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東京地方裁判所 昭和62年(ワ)7699号 判決 1989年4月07日

原告

飯塚俊而郎

ほか一名

被告

富田堅治

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告らに対し、各一五〇〇万円及びこれに対する昭和六一年一〇月一八日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二請求原因

一  交通事故の発生

1  日時 昭和六一年一〇月一八日午後七時二五分ころ

2  場所 東京都足立区竹の塚三―一一先交差点(以下「本件交差点」という。)

3  加害車両 普通乗用車(足立五七ぬ五三九三、以下「加害車両」という。)

右運転者 被告

4  被害車両 普通乗用車(大宮五八ね四〇五四、以下「被害車両」という。)

5  事故態様 訴外飯塚由久(以下「訴外由久」という。)は、被害車両を運転し、日光街道方面より本件交差点を直進しようとして、その走行道路の一時停止標識に従つて一旦停止した後、被告走行道路を横断しようと、本件交差点に侵入し、被告走行道路を通過し終わろうとした際に、竹の塚方面より直進してきた加害車両に被害車両の後部右側を引つ掛けられるようにして衝突されたため、頭蓋・顔面の高度挫滅により即死した(以下「本件事故」という。)

二  責任

被告は、加害車両を所有し、自己のために運行の用に供していた者であるから、自動車損害賠償保障法三条本文にもとづき本件事故によつて生じた損害を賠償する責任がある。

三  損害

1  訴外由久

(一) 逸失利益 四九五七万一〇五九円

訴外由久は、本件事故当時二七歳の健康な男子で訴外株式会社千歳商会に勤務し、同会社から昭和六〇年において三二七万二〇五六円の給与所得を得ていたものであるから、同年収額に六七歳までの就労可能年数である四〇年に対応する新ホフマン係数二一・六四二六を乗じ、これから生活費割合三〇パーセントを控除すると、逸失利益は四九五七万一〇五九円となる。

(二) 慰謝料 二五〇〇万円

訴外由久の被つた精神的苦痛を慰謝するためには二五〇〇万円が相当である。

(三) 相続

(1) 原告飯塚俊而郎は訴外由久の父、原告飯塚雅子は訴外由久の母であり、他に訴外由久の相続人は存しない。

(2) 原告らは、訴外由久の損害賠償請求権を法定相続分の各二分の一の割合により相続取得した。

2  原告ら

(一) 原告らの固有の慰謝料 各一〇〇〇万円

訴外由久は、原告らの長男であつて、原告らと同居し、年老いた原告らにかわつて原告らの住宅のローンを支払うなど、原告らの生活の経済的、精神的支えになつていたのであつたが、本件事故によりこれが瞬時に失われたのであるから、原告らの精神的苦痛は甚大であり、原告らの苦痛を慰謝するためには各一〇〇〇万円が相当である。

(二) 葬儀費用 各五〇万円

原告らは、訴外由久の葬儀費用として、一〇〇万円以上を各二分の一ずつ負担したので各五〇万円を請求する。

(三) 弁護士費用 各一八四万五〇〇〇円

原告らは、原告ら訴訟代理人に本件訴訟を委任したので、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用として各一八四万五〇〇〇円を請求する。

3  以上損害額合計 九九二六万一〇五九円

四  損害の填補

1  原告らは、訴外由久の死亡による損害の填補として、自動車損害賠償責任保険から二〇〇〇万〇八〇〇円(各一〇〇〇万〇四〇〇円)の支払いを受けた。

2  右損害額合計九九二六万一〇五九円(各四九六三万〇五二九円)から右受領額を控除すると七九二六万〇二五九円(各三九六三万〇一二九円)となる。

五  よつて、原告ら各人は、被告に対し、各三九六三万〇一二九円及びこれに対する本件事故日である昭和六一年一〇月一八日から各支払い済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払い請求権を有するところ、本件訴訟においては、右のうち各一五〇〇万円及びこれに対する昭和六一年一〇月一八日から各支払い済みまで年五分の割合による金員の支払いを求める。

