東京地方裁判所 昭和61年(ワ)8286号 判決 1987年1月29日
原告
荒井好子
被告
関東自動車株式会社
主文
一 被告は、原告に対し、九四七万二二五八円及び内八六七万二二五八円に対する昭和五八年七月二四日から、内八〇万円に対する昭和六一年七月一七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを五分し、その三を被告の、その余を原告の各負担とする。
四 この判決は、主文第一項に限り、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、原告に対し、一七二〇万九〇一七円及び内一五六〇万九〇一七円に対する昭和五八年七月二四日から、内一六〇万円に対する昭和六一年七月一七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 事故の発生
(一) 日時 昭和五八年七月二三日午後二時ころ
(二) 場所 栃木県宇都宮市川向町一番二三号先道路上(以下「本件事故現場」という。)
(三) 加害車両 事業用大型乗用自動車(ワンマンバス)
右運転者 訴外弓下美光(以下「弓下」という。)
(四) 被害者 訴外亡荒井冨美子(以下「亡冨貴子」という。)
(五) 事故態様 弓下は、宇都宮駅前のバスターミナル内である本件事故現場において、加害車両を発進させた際、折から加害車両の直前を右方から左方へ横断してきた亡冨貴子に加害車両の左前部を衝突させて転倒させ、さらに加害車両左後輪で亡冨貴子を轢過した。
(六) 結果 亡冨貴子は、骨盤骨折、腹腔内臓器損傷の傷害を負い、同日午後四時ころ死亡した。
(右事故を、以下「本件事故」という。)
2 責任原因
(一) 被告は、加害車両を自己のため運行の用に供していた者であるから、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)第三条の規定に基づき、損害賠償責任を負う。
(二) 本件事故は、被告にバス運転手として勤務する弓下が、被告の業務として加害車両を運転中、左前方の乗車場に気をとられて前方の安全を確認しないまま漫然発進した過失により惹起したものであるから、被告は、民法七一五条の規定に基づき、損害賠償責任を負う。
3 損害
(一) 逸失利益 一六〇〇万八五九二円
亡冨貴子は、大正三年一〇月一一日生れの女子で、本件事故当時満六八歳であり、地方公務員等共済組合法による退職年金を受給していた者である。
右年金額は、本件事故当時の年額が一七九万五三〇〇円(昭和五八年分の未支給額は五九万八四三三円)であり、昭和六〇年以降の年額が一八九万二二〇〇円である。
したがつて、亡冨貴子は、本件事故で死亡しなければ、以後、満六八歳の女子の平均余命である一六年間生存し、その間右年金を受給することができたはずであるから、生活費として三割を控除し、昭和六一年以降については、新ホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して、亡冨貴子の逸失利益の現価を算定すると、次の計算式のとおり、その合計額は一六〇〇万八五九二円となる。
昭和60年まで 428万5933×0.7=300万0153
昭和61年以降 189万2200×0.7×9.8211=1300万8439
(二) 相続
原告は、亡冨貴子の長女であり、亡冨貴子の右逸失利益の損害賠償請求権を単独で相続取得した。
(三) 慰藉料 一五〇〇万円
亡冨貴子は、原告の唯一の肉親であり、亡冨貴子の死亡によつて原告が被つた精神的苦痛は多大であつて、これに対する慰藉料は一五〇〇万円を下らない。
(四) 葬儀費用 一一五万四一二五円
原告は、亡冨貴子の葬儀を行い、これに右金額を支出した。
(五) 損害のてん補 一六五五万三七〇〇円
原告は、本件事故による損害に対するてん補として、自賠責保険から右金額を受領した。
(六) 弁護士費用 一六〇万円
原告は、被告から損害額の任意の弁済を受けられないため、弁護士である原告訴訟代理人に本訴の提起と追行を委任し、弁護士費用として一六〇万円の損害を被つた。
