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東京地方裁判所 昭和61年(ワ)6367号 判決 1986年8月29日

原告

安倍文夫

被告

東京ウエスターン交通株式会社

主文

被告は、原告に対し、一六万〇六〇七円及びこれに対する昭和六〇年四月一八日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

この判決は、第一項につき、仮に執行することができる。

事実

第一申立

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、三〇六万三八二二円及びこれに対する昭和六〇年四月一八日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一) 日時 昭和六〇年四月一八日午後一時一〇分ころ

(二) 場所 東京都新宿区西新宿四―三六先路上(以下「本件事故現場」という。)

(三) 加害車 普通乗用自動車(練馬五五か三六九五)

(四) 右運転者 中野稔(以下「中野」という。)

(五) 被害車 普通乗用自動車(練馬五八る五二七九)

(六) 右運転者 原告

(七) 事故の態様 原告が被害車を運転して本件事故現場を東進していたところ、中野運転の加害車がわき道から後退してきて、その後部を被害車の側面に衝突させ、原告に後記傷害を負わせた(以下「本件事故」という。)。

2  責任原因

被告は、加害車を保有して自己のため運行の用に供していたのであるから、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条により原告の後記損害を賠償する責任がある。

3  原告の受傷状況

原告は、本件事故により頸椎捻挫、肩こり、頭痛、吐き気、左手痺れ等の傷害を受け、昭和六〇年四月一八日から同月二一日まで玉井病院に通院し、同月二二日から同年六月一〇日までの五〇日間同病院に入院し、更に、同月一一日から同年一二月一〇日まで通院したが完治せず、同日症状固定したが、自賠法施行令二条別表後遺障害別等級一四級一〇号の後遺障害が残つた旨認定された。

4  損害

原告は、本件事故により次のとおりの損害を受けた。

(一) 治療費 てん補済

原告の治療費は自動車損害賠償責任保険(以下「自賠責保険」という。)から一二〇万円、被告支払の入院保証金一〇万円でてん補済みである。

(二) 入院雑費 五万円

原告は、右入院期間(五〇日間)中、入院雑費として一日当たり一〇〇〇円を要した。

(三) 通院交通費 六万三九二〇円

原告は、右病院への通院のため、交通費として右金額(通院一日当たり九四〇円、通院回数入院前三日、退院後六五日、計六八日)を要した。

(四) 休業損害 三七一万九九〇二円

原告は、毎日信販株式会社に勤務し、月収五〇万円(日収一万六六六六円)を得ていたが、本件事故のため、昭和六〇年四月から八月まで全休し(五〇万円×五=二五〇万円)、九月は一六万四五一〇円、一〇月は二四万一一二〇円、一一月は二四万一一二〇円しか受給されず(それぞれ差額三三万五四九〇円、二五万八八八〇円、二五万八八八〇円)、一二月分は、一一月一九日から一二月一〇日まで(一万六六六六円×二二=三六万六六五二円)休業したため、その間の休業損害は次の計算式のとおり右金額となる。

(計算式)

二五〇万円+三三万五四九〇円+二五万八八八〇円+二五万八八八〇円+三六万六六五二円=三七一万九九〇二円

(五) 入通院慰藉料 八八万円

原告の、本件事故により受けた傷害による精神的苦痛を慰藉するためには右金額が相当である。

(六) 後遺障害慰藉料 一五万円

原告の、本件事故による後遺障害による精神的苦痛を慰藉するためには九〇万円が相当であり、うち七五万円は自賠責保険からてん補済みである。

(七) 弁護士費用 五〇万円

原告は、被告が任意に右損害の支払いをしないために、その賠償請求をするため、原告代理人に対し、本件訴訟の提起及びその遂行を依頼したが、本件事故と相当因果関係がある弁護士費用としては、右金額が相当である。

小計 五三六万三八二二円

(八) 損害のてん補

原告は、被告会社から二四〇万円の支払を受けた。うち一〇万円は病院の入院保証金であり、(一)治療費に折り込みずみであるので、二三〇万円を前記損害から控除する(原告は自賠責保険から一九五万円の支払も受けているが、これは、前記費目中で控除している。)。

合計 三〇六万三八二二円

よつて、原告は、被告に対し、右損害金三〇六万三八二二円及びこれに対する本件事故発生の日である昭和六〇年四月一八日から支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1(事故の発生)及び同2(責任原因)の各事実は認める。

2  同3(原告の受傷状況)の事実中、原告は、本件事故により頸椎捻挫、肩こり、頭痛、吐き気、左手痺れ等の傷害を受け、昭和六〇年四月一八日から同月二一日まで玉井病院に通院し、同月二二日から同年六月一〇日までの五〇日間同病院に入院し、更に、同月一一日から同年一二月一〇日まで通院したこと、自賠法施行令二条別表後遺障害別等級表一四級一〇号の後遺障害が残つた旨認定されたことは認めるが、昭和六〇年一二月一〇日症状固定したことは否認する。

