けたことは認め、その余は知らない。
同3の(一)の事実のうち、テレフォンレディーによる無差別の勧誘の点は知らず、その余は否認する。
同3の(二)の事実のうち、被告長濵が原告菊地の契約に、被告鈴木が原告坂井の契約にそれぞれ関与したことは認めるが、その余は否認する。
同5の事実は否認する。
(二) 主張
被告らの勤務する営業所においては、顧客との純金の売買契約に従って純金の交付が行われ、純金ファミリー契約に基づいて賃貸借期間の到来した者に対しては約定に従って純金が確実に返還されていたし、賃貸借期間中の顧客に対しては約定に従って賃借料と称される金員が支払われていたから、欺まん的、詐欺的商法ではない。
仮に、豊田商事の経営者が欺まん的、詐欺的取引を企図していたとしても、被告らはこれを知り得なかった。すなわち、営業外務員としての社内研修において、同社の営業は純金の売買が基本であり、右売買のほかに、純金の買受人から同社に対しこれを賃貸する(純金ファミリー契約)という二本建ての営業であること、純金の三大利点、純金の賃貸の有利性、訪問先におけるセールストーク等を教育され、右教育内容をそのとおりだと信じさせられた上、厳しい監視体制の中で、上司の指揮命令に完全に服して営業を行っていたものであり、会社の経営内容、収支などは知らされず、豊田商事が営業実績を挙げた者を優遇し、福利厚生施設も完備し、大阪、東京に本社を置き、自社ビルを保有し、営業所は全国一〇数箇所、従業員は約七〇〇〇名の有望企業であるとの説明を信じていたのであるから、豊田商事の営業が社会的に許容された合法的なものであるとの信頼を持つのが当然であり、同社の反社会性を認識することはできなかった。
被告平嶋は、原告秋場及び同磯田に対する各二回の取引、同石川に対する昭和六〇年一月三一日付及び同年二月二八日付の各取引において事務処理を担当したことはあるが、契約の締結には関与していない。
被告長濵が関与した原告菊地との契約は、その後、同原告の申出により解約された。
被告鈴木が関与した原告坂井との契約のうち、主張の昭和五九年一一月一五日付取引の際、同被告は現物を買うことを勧めたが、同原告と同被告の上司との話合いで純金ファミリー契約が締結されたものである。同月一六日付及び昭和六〇年三月一一日付の各取引については、同被告との話合いでは不成立であったが、上司との話合いの結果、契約が成立し、同被告は単に担当者として署名捺印させられたにすぎない。また、同年四月九日付取引については、同被告が関与することなく、上司との話合いで契約が成立し、同被告は担当者として署名捺印させられたにすぎない。
被告小林は、原告佐々木の昭和六〇年四月二三日付取引の際、担当者の上司として契約内容の説明はしたが、その締結に関与したことはなく、同原告のその余の取引並びに訴訟承継前の原告亡中村満雄及び原告細谷の各取引には関与していない。
2 被告菊地準、同堀内敬至、同橋口宗弘、同吉川裕康、同江川捷夫、同鈴木良一、同赤江利子、同車田紀子及び同小栗重次
(一) 請求原因に対する認否
請求原因事実のうち、被告らが豊田商事の元従業員であることは認めるが、原告らの被害の内容及び豊田商法の成立は知らず、その余は否認する。
(二) 主張
被告らは、豊田商事の方針に従い、その一従業員として顧客のために契約を締結したものであるから、豊田商法が不公正な取引方法であることは認識し得なかった。
3 被告岡畑浩及び同横関幸子
(一) 請求原因に対する認否
請求原因1の事実は認める。
同2の(一)の事実のうち、豊田商法の一般的内容が原告ら主張のようなものであったことは認める。
同2の(二)の事実は否認する。
同2の(三)の事実のうち、永野が殺害され、豊田商事が破産宣告を受けたことは認め、その余は否認ないし知らない。
同3、5の各事実は否認する。
(二) 主張
被告らは、豊田商事の一従業員として会社又は上司の命令及び方針に従ったものにすぎず、豊田商法が不公正な取引方法であることは認識し得なかった。
4 被告長谷川健
(一) 請求原因に対する認否
請求原因事実のうち、被告長谷川が、原告窪田の契約締結につき担当者の補助をしたことは認め、その余は否認する。
(二) 主張
被告長谷川は、豊田商事が純金を売買して収益を挙げている会社であると信じ、一従業員として上司の命令や方針に従ったものであるから豊田商法が不公正な取引方法であることは認識し得なかった。
5 被告三宅勝
(一) 請求原因に対する認否
請求原因事実のうち、被告三宅が豊田商事の元従業員であり、原告緑川に対する昭和五九年一二月八日付取引に関与したことは認めるが、その余は否認する。
(二) 主張
被告三宅は、豊田商事の従業員として、上司の指示に従って業務を遂行したにすぎず、会社の資産内容、運用方法等経理内容については知らされていなかったし、原告らに損害を与える意図もなかった。豊田商事は純金の現物を扱っており、現物を希望する顧客にはこれを交付していた。
6 被告大井絢子、同野原博子及び同野本好勝
(一) 請求原因に対する認否
請求原因1の事実のうち、原告らが豊田商法の被害者であることは知らないが、その余は認める。
同2の事実は、否認ないし争う。
同3、5の各事実は否認する。
(二) 主張
被告らの勤務する営業所においては、顧客との純金の売買契約に従って純金の交付が行われ、純金ファミリー契約に基づいて賃貸借期間の到来した者に対しては約定に従って純金が確実に返還されていたし、賃貸借期間中の顧客に対しては約定に従って賃借料と称される金員が支払われていたから、欺まん的、詐欺的商法ではない。
仮に豊田商事の経営者が欺まん的、詐欺的取引を企図していたとしても、被告らはこれを知り得なかった。すなわち、営業外務員としての社内研修において、同社の営業は純金の売買が基本であり、右売買のほかに、純金の買受人から同社に対しこれを賃貸する(純金ファミリー契約)という二本建ての営業であること、純金の三大利点、純金の賃貸の有利性、訪問先におけるセールストーク等を教育され、右教育内容をそのとおりだと信じさせられた上、厳しい監視体制の中で、上司の指揮命令に完全に服して営業を行っていたものであり、会社の経理内容、収支等は知らされず、豊田商事が、営業実績を挙げた者を優遇し、福利厚生施設も完備し、大阪、東京に本社を置き、自社ビルを保有し、営業所は全国一〇数箇所、従業員は約七〇〇〇名の有望企業であるとの説明を信じていたのであるから、豊田商事の営業が社会的に許容された合法的なものであるとの信頼を持つのが当然であり、同社の反社会性を認識することはできなかった。
7 被告井上鉄郎
(一) 請求原因に対する認否
請求原因1の事実は認める。
同2の(一)の事実のうち、豊田商法の内容として、営業社員が純金ファミリー契約を締結した顧客に対し(4)及び(5)の内容の申し向けをしたことは認め、その余は否認する。
同2の(二)の事実は否認する。
同2の(三)の事実のうち、昭和六〇年六月一七日永野が殺害されたことにより、豊田商事が事実上営業を停止し、同年七月一日破産宣告を受けたことは認めるが、その余は知らない。
同3、5の各事実は否認する。
(二) 主張
豊田商法の内容については、顧客に対し、純金が年二割上昇するとは限らず、売買して年間五〇万円以上利益が出た場合には、税金を申告する義務があり、また相続した場合にも課税対象となる旨説明した。現物が欲しい顧客には現物を、純金ファミリー契約を締結したい顧客には同契約を自由に選択させており、強引に契約を締結したことはなく、換金したい顧客には換金を、継続したい顧客には右契約の更新を自由に選択させていた。上司からは、アメリカなどでは金利の自由化で年一割あるいは一割以上の金利を払っている銀行がたくさんあると言われ、日本でも証券会社が取り扱う一〇年もの国債など年一割の高金利商品もあったため、豊田商法が異常な高金利の取引であるとは認識していなかった。
8 被告三日市忠夫、同泉明子、同渡邉宏及び同千葉健一
請求原因事実はすべて否認ないし知らない。
三 請求原因に対する被告国の認否及び主張
1 請求原因に対する認否
請求原因1の事実は知らない。
同2の(一)の事実のうち、豊田商法が、概ね、純金はインフレに強い、金地金には税金がかからない、いつでも換金できるなどとして純金の購入を強く勧誘し、その売買契約を締結した後、金は地金で持っていると危険であり会社に預けた方が安心であるとして純金ファミリー契約を締結する商法であり、また、純金ファミリー契約書に豊田商事が純金の買主からこれを賃借し、金一グラムに対し証券表記の賃貸借料を支払うが、その支払時期は一年契約のものは契約成立時とすると記載されていることは認めるが、その余は知らない。
同2の(二)の事実は知らない。
同2の(三)の事実のうち、昭和六〇年六月一八日永野が殺害され、同年七月一日豊田商事が破産宣告を受けたことは認めるが、その余は知らない。
同4の(一)(1)のうち、公正取引委員会が原告ら(以下、三の項においては甲事件原告らを指す。)主張のような権限を有することは認め、その余は争う。
同4の(一)(2)ア、イの各事実は否認する。
同4の(一)(2)ウの事実のうち、公正取引委員会が消費者保護会議の構成員であり、昭和五七年一一月に開催された第一五回消費者保護会議において原告ら主張のような決定がされたこと、昭和五八年一〇月四日の衆議院商工委員会において豊田商法についての討議がされたことは認め、その余は否認する。
同4の(一)(2)エ及び同(3)の各事実は否認する。
同4の(二)(1)の事実のうち、昭和四六年にアメリカ合衆国が金とドルとの交換を停止したこと、我が国において昭和四八年に金の輸入が、昭和五三年に金の輸出がそれぞれ自由化されたこと、昭和五五年に政府が商品取引所法に基づく政令指定商品ではない金については同法八条の適用はないとの見解を出したこと、昭和五六年九月に通産省が金を同法二条に基づき政令指定商品としたこと、昭和五六年以降、通産省産業政策局消費経済課又は各地の通産局消費者センターに私設市場における先物取引について相談があったこと(但し、右の相談は昭和五六年以前からあった。)、同省作成の昭和五六年度消費者相談報告書に原告ら主張のような記載がされていたことは認め、その余は否認する。
同4の(二)(2)の事実のうち、通産省が新聞等で国民に金を取引する場合の注意を呼び掛けたことは認めるが、その余は否認する。
同4の(二)(3)の事実のうち、通産省が昭和五八年五月に発行した「通産省の消費者行政」誌に原告ら主張のような記載があったこと、昭和五八年一〇月四日の衆議院商工委員会において豊田商事についての討議がされ、原告ら主張のような質疑応答がされたことは認めるが、その余は否認する。
同5の事実は知らない。
2 主張
(一) 豊田商事の事業者性
独禁法の基本理念は、私的独占、不当な取引制限及び不公正な取引方法を禁止し、右規制によって結合、協定等の方法による生産、販売、価格、技術等の不当な制限その他一切の事業活動の不当な拘束を排除し、これによって同法の直接の実現目的である、公正かつ自由な競争の促進を図り、さらに次の実現目的である、事業者の創意を発揮させ、事業活動を盛んにし、雇用及び国民実所得の水準を高めることを図り、もって同法の究極の目的である、一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進することを実現しようとするところにあり(同法一条)、景表法の基本理念についても同様である(同法一条)。
したがって、独禁法及び景表法の適用対象である事業者とは、公正かつ自由な競争、すなわち、企業性の承認を前提とし企業の能率、商品の価格、品質などをめぐって行われる競争が可能となるようなものでなければならず、公正かつ自由な競争の促進を図る余地のない取引的活動を行う者は事業者に当たらない。このことは、独禁法上の事業者団体成立等の届出制度(同法八条二項ないし四項)、独占的状態に対する措置制度(同法八条の四)、企業合理化のための共同行為に対する適用除外制度(同法二四条の四)などの規定からも窺われるところである。
豊田商法は、原告ら主張のとおり、あたかも正常な商取引であって、他より有利な貯蓄、投資対象であるかのごとく装い、特に高齢者や社会的弱者を相手方として純金ファミリー契約証券なる実体のない紙片を購入させ、原告ら被害者に莫大な損害を与えた会社ぐるみの詐欺的、欺まん的、公序良俗違反の商法であるから、豊田商事は実体のない詐欺会社であって、自由かつ公正な競争の主体たり得ないというべきである。このことは、豊田商事破産管財人作成の昭和六〇年九月二四日付調査報告書において、破産会社自体は利潤の追及を目指す企業形態をとっているものの、その実態は多数の顧客から詐欺的商法といわれる手段をもって金員を獲得するための組織体にすぎなかった旨記載されていることからも明らかである。なお、公正取引委員会は、一種のマルチ商法を目的としていたホリディ・マジック社に対し、昭和五〇年六月一三日、その事業者性を前提とした審決をしているが、これは、同社が輸入し、又は国内において製造されたホリデイ・マジック化粧品の販売業を営んでおり、販売面においては他の化粧品製造業者と並ぶ地位にあったところから、同社の化粧品の販売に当たっての報奨金等の利益をもってする顧客誘引行為が化粧品販売における公正な競争を阻害するおそれがあると判断したからであり、本件とは事案を異にする。
したがって、豊田商事は、独禁法及び景表法の適用対象としての事業者には当たらない。
(二) 反射的利益論
(1) およそ違法な行政権限の不行使により損害を受けたとして国家賠償請求をする場合に、その受けたとする損害が、単なる事実上の利益ないし反射的利益、すなわち、ある行政目的を達成するため、右権限の行使として国民の中の特定の個人なり業者なりの権利、自由が規制された結果、規制された者以外のある国民がその反面として受ける利益の侵害によるものであるときは、このような利益は権限の行使との関係においては法的に保護された利益とはいえず、当該権限の不行使の違法を理由として損害賠償請求をすることはできないというべきである。すなわち、国家賠償法一条一項の違法性が認められるためには、個々の賠償請求者と国又は地方公共団体との間に個別的な法的義務が措定されることが前提となるが、その法的義務の根拠を一定の行政権限を規定した法律に求めようとするのであれば、その法的義務の発生根拠となるべき保護利益はその法規によって保護すべきことが予定されている利益に限られ、当該権限の行使により結果的に生ずるそれ以外の利益は単なる事実上の利益ないし反射的利益であって、法的義務の発生根拠となるべき保護利益には当たらない。
(2) ところで、独禁法の基本理念は、私的独占、不当な取引制限及び不公正な取引方法を禁止し、右規制によって「結合、協定等の方法による生産、販売、価格、技術等の不当な制限その他一切の事業活動の不当な拘束を排除」し、これによって同法の直接の実現目的である「公正且つ自由な競争」の促進を図り、更に同法の次の実現目的である「事業者の創意を発揮させ、事業活動を盛んにし、雇傭及び国民実所得の水準を高め」ることを図って、もって同法の究極の目的である「一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進する」ことを実現しようとするところにある。すなわち、同法は、一般消費者の利益の確保を直接的に実現するものではなく、公正かつ自由な競争の促進によって間接的、最終的にそれを実現しようとしているのであり、また、その利益確保の対象となるのは、個々の消費者ではなく一般消費者すなわち国民一般である。このことは、独禁法に定める規制手続の特例を定めたにすぎない景表法についても同様に解すべきである。したがって、独禁法及び景表法において消費者に付与されている利益は右各法の適正な運用によって得られるべき反射的利益ないし事実上の利益に止まり、仮にその適用を誤ったとしても、このことから直ちに個々の国民が本来有する法律上の地位に影響を及ぼすものではないのであるから、右各法上、公正取引委員会に認められた各種の権限の行使が個々の国民に対する関係において職務上の義務となる余地はない。
(三) 公正取引委員会の作為義務
(1) 公正取引委員会の審査についての権限は広く裁量に委ねられている。すなわち、公正取引委員会が事件の端緒となる事実に接した場合、これを事件として審査すべきか、任意の方法によるか、審査官をして強制的にこれを行うかなどについて定めた法律上の規定はなく、かつ、独禁法が専ら公正かつ自由な競争の促進という公益保護を目的としていること、その適用対象は絶えず変動し、複雑多岐にわたる経済事象であること、独禁法が同法違反の被疑事実を審査するための要件について「公正取引委員会は、この法律の規定に違反する事実(中略)があると思料するときは、職権をもって適当な措置をとることができる」(同法四五条四項)と規定し、また、公正取引委員会の審査及び審判に関する規則において、審査官による審査手続の開始につき「委員会は(中略)事件の審査を必要と認めたときは(中略)必要な調査を行わせ事件の審査にあたらせるものとする。」(同規則九条三項)として極めて抽象的な規定を置くに止まることなどの点にかんがみれば、その判断は、当該違反被疑事実の性質、態様、構成要件該当性、公正競争阻害性の程度など極めて専門的かつ技術的な事柄にかかわるものであって、それは独禁法の施行、運用をつかさどる公正取引委員会の裁量に委ねられているというべきである。右の点は公正取引委員会の審判、緊急停止命令の申立てについても同様である。
(2) ところで、公務員の規制権限等の不行使が特定の国民に対する関係で違法な加害行為とされるためには、右権限等を行使すべき作為義務が存在し、その違反が職務上の義務違背と評価される必要がある。しかるに、当該権限を行使するか否かの判断が行政庁の裁量に委ねられているときは、本来的に権限行使の義務を措定し得ないから、その不行使について当不当の問題は生じても職務上の義務違背があったとして違法とされることはない。具体的事情の下で公務員に当該規制権限を行使すべき作為義務が生じ、右権限を行使しない不作為が違法と評価される場合があるとしても、それは作為による加害行為と同視し得る程度に著しく合理性を欠く場合に限られるのであり、その判断に当たっては、次の点を考慮する必要がある。
まず、公務員が規制権限を行使することは、必然的に被規制者の権利を侵害することになり、合理的根拠もないのに行政庁が規制権限を行使し、その結果が誤っていた場合には、逆に被規制者の権利の違法な侵害の問題を生じ、国民生活に重大な混乱を招来するおそれがあるから、公務員の右権限の行使に当たっては、その要件の充足が厳格に判断されなければならない。そして私的経済活動の自由が保障されている法制度の下における企業間の自由な経済取引過程に行政が過度に介入するときは、企業間の自由競争に基づく創意工夫を抑制し、ひいては優良な企業の成長の芽を摘み、活力のない統制経済に陥って国民全体の利益に反する結果となるから、取引関係への行政の介入は謙抑的であることが望ましく、必要最小限に限定されるべきである。さらに、国以外に直接の加害者が別に存在する場合には、被害者はまずその者に対して損害賠償を請求すべきであり、仮に国が損害賠償責任を負う場合があるとしても、それは直接加害者の不法行為に加担し、共同不法行為と認められる程度に達している場合、すなわち、さし迫った具体的危険の発生が予測でき、行政機関がその危険防止のため有効適切な措置をとることができ、かつ、それが期待できる場合に限られる。
(3) 右のように行政機関の権限の行使が義務化し、又はその不行使が違法となる要件をまとめると、次のとおりである。
ア 国民の生命・身体・健康に対し具体的危険が切迫していること(危険の切迫性、重大性)
イ 行政庁が具体的危険の切迫を知り又は容易に予見し得る状況にあること(危険の認識ないし予見可能性)
ウ 行政庁が権限を行使すれば容易に結果発生を防止することができること(回避可能性)
エ 行政庁が権限を行使しなければ結果発生を回避できないこと(補充性)
オ 国民が権限の行使を要請あるいは期待し、又はそれが容認される場合であること(国民の期待・容認)
さらに、以上の要件充足性の判断においては、権限行使を行政庁の裁量に委ねた法の趣旨ないし目的、裁量の幅の大小、規制の相手方及び方法についての法の定め方、権限の行使に支障となる事情の存否、従前の同種事例に行政庁がとった措置との均衡、権限行使の代わりに具体的にとられた行政措置の有無及び内容、直接の加害者及び被害者の個別具体的な事情等の諸般の事情が考慮される必要がある。そして、一般的に財産的被害は生命、身体、健康等に比べ代替性を有し、右被害が取引行為に起因する場合には営業の自由への配慮を欠くことができないばかりでなく、いわゆるもうけ話にあっては、多少の欺罔的要素があり、それが社会的に許容されないものでない限り、自由経済のために放任されており、取引行為に入ろうとする当事者は自らの知識、経験あるいは勘に基づき、予測される利益と損失とを比較衡量した上、もうけ話に加わるかどうかを判断すべきものであって、結果的に利益があれば自ら享受し、損失があればこれを甘受するという自己責任の原則が妥当することから、財産的被害に関しては、違法性の要件は厳格に解すべきである。
(4) 本件についてみるに、代替性のある財産的法益に関する事案である上、公正取引委員会が前記各権限を行使しなければ原告らにおいて損害発生を回避できない状況にあったとはいい難く、公正取引委員会の審決又は緊急停止命令申立て等の発動によって容易に損害発生を防止し得たとまではいえないし、国民からその権限発動が期待され要請されていたとも考え難いのであるから、公正取引委員会の権限の不行使が違法であるとはいえない。各要件を更に分説すると、以下のとおりである。
(危険の切迫性)
本来私人間の取引行為は、当事者である私人の自由な意思と選択によって行われるものであるから、結果的に損失が生じたとしても、それは自己の自由な意思に由来し、自己の責任に帰すべきであって、財産的な損失を被る可能性について考慮の上で自ら選択して取引に入った以上、その者の財産的法益に対し具体的かつ重大な危険が切迫していたとはいえない。
(危険の認識可能性)
