東京地方裁判所 昭和62年(ワ)12787号
原告
深田寧子(旧姓 飯塚)
原告
土屋紀子
原告ら訴訟代理人弁護士
長谷一雄
同
東澤靖
被告
熊谷興業株式会社
右代表者代表取締役
熊谷新
右訴訟代理人弁護士
高井伸夫
同
末啓一郎
同
小代順治
同
高下謹壱
同
山崎隆
主文
一 原告らの請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 原告らが被告に対し雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
2 被告は、原告らに対し、それぞれ金一〇五六万円及び昭和六二年九月二七日以降毎月金一一万円の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
4 仮執行の宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
主文と同旨
第二当事者の主張
一 請求の原因
1 被告は、映画館、喫茶売店、遊技場等の経営等を目的とする会社で、パブ「ハッピージャック」、パチンコ店「マリー」、テナントビル「カグラヒルズ」等の他映画館「佳作座」を経営していた。
2 原告深田は、昭和五四年二月一二日、被告に雇用され、佳作座ホール係早番勤務に従事していた。
原告土屋は、昭和五三年一〇月一六日から昭和五四年二月二〇日まで佳作座ホール係として被告に勤務していたが、同年四月六日、再び被告に雇用され、佳作座ホール係早番勤務に従事していた。
3 被告は、同年八月六日以降、原告両名を解雇したとして、原告らとの雇用関係の存在を争っている。
4 右解雇時、原告らの給与はそれぞれ一か月一一万円であり、前月二一日から当月二〇日までの分を当月二七日限り支払うものとされていた。
5 よって、原告らは被告に対し、それぞれ昭和五四年八月分までの未払い給与合計一〇五六万円及び同年九月二七日から毎月二七日限り各金一一万円の支払いを求める。
二 請求の原因に対する認否
1 請求の原因1ないし4はいずれも認める。
2 同5は争う。
三 被告の主張
1 被告は、昭和五四年八月六日、原告らに対し解雇の意思表示(以下「本件解雇」という。)をなした。
2 原告らは、勤務態度及び勤怠状況が極めて不良で、上司の再再の注意、指導にもかかわらず、一向に改善の兆しがなかったものであり、被告の就業規則一〇条三号(従業員が勤務成績または能率が不良で就業に適しない場合)に該当するものである。
すなわち、原告深田は、昭和五四年二月一二日の入社から七月末までの約五か月半の間に欠勤一〇日、遅刻三一回(合計三七時間一四分)、早退一回(一時間)に達し、原告土屋は、同年四月六日の再入社から七月末までの約四か月の間に欠勤九日、遅刻一〇回(合計一九時間二五分)、早退三回(合計一一時間六分)に達していた。原告らは、勤務中大声で無駄話をしていることがあり、そのため入場券売り場を無人にしたこともあった。また、女性客の服装を笑いあったり、原告深田は、改札席で新聞を広げて読み、原告土屋は、改札席で居眠りをしていたこともあった。右状況を現認した上司が注意をしても、原告らはこれを無視したり、反抗的態度をとることが多かった。また、原告らは「お客に奉仕する考えはない。」「会社に出て来て給料をもらうだけだ。」と放言するにいたっていた。
四 被告の主張に対する認否
1 被告の主張1は認める。
2 同2は、欠勤、遅刻、早退の事実は認めるが、その余はいずれも否認する。
原告らには解雇に相当する事由は全く存しない。
五 原告らの反論
1 不当労働行為
原告深田は、昭和五四年三月八日、原告土屋は、同年四月一〇日、全日本自由労働組合に加入し、原告らは、同年七月二六日、同じくホール係の柴田(旧姓土谷)知子、富山由美子とともに、全日自労東京支部飯田橋分会熊谷興業支部を結成した。本件解雇は、原告らの組合結成を嫌悪し、原告らに不利益を与え、組合活動の弱体化を図ったもので、不当労働行為に該当するから無効である。
2 解雇権の濫用
