東京地方裁判所 昭和62年(ワ)1201号 判決
一 請求の原因1、2及び4のうち、被告が被告装置を使用している事実は、当事者間に争いがない。
二 右争いのない本件発明の特許請求の範囲の記載と成立に争いのない甲第二号証によれば、(1)従来、連続鋳造システムにおいて、造塊工程から供給される熱鋼片には均熱処理を、材料置場その他にいつたん保管された冷鋼片には加熱処理を施して、圧延工程の前処理としての予熱処理を行うとき、分塊工場で製造される各種鋼片が、その都度得られる断続的なものであり、これに対し、圧延工程の操業は連続的であるため、圧延に適した予熱を有するよう灼熱処理が施された灼熱鋼片を圧延機へ常に連続的に供給しなければならず、したがつて、ある程度の余剰鋼片を一時的にでも保管貯留することになり、その冷却、再加熱作業を含めて適正量の制御が著しく困難であつたこと、(2)本件発明は、このような状況に鑑み創出されたものであつて、灼熱処理中に生じた排熱を加熱処理に活用し、その有効利用と、操業状態によつて灼熱処理のみ、あるいはこれと加熱処理とを並行させうることとが図れるようにしたものであつて、その構成要件は、次のとおりであると認められる。
A 熱鋼片に対する灼熱処理を施す灼熱炉と、冷鋼片に対する加熱処理を施す加熱炉と、灼熱炉に生じた排熱を加熱炉へ導入するよう、灼熱炉と加熱炉とを連絡する開閉自在な排熱導通ダクトとを備えて成り、
B 排熱導通ダクトは、灼熱炉出口の後壁と加熱炉出口の後壁とを連絡せしめるとともに、加熱炉の後壁直前においては複数個に分割されたプランチ路を介して接続させてあり、
C 前記加熱炉は、その後壁上方及び天井壁適所上方それぞれに複数のバーナーを配置したバーナー帯壁を連続させて構築し、
D 加熱炉は、加熱炉入口側が低くなつている傾斜上壁にて掩蓋して、バーナーによる熱気が加熱炉前方に対し次第に炉床へ向かつて下降されるようにしてある、
E ことを特徴とする連続鋳造システムにおける冷鋼片、熱鋼片の予熱処理装置。
これに対して、(一)被告装置を表示するものであることについて争いのない別紙目録の(4)の記載によれば、被告装置は、「導通ダクト30は、灼熱炉10の入口16に隣接する壁15の上部と加熱炉20の熱鋼片入口27と熱鋼片出口28に隣接する壁22の上部を連絡せしめ」る構造のものであつて、導通ダクト30が灼熱炉出口の後壁と加熱炉出口の後壁とを接続しているわけではないから、導通ダクトと灼熱炉及び加熱炉との接続位置に関して本件発明の構成要件Bを充足しないことは明らかであり、また、(二)被告装置は、別紙目録の(5)の記載によれば、「導通ダクト30と加熱炉20は、一つの長孔31を有する矩形ダクト32を介して接続されて」いるのであるから、本件発明の構成要件Bにいう複数に分割されたプランチ路の構成を具備しないことも明らかである。更に、(三)本件発明の構成要件Cは、複数のバーナーを配置したバーナー帯壁を前記加熱炉の後壁上方及び天井壁上方に構築するものであるのに対し、被告装置は、別紙目録の(6)の記載によれば、「加熱炉20は、その側壁23、側壁24の上方にそれぞれ四個ずつのバーナー21を設置してあ」る構造のものであるから、バーナー帯壁がないこととバーナーの設置位置の点において、本件発明の構成要件Cを具備しないものであることも明らかである。更にまた、(四)本件発明の構成要件Dは、「加熱炉は、加熱炉入口側が低くなつている傾斜上壁にて掩蓋して、バーナーによる熱気が加熱炉前方に対し次第に炉床へ向かつて下降されるようにしてある」という構成であるが、別紙目録の(7)の記載によれば、被告装置の加熱炉は、熱鋼片入口27及び熱鋼片出口28側の約半分の天井が高い水平の上壁25で、また、冷鋼片入口29側の天井が低い水平の上壁26で覆われているにすぎず、熱気を次第に下方に向かつて下降させるような傾斜上壁は存しないのであるから、本件発明の構成要件Dの構成を具備しないことも明らかである。
原告は、請求の原因5(二)において、被告装置は、本件発明と比べ、右の構成上の差異を有するが、いずれも作用効果が同一であり、かつ、当業者にとつて容易に推考しうるか、又は置換自明な差異であつて、均熱炉の排熱を加熱炉に効果的に導入し、加熱炉内において排熱の対流輻射を効果的にするという作用効果において本件発明と同一であるから、右の両者の構成上の差異は、設計上の微差にすぎない旨主張するが、前掲甲第二号証及び成立に争いのない乙第一号証ないし第四号証によれば、出願人である原告は、当初、特許請求の範囲1に冷鋼片、熱鋼片の余熱処理方法について記載し、同2に「熱鋼片に対する均熱処理を施す均熱炉と、冷鋼片に対する加熱処理を施す加熱炉と、均熱炉に生じた排熱を加熱炉へ導入させるよう、均熱炉と加熱炉とを連絡する開閉自在な排熱導通ダクトとを備えたことを特徴とする冷鋼片、熱鋼片の余熱処理装置」と記載して特許出