公正取引委員会は、当初、新聞報道によってのみ豊田商法についての情報を得ていたにすぎず、その内容からみて、独禁法又は景表法の規定に違反する疑いがあるとして審査手続の開始に及ぶまでのことはないと判断したものであり、昭和五八年九月三〇日、堺によって純金ファミリー契約証券と題した証券等がもたらされたときに初めてその具体的資料を得たものの、右資料によってみてもなお公正取引委員会が独禁法又は景表法に規定された職権を発動すべきであるとは認められなかったし、堺も独禁法四五条一項に基づいて申告をした訳でもなかった。その後も、豊田商法について独禁法又は景表法の適用の可否を検討したが、当時入手した資料によれば、独禁法の目的である公正かつ自由な競争の維持、促進という見地からみて豊田商法に同法を適用することはできないと考えられた。また、新聞等の報道によると、同商法では、「金はいつでも現金と換金でき、将来も値上り確実で、銀行預金よりも有利である」などのセールストークが用いられているとされ、中長期的にみれば、必ずしも全く事実に反するとまではいえないことにかんがみれば、景表法四条にいう「実際のもの又は(中略)他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される」との要件を充足するとも認められなかった。豊田商事と顧客との間の法律関係は、純金の売買と賃貸借の部分とに分けることができるが、売買の部分については、例えば純金でないのに純金と表示して売りつけるというような商法ではないし、賃貸借の部分についても、一定期間経過後に純金を返還すると約定したのに豊田商事がこれを履行しないという点に問題があると考えられるにとどまり、いずれの部分についても直ちに独禁法又は景表法の規定に反すると断ずることはできなった。したがって、公正取引委員会は、その権限にかかわる事項として独禁法又は景表法により保護されるべき法益に対する侵害の危険性についての認識可能性はなかった。
(回避可能性)
豊田商事の従業員が行っていた行為が反社会性の強いものであるのに反し、公正取引委員会に与えられた権限は審査及び審判などに限定されるから、公正取引委員会が右権限を行使したとしても直ちに豊田商事がその行為を中止し、容易に原告らの損害の発生を防止し得たという状況にはなかった。
(補充性)
私人間の取引行為により結果的に損失を被ったとしても、前記のとおり自己責任の原則が妥当すべきものであって、公正取引委員会の権限が行使されなかったから損失を被ったものではない。昭和五七年一一月一二日の第一五回消費者保護会議において、金の現物取引等と称する悪質な商品取引による消費者被害を防止するため、消費者啓発に努めるとともに、悪質事犯の取締りを強化すべき旨決定されたが、公正取引委員会に消費者啓発や取締りを期待したものではないから、公正取引委員会が権限を行使しなければ豊田商法による被害の発生が回避できなかったとはいえない。
(国民の期待)
公正取引委員会が国民の側から権限行使を求められたのは、昭和六〇年六月一三日に京都弁護士会から独禁法に基づく申告がされたのが唯一の事例である。昭和五八年には、堺が公正取引委員会に豊田商事に関する資料をもたらしたことはあるが、同人は近く予定されていた国会質問に当たり参考となる情報を与えるとともに独禁法等についての考え方の教示を求めたものにすぎず、また、当時の新聞報道などを総合してみても、豊田商法に公正取引委員会が規制を加えるべきであるとの論調は見当たらなかった。したがって、当時、豊田商法に対して公正取引委員会が権限を行使することは国民が期待していたものとはいえない。
(四) 通産省の作為義務
原告らは、行政の一体性を根拠に、通産省は公正取引委員会に対して情報提供又は協力をすべき義務を負う旨主張するが、国家行政組織法二条二項が「国の行政機関は、内閣の統轄のもとに、行政機関相互の連絡を図り、すべて、一体として、行政機能を発揮するようにしなければならない。」と定めているのは、本来、事務の分配と行政機関の分散及び独立を原理とする現代の行政機関にあっては行政の統一性の維持も要請されるため、そこに調整が必要となり、これをも原理として認めることを宣明したところに意味があるのであるから、同条項を根拠として特定の行政機関に対する特定の作為義務を認めることはできない。
第三 不出頭被告
一 被告菊田光利、同上野健三、同橋本孝二、同及川次男及び同三原宏治は、適式の呼出を受けながら、本件口頭弁論期日に出頭しないし、答弁書その他の準備書面も提出しない。
二 被告熊谷裕次、同斉藤秀信及び同武藤正三は、当初から公示送達による呼出を受けたが、本件口頭弁論期日に出頭しない。
第四 証拠<省略>
理由
第一はじめに
一争いのない当事者
被告菊田光利、同上野健三、同橋本孝二、同及川次男及び同三原宏治は、請求原因1ないし3及び5の各事実を明らかに争わないものと認め、これを自白したものとみなす。
二争いのある当事者
前項の被告らを除くその余の被告らは、その責任原因及び原告らの損害を争うところ、請求原因1の事実のうち、原告らが豊田商法の被害者であることは、原告らと被告岡畑浩、同横関幸子及び同井上鉄郎との間で、各個人被告らが豊田商事の元従業員であることは、原告らと被告国、同長谷川健、同三日市忠夫、同泉明子、同渡邉宏及び同千葉健一を除くその余の個人被告らとの間で、それぞれ当事者間に争いがなく、原告らとその余の被告らとの間においては、後記第三の二において判示するとおりである。
三書証の成立
以下に挙示する書証の成立についての判断は、別紙「書証の成立について」に記載のとおりである。
第二豊田商法について
一豊田商事の組織
昭和六〇年六月一八日に永野が殺害され、同年七月一日豊田商事が破産宣告を受けたことは、原告らと被告平嶋栄子、同長濵貞江、同柿沼光子こと鈴木光子、同小林孝司、同岡畑浩、同横関幸子、同井上鉄郎及び同国との間で、昭和五六年九月に通産省が金を政令指定商品としたことは、原告らと被告国との間で、いずれも当事者間に争いがなく、右争いのない事実と、<書証番号略>によれば、以下の事実が認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。
1 豊田商事は、昭和五六年四月二二日、大阪市北区梅田一丁目一番三号を本店とし、大阪豊田商事株式会社という称号で設立登記された会社であり、永野が代表取締役に就任して、その業務全般を統括し、昭和五七年九月二七日に称号を豊田商事株式会社に変更した。昭和五六年九月二四日施行の政令により、金が政令指定商品となったため、同社は、従来からの金地金の先物取引を廃止し、以後、昭和六〇年六月一八日永野が殺害されたことにより事実上営業を停止し、同年七月一日破産宣告を受けるに至るまで、後述の純金ファミリー契約を中心とする営業活動を展開し、この間、組織及び機構も拡充・変遷をみたが、昭和五九年八月当時において、全国を九ブロックに分け、札幌、仙台、東京(銀座、サンシャイン)、名古屋、金沢、大阪、広島、福岡の各支社を設け、その下に五七か所の支店・営業所が置かれ、実質的な営業活動は、これら支店・営業所が行っていた。豊田商事は、当初、資本金一〇〇〇万円で発足したが、昭和五六年六月一六日に四〇〇〇万円、同年七月七日に一億二〇〇〇万円、同年八月四日に二億円、昭和五七年四月二一日に二億五〇〇〇万円にそれぞれ増資し、外観上からも優良堅実な会社であると顧客に信用させるため、全国各地の一等地にある高級ビルを賃借して営業店舗とし、最盛期には約七五〇〇名の従業員を擁していた。
2 豊田商事の各支店・営業所は、概ね営業、テレフォン、総務、管理の四部門で構成されていたが、営業部門中心の組織であって、通常、支店には営業課が二課、営業所には一課設置され、その下に係(一課八係)が置かれていた。営業関係の社員としては、支店長又は営業所長の下に、営業部長、営業課長の管理職があって、販売促進、教育、売上内容管理、社員採用を職務とし、さらに、営業係長以下、主任、ヘッド、正社員、見習社員、研修社員からなる営業社員(通常一係五名)が配属されていた。テレフォン部門は、責任者一名、サブ一名の下にパート勤務のテレフォンレディー(一支店七、八〇名)が置かれ、電話帳等を利用して顧客に電話をし、純金の購入を勧め、顧客の氏名等を記入した後述の面談用紙を営業部門に引き継ぎ、これに基づき営業社員が後述のセールストークにより勧誘していた。総務部門は、責任者一名、男女社員五ないし七名で構成され、営業事務、入出金の取扱い、給料計算補助等の一般事務を行い、また、管理部門は、責任者一名と他に一、二名で構成され、顧客管理及び契約の継続、クレーム処理等を行っていた。
二豊田商法の内容
1 豊田商法の実態
請求原因2の(一)の事実のうち、豊田商法の一般的内容が原告ら主張のようなものであったことは、原告らと被告岡畑浩及び同横関幸子との間で、同商法が、概ね、純金はインフレに強い、金地金には税金がかからない、いつでも換金できるなどとして純金の購入を強く勧誘し、その売買契約を締結した後、金は地金で持っていると危険であり会社に預けた方が安心であるとして純金ファミリー契約を締結する商法であり、また、純金ファミリー契約書に豊田商事が純金の買主からこれを賃借し、金一グラムに対し証券表記の賃貸借料を支払うが、その支払時期は一年契約のものは契約成立時とすると記載されていることは、原告らと被告国との間で、豊田商事の社員が顧客に対し、(1)ないし(3)の「純金はインフレに強い」、「金地金に税金がかからない」、「安全、いつでも換金」及び(4)、(5)の各内容の申し向けをしたことは、原告らと被告平嶋栄子、同長濵貞江、同柿沼光子こと鈴木光子及び同小林孝司との間で、豊田商事の社員が顧客に対し右(4)及び(5)の内容の申し向けをしたことは、原告らと被告井上鉄郎との間で、それぞれ当事者に争いがなく、右争いのない事実と、<書証番号略>によれば、右商法の内容は次のようなものであったことが認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない(勧誘方法の詳細については、後記第三の一において説示するとおりである。)。
(一) 純金の販売
(1) 豊田商事の各支店・営業所においては、テレフォンレディーが電話により、純金(白金についても同様である。以下同じ)の購入申込みがあると判断した顧客があると、営業社員は、その自宅等を訪問し、右顧客に対し、純金はインフレに強いし、値上り益も大きく、確実に年二割若しくは少なくとも物価上昇率以上の割合で価格が上昇していること、純金については無記名、無申告であり、その売買、相続又は賃貸等には税金がかからないこと、純金は安全な投資物件であり、いつでも、どこでも、その日の値で換金できるから現金と同じであることを純金の三大利点であると申し向け、同時に、「金はインフレなど通貨の混乱時にも財産保全の役割を果たし、金そのものに価値があり物価にスライドするから、目減りの心配はなく、免税対象である」、「金は買う時も持っていても税金はかからず、銀行などに預けた場合に保管料がかかる程度であり、即換金性がある」などと記載された豊田商事作成のパンフレットを示して、右顧客に対し、純金に対する投資の有利性を説いた上、まず純金の現物の購入を勧誘し、購入を承諾した顧客との間でその売買契約を締結した。
(2) 豊田商事では、営業社員に対し、純金の売買契約の締結を勧誘するに際し顧客に対して概ね右内容のセールストークを用いるよう指導、教育し、これを統一的かつ組織的に実施させていた。その具体的内容としては、「世界の金市場で公正な値段を決め、それにより国内店頭価格を発表するものであり、別に○○さんと二人で値を決める訳ではないから、安心して現金を純金に換えることができ、また現金に換えることもできる」、「純金の価格は一時的には上がったり、下がったりする場合もあるが、値が下がると金を保有している国家や個人がチャンスとばかり金を購入し、逆に値が上がると市場へ放出して常に金価格を適正な水準へもっていく働きをするので、金の価格は長期的には安定上昇し金の価値はいつの時代になっても変わらない」、「一般的な消費財(テレビ、冷蔵庫、自動車等)を買い、財布の中身が減るという性質のものではなく、金へ置き換えると、年間平均でも最低二〇パーセントずつ値上がりしていくから、定期預金の利率年六パーセント、物価の上昇年一〇パーセントと比較して得である」、「純金イコール現金であり、いつでも、どこでもその日の価格で換金できるし、税と名のつくものは一切無関係である」などというものがあった。
(二) 純金ファミリー契約の締結
豊田商事の営業社員は、純金の現物の売買契約を締結した顧客に対し、その締結と同時に、購入した純金を顧客が自ら保管するのは大変であり、豊田商事に預ければ盗難・紛失の危険はなく、また税金もかからず郵便貯金等よりも有利に運用することができるなどと申し向けて、顧客は購入した純金を豊田商事に預け、豊田商事は預かった純金を有利に運用すること、顧客に対し、購入価格を基準として一定の割合の金員を賃貸借料名下に支払うこと(以下、右金員を「賃借料」という。)、賃借料は、後記の契約期間が一年の契約を除くその余の契約については年一回支払うこと、契約期間が一年の契約についての賃借料の支払期日及びその他の契約についての賃借料の第一回支払期日は、いずれも純金の売買契約の成立時とし、これを売買代金の一部に充当すること、契約期間満了日に金の現物を返還することなどを内容とする純金ファミリー契約の締結を勧誘し、豊田商事との間で右契約を締結させていた。その場合、顧客との間では、見本のインゴットを見せるだけで、純金等の受渡しは行われず、顧客は純金ファミリー契約証券の交付を受けることが多かった。
純金ファミリー契約には、当初、契約期間が一年、二年、三年の三種類があり、賃借料は、純金の購入価格に対する割合で、それぞれ年一〇パーセント、一七パーセント、二二パーセントであったが、その後、昭和五八年七月ころからは期間五年の純金ファミリー契約も締結するようになり、これについては賃借料を純金の購入価格に対する割合で、年一五パーセント(合計七五パーセント)とし、純金売買契約の成立時及びその翌年から四回にわたって支払うこととされた。
2 豊田商法の法的性質
豊田商法は、前記認定のとおり、純金の売買と純金ファミリー契約の締結を一連の内容とし、そのセールス方法も純金の現物取引の存在及びその安全、有利性を殊更強調していたため、一般の顧客としては、豊田商事に純金の現物を預け、同社がこれをそのまま保管、運用し、前記のような賃借料を受領できるものと考えて契約を締結するような内容のものであった。そこで、この純金ファミリー契約の法的性質について検討するに、<書証番号略>によれば、純金ファミリー契約書及び同契約証券の条項において、同契約は純金賃貸借契約であると明確に定義され(一条)、「賃貸」、「賃貸借」、「賃貸借料」、「賃借料」等の用語も使用されている(二条、四条、七条、一〇条又は一一条)ことが認められる。しかしながら、純金それ自体は代替物であるから、これを賃貸借の目的物とするためには、当該純金を他の純金と区別できる程度に特定することを要するところ、右契約においてそのような特定がされているとみられる記載はなく、かえって、「純金ファミリー契約の純金の返還については同種、同銘柄、同数量の純金を以て返還します」と記載され(九条)、返還時においては純金の個性が全く問題とされていないから、純金ファミリー契約は、契約条項の前記文言にもかかわらず、賃貸借契約の実体は備えておらず、これに先立って締結された売買契約に基づく純金の引渡請求権をもって消費寄託の目的とした準消費寄託契約であると解される。
三豊田商法の欺まん性
1 純金の価格上昇、無税及び即時換金性に関する表示について
金相場は、世界各国の政治状勢、経済情報等によって複雑に変動し、その変動を的確に予見することは専門家にとっても極めて困難であることは公知の事実であり、また、<書証番号略>によれば、金相場は、昭和五三年一月の平均が一グラム当たり一四二九円であったのに対し、昭和五五年一月の平均では一グラム当たり五二八六円にまで上昇し、同月に最高値である一グラム当たり六四九五円を記録したこともあったが、その後、少なくとも昭和六〇年代に入るまでは下落を続け、昭和六二年ころの時点では一グラム当たり二〇〇〇円前後になっていたことが認められる。右事実によれば、昭和五三年から昭和五五年ころまでの金価格の急騰期及びこれに近接する時期をとってみれば、金価格が平均して年二割以上の割合で上昇していたともいい得るが、純金が年二割若しくは少なくとも物価上昇率以上の割合で価格が上昇しているとのセールストークの内容は、右時期に限定した上昇率を説明したものではなく、ある程度の長期的視野でみた場合の上昇率を表示したものと一般に受けとられるものであったと認められるところ、昭和五五年以降の金価格は全体として下落傾向にあり、昭和六二年までの変動を全体としてみると、金価格が年二割又は物価上昇率以上の割合で上昇しているということはできない。したがって、純金が年二割若しくは少なくとも物価上昇率以上の割合で価格が上昇しているとの表示は虚偽であったといわざるを得ない。また、金地金には物品税はかからず、その点では無税ということもできないではないが、所得税、相続税等については課税要件を充足する限りその課税対象となることは公知の事実であり、金地金の売買、相続等に税金がかからないとのセールストークの内容は、右のような所得税、相続税等についても課税されないものと一般に理解されるものであると認められるから、右表示も虚偽であったということができる。さらに、即時換金性に関する表示についてみるに、純金の即時換金性についての説明内容は、顧客が純金の現物をそのまま保有している限りにおいては真実であるということができる。しかしながら、前記認定のとおり、豊田商法は顧客に純金の現物を渡すことなく、純金ファミリー契約を締結させることをその基本的内容としていたのであり、他方、即時換金性について特に純金ファミリー契約を締結した場合を除外して説明したことを窺わせる証拠はなく、<書証番号略>によれば、純金ファミリー契約上は、顧客が中途解約をすることは原則としてできず、やむを得ない事情があるときでも既に受領した賃借料を返還し、かつ契約金額の三〇パーセント以上を違約金等の名目で徴収した上で解約に応ずるとされていたこと、豊田商事は、従業員に対し、満期になっても何が何でも再契約させるよう指導し、従業員が満期になった顧客を所属の支店等に連れて行ったり、顧客の方からこれを訪れたりした場合には、営業部長、課長らが強引に再契約をさせるなどして、事実上、右解約にはほとんど応ぜず、また満期における金の返還にも容易には応じないで、強硬に契約の更新を迫り、多数のトラブルが生じていたことが認められ、右のような内容が契約締結に際して特に表示されていた形跡もないことをも考慮すれば、豊田商法における即時換金性に関する前記認定の説明内容もまた虚偽の表示であったというべきである。
2 純金ファミリー契約の安全確実性に関する表示について
豊田商法の内容である純金ファミリー契約が、顧客の純金購入代金に相当する純金が豊田商事において現実に保有ないし運用されているかのような外観の下に締結されていたことは、前記認定のとおりである。そこで、豊田商事が、純金ファミリー契約を締結するに際し、顧客の純金購入代金額に相当する純金を現実に保有していたか否か、純金ファミリー契約に基づく返還時期に契約どおりの純金を返還することが可能であったか否かについて検討する。
(一) 純金の実在性
まず、<書証番号略>によれば、通産省資源エネルギー庁は、昭和六〇年一月二四日当時、豊田商事の純金の流通量及び退蔵量の実績については把握していなかったが、豊田商事の売上高に相当する純金が流通し又はこれが退蔵された場合や豊田商事が一度に多量の純金を国内から調達したような場合には、我が国における純金の大部分を扱っている鉱山、商社、地金商等からの情報により右事実を了知し得るところ、そのような情報は得ていなかったこと、流通協会も、豊田商事の売上相当分の純金が流通しているとすれば地金商でもその模様を察知できるものと考えられるが、昭和五九年一二月一〇日時点でそのような事実は存在しなかったことが認められる。また、<書証番号略>によれば、豊田商事大阪第二支店に昭和五九年八月から同年一二月まで在職した元営業社員李龍河が認識したところでは、当時、同支店においてサンプル数セット以外に純金現物が保管されたり、運び込まれたりしたことはなく、顧客の都合で純金現物を持参することになった旨営業課長に報告しても、上層部に申し出て準備してもらえとか、関連会社であるトヨタゴールドで用意させるとかのあいまいな対応に終始し、他の部課でも電話や会話で純金現物の売買や保管、移動等の具体的な話を聞いたことがなく、朝礼等の際にも純金保有の事実やその保管場所、保管方法、量、購入先等には全く触れられなかったこと、豊田商事前橋支店の元営業課主任小林良江が認識したところでは、同支店において、金庫に保管されていた純金の現物は一キログラムのものが五、六枚程度であったこと、弁護士三木俊博が豊田商法による被害者の訴訟代理人として豊田商事を相手方として証拠保全の申立てをし、裁判所の決定により昭和六〇年一月二四日本店において実施された証拠保全においても、同社が純金を保有している形跡はなかったことが認められる。
以上の事実に前記認定のとおり豊田商事が設立後わずか四年余り後に破産宣告を受けるに至った経緯などを併せ考慮すれば、豊田商事は、純金ファミリー契約を締結しても、顧客の純金購入代金に相当する純金を現実には保有していなかったものと推認するのが相当である。もっとも、<書証番号略>によれば、豊田商事は、一時期、わずかながらも純金の現物取引をしていたことが窺われるが、現物取引は、売買の時点で純金の現物を用意しておく必要があり、同社に入る利益もせいぜい売買手数料程度であるのに比し、純金ファミリー契約と一体になった場合には、純金の返還時期が到来するまでは顧客から導入した金銭は自由に運用できたこと、後記のとおり、豊田商事における営業社員の歩合報酬の算定に当たっては、純金の現物取引はその基礎にされていなかったし、各支店・営業所に課せられていたノルマも純金ファミリー契約についてのものであったことなどからすれば、豊田商事では現物取引にほとんど意義を認めていなかったというべきであるから、前記推認の妨げになるものではなく、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
(二) 契約期間満了時の純金引渡しの可能性
