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東京地方裁判所 昭和62年(ワ)5909号 判決 1988年10月28日

原告

穂積裕己

被告

鈴木文治

主文

一  被告は、原告に対し、金二二三万四一三四円及びこれに対する昭和六〇年五月一六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを四分し、その三を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金一〇六三万九四八三円及びこれに対する昭和六〇年五月一六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  本件事故の発生

(一) 日時 昭和六〇年五月一五日午後六時五分ころ

(二) 場所 東京都大田区田園調布本町四五番三号先路上

(三) 加害車 自家用普通乗用自動車(以下「加害車」という。)

右運転者 被告

(四) 被害車 自動二輪車(以下「被害車」という。)

右運転者 原告

2  責任原因

被告は、加害車を自己のため運行の用に供していたものである。

3  原告の損害

(一) 原告は本件事故のために頸椎捻挫、左膝内側側副靱帯損傷、両肩打撲、腹部打撲、右大腿打撲の傷害を受けた。

(二) 右受傷に伴う損害の数額は次のとおりである。

(1) 治療費

目蒲病院 金三万八八四〇円

佐藤外科胃腸科 金二五五万一〇一〇円

泉崎村立病院 金七万五三四〇円

(2) 入院付添費 金二五万二〇〇〇円

(3) 入院雑費 金六万三〇〇〇円

(4) 通院雑費 金二万五八〇〇円

(5) 休業損害 金九五万五七一三円

月額金一七万六九八四円、昭和六〇年五月一六日から同年一〇月二五日までの一六三日間分。

(6) 慰藉料 金三五〇万円

(7) 後遺障害による逸失利益 金四三三万五一一六円

前記受傷の結果、原告の頸椎及び左膝に頑固な神経症状が残った(自動車損害賠償保障法施行令二条別表後遺障害別等級表第一二級該当)。

基礎年収 金二一二万三八〇八円

労働能力喪失率 一四パーセント

労働能力喪失期間 二二年間

新ホフマン係数 一四・五八〇〇

(8) 弁護士費用 金一六七万六〇〇〇円

4  損害の填補 金二八三万三三三六円

被告は、原告に対し、目蒲病院の治療費として金三万八八四〇円、佐藤外科胃腸科の治療費として金一七六万九一五六円、泉崎村立病院の治療費として金七万五三四〇円、本件事故による損害賠償の内金として金九五万円を支払った。

よって、原告は、被告に対し、自動車損害賠償保障法三条に基づき、前記3(二)の損害合計金一三四七万二八一九円から4の損害填補額金二八三万三三三六円を控除した残額金一〇六三万九四八三円及びこれに対する本件事故発生の日の翌日である昭和六〇年五月一六日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1、2の事実は認める。

2  同3の事実について、(一)は知らない。(二)のうち、(1)の目蒲病院の治療費が金三万八八四〇円であること、泉崎村立病院の治療費が金七万五三四〇円であること、佐藤外科胃腸科の治療費の請求額が金二五五万一〇一〇円であることは認め、その余は不知ないし否認する。

3  同4の事実は認める。

三  抗弁(過失相殺)

被告は、本件事故現場付近の大江戸商会で植木等を買い求めるため、片側三車線道路の最も左側歩道近くに加害車を停止させ、右後方を確認したが後方からの進行車両がなかつたため、二、三秒後に右手で加害車の運転席ドアを約二〇センチメートル開けたところ、突然被害車が追突してきたものである。右によれば、被害車は渋滞車両間の一メートルあるかないかの狭い間隙を縫つて、時速五〇キロメートルを超える速度で進行してきたものとしか考えられず、このような原告の無謀運転と前方不注視が本件事故の一因というべきであるから、原告の損害を算定するに当たつては、右の点を斟酌して減額されるべきである。

四  抗弁に対する認否

否認する。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証、証人等目録記載のとおり。

理由

一  請求原因1、2の事実は当事者間に争いがない。

二  請求原因3の事実について

1  原本の存在及び成立に争いのない甲第二号証の一、二、第五号証の一、二、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第九号証の一、二、成立に争いのない甲第一三号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告は本件事故のため頸椎捻挫、左膝内側側副靱帯損傷、左下腿打撲、両膝打撲、両肩打撲、腹部打撲等の傷害を受け、昭和六〇年一〇月二五日、頸部に軽度の圧痛及び運動時痛、左膝部に内転屈曲時の疼痛及び運動時痛の後遺障害を残して症状が固定したことが認められる。

2  原告の損害

(一)  治療費 金二六六万五一九〇円

目蒲病院の治療費金三万八八四〇円、泉崎村立病院の治療費金七万五三四〇円については当事者間に争いがない。

被告が佐藤外科胃腸科の治療費として金一七六万九一五六円を支払つたことは当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第四号証の一、二及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、被告の前記支払とは別に佐藤外科胃腸科の治療費残金として同病院に対し金七八万一八五四円を支払つたことが認められるから、佐藤外科胃腸科の治療費は総額金二五五万一〇一〇円と認めることができる。

