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東京地方裁判所 昭和62年(ワ)8963号 判決 1993年2月26日

原告

プレジデント六本木管理組合法人

右代表者理事

松枝武彦

右訴訟代理人弁護士

正田茂雄

被告

櫻田神社

右代表者代表役員

佐々木修

右訴訟代理人弁護士

小松初男

若井英樹

主文

一  被告は、原告に対し、

1  金一一〇万二三七四円及び昭和六三年二月から平成二年一月まで毎月金一万四三六一円に対する各月一日から、平成二年二月から平成三年七月まで毎月金四万二〇九五円に対する各月一日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を、

2  金八五三万八四八〇円及びこれに対する昭和六二年八月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を、

それぞれ支払え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを四分し、その三を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金二五八〇万〇一二六円及び

(一) 内金八五三万〇四九二円に対する昭和五八年一二月一日から、

内金二〇六万三一二〇円に対する昭和六〇年四月一日から、

内金一六二万五七〇六円に対する昭和六一年一月一日から、

内金一七六万四六七二円に対する昭和六二年一月一日から、

各支払済みまで年五分の割合による金員を、

(二) 内金七三万五二八〇円に対する昭和六二年六月一日から支払済みまで年一割八分の割合による金員を、

(三) 昭和六二年七月以降同六三年一月まで毎月金一四万七〇五六円に対する各月一日から支払済みまで、

昭和六三年二月以降平成二年一月まで毎月金一九万七二七六円に対する各月一日から支払済みまで、

平成二年二月以降同三年七月まで毎月金二九万五三八〇円に対する各月一日から支払済みまで、

各年一割八分の割合による金員を、

それぞれ支払え。

2  被告は、原告に対し、金八五三万八四八〇円及びこれに対する昭和六二年六月一日から支払済みまで年一割八分の割合による金員を支払え。

3(一)  主位的請求

被告は原告に対し、別紙物件目録一記載の建物のうち地下一階部分(同目録二の(一))の別紙A図X1線上のY4からY5部分で、かつ同B図イロニハイで囲まれた部分に、同C、D図記載の構造の耐震壁を設置せよ。

(二)  予備的請求

被告は、原告が別紙物件目録一記載の建物のうち地下一階部分(同目録二の(一))の別紙A図X1線上のY4からY5部分で、かつ同B図イロニハイで囲まれた部分に、同C、D図記載の構造の耐震壁を設置することを妨害してはならない。

4  訴訟費用は被告の負担とする。

5  前記1及び2につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  当事者等

(一) 原告は、別紙物件目録一記載の建物(以下「本件建物」という。)の区分所有者によって構成され、昭和六三年法律第一〇八号による改正前の建物の区分所有等に関する法律(以下、「五八年区分所有法」といい、右改正後の同法を「現行区分所有法」という。また、昭和五八年法律第五一号による改正前の同法を「旧区分所有法」という。)に基づいて昭和六一年一二月四日設立された管理組合法人である。

(二) 被告は本件建物の別紙物件目録二の(一)(以下「地下駐車場」という。)及び(二)、(三)(以下「本件事務所・店舗」という。)記載の専有部分を所有する区分所有者であり、原告の組合員である。

(三) 本件建物の各専有部分の面積、専有面積の割合及び戸数は、別表一記載のとおりである。

2  未納管理費の請求

(一) 本件建物の管理は、昭和五〇年一〇月以降、各区分所有者と訴外株式会社山善(以下「訴外山善」という。)との間の管理委託契約に基づいて訴外山善がその業務を行っていたが、その後、管理受託会社は、昭和五六年に訴外山善から訴外千代田商事株式会社に、翌五七年には訴外三弘ビル管理株式会社にそれぞれ交替した。そして、昭和五〇年一〇月から同五八年一一月までの間、被告を除く区分所有者は、専有面積に応じAないしDタイプの四区分に分けて、別表二のイの「管理費」欄記載のとおり毎月の管理費を負担してきた。