(1) まず、豊田商事が純金ファミリー契約の期間満了時において返還すべき純金を調達するだけの資力を確実に有していたか否かについて検討するに、<書証番号略>によれば、豊田商事が純金ファミリー契約に基づく債務を履行して営業を継続して行くためには、これにより顧客に支払うべき賃借料額を上廻る極めて高率の収益を確実に挙げる必要があったが、豊田商事は、顧客から受け取った金員を役員及び社員に対する異常に高額の報酬、給与や高額の販売費、一般管理費として支出しており、その余の資金は商品取引市場への投機資金若しくは関連事業に対する貸付金などに支出していたものの、極めて収益性が悪く、純金ファミリー契約に基づく債務を履行して営業を継続して行くための十分な資金運用がされていた形跡はなく、このため設立当時から毎期多額の損失を計上し続け、早晩倒産する可能性が濃厚な状況にあったことが認められる。
このことは、豊田商事の財務内容に関する次のような事実からも裏付けられる。すなわち、まず、<書証番号略>によれば、豊田商事の設立から破産に至るまでの比較損益計算書において、同社は、次のとおり一貫して損失を計上し続け、この間における収入総額一二二七億一七七九万円の六八パーセントが損失となっていることが認められる。
第一期(昭和五六年四月二一日から昭和五七年三月三一日まで)
八億八七六三万〇八八九円
第二期(昭和五七年四月一日から昭和五八年三月三一日まで)
三〇億二九七九万〇四一一円
第三期(昭和五八年四月一日から昭和五九年三月三一日まで)
三三八億七八七五万一一二七円
第四期(昭和五九年四月一日から昭和六〇年三月三一日まで)
三一九億九〇九二万〇六〇二円
第五期(昭和六〇年四月一日から昭和六〇年七月一日まで)
一四二億〇六二〇万五四三二円
損失合計 八三九億九三二九万八四六一円
およそ収益を目的とする一般の企業にあって、右のように収入の六八パーセントもが損失となり、かつ、これが毎期経常的に発生するということは通常考えられないことであり、このことは、同社が、設立当初からその体質において純金ファミリー契約に基づく債務を履行して営業を継続して行くだけの収益を挙げ得なかったことを窺わせるものである。
また、導入資金の流れからみても、<書証番号略>によると、同社が倒産するまでに顧客から導入した金員は、第一期九二億四一〇〇万円、第二期三〇四億二四〇〇万円、第三期五四〇億七五〇〇万円、第四期九二一億八九〇〇万円、第五期一六二億七一〇〇万円の合計二〇二二億円であるが、そのうち、顧客に対し、純金の返還、解約金、賃借料名義で約五五〇億円が返還され、また役員、営業社員等に対する報酬、賞金六〇〇億円を含む販売費、一般管理費として八六〇億円(特に第四期の販売費及び一般管理費は四〇八億六八〇〇万円)が支出されており、顧客に対する返還金を除いた豊田商事の導入資金に占める割合が六五パーセント以上にものぼっていたこと、以上を差し引いた残額約六〇〇億円のうち、約一一〇億円ないし一二〇億円が商品取引相場への投機資金として使用されて回収の見込みがなくなっているし、その余は関連事業への貸付金として使用されているが、これにより投資先の関連会社から月一パーセント、年一二パーセントの利息を収受していたにすぎないこと、同社が顧客に対して支払う賃借料は、五年もの年一五パーセント、一年もの一〇パーセントであり、仮に第四期の導入金九二一億八九〇〇万円に対する割合でみると、五年ものであれば一三八億二八三五万円、一年ものでも九二億一八〇〇万円の資金を要することとなるが、貸付債権を五〇〇億円とした場合の利息は年六〇億円にしかならないから、同社が資金運用面でも破綻を来すことは必至の状態であったことが認められる。
(2) 次に、豊田商事において、右のような資金運用面での破綻を何らかの手段により回避する可能性があったか否かについて検討する。
<書証番号略>によれば、豊田商事では、当初三種類の純金ファミリー契約を用意したが、二年もの、三年ものは期間が長く、しかも一年ものを二年ないし三年間継続するよりも賃借料が安かったためあまり売れず、ほとんどが一年ものの契約であったこと、この一年ものについて、期限が到来して顧客に純金を返還しなければならなくなった時点では、金相場の変動によって若干の利益が出ていても、総体的にこの時までに受け入れた金員でこれを賄えたことはなく、更に多くのファミリー契約を締結し、その受け入れた金員によって顧客に純金を返還するという方法をとらざるを得なかったこと、その後、更にできるだけ顧客に純金を返還する時期を遅らせるため、昭和五八年七月ころから五年ものの純金ファミリー契約を締結し、昭和五九年以降はこれを原則としたこと、一年ものの純金ファミリー契約の返還時期が到来した場合には、従来の担当者において当該顧客に対し新規の契約締結の場合と同様に執ように契約の継続を求め、約八五パーセントの契約を継続させていたことが認められる。右事実によれば、豊田商事が純金ファミリー契約に基づく返還時期に契約どおりの純金を顧客に返還するためには、新たな純金ファミリー契約を無限に拡大して行くか、これに代わる資金の導入が必要であったところ、前者によることが不可能であることは経験則上明らかである。
そこで、後者の方向について検討するに、<書証番号略>によれば、昭和五九年四月一四日、豊田商事グループ全体の金融財務部門を担当する会社として銀河計画株式会社(以下「銀河計画」という。)が大阪市北区梅田一丁目一番三号を本店として設立され、傘下の豊田商事、鹿島商事株式会社(以下「鹿島商事」という。)、大洋商事株式会社(以下「大洋商事」という。)などから資金を吸い上げ、これを同グループ各社へ分配する役割を果たすようになり、右銀河計画を中心として、返還を要しない利用権のみのレジャー会員証券を販売し、関連企業がこれを賃借して賃借料を支払うという純金ファミリー契約類似の取引が推進されたこと、右レジャー会員証券に関する取引については、当初は鹿島商事がゴルフ関係の会員証券の販売を、大洋商事が海洋レジャーのマリーン関係の会員証券の販売をそれぞれ担当していたが、豊田商事も昭和六〇年六月一日以降、これらの販売を取り扱い、同月一一日以降は純金ファミリー契約証券の販売をすべて中止して右レジャー会員証券の販売のみに切り替えたことが認められる。このような豊田商事のレジャー会員証券取引への算入は、純金ファミリー契約に基づく純金の返還を不要とし、返還不能による経営破綻を回避すべく、純金ファミリー契約証券をレジャー会員証券に切り替えることを図ったものとみる余地があるが、他方で、<書証番号略>によれば、レジャー会員権には純金ファミリー契約における純金の現物のような安全性、確実性がないことは顧客も十分承知していたこと、レジャー会員証券の利用対象となる施設自体極めて不十分でこれにより利益を生むことは不可能に近かったし、逆に銀河計画は施設買収に多額の出費をしたために財政的に破綻することは不可避の状態にあったことが認められ、豊田商事が右レジャー会員証券取引によって資金を調達し、純金の現物の償還することも当初から不可能であったというべきである。
(3) さらに、豊田商事の社員の中には、次のとおり、豊田商法に疑問を抱き、退社したり、顧客に解約を勧めたりする者が相当数存在したことが認められ、このことも、豊田商事が前記のとおり経営的に破綻する性格のものであったことを裏付けるに足りる。
すなわち、<書証番号略>によれば、豊田商事の元従業員大石毅は、同人の刑事事件の弁護人に宛てた書簡の中で、豊田商事の経営状態について、一か月平均五五億円から七〇億円前後の売上は、ほとんどが預り金であり、前渡し済みの賃借料、営業社員等の多額の給料、賞金その他の経費だけで約三五億円から四〇億円程度を占め、この中には継続の賃借料及び償還する純金の金額が含まれていないのであって、豊田商事が、実際上は利益を生ずるどころか一定の比率で欠損が増えており、満期の顧客に償還する純金がないとか、給料日に給料が足りないというような不安感が社員の間を支配している実情にあることは、入社して二、三か月もすれば分かる旨指摘していること、昭和五八年九月から昭和五九年一〇月まで在職した元従業員某は、別件民事訴訟の証言中において、豊田商事が顧客から導入した資金の五〇パーセントが経費として使われていることから早晩倒産することを予期し、また純金の保有にも疑問を抱いて退社したものであり、豊田商事の従業員の中にも同様の指摘をする者が相当数存在した旨証言していること、元従業員石原忠博は、同社の専務取締役に宛てた昭和五七年一二月三日付書面において、純金ファミリー契約等の前提としての純金の現物買付が現実にされ、かつ、右契約等により賃借した純金相当量の保有保管がされていることについての資料の提示を求めるとともに、純金ファミリー契約等に関するパンフレット類が存在しない理由、代表取締役社長が顧客からの預かり金を流用し個人として相場を行っている事実の存否、関連会社への資金の流れ及び経費が買付手数料を大幅に上回るにもかかわらず会社を維持経営できている理由についての釈明を求めていること、元従業員李龍河は、豊田商事の内実について、高給社員を多数雇用し、事務所関係経費の膨大な会社がやって行けるはずはなく、顧客からの導入金を食いつぶして運営している実態は社内でも多くの者が察しており、また騙しに行くかと見込み客宅へ向けて出掛けて行く社員もいた旨指摘していること、前橋支店の元従業員小林良江は、昭和五八年一二月に入社した後昭和五九年九月にいったん退職したが、それは豊田商法の利息が良すぎるし、満期になっても何が何でも顧客に再契約をさせるよう指導を受け、絶対に現物や現金に換えさせなかったことから疑問を抱いたことによることが認められる。
(三) 純金ファミリー契約の安全確実性に関する表示の欺まん性
純金ファミリー契約が、前記認定のとおり、売買契約に基づく純金の引渡請求権をもって消費寄託の目的とした準消費寄託契約であるとしても、その返還時期における豊田商事の純金の調達資力が確実であることが、顧客にとっては契約締結に際して最も重要な要素となっていたということができる。しかるに、右調達資力の確実性に欠けていたことは、以上の検討により明らかであるから、豊田商法の純金が投資対象として安全、確実である旨の表示は、この点で虚偽の表示であったというべきであり、純金ファミリー契約を純金の賃貸借であるとして、顧客にこれに対応する純金を現実に保有しているかのような表示をしたこともまた、虚偽であったといわざるを得ない。
3 以上によれば、豊田商法は、虚偽の表示によって、顧客に純金の現物の売買契約及び純金ファミリー契約を締結させることを内容とする商法であったというべきであり、豊田商事及びその従業員らは、実際には、純金が確実に値上がりするものではなく、税金も一定の場合には課され、純金ファミリー契約を締結した場合には純金を即時に換金することが困難であり、さらに、顧客の純金購入代金に相当する純金を保有せず、かつ、契約上の返還時期に契約どおりの純金を返還するだけの資金を調達する十分な見込みがないにもかかわらず、顧客に対し、前記認定のセールストークの内容を申し向け、純金の売買及び純金ファミリー契約による投資が安全確実な資産運用方法であるかのように誤認させ、もって顧客らから純金売買代金及び手数料名下に金員の交付を受けたものといわなければならない。
四豊田商法が社会問題化した経緯
昭和五七年一一月に開催された第一五回消費者保護会議において甲事件原告ら主張のような決定がされたこと、通産省が新聞等で国民に金を取引する場合の注意を呼び掛け、昭和五八年五月に発行した「通産省の消費者行政」誌に甲事件原告ら主張のような記載をしたこと、昭和五八年一〇月四日の衆議院商工委員会において豊田商法についての討議がされ、甲事件原告ら主張のような質疑応答がされたことは、甲事件原告らと被告国との間で当事者間に争いがなく、右争いのない事実と、<書証番号略>を総合すれば、豊田商法が社会的に問題とされた経緯として、以下の事実が認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。
1 昭和五六年九月四日の朝日新聞が金の先物取引詐欺まがいの新手口と報じたのを皮切りに極めて多くの新聞報道がされ、同年一一月四日の日本経済新聞は、「プレミアで誘い地金渡さず、金取引現物まがい商法 苦情続出、違約金は法外」との見出しで報道をし、同月二四日の朝日新聞は、「現物まがいの商法により全国で八五億円の被害」との見出しで、通産省の「うますぎる話しには用心」との、悪徳商法被害者対策委員会会長堺の「行政には徹底的な取締りを望む」との各談話を報道した。また、同年一二月五日には、読売新聞が、「金ブーム御用心 詐欺まがい商法横行」との見出しで報道をした。
2 昭和五七年三月一九日の第九六回国会衆議院商工委員会において、現物まがい商法の横行に対する防止策が質問されたのに対し、通産省は、現物まがいの商法については、資源エネルギー庁の方でも流通協会等を通じて指導している旨答弁した。同年四月二〇日の朝日新聞は、「『幻の金商法』横行」、「先物私設市場禁止で新手」と題して、通産省の「警視庁とも相談しており、何とか取り締まりたいのだが」との談話を報道し、また、同月二二日の同紙は、豊田商事堺支店の営業社員が訪問先で客から購入を断られたことに憤慨し、二週間の傷害を与えたため現行犯逮捕された旨報道した。同月二七日の衆議院商工委員会において、右事件報道が取り上げられ、現物まがい商法を行っている業者に対する取締りの必要性が質疑されたが、通産省は、現物まがい取引の最近の被害としては、一月二五件、一二月三八件報告されているが、取締りの難しい点もあり流通協会による登録店制度の充実、流通組織の適正化により対処して行く方針である旨答弁し、同年四月二八日の衆議院商工委員会及び同年七月六日の参議院商工委員会において、豊田商事の純金ファミリー契約による被害の発生とこれに対する規制等について具体的な質問がされた際も、通産省は、前同様の答弁を繰り返した。また、警察庁は、右参議院商工委員会において、大変関心を持ち、現在会社の実態なり個々の行為の態様、内容等につき慎重に調査中であり、過去一年間における苦情あるいは相談等六八〇件余のうち、大変高い比率を占めているが、何分にもやり方が非常に巧妙なので、直ちに犯罪に該当するというわけにはいかず、今後ともあらゆる法令を慎重に検討したい旨答弁した。
3 国民生活センター発行の「生活行政情報」誌昭和五七年八月一〇日号において、通産省資源エネルギー庁は、これら取引のトラブルの解決はなかなか難しいのが現状であり、解約にも法外な解約料が請求されると指摘した上、購入者の注意が最善の防止策であり、金地金は信用のおける店の店頭で直接求めるのが安心である旨呼び掛け、国民生活センター発行の「あなたのくらし 一九八二秋号」において、堺は、「金をめぐるインチキ商法」と題して豊田商法の内容を紹介し、集金方法とその使途からみて、これが出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律(以下「出資法」という。)に違反し、詐欺罪に当たり、いつか破綻するのは必至である旨指摘した。同年一一月一二日の第一五回消費者保護会議(消費者保護基本法に基づき設置された総理府の附属機関で、会長である内閣総理大臣と通産省及び公正取引委員会を含む関係行政機関の長をもって構成される消費者行政の企画、実施に関する政府の最高意思決定機関であり、昭和四三年以来、毎年一回開催されている。)では、昭和五八年度末までに講ずべき消費者保護推進の具体的方策を決定したが、その中で、最近悪質業者の中には、金の現物取引等と称して代金と引換えに顧客に契約証書まがいのものを手渡し、後日、顧客が現物の引渡しを求めても、これに応じないなどの行為を行う者がみられるため、このような悪質行為による被害を防止するための消費者啓発に努めるとともに、悪質事犯の取締りを強化すべきことを挙げている。
4 通産省は、昭和五八年一月発行の「消費者ニュース」誌で、金の現物まがい取引に注意との呼び掛けをしたほか、同年三月発行の「かしこい消費者生活へのしおり」と題するパンフレットにおいて、「金の現物まがいの悪質取引について」との標題の下に、取引に見合う大量の金地金の現物の裏付けがあるとは考えられず、金という相場商品を運用して利益を挙げ、確実に顧客に一割の配当を行うには、家賃、人件費等の莫大な必要経費を考えると成り立ちにくいし、大勢の顧客が一度に解約を申し出た場合に倒産する恐れが強いことから、豊田商法を極めて不明朗な取引であるとして紹介したが、同時に、右商法は、商品取引所法や海外商品市場における先物取引の受託等に関する法律に抵触しないばかりか、出資法、外国為替及び外国貿易管理法、信託業法並びに訪問販売等に関する法律(以下「訪問販売法」という。)にも違反しないような巧妙な手口で勧誘が行われており、法的規制が困難な状況にあることも指摘し、さらに、同年六月にはカラーポスターの作成・配布により、同年七月には民法テレビの放映により注意を呼び掛け、同年九月には、流通協会が広報誌に「金取引の悪質商法にご注意を」と題する広告を掲載した。
5 朝日新聞は、同年八月一〇日、豊田商事は詐欺まがいの金販売を大々的に行っており、ネズミ講に似た大衆を巻き込んだ被害の出ることが心配され、既に国会でもたびたび取り上げられ、警察庁も重大な関心を表明し、京都では同社を相手取った訴訟も起き、全国各地で弁護士らが先物取引被害研究会を結成するなど、大きな社会問題となっているとの記事を、同月一四日には、豊田商事社内ではほんのわずかの金地金しか見たことがなく、契約が満期になっても客に現物を渡さないようセールスマンに強制しているとの元従業員の内部告発記事をそれぞれ掲載するなど、同月一〇日から一四日にかけて、豊田商法による被害についての記事を連日掲載し、さらに、同月一九日には、通産省がテレビや雑誌、パンフレットなどで金の現物まがい取引に対する注意を呼び掛けているとの記事を、同年九月五日には、豊田商事に対する解約の申し込みが相次いでいるとの記事を、同月七日には、豊田商事が顧客を船旅に招待して金を大量に売りつけていたとの記事を、同月九日には、「苦情殺到豊田商事の金商法」との見出しで、客の多くは老人、主婦で、社会問題化する様相を見せてきているとの記事をそれぞれ掲載した。同年九月三〇日には、悪徳商法被害者対策委員会の会長である堺が、公正取引委員会事務局に相談に訪れた(その際の状況及びその前後の状況等については後記第四の一4(三)で詳細に検討する。)。
6 同年一〇月四日の第一〇〇回国会衆議院商工委員会において、公正取引委員会事務局取引部長も出席し、豊田商事の商法について具体的、詳細な質疑が行われたが、通産省は、豊田商事が裏付けとしての金を保有し、あるいはそれに相当する金額を準備しているかについての実態は把握しておらず、前記のとおり、流通協会の登録店制度を通じて行うべきことをPRしている旨答弁し、また、農林水産省は、豊田商事の集めた資金が商品取引所に入って先物取引用に使われた疑いが強いとして、一定の取引会員等に対し、処分をした旨答弁し、さらに、国税庁は、豊田商事が金地金は無税であるとして勧誘している点に関し、純金ファミリー契約における賃貸料は、雑所得として課税の対象となる旨答弁した。同年一〇月六日、先物取引被害全国研究会の弁護士ら二一八名は、豊田商事に対し、金現物まがい商法はもやは重大な社会問題であって今後も勧誘を続けるなら十分な説明をする社会的義務があるとして、現在発行している証券に表示されている純金等の各総重量、現在保管している純金等の各総重量、最近一年間における純金等の新規契約の各総重量、各購入総重量、純金等の購入先及び購入方法、純金等の運用先及び運用方法、仮に運用していないのであれば契約者に支払う賃料等及び経費の調達方法、満期前の解約についての三〇パーセントの違約金を取ることの合理的根拠、先物取引及び不動産売買に対する投資額及び損益額、株式会社トヨタゴールド、豊田観光株式会社、トヨタツーリスト株式会社、日本高原開発株式会社など豊田商事の関連会社に対する投資額について、資料を添付して一〇日以内に回答するよう公開質問を行い、その翌日、ほぼ全国の新聞がこれを報道した。同年一〇月八日の朝日新聞、日本経済新聞、読売新聞その他多数の新聞に、岡山市内の女性が豊田商事に騙されて契約したとして仮差押の申立てをし、これが認められ、同月七日豊田商事岡山支店においてその執行をしたところ、一〇〇グラムの金地金が存在しただけであった旨の記事が掲載された。同月二二日には、全国紙を含む多数の新聞が、詐欺まがいの商法と国会でも問題になっている豊田商事に対し、主婦ら七人が詐欺的な勧誘に乗せられて金員を騙し取られたとして総額三五八〇万円の損害賠償請求訴訟を提起したことを報道し、雑誌「実業界」同月一日号も「金の現物まがい商法で暗躍する豊田商事の実態」と題する記事を掲載した。同年一一月八日、消費者保護会議で前年と同様の決定がされ、同年一一月一一日の大阪読売新聞、同年一二月三日の毎日新聞は、豊田商法の被害者が豊田商事を被告として損害賠償請求訴訟を提起したことを報道した。この間、豊田商事は、同年一〇月一五日付で先の公開質問に対して回答をしたが、その内容は、同社は顧客との契約を完全に履行しており、約束したこと以外の要求は一切しておらず、警察庁の国会答弁でも犯罪に該当しないとされているとして、それ以上の回答を拒否するものであったため、前記弁護士らは、同年一二月八日、再度豊田商事に対し、同内容の公開質問を行い、翌九日及び一〇日には多数の新聞がこれを報道した。
7 昭和五九年一月一日には、西日本新聞が、福岡県警が警察庁に報告するとともに詐欺、出資法違反にならないかの法的検討と内偵を始めた旨報道し、雑誌「実業界」同月一日号は「遂に訴えられた豊田商事金の現物まがい商法」と題する記事を掲載し、さらに、同月二三日全国紙を含む多数の新聞は、先物取引被害全国研究会は、豊田商事が証券の発行額に見合う金地金を保有しておらず、また運用してもおらず、客から集めた現金は勝手に内外の商品先物市場での投機資金に流用しているのが現実であると断定した上で、金地金を売ると言いながら実際には代金と引換えに証券だけを渡すという豊田商事の商法は、詐欺罪や出資法違反に当たるとして、東京、大阪を中心に刑事告訴することを決めた旨報道した。同年二月二五日には、豊田商法の被害者が自殺した旨の新聞記事が掲載された。同年三月一〇日及び同月一二日の第一〇一回国会衆議院予算委員会において、豊田商法の被害の実態と行政の対応について質疑が交わされ、通産省は、本省と地方の通産局に設置されている消費者相談室に対する各種相談のうち金の取引にかかわるものが八四二件、全体の一五パーセント、約一七億四〇〇〇万円を占め、金の現物まがい商法に関するものが相当含まれているが、通産省にはいわゆる立入検査権がないため、豊田商事の金地金の保有量、その運用方法の担保など企業内容については掌握しておらず、前述のような各種PRあるいは注意喚起に努めている旨答弁し、また、警察庁は、五七年八月以降七業者一一四名を詐欺罪等で検挙しており、今後ともこの種事案についての厳正な取締りに努めて行く旨答弁し、右警察庁の答弁内容は、昭和五九年三月一三日の朝日新聞で報道された。