4 結論
よつて、原告は、被告に対し、本件事故による損害賠償として、一七二〇万九〇一七円及び内弁護士費用を除く一五六〇万九〇一七円に対する昭和五八年七月二四日から、内弁護士費用一六〇万円に対する訴状送達の日の翌日である昭和六一年七月一七日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1(事故の発生)の事実中、(一)ないし(四)及び(六)の事実は認め、(五)のうち、亡冨貴子が加害車両の直前を右方から左方へ横断してきたこと、亡冨貴子に加害車両の左前部を衝突させて転倒させたことは不知、その余は認める。
2 同2(責任原因)の事実中、本件事故は、被告にバス運転手として勤務する弓下が、被告の業務として加害車両を運転中に発生させたものであることは認めるが、弓下が左前方の乗車場に気をとられて前方の安全を確認しないまま漫然発進したこと及び同人の過失は否認し、被告の責任は争う。
3(一) 同3(損害)の(一)(逸失利益)の事実中、逸失利益算定期間が一六年であること及び生活費控除割合を三割とすることは否認し、その余は不知。
亡冨貴子の逸失利益を算定するに当たつては、仮に収入につき原告主張の退職年金額を前提とするとしても、期間は平均余命の二分の一である八年間が相当であり、生活費控除割合は亡冨貴子に被扶養者がいなかつたことから五割が相当である。
(二) 同(二)(相続)の事実は不知。
(三) 同(三)(慰藉料)の事実は不知、慰藉料額は争う。
亡冨貴子は満六八歳の高齢であり、扶養家族がいなかつたことを考慮すると、その死亡慰藉料は六五〇万円が相当である。
(四) 同(四)(葬儀費用)の事実は不知。
右(三)の事情に照らすと、葬儀費用としては四五万円が相当である。
(五) 同(五)(損害のてん補)の事実は認める。
(六) 同(六)(弁護士費用)の事実は不知。
4 同4(結論)の主張は争う。
三 抗弁(過失相殺)
1 本件事故現場は、宇都宮駅前のバスの専用乗車場区域であり、島型の乗車場とその周囲を巡る車道とは高さ約三〇センチメートルの縁石で明確に区切られ、車道には、間断なくバス又はタクシーが通行している。そのため、歩行者のために、周辺と島型の乗車場とを結ぶ横断歩道及び歩道橋が縦横に且つ十分に設置されているうえ、乗車場には、宇都宮東警察署が設置した「横断歩道を渡りましよう」との立看板が設置されており、車道を横断することは非常に危険な行為である。
2 しかるに、亡冨貴子は、まさに発進しようとしている加害車両の斜め右前方から車道を横断して加害車両の進路に侵入したものであり、そのうえ、加害車両が発進する直前には、加害車両の右側を他のバスが通過しており、亡冨貴子は、右のバスの直後をかいくぐつて、加害車両の直前を横断しようとしたものであり、したがつて、弓下は、右側から侵入する者はあり得ないと考えたため、亡冨貴子に気付かなかつたものである。
3 また、亡冨貴子は、昭和五三年一二月に白内障及び角膜混濁のため左右の目を手術し、眼鏡を使用しても右〇・四、左〇・二の視力しかなかつたものであり、そのような者は、平素から交通に伴う危険を自身で防止すべきであつて、横断の際には、特に横断歩道あるいは歩道橋を利用すべきである。
4 右の事情を勘案すると、亡冨貴子には、本件事故の発生につき少なくとも五割の過失があるから、過失相殺がなされるべきである。
四 抗弁に対する認否及び反論
1 抗弁事実中、亡冨貴子の過失は否認し、過失相殺の主張は争う。
2 本件事故現場は、駅前のバス乗降場であることから、横断歩道や歩道橋を利用せず、車道を横断する歩行者が多い場所であり、このため、通行するバス等も当然このような歩行者に注意しつつ進行する場所である。したがつて、被告主張のような立看板があつたからといつて、公安委員会の指定する横断禁止の標識のある場所とは事情を異にするものである。