(二) 昭和五八年九月三日に原告の前身であるプレジデント六本木管理組合(以下「旧管理組合」という。)が設立されたが、その後、前記のとおり昭和六一年一二月四日法人化され、原告が設立された。旧管理組合の設立以降、区分所有者による総会において五回にわたり管理費の額を改訂する決議が行われ、その結果、昭和五八年一二月から平成三年六月までの間の右AないしDタイプの管理費の月額は、それぞれ別表二のロないしトの「管理費」欄記載のとおりとなった。

(三) ところで、本件建物の分譲当時の規約(以下「旧規約」という。)によれば、区分所有者は共有持分に応じて本件建物の共用部分の管理にかかる一切の費用を負担するものとされており(現行の規約も同様である。)、また、旧区分所有法一四条、五八年及び現行区分所有法一九条においても、共用部分の共有者はその持分に応じて共用部分の負担に任じるものとされている。

したがって、被告は、昭和五〇年一〇月以降、本件建物の共用部分について、その共有持分の割合である一万分の二四一二(別表一)に応じてその管理費を負担すべきである。そこで、被告以外の区分所有者がこれまでに負担した管理費に基づいて持分一万分の一あたりの毎月の管理費額を算出し(別表二⑤)、これに被告の右持分割合一万分の二四一二を乗じると、被告が昭和五〇年一〇月から平成三年六月までの間に負担すべき管理費の月額は、別表二の「被告の負担すべき月額」欄記載のとおりとなる。

そうすると、被告が昭和五〇年一〇月から平成三年六月までに負担すべき管理費の総額は、別表二の「被告の負担額」欄記載のとおりであって合計二七八〇万〇一二六円である。

(四) なお、管理費の支払日は毎月末日であり、また、昭和六一年一一月八日開催の区分所有者による総会において、規約を改正する旨の決議がされ、管理費等の未払については年一八パーセントの遅延損害金を加算する旨の条項が新たに定められ、右改正後の規約(以下「現行規約」という。)は昭和六二年一月一日から施行された。

(五) よって、原告は被告に対し、共有持分に応じて管理費を負担する旨を定めた旧規約ないし旧区分所有法等に基づき、また、管理費を改訂した総会決議に基づき、請求の趣旨1のとおり、昭和五〇年一〇月から平成三年六月までの間の被告が負担すべき管理費合計二七八〇万〇一二六円から被告が既に支払った二〇〇万円を控除(昭和五〇年一〇月から昭和五八年一一月までの管理費の支払いを充当する。)した残額二五八〇万〇一二六円と昭和六一年一二月までの管理費については年五分、昭和六二年一月以降の管理費については年一八パーセントの各割合による遅延損害金の支払を求める。

3  特別補修費の請求

(一) 原告は、昭和六二年三月一四日開催の区分所有者による総会において、本件建物の内外装防水等修理工事を実施すること、その工事に要する費用の総額三五四〇万円は、特別補修費として、各区分所有者が共用部分の共有持分割合に応じて負担することを決議した。

(二) 被告の共有持分割合は一万分の二四一二であるから、被告の負担すべき右特別補修費は、三五四〇万円に右持分割合を乗じた八五三万八四八〇円となる。

(三) 特別補修費の支払日は昭和六二年五月末日である。なお、遅延損害金については、前記2の(四)記載のとおり年一八パーセントである。

(四) よって、原告は被告に対し、右総会決議に基づき、請求の趣旨2のとおり、特別補修費金八五三万八四八〇円及びこれに対する昭和六二年六月一日から支払済みまで年一八パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める。

4  耐震壁の設置請求

(一) 主位的請求

本件建物の地下駐車場には、分譲当時、本件建物の共用部分として耐震壁が設置されていたところ、被告は、昭和五一年竣工検査終了後、右耐震壁を勝手に取り壊した。これは、本件建物の地震に対する強度を弱め建物の保存に有害な行為であり、区分所有者の共同の利益に反する行為であるから(旧区分所有法五条)、原告は被告に対し、その行為の結果を除去するための必要な措置として、地下駐車場部分の別紙A図X1線上のY4からY5部分で、かつ同B図イロニハイで囲まれた部分に、同C、D図記載の構造の耐震壁を設置することを請求することができる(五八年区分所有法附則一〇条)。