同年三月二四日には、先物取引被害全国研究会の弁護士一三二名が、被害者の代理人として、豊田商事は、実際は顧客との取引高に相当する金地金を保有していない上、客から受け取った現金を営業経費につぎ込むなど経営が思わしくないのに、これを隠して勧誘したのは詐欺罪と出資法違反に該当するとして、同社の永野一男会長と幹部一〇名を告訴し、同日の大阪読売夕刊、毎日夕刊にはその旨が報道された。同年四月一二日の衆議院物価問題等に関する特別委員会において、通産省は前述の答弁を繰り返し、立入検査権その他の強制権限を有していない以上、より突っ込んで行政指導をすることには限界があることを指摘した。
8 豊田商法をめぐるトラブルに関する報道は、その後も、昭和五九年五月三一日大阪読売、同年七月一九日朝日、同年八月一一日日本経済夕刊、同月一二日大阪読売、同年九月一〇日大阪読売夕刊、同年一一月一日大阪読売、同月一三日大阪読売、同月一七日大阪読売夕刊、同月二〇日、二二日大阪読売奈良版などの各新聞で相次いで行われ、同月二〇日の第一七回消費者保護会議では、消費者保護推進の具体的方策を決定したが、その中で、訪問販売等の適正化及び悪質な勧誘行為の防止等と題して、金の現物取引等と称する取引の中には、代金と引換えに顧客に契約証書まがいのものを手渡し、後日顧客が現物の引渡しを求めても、これに応じないなどの悪質行為を行う者がみられ、海外商品先物取引を利用した悪質行為による消費者被害も多発しているため、不法事犯の取締りの強化等関係法令の厳格な運用を行うとともに、積極的な情報提供を行うことにより、消費者被害の防止を図るべきことを挙げている。
9 第一〇二回国会においては、同年一二月二〇日の衆議院物価問題特別委員会において、警察庁は、消費者保護ということを重点に取り締まるよう全国に繰り返し指示している旨答弁し、さらに、昭和六〇年二月八日の衆議院予算委員会のほか、同年三月二六日の衆議院物価問題特別委員会等において再三にわたり豊田商事の問題が取り上げられ、通産省は、最近の政策として、「悪質海外商品取引業者―気をつけよう!こんな手口」というリーフレット一〇万枚を作成・配布して一般消費者へのPRを進め、金取引をめぐるトラブルを未然に防止するよう努力している旨答弁し、また、公正取引委員会は、豊田商事の営業行為そのものに不当性があって、どこの部分を正せば社会的にも容認される、企業として認められるものになるというものではなさそうなので、独禁法、景表法による規制では手に負えない感じがしている旨答弁した。この間、通産省産業政策局商政課長及び資源エネルギー庁鉱業課長は、同年六月一九日、豊田商事に対し、消費者保護の観点から新規の勧誘及び契約を停止すべき旨の通商産業省設置法(以下「通産省設置法」という。)に基づく指導文書を内容証明郵便で発送した。
第三個人被告らの責任について
一勧誘行為における違法性
1 豊田商法におけるセールス方法
<書証番号略>によれば、豊田商事のセールス内容は次のようなものであったことが認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。
(一) まず、テレフォンレディーと呼ばれる女子従業員が、顧客に対し無差別に電話で純金の購入を勧誘し、購入の見込みがあれば、これをチェックしてテレフォン面談用紙(原紙)を作成する。その際に、購入の意思の有無のほか、電話したときの在宅者の人数、同居者の有無、電話時に不在の同居者がある場合はその行き先及び帰宅時間などの顧客の家族関係に関する情報、投資経験の有無、持家の有無、二〇歳前半及び七〇歳以上の顧客については手持ち資金の有無、家庭内における財産等の形成、処分に関する決定権者などの顧客の資産状況に関する情報をできる限り収集して記載した上で右面談用紙を営業係に回す。右のような家族関係、資産関係についての情報を収集する趣旨は、豊田商事が、豊田商法の対象者を主として資産を有する特に一人暮しの老人や家庭の主婦などとしていたため、右対象者に該当するか否かをチェックすることにあった。
(二) 営業係では、右面談用紙を各営業社員に割り当て、割当てを受けた営業社員は、右情報に基づいて昼ころから顧客の自宅を訪問し、まず会社へ電話した上で、顧客宅に入り、当初、アプローチと称し、純金の話はしないで世間話をしながら客の警戒心を解き、虚言や口実を述べて、何とか理由をつけて顧客宅へ上げてもらうよう努力する。これに成功すると、まず、客の警戒心がとれるまで、十分な時間をかけてから、おもむろに財産保全のアドバイスをするかのように装って、預貯金等の話をして客の資産を把握し、その後で純金についてパンフレット等を示しながら、前記認定のようなセールストークを用いて、商品の説明をし、この間、炊事、洗濯等の見せ掛けの親切行為をして人情に訴えたりもする。ひとしきり純金の説明をして客が理解を示したところで、クロージングと称する追込みの段階に入り、ここに至って初めて売込みに入る。この段階では、純金の購入は、今行っている預貯金を移し替えるにすぎない、預貯金の目減りを防止する有効な手段であるなどの点を強調し、客の抵抗感を払拭するように努めるとともに、金相場は毎日変動するから買おうと思ったその時がチャンスであると言って勧誘する。これに対して、客が、「金がない」、「忙しい」、「時間がない」、「主人と相談する」、「興味がない」、「検討する」、「考えてみる」、「他で投資しているからもう結構だ」、「土地の方がよい」などと逃げ口上を言った場合には、これを切り返して、拒絶できないようにする。さらに、客が未だ購入を決意していない段階で、営業社員が、客宅から豊田商事に電話し、会社で待機している上司との間で、客の注文がたくさん出ていて現物は残り少ないから買うのなら今しかない、今なら何とかできる等の虚偽の会話をし、これを客に聞かせて客の気持ちをあおるキャッチボールないしあおりと呼ばれる手法を試みる。これでも購入する気にならない顧客に対しては、土下座をするなどの泣き落とし戦術を用い、それでも功を奏しないときは断念することになるが、その場合には、会社に電話を入れ、営業社員の粘りが足りないと上司が判断したときは、もっと粘るよう叱責を受ける。このようにして、営業社員は、契約を締結してもらうまで、数時間から場合によっては一〇時間以上にわたり、何と言われても居座って粘り、仮に断念する場合でも五時間トークと称して最低五時間顧客宅に留まるべきものと教育されていた。
(三) そして、客が純金を購入してもよい気になったり、弱気を見せた場合には、一度会社を見てくれと勧め、客が来社すると、過剰ともいえるサービスをし、上司が営業社員と同様のセールストークで説得し、あるいは客の手に純金の現物を持たせるなどの手段も用いて、客が購入するまで帰宅させないようにし、客に根負けさせて純金の購入を決意させ、また、来社時点で購入を決意している顧客に対しては、追加購入を決意させるように努める。以上が来社トークと呼ばれ、豊田商事において原則とされていたものであった。豊田商事の各支店・営業所は、いずれも各地の一流の場所にあり、豪華な設備、調度類を備えており、また、客に示されるパンフレット類も内外の奇麗な風景写真や立派なビルディング、コンピューター、海外の事務所等の写真が写されており、美辞麗句が並べられていたが、豊田商事の業務内容についての十分な説明はされていなかった。顧客が純金の購入を決めると、代金の授受を行うが、代金を用意していない客がいる場合には、郵便局、保険会社、証券会社、銀行、信託銀行、その他の金融機関の区別に従い、払戻、解約、借入の方法により代金を調達させ、客がこれを渋るときは、営業社員が手続に同行したり、顧客の預貯金通帳等の必要書類、印鑑を預かり、委任状を徴した上で手続を代行するなどした。代金の授受が終わると純金ファミリー契約について、前記のセールストークを用いての勧誘に入り、同様に顧客が契約を締結すると言うまで粘り強く勧誘した。なお、純金ファミリー契約の勧誘については会社内で行う場合も、客宅で行うこともあるが、経験の浅い社員は客を来社させて上司に勧誘してもらうこととされていた。
(四) 豊田商事においては、全社的にほぼ同一の方法、内容で右のようなセールス手法についての社員教育を実施しており、そのために、同社従業員のセールス手法は個々に若干の差異はあるものの、その基本的内容は同一であった。右社員教育の内容は、豊田商事に入社した営業社員が見習社員として一〇日間の研修を受けるもので、その際、純金の三大利点の説明、顧客勧誘の技術指導、勧誘の実演などを豊田商法の実践方法についての教育と称して、ビデオ教材を使用するなどしてマニュアルに従って統一的に教授されるというものであった。豊田商事の営業社員は、会社の指示で先輩の勧誘方法に関する教材をコピーして所持し、ほとんどこのときの指導に従って実際の勧誘行為を行い、また、顧客を勧誘するに際し、純金のイメージを最大限に利用して純金の確実性、安全性を説くとともに、顧客がその現物を取得していると錯覚させ、純金は絶対に損をしないと信じさせていた。
2 豊田商事従業員の高額な歩合給
(一) <書証番号略>によれば、次のような事実が認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。
営業社員の正社員については、固定給月額二五万円(後に三〇万円に変更)が支給され、ある一定の売上を超えればこれに営業手当五万円ないし一〇万円が加算され、さらに、導入ゲージ(五年もの純金ファミリー契約の実導入額及び実継続額と一年もの純金ファミリー契約の実導入額及び実継続額の各二分の一の合計額)三〇〇万円のノルマ(後に四〇〇万円に変更)を達成すれば、それを一〇〇万円超えるごとに三パーセントの歩合給(後に六パーセントに変更。昭和五八年一二月に小林良江が豊田商事前橋支店に入社した当時は四〇〇万円を超えた部分全体に対して一〇パーセント、その後値上げされ、昭和五九年一〇月三一日までは一五パーセントであったが、同年一一月一日から一二パーセントとなった。)が支給され、さらに、昭和五八年一〇月末日までは一キログラムの売上に対して四万円、それ以降は一キログラムの売上に対して一〇万円の賞金が支給されることとされていた。また、昭和五九年一二月一日当時では、係長、主任、ヘッドなどの役職者には月額二万円ないし一五万円の役職手当が支給されるとともに、個人表彰賞金として、月間営業成績が一位の営業社員に六〇万円が支給されるのを初めとして、成績優良者には賞金が与えられた。なお、純金ファミリー契約については導入金額全額が売上とされたが、現物売りについては、手数料だけが売上とされ、歩合給も二パーセントであった。
管理職社員については、昭和五九年一二月一日当時、基本給に役職手当を加えた本給が、部長で一二〇万円ないし一四〇万円、次長で九〇万円ないし一一〇万円、課長で六〇万円ないし八〇万円などとなっており、更に一定額の手当て、日割ノルマ達成賞金、月間ノルマ達成賞金、支社一位賞金などが支給された。役職手当は、昭和五九年一〇月三一日以前は、総合ノルマの四〇パーセント以上を、同年一一月一日以降は、総合ノルマの五〇パーセント以上を達成した課の課長、支店・営業所の支店長、営業所長及び部長に支給された。
そして、支店・営業所ごとに次のようなノルマが定められていた。すなわち、ノルマは、導入額すなわち売上入金額についての導入ノルマ、継続額についての継続ノルマ、導入ノルマと継続ノルマの合計額である総合ノルマからなり、昭和五九年一二月一日当時で、月間の導入ノルマは一係につき三〇〇〇万円を原則とし、継続ノルマはその月の満期額の七五パーセントとされ、これを基準としてさらに日割ノルマが算出されていた。昭和五九年一二月ないし昭和六〇年四月当時で、日割の総合ノルマは、三〇〇万円台から多いところで九〇〇万円台、月間ノルマは、八〇〇〇万円台から多いところでは二億円を超え、全社的には一二〇億円を超えるという極めて多額のものであった。右支店・営業所ごとのノルマを前提として、各課のノルマが決定され、個々の社員はこのノルマを達成することを目標として営業活動を行い、これを達成すれば、前記のような賞金が支給された反面、ノルマ達成率が低い管理職社員、営業社員に対しては降格処分が行われた。豊田商事の役職社員であった高島廣志、藤原義久、和田康生、竹本成幸、山田省子らの昭和五九年一二月ないし昭和六〇年四月の給与は月額で二〇〇万円台から多いものでは九〇〇万円台と一般の給与水準と比較して極めて高額となっていた。
(二) 以上の事実によれば、豊田商事の従業員たる個人被告らは、一定のノルマを課され、管理職から締付けを受けると同時に、自らも高額の歩合給(これが豊田商事の財務状態を悪化させていたことは前記認定のとおりである。)を得るため、なりふりかまわず違法商法を実践していたものであり、このことが前記認定のセールス方法を積極的に推進する重要な要因となっていたものと認められる。
3 豊田商事のセールス方法の違法性
(一) まず、豊田商事のセールス方法のうち、テレフォンレディーによる無差別電話勧誘及び営業社員による訪問販売は、金投資の危険性から取引不適格者と判断される者を引き込む可能性を有する行為であるから、それ自体として社会的相当性を欠く行為であると認められる。すなわち、金相場は、前記認定のとおり、世界各国の政治情勢、経済情勢等によって複雑に変動し、その変動を把握することは専門家でも容易ではないから、一般大衆が金に対する投資をする場合には、その目的が金の保有自体にあるような場合を除いては、慎重な考慮が望まれ、業者においてもこのような事情は当然知悉しているということができるから、業者としては、取引の不適格者を引き入れないようその勧誘自体も慎重に行うべきことが要請されるものというべきである。このことは、<書証番号略>からも認められるごとく、金地金の健全な流通機構の整備と正しい知識の普及を目的として通産省の許可の下に社団法人として設立された流通協会の正会員店、登録店、賛助会員店においては、電話や訪問による販売は一切行っておらず、店頭における現金販売を行うのみであることからも明らかであり、金投資とは対象物や取引形態等の点で差異はあるが、商品先物取引においても、商品取引所の全国団体である社団法人全国商品取引所連合会と商品取引員の全国団体である全国商品取引員協会は、業界の自主規制として外務員の不都合な行為を規制すべく、「商品取引員の受託業務に関する取引所指示事項」を定め、その中で、新規委託者の開拓を目的として面識のない不特定多数者に対して無差別電話勧誘を行うこと、恩給・年金・退職金・保険金等により主として生計を営む者及び主婦等家事に従事する者等の不適格者の勧誘を行うこと、商品取引参加の意思がほとんどない者に無差別あるいは執ような勧誘を行うこと、見込み客といえども相手の都合を無視した早朝又は深夜の訪問及び面会の強要等行き過ぎた勧誘を行うことをいずれも禁止しているのである。
次に、豊田商法が、セールスの対象を主として資産を有する特に一人暮しの老人や家庭の主婦等に絞っていたことは、これらの者が、一般的には金投資に必要な知識を有していないことから、著しく不当なセールス方法であるというべきである。また、五時間トークをはじめとする粘り、居座りのセールス手法、キャッチボールと称するあおりの手法、泣き落とし戦術などは顧客の正常かつ冷静な判断力を失わせるものであり、豊田商事の豪華な設備、調度やパンフレットと相まって、社会的相当性を欠くものと認められる。さらに、客が純金の売買代金を、金融機関において払戻、解約、借入により調達する場合に、営業社員が顧客に同行したり、これらの手続を代行することは、その翻意を事実上困難にし、手持ち資金を把握して、これを拠出させるために極めて有効な手段であって、顧客の資産を散逸させ、ひいては生計の資までを奪うことに帰着する可能性のある手法であるといわなければならない。
(二) 以上のとおり、豊田商事のセールス方法は、それ自体として違法性の強いものである上、これが、違法な豊田商法遂行の対価として支給され、かつ、豊田商事の経営を破綻させ、顧客への純金の返還を困難ならしめる要因となった高額の歩合給によって推進されたことからすれば、一層その違法性は重大なものというべきである。
二個人被告らの不法行為責任
1 個人被告らの違法行為
(一)第一の一記載の自白したものとみなされる事実及び別表二の一ないし一三「原告」欄記載の各原告に対応する同表「認定証拠」欄記載の各証拠によれば、当該原告に対応する同表「被告」欄記載の各被告は、豊田商事の従業員として、同原告に対応する同表「取引年月日」欄記載の日に、これに対応する同表「被告の関与の有無・態様・責任額」欄の各被告の「関与」欄記載の関与態様で、同表「取引量」欄記載の量の純金を、一グラム当たりの価格を同表「グラム単価」欄記載の額として同原告に購入させ、同時に購入した純金について契約期間を同表「契約期間」欄記載の期間とする純金ファミリー契約を締結して、右純金の売買代金及び手数料名下に右取引年月日に対応する同表「支払金額」欄記載の額の金員の交付を受けたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
なお、前掲各証拠によれば、右個人被告らの関与態様については、同表「被告の関与の有無・態様・責任額」欄の各被告の「関与」欄に○と記載された個人被告は、対応する同表「原告」欄記載の原告に対する前記内容の豊田商法を直接実施した者であり、同表「被告の関与の有無・態様・責任額」欄の各被告の「関与」欄に④と記載された個人被告は、現実の取引行為者の上司であって、対応する同表「原告」欄記載の原告に対して現実の行為者にその実施を指示、命令することにより関与した者であると認められる。
また、<書証番号略>によれば、個人被告らが、原告らに純金を売却し、同時に純金ファミリー契約を締結した場合に原告らから交付させた支払金額の算定方法は、次のとおりであったと認められる。すなわち、純金売買契約における代金額を純金一グラム当たりの価格(別表二の一ないし一三「グラム単価」欄記載のもの)に購入した純金のグラム数(同表「取引量」欄記載のもの)を乗じて算出し、右代金額に手数料割合(購入したインゴットに応じ、一〇〇グラムバーにつき五パーセント、五〇〇グラムバーにつき三パーセント、一〇〇〇グラムバーにつき二パーセント)を乗じて算出される手数料額を右代金額に加算した上、純金一グラム当たりの価格の下二桁を切り捨てた額に購入した純金のグラム数及び前記認定の純金ファミリー契約に基づく一年当たりの賃借料割合(同表「契約期間」欄記載の契約期間が五年のものについては一五パーセント、一年のものについては一〇パーセント)を乗じて算出される一年分の賃借料を減じた額により算定された。これを算式で示すと次のとおりである(以下「本件支払金額算定式」という。)。
〔純金1グラム当たり価格(円)×購入料(グラム)×(1+手数料割合(パーセント)×0.01〕−〔純金1グラム当たり価格の下二桁を切り捨てた額(円)×購入量(グラム)×1年当たりの賃借量割合(パーセント)×0.01〕
さらに、<書証番号略>によれば、原告らが、豊田商法により純金を購入する場合の取引単位は、一キログラム、五〇〇グラム、一〇〇グラムの三種類であったことが認められる。
また、前記認定のとおり、昭和五九年以降に豊田商事が締結した純金ファミリー契約は原則として契約期間を五年とするものであったから、本件各取引の契約期間について、証拠上明らかでないものについても、昭和五九年以降に締結された契約については五年、それ以外については一年であったものと推認するのが相当である。
(二) 原告らは、別表二の一ないし一三「支払金額」欄に×印を付した取引及び同表「被告らの関与の有無・態様・責任額」欄の各被告の「関与」欄に×印を付した取引についても、その取引の存在及び当該被告の関与を前提として不法行為責任の成立を主張する(なお、右「関与」欄に一印を付した取引については当該被告の関与は主張していない。)が、本件全証拠によっても右取引の存在及び当該被告の関与を認めるに足りない(この場合の個人被告らの責任の有無については後記3の(一)のとおりである。)。
(三) 原告ら主張の本件各取引の存否及び内容並びにこれに対する個人被告らの関与の有無及び態様等に関し、証拠上明白な対応原告の分を除き、以下、補足的に説明する(括弧内は原告番号)。
ア 原告福田伝次郎(一)の請求について
同原告主張の昭和五八年一二月一四日付取引の存在を認めるに足りる証拠はない。同月一三日付、昭和五九年二月一日付、同年一二月七日付及び昭和六〇年一月二三日付の各取引については、グラム単価を認めるに足りる証拠はないが、<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、その支払金額は、結局、同原告主張の金額であることが認められる。なお、<書証番号略>によれば、昭和五九年一二月一日付取引として主張する取引量は、同原告主張の五〇〇グラムを超えるものであることが窺われるが、<書証番号略>により、右主張の限度において取引の存在を肯認すべきものである。そして、<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、被告三日市は、同原告主張の取引のうち、昭和五八年一二月一三日付、昭和五九年二月一日付及び同月一〇日付の各取引につきその担当者の上司の地位でこれに関与したことが認められるが、その余の取引への関与については、<書証番号略>の記載に照らし、これを認めることができない。
イ 原告阿部みち(八)の請求について
同原告主張の昭和五九年七月一六日付取引については、グラム単価を認めるに足りる証拠はないが、<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、その支払金額は、結局、同原告主張の金額であることが認められる。また、<書証番号略>によれば、被告堀内は、本件各取引の担当者の上司の地位でこれに関与したことが認められる。