3 亡冨貴子は、発進直後の加害車両の斜め右前方から、片手を上げて加害車両を叩くような動作をして、運転者である弓下に対し、待つてくれるよう合図をしながら歩いてきたのであつて、両者の位置関係及び速度は、弓下が亡冨貴子に気付いていれば、当然停止できる状況にあつたものであり、加害車両の右側を通過したバスの直後をかいくぐつて加害車両の直前を横断しようとしたのではないのである。
しかも、事故現場は車道上を歩行者が頻繁に通るバスターミナル内で、加害車両が人の乗降を伴うバスであり、加害車両の運転席からは、その構造上、右前方から接近してくる亡冨貴子を発見することは容易であること等を勘案すると、右のような亡冨貴子の横断行為をもつて被害者の過失の加算要素とすべきではない。
4 また、亡冨貴子は、視力が弱かつたが、一般に、幼児、老人、視力障害者等は、過失相殺適用の上で、より保護されるべきものであり、亡冨貴子が視力が弱かつたことは、同女が満六八歳で老人にあたることとともに、むしろ、過失割合の減算要素として考慮すべきものである。
5 加えて、弓下は、加害車両の左前方にいた子供に気をとられ、亡冨貴子が接近してきた右前方については、全く注意しないで加害車両を進行させたものであり、そのうえ、加害車両は、時速約五キロメートルで進行していたのであるが、まず、その左前部を亡冨貴子に衝突させて転倒させたにもかかわらず、これに気付かないまま進行して、亡冨貴子をその左後輪で轢過したものであり、弓下の前方不注視は著しいものがあるとともに、もし、加害車両の左前部が亡冨貴子に衝突した時点でこれに気付き、加害車両を停止させていれば、亡冨貴子は死亡しないで済んだかも知れないのである。
6 以上の事情を総合すれば、本件は、加害車両の運転者である弓下の過失が著しいものであり、亡冨貴子には、過失相殺をすべき程の過失はなかつたものであつて、被告の過失相殺の主張は失当というべきである。
第三証拠
証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。
理由
一 請求原因1(事故の発生)の事実中、(一)ないし、(四)及び(六)の各事実、並びに(五)のうち、弓下が宇都宮駅前バスターミナル内である本件事故現場において、加害車両を発進させた際、加害車両の左後輪で亡冨貴子を轢過したことは、いずれも当事者間に争いがない。
また、同2(責任原因)の事実中、本件事故は、被告にバス運転手として勤務する弓下が、被告の業務として加害車両を運転中に発生させたものであることは当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第一〇号証によれば、加害車両は被告の所有であることが認められ、右認定に反する証拠はないから、他に特段の事情の認められない本件においては、被告は、本件事故当時、加害車両を自己のため運行の用に供していた者であると認めるのが相当である。
右の事実によれば、被告には、自賠法第三条の規定に基づき、本件事故によつて生じた損害を賠償する責任があるものというべきである。
二 そこで、過失相殺の抗弁について判断する。
1 前掲乙第一〇号証、成立に争いのない甲第四二ないし第四五号証、乙第一号証の一ないし一〇、第二ないし第九号証、第一一ないし第一三号証によれば、
(一) 本件事故現場は、国鉄宇都宮駅前のバスの専用乗車場区域であり、島型の乗車場とその周囲を巡る車道とで構成されているいわゆるバスターミナルであること、乗車場は周囲の車道より二〇ないし三〇センチメートル程高くなつており、車道は、バス等の通行が多く、車道を歩行者が横断することは危険であるため、歩行者のために、周辺と島型の乗車場とを結ぶ横断歩道及び歩道橋が設置されているうえ、乗車場には、宇都宮東警察署が設置した「横断歩道を渡りましよう」との立看板が設置されていること、しかしながら、本件事故当時、車道を横断する歩行者も少なくなかつたこと、