(二) 予備的請求

仮に被告が右耐震壁を取り壊した事実が認められないとしても、原告としては、本件建物について建築関係法令の要求する耐震性を備え、地震による倒壊を防止するため、本件建物の保存行為として前記(一)記載の場所に同記載の構造の耐震壁を設置する必要があるところ、そのためには、被告の専有部分である本件建物地下一階に入らないと耐震壁設置工事が不可能であるから、現行区分所有法一七条二項に基づき、原告は被告に対し、右設置工事の承諾を求めることができる。

(三) よって、原告は被告に対し、請求の趣旨3のとおり、主位的に、耐震壁を設置すべきことを求め、予備的に、原告が耐震壁を設置することについての妨害禁止を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の(一)ないし(三)は認める。

2  同2の(一)のうち、被告を除く区分所有者の管理費負担の内容は知らないが、その余は認める。

同2の(二)のうち、旧管理組合及び原告の設立の時期、五回にわたる管理費改訂の総会決議が存在することは認めるが、その余は不知。

同2の(三)のうち、原告主張のような規約及び法律の規定が存在することは認めるが、その余は争う。

同2の(四)は認めるが、規約改正の決議の効力は争う。

3  同3の(一)は認めるが、その決議の効力は争う。

同3の(二)のうち、被告の共有持分割合は認めるが、その余は争う。

同3の(三)は争う。

4  同4の(一)、(二)は否認ないし争う。

原告の主張する耐震壁は本件建物の設計図上は設置が予定されていたが、現実には設置されなかったものである。なお、本件建物が竣工した頃、地下駐車場の仕切として仮設のブロック壁が一時期設置されたことがあったが、それは、隣接する神社敷地の地下部分に設置されていたもので、本件建物の共用部分になりうるはずがない。

三  被告の主張

1  未納管理費の請求について

(一) 昭和五〇年一〇月以降、本件建物の管理費用は、訴外山善と各区分所有者との間の管理委託契約において定められた金額が支払われてきたもので、その金額は、専有部分の面積による共有持分割合とは異なる割合で定められており、地下駐車場部分についての管理費は月額九六〇〇円であった(分譲当時の旧規約には、管理費を共有持分割合で負担する旨の条項があるが、右旧規約は、旧区分所有法二四条一項所定の区分所有者全員の書面による同意が存在しないから無効である。)

そして、旧管理組合は、昭和五九年一二月一二日開催の総会において、区分所有者全員の賛成により従前の管理費の負担割合を承認し、これを前提に管理費の額を四〇パーセント増額する旨の決議を行っており、その後、昭和六〇年一一月二九日開催の総会で、管理費の負担を共有持分割合とする旨変更して翌年一月から実施するとの決議がされるまでは、旧管理組合も共有持分割合と異なる従前の負担割合を承認していたものである。

このように、本件においては、管理費の負担割合について、分譲当時から、専有部分の面積による共有持分割合とは異なる割合とする旨の黙示の規約が存在していたというべきであり、したがって、右の負担割合を変更して、専有面積を基準とした共有持分割合によるものとすることは、被告の管理費の負担を大幅に増加させ、被告の権利に特別の影響を及ぼすものであるから、被告の承諾が必要であって(現行区分所有法三一条一項)、その承諾がない以上、被告に対し共有持分割合による管理費の負担を求めることは許されないというべきである。また、前記の経緯からすれば、少なくとも昭和五〇年一〇月から同六〇年一二月までの共有持分割合による管理費の請求は、前記総会決議に反するものであって、失当である。