第三請求原因に対する認否

一  請求原因一項については、1ないし4は認め、5は争う。とりわけ、「訴外由久が一時停止した」との主張、「被告走行道路を通過し終わろうとした際に起こつた事故である」との主張、「衝突部位が後部右側である」との主張は否認する。

二  同二項については争わない。

三  同三項については、損害額合計三六五七万二六〇五円の範囲で認め、その余は否認する。

1  訴外由久

(一) 逸失利益は二八〇七万二六〇五円の範囲で認め、その余は否認する。ただし、訴外由久の事故当時の年齢、勤務先、昭和六〇年の年収、就労可能年数は認める。なお、本件の様な事案ではライプニッツ係数を使用し、控除すべき生活費割合は五〇パーセントとすべきである。

(二) 慰謝料は二五〇万円の範囲で認め、その余は否認する。

(三) 相続は(1)は認め、(2)は争わない。

2  原告ら

(一) 原告らの固有の慰謝料は五五〇万円(各二七五万円)の範囲で認める。

(二) 葬儀費用は五〇万円(各二五万円)の範囲で認める。

(三) 弁護士費用は必要性を否認する。

四  同四項については、原告らが訴外由久の死亡による損害の填補として、自動車損害賠償責任保険から二〇〇〇万〇八〇〇円(各一〇〇〇万〇四〇〇円)の支払いを受けたことは認め、その余は否認する。

五  同五項は争う。

第四被告の主張

一  事故態様

1  本件事故の発生した本件交差点は、交差している訴外由久の走行道路にそつて押しボタン式の歩行者用信号があり、歩行者が右ボタンを押さない限り、被告走行道路の信号は常に青となつている。

訴外由久の走行道路は、一時停止の標識があり、同道路走行車両には一時停止の義務が課されている。

2  本件事故は、訴外由久が一時停止の義務に違反して本件交差点に制限速度である時速三〇キロメートルを一〇ないし二〇キロメートル超過して突入したことによつて、青信号を信頼して制限速度の時速三〇キロメートルを一〇キロメートル超過して通過しようとした被告車両と出合い頭に衝突したものである。

訴外由久の車両は、右衝突によりスピンし、近くの道路標識に再衝突したが、訴外由久がシートベルトを着用していなかつたため、はずみで開いた運転席側のドアから上半身を乗り出し、右道路標識と自車被害車両に頭を挟まれて即死したものである。

二  過失相殺

本件事故は、青信号に従つて走行した加害車両と、一時停止を怠つた被害車両との出合い頭の衝突である。

双方車両とも同程度の速度であれば、基本過失割合としては、赤信号車対青信号車の事故(一〇〇対〇)と一時停止標識有りの車対無しの車の事故(八〇対二〇)の中間の九〇対一〇が相当である。

更に、訴外由久にシートベルト着用義務違反が存するところ、これは本件事故における損害の拡大への寄与度が大きいから、訴外由久の過失の加算要素(五パーセント)となる。

よつて、訴外由久と被告の過失割合は九五対五が相当である。

三  結論

原告らは、既に二〇〇〇万〇八〇〇円の支払いを受けているが、これは総損害額である二八〇七万二六〇五円の七〇パーセント余に該当する金額であるから、被告には、その余の金員の支払義務はない。

第五被告の主張に対する認否

一  被告の主張一項の1については、本件交差点に交差している訴外由久の走行道路に一時停止標識及び押しボタン式の歩行者用信号があること、被告走行道路の制限速度が時速三〇キロメートルであることは認める。

同一項の2については、不知若しくは否認する。

二  同二項については争う。

三  同三項については争う。

第六原告らの反論

被告には次の過失があり、これが本件事故の原因であるから、過失相殺すべきではない。

一  被告の徐行義務違反

1  本件交差点は、訴外由久の走行道路にたいして歩行者専用の押しボタン式信号機があるのみであるから交通整理の行われていない交差点であり、被告走行道路は、優先道路ではない。