原告土屋の欠勤は一か月平均約二日にすぎず、三〇分以上の遅刻は五回にすぎない。原告深田の欠勤は一か月平均二日弱にすぎず、三〇分以上の遅刻は七回にすぎない。佳作座ホール係の勤務には早番と遅番があり、原告両名はいずれも午前九時から午後六時までの早番勤務であったが、一日の実労働時間は八時間三〇分、休息時間は三〇分のみで、交替でとることになっていた。また、早番勤務者は当時原告らを含めて四名(公休をとった者がいるときは三名)で、勤務内容は、入場券売り場での入場券の販売、もぎり(入場する客から入場券の半分を切り取る作業)、売店・コーヒーショップにおけるコーヒー、ホットドッグ等の調理・販売並びにコーラ・ジュース・菓子等の販売、掃除その他様々な雑用を行っていて、極めて忙しかった。休日は週に一回で、その他の休日は正月及び夏に各一日があるのみであった。有給休暇は一年以上勤務した者に与えられ、原告らにはなかった。被告は、遅刻早退があっても一回三〇分を一単位として、それが一か月三単位一時間以内なら精勤賞B賞(四〇〇〇円)、一か月五単位二時間以内なら同C賞(三〇〇〇円)、一日一時間以上出勤してさえいれば、何回何時間遅刻早退しても同D賞(二〇〇〇円)を従業員に支給してきた。これは、右のような劣悪な労働条件のもとで、一定の遅刻早退があることは通常の勤務状態と被告も考えていたからである。原告らの欠勤等の理由は病気、生理休暇、帰省等それぞれ合理的理由に基づくものが多く、通常ならば特別有給休暇として扱われるものが少なくなく、また、原告らには無断欠勤は一度もなかった。このような労働条件のもとでの原告らの前記勤怠は非難することができない。原告深田については昭和五四年五月一一日、原告土屋については同年七月五日にそれぞれ試用期間が満了しているが、いずれも勤怠等について問題になっていない。
右のとおりの事情のもとでなされた本件解雇は権利の濫用である。
六 原告らの反論に対する認否
1 原告らの反論1は争う。被告は、本件解雇前、原告らが組合を結成したことを知らなかった。
2 同2は、佳作座ホール係に早番遅番があること、早番の人数、勤務時間、勤務内容、被告の休日付与状況、精勤賞の内容については原告らの主張を認めるが(ただし、ホール係には他に主任一名がいた。)、その余は否認もしくは争う。
第三証拠(略)
理由
一 被告が、映画館、喫茶売店、遊技場等の経営等を目的とする会社で、パブ「ハッピージャック」、パチンコ店「マリー」、テナントビル「カグラヒルズ」等の他映画館「佳作座」を営業していたこと、原告深田が、昭和五四年二月一二日、被告に雇用され、佳作座ホール係早番勤務に従事していたこと、原告土屋が、昭和五三年一〇月一六日から昭和五四年二月二〇日まで被告に勤務していたが、同年四月六日再び被告に雇用され、佳作座ホール係早番勤務に従事していたことは当事者間に争いがない。
二 被告が、同年八月六日以降、原告両名に対し解雇の意思表示をして、同日以降原告らとの雇用関係の存在を争っていることは当事者間に争いがない。
三 原告らの勤務態度
1 (人証略)によれば、佳作座は、座席数約二六〇のいわゆる名画等を上映する映画館で、その日常的な運営、業務を委ねられていた支配人の下に、副支配人、ホール係主任、映写係三名、その他ホール係従業員、掃除婦がいたことが認められる。
佳作座ホール係の勤務には早番と遅番があり、原告両名はいずれも一日の勤務時間が午前九時から午後六時までの早番勤務であったこと、早番勤務者は原告両名を含めて四名でその勤務内容は、もぎり、入場券売り場での入場券の販売、コーヒーショップにおけるコーヒー・ホットドッグ等の調理・販売並びにコーラ・ジュース・菓子類の販売及び掃除等であったことは当事者間に争いがない。
(人証略)によれば、右当時ホール係としては他に田中主任がおり、執務していたことが認められる。
2 (人証略)によれば、次の事実が認められる。
佳作座においては、昭和四六年ころ、勤務にあたっての心得についてのマニュアルを作成して、支配人、副支配人、主任が常時読むようにしていた。その記載中には、勤務中は仕事以外の話しをしない、無断で自分の持場を離れない、仲間同士で大声で話したり、笑ったりしない、お客様を指さしたり、じろじろ見たりしない、客用ソファーに腰掛けない等の事項があった。また、接客注意事項、電話の応対、挨拶の励行についての抜粋を作り、これを一部はセルロイドケースにいれて従業員が取り出すことができるところにおき、一部は壁に貼りつけて、周知徹底させてきた。