(二) 旧管理組合は、昭和六一年一一月八日開催の総会で現行規約を可決したが、右決議にあたって、被告所有の地下駐車場、本件事務所及び本件店舗の議決権は各一個として取り扱われた。しかし、右決議以前において、地下駐車場等の議決権を各一個とする旨の総会決議ないし規約の定めは存在しないから、本件決議においても、専有部分の床面積割合による議決権を有するものとして取り扱うべきであった。(五八年区分所有法三八条、一四条)。

したがって、規約の設定等に必要な四分の三の算定も、専有部分の床面積の割合において四分の三以上の賛成が得られたかどうかによって判断されるべきところ、本件決議に際し委任状を出さずに総会に欠席した数名の区分所有者の議決権数と決議に反対した被告の議決権数を合計すると、本件決議は四分の三の賛成という法定の要件を具備していないことが明らかであって、現行規約は制定手続に瑕疵があり無効である。

そうすると、現行規約において定められた管理費等の支払について年一八パーセントの遅延損害金を加算する旨の条項も無効である。

(三) 被告は、昭和五〇年一〇月から平成三年六月までの間、本件事務所・店舗及び地下駐車場の管理費として、毎月次のとおりの金額を支払った。

期間 本件事務所・店舗分 地下駐車場分

昭和五〇・一〇〜五一・三 一万三六八〇円 九六〇〇円

五一・四〜六〇・三 一万〇一五〇円 九六〇〇円

六〇・四〜平成三・六 二万八八〇〇円 一万三四四〇円

(四) 本件建物の共用部分としては、エントランスホール、ロビー、エレベーターホール、廊下、階段等があるが、それらは地上一階以上にあり、専ら地上部分の区分所有者の利用に供されているものである。地下駐車場の出入口は別にあり、また、地下駐車場内の階段は、本件建物の中庭に通じる非常階段で、地上部分の階段とは全く別のものである。また、建物付属設備の共用部分には、エレベーター、給排水衛生設備等があるが、エレベーターは一階と八階を往復するのみであるし、排水設備は地下になく、地下駐車場に設置されている散水栓も、被告所有の地上一階部分の給水管から分岐接続したものである。更に、本件建物の管理人は、地下駐車場の管理を担当しておらず、地下駐車場については被告が自己の費用で雇用している独自の管理人が担当している。このように、本件建物の共用部分の多くは、地下駐車場とは関係のない地上部分の区分所有者のための一部共用部分であって、原告主張の管理費のうち85.9パーセントは右一部共用部分に関する費用であり、地下駐車場の区分所有者が負担する理由はないから、これらの事情を考慮することなく、管理費について、一律に地下駐車場部分を含めた共有持分の割合で負担すべきことを求める原告の請求は理由がない。

(五) 右のとおり、管理費の大半は地下駐車場とは無関係であって、これらの費用を地下駐車場の区分所有者に負担させることは著しく不公正であり、そのうえ本件では、地下駐車場の面積は地上部分の各階面積の約二倍あるので、負担割合を共有持分割合とすることによる不公正はより一層拡大される。前記のとおり、分譲当初から約一〇年にわたり、共有持分割合によらないで管理費の負担が定められていたのは、それが右のような共用部分の利用状況を反映した合理的な措置であったからである。しかるに、原告は、一方で、地下駐車場の議決権割合を共有持分割合でなく他の住居部分と同じ一個と定めながら、他方では、費用負担の義務を共有持分割合で求めるもので、原告の本件管理費の請求は、右のような不公正な扱いを数の力をもって被告に強いようとするもので、権利の濫用である。

2  特別修繕費の請求について

(一) 原告主張の内外装防水等修理工事のうち、地下駐車場部分については、本件建物の直下部分のみを行い、中庭の下部にあたる部分は工事が予定されていなかったし、現実に右直下部分についてしか修理工事がされていない。このように、右修理工事によって、被告は地下駐車場部分について専有面積割合に応じた利益を享受していないのであるから、その費用の負担について、専有面積割合に応じた負担を強いるのは不合理である。

