東京地方裁判所 昭和61年(ワ)9360号 判決
一 本件約定の存否について判断するに、原、被告が本件発明の特許出願を被告名ですることができる旨約したことは、当事者間に争いがない。しかし、原、被告が、被告が将来本件機械を製造販売した場合、被告は、原告に対し、一台につき五〇万円の発明料を支払う旨約したとの事実を認めるに足りる証拠はない。すなわち、原告は、その本人尋問の結果中、右支払約定がされたとの原告の主張に添う供述をするが、右供述を裏付けるに足りる的確なる証拠はなく、かえつて、原告が支払約束のされた際に同席していたという証人梅沢治は、自分が同席していた際に原告主張の支払約束がされたことはない旨及び少なくとも現在右支払約束がされたとの記憶はない旨供述し、また、被告代表者も、原告の右供述を否定する供述をしており、更に、原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第四号証、第五号証の一ないし一二、第六号証の一ないし四及び第七号証の一、二によれば、原告は、被告に対する売掛帳、業務日誌のメモ、業務録などを作成しているところ、これらには、原告主張の支払約束がされたことをうかがわせるような記載が存在しないことが認められるところであり、以上総合すると、原告の前記供述のみから直ちに原告主張の支払約束の存在を認めることはできない。原告は、本件約定がされたことは、被告を発明者として本件発明の特許出願がされていることからうかがわれる旨主張するところ、原告を発明者として本件発明の特許出願がされていることは、当事者間に争いがないが、仮に右事実に加えて原告が本件発明の実際の発明者であるとしても、右事実は、本件約定がされたことの根拠たりえない。すなわち、原告は、その本人尋問の結果中、原告が主として注文主の希望する機械の設計や製造図面の作成を業としている者であること及び本件発明も、右業務の一環として被告から受けた注文に伴いされたものであることを自認しているところであり、また、原本の存在及び成立に争いのない甲第一号証、成立に争いのない乙第二号証の一ないし九並びに被告代表者尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認められる乙第一号証によると、被告は、訴外日本スーパー工業株式会社との間で、本件機械を含むモーターコアーコーテイングマシン一式を代金一二〇〇万円で販売する契約を締結したものであるところ、そのために一八〇〇万円以上の費用をかけて本件機械を含む右機械一式を開発したこと、被告は、右機械一式の設計に関し、原告に対し、二〇〇万円以上の金員を支払つていること(原告が一八六万九〇〇〇円を受領していることは、原告も自認している。)、本件発明の特許出願の際、出願人が被告とされていること(この点は、当事者間に争いがない。)が認められ、以上の事実を総合すると、仮に原告が本件発明の実際の発明者であるとしても、右金員支払いにより、本件発明についての特許を受ける権利自体が原告から被告に譲渡されたものといえなくもなく、したがつて、原告の主張は、採用することができない。
二 以上のとおりであるから、本件約定の存在を前提とする原告の本訴請求は、その前提を欠き、理由がないものというほかはない。
よつて、原告の本訴請求を棄却することとする。