3 (証拠略)によれば、昭和五四年三月から七月までの原告らの勤務態度につき、次の事実が認められる。
三月一五日ころ、原告深田は、売店内で仕事中、沼崎支配人の面前でもぎり席にいた同僚の柴田知子と大声で無駄話をしていた。
同月一八日ころ 原告深田と柴田は売店ショーケースに寄り掛かって無駄話をしていた。
四月二七日 原告土屋と柴田は、上映中、入場者が前に立っているのを無視して無駄話をしていた。沼崎副支配人が注意をしたが、その場から離れたところ再び話し声がした。
五月八日 原告土屋と柴田は、売店内で無駄話をしていた。
同月一二日 売店内にいた原告深田と同土屋は改札をしていた柴田と無駄話をしていた。その間入場券売り場は無人となった。
同月一五日 原告深田はもぎり席で新聞を広げて読んでいた。
六月一〇日 原告深田と同土屋は売店内で無駄話をしていた。沼崎副支配人が場内に聞こえるから静かにしなさいと注意をしたところ、原告らは、聞こえるはずないじゃないと言い放った。
同月一二日 原告土屋は改札席で居眠りをしていた。
同月一九日 原告深田は、改札席で腕を組み片足を組んで座っていた。沼崎副支配人が注意をしたところ、原告深田は、客がいないのだからいいじゃないと口答えをした。
同月二六日 原告深田と柴田は持場を離れ、売店内で無駄話をしていて、入場券売り場を無人にした。
七月六日 午後五時ころ売店の外の通行人からチーズドッグの注文を受けた原告土屋は客の眼前でチーズドッグを素手でつかんで電子レンジにいれた。
同月八日 原告深田と同土屋及び柴田は、売店でコーヒーを買って場内にもどった女性客の服装について話し、笑いあっていた。
同月一〇日 原告土屋と柴田は売店内で話をしていて、その間入場券売り場を無人にし、入場券購入者から大声で呼ばれて初めて気が付くという有り様であった。
同月二四日 原告深田と柴田はひそひそ話をし、時に声を上げて笑ったりしたので沼崎副支配人が注意をしたが、話をやめず、重ねて念を押されてようやく話をやめた。
同月二八日 原告深田と柴田は持場を離れて、売店内で無駄話をしていて、入場券売り場を無人にし、入場者が直接改札に来た。
以上はいずれも沼崎副支配人が現認したものであり、そのたびに注意をしたが、原告らは、無言でそれを聞き流して、無視したり、不真面目な態度で聞いていたりしていた。また、右期間中観客から「売店の人の声が大きい。」「もぎり嬢の応対が悪い。」といった苦情の投書もあったので、沼崎はこれを貼付して従業員の反省を促したりしたこともあった。
中村支配人も原告らの勤務態度不良につき注意を重ねていたが、原告らは、これを無視したり、反抗的態度を取るなどしていた。六月三日には、いわゆるR指定(一五才以下の者は成人の同伴がなければ見ることができないとの映画倫理委員会の指定)してない一般映画につき中村支配人がその旨説明して観客をいれるよう業務上の指示をしているのに、原告らは、自己の記憶ではR指定されていると執拗に言いはり、これに従わなかった。七月二二日ころ退館時刻を三〇分経過しても原告深田、同土屋と柴田は客用ソファーに座って、大声で雑談していたので中村支配人が退館するように指導したが、どうしてそんなことしちゃいけないのなどと捨てぜりふを残して去るなど、素直に従わなかった。
(証拠略)中右認定に反する部分は前掲各証拠に対比し採用することができず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
四 原告らの勤怠状況
1 (証拠略)によれば、次の事実が認められる。