(二) 右のような事情からすれば、原告の本件特別補修費の請求は権利の濫用であり、仮に請求額全額が権利の濫用でないとしても、少なくとも、地下駐車場の専有面積割合による請求額のうち半額を越える部分の請求は、明らかに権利の濫用ないし信義則に違反するものというべきである。

四  被告の主張に対する原告の認否

1(一)  被告の主張1の(一)のうち、被告主張の管理委託契約の存在、昭和五九年一二月一二日開催の総会で管理費の四〇パーセント増額決議がされたこと、昭和六〇年一一月二九日開催の総会で管理費の負担について主張のような決議がされたことは認めるが、被告が訴外山善に支払っていた管理費の金額は不知、その余は争う。

(二)  同1の(二)のうち、昭和六一年一一月八日開催の総会で現行規約が可決されたこと、右決議にあたり、被告所有の地下駐車場、本件事務所及び本件店舗の議決権が各一個として取り扱われたことは認めるが、その余は争う。

(三)  同1の(三)のうち、昭和五〇年一〇月から昭和六二年五月までの間に合計二〇〇万円の限度で管理費の支払がされたこと、昭和六二年六月から平成三年六月まで毎月主張の額の管理費の支払がされたことは認める。

(四)  同1の(四)のうち、エレベーターが一階と八階を往復していること、地下に排水設備はなく、地下駐車場内の散水栓は被告所有の地上一階部分の給水管から分岐接続されていること、本件建物の管理人が地下駐車場の管理を担当していないことは認めるが、その余は争う。

(五)  同1の(五)は争う。

2  被告の主張2の(一)、(二)は否認ないし争う。

第三  証拠関係<省略>

理由

第一請求原因1の(一)ないし(三)の事実は当事者間に争いがない。

第二未納管理費の請求について

一前記事実欄摘示の当事者間に争いがない事実に<書証番号略>、証人伊豆幸重、同三澤達雄、同勝見元彦、同今井辰一郎、同田中謙次の各証言、被告代表者佐々木茂(当時)本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。

1  本件建物は、被告がその敷地を提供(地上権の設定)して、訴外山善が昭和五〇年九月新築したものである。本件建物は、地下一階地上八階建てで、地下は駐車場、一階は店舗、事務所、ロビー、管理人室などで、二階以上がすべて住居部分となっており、被告は、右敷地提供の代償として本件建物の地下駐車場部分と一階の本件事務所・店舗部分の区分所有権を取得し、訴外山善は、二階以上の住居部分を地上権付き分譲マンションとして逐次一般に分譲した。右分譲の際の売買契約書によると、土地地上権及び建物の共用部分に対する購入者の共有持分は専有部分の床面積の割合によるものとされている。

2  右分譲住居部分の購入者らは、購入に際し、それぞれ訴外山善との間で本件建物について管理委託契約を締結し、昭和五〇年一〇月頃以降、訴外山善が右契約に基づいて本件建物の管理業務に携わっていたが、その後、管理受託会社は、昭和五六年、訴外山善から訴外千代田商事株式会社に、更に翌五七年、訴外三弘ビル管理株式会社にそれぞれ交替した。本件建物に関しては、昭和五八年九月まで、管理組合が結成されておらず、区分所有者の集会も開かれたことがなかったが、共用部分の維持管理に要する管理費について、分譲当時の旧規約(その有効無効はさておき)には、各区分所有者は、専有部分の床面積の割合に基づく共有持分に応じて、共用部分に関する費用を負担するものとし、その費用の負担額については管理者(訴外山善)の計算に従い、その定める方法により支払うものとするとの定めがされていた。