ウ 原告荻上銀次(九)の請求について
<書証番号略>によれば、同原告主張の昭和五九年一〇月一二日付取引については、被告堀内が担当者とともにその上司の地位でこれに関与したものと認められるが、同年一二月一五日付取引については、<書証番号略>に照らし、同被告が豊田商事の従業員としてこれに関与したものとは認められない。
エ 原告奥知章(一〇)の請求について
同原告主張の本件各取引については、グラム単価を認めるに足りる証拠はないが、<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、その支払金額は、結局、同原告主張の金額であることが認められる。また、<書証番号略>及び原告奥知章の本人尋問の結果によれば、昭和五九年一二月三日付、同月六日付、昭和六〇年一月七日付及び同月一一日付の各取引を除く本件各取引については、被告堀内がその担当者の上司の地位でこれに関与したものと認められるが、昭和五九年一二月三日付、同月六日付、昭和六〇年一月七日付及び同月一一日付の各取引については、<書証番号略>に照らし、同被告が豊田商事の従業員としてこれに関与したものとは認められない。
オ 原告小谷松ナツ(一一)の請求について
<書証番号略>によれば、被告堀内が、昭和五九年九月一四日付から同年一〇月三〇日付までの本件各取引に担当者とともにその上司として関与したことが認められ、これに近接する同月三一日付取引の時点でも上司としての地位にあったことが推認される。
カ 原告秋場富美子(一五)の請求について
<書証番号略>及び原告秋場富美子の本人尋問の結果によれば、被告上野は、本件各取引の担当者とともにその上司の地位でこれに関与したことが認められる。
キ 原告石川君子(一七)の請求について
同原告主張の昭和六〇年一月三一日付、同年二月五日付及び同月二八日付の各取引については、グラム単価を認めるに足りる証拠はないが、<書証番号略>によれば、その支払金額は、結局、その主張の金額であることが認められる。
ク 原告菊地義胤(二三)の請求について
被告長濵は、同人が関与した菊地との契約が、その後、同原告の申出により解約されたと主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。
ケ 原告坂井武(三〇)の請求について
同原告は、昭和六〇年三月一一日付の四〇〇グラムの取引の存在を主張するが、<書証番号略>によれば、右取引における取引量は三〇〇グラムであることが認められる。また、同原告は、昭和六〇年四月九日付取引について、その支払金額が一一七万九三八五円である旨主張するが、<書証番号略>によると、右支払金額は一一七万四三八五円であることが認められる。そして、<書証番号略>によれば、被告菊地は、同原告主張の昭和五九年一一月一五日付取引については担当者とともにその上司の地位で、同月一六日付取引については担当者の上司の地位でこれに関与したことが認められるが、昭和六〇年三月一一日付及び同年四月九日付の各取引については、<書証番号略>の記載に照らし、同被告が上司の地位でこれに関与したものとは認められない。
コ 原告中田静子(三五)の請求について
<書証番号略>によれば、被告吉川は、同原告主張の昭和六〇年一月一四日付取引については担当者とともにその上司の地位で、その余の各取引については上司の地位でこれに関与したことが認められる。
サ 原告矢部秀子(三七)の請求について
<書証番号略>及び原告矢部秀子の本人尋問の結果によれば、被告吉川は、本件取引の担当者とともにその上司としてこれに関与したことが認められる。
シ 原告亡中村満雄訴訟承継人中村雄三(三八)の請求について
同原告主張の本件各取引の存在については、<書証番号略>によっても認めるに足りず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
ス 原告細谷その子(四〇)の請求について
<書証番号略>及び原告細谷その子の本人尋問の結果によれば、被告小林は、本件取引の担当者とともにその上司としてこれに関与したことが認められる。
セ 原告大井政子(四一)の請求について
<書証番号略>によれば、同原告主張の昭和五七年一二月八日付二八〇〇グラム及び同月二五日付一〇〇〇グラムの各取引は、それぞれ同月八日付二七〇〇グラム及び昭和五八年一月二七日付一〇〇グラムの各取引であることが認められる。そして、本件各取引については、グラム単価を明らかにするに足りる証拠はないが、<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、その支払金額は、結局、その主張の金額であることが認められ、また、<書証番号略>によれば、被告斉藤及び同武藤は、本件各取引の担当者の上司の地位でこれに関与したことが認められる。
ソ 原告窪田すみえ(四五)の請求について
同原告主張の本件各取引のうち、昭和五九年四月九日付及び同月一〇日付の各取引のグラム単価を認めるに足りる証拠はないが、<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、その支払金額は、結局、その主張の金額であることが認められる。被告赤江が同原告主張の同年七月三一日付及び同年八月四日付の各取引に関与したことを認めるに足りる証拠はない。
タ 原告根岸重作(四六)の請求について
<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、被告井上は、本件各取引のうち、昭和六〇年三月二三日付の取引については担当者の上司の地位で、その余の各取引については担当者とともにその上司の地位でこれに関与したことが認められる。
チ 原告遠藤育子(四八)の請求について
<書証番号略>によれば、同原告主張の昭和六〇年三月一六日付七〇〇グラムの取引は、昭和五九年三月二九日付五〇〇グラム及び昭和六〇年三月一六日付二〇〇グラムの各取引であるが、その支払金額の合計額は、昭和六〇年三月一六日付取引による支払金額として主張する金額と一致することが認められる。
ツ 原告新井マス子(四九)の請求について
同原告主張の本件各取引のうち、昭和五八年八月二二日付取引については、<書証番号略>によってグラム単価が三三四〇円であることが認められ、支払金額は、右グラム単価に基づいて本件支払金額算定式により算出すると二八七万五〇八〇円となるが、同原告主張の二八七万四〇六〇円の限度で支払金額を肯認すべきものである。その余の取引についてはグラム単価を認めるに足りる証拠はないが、<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、その支払金額は、結局、同原告の主張する金額であることが認められる。また、<書証番号略>によれば、被告堀内は、昭和五九年一二月二二日付取引を除く本件各取引の担当者の上司の地位でこれに関与したことが認められるが、昭和五九年一二月二二日付取引については、<書証番号略>に照らし、同被告が豊田商事の従業員としてこれに関与したものとは認められない。また、被告渡邉が昭和五九年九月八日付取引に関与した旨の同原告の主張事実については、<書証番号略>によっても認めるに足りず、他にその的確な証拠はない。
テ 原告下田美知(五〇)の請求について
同原告主張の本件各取引に被告千葉が関与したことを認めるに足りる証拠はない。
ト 原告緑川栄四郎(五二)の請求について
<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、被告横関が本件各取引の担当者の上司の地位でこれに関与したことが認められる。
ナ 原告牧守雄(五五)の請求について
同原告主張の昭和五六年一二月五日付取引の存在を認めるに足りる証拠はない。また、<書証番号略>によれば、同原告主張の昭和五六年一二月二二日付一四〇〇グラムの取引は、同月二一日付四〇〇グラム及び同月二二日付一〇〇〇グラムの各取引であるが、その支払金額の合計額は、同月二二日付取引による支払金額として主張する金額と一致することが認められる。
(四) 次に、個人被告らが関与した右取引行為の態様についてみるに、豊田商事が、その従業員に対し、豊田商法及びその際の勧誘行為を実施して純金の売買契約及び純金ファミリー契約を締結するよう指導教育し、従業員らはこれを統一的、組織的に実施していたことは前記認定のとおりであるから、豊田商事の従業員が、顧客との間で純金の売買契約及び純金ファミリー契約を締結した場合には、特段の事情がない限り、前記認定の内容の豊田商法を実施し、また、その過程で前記認定の違法な勧誘行為を行ったものと推認するのが相当である。そして、本件の個人被告らについて右特段の事情は認められないから、各個人被告が関与した取引行為については、前記認定の内容の豊田商法が実施され、また、その過程で前記認定の違法な勧誘行為が行われたものというべきである。
2 個人被告らの故意・過失
(一) 進んで、個人被告らが、右取引行為に関与するに際し、豊田商法が前記のとおり欺まん的な内容のものであり、かつ、その勧誘方法も違法なものであることを認識し又は認識し得べきであったか否かについて検討する。
まず、前記認定の豊田商法の欺まん性のうち、純金の価格上昇等に関する表示及び金地金が課税対象とならない旨の表示については、金相場が世界各国の政治情勢、経済情勢等によって複雑に変動し、その変動を的確に予見することは専門家にとっても極めて困難であること、金地金も所得税、相続税等に関しては、課税要件を充足する限りその課税の対象となることがいずれも公知の事実であるから、個人被告らは、右表示が欺まん的、詐欺的で違法なものであることを認識していたか又は認識し得べきであったものと認められる。また、即時換金性に関する表示についても、純金ファミリー契約を締結した場合の中途解約の制限等は右契約の内容として明示されていたから、個人被告らは、右表示が欺まん的なものであることを認識し又は認識し得べきであったものというべきである。
(二) 次に、純金ファミリー契約の安全確実性に関する表示の欺まん性についての認識又は認識可能性について検討する。
この点について、個人被告の中には、個々の従業員は豊田商事の財産状態について詳細な知識を有することなく、正当な取引行為である旨の説明を信じて豊田商法を遂行したものであって、豊田商事が顧客の純金購入代金額に相当する純金を現実に保有していなかったこと及び顧客に対して純金ファミリー契約に基づく返還時期に契約どおりの純金を返還する見通しがなかったことを認識することは不可能であった旨主張する者がある。
しかしながら、前記認定のとおり、豊田商事の社員の中には、豊田商法に疑問を抱き、退社したり、顧客に解約を勧めたりする者も相当存在し、その中には、豊田商事が顧客の純金購入代金額に相当する純金を現実に保有していなかったこと及び顧客に対して純金ファミリー契約に基づく返還時期に契約どおりの純金を返還する見通しがなかったことを現実に認識していた者がいたことが明らかである。これらの者は会社の経理についてある程度の知識を有していたことは窺われるが、事柄の性格上、会社経理についての十分な知識のない社員であってもこれを認識し得なかったということはできない。さらに、前記認定のとおり、豊田商法の特異な内容から疑問を抱いて退社したり、内部告発をした豊田商事の従業員も存在しており、豊田商事破産管財人が同社破産後に多数の関係者から事情を聴取したところによれば、営業担当者らが資産運用について具体的説明を求めても、管理職はまともに返答することはせず、これだけの高給をもらえる会社は外にはないではないかなどと反問してはぐらかしたり、新聞等に同社を批判する記事が掲載されたときは臨時の賞与を支給し金銭の力で不安や疑問を封殺しようとしていたことも認められる。
以上の事実に加え、豊田商法が社会問題化して新聞報道、国会等で再三にわたって取り上げられ、行政官庁のPR活動などが頻繁に行われた前記認定事実を併せ考慮すれば、個人被告らは、たとえ一従業員として、豊田商事の財産状態について詳細な知識を有することなく、正当な取引行為である旨の会社の説明を信じて豊田商法を遂行したものであったとしても、豊田商事が顧客の純金購入代金額に相当する純金を現実に保有していなかったこと及び顧客に対して純金ファミリー契約に基づく返還時期に契約どおりの純金を返還する見通しがなかったことを認識し得たものといわざるを得ない。
そして、右認識が可能となった時期は、朝日新聞の記事が掲載されて詐欺まがい商法の報道の口火が切られた昭和五六年九月ころであったと一応いうことができ、その後豊田商法が社会的に問題とされるにつれ、右認識を得ることが一層容易化したものというべきところ、本件で問題とされている各取引は、いずれも同年一一月以降に係るものであるから、個人被告らは、右取引が行われた当時、右認識が可能であったものと認められる。また、個人被告らは、豊田商法を遂行する過程で前記認定の勧誘行為を実践していた以上、その違法性も当然認識し得たものというべきである。
(三) したがって、個人被告らは、前記認定の原告らとの取引が行われた際、豊田商法が欺まん的、詐欺的な商法であり、かつ、右豊田商法を展開する過程での契約締結に至る勧誘方法も違法であることを認識し又は認識し得べきであったものと認められる。
3 個人被告らの責任
(一) 原告らは、別表一の一ないし一六「被告の関与の有無・態様」欄に①と記載された個人被告は、対応する原告が豊田商法によって豊田商事と最初に契約を締結するまでの直接の担当者及び共同行為者であるから、その後の不法行為に関与したか否かを問わず、会社ぐるみの共同不法行為の第一原因者として、自ら行った行為及び当該原告のその後の豊田商法による被害について不法行為責任を負い、また、同欄に②と記載された個人被告は、対応する原告が豊田商法によって豊田商事と最初の契約を締結した後に契約行為に関与した者であって、豊田商事の一員であることから会社ぐるみの犯行の責任をすべて負うのみならず、①の行為者の不法行為を積極的に利用承継したことにより①の行為者との間でも共同不法行為を構成することになるから、自ら行った行為及びその関与前の当該原告の豊田商法による被害についても不法行為責任を負うと主張するので、この点について検討する。
まず、別表一の一ないし一六「被告の関与の有無・態様」欄に①と記載された個人被告についてみるに、原告らの大部分が、豊田商法によりいったん純金ファミリー契約を締結すると、その後も次々に同様の契約を締結し、被害を大きくしていたこと、豊田商事も、いったん顧客が契約を締結した場合には、更に契約額を増額させるよう働きかけることを従業員に指導していたことは前記認定のとおりである。こうしたところからすれば、豊田商事の特定の顧客に対する反復継続的な豊田商法の遂行は、同一の目的に出た一個の行為であり、全体として一個の不法行為を構成するともみられないではない。しかしながら、他方、豊田商法の法的性格が、純金の売買契約と右契約に基づく純金の引渡請求権を目的とする準消費寄託契約である純金ファミリー契約からなるものであることは前記認定のとおりであり、このような契約形態自体は、特に反復継続的取引としての性格を有するわけではないこと、いったん取引関係に入った顧客との間で更に取引を拡大するよう努力することは通常の企業においても行われるところであって、このようなことがあったからといって直ちに個々の取引行為全体が一個の取引行為となるとはいえないこと、本件において、豊田商事がその従業員により締結した個々の純金売買契約及び純金ファミリー契約は、それぞれに顧客の他の時期の契約とは別個独立の意思に基づいて締結されたものであり、個々の契約締結に際しては、それぞれ別個に契約締結の勧誘行為が行われているのであって、その際の担当者も必ずしも同一ではないことなどの諸事情を考慮すると、本件では、個々の取引行為はそれぞれ別個独立の取引行為であるといわなければならない。したがって、豊田商事従業員による個々の取引ごとに別個独立の不法行為が成立するというべきであり、特定の顧客の豊田商事との契約に関与したからといって、自らが関与する以前の当該顧客に対する契約についてはもとより、自らが関与しないその後に締結された契約についてまでも責任を負うということはできない。このように、個々の取引ごとに別個独立の不法行為が成立すると解する以上、別表一の一ないし一六「被告らの関与の有無・態様」欄に②と記載された個人被告についても、同様に、自らが締結行為に関与した契約以前に締結された自らが関与していない契約についてまで責任を負うということはできない。したがって、原告らの前記主張は採用することができない。
(二) 以上のとおりであるから、個人被告らは、別表二の一ないし一三「被告の関与の有無・態様・責任額」欄の各被告の「関与」欄に○と記載された行為については、対応する同表「原告」欄記載の当該原告に対する前記内容の豊田商法を直接実施したことにより、また、同表「被告の関与の有無・態様・責任額」欄の各被告の「関与」欄に④と記載された個人被告にあっては、現実の取引行為者の上司であって、対応する同表「原告」欄記載の原告に対して右豊田商法を直接実施しない場合であっても、現実の行為者にその実施を指示、命令するという形で関与したことにより、同表「被告の関与の有無・態様・責任額」欄の各被告の責任額欄記載の金額につき、それぞれ不法行為責任を負うものというべきである(個人被告らが不法行為責任を負う取引については、当該取引に対応する同表「責任」欄に○印を、不法行為責任を負わない取引については、同欄に×印をそれぞれ付した。)。
第四被告国の責任について
一公正取引委員会の責任
1 公正取引委員会の権限
(一) 不公正な取引方法及び不当表示の規制
独禁法一九条は、事業者は、不公正な取引方法を用いてはならないと定めているところ、同法二条九項三号は、右の不公正な取引方法に当たる行為の一つとして、不当に競争者の顧客を自己と取引するよう誘引し、又は強制する行為であって、公正な競争を阻害するおそれがあるもののうち、公正取引委員会が指定するものを掲げ、右規定を受けた一般指定の8により、「自己の供給する商品又は役務の内容又は取引条件その他これらの取引に関する事項について、実際のもの又は競争者に係るものよりも著しく優良又は有利であると顧客に誤認させることにより、競争者の顧客を自己と取引するように不当に誘引すること」が、同9により、「正常な商慣習に照らして不当な利益をもって、競争者の顧客を自己と取引するように誘引すること」が指定されている。また、景表法四条は、事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、同条一号ないし三号に掲げる表示(以下「不当表示」という。)をしてはならないと規定し、同条二号で、商品又は役務の価格その他の取引条件について、実際のもの又は当該事業者と競争関係にある他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認されるため、不当に顧客を誘引し、公正な競争を阻害するおそれがあると認められる表示を掲げ、同法において、これらの行為につき、簡易迅速な規制措置を定めている。
(二) 不公正な取引方法及び不当表示の規制に関する公正取引委員会の権限
(1) 独禁法二〇条は、同法一九条に違反する行為があるときは、公正取引委員会は、当該行為の差止め、契約条項の削除その他当該行為を排除するために必要な措置を命ずることができる旨(以下「排除措置命令」という。)規定し、景表法六条は、公正取引委員会は、同法四条に違反する行為があるときは、当該事業者に対し、その行為の差止め若しくはその行為が再び行われることを防止するために必要な事項又はこれらの実施に関連する公示その他必要な事項を命ずることができる旨(以下「排除命令」という。)規定している
(2) 公正取引委員会による独禁法上の排除措置命令は、同法第八章第二節の規定に従い、次のような手続を経て行われる(同法二〇条)。
まず、公正取引委員会は、一般からの報告(いわゆる申告、同法四五条一、二項)、一般的な調査活動などを通じての職権探知(同条四項)あるいは中小企業庁からの通知(中小企業庁設置法三条五項ないし七項)を端緒として、不公正な取引方法の調査活動(いわゆる審査)を開始する。調査の方法は、関係人からの事情聴取、帳簿書類の検査など多様であるが、公正取引委員会は、事件関係人又は参考人に出頭を命じて審訊し、又はこれらの者から意見若しくは報告を徴すること、鑑定人に出頭を命じて鑑定させること、帳簿書類その他の物件の所持者に対し、当該物件の提出を命じ、又は提出物件を留めて置くこと、事件関係人の営業所その他必要な場所に立ち入り、業務及び財産の状況、帳簿書類その他の物件を検査すること、以上の強制調査(いわゆる立件審査)を行う権限を有し(独禁法四六条一項)、また、相当と認めるときは、命令をもって定めるところにより、公正取引委員会の職員を審査官に指定し、右強制調査権限を行使させることもできることとされている(同条二項)。右調査がされると、公正取引委員会は調書を作成した上(同法四七条)、不問処分、適当な措置をとるべき旨の違反行為者に対する勧告(同法四八条一、二項)又は審判開始決定(同法四九条一項)のいずれかの措置をとる。公正取引委員会は、適当な措置をとるべき旨の勧告に違反行為者が応諾したときは、審判手続を経ないで勧告と同趣旨の審決(いわゆる勧告審決)をすることができ(同法四八条四項)、そうでない場合は、審判開始決定を行う(同法四九条一項)。審判は、準司法的手続であって、公正取引委員会又はその指定する審判官(同法五一条の二)が審判機関となり、その面前で審査官と被審人とが攻撃防御を繰り返す公開の対審を基本構造とし、冒頭陳述、立証のための証拠提出がされ、また、参考人の審訊や鑑定人の鑑定は刑訴法を準用して行われる(同法五三条の二)。証拠調べが終了すると、審査官、被審人双方の最終意見陳述がされた上で結審される。そして、審判手続開始後、審判官の審判審決がされる前に、被審人が、審判開始決定書に記載された事実及び法律の適用を認めて、違反行為の排除に関する計画書を提出し、それ以上の審判手続を経ずに審決を受ける旨申し出たときは、公正取引委員会が適当と認めれば、直ちに右計画書記載の具体的措置と同趣旨の審決(いわゆる同意審決)をすることができる(同法五三条の三)。同意審決の申出がない場合には、審判官は審決案を作成して、公正取引委員会に提出するとともに、その謄本を被審人又はその代理人に送達し、被審人又はその代理人は、二週間以内に審決案に対する異議の申立てをすることができ(公正取引委員会の審査及び審判に関する規則六六条ないし六八条)、申出により公正取引委員会に対する直接陳述の機会も与えられる(同法五三条の二の二)。公正取引委員会は、事件記録、異議申立書及び直接の陳述の内容に基づいて審決案を調査し、これを適当と認めるときは、同内容の審決をすることができるが、そうでないときは、これと異なる審決をし、又は自ら審判を開き、若しくは審判官に審判手続の再開を命ずることができる(同規則六九条)。審判手続を経た後にされる審判審決の内容は、違反行為を認定して排除措置を命ずるか、審判開始決定の時までに違反行為がなかったと認めるか、その時までは違反行為があったが、既になくなったと認めるかのいずれかであり、最後の場合には、既往の違反行為に対する排除措置を命ずることもできる(同法五四条)。さらに、審判開始決定後、審決によって排除措置が命ぜられる前に、緊急の必要があれば、公正取引委員会は、東京高等裁判所に対し、違反行為等を一時停止すべき旨の命令(いわゆる緊急停止命令)を申し立てることができる(同法六七条一項、八六条)。審決に対しては、審決書謄本送達後三〇日以内に同裁判所に審決取消訴訟を提起することができる(同法五八条一項、七七条)。審決(勧告審決、同意審決、審判審決)が確定すると、被害者(事業者及び一般消費者)は、右確定の日から三年以内に、不公正な取引方法を用いた業者に対する無過失の損害賠償請求訴訟を同裁判所に提起することができる(同法二五条、二六条、八五条二項)。