原告らの勤怠状況は、原告深田については、入社した昭和五四年二月に遅刻一回(一時間五四分)、三月に欠勤三日、遅刻五回(一時間二八分、一時間四八分、二三分、一時間二六分、七分)、四月に欠勤一日、遅刻六回(二時間一三分、一時間二五分、一時間一七分、一〇分、二分、二時間五分)、早退一回(一時間)、五月に欠勤三日、遅刻六回(五五分、六分、一分、二分、二時間五二分、一時間二一分)、六月に欠勤二日、遅刻七回(二時間二六分、一一分、二四分、一時間四三分、一時間五六分、七分、二七分)、七月に欠勤一回、遅刻六回(一時間二四分、一時間一六分、一時間二五分、五九分、五八分、四時間二三分)というものであり、原告土屋については、一旦退職するまでの勤怠状況も芳しくなかったので、再入社時に熊谷敬管理部長が今後態度を改め遅刻、欠勤を繰り返さない旨誓約させていたが、再入社後の昭和五四年四月に欠勤二日、遅刻三回(一時間三八分、二九分、二時間一二分)、早退一回(二時間二七分)、五月に欠勤三日、遅刻一回(四五分)、早退一回(五時間三九分)、六月に欠勤二日、遅刻四回(一時間三七分、二時間一四分、一時間九分、一時間一二分)、七月に欠勤二日、遅刻二回(四時間三六分、二時間)、早退一回(二時間五七分)というものであった。
原告土屋本人尋問の結果中右認定に反する部分は前掲各証拠に対比し採用することができず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
2 (証拠略)によれば、次の事実が認められる。
被告は従業員に対し、遅刻等の勤務に関する手続きについては所定の届出書に必要事項を記入のうえ提出することを義務付けており、遅刻についてはそれが明らかになった時点で所属上長に電話で報告しておくこととなっていたところ、原告らは、右事前連絡を殆ど行わなかったため、同僚等に負担をかけることを繰り返し、また、欠勤理由として友人が上京してきた、遅刻理由として出勤時来客があったとするなど勤務より私用を優先しており、原告深田は、昭和五四年五月一九日、届出書の遅刻理由欄に、朝起きたらば、時計が九時を過ぎていた、夢かと思ったら現実だった、今後こんなことがないように神様にお願いしよう、と記載したため、書き方が不まじめであるとして書き直しを命じられたこともあった。また、原告らは、上司から遅刻を注意されても、しょうがないじゃないとか、遅刻した分給与が引かれているのだから良いではないかというような対応をしたりすることもあった。
原告土屋及び同深田各本人尋問の結果中右認定に反する部分は前掲各証拠に対比し採用することができず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
五 原告らと支配人との話し合い
(証拠略)によれば、次の事実が認められる。
同年七月一五日、原告土屋からの申し入れで、原告両名及び柴田と中村支配人が話し合いの機会をもった。原告両名は、八月六日の休館日に従業員に大掃除をさせるということだが、当日はリクリエーションで海に行くのが毎年の例であり、支配人も四月に約束したではないかと詰問し、中村支配人が、自分には決定権限はないし、そんな約束はしていないと否定し、休館日の旅行は前年たまたま行ったものだと説明しても納得せず、繰り返し追及し、大掃除のことは入社の際聞かされていない、前例がない、休日にしてほしい、といい、大掃除をさせるのであれば特別手当を支給すべきであり、それが出ないのならば大掃除はしないと主張した。原告らは、その他熊谷部長から命じられているトイレ掃除はしないとも述べた。
原告両名及び柴田と中村支配人は、原告土屋の申し入れで、同月二四日にまた話し合いの機会をもった。その際、原告らは、前回と同様、休日にしてほしい、大掃除をさせるのであれば特別手当を支給すべきであるといい、中村支配人も日常業務の延長であるから手当は出さないと繰り返し説明した。また、トイレ掃除については熊谷部長の指示は女子トイレを利用するのだから目についたゴミでもあれば拾っておくようにという趣旨であると伝えたが、原告両名はそれもしないと述べた。そこで、支配人が、君達はサービス業というものをどう考えているのかと問いただしたところ、原告らは、「私たちは、お客に奉仕する考えはない。」「会社に出て来て給料をもらうだけが私たちの仕事だ」と放言するにいたった。さらに支配人が、原告らに欠勤や遅刻をしないように注意したところ、原告らは、改める必要はないとか、届けを出しているとかいうばかりであった。