原告の傷害は、それ以前の同年九月一二日に治癒しており、後遺障害は存しない。

3  同4(損害)の事実中、 (一)治療費は知らない。 (二)入院雑費は認める。 (三)通院交通費は三万〇七〇〇円を限度として認める。 (四)原告は、月収五〇万円(日額換算一万六六六六円)を得ていたことは認める。休業損害総額は、右日額に昭和六〇年九月一二日までの入院日数及び通院実日数の合計一〇六日を乗じた一七五万六五九六円である。 (五)入通院慰藉料及び(六)後遺障害慰藉料は六五万円を限度として認める。 (七)弁護士費用は知らない。 (八)損害のてん補は原告に対し、被告から二四〇万円(一〇万円の入院保証金を含む。)、自賠責保険から一九五万円が支払われたことは認める。

第三証拠〔略〕

理由

一  請求原因1(事故の発生)及び同2(責任原因)の事実は当事者間に争いがない。そうすると、被告には、自賠法三条により原告の後記損害を賠償する責任がある。

二  同3(原告の受傷)の事実について判断する。

原告は、本件事故により頸椎捻挫、肩こり、頭痛、吐き気、左手痺れ等の傷害を受け、昭和六〇年四月一八日から同月二一日まで玉井病院に通院し、同月二二日から同年六月一〇日までの五〇日間同病院に入院し、更に、同月一一日から同年一二月一〇日まで通院したこと、自賠法施行令二条別表後遺障害別等級表一四級一〇号の後遺障害が残つた旨認定されたことは当事者間に争いがない。

ところで、被告は、原告が昭和六〇年一二月一〇日症状固定したことは否認し、原告の傷害は、同年九月一二日には治癒しており、後遺障害は存しない旨主張しているので、この点につき判断する。

右争いのない事実に、原本の存在、成立ともに争いのない甲一号証から七号証まで、一六、一七号証、乙四、五号証、証人大園茂臣の証言及び原告(取下前の昭和六一年(ワ)二六六六号債務不存在確認請求事件被告)本人尋問の結果(後記措信しない部分を除く。)並びに弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。

原告は、本件事故により頸椎捻挫、肩こり、頭痛、吐き気、左手痺れ等の傷害を受け、昭和六〇年四月一八日から同月二一日まで玉井病院に通院し、同月二二日から同年六月一〇日までの五〇日間同病院に入院し、更に、同月一一日から同年九月一二日まで通院し、症状が軽快したため治癒の診断を受け、治療に当たつた玉井病院の医師大園茂臣からその旨の診断書(甲六号証)の交付を受けた。原告は、被告の事故担当者にその診断書を交付し、示談交渉をしたが、示談の交渉が難航していたところ、その後症状が軽快していなかつたとして、同月二六日、再度玉井病院に通院を再開した。大園医師は、一旦治癒の診断書を書いたため、交通事故による通院とすることに難色を示し、相手方から診断書の返還を受けたら交通事故による通院とすることとし、それまでは交通事故による通院とはしなかつた。原告は、同月二六日の次は一〇月二三日に通院し、それから後は一二月九日まで一〇日通院し、通院再開前とほぼ同じ、牽引等の治療を受けた。その間中途で被告事故担当者から診断書の返還を受け、同医師に返還したため、その後は再び交通事故による通院という扱いを受けることとなつた。そして、原告は、一二月一〇日同医師から、本件事故による頸椎捻挫の後遺障害が同月九日症状固定し、自覚症状として、左項部圧痛、左肩部から左上肢に神経痛様疼痛が走り、左拇示指に痺れ感が常在するとの診断を受け、その旨の診断書(乙五号証、なお、乙四号証も同日付である。)の交付を受け(他覚所見の欄も本人の愁訴が記載されている。)、自賠責保険調査事務所から自賠法施行令二条別表後遺障害別等級表一四級一〇号の後遺障害が残つた旨認定された。