2  本件交差点は、左右の見通しがきかない交差点である。

3  従つて、被告には徐行義務があつたが、被告は本件交差点に進入する際に全く徐行せず、制限速度を超過して本件交差点に進入したものである。

4  なお、加害車両の本件交差点への進入速度は、少なくとも六〇キロメートルを超えるものであつた。

二  被告の前方不注視

1  本件事故現場に加害車両のブレーキ痕は存在しない。

2  被害車両は、本件交差点に加害車両より先行して進入している。

3  被告は、前方を全く注視せず本件交差点に進入しようとしたため、既に先行して本件交差点に進入している被害車両を発見するのが著しく遅れ、加害車両を制動することができず、高速度のまま被害車両に衝突した。

4  被告は左眼を失明していると聞いており、その結果左方の視野が著しく狭くなつていると思われ、被害車両の発見の遅れは、この点も影響しているものと考えられる。

三  被告のハンドル操作の誤り

1  被告は、本件交差点の直前においてハンドルを右に切つている。

2  その結果、加害車両は、被告走行道路を横断し終わろうとしていた被害車両の後部右側に衝突した。

3  被告がハンドルを右に切らずに、そのまま直進するか、ハンドルを左に切つていれば本件事故は発生しなかつたから、被告のハンドル操作の誤りは明白である。

第七原告らの反論に対する認否及び被告の反論

一  原告らの反論一項については、1は争わない。ただし、被告走行道路に自動車専用の信号機が設置されており、本件事故当時、その信号は青だつたのだから同信号の標識を信頼して走行する被告は、一時停止義務のある交通整理のなされていない交差点を走行する訴外由久の側と比べて、その注意義務は小さいはずである。2は否認する。本件交差点は、被告の進行方向から見て右側は見通しが悪いが、左側はかなり見通しの良い交差点である。3は争わない。4は否認する。被告の本件交差点への進入速度は時速四〇キロメートルを超えるものではない。

二  同二項については、1は争わない。2は否認する。被害車両の本件交差点への進入は、加害車両と比べてかなり高速のものであり、訴外由久の本件交差点への明らかな先入は認められない。3、4は否認する。

三  同三項については、否認する。

第八証拠

本件記録中証拠関係目録記載のとおりである。

理由

一  請求原因一項については、事故態様を除き、当事者間に争いはない。

成立に争いのない甲第七号証、第八号証、本件事故現場付近の写真であることにつき当事者に争いのない乙第五号証の一、二、被告本人尋問の結果を総合すると次の事実が認められる。

1  本件事故現場である本件交差点は、西保木間一丁目方面(北方)から六月一丁目方面(南方)へ通じる道路と、日光街道方面(東方)から東武線方面(西方)へ通じる道路とがほぼ直角に交わる交差点である。

(一)  北方から南方へ通じる道路は、全幅員約九・九五メートル、アスフアルト舗装され、平坦で、歩車道の区分がある。車道中央部には白ペイントで標示されたセンターラインが設けられている。同道路東側は歩道で、幅員約二・三〇メートル、車道との境界部にはガードレールが設置されている。西側は路側帯で、幅員約一・二〇メートル、白ペイントによつて標示されている。交通量は多くはなく、交通規制は最高速度三〇キロメートル毎時、駐車禁止とされている。同道路東側路外は日本住宅公団団地となつており、西側路外は民家等が軒を並べている。

(二)  東方から西方へ通じる道路は、全幅員約五・八〇メートル、アスフアルト舗装され、平坦である。

本件交差点までの東方道路北側には路側帯が設けられ、白ペイントにより標示がなされ、幅員は約一・一五メートルであり、道路外部との境界線には高さ約〇・六〇メートルのブロツクが設けられ、路外部が高くなつている。交通規制は歩行者用道路(八時から九時まで、一三時から一五時まで、日曜休日を除く)、最高速度三〇キロメートル毎時、駐車禁止、一時停止とされている。同道路西側路外は日本住宅公団団地となつている。

本件交差点からの西方道路両側には路側帯が設けられ、白ペイントにより標示がなされ、幅員は約一・一五メートルである。交通規制は歩行者用道路(七時から一六時、日曜休日を除く)、駐車禁止、一時停止とされている。