(二) 弓下は、加害車両を一二番のバス停留所に数分間停止させて数名の乗客を乗車させ、加害車両を発進させようとした際、右後方から他のバスが進行してきたので、同車が加害車両の右側を通過するのを待つたのち、同車の後部付近を見ながら、低速度で加害車両を発進させ、次いで、左前方の一一番停留所付近に四、五歳の男児が走り回つていたので、その方を注意しながら時速約五キロメートルで進行中、加害車両からみて斜め右前方から小走りで接近してきた亡冨貴子に自車左前部を衝突させ、その場に転倒させたが、これに気付かず、同速度のまま進行を継続し、右の男児の母親とみられる女性が顔を手で覆う動作をし、また、男性の叫び声が聞こえたため、異常に思うと同時に、加害車両が何かに乗り上げたような衝撃を感じたため、加害車両を停止させて下車したところ、加害車両の左後輪で亡冨貴子を轢過しているのを発見したこと、加害車両の左前部が亡冨貴子に衝突してから停止するまでに進行した距離は約八・一〇メートルであつたこと、
(三) 亡冨貴子は、発進後間もない加害車両の斜め右前方から小走りで車道を横断して加害車両の進路に進入し、加害車両の方に向かつて目の高さ位まで手を上げて振り、加害車両を停止させるような動作をしながら、加害車両に接近したが、加害車両が停止しなかつたため、同車の左前部に衝突されてその場に転倒し、続いて、加害車両の左後輪に轢過されたこと、
(四) 加害車両の運転席からは、前方及び斜め左右前方をフロントガラスを通して十分に見通すことができ、また、アンダーミラーにより直前の下方を確認することができること、
(五) 亡冨貴子は、昭和五三年一二月に白内障及び角膜混濁のため左右の目を手術し、眼鏡を使用しても右〇・四、左〇・二の視力しかなかつたこと、
以上の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
2 右の事実によれば、弓下には、前方に対する注意を欠いたまま加害車両を進行させた過失があることが明らかであるが、亡冨貴子にも、加害車両が既に発進しているにもかかわらず、同車に停車してもらうため、宇都宮東警察署が設置した「横断歩道を渡りましよう」との立看板が設置されており、また、付近に横断歩道及び歩道橋が設置されている事故現場の車道を横断して、加害車両の進路に進入し、これに接近していつた過失があるものというべきである。
そこで、亡冨貴子の過失割合について検討するに、前示のとおり、本件事故現場は、宇都宮東警察署が設置した「横断歩道を渡りましよう」との立看板が設置されており、また、付近に横断歩道及び歩道橋が設置されているものの、公安委員会により横断禁止の指定がなされている道路ではないし、また、本件事故は、亡冨貴子が発進直後の低速度で進行している状態の加害車両に対し、その斜め右前方から左手前に向かつて、加害車両に停止してもらうため、手を振つて合図をしながら接近してきた際のものであつて、車両が高速度で進行中の幹線道路を歩行者が急に横断したような場合と異なり、加害車両にとつて比較的回避し易い事故であること、さらに、加害車両の速度は時速約五キロメートルという低速度であつたから、もし、弓下が、加害車両が亡冨貴子に衝突する直前あるいは衝突後直ちに気付いて停止措置を講じていれば、亡冨貴子を左後輪で轢過することを回避することができ、したがつて、死亡の結果を回避することができた可能性もあることなどの点を勘案し、亡冨貴子の過失と弓下の過失とを対比すると、亡冨貴子の本件事故の発生に対する過失の割合は一割にとどまるものと認めるのが相当である。
三 進んで損害について判断する。
1 逸失利益 一四二二万八八四三円
成立に争いのない甲第一、第二、第八号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認める甲第三号証及び弁論の全趣旨によれば、亡冨貴子は、大正三年一〇月一一日生まれの女子で、本件事故当時満六八歳であり、地方公務員等共済組合法による退職年金を受給していたこと、右年金額は、本件事故当時の年額が一七九万五三〇〇円で、もし、亡冨貴子が本件事故で死亡しなければ、昭和六〇年以降の年額は一八九万二二〇〇円であつたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