(二)  入院付添費 金〇円

入院付添費については、付添看護の必要性を認めるに足りる証拠がないから、これを認めることはできない。

(三)  入院雑費 金六万三〇〇〇円

前記甲第二号証の一及び原告本人尋問の結果によれば、前記受傷の治療のため、原告は、昭和六〇年五月一六日から同年七月一七日までの六三日間佐藤外科胃腸科に入院し、その間一日金一〇〇〇円を下らない雑費を支出をしたものと認められ、右認定に反する証拠はない。

(四)  通院雑費 金〇円

通院雑費については、これを認めるに足りる証拠がない。

(五)  休業損害 金一〇四万二六一八円

原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第八、第一〇号証、甲第一一号証の一ないし五及び原告本人尋問の結果によれば、原告は本件事故当時株式会社恒信設計事務所に勤務し、昭和六〇年一月から四月までの間一か月平均金一九万一八九三円の給与を得ていたものであるが、前記受傷のため本件事故翌日の同年五月一六日から少なくとも前記症状固定日である同年一〇月二五日までの一六三日間休業せざるをえず、その間金一〇四万二六一八円の休業損害を被つたものと認めることができる。

(六)  後遺障害による逸失利益 金三一万三五三〇円

前記甲第八号証、甲第九号証の一、甲第一〇号証、甲第一一号証の一ないし五、甲第一三号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告は現在泉崎村立病院において事務員として勤務し、一か月約一〇万円の給与を得ているが、本件事故当時より一か月約九万円の減収となつていることが認められるところ、本件事故と相当因果関係の認められる逸失利益としては前記後遺障害の内容及び程度に照らし、向こう三年間を通じ五パーセント程度の収入の減少を受けるものとして損害を認めるのが相当であり、それを超える原告の逸失利益の請求は失当というべきである。そうすると、右期間の原告の逸失利益は、次の算式のとおり金三一万三五三〇円となる。

(191,893円×12)×0.05×2.7232≒313,530円

(七)  慰藉料 金二〇〇万円

原告の受傷の内容、治療経過、後遺障害の内容及び程度等諸般の事情を総合すれば、原告に対する慰藉料としては金二〇〇万円をもつて相当と認める。

(八)  抗弁(過失相殺)について

成立に争いのない甲第一二号証の一ないし二四及び原告本人尋問の結果によれば、次の事実を認めることができる。

本件事故現場は、東京都大田区田園調布本町四五番三号先の通称中原街道(以下「本件道路」という。)上であり、原告進行方向の車両通行帯は三車線あり、その幅員は左側から二・一メートル(以下「第一車線」という。)、三・二メートル(以下「第二車線」という。)、二・七メートルであり、その外側に幅員四・〇メートルの歩道が設置されている。本件道路は、最高速度が時速四〇キロメートルに制限されており、本件事故当時渋滞していた。

被告は、昭和六〇年五月一五日午後六時五分ころ、本件事故現場の本件道路第一車線左側側端に加害車を停止させ、右後方の安全を十分確認しないまま、下車するため運転席のドアーを開扉したところ、折から加害車の右後方から進行してきた原告運転の被害車が右ドアー先端に衝突し、次いで加害車の右側方第二車線上に渋滞のため停止中の古澤千絵子運転の普通乗用自動車(以下「古澤車」という。)左前フエンダー部分に衝突した。

加害車の右側面と古澤車の左側面との間隔は約一・二メートルであつた。

原告は、被害車を運転して、本件道路第一車線上を進行し、本件事故現場に差し掛かつた際、第一車線上に停止した加害車と第二車線上に停止した古澤車との間隔が約一・二メートルしかなかつたのであるから、このような場合、自動二輪車の運転者としては、第二車線上を古澤車に追従して進行するか、又は両車の間を通過する場合には十分に速度を減速して走行すべきであるのに、被害車を時速約三〇キロメートルの速度で加害車と古澤車の間を進行させたため、加害車の運転席のドアーが開くのを約一メートル手前で発見し、急制動の措置を講じたが間に合わず、前記のとおり、加害車及び古澤車に衝突し本件事故に至つたものである。

そして、右認定の事実によれば、本件事故の発生に関し原告にも落ち度があつたものというべきであるから、これを斟酌し、原告の前記損害額から二割を減額するのを相当と認める。

(九)  損害の填補 金二八三万三三三六円

請求原因4の事実は当事者間に争いがない。

(一〇)  弁護士費用 金二〇万円

弁論の全趣旨によれば、原告は本件訴訟を原告訴訟代理人に委任し相当額の費用及び報酬の支払を約しているものと認められるところ、本件事案の性質、審理の経過、認容額に鑑みると、原告が本件事故による損害として被告に対し賠償を求めうる弁護士費用の額は金二〇万円をもつて相当と認める。

三  結論

以上の事実によれば、本訴請求は、被告に対し、前記損害の残額金二二三万四一三四円及びこれに対する本件事故発生の日の翌日である昭和六〇年五月一六日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を、各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 岡本岳)

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