以上のとおり、排除措置命令の手続において、公正取引委員会には、調査、審判、緊急停止命令の申立ての諸権限が与えられている。
(3) 公正取引委員会による景表法上の排除命令は、同法の目的である簡易迅速な処理という見地から独禁法における勧告、審判の手続に代えて、当該事業者に対し、あらかじめ期日及び場所を指定して、意見陳述及び証拠提出の機会を与え、聴聞を行った上で発することができる(同法六条一、二項)。この手続においても、一般からの報告又は職権探知により調査が開始されること、強制措置も行うことができることなど、調査に関しての公正取引委員会の権限は、独禁法違反事件についての排除措置命令の場合と同様である(景表法七条一項)。調査の結果、景表法違反が認められる場合には、公正取引委員会は、警告を発するに止める場合もあるが、前記のとおり聴聞の手続を経て排除命令を発することもできる。排除命令は、官報に掲載する方法によって告示され(同法六条三項)、告示の日から三〇日以内に公正取引委員会に対する不服申立てすなわち審判手続の開始の請求がされないときは、確定して、無過失損害賠償請求権の裁判上の主張(独禁法二六条)及び確定審決違反の罰則(独禁法九〇条三号)に関し、確定審決とみなされる(景表法八条一項、九条一項)。排除命令の相手方その他不服のある者から審判手続開始の請求があれば、その後は独禁法上の審判手続に移行するが、審判手続が開始されても、審決があるまでは排除命令の効力は失われない(同法九条二項)。
以上のとおり、排除命令の手続において、公正取引委員会には、調査、排除命令の諸権限が与えられているが、独禁法上の排除措置命令手続との重複を避けるため、同法による審判手続の開始又は緊急停止命令の申立てのあった事件については、景表法による排除命令の手続がとれず、また、排除命令手続の対象となった違反行為については、審判開始請求がない限り、独禁法による審判手続及び緊急停止命令の申立てができない(景表法七条三項、八条三項)。このように独禁法上の審判手続と景表法による排除命令とは二者択一の関係に置かれているが、結果に不均衡が生じないよう、直ちに独禁法の審判手続が開始される場合にも、景表法の排除命令と同一内容の事項を命ずることができ、排除命令も独禁法上の審決も、いずれも、違反行為が既になくなっている場合でもできる(景表法六条一項、七条二項)。いずれの手続を選択するかは、審判開始の請求があった場合を除き、公正取引委員会の裁量に委ねられている(同法七条一項後段参照)。
(三) 公正取引委員会の権限の性格
(1) 公正取引委員会は、右のとおり、独禁法及び景表法に基づき、独禁法一九条の不公正な取引方法や景表法四条の不当表示に該当する行為について、排除措置命令又は排除命令を発し、緊急停止命令を申し立て、又はこれらの権限行使の前提として強制調査を含む調査を行うなどの権限を与えられているところ、まず、調査権限についてみるに、公正取引委員会が事件の端緒となる事実に接した場合、これを事件として審査すべきか、任意の方法によるか、審査官をして強制的に調査を行うかなどの点について具体的に定めた法令の規定はない。もっとも、独禁法四五条二項は、同条一項の独禁法の規定に違反すると思料される事実の報告があったときは、公正取引委員会は、事件について必要な調査をしなければならないと規定するが、この場合においても、いかなる方法で調査すべきかなどの点についての具体的な規定はない。そして、独禁法が専ら公正かつ自由な競争の促進という公益保護を目的とし、その適用対象は絶えず変動し複雑多岐にわたる経済事象であって、独禁法上も、同法違反被疑事実を審査するための要件については、公正取引委員会は、この法律の規定に違反する事実があると思料するときは、職権をもって適当な措置をとることができる(同法四五条四項)と、強制調査の要件については、公正取引委員会は、事件について必要な調査をするため、次の各号に掲げる処分をすることができる(同法四六条一項)とそれぞれ規定され、また、公正取引委員会の審査及び審判に関する規則においても、審査官による審査手続の開始について、公正取引委員会は、事件の審査を必要と認めたときは、審査官に右審査に当たらせるものとする(同規則九条四項)という極めて抽象的な規定が置かれるに止まっていること、審査権限発動の判断は、当該違反被疑事実の性質、態様、構成要件該当性、公正競争阻害性の程度など極めて専門的かつ技術的な事柄にかかわるものであることなどの諸点にかんがみれば、前記調査権限の行使は、公正取引委員会の広範な裁量に委ねられているものというべきである。
(2) 次に、勧告、審判、審決、緊急停止命令の申立て、排除命令等の各権限についてみると、まず、勧告、審判、審決、排除命令等については、公正取引委員会は、独禁法一九条等の規定に違反する行為があると認める場合には、当該違反行為をしているものに対し、適当な措置をとるべきことを勧告することができる(同法四八条一項)、適当な措置をとるべき旨の勧告を受けたものが当該勧告を応諾したときは、公正取引委員会は、審判手続を経ないで当該勧告と同趣旨の審決をすることができる(同法四八条四項)、事件を審判手続に付することが公共の利益に適合すると認めるときは、当該事件について審判手続を開始することができる(同法四九条一項)、審判開始決定をした後、被審人が、審判開始決定書記載の事実及び法律の適用を認めて、その後の審判手続を経ないで審決を受ける旨を文書をもって申し出て、かつ、自らとるべき具体的措置に関する計画書を提出した場合において、適当と認めたときは、その後の審判手続を経ないで当該計画書記載の具体的措置と同趣旨の審決をすることができる(同法五三条の三)と規定されている。また、景表法四条等に違反する行為があるときは、当該事業者に対し、その行為の差止め若しくはその行為が再び行われることを防止するために必要な事項又はこれらの実施に関連する公示その他必要な事項を命ずることができるなどと定められている(同法六条一項)。もっとも、審判手続を経た後、独禁法一九条等に違反する行為があると認める場合などには、一定の措置を命じなければならないとされる(同法五四条)が、ここに到るまでの過程でいかなる手続、方法をとるかについて公正取引委員会を拘束するような趣旨の規定はない。緊急停止命令の申立てについても、独禁法六七条は、公正取引委員会の申立てによりと規定するのみで、右申立権の行使についての具体的規定はない。したがって、前記勧告、審判、審決、緊急停止命令の申立て、排除命令等の各権限の行使も、調査権限の場合と同様に、公正取引委員会の広範な裁量に委ねられているというべきである。
そこで、以上のように、公正取引委員会の各権限の行使が、その広範な裁量に委ねられていることを前提として、本件において、公正取引委員会が右権限を行使しなかったことが、国家賠償法一条一項の違法性を有するといえるか否かについて検討する。
2 豊田商事の事業者性
(一) 被告国は、豊田商法が会社ぐるみの詐欺的、欺まん的な商法であり、豊田商事は実体のない詐欺会社であって、このように詐欺的取引のみを行う者は、公正かつ自由な競争の主体たり得ないから、独禁法及び景表法の適用対象である事業者に当たらず、したがって、本件で公正取引委員会が右各法を適用して、これに基づく権限を行使することはできない旨主張するので、まず、この点について検討する。
独禁法一九条にいう不公正な取引方法及び景表法四条にいう不当表示の禁止行為の主体とされる事業者の意義については、独禁法二条一項において、商業、工業、金融業その他の事業を行う者とされ、景表法の事業者の意義についても同様であると解される。この事業とは、何らかの経済的利益の供給に対応し反対給付を反復継続して受ける経済活動を指すが、独禁法の基本理念は、直接的には、公正かつ自由な競争の促進を図ることにあり、景表法の基本理念も同様であって(独禁法一条、景表法一条)、このような独禁法及び景表法の趣旨に照らすと、その適用対象である事業者は、公正かつ自由な競争の主体たり得る者でなければならないというべきである。そのためには、競争当事者が、競争の要因たるべき事項について自主的に判断し得る状態が保たれると同時に、企業性の承認を前提とした企業の能率、商品の価格、品質などをめぐる競争が行われることを要するから、専ら詐欺取引を行うなど公正かつ自由な競争の促進を図る余地のない取引活動を行う者は、独禁法及び景表法の適用対象である事業者には当たらないものといわざるを得ない。
(二) しかしながら、豊田商事が行っている豊田商法は、前記認定のとおり、純金の売買契約及び準消費寄託契約である純金ファミリー契約の締結を内容とするものであり、経済的利益の供給に対して、それに対応する経済的利益の反対給付を受ける行為を反復継続して行う形式をとっているから、少なくとも外形上は、独禁法及び景表法の事業者性の前提となる事業に該当するものということができる。そこで、右商法の内容についてみるに、前記認定のとおり、右商法は、実際には、純金が確実に値上がりするものではなく、税金も一定の場合には課され、純金ファミリー契約を締結した場合には純金を即時に換金することが困難であり、さらに、顧客の純金購入代金に相当する純金を保有せず、かつ、契約上の返還時期に契約どおりの純金を返還するだけの資金を調達する十分な見込みがないにもかかわらず、顧客に対し、純金の売買及び純金ファミリー契約による投資が安全確実な資産運用方法であるかのごとき虚偽の表示をしてその旨誤認させ、もって顧客らから純金売買代金及び手数料名下に金員の交付を受けたものであって、その意味では違法な欺まん的取引であったといわざるを得ない。しかし、他方で、前記認定の事実によれば、豊田商法における純金の価格上昇、無税及び即時換金性に関する表示については、必ずしも全く根拠がないものであったともいえず、また、純金ファミリー契約の安全確実性に関する表示についても、豊田商事が純金ファミリー契約に基づく返還時期に純金を返還するための資金調達を全く考えていなかったとはいえないのであって、現に、右商法が社会問題化して新聞報道、国会等で再三にわたって取り上げられたにもかかわらず、警察庁は、詐欺罪等の適用によって刑事問題として対処することについてはかなり慎重であったことが窺われる。そうしてみると、豊田商事が当初から専ら意図的に顧客を欺罔して金員を騙取しようとして豊田商法を展開していたとまで断定することは困難であるばかりでなく、<書証番号略>によれば、豊田商事は、豊田商法以外にも、銀河計画を中心として、レジャー部門のほか、海外投資部門、商品取引部門、医療機器部門、航空事業部門など多数の部門にわたって豊田商事グループ各社を設立し、相当額の出資、貸付などをしていたことが認められ、右商法以外の取引活動を行っていたことも窺われる。そうすると、以上の諸点に照らせば、豊田商事が前述のように公正かつ自由な競争の促進を図る余地のない取引活動を行う者に当たるとまではいうことができないから、その事業者性を争う被告国の前記主張は、採用することができない。
3 反射的利益論の適用の可否
次に、被告国は、独禁法及び景表法において個々の消費者に付与されている利益は反射的利益ないし事実上の利益に止まり、右各法上、公正取引委員会に認められた各権限の行使が個々の国民に対する関係において職務上の義務となる余地はない旨主張するので、この点について検討する。
国家賠償法一条一項は、国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに、国又は公共団体がこれを賠償する責に任ずることを規定するものであるから、同項の違法性が認められるためには、公務員が賠償請求者である個々の国民に対して職務上の法的義務を負担することが前提となる。被告国の右主張は、右違法性の前提となる法的義務の発生根拠は公務員の行政権限を規定した行政法規に求められることになり、右法的義務の発生根拠となるべき保護利益は、行政法規によって保護すべきことが予定されている利益に限られ、それ以外の行政権限行使により結果的に生ずる利益は単なる事実上の利益ないし反射的利益であって、被告国の法的義務の発生根拠となるべき保護利益には当たらないとの前提に立ち、本件では、原告らの主張する公正取引委員会の権限を規定する独禁法及び景表法は、個々の消費者ではなく一般消費者すなわち国民一般の利益の確保を対象とするにすぎないことをいうものであって、結局、抗告訴訟における原告適格を画する概念として主張されるいわゆる反射的利益論を国家賠償法の違法性を画する概念として使用しようとするものであると解される。
しかしながら、抗告訴訟における原告適格の問題は、処分の根拠となる法律の規定が、個人の個別具体的な利益を直接保護する趣旨で処分の要件を定めているか否かという点の問題であるから、当該法律だけでなく関連法規も解釈上考慮されることはあっても、あくまで個々の法律が定める処分要件が直接考慮している利益は何であるかが問われ、原告適格の有無は、処分の根拠法規が処分要件を定めて類型的に保護している範囲によって決められることになる。これに対して、国家賠償法一条一項に基づく損害賠償責任は、違法性という点に関しては一般不法行為に基づく民事上の損害賠償責任と本質を異にするものではなく、そこにおける違法性の基準としては、損害の公平な分担という見地から、法令のみならず、契約、慣習、条理なども妥当するのであって、これらが国民個人に対する公務員の職務上の義務の発生根拠となるものと解されるから、そこにおいては、個々の具体的事情の下で現実に発生した損害の公平な分担を図るという観点から公務員の職務上の義務の範囲が問題とされることになる。このように、国家賠償請求の場面では、具体的事情によって違法性を根拠づける規範が異なり得るのに対し、原告適格の有無は、概念的には法の定めによって一義的に決められているものであり、また、国家賠償請求における規範は、前述のとおり、法令のほか、契約、慣習、条理などが挙げられ、その法令についても、国家賠償請求においては、処分要件という面のみからこれを考慮する原告適格論よりも広い範囲で法令の趣旨・目的が考慮されることになるのであって、問題となる場面を異にするばかりでなく、あるべき救済の理念も異なり、妥当すべき規範も異なるものというべきである。したがって、国家賠償法一条一項の違法性に関し、公務員の個人に対する作為義務の有無について、原告適格との関係でいうような反射的利益論を根拠として、そこでいう法律上の利益を有する者以外の者に対しては、公務員の職務上の義務が発生する余地がないと考えることはできないものといわざるを得ない。この点に関する被告国の主張は、採用することができない。
4 公正取引委員会の作為義務
(一) 行政庁の権限不行使の違法性の判断基準
公正取引委員会の前記権限のように、法令によって公務員に一定の行為をする権限が与えられているが、その権限の行使が公務員の裁量に委ねられている場合に、いかなる要件の下で個人に対する作為義務が生じ、公務員が権限を行使しないことが国家賠償法一条一項の適用上違法となるかを判断するに当たっては、まずもって、当該根拠法令の趣旨・目的を考察しなければならない。そして、右根拠法令が、直接個人の利益を保護している場合、すなわち、特定の個人の個別的利益を直接保護しており、当該処分の適否を抗告訴訟で争う原告適格が認められるような場合であれば、それだけで、当該個人に対して公務員の職務上の義務を肯定することができるが、その反対に、当該個人の利益を公益に包摂される形での保護等も含めておよそ考えていないのであれば、法令の趣旨・目的だけから個人に対する作為義務を基礎づけるのは困難であって、慣習や条理等を根拠として考えるほかはない。これに対し、当該根拠法令が、個人の利益を直接保護しているわけではないが、公益に包摂される形において間接的に保護する趣旨をも含む場合には、当該法令が直接保護の対象としている公益とその背後にある個人の利益とがどの程度密接に関連しているかを検討し、これを前提として、当該具体的事実関係の下で当該権限を行使しないことが著しく不合理であるといえるかどうかで決すべきであり、右判断に際しては、(1) 生命、身体、財産等に対する具体的危険が切迫していたといえるか(危険の切迫)、(2) 公務員が右危険を知り、又は知り得る状態にあったといえるか(予見可能性)、(3) 権限を行使しなければ結果発生を防止し得ず、発生した被害が被害者の負担に余る不測の損害であったといえるか(補充性)、(4)国民が権利行使を期待し得る状況にあったといえるか(期待可能性)、(5)公務員が権限の行使によって結果を容易に回避し得たといえるか(結果回避可能性)などの諸要素を総合的に考慮検討すべきものと解するのが相当である。
(二) 公正取引委員会の権限不行使の違法性
そこで、独禁法及び景表法における公正取引委員会の権限の定めの趣旨・目的について検討するに、独禁法一条は、同法が公正かつ自由な競争を促進し、一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的とする旨規定し、公正な競争秩序の維持という公共の利益の実現を直接の目的としているものであることが明らかであり、その特例を定める景表法も、本来同様の目的を持つものである。このように、独禁法及び景表法の目的とするところは公益の実現にあり、独禁法及び景表法各一条にいう一般消費者の利益の保護も、それが直接的な目的であるか間接的な目的であるかは別として、公益保護の一環としてのそれであって、そこでいう一般消費者も国民を消費者としての側面からとらえたものというべきであるから、右各法の規定により一般消費者が受ける利益は、公正取引委員会による同法の適正な運用によって実現されるべき公益の保護を通じ国民一般が共通して持つに至る抽象的、平均的、一般的な利益にすぎず、同法の規定の目的である公益の保護の結果として生ずる反射的な利益ないし事実上の利益であって、本来私人等権利主体の個人的な利益を保護することを目的とする法規により保障される法律上保護された利益とはいえないものである。もとより、一般消費者といっても、個々の消費者を離れて存在するものではないが、景表法上かかる個々の消費者の利益は、同法の規定が目的とする公益の保護を通じその結果として保護されるべきもの、換言すれば、公益に完全に包摂されるような性質のものにすぎないものと解すべきである。このように、独禁法及び景表法の各一条の目的規定は、直接的には公正かつ自由な競争の促進や公正な競争の確保を挙げており、最終的、究極的な目的として一般消費者の保護を掲げているにすぎず、また、この一般消費者の利益というものも公益を示すものであって個々の具体的消費者の利益を示すものではないというべきである。他方、独禁法二七条一項は、同法の目的を達成するため、公正取引委員会を置くと規定しており、景表法が同法の特例を定めるものであることは前記のとおりであるから、右各法による公正取引委員会の権限の定めの目的は、右各法自体の目的と同一のものと解するのが相当である。
そうすると、独禁法や景表法の公正取引委員会の権限の定めは、個々の消費者の利益を公益に包摂されない形で個別的に保護することを直接の目的としているということはできず、公益すなわち抽象的な一般的消費者の利益を保護しているにとどまるものということができる。また、独禁法及び景表法の目的その他に照らし、公正取引委員会がその権限を行使するか否かについては、広範な裁量に委ねられているものと解すべきことは前記のとおりである。したがって、権限の根拠となる法令の趣旨・目的という観点からは、国家賠償法一条一項の違法性を基礎づけるという意味で、公正取引委員会の職員である公務員が、個々の消費者との関係で、独禁法又は景表法上の権限を行使する義務を負う場合というのは、相当限定されたものであるといわざるを得ない。しかしながら、独禁法及び景表法は、公益に包摂される形であるにせよ消費者の保護を目的に掲げるものであり、右各法の趣旨・目的に照らし、公正取引委員会の職員である公務員が個々の消費者に対して権限を行使すべき作為義務を負う場合もないとはいえないから、進んで、本件具体的事実の下で、前記五要素その他諸般の事情を考慮して、公正取引委員会の職員である公務員が、個々の消費者である原告ら(以下、第四の項においては甲事件原告らを指す。)との関係で、その主張の権限を行使すべき作為義務を負っていたといえるか否かについて検討する。
(三) 違法性判断の前提事実
公正取引委員会が消費者保護会議の構成員であることは、原告らと被告国との間で当事者間に争いがなく、右事実と、前記第二の四で認定した事実並びに<書証番号略>、証人堺次夫(第四回)、同鈴木満の各証言を総合すれば、以下の事実が認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。