右の事実に、昭和五八年簡易生命表における満六九歳の女子の平均余命が一五・九五年であり、昭和五九年簡易生命表における満六九歳の女子の平均余命が一五・四五年であることを勘案すると、亡冨貴子は、本件事故で死亡しなければ、以後、八四歳までの一六年間右年金を受給することができたものと推認することができ、右推認を左右するに足りる証拠はないから、生活費として三割を控除し、ライプニッツ式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して(控え目な算定の観点から満七一歳から年額が一八九万二二〇〇円に増額されるものとして)、亡冨貴子の逸失利益の死亡時における現価を算定すると、次の計算式のとおり、その合計額は一四二二万八八四三円となる。(なお、前掲甲第二号証によれば、昭和五八年分の既支出額が一一九万六八六七円あることが認められるが、右の計算方法による場合には右の既支給額を控除する必要はないことが明らかである。)
満70歳まで 179万5300×0.7×1.8594=233万6726(一円未満切捨)
満70歳以降 189万2200×0.7×8.9783=1189万2117(一円未満切捨)
合計=1422万8843
2 相続
前掲甲第八、第四二号証及び成立に争いのない甲第四ないし第七号証、第三五号証によれば、原告は、亡冨貴子の長女であり、他に亡冨貴子の相続人はないことが認められ、右認定に反する証拠はない。
右の事実によれば、原告は、亡冨貴子の右逸失利益の損害賠償請求権を単独で相続取得したものというべきである。
3 慰藉料 一三〇〇万円
前示の亡冨貴子の年齢、原告と亡冨貴子との身分関係、その他本件において認められる諸般の事情を総合すると、亡冨貴子の死亡によつて原告が被つた精神的苦痛に対する慰藉料は一三〇〇万円をもつて相当と認める。
4 葬儀費用 八〇万円
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認める甲第九ないし第一八号証、第二〇ないし第三四号証、弁論の全趣旨により原本の存在と成立を認める甲第一九号証及び弁論の全趣旨によれば、原告は、亡冨貴子の葬儀を行い、これに八〇万円を超える費用を支出したことが認められるところ、前示の亡冨貴子の年齢等本件において認められる諸般の事情を総合すると、本件事故と相当因果関係のある葬儀費用としては、八〇万円をもつて相当と認める。
5 過失相殺 一割
以上の損害の合計は二八〇二万八八四三円となるところ、本件事故の発生につき亡冨貴子に一割の過失があることは前示のとおりであるから、過失相殺として一割を控除すると、残損害額は二五二二万五九五八円(一円未満切捨)となる。
6 損害のてん補 一六五五万三七〇〇円
原告が本件事故による損害に対するてん補として自賠責保険から右金額を受領したことは当事者間に争いがないから、これを控除すると、残損害額は八六七万二二五八円となる。
7 弁護士費用 八〇万円
弁論の全趣旨によれば、原告は、被告から損害額の任意の弁済を受けられないため、弁護士である原告訴訟代理人に本訴の提起と追行を委任し、その費用及び報酬を支払う旨約したことが認められるところ、本件訴訟の難易、審理の経過、前示認額、その他本件において認められる諸般の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用としては、八〇万円をもつて相当と認める。
四 以上によれば、原告の被告に対する本訴請求は、本件事故による損害賠償として、九四七万二二五八円及び内弁護士費用を除く八六七万二二五八円に対する本件事故発生の日ののちである昭和五八年七月二四日から、内弁護士費用八〇万円に対する訴状送達の日の翌日である昭和六一年七月一七日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、右限度でこれを認容し、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 小林和明)