東京地方裁判所 昭和62年(ワ)10128号 判決 1988年4月27日
原告
雨森好男
右訴訟代理人弁護士
中野智明
被告
日本プレジデントクラブ
右代表者代表取締役
臼井邦夫
右訴訟代理人弁護士
猪山雄治
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
事実
第一当事者の求める裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、原告に対し金二九万七六一九円及びこれに対する昭和六一年一二月二六日から支払い済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は、被告の負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二当事者の主張
一 請求の原因
1 被告は、旅行を目的とする会員制クラブの運営を業とする株式会社である。
2 原告は、昭和六一年一〇月二三日ころ、被告と試用期間を三ヶ月、当面の賃金を月額金三三万〇四〇〇円とする旨の雇用契約(但し、賃金をきめたのは同月八日ころである。)を締結し、同年一一月六日から就労したが、同年一二月二二日に至って被告を退社した。
3 被告においては、昭和六一年一一月二一日から同年一二月二〇日までの賃金を同月二五日に支払うことになっていた。
4 原告は、右3の期間中に、休日出勤四日、時間外労働八四時間五〇分、深夜労働一三時間一〇分を行ったので、労働基準法第三七条、同法施行規則第一九条、同法第二〇条によって、割増賃金の額を計算すると、別紙のとおり合計金二九万七六一九円になる。
5 よって、原告は、被告に対し右未払い賃金二九万七六一九円及びこれに対する賃金の支払い期日の翌日である昭和六一年一二月二六日から支払い済みに至るまで商事法定利率の年六分の割合による金員の支払いを求める。
二 請求の原因に対する認否
1 請求原因1乃至3項の事実を認める。
2 同4項の事実を否認する。
3 同5項を争う。
三 仮定抗弁
被告は、原告を原告の主張する雇用契約において被告の総務、経理、人事、及び財務各部門の責任者である総務局次長として雇用している。即ち、原告は、被告において労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にあり、出社退社等について厳格な制限を受けず、その地位に相応した職務手当及び役職手当を受けていたものであって、労働基準法第一四条第二号の監督もしくは管理の地位にあったものである。因みに、原告に対する給与三三万〇四〇〇円の内訳は、基本給の内、年令給が金一五万〇八〇〇円、職能給が七万九六〇〇円、諸手当の内、役職手当が金三万円、職務手当が金五万円、家族手当が金二万円である。
よって、仮に原告がその主張のとおりの休日出勤及び時間外労働深夜労働をしたとしても、原告は、賃金請求権を有しない。
四 仮定抗弁に対する認否
仮定抗弁事実を総て否認する。原告は被告代表者から賃金の額と当初の三カ月が試用期間になる旨告げられたのみで、役職等は何ら決定していなかったのである。
第三証拠(略)
理由
一 請求原因1乃至3項の事実については、当事者間に争いがない。
(証拠略)によると、原告は昭和六一年一一月二一日から同年一二月二〇日までの間に休日出勤4(ママ)日、時間外労働八四時間五〇分、深夜労働一三時間一〇分を行っていることが認められる。
二 (証拠略)前掲原告本人(但し、後記措信しない部分を除く。)及び被告代表者の各供述によると、被告代表者の臼井は、かねてから被告の人事、経理関係等のいわゆる総務全般を同人に代わって処理できる人物を社員として採用したいと考え、顧問の村上公認会計士に適当な候補者の紹介を依頼していたところ、同人が原告を紹介してきたので面接の上即決して採用したこと、臼井が原告を採用した直後の契機は、当時、緊要であった被告の九月期の決算を早急に完了させるためであり、この点で、昭和二八年専修大学経済学部卒業後会社こそ転々としていたけれど、その間一貫して経理事務に従事してきた原告を適任者と見なしたからであるが、原告の職務がそれに尽きるものではなく、即ち、被告には一年間の売上げが約一三億円弱あり、組織として、総務局、旅行事業局、出版事業局、管理室を置いているものの、当時の被告の人員は社員が併せて四、五名で、他に常時雇用されている数名のアルバイトがいる程度であるところから、臼井は原告に対して経理のみならず人事、庶務全般に及び事務を管掌することを委ねたこと、そのため、被告は、原告を総務局次長として任用し、基本給として年令給一五万〇八〇〇円、職能給七万九六〇〇円を、この他に手当として、役職手当三万円、職務手当五万円、家族手当二万円を支給していたこと、そして、被告の就業規則には、役職手当の受給者に対しては時間外労働手当を支給しない旨の規定があること、以上の事実が認められ、原告本人の供述中には、原告は臼井から面接のときに、試用期間が三カ月で当分の間の給与を三三万〇四〇〇円とすることを告げられたに過ぎず、役職等は決まっていなかったとする部分があるが、前掲各証拠に照らすと措信できない。
右に認定した事実によると、被告において原告は労働基準法四一条二号の監督若しくは管理の地位にある者に該当していたというべきであるから、同法三七条の時間外、休日及び深夜労働の割増賃金に関する規定が同法一四条本文によって原告に対し適用にならないことは明らかである。
しこうして、監督若しくは管理の地位にある者の時間外労働等について割増賃金を支給するか否かは専ら就業規則の定めによると解せられるところ、就業規則によると原告に対しては時間外手当を支給しないことになっているのであるから、原告の割増賃金の請求はその根拠を欠くといわねばならない。
三 以上のとおりとすると、原告の請求はその余について判断するまでもなく理由のないことが明らかであるから、これを棄却することにし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 畔柳正義)