同月二七日、中村支配人は熊谷部長とともに被告代表取締役に報告し、被告として、原告らの行為は明らかに企業秩序を乱すものであって、就業規則及び入社時に提出された誓約書に違反していることは明白であるうえ、他の従業員に与える影響も大きく、佳作座に対する評価の低下、営業上のマイナスをも考慮して、今後改善されなければ原告ら及び柴田を解雇せざるを得ないとの結論に達した。
中村支配人と原告両名及び柴田は、原告土屋の申し入れで、同月三一日にも話し合ったが、原告らは、大掃除、トイレ掃除、勤務態度につき、従前と同様の主張を繰り返し述べて、そのうえ同年八月六日は出勤しないと言明した。
中村支配人と熊谷部長は八月六日に原告らが出勤しないとき、出勤しても支配人あるいは副支配人の指示した作業を行わないときは、直ちに解雇を言い渡すこととして、八月四日被告代表取締役の了承を取り付けた。
(証拠略)中右認定に反する部分は採用することができず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
六 解雇当日
(証拠略)によれば、次の事実が認められる。
前記八月六日の大掃除の内容については、沼崎が、作成した分担表を館内に掲示していて、前日の八月五日にこれを示して分担内容を説明したが、その際原告らから質問等も出なかった。
原告らは、八月六日に出勤してきた。当日午前九時すぎから大掃除が開始され、原告深田は富山と組み、滑り止めのついた約二メートルの脚立の中段にのぼり、富山が脚立を支え、正面入り口上部のガラス拭き掃除を始めた。原告土屋は田中主任と組み、由中主任が約一メートルの脚立にのぼり、原告土屋が脚立を支え、店舗ミッシェルの拭き掃除を始めた。午前九時四〇分ころ中村支配人がトイレ改修工事の立ち会いから回ってきて、正面入口前から原告深田と富山の掃除を見ていたところ、これに気付いた原告深田が脚立を降りて、支配人のそばに駆け寄り、もっていた雑巾を床にたたき付けて女性にこんな危険な作業をさせていいと思っているんですか、そんなところに突っ立っていないであんたやってみなさいよと叫んだ。これを見た原告土屋も作業をやめて支配人に対し、危険な作業をさせないと言っていたのに約束と違うといって詰め寄った。原告らはその場で、休館日は本来休日だ、リクリエーションで海に行くはずだ、そうでなければ特別手当を支給すべきだと繰り返し述べた。
中村支配人は、まず、原告土屋を事務所に呼び、危険な作業ではないから掃除を続けるよう説得することとしたが、原告土屋は相変わらず、業務命令で出勤しろと言われたのでしょうがなく出てきたといい、前同様の主張を繰り返し、中村支配人が大掃除をする気があるのかと聞いても、大掃除はしないと明言した。そこで、中村支配人は原告土屋に解雇通告をした。
次に中村支配人は原告深田を事務所に呼んだが、原告深田も原告土屋と同様の言い分をまくし立てるばかりで、大掃除はしないと明言したので、中村支配人は原告深田に解雇通告をした。
(証拠略)中右認定に反する部分は前掲各証拠に対比し採用することができず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
なお、(証拠略)には、中村は前記解雇通知を一旦撤回したが、同日しばらくしてから再び熊谷部長とともに原告らに対し解雇を通告したとの部分があるが、証人中村光利の反対趣旨の証言に対比して採用することができない。
七 就業規則該当
右認定によれば、原告には、被告の就業規則一〇条三号に該当する事由が存すると認められる。
八 解雇権の濫用について