そして、購入者と訴外山善との間で締結された管理委託契約書(<書証番号略>)では、管理費を専有部分(住居部分)のタイプ別にAないしDタイプに四分類し、それぞれのタイプ別に別表二のイの「管理費」欄記載のとおりの月額が印刷されており、実際に購入者の管理費の額はそのとおり定められた。被告と訴外山善との間では管理委託契約書が取り交わされなかったが、被告も訴外山善に本件建物の管理を委託しており、管理費については、本件事務所・店舗部分として月額合計一万三六八〇円(昭和五一年四月以降は一万〇一五〇円)、地下駐車場部分として月額九六〇〇円と定められ、昭和五〇年一〇月以降、被告はこれを支払ってきた。右の金額が定められた経緯については必ずしも明らかではないが、被告の右専有部分は、一般分譲の購入者らの住居部分とはその用途等が異なっており、殊に地下駐車場の場合は、後記のように共用部分との結び付きが薄いという事情もあったことから、訴外山善においてそれらの事情を斟酌して算定し、被告との間で合意に達したものと窺われる。

3  本件建物の専有部分は、地下駐車場、一階の本件事務所・店舗、二階以上の住居部分であり、建物の共用部分としては、エントランスホール、ロビー、エレベーターホール、廊下、階段等が、付属設備の共用部分としては、エレベーター、電気設備、給排水設備、衛生設備などがある。被告の専有部分である地下駐車場の出入口としては公道に直接通じるスロープが設けられており、駐車場の利用自体には本件建物のエントランスホールを使用する必要はない。また、エレベーターは、一階と八階の間を昇降するのみで、地下駐車場には通じていない。更に、地下駐車場には、排水設備は設けられておらず、給水設備として散水栓があるが、それは、被告が所有する一階部分の給水管から分離接続されており、共用部分の給水設備から配管されてはいない。なお、本件建物の一階には管理人室が設けられ、管理人が本件建物の管理にあたっているが、被告の地下駐車場部分には、別に被告が雇用している専用の管理人が常駐しており、本件建物の管理人は地下駐車場の管理を行ってはいない。

4  昭和五八年九月、被告の呼びかけもあって旧管理組合が結成され、以後は、旧管理組合が管理受託会社に管理を委託することとなった。

ところで、旧管理組合の総会において、昭和五八年一二月から従前の管理費に加えて新たに修繕積立金が徴収されることになり、AないしDタイプの管理費の月額は別表二のロの「管理費」欄記載のとおりとなったが、被告の地下駐車場部分及び本件事務所・店舗部分については、従前の管理費の額を増額する旨の決議がされた形跡は窺われない。

次いで、昭和五九年一二月一二日、旧管理組合の定期総会が開催され、管理費(修繕積立金を含む。以下同じ。)について、次のように増額する決議がされ、昭和六〇年四月から実施されることになった(旧管理組合は、昭和六〇年三月六日付けの書面で改めて各区分所有者に右決議の内容を報告しているが、各区分所有者から右決議の効力が争われた形跡はない。)

Aタイプ 一万〇四四〇円

Bタイプ 八九一〇円

Cタイプ 一万一〇九〇円

Dタイプ 八七四〇円

地下駐車場 一万三四四〇円

その際、被告所有の店舗については理事会で再検討することとされ、その後、被告は、昭和六〇年四月以降、本件事務所・店舗部分の管理費として月額二万八八〇〇円、地下駐車場部分のそれとして一万三四四〇円を旧管理組合(旧管理組合名義の銀行口座)に支払ってきた。

5  昭和六〇年一一月二九日、旧管理組合の定期総会が開催され、管理費について共有持分比率による見直し案が可決され(区分所有者総数四八名のうち、出席者九名、委任状提出者一九名)、昭和六一年一月分より実施することとされた。その結果、別表二のニの「管理費」欄記載のとおり、AないしDタイプの管理費の額が減額されることになった(ただし、被告の専有部分に係る管理費をいくらに改訂することとしたのか、その決議の内容は、必ずしも明確ではない。)。しかし、被告は、右決議について反対しており、管理費を、地下駐車場の特質等を一切考慮することなく、一律に共有持分比率(専有面積比率)で負担することについては承諾しておらず、昭和六一年六月七日には、旧管理組合に対し、管理費の増額を従前の金額を基準とするアップ率で検討すること、及び管理費の算定について建物区分内容による単価調整を行うことなどについて申し入れを行ったが、旧管理組合はいずれも拒否する旨回答した。