(三)  本件交差点には横断歩道が設置されていて、白ペイントによつて標示されている。また、被告の走行していた北方から南方へ通じる道路の南側横断歩道には歩行者専用の押しボタン式信号が設置されている。

本件交差点の見通し状況は、被告の走行道路である北方方面から、本件交差点手前一八・〇〇メートル地点において、訴外由久の走行道路である東方方面である本件交差点左方道路の見通しは、本件交差点から日本住宅公団団地の境界の金網フエンス角を通して約四・九〇メートル、金網フエンスを通して約一四・〇五メートルである。

2  訴外由久は、被害車両を運転し、日光街道方面(東方)から東武線方面(西方)へ向かつて、本件交差点を直進するため、被告走行道路を横断しようと、本件交差点に侵入し、被害車両前部が道路中央から約一メートル位越えたところ、西保木方面(北方)から六月一丁目方面へ向かつて本件交差点を直進しようと、本件交差点に時速約四〇キロメートルで進入してきた加害車両の前部が被害車両の右側面に衝突したため、被害車両はスピンしながら東武線方面(西方)に進み、近くの道路標識に再衝突し、被害車両の前部を日光街道方面(東方)にやや斜めの状態で停止したが、運転席側のドアが開いたこともあつて、訴外由久は被害車両の外に投げ出され、ドア取付け部と道路標識の間に頭部、右腕を挟まれ、頭蓋骨、顔面の粉砕挫滅により死亡した。

(一)  ところで、原告らは、「被害車両の後部右側を引つ掛けられる様にして衝突された」旨主張する。

被害車両の後部バンパーは欠損し、右後部角部は圧縮された状態で凹損し、制動灯方向指示灯等が破損していることのみからすれば、原告らの主張に添うようではあるが、被害車両右側前部フエンダーは凹損し、右側ドア部は大破し、前部バンパーから後部約一・二六メートル、地上高約四〇ないし五〇センチメートルのところから右後輪前端部にかけて、黒色合成樹脂皮膜が付着した凹損があること、加害車両の前部バンパー、ラジエーターグリル、ボンネツト、前部左右フェンダー等が大破し、破損部分全体が左方から右方にねじ曲がつていること等からみれば、加害車両は、被害車両の右側の前部バンパーから約一・二六メートルのところから右後輪前部にかけた間の部分に衝突したものと認められるから、原告らの右主張は採用しない。

(二)  また、原告らは、「訴外由久は一時停止標識に従つて一旦停止した後、本件交差点に進入した」旨主張する。

訴外由久の運転していた被害車両は車体重量八二〇キログラム、車長三七八センチメートル、車幅一五八センチメートル、車高一三五センチメートル、乗車定員五人の車であり、被告の運転していた加害車両は車両重量七八〇キログラム、車長三八七センチメートル、車幅一五八センチメートル、車高一三五センチメートル、乗車定員五人の車であり、両車両は、ほぼ同じ位の車両重量、車型であることが認められる。それ故、仮に、被害車両が一時停止標識に従つて一旦停止した後、本件交差点に進入したとすれば、停止線から衝突地点までは約一〇メートル位であると認められるから、自動車の加速性能に関する経験則からして、被害車両の速度が時速四〇キロメートルを超えていたものとは認められないから、加害車両の速度が被害車両の速度より大きいことになるので、被害車両は加害車両に押されて加害車両の進行方向である六月一丁目方面(南方)へ押し出される筈である。しかし、本件事故は、逆に加害車両が被害車両に引きずられる形となり、被害車両は、自車進行方向である東武線方面(西方)へ進み、衝突地点から約一三・〇五メートル行つたところで道路標識に衝突して止まつていることが認められる。これらのことからすれば被害車両の速度は加害車両の速度四〇キロメートルより大きかつたものと認められる。従つて、被害車両が本件交差点進入前一時停止したとすれば、時速四〇キロメートルより大きい速度になると考えることはできず、一時停止しなかつたものとするのが相当であるから、原告らの右主張は採用しない。

