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東京地方裁判所 昭和61年(特わ)2436号 判決 1987年2月23日

本店所在地

東京都練馬区豊玉上一丁目一五番二号

株式会社エルム皮革

(右代表取締役 塩田賢治)

本籍

埼玉県大宮市植竹町一丁目一九番地の一五

住居

東京都練馬区大泉町二丁目一四番一八号

会社役員

塩田賢治

昭和二一年一月二五生

右の者らに対する法人税法違反被告事件につき、当裁判所は、検察官江川功出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

一  被告人株式会社エルム皮革を罰金三二〇〇万円に、被告人塩田賢治を懲役一年二月にそれぞれ処する。

二  被告人塩田賢治に対し、この裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人株式会社エルム皮革(以下「被告会社」という。)は、東京都練馬区豊玉上一丁目一五番二号(昭和六一年五月十四日以前は、同都墨田区東墨田三丁目一八番一八号、同六〇年一月二二日以前は、同都練馬区豊玉中三丁目三番七号)に本店を置き、皮革服飾製品の製作及び販売等を営む資本金九〇〇万円の株式会社であり、被告人塩田賢治(以下「被告人」という。)は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上の一部を除外し、あるいは架空仕入れを計上するなどの方法により所得を秘匿した上

第一  昭和五七年六月一日から同五八年五月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が二億四三三万一七八九円あった(別紙(一)修正損益計算書参照)のにかかわらず、同五八年七月二九日、東京都練馬区栄町二三番地所在の所轄練馬税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二六二八万一〇九六円でこれに対する法人税額が八〇一万五一〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和六一年押第一三三六号の2)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額八二八九万九一〇〇円と右申告税額との差額七四八八万四〇〇〇円(別紙(三)脱税額計算書参照)を免れ

第二  昭和五八年六月一日から同五九年五月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億一五九九万二八〇九円あった(別紙(二)修正損益計算書参照)のにかかわらず、同五九年七月二五日、前記練馬税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二九六〇万二七九円でこれに対する法人税額が八三六万八二〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額四五七七万五九〇〇円と右申告税額との差額三七四〇万七七〇〇円(別紙(三)脱税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

一、被告人の当公判廷における供述

一、被告人の検察官に対する供述調書六通

一、被告人の収税官吏に対する質問てん末書二通

一、井上かづ子及び西宮憲昭の検察官に対する各供述調書

一、笠原妙子及び塩田緑の収税官吏に対する質問てん末書

一、収税官吏作成の次の各調査書

1  売上高調査書

2  当期材料仕入高(売上原価)調査書

3  福利厚生費(売上原価)調査書

4  外注加工費(売上原価)調査書

5  通信費(売上原価)調査書

6  燃料費(売上原価)調査書

7  工場消耗品費(売上原価)調査書

8  旅費交通費(売上原価)調査書

9  水道光熱費(売上原価)調査書

10  消耗品費(売上原価)調査書

11  雑費(売上原価)調査書

12  給料手当調査書

13  退職金調査書

14  諸税公課調査書

15  広告宣伝費・広告費調査書

16  運賃調査書

17  支払手数料調査書

18  受取利息調査書

19  雑収入調査書

20  支払利息調査書

21  固定資産売却益調査書

22  役員賞与の損金不算入額調査書

23  事業税認定損調査書

24  土地譲渡利益金額に対する税額調査書

25  預金調査書

一、東京地方検察庁特別捜査部検事作成の捜査報告書

一、検察事務官作成の捜査報告書二通

一、税理士作成の証明書

一、押収してある昭和五八年六月一日ないし同五九年五月三一日事業年度分の確定申告書一袋(昭和六一年押第一三三六号の1)及び昭和五七年六月一日ないし同五八年五月三一日事業年度分の確定申告書一袋(同押号の2)

(法令の適用)