6  昭和六一年一一月八日、旧管理組合の通常総会が開催され(区分所有者総数四八名のうち出席者九名、委任状提出者二八名)、組合員の議決権を住居部分、事務所部分、店舗部分及び地下駐車場部分につき各一個とすること、管理費等の額については各区分所有者の共有持分に応じて算出すること、組合員が管理費等を納付しないときは、管理組合は年利一八パーセントの遅延損害金を請求できることなどを内容とする規約の改正などについて決議した。その際、被告は、議決権を専有面積と関係なく部屋ごとに一個とすることに反対する旨の要望書を提出したが、否決され、被告の議決権を事務所部分、店舗部分及び地下駐車場部分につき各一個として取り扱ったうえで、右の決議がなされた。なお、同年一二月から、本件建物の管理を管理会社に委託することをやめて、原告において自主管理することになった。

7  その後、原告は、昭和六三年一月を実施時期とする管理費の増額の総会決議を行い、その結果、AないしDタイプの管理費の月額は、別表二のへの「管理費」欄記載のとおりとなった。

更に、原告は、平成二年一月を実施時期とする管理費の増額の総会決議を行い、その結果、AないしDタイプの管理費の月額は、別表二のトの「管理費」欄記載のとおりとなった(なお、旧管理組合結成後の五回にわたる管理費の改訂決議におけるAないしDタイプの管理費の算出の仕方をみると、従前の額を基準として、一定の増減率を乗じ端数を調整して得た額を新たな管理費の額と定めたものであり、各回とも、被告の専有部分及びAないしDタイプ全体を通じて持分当たりの単価を計算した形跡はなく、必ずしも共有持分割合を基準として算出されているとは窺われない。)。

しかし、被告は、管理費を共有持分割合で負担するとすることに強い不満を持ち、右一連の決議にもかかわらず、従前同様の金額による管理費の支払を続けている。

以上のとおり認められ、前掲各証拠中右認定に反する部分はたやすく措信し難く、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

二そこで、原告の未納管理費の請求について判断する。

1  まず、昭和五〇年一〇月から同五八年一一月までの間について、原告は、旧規約又は旧区分所有法が共用部分に関する費用は共有持分割合により負担する旨定めていることを理由に、被告以外の区分所有者の管理費支払額に基づいて被告の共有持分割合に応じた負担額を算定し、その支払を請求するものである。

しかし、原告が主張する旧規約(有効無効はさておき)又は旧区分所有法の規定は、各区分所有者が共有持分に応じて共用部分の費用を負担すべき旨を定めたものであって、右規定から直ちに管理費の具体的な負担額が決まるものではなく、その具体的な負担額は、実際に共用部分の維持管理に必要とされた費用の額が確定するか、規約あるいは集会の決議等によって一定の額を定めるかの方法によって決められることになるのであるが、本件においては、前記認定のとおり、旧管理組合の総会において昭和五八年一二月実施の管理費増額の決議がされるまで、本件建物の共用部分に関する管理費の額について区分所有者の集会による決議がされたことは一度もなく、昭和五〇年一〇月から同五八年一一月までの間の管理費は、分譲当初に管理受託会社である訴外山善と各区分所有者との間で定められた額を、被告も含め各区分所有者においてそれぞれ支払ってきたのである。そして、昭和五〇年一〇月から同五八年一一月までの間については、既に、管理受託会社が右のようにして各区分所有者から徴収した管理費をもって共用部分の維持管理の費用が賄われているのである。

このように、昭和五〇年一〇月から同五八年一一月までについていえば、被告の負担として定められた管理費の額は、訴外山善との間で決められたものしかなかったのであるから、仮にその負担額が過少であったとしても、被告に管理費の未納があるとしてその支払を求めることはできないというべきである。