以上の事実が認められ、原告本人尋問の結果中、右認定に反する部分は措信できず、他に右認定の事実を覆すに足りる証拠はない。

右事実に徴すると、原告は、一旦治癒の診断を受けた後、被告との示談がうまく解決しないため、再度通院を開始したのであり、通院再開は、治癒の日のおよそ二週間後であり、しかも、再開の日から次の通院の日まで約一カ月間隔があいている。右のような通院状況は通常考えられないところ、この点につき、明確な理由を認めるに足る証拠はなく(原告本人は、昭和六〇年九月一二日、大園医師から、診断書(甲六号証)の交付を受けたが、内容をみないで被告の事故担当者に交付したので、まさか治癒と記載してあつたとは思いもしなかつた旨供述するが、その後の原告の通院状況及び証人大園の証言と対比して措信できない。)、本件事故による頸椎捻挫の症状は、当然のことながら、他覚所見はなく、本人の愁訴のみである。そうすると、右のような通院経過に鑑みると、一旦治癒の診断を受けた昭和六〇年九月二六日以降の通院は、本件事故と相当因果関係があると認めるには多大な疑問があるものと言わざるを得ず、原告の本件事故による傷害は、昭和六〇年九月一二日には治癒して、後遺障害も存しないものと認めるのが相当である。なお、大園医師は、原告の訴える症状は、特に不自然な点は認められなかつた旨供述しているが、同医師は、原告の愁訴を真実であるとの前提で診断しているものであるから、その供述は、前記判断を左右するものではなく、大園医師の一二月一〇日付の診断書(乙五号証)を基礎とした自賠責保険調査事務所からの後遺障害の認定もその前提に問題があるので、前記判断に影響しない。

三  同4(損害)の事実につき、右のように、昭和六〇年九月一二日までの通院を前提として判断することとする。

1  治療費 〇円

前掲甲四、五、七号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告は本件事故による治療費として昭和六〇年九月一二日までの分として、一三〇万円を超える金額を要したことが認められ、右金額は、成立に争いのない乙六号証及び弁論の全趣旨によれば、そのうち一三〇万円につき、自賠責保険一二〇万円、被告支払の入院保証金一〇万円により支払がなされていることが認められる。(原告は、治療費の残額につき請求していない。)。

2  入院雑費 五万円

原告が前記入院期間(五〇日間)中、入院雑費として一日当たり一〇〇〇円を要したことは当事者間に争いがない。

3  通院交通費 三万〇七〇〇円

通院交通費は三万〇七〇〇円を限度として当事者間に争いがない。それを超える部分につき、前掲甲一六、一七号証は、タクシー利用についての必要性に疑問があり、、原本の存在、成立ともに争いのない甲八号証と比較して措信できず、他に認めるに足りる証拠はない。

4  休業損害 二三〇万九九〇七円

原告は、月収五〇万円(日額換算一万六六六六円)を得ていたことは当事者間に争いがない。そこで、休業損害の額について判断するに、原告の休業損害について原告の勤務している毎日信販株式会社が作成したとされる休業損害証明書(甲九号証、乙二、三号証)は、休業期間の記載が重複していたり、月収を日割計算しているにもかかわらず、出勤した日の分しか給料を支給していないことになつていたりして(日割計算は、本来の休暇日も含めた日数で除しているのであるから、これでは原告に不利益であるはずである。)その記載内容に必ずしも信を措けないので、本件訴訟に顕れた原告の症状その他諸般の事情に鑑み、原告が退院した昭和六〇年六月一〇日までは全額、翌一一日から治癒した九月一二日まではその九割を本件事故と相当因果関係がある休業損害と認めるのが相当である。そうすると、原告の休業損害は、次の計算式のとおり、右金額となる。

(計算式)

一万六六六六円×(五四+九四×〇・九)=二三〇万九九〇七円(円未満切捨て)

5  傷害慰藉料 八〇万円

本件訴訟に顕れた諸般の事情に鑑みると、原告の本件事故により受けた傷害による精神的苦痛を慰藉するためには、右金額が相当であると認められる。

6  後遺障害慰藉料 〇円

前記のように原告には後遺障害が存しないのであるから、それにともなう慰藉料も存しないものである。

小計 三一九万〇六〇七円

7  損害のてん補

原告に対し、被告から二四〇万円、自賠責保険から一九五万円が支払われたことは当事者間に争いがない。前記のように被告からの支払のうち一〇万円、自賠責保険からの支払のうち一二〇万円が治療費にてん補されたものと認められるから、その残額である三〇五万円を原告の右損害から控除することとする。

小計 一四万〇六〇七円

8  弁護士費用 二万円

弁論の全趣旨によれば、原告は、被告が任意に右損害の支払いをしないので、その賠償請求をするため、原告代理人らに対し、本件訴訟の提起及びその遂行を依頼したことが認められ、本件事案の内容、訴訟の経過及び請求認容額に照らせば、弁護士費用として被告に損害賠償を求めうる額は、右金額が相当である。

合計 一六万〇六〇七円

四  以上のとおり、原告の本訴請求は、一六万〇六〇七円及びこれに対する本件事故の日である昭和六〇年四月一八日から支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから認容し、その余の請求は理由がないので棄却することとし、訴訟費用については民事訴訟法八九条、九二条但書、仮執行宣言については同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 宮川博史)

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