一  罰条

1  (被告会社)法人税法一六四条一項、一五九条一、二項

2  (被告人)法人税法一五九条一項

二  刑種の選択

(被告人)懲役刑を選択

三  併合罪の処理

1  (被告会社)刑法四五条前段、四八条二項

2  (被告人)刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の重い判示第一の罪の刑に加重)

四  刑の執行猶予

(被告人)刑法二五条一項

(量刑の事情)

本件は、被告人が被告会社の業務に関し、売上の一部を除外し、あるいは架空仕入を計上するなどの方法により所得を秘匿した上、虚偽過少の申告を行い、昭和五八年五月期及び同五九年五月期の二事業年度分の法人税合計一億一二二九万円余をほ脱したというものであるが、右のとおりほ脱額は高額であり、ほ脱率も通算で約八七パーセントと高率である。被告会社は、レザーコートなどの皮革製品の製造、販売を行っていたものであり、被告人において、以前から現金売上の一部を除外していたこともあったが、昭和五六年ころから、単価が高く、粗利も大きい毛皮製品の製造、販売を行うようになり、次第に売上高中に占める毛皮製品の割合が高くなって利益も増大していた。被告人は、毛皮製品の製造、販売業を行うには高価な材料をヨーロッパから一年分まとめて購入する必要があり、その資金を蓄えておきたかったこと、受け取手形が不渡りになった場合に備えて裏資金を蓄えておきたかったことなどが脱税の動機である旨述べるが、動機において特に斟酌すべき事情があるとは認められない。また所得秘匿の方法をみると、直販店などにおける小売の除外や現金による卸売の除外のほか、いわゆるペーパーカンパニーである株式会社エスニック(昭和五六年設立)を利用し、同社を介在させて売上高を圧縮したり、仕入高を水増していたものがあるが、株式会社エスニックについての税務署の調査を回避するべく、本店を移転させたり、同社の手形を不渡りにさせて倒産を装うなどしていた事情も認められる。しかも、被告会社では、練馬税務署の調査を受けたことなどにより、昭和五九年六月には、同五八年五月期の事業年度分につき、仕入れの過大計上などを理由にほ脱所得の一部について修正申告をしているのであるが、それにもかかわらず、被告人は、その後の同五九年五月期の申告に際し、判示のとおり虚偽過少申告を行っていたものであって悪質である。以上のとおり、被告人の刑事責任については厳しく問われなければならないものがあると言うべきであるが、他方では、ほ脱所得の大部分は被告人が個人的に費消したものではなく、仮名預金として留保されていたものであるところ、被告会社は、判示の対象事業年度分につき修正申告の上、右資金などをもって本税、重加算税、延滞税、地方税をすべて納付していること、被告人は査察、捜査の段階から事実を認め、被告会社につき商品、現金等の管理を厳格にするべく組織を改善し、今後の過ちなきことを誓って反省していると認められること、被告人には前科前歴がないことなどの事情もあり、これらを総合勘案し、主文のとおり被告人につきその刑の執行を猶予することとする。

(求刑 被告会社につき罰金三五〇〇万円、被告人につき懲役一年二月)

よって、主文のとおり判決する。

(弁護人 田村秀策、神宮壽雄)

(裁判官 石山容示)

別紙(一)

修正損益計算書

株式会社 エルム皮革

自 昭和57年6月1日

至 昭和58年5月31日

<省略>

製造原価報告書

株式会社 エルム皮革

自 昭和57年6月1日

至 昭和58年5月31日

<省略>

別紙(二)

修正損益計算書

株式会社 エルム皮革

自 昭和58年6月1日

至 昭和59年5月31日

<省略>

別紙(一)

修正損益計算書

株式会社 エルム皮革

自 昭和58年6月1日

至 昭和59年5月31日

<省略>

別紙 (三)

脱税額計算書

会社名 株式会社 エルム皮革

(1) 自 昭和57年6月1日

至 昭和58年5月31日

<省略>

(2) 自 昭和58年6月1日

至 昭和59年5月31日

<省略>

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