(1) 公正取引委員会においては、委員長が前記消費者保護会議の委員を、事務局長が幹事をそれぞれ務めており、前記第一五回ないし第一七回消費者保護会議に担当者が出席し、また、これと関連して開催される消費者行政担当課長会議にも事務局取引部取引課の担当者が出席していた。しかしながら、昭和五八年九月三〇日以前においては、豊田商法に関する申告等もなく、豊田商事に対する権限の発動を具体的に検討したことはなかった。
(2) 悪徳商法被害者対策委員会は、堺を会長として昭和五〇年二月に設立され、マルチ商法、ネズミ講、金ブラックマーケット商法、海外先物取引、マルチまがい商法等の悪徳商法の被害者の声を集約して、行政府及び立法府に伝え、その対策を図る市民運動を展開していたところ、堺は、昭和五八年九月三〇日、豊田商事に関する国会質問を控え、独禁法又は景表法による規制の可否について相談するため、公正取引委員会事務局を訪れた。
ところで、公正取引委員会事務局には、官房の外、経済部、取引部、審査部の三部が置かれ、取引部の中には、部の筆頭課として、部内事務の統括に関すること、不公正な取引方法の指定に関すること、再販売価格に関する商品の指定及び届出の受理に関することなどを担当する取引課、景表法の施行に関する事務のうち排除命令に関する事務を担当する景品表示監視課、景表法にかかわる公正競争規約の認定や相談業務等景表法の運用を担当する景品表示指導課などが置かれており、また、審査部では事件の審査に関すること、勧告及び審判開始決定に関すること、告発及び裁判所に対する緊急停止命令の申立て等に関することなどを担当していたが、豊田商法に関しては、これらのすべての部課に関係を有する問題であるとみられたため、堺は、同委員会事務局の取引部景品表示監視課長鈴木満(以下「鈴木」という。)、同課情報管理係長地主園彰、取引部景品表示指導課指導係長兼重太洋、同部取引課係員佐島史彦の四名と面会した。
堺は、鈴木らに対し、豊田商事の問題で国会質問が予定されており、公正取引委員会にも独禁法一九条の不公正な取引又は景表法四条二号の不当表示に該当するものとして右各法で規制できないかを聞く予定であるので、事前に豊田商事に関してどのようなことが問題になっているかを説明し、果たして独禁法や景表法で規制できるかどうかを教えてもらいたい旨来訪の趣旨を説明した上、持参した豊田商事の純金ファミリー契約証券及び豊田商事ないし豊田商法に関する新聞記事の写しを提示して、豊田商事は、昭和五六年ころから純金の販売を行うに際し、年一〇パーセントの運用益を保証して、純金の代金と引換えに純金の預かり証券である純金ファミリー契約証券を交付し、実際には純金を渡さないという詐欺まがいの商法を行っていること、右商法は、現物取引を装っているが、豊田商事が純金を保有している形跡はなく、純金の裏付けのないまがい商法であること、年一〇パーセントの運用益を保証するためには、集めた現金を運用して相当の利益を出す必要があり、この商法は早晩破綻するおそれがあること、豊田商事では、中途解約者から多額の違約金を取ったり、強引に契約を更新させており、これによるトラブルが頻発していること、豊田商事の従業員は年寄りの肩をもむなどして仲良しになり契約をさせるなどの勧誘方法をとっていることなどを説明した。その上で、堺は、公正取引委員会は、かつてホリディ・マジック社に対し勧告審決(昭和五〇年六月一三日審決)を出しているが、豊田商事の行為もそれと同様のものであるし、競争者として他の金地金業者なども公正な競争を阻害されているから、独禁法又は景表法による規制が可能ではないかと公正取引委員会の見解を尋ねた。
これに対して、鈴木は、主として、景品表示監視課の所管である景表法関係について、相場商品に対する投資に絡む表示については、従来から独禁法や景表法の規制の対象とされていないし、また、堺の説明が事実であるとすれば、豊田商法は、純金をいったん売るという形にした後、直ちに賃借し、結局それを返さないというところに本質があり、純金の取引を装っているがそれは見せ掛けにすぎず、顧客から金員を騙し取るものであると思われるから、直ちに景表法又は独禁法に違反すると判断することは困難であること、ホリディ・マジック社に対する前記勧告審決は、同社が化粧品を販売するに当たり、消費者に対して報奨金等の利益をもって販売員となるように誘引している行為が、正常な商慣習に照らして不当な利益をもって競争者の顧客を自己と取引するよう誘引する行為に当たるとして、独禁法二条九項を受けた一般指定の六(昭和五七公正取引委員会告示第一五号による改正前のもの)を適用したからであり、堺が言うような欺まん的顧客誘引(右改正により一般指定の8に独立の行為類型として規定された。)に該当するとして同法を適用したものではなく、豊田商事とは事案の内容を異にするから、ホリディ・マジック社に対して同法を適用したからといって、本件に対しても適用可能であるとはいえないことなどを説明した。
堺は、右説明を公正取引委員会の見解であるとして納得し、やはり警察の問題であると発言して辞去したものであり、その後、堺が予告していた国会質問も行われず、同人からの連絡もなかったため、鈴木も堺が右説明を納得したものと考えていた。しかし、鈴木は、独禁法四五条一項(何人も、同法違反の事実があると思料するときは、公正取引委員会に対し、その事実を報告し、適当な措置をとるべきことを求めることができる旨定める。)及び同条二項(公正取引委員会は、右報告があったときは事件について必要な調査をしなければならない旨定める。)の趣旨にかんがみ、堺の相談が右報告に該当するとも考えられ、同人が国会質問を予告しており、豊田商法について景表法を適用する可能性についての質問がされる可能性があったところから、部下に景品表示指導課、取引課などの関係課ともよく相談して検討するよう指示した。
(3) その後、取引部の取引課及び景品表示指導課において、堺の説明、新聞、雑誌の記事、国会議事録等の資料に基づく検討をした結果、次のような結論に至った。
ア まず、豊田商法が、純金の取引を装っているのは見せ掛けにすぎず、顧客から金員を騙し取る行為に外ならないのであれば、事業活動上の競争の手段が公正か否かという問題ではなく、不公正な取引方法を問題とする事業者に当たらないと考えられた。また、豊田商法は、純金の売買と純金ファミリー契約から構成されるが、売買の部分については、純金をそれ自体として販売しているものであって、実際の商品より著しく優良であるとか著しく有利であるとかの表示はなく、純金ファミリー契約の部分についても純金を賃借すること自体に不当性は認められないし、純金を返還しないという部分については、当事者間の債務不履行にすぎないから、いずれも独禁法又は景表法の問題は生じない。
イ 次に、テレフォントークの段階で純金の購入を勧めること、純金を顧客のところに持参して提示すること、パンフレットの提示、純金ファミリー契約証券に純金概念、純金塊の価格の記載があることなどは純金の現物売買の表示であるとは必ずしも認められない。賃貸借と称して顧客の購入した純金の現物が現実に存在しないのに、それが存在して豊田商事が保管ないし運用しているかのごとき表示をしている点については、売買契約の締結後にその目的物を調達することは当然可能であるから、常に目的たる現物を保有している必要はなく、純金ファミリー契約についても最終的に同種・同等・同量の純金が引き渡されるということが表示されているのであるから、実際の商品又は取引の内容よりも著しく優良ないし有利であると誤認させるという意味での不当表示には当たらないと判断した。
ウ また、値上りが確実であるとの表示については、最終需要者が限られている商品や役務については、その限られた需要者を当該商品又は役務についての一般消費者であるとして、右一般消費者に誤認を生ぜしめる表示か否かを判断すべきであって、一般に金を購入する顧客は、投資ないし投機を目的としているから、金が相場で変動することは一般に予見可能であり、実態と食い違う表示ではあるが、顧客に誤認を生ぜしめるおそれのある程度までのものではないと判断した。なお、この一般消費者としては一般的な金の購入者を観念すべきであり、本件で事実上対象とされていた老人や主婦などのみを基準とすべきではなく、また、不当表示とは一般消費者に誤認される表示を指し、公正競争阻害性は要件とはならないとの立場をとった。
エ 純金がいつでも換金できるという点については、純金自体の換金可能性については不当表示の問題を生じない。純金ファミリー契約において換金のためには右契約の解約が必要であり、その場合には三〇パーセントの違約金を徴収することとされていたという点については、契約時にその説明がされなかったとしても、契約書(証券)には明記されているのであるから、そうである以上、説明がされなかったというだけで欺まん的表示であるとはいい難いと判断した。純金の売買と純金ファミリー契約は連続的に行われたが、必ずしも一体のものとして行われたものではなく、売買の場面では金の資産価値を前面に出し、ファミリー契約の場面では契約書の文言を示している以上、不当表示と見ることは困難であった。
オ さらに、金地金には税金がかからないという表示については、自分のところで購入すれば税金がかからないが、他の業者から買えば税金がかかるとの表示がされたのであれば、著しく有利な条件とみる余地もあるが、豊田商法における無税の表示は、そのような内容ではなかったこと、我が国では、法律上定められた税金は当然徴収されるのであり、これを無税と表示したとしても著しく優良、著しく有利という誤認を生ぜしめるものとまではいえないと判断した。
カ また、堺の指摘したホリディ・マジック社事件については、鈴木の説明したとおりの解釈によるべきであると判断した。
以上が当時の公正取引委員会事務局内での検討結果であり、当時、これらの点について触れた先例、解説書などは存在しなかった。
(4) ところで、独禁法違反事件については、公正取引委員会事務局審査部の第一審査長の下に置かれた審査情報管理室が職権探知による情報収集を担当し、審査部長は、同法違反事件の端緒となる事実に接したときは、審査の要否につき意見を付して委員会に報告しなければならないとされ(公正取引委員会の審査及び審判に関する規則九条一項)、同委員会事務局の他の職員が端緒となる事実に接したときは、これを審査部審査情報管理室に報告し、審査部において右のような処理がされることとされているが、本件のような豊田商法に係る被害については、右端緒としての報告はされなかった。また、景表法違反事件については、公正取引委員会事務局の取引部景品表示監視課情報管理係が職権探知による情報収集を担当し、その結果同法違反事件の端緒となる事実に接した場合には、軽微案件又は一般案件については専決委任規定により取引部長に決裁権限が与えられているが、重要案件については委員会に報告書を提出する扱いがされているところ、本件のような被害については、右端緒となる報告はされなかった。さらに、取引部における検討結果も、堺の説明、新聞記事等の情報によれば、豊田商法は、純金の取引を装っているが、それは見せ掛けにすぎず、顧客から金員を騙し取るもののようであり、豊田商事は景表法の規制対象となる事業活動を行っているとは思われないことから、同法に違反すると判断するのは困難であるとの結論であった。
(5) その後も、通産省、経済企画庁等の他省庁や国民生活センターなどから、豊田商法が独禁法又は景表法に違反するのではないかという報告はなく、被害者からの苦情相談、申告等による情報の提供もなかった。また、右の各法で対応しにくい問題であり、豊田商事の経営方法ないし運用方法がどのようなものであったかは、不当表示の成否とは直接関係がないと判断したため、豊田商事のパンフレットその他の資料を通産省その他の省庁や国民生活センター等から収集することもしなかった。
昭和五八年一〇月三日には、公正取引委員会担当者も出席して、消費者行政担当課長会議が開催され、消費者保護会議に諮る消費者保護推進の具体的方策等の第一次案(経済企画庁案)が議論され、同月二六日にこれが確定し、同年一一月八日の第一六回消費者保護会議において決定されたが、その議論の過程でも、公正取引委員会事務局の内部においては、独禁法又は景表法によって対応し得る問題ではないとの前記判断に対して、改めてこれらの適用を検討しようとの動きはなく、毎週開かれる部課長会議や課長補佐、係長等を通じての連絡、情報交換も行われなかった。
昭和五九年三月には前述のように国会において豊田商事の問題が再三にわたって論議され、豊田商事の被害者から豊田商事の永野会長ら幹部に対する告訴もされたほか、同年四月二六日には、消費者行政担当課長会議が開かれ、豊田商事に対する規制強化が議論の対象とされたが、公正取引委員会で従前の対応の変更を特に検討したことはなく、同年一一月に開催された第一七回消費者保護会議における検討結果についても同様であった。
(四) 本件における公正取引委員会の作為義務
そこで、以上の事実関係を前提として、前記の判断基準に照らし、本件において、公正取引委員会の職員である公務員が、個々の消費者である原告らとの関係で、独禁法又は景表法上の権限を行使すべき作為義務を負っていたといえるか否かについて検討する。
前記認定のとおり、豊田商法は、豊田商事及びその従業員らが、全国的規模で組織的、反復継続的に遂行した欺まん的、詐欺的な商法であり、その手口も極めて巧妙で、主として老人や主婦を対象とし、その預貯金の解約、払戻によって資金をねん出させ、被害額も極めて高額にのぼり、昭和五六年以降この被害が急速に拡大している状況にあって、新たな被害者の発生が十分予想されていたということができるから、老人、主婦を中心とする個々の消費者の財産権に対する危険の切迫性が相当大きい状況にあったものと認められる。また、公正取引委員会としては、新聞報道や国会、消費者保護会議等における議論などによって、当初から、豊田商法の内容、違法性の主要部分について一応の知識を有していたといえるし、昭和五八年九月三〇日に事務局を来訪した堺から説明、相談を受けた際には、この点について、更に詳細な知識を得たものということができるから、右のとおり消費者の財産権に対する切迫した危険が存在していたこと自体については、これを認識し又は認識し得たものといわざるを得ない。
しかしながら、私的経済活動の自由が保障されている法制度の下において、企業の自由な経済取引過程に行政機関が介入する場合に、それが過度にわたるときは、企業の自由かっ達な競争による創意、発展を抑制し、ひいては優良な企業の成長を阻害し、統制経済に陥るなど国民全体の利益に反する結果ともなりかねないから、このような私人間の取引関係への行政機関の介入は、諸般の事情を総合考慮して慎重にされるべきものである。そして、私人間での取引行為は、各個人の財産権の管理及び処分の問題であり、当事者である私人の自由な意思と選択によって行われるものであって、本来各個人が自己の判断で自己の財産を確保するのが原則であるから、それにより各個人が結果的に損害を被ったとしても当該個人による結果回避可能性を肯定し得るのが通常であり、第一次的には自己の責任に帰すべき筋合のものである。ところが、本件において不行使が問題とされている公正取引委員会の権限は、前述のように公正な競争秩序を維持するために付与され、かつ、その広範な裁量に委ねられている調査、審判、緊急停止命令の申立て、排除命令等に限られているのであるから、およそ公正取引委員会が右権限を行使しなければ原告らの損害の発生を防止し得なかったといえるような性格のものではないし、また、これを行使したとしても豊田商事が直ちに豊田商法を中止し、原告らの右損害の発生を容易に防止し得たという状況にあったともにわかに断定し難いところといわなければならない。
また、右の権限行使に対する国民からの期待という観点からみるに、前記認定に照らせば、当時の新聞等において、豊田商法について公正取引委員会が規制を加えるべきであるとの論調の報道がされた形跡は窺われない。昭和五八年九月三〇日に堺が公正取引委員会に豊田商法に関する具体的な情報を提供し、独禁法又は景表法による規制の可否について相談したことはあるが、これに対する公正取引委員会の対応は前記のとおりであり、その後、同人は特に積極的に右各法上の権限の発動を促すなどの行動はとっていないし、これ以外に豊田商法の被害者などから公正取引委員会に対する相談、申告等もされていないのであって、公正取引委員会としては、独禁法又は景表法違反の端緒を認識していなかったものである。そして、前記認定のとおり、堺の来訪を機縁としてされた検討の結果により、公正取引委員会事務局では、豊田商事は独禁法一九条又は景表法四条の適用要件である事業者には当たらない可能性が強く、豊田商法についても独禁法一九条の不公正な取引方法又は景表法四条の不当表示には該当しないから、いずれにしても右各法によって対応し得る問題ではないと判断していたところ、当時公正取引委員会の認識していた事実及びその根拠資料が前記認定のようなものであってみれば、これを前提とする限り、右の判断に格別不合理な点は認められないというべきである。こうした諸点にかんがみれば、当時、公正取引委員会において自発的にその権限を行使することはおよそ期待し難いところであったばかりでなく、国民一般からも右権限の行使が客観的に期待されている状況にあったということはできない。
そうすると、前述のような公正取引委員会の調査、審判、緊急停止命令の申立て、排除命令等の権限の根拠法令である独禁法及び景表法の趣旨・目的並びに右権限の広範な裁量性を前提とした上、以上のような諸般の事情を併せ考慮すると、結局、原告ら主張の昭和五七年一一月以降、豊田商事が破産宣告を受けた昭和六〇年七月一日までの間に、公正取引委員会の職員である公務員において右権限を行使しないことが、原告らに対する関係において著しく不合理であるということは到底できず、したがって、原告らに対し、その権限を行使すべき作為義務を負っていたものと認めることはできない。
5 以上のとおりであるから、公正取引委員会が右権限を行使しなかったことについて、国家賠償法一条一項の違法性を肯認することはできない。
よって、原告らの被告国に対する公正取引委員会の不作為を原因とする請求は理由がない。
二通産省の責任
1 行政機関相互間の通報・協力義務
原告らは、本件における通産省の責任の根拠として、公正取引委員会に対し情報を提供してその職権発動を促し、かつ、人的、物的に公正取引委員会の権限行使に協力すべき作為義務があるのにこれに違反した旨主張するので、まず、規制権限を有しない他の行政機関の公権力の行使に当たる公務員が、特定の個人との関係で、公正取引委員会の職権発動を促し、又はその権限行使に協力すべき職務上の義務(以下「通報・協力義務」という。)を負う場合があるか否かについて検討する。
国の行政事務は各省大臣によって分担管理することとされ(内閣法三条、国家行政組織法五条)、各行政機関の所掌事務の範囲及び権限は法律(各省設置法がこれに該当する。)で定められるため、特段の規定がない限り、公正取引委員会の職務権限とされている事項を他の行政機関が直接行使することはできない。しかし、公正取引委員会の権限行使によって保護されることになる利益との関係で、他の行政機関の公務員が公正取引委員会に対する通報・協力義務を負うのであれば、その義務の不履行が国家賠償法上の違法性を基礎づけ得ることになるから、このような職務上の作為義務の有無については、公正取引委員会の職員たる公務員の作為義務について前述したところと同様の検討を加える必要がある。
そこで、まず、このような義務を基礎づける法令の規定があるか否かについてみるに、国家行政組織法二条二項は、国の行政機関は、内閣の統轄のもとに、行政機関相互の連絡を図り、すべて、一体として、行政機能を発揮するようにしなければならないと定めるが、右規定は、行政の統一性保持という要請から、一般的に行政機関は相互に連絡・調整ないし共助をすべきことを宣言した訓示規定であると解され、その趣旨から個々の国民との間に行政機関の公権力の行使としての職務上の作為義務を導くことはできないものというべきである。また、国の事務の分担管理を定めた前記内閣法三条及び国家行政組織法五条の規定も、その趣旨からして、省庁相互間の一般的な通報・協力義務の根拠法令であると解することはできない。
しかしながら、法令上このような趣旨を導くことができないとしても、なお、規制権限を有しない他の行政機関の公権力の行使に当たる公務員が、一定の独禁法違反又は景表法違反の事実を予見し又は予見し得たような場合には、その結果として生ずる個人に対する権利侵害を防止するために、条理ないし慣習等に基づき、当該特定個人に対する関係で、公正取引委員会に対する通報・協力義務を負う場合が全くあり得ないものではない。そこで、このような条理ないし慣習上の義務の存否について検討するに、まず、慣習上の義務を肯認するためには、当該行政機関の職務として、職権発動を促したり、協力したりすることが慣習として行われていたことを要し、その慣習の内容や継続期間、どの程度の規範意識をもって行われていたかなどの点を考察すべきところ、本件全証拠をもってしても、以上のような点を認めるに足りない。次に、条理上の義務についてみるに、これは、他の行政機関の職務上の義務を問題とするのであるから、その行政機関の公権力の行使に当たる公務員が、その職務上、公正取引委員会の作為義務が生じていることを認識し又は認識し得たこと、他の行政機関の公務員の職務と公正取引委員会の当該規制権限との間に密接な関連性が存することが必要であると解される。そして、以上の要件については、公正取引委員会の作為義務の判断要素として指摘した危険の切迫、予見可能性、補充性、期待可能性、結果回避可能性の五要素を考慮し、当該具体的事実関係の下で、通産省に、公正取引委員会に対する通報・協力義務が発生するか否かを検討する必要がある。
2 通産省の作為義務
(一) 前記第二の四で認定した事実並びに<書証番号略>を総合すれば、以下の事実が認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。
通産省には、通産省設置法に基づき、割賦販売法、訪問販売法、消費生活用製品安全法、家庭用品品質表示法等の施行、運用による消費者の保護等の消費者関連行政についての総括的取りまとめや基本的政策立案を行う産業政策局消費経済課(以下「消費経済課」という。)が置かれ、昭和五〇年には消費者相談室も設置されて、消費者からの消費生活に関する相談及び苦情処理事務を担当していた。また、通産省の地方の出先機関である各通商産業局(以下「通産局」という。)にも同様の課が設置され、さらに、消費者相談室が設置されて、同様の事務を担当していた。