佳作座ホール係の勤務に早番と遅番があり、原告両名はいずれも一日の勤務時間が午前九時から午後六時までの早番勤務であり、早番係の勤務内容は、もぎり、入場券売り場での入場券の販売、売店・コーヒーショップにおけるコーヒー、ホットドッグ等の調理・販売並びにコーラ・ジュース・菓子等の販売及び掃除並びにその他雑用であったことは前記のとおりであり、その実労働時間が八時間三〇分で、休息時間が三〇分で交替でとっていたこと、また、早番勤務者は当時原告らを含めて四名(公休をとったものがいるときは三名)で、休日は週に一回で、その他の休日は正月及び夏に各一日があったこと、有給休暇は一年以上勤務して与えられていたこと、被告は、遅刻早退があっても一回三〇分を一単位として、それが一か月三単位一時間以内なら精勤賞B賞(四〇〇〇円)、一か月五単位二時間以内なら同C賞(三〇〇〇円)、一日一時間以上出勤してさえいれば、何回何時間遅刻早退しても同D賞(二〇〇〇円)を従業員に支給していたことは当事者間に争いがない。
原告深田及び同土屋本人尋問の結果中には、原告らの労働密度は非常に濃いものであった、一時間交替のモギリ担当以外のときは全く座ることができなかった、金銭と食べ物の取り扱いが混合していて神経的にも疲れた、精勤賞は従業員が欠勤することを見越したうえで設定されていた、そうでなければ体がもたないくらいの労働条件であったとの部分がある。
しかしながら、佳作座は、前記のとおり座席数が約二六〇の小規模の映画館であり、(証拠略)によれば、入場券の販売、もぎり、売店業務は上映の合間に集中していたこと、ホール係の仕事はホール主任、副支配人が手伝うこともあったこと、被告の精勤賞の制度は従業員の遅刻早退を許すものではなく、少しでも欠勤を減少させることを目的にしていたものであることが認められる。なお、映写、演劇その他の興業においては、労働基準法施行規則三一条により、休憩時間をいっせいに与えなければならないとする同法三四条二項の規定が適用されず、また、当時の同法施行規則二七条によれば、一日九時間まで労働させることが認められていた。
右事実並びに原告らの勤務場所が小規模の映画館というサービス業であって、原告らの勤怠状況、勤務態度が不良で、これについての上司の注意によっても改善が見られず、「客に奉仕するつもりはない。」等と言い放つなどの前記諸事情を総合すれば、被告が原告らを解雇したことは、客観的合理性を欠くものではなく、社会通念上相当として是認することができないものではない。
したがって、本件解雇は権利の濫用であり無効との原告らの主張は失当である。
九 不当労働行為について
原告らは、本件解雇は、原告らの組合結成を嫌悪し、原告らに不利益を与え、組合活動の弱体化を図ったものであるから、不当労働行為に該当し、無効であると主張する。
(証拠略)によれば、原告深田は昭和五四年三月八日、原告土屋は同年四月一〇日、全日本自由労働組合に加入し、原告らは、同年七月二六日、同じホール係の柴田知子、富山由美子とともに、全日自労東京支部飯田橋分会熊谷興業支部を結成したこと、ただし、右組合加入あるいは組合結成については、これを公然化せず、一切被告に明らかにしていなかったことが認められる。
(証拠略)中には、原告らは、映写技師に対する組合加入や従業員への交流を呼びかけをするようになり、同年四月二四日以降三回佳作座従業員の社内交流会という会合をもったことがある、機関紙「いのせんと」等の印刷物を再三にわたって発行し、内々にではあるが従業員に配布した、右四月二四日の交流会には中村も同席したが、原告土屋が労使慣行という言葉を使用したりしたのを聞いて、中村は、自分も労働組合をやったことがあるといったりし、また、前記七月一五日の話合いの際、原告らに対し吊しあげ団交じゃないんだからといったりしていたこと、八月六日には当日出勤していなかった柴田をも解雇しており、同日夜熊谷部長が柴田の母親に電話して柴田の解雇を告げた際、柴田は原告両名とともに組合運動をしている旨発言していることから、被告側は原告らが組合結成にかかわりをもっているという認識をもっていた旨の供述部分があるが、(証拠略)に対比すると、被告が、八月六日原告らに対し解雇の意思表示をした時点で原告らの組合結成を認識していたとの前記各供述部分は採用することができない。
そして、前記のとおり解雇相当事由が認められる本件において、被告が原告らの組合加入、活動を理由にして本件解雇をしたことを認めるに足りる証拠はない。
一〇 よって、原告らの本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 長谷川誠)