願したところ、昭和五七年七月一五日付拒絶理由通知を受けたため、同年一〇月一日、特許請求の範囲1の余熱処理方法の記載を削除し、かつ、右2の余熱処理装置の記載について、排熱導通ダクトの均熱炉と加熱炉との接続位置の要件、導通ダクトを複数個に分割されたプランチ路を介して加熱炉に接続させるとの要件、バーナー帯壁を加熱炉の所定の位置に構築するとの要件、加熱炉を同入口側が低くなつている傾斜上壁にて掩蓋するとの要件を追加して、現在の本件発明の特許請求の範囲の記載のとおりに補正し、また、右の特許請求の範囲の補正に対応して、明細書の発明の詳細な説明の項の記載について、当初、「排熱導通ダクト30の連絡形態は、均熱炉10と加熱炉20との配置形態に対応して適宜に選択されるものであり………均熱炉10の出口がわ天井と加熱炉20の天井とを連絡することも、あるいは均熱炉10の出口がわ側壁と加熱炉20の側壁とを連絡することも可能であり、いずれにしても均熱炉10で生じた排熱がその出口がわから導出されて加熱炉20内へ導入されればよく、その導出部位、導入部位は適宜選択できるものである。」(乙第一号証七頁二行ないし四行、一四行ないし八頁四行参照)としていたのを、「排熱導通ダクト30の連絡形態は、図示の如く、均熱炉10の出口の後壁12と、加熱炉20出口の後壁22とを連絡せしめると共に、後壁22直前においては複数個に分割されたプランチ路32を介して接続させたものである。」(本件公報二頁三欄四四行ないし四欄四行)と補正していること、及び、同日付意見書において、「加熱炉20は、構築させたバーナー帯壁25に配置したバーナー21にて追ダキが可能となつており、しかも、その際前方下方へ熱気が案内されることで、加熱効果を極めて大きく向上させているものである。また、ダクト30は、均熱炉10の出口の後壁12と加熱炉20の後壁22とを連絡せしめ、後壁22直前においては複数個に分割されたプランチ路32を介して接続させてあることで、出口から入口へ向つて平均的に導入され、加熱炉20に逐次装入される冷鋼片IBは比較的低温で加熱が開始され、酸化スケールの発生の虞れが少なくなるものである。かかる本願発明の構成、作用、効果は、引用例を仔細に検討するも全く示唆されていないばかりでなく、本願発明において認められる特有の優れた点であり、貴官が認定する如く、「2つのバツチ炉をそれぞれ均熱炉および加熱炉と」なし、両者を「燃焼排ガス通路で連絡し、排ガスダクトを開閉するようにする」点のみに特長が存するものではないのである。したがつて、本願発明と引用例とは、解決すべき課題においてほぼ同一と認められても、それを達成する技術的手段は全く別個の着想から創出されたものといわざるを得ない」と述べていることが認められ、右認定の出願の経過によれば、導通ダクトの接続位置の要件、バーナー帯壁の要件、プランチ路の要件及び傾斜上壁の要件は、いずれも本件発明にとつて必須不可欠の要件であることが極めて明白であり、したがつて、前認定の被告装置の本件発明との差異が設計上の微差にすぎないとして、右の要件のいずれをも欠く被告装置が本件発明の技術的範囲に属するとする、原告の前記主張は、本件明細書の特許請求の範囲の記載のみならず、右のような本件発明の出願の経過に照しても、到底採用しえないものである。
以上によれば、被告装置は、本件発明の技術的範囲に属しないことが明らかである。
三 よつて、原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないから、これを棄却することとする。
〔編注1〕本件における目録は左のとおりである。
目録
別紙図面及び左記説明に記載した連続鋳造システムにおける冷鋼片、熱鋼片の予熱処理装置。
(1) 熱鋼片に対する均熱処理を施す均熱炉10と、
(2) 冷鋼片に対する加熱処理又は熱鋼片に対する保温処理を施す加熱炉20と、
(3) 均熱炉10に生じた排熱を加熱炉20に導入するよう均熱炉10と加熱炉20とを連絡する開閉自在な導通ダクト30を備え、
(4) 導通ダクト30は、均熱炉10の入口16に隣接する壁15の上部と加熱炉20の熱鋼片入口27と熱鋼片出口28に隣接する壁22の上部を連絡せしめ、
(5) 該導通ダクト30と加熱炉20は、一つの長孔31を有する矩形ダクト32を介して接続されており、
(6) 加熱炉20は、その側壁23、側壁24の上方にそれぞれ四個ずつのバーナー21を設置してあり、
(7) 加熱炉20は、熱鋼片入口27及び熱鋼片出口28側の約半分の天井が高い水平の上壁25で、また、冷鋼片入口29側の天井が低い水平の上壁26で覆われている冷鋼片、熱鋼片の予熱処理装置。
<省略>
<省略>
(以下省略)
〔編注2〕本件特許発明の図面は左のとおりである。
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