(三)  更に、原告らは、「被害車両が被告走行道路を通過し終わろうとした際に衝突した」旨主張する。

本件現場である本件交差点の路面には、黒色の鮮明に印象されたタイヤスキツプ痕が四個認められ、いずれも東方から西方に向かつて流れるように印象されているが、そのうち最も東方に印象されている長さ一メートルのタイヤスキツプ痕は、被告走行道路上にあり、これは被害車両右側後輪のタイヤにより印象されたものと認められ、このことからしても前記認定のように被害車両前部が道路中央から約一メートル位越えたところで衝突されたものと認められるから、原告らの右主張は採用しない。

二  請求原因二項については、当事者間に争いはない。

三  損害

1  訴外由久

(一)  逸失利益 二八〇七万二六〇五円

訴外由久の本件事故当時の年齢、勤務先、昭和六〇年の年収、就労可能年数については当事者間に争いはないから、訴外由久の逸失利益の現値を求めるには、一定以上の合理性の有る限り、その中でどれを採用するかは本件に現れた諸事情を考慮したうえ裁量によつて決定すべきことがらであるので、本件事案に鑑み、昭和六〇年の年収三二七万二〇五六円をもとにして、生活費控除率を五〇パーセントとして、ライプニッツ方式で計算するのが相当であるから、二八〇七万二六〇五円と認められる。

(二)  慰謝料 一五〇〇万円

訴外由久の被つた精神的苦痛を慰謝するためには一五〇〇万円が相当と認められる。

(三)  相続については当事者間に争いはない。

2  原告ら

(一)  原告らの固有の慰謝料 各一五〇万円

原告らの被つた精神的苦痛を慰謝するためには各一五〇万円が相当と認められる。

(二)  葬儀費用 各五〇万円

飯塚俊而郎原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第三号証ないし第五号証、飯塚俊而郎原告本人尋問の結果によれば、本件事故と相当因果関係のある葬儀費用は、原告ら各五〇万円と認められる。

3  以上合計 四七〇七万二六〇五円

四  過失相殺

被告は、訴外由久が一時停止の義務に違反したこと、シートベルトを着用していなかつたことから過失相殺すべきである旨主張し、原告らは、被告の前方不注視、ハンドル操作の誤りが本件事故の原因であるから過失相殺をすべきでない旨反論する。

本件事故の事故態様は前記のとおりであるが、本件事故現場にブレーキ痕が存在しないことについては、当事者間に争いはなく、原告は「ハンドルは右に切つたかもしれない」旨供述していて、衝突地点は前記事故態様からして道路中央付近と認められ、また、本件交差点の見通しも前記認定のとおりであるから、被告が制限速度時速三〇キロメートルを遵守し、左方の道路に注意していれば被害車両の発見ができ、危険を察知してブレーキやハンドル操作を適切に行うことで本件事故は避けえなかつたとはいえないから、これらを被告の落度と評価するとしても、訴外由久が一時停止しなかつたこと、時速四〇キロメートルを越える速度をだしていたことにくわえ、訴外由久が被害車両の外に投げ出されていることからすれば、シートベルトを着用していなかつたものと認められ、これら訴外由久の落度の大きさを考慮すると八〇パーセントを過失相殺するのが相当と認められる。

よつて、被告の賠償すべき損害額は右損害額合計の二〇パーセントの九四一万四五二一円となる。

五  損害の填補

原告らが、訴外由久の死亡による損害の填補として、自動車損害賠償責任保険から二〇〇〇万〇八〇〇円(各一〇〇〇万〇四〇〇円)の支払いを受けたことについては当事者間に争いはなく、右填補額によれば、被告が原告らに対して賠償すべき右認定の損害はすべて填補されている。

六  弁護士費用

被告が原告らに対して賠償すべき前記認定の損害はすべて填補されており、原告らは、これを請求することは許されないのであるから、本件訴訟追行のための弁護士費用は本件事故と相当因果関係のある損害と認めることはできない。

七  以上によれば、原告らの請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用については民事訴訟法八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 原田卓)

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