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東京地方裁判所 昭和61年(特わ)146号 判決 1986年7月01日

本籍

東京都中野区沼袋二丁目一五三六番地

住居

同都同区江古田四丁目二四番七号

会社役員

宇佐見隆二

昭和一三年一月二〇生

右の者に対する相続税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官江川功出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年二月及び罰金五〇〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金二〇万円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。

この裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、東京都中野区江古田四丁目二四番七号に居住し、同都板橋区内において印刷業を営んでいたところ、昭和五九年二月三日養父宇佐見安高の死亡により同人の財産を共同相続人である被告人の妻宇佐見洋子と共同相続した者であるが、鮫島義則と共謀の上、架空の保証債務を計上して課税価格を減少させるなどの方法により自己の相続税を免れようと企て、昭和五九年七月一三日、同都中野区中野四丁目九番一五号所在の所轄中野税務署において、同税務署長に対し、被相続人宇佐見安高の死亡により同人の財産を相続した相続人全員分の正規の相続税課税価格は九億六六二四万七〇〇〇円で、このうち被告人分の正規の課税価格は五億四八四〇万五〇〇〇円であった(別紙(1)相続財産の内訳及び別紙(2)脱税額計算書参照)のにかかわらず、料金及び土地の一部を取得財産から除外した上、右安高には右鮫島に対する金額一億五〇〇〇万円の保証債務がありこのうち七五〇〇万円を被告人において負担すべきことになったので、これを取得財産の価額から控除すると相続人全員分の課税価格は四億八〇一〇万一〇〇〇円で被告人分の課税価格は二億四八二六万三〇〇〇円となり、これに対する被告人の相続税額は一億二〇三〇万九八〇〇円である旨の虚偽の相続税申告書(昭和六一年押第四一六号の1、2)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により被告人の正規の相続税額三億二四四八万五一〇〇円と右申告税額との差額二億四一七万五三〇〇円(別紙(2)脱税額計算書参照)を免れたものである。

(証拠の標目)

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書七通

一  宇佐見洋子(二通)、鮫島徳太郎及び勝又淳二の検察官に対する各供述調書

一  収税官吏作成の次の各調査書

1  預貯金調査書

2  有価証券調査書

3  土地調査書

4  保証債務調査書

5  葬式費用調査書

一  中野区長作成の除籍謄本

一  検察事務官作成の捜査報告書

一  宇佐見安高作成の相続税の申告書(写し)

一  宇佐見安高及び富張文子共同作成の遺産分割協議書三通(いずれも写し)

一  押収してある相続税の申告書(昭和五九年六月一三日付)一袋(昭和六一年押第四一六号の1)及び同じく申告書(同五九年七月一三日付)一袋(同押号の2)

(法令の適用)

一  罰条

刑法六〇条、相続税法六八条一、二項

一  刑種の選択

懲役刑及び罰金刑の併科

一  労役場留置

刑法一八条

一  刑の執行猶予(懲役刑につき)

刑法二五条一項

(量刑の事情)

本件は養父の財産を共同相続した被告人が、脱税請負グループの一員である鮫島義則と共謀のうえ、預金及び土地の一部を取得財産から除外し、また、巨額の架空保証債務を計上するなどして自己の相続税二億四一七万円余をほ脱したという事案であって、ほ脱額が高額であり、ほ脱率も約六二パーセントと高く、犯行の態様をみても、債務控除に関する相続税法一三条の規定を悪用して申告を行うなど巧妙かつ悪質で、申告後の税務調査に対しては同和団体や政治家によって圧力を加える予定であったことなど犯情も悪質である。もっとも、本件全体の経過においては、相続税の軽減方法を考慮中であった被告人に脱税をもちかけ、その方法を発案し、虚偽申告書の作成及び提出等脱税工作の大半を実際に遂行したのは共犯者の鮫島とその仲間であり、本件犯行が同人主導で行われたことは事実であるとしても、納税の当事者として脱税により直接の利益を受けるのは被告人であり、被告人の承諾なくしては本件は成り立ち得なかったのみならず、被告人自身、預金及び土地の一部を取得財産から除外したうえ、不正な申告に使われることを認識しながら、内容虚偽の遺産分割協議書の作成に関与し、また、巨額の架空保証債務が計上されていることを認識しながら申告書に押印し、これを提出させるなど、その関与の程度も小さくなかったこと、加えて、納期限後、除外した土地の大部分を申告することにしたものの、その際、大巾な税額の増加を避ける等の理由から、本件で計上した架空保証債務をはずして、その代わりに新たな三億円の架空債務を計上して修正申告を行ったこと等を併せ考慮すると、鮫島の誘いに安易に乗り、脱税の具体的方法を熟知のうえ、同人と共謀して本件に及んだ被告人の責任は、軽くないといわなければならない。

他方、財産除外のうち土地を除外した理由は、相続税の申告手続を鮫島に以来したものの、同人を全面的には信用していなかったことから、相続財産が多くなることによって報酬額が引き上げられることを恐れ、また、当該土地の権利関係が錯綜していると考えていたことなどによるもので、被告人は、それを整理してから申告済の財産とは別個に申告する意思であったことが窺われること、被告人は、本件犯行において共犯者の鮫島に比較して従属的立場にあり、鮫島やその仲間の報酬、手数料稼ぎに利用されたとの面も存すること、被告人は本件を反省し、修正申告のうえ、本税及び附帯税の一部を納付し、その余についても延納許可決定を得たうえ、完納する決意を表明していること、被告人は正業を有する社会人で、これまで道路交通法違反で罰金刑に一回処せられたのみで、他に前科前歴がないこと等被告人に有利に斟酌すべき事情も認められるので、これらを総合考慮して、主文のとおり量定した。

(求刑懲役一年二月及び罰金八〇〇〇万円)

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 鈴木浩美)

別紙(1)

相続財産の内訳

昭和59年2月3日

<省略>

別紙(2)

脱税額計算書

<省略>

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