通産省の消費者相談室に消費者からの苦情や相談が寄せられた場合には、消費者問題に関する知識を有する専門の相談員がその処理に当たり、必要な場合には、通産省内の関係各課(通産省においては、生活産業局、資源エネルギー庁、基礎産業局等においてそれぞれの所管の物資について、生産、流通、消費についての行政を所掌し、その一環として消費者関係行政を行っていた。)と協力したり、消費者相談顧問弁護士に相談したり、相手方である企業に対して、指導、あっ旋等を行うなどしたほか、相談案件については相談カードを作成して記録保存し、それをもとに毎年消費者相談報告書にまとめていた。通産省及び通産局の消費者相談室に寄せられた金の商品取引所の適用外の先物取引と現物まがい取引の合計相談件数は、昭和五七年度が一四八四件、昭和五八年度が二二九六件、昭和五九年度が二九五九件と顕著に増加し、現物まがい取引のみの相談件数も、昭和五七年四月から同年一二月までの間が二四五件、昭和五八年四月から同年一二月までの間が六九八件であった。また、通産省の消費者行政においては、消費者に対する啓発活動、広報活動を重視し、消費経済課においてもパンフレット、リーフレット等の消費者向け刊行物を発行、配付したり、テレビ放映、ビデオの都道府県、市町村等の関係方面への貸出しなどによる広報活動などを行っていた。消費経済課においては、消費者向け刊行物の一つとして、「かしこい消費生活へのしおり」を年一回、一万部程度発行し、国民生活センターや都道府県、市町村の消費生活センター、各通産局などに配付したほか、書店で一般にも販売し、また、関係各部局の消費者行政執務の参考に供するため消費者ニュース(昭和五八年ころからは消費者行政ニュース)を発行し、国民生活センター、通産局、都道府県、市町村の消費者センター、中央省庁の消費者行政関係部局に配付した。
前記認定の国会における通産省の答弁内容については、消費経済課、資源エネルギー庁鉱業課、産業政策局商務サービス室が認識していた情報に基づいて行われたが、その情報内容は、主としてマスコミ報道や国会答弁内容等に基づくものであった。前記認定の昭和五八年三月発行の「かしこい消費生活へのしおり」と題するパンフレットの記述は、消費経済課において当時のマスコミ報道や国会答弁の内容、資源エネルギー庁等の担当部局からの情報等に基づいて認識していた豊田商法の実態を指摘し、消費者啓発を行おうとしたものであった。また、資源エネルギー庁でも、前記認定のとおり、国民生活センター発行の生活行政情報誌昭和五七年八月一〇日号において、「『金』の『現物まがい』取引に御注意」と題する記述をして注意を呼び掛け、また、流通協会が昭和五八年九月一〇日発行の広報誌に「金取引の悪質商法にご注意を」と題する広告を掲載した。
しかし、通産省は、法令上、立入検査権その他の強制権限が与えられていなかったため、豊田商事に対して右のような手段はとり得なかった。また、昭和五六、七年ころ、消費者相談室長において、豊田商事の東京都内の支店の支店長に対して、消費者から寄せられている多数の苦情にどう対処するつもりであるかを問いただしたところ、右支店長は会社に持ち帰って検討の上回答するとのことであったが、その後再三の催促にもかかわらず、回答はされなかった。以上のように、通産省は、豊田商事の営業実態を直接把握することができなかったため、営業停止の行政指導等の措置をとることも検討されず、パンフレット、テレビ、ビデオ等による消費者に対する啓発、PRを行うとともに、消費者行政ニュース等に紹介して、消費生活センター等の関係者に執務の参考とするよう促し、また、個々の相談に対して誠実に対処することで対応しようとした。また、前記消費者保護会議については、通商産業大臣が委員を、通商産業事務次官が幹事を務め、前記第一五回ないし第一七回消費者保護会議には担当者が出席し、その運営等に関連して開かれる消費者行政担当課長会議にも消費経済課の担当者が出席していたが、右消費者行政担当課長会議は、実質的には事務連絡がほとんどであり、その内容を持ち帰って検討することもなかった。
(二) そこで、以上の事実関係を前提として検討するに、通産省が、当時、先に指摘した公正取引委員会の作為義務を否定する根拠について、これを覆すに足りる情報を認識していたとは認められないし、また、そのような情報を認識し得たとも認められないから、通産省が自ら認識し又は認識し得た情報を公正取引委員会に伝達して、その職権発動を促したとしても、これによって、公正取引委員会がその権限を行使すべき作為義務を負うに至る余地はなかったものというべきである。通産省が公正取引委員会に対する通報・協力義務を負うためには、その前提として公正取引委員会がその権限を行使すべき作為義務を負っているか、通産省が職権発動を促すことによってこれを負うことになる場合であることを要するところ、本件では、前記のとおり、公正取引委員会がその権限を行使すべき作為義務を負っていたとはいえないし、また、前記事実によれば、通産省が公正取引委員会に情報を提供し、その職権発動を促したとしても、公正取引委員会が豊田商事に対する権限行使にとっての重大な障害であると考えていた同社の事業者性の要件の否定される可能性が一段と濃厚になったことも推測され、このような通産省の情報提供等によって公正取引委員会が右義務を負うことになる場合であったということもできないから、結局、本件において、通産省が公正取引委員会に対する通報・協力義務を負っていたとみる余地はない。
(三) 以上のとおりであるから、本件において、通産省が、原告らとの関係で、公正取引委員会に対する通報・協力義務を負っていたということはできず、通産省が公正取引委員会に対して、その職権発動を促し、これに協力する措置をとらなかった不作為について、国家賠償法一条一項の違法性を肯認することはできない。
よって、原告らの被告国に対する通産省の不作為を原因とする請求も理由がない。
第五原告らの損害について
別表二の一ないし一三「原告」欄記載の各原告に対応する同表「認定証拠」欄記載の証拠によれば、当該原告に対応する同表「被告」欄記載の各被告は、同原告に対応する同表「取引年月日」欄記載の日に、豊田商事から同表「取引量」欄記載の量の純金を購入し、同時に純金ファミリー契約を締結して、右純金の売買代金及び手数料名下に右取引年月日に対応する同表「支払金額」欄記載の金額の金員を交付し、同額の損害を被ったことが認められる。なお、原告らにおいて主張する別表一の一ないし一六「受領金額」欄記載の金額が、個々の損害に対する補填の趣旨ではなく、これを同表「支払金額」欄記載の金額から控除して各原告の請求額を特定する趣旨に出たものであることは、その主張に徴して明らかである。
第六結論
以上の次第であるから、原告らの本訴請求のうち、原告遠藤マツノの被告菊田光利及び同泉明子に対する請求、原告阿部みちの被告堀内敬至に対する請求、原告小谷松ナツの被告堀内敬至に対する請求、原告今野勇吉の被告野原博子に対する請求、原告秋場富美子の被告上野健三及び同平嶋栄子に対する請求、原告磯田祥太郎の被告平嶋栄子に対する請求、原告菊地義胤の被告長濵貞江に対する請求、原告鈴木清子の被告岡畑浩に対する請求、原告鈴木金之助の被告及川次男に対する請求、原告坂本和嘉子の被告吉川裕康に対する請求、原告中田静子の被告吉川裕康に対する請求、原告矢部秀子の被告吉川裕康に対する請求、原告細谷その子の被告小林孝司に対する請求、原告大井政子の被告斉藤秀信及び同武藤正三に対する請求、原告芦澤一幸の被告三原宏治及び同江川捷夫に対する請求、原告岩下忠衛門の被告鈴木良一に対する請求、原告根岸重作の被告井上鉄郎に対する請求、原告下田美知の被告小栗重次に対する請求、原告緑川栄四郎の被告横関幸子及び同三宅勝に対する請求並びに原告牧守雄の被告武藤正三に対する請求は、いずれも理由があるからこれを認容し、原告福田伝次郎の被告大井絢子及び同三日市忠夫に対する請求、原告遠藤マツノの被告大井絢子に対する請求、原告荻上銀次の被告堀内敬至に対する請求、原告奥知章の被告堀内敬至及び同橋口宗弘に対する請求、原告石川君子の被告平嶋栄子及び同橋本孝二に対する請求、原告坂井武の被告菊地準及び同柿沼光子こと鈴木光子に対する請求、原告堤信子の被告熊谷裕次に対する請求、原告佐々木正利の被告小林孝司に対する請求、原告窪田すみえの被告長谷川健、同赤江利子及び同車田紀子に対する請求、原告遠藤育子の被告菊田光利、同泉明子及び同大井絢子に対する請求、原告新井マス子の被告堀内敬至及び同横関幸子に対する請求並びに原告関根敬子の被告野本好勝に対する請求は、別紙三の一ないし三の当該原告及び被告に対応する同表「認定額」欄記載の金員及びこれに対する昭和六〇年七月一日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払(同被告に対応する同表「共同不法行為被告」欄記載の被告との同表「連帯責任額」欄記載の金員及びこれに対する昭和六〇年七月一日から支払済みまで年五分の割合による金員の限度での連帯支払)を求める限度でいずれも理由があるからこれを認容し、その余はいずれも理由がないからこれを棄却し、甲事件原告らの被告国に対する請求、原告亡中村満雄訴訟承継人中村雄三の被告小林孝司に対する請求、原告新井マス子の被告渡邉宏に対する請求並びに原告下田美知の被告千葉健一に対する請求は、いずれも理由がないからこれを棄却すべきである。
よって、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官篠原勝美 裁判官小澤一郎 裁判官笠井之彦)
当事者目録
(括弧内は記録中の原告又は被告の番号)
甲事件原告
福田伝次郎(一) 外四五名
右四六名訴訟代理人弁護士
野島信正
同
渡辺征二郎
同
中根洋一
同
藤川明典
右訴訟復代理人弁護士
安彦和子
乙事件原告
遠藤育子(四八) 外五名
右六名訴訟代理人弁護士
野島信正
同
渡辺征二郎
同
中根洋一
同
藤川明典
同
安彦和子
甲事件被告
国 (一)
右代表者法務大臣
田原隆
右指定代理人
門西栄一 外一一名
甲乙両事件被告
大井絢子(三・一一九) 外四名
甲事件被告
三日市忠夫(四) 外二一名
乙事件被告
横関幸子(一二二) 外五名
(別紙)書証の成立について<省略>
別表一の一
原告番号
原告
被告番号
被告
取引
年月日
(昭和)
取引量
(グラム)
支払金額
(円)
被告の関与の
有無・態様
総支払
金額
(円)
受領
金額
(円)
請求額
(円)
関与
従業員
1
福田伝次郎
大井
三日市
埴渕久志
鈴木賢司
上村恵子
3
大井絢子
58.12.13
4,000
10,969,840
④
4
三日市忠夫
12.14
500
1,154,815
④
59.2.1
3,000
7,454,880
②
④
2.10
100
259,770
○
④
12.1
500
1,154,815
○
④
12.7
100
275,205
○
④
12.12
500
1,150,985
○
④
60.1.22
300
683,195
○
④
1.23
100
225,105
○
④
2.1
500
1,110,815
○
④
24,439,425
3,057,000
21,382,425
2
遠藤マツノ
大井
菊田
泉
藤岡良子
谷内田功
壬生茂久
菊地準
庄司昌弘
3
大井絢子
59.4.17
2,500
6,052,075
④
①
7
菊田光利
9.25
2,000
4,761,240
②
④
○
13
泉明子
60.4.10
1,000
2,322,180
④
○
4.11
5,000
11,712,900
④
○
4.15
2,000
4,646,400
④
○
29,494,795
1,012,500
28,482,295
3
岡部治男
60.5.13
300
700,200
斉藤優
松井延子
吉岡譲治
5.14
500
1,155,330
1,855,530
0
1,855,530
別表二の一
原告番号
原 告
被告番号
被 告
取引
年月日
(昭和)
グラム
単価
(円)
取引量
(グラム)
契約
期間
支払金額
(円)
被告の関与の
有無・態様・責任額(円)
認定
証拠
1
福田伝次郎
大井絢子
三日市忠夫
甲12の1、3
ないし7、10
ないし16、23
ないし29
甲59
原告本人
弁論の
全趣旨
関与
責任
関与
責任
3
大井絢子
58.12.13
不詳
4,000
1年
10,969,840
-
×
④
○
4
三日市忠夫
12.14
×
-
×
×
×
59.2.1
不詳
3,000
5年
7,454,880
○
○
④
○
2.10
2,874
100
5年
259,770
○
○
④
○
12.1
2,621
500
5年
1,154,815
○
○
×
×
12.7
不詳
100
5年
275,205
○
○
×
×
12.12
2,599
500
5年
1,150,985
○
○
×
×
60.1.22
2,526
300
5年
683,190
○
○
×
×
1.23
不詳
100
5年
225,105
○
○
×
×
2.1
2,521
500
5年
1,110,815
○
○
×
×
12,314,765
18,684,490
2
遠藤マツノ
大井絢子
菊田光利
泉明子
被告菊田については自白したものとみなす。
甲23の1ないし11、13ないし15甲59
原告本人
関与
責任
関与
責任
関与
責任
3
大井絢子
59.4.17
2,765
2,500
5年
6,052,075
-
×
④
○
○
○
7
菊田光利
9.25
2,731
2,000
5年
4,761,240
○
○
④
○
○
○
13
泉明子
60.4.10
2,659
1,000
5年
2,322,180
-
×
④
○
○
○
4.11
2,679
5,000
5年
11,712,900
-
×
④
○
○
○
4.15
2,660
2,000
5年
4,646,400
-
×
④
○
○
○
4,761,240
29,494,795
29,494,795
別表三の一
原告
番号
原 告
被告
番号
被 告
認容額(円)
共同不法行為
被告
連帯責任額(円)
1
福田伝次郎
3
大井絢子
12,314,765
三日市忠夫
7,714,650
4
三日市忠夫
18,684,490
大井絢子
7,714,650
2
遠藤マツノ
3
大井絢子
4,761,240
菊田光利
泉明子
4,761,240
4,761,240
7
菊田光利
28,482,295
大井絢子
泉明子
4,761,240
28,482,295
13
泉明子
28,482,295
大井絢子
菊田光利
4,761,240
28,482,295
8
阿部みち
29
堀内敬至
2,858,075
9
荻上銀次
29
堀内敬至
1,194,180
10
奥知章
29
堀内敬至
9,457,255
橋口宗弘
8,717,545
36
橋口宗弘
8,717,545
堀内敬至
8,717,545
11
小谷松ナツ
29
堀内敬至
9,195,060
12
今野勇吉
43
野原博子
2,238,240
15
秋場富美子
46
上野健三
11,627,500
平嶋栄子
11,627,500
47
平嶋栄子
11,627,500
上野健三
11,627,500
16
磯田祥太郎
47
平嶋栄子
4,069,805
17
石川君子
47
平嶋栄子
13,301,385
橋本孝二
13,301,385
50
橋本孝二
13,301,385
平嶋栄子
13,301,385
23
菊地義胤
58
長濵貞江
1,979,160
26
鈴木清子
64
岡畑浩
2,949,840
別表三の二
原告
番号
原 告
被告
番号
被 告
認容額(円)
共同不法行為
被告
連帯責任額(円)
28
鈴木金之助
65
及川次男
5,116,065
30
坂井武
11
菊地準
2,605,080
柿沼光子
こと
鈴木光子
2,605,080
69
柿沼光子
こと
鈴木光子
4,439,750
菊地準
2,605,080
31
坂本和嘉子
71
吉川裕康
12,636,130
33
堤信子
48
熊谷裕次
7,128,600
35
中田静子
71
吉川裕康
8,159,035
36
佐々木正利
82
小林孝司
11,427,300
37
矢部秀子
71
吉川裕康
4,437,720
40
細谷その子
82
小林孝司
10,931,100
41
大井政子
94
斉藤秀信
9,887,835
武藤正三
9,887,835
97
武藤正三
9,887,835
斉藤秀信
9,887,835
43
芦澤一幸
101
三原宏治
3,110,705
江川捷夫
3,110,705
102
江川捷夫
3,110,705
三原宏治
3,110,705
44
岩下忠衛門
104
鈴木良一
2,923,425
45
窪田すみえ
106
長谷川健
5,041,485
車田紀子
5,041,485
107
赤江利子
7,304,100
108
車田紀子
5,041,485
長谷川健
5,041,485
46
根岸重作
110
井上鉄郎
29,248,560
別表三の三
原告
番号
原 告
被告
番号
被 告
認容額(円)
共同不法行為
被告
連帯責任額(円)
48
遠藤育子
114
菊田光利
6,917,400
大井絢子
6,917,400
118
泉明子
20,822,705
119
大井絢子
6,917,400
菊田光利
6,917,400
49
新井マス子
120
堀内敬至
10,327,200
横関幸子
4,669,140
122
横関幸子
6,876,780
堀内敬至
4,669,140
50
下田美知
128
小栗重次
2,759,730
52
緑川栄四郎
122
横関幸子
4,785,365
三宅勝
4,785,365
131
三宅勝
4,785,365
横関幸子
4,785,365
55
牧守雄
140
武藤正三
10,353,735
56
関根敬子
142
野本好勝
4,162,440
別表四の一
原告
番号
原 告
被告
番号
被 告
訴訟費用の負担
甲事件
原告ら
1
国
全部原告らの負担とする。
1
福田伝次郎
3
大井絢子
これを二分し、その一を原告の負担とし、
その余を被告の負担とする。
4
三日市忠夫
これを八分し、その一を原告の負担とし、
その余を被告の負担とする。
2
遠藤マツノ
3
大井絢子
これを六分し、その五を原告の負担とし、
その余を被告の負担とする。
7
菊田光利
全部被告の負担とする。
13
泉明子
全部被告の負担とする。
8
阿部みち
29
堀内敬至
全部被告の負担とする。
9
荻上銀次
29
堀内敬至
これを五分し、その一を原告の負担とし、
その余を被告の負担とする。
10
奥知章
29
堀内敬至
これを二分し、その一を原告の負担とし、
その余を被告の負担とする。
36
橋口宗弘
これを七分し、その一を原告の負担とし、
その余を被告の負担とする。
11
小谷松ナツ
29
堀内敬至
全部被告の負担とする。
12
今野勇吉
43
野原博子
全部被告の負担とする。
15
秋場富美子
46
上野健三
全部被告の負担とする。
47
平嶋栄子
全部被告の負担とする。
16
磯田祥太郎
47
平嶋栄子
全部被告の負担とする。
17
石川君子
47
平嶋栄子
これを四分し、その一を原告の負担とし、
その余を被告の負担とする。
50
橋本孝二
これを四分し、その一を原告の負担とし、
その余を被告の負担とする。
別表四の二
原告
番号
原 告
被告
番号
被 告
訴訟費用の負担
23
菊地義胤
58
長濵貞江
全部被告の負担とする。
26
鈴木清子
64
岡畑浩
全部被告の負担とする。
28
鈴木金之助
65
及川次男
全部被告の負担とする。
30
坂井武
11
菊地準
これを二分し、その一を原告の負担とし、
その余を被告の負担とする。
69
柿沼光子こと
鈴木光子
これを二〇分し、その一を原告の負担とし、
その余を被告の負担とする。
31
坂本和嘉子
71
吉川裕康
全部被告の負担とする。
33
堤信子
48
熊谷裕次
これを四分し、その一を原告の負担とし、
その余を被告の負担とする。
35
中田静子
71
吉川裕康
全部被告の負担とする。
36
佐々木正利
82
小林孝司
全部被告の負担とする。
37
矢部秀子
71
吉川裕康
全部被告の負担とする。
38
亡中村満雄訴訟承継人
中村雄三
82
小林孝司
全部原告の負担とする。
40
細谷その子
82
小林孝司
全部被告の負担とする。
41
大井政子
94
斉藤秀信
全部被告の負担とする。
97
武藤正三
全部被告の負担とする。
43
芦澤一幸
101
三原宏治
全部被告の負担とする。
102
江川捷夫
全部被告の負担とする。
44
岩下忠衛門
104
鈴木良一
全部被告の負担とする。
別表四の三
原告
番号
原 告
被告
番号
被 告
訴訟費用の負担
45
窪田すみえ
106
長谷川健
これを五分し、その三を原告の負担とし、
その余を被告の負担とする。
107
赤江利子
これを五分し、その二を原告の負担とし、
その余を被告の負担とする。
108
車田紀子
これを五分し、その三を原告の負担とし、
その余を被告の負担とする。
46
根岸重作
110
井上鉄郎
全部被告の負担とする。
48
遠藤育子
114
菊田光利
これを四分し、その三を原告の負担とし、
その余を被告の負担とする。
118
泉明子
これを五分し、その一を原告の負担とし、
その余を被告の負担とする。
119
大井絢子
これを四分し、その三を原告の負担とし、
その余を被告の負担とする。
49
新井マス子
120
堀内敬至
これを一〇分し、その一を原告の負担とし、
その余を被告の負担とする。
122
横関幸子
これを五分し、その二を原告の負担とし、
その余を被告の負担とする。
125
渡邉宏
全部原告の負担とする。
50
下田美知
128
小栗重次
全部被告の負担とする。
129
千健一
全部原告の負担とする。
52
緑川栄四郎
122
横関幸子
全部被告の負担とする。
131
三宅勝
全部被告の負担とする。
55
牧守雄
140
武藤正三
全部被告の負担とする。
56
関根敬子
142
野本好勝
これを七分し、その六を原告の負担とし、
その余を被告の負担とする。