なお、仮に、共用部分の維持管理のために実際に必要とされた費用について、一部の区分所有者が本来負担すべきであった管理費を支払わなかったために、他の区分所有者が本来負担すべき割合を超えて管理費を支払ったというのであれば、それは、右未払の区分所有者が法律上の原因なしに他の区分所有者の損失において利得したことになり、余計に管理費を負担した区分所有者各自において不当利得返還請求権を取得すると解する余地もあるが、その場合でも、右請求権は管理費を余計に負担した各区分所有者に帰属するのであって、後に設立された旧管理組合ひいては原告が、旧規約や旧区分所有法の負担割合を定めた規定を根拠に、未払の管理費として請求しうる余地はないというべきである。

以上のとおりであって、原告の請求中、まず昭和五〇年一〇月から同五八年一一月までの間の未納管理費の支払請求は、その根拠を欠き理由がないというべきである。

2  次に、昭和五八年一二月以降の未納管理費の請求についてみるに、前記認定したとおり、①旧管理組合の結成後、昭和五八年一二月から管理費を増額する旨の総会決議によりAないしDタイプの管理費の月額は値上げされたが、被告の専有部分については、従前の管理費の額を増額する旨の決議がされた形跡が窺われないこと、また、②昭和五九年一二月一二日の総会で管理費の増額が決議された際、被告の地下駐車場部分については、訴外山善との間で決められた従前の額(専有面積割合に応じた額ではない。)の四〇パーセント増の一万三四四〇円と決定されたこと(その際、本件店舗部分については理事会で再検討することとされ、その後、被告は、本件事務所・店舗部分の管理費として合計二万八八〇〇円を支払っており、特段の異議が出た形跡がないことからすると、本件事務所・店舗部分の管理費は右のとおりの額と決定されたものということができる。)、③その後、昭和六〇年一一月二九日の定期総会において、管理費の共有持分割合による見直し案(昭和六一年一月実施)が可決されたこと、などの事情からすれば、旧管理組合が結成されてからも、右見直し案が可決された昭和六〇年一一月までは、旧管理組合の総会において、被告の専有部分の管理費が共有持分割合によらないで定められていることを承認していたものと認めるのが相当である。そして、前記認定のような地下駐車場部分及び本件事務所・店舗部分の用途などの点を考えると、管理費の負担の面において、被告の右専有部分と他の区分所有者の専有部分(住居)とを同一に論じるのは必ずしも妥当であるとはいえず、被告の専有部分の管理費について、共有持分割合によらない定め方をすることを不合理とはいえないということができる。

なお、旧規約には管理費の負担は共有持分割合による旨規定されているが、旧区分所有法では、規約の設定は全区分所有者の書面による同意が必要であるとされているところ、本件全証拠を検討しても、旧規約について全区分所有者の書面による同意があった事実を適確に認めるに足りる証拠はなく(<書証番号略>によれば、一般分譲により住居部分を購入した区分所有者については、旧規約について同意の書面が作成されたと推認する余地もあるが、少なくとも、一般分譲と異なる被告に関しては、旧規約について書面による同意があったことを窺わせる証拠はない。)、旧規約は無効といわざるをえないから、旧管理組合の総会において、右のように共有持分割合によらずに管理費を定めたとしても何ら差し支えるところはない。

このように、昭和五八年一二月から同六〇年一二月までについては、旧管理組合の総会において管理費の増額決議が行われ、被告を含めて各区分所有者の管理費の額が決定され、被告はその決定された管理費を支払っていたのであって、被告としては、総会で定められた額を超えて管理費を負担すべき理由はなく、被告に対し、右決議の内容と異なる額の管理費を負担すべきことを前提に、その未納管理費の支払を求める原告の請求は理由のないことが明らかである。

3  次に、昭和六一年一月から管理費の負担を共有持分割合によって見直す案が昭和六〇年一一月二九日の定期総会で可決され、その結果、AないしDタイプの管理費の月額が別表二のニの「管理費」欄記載のとおりとなったことは前記認定のとおりである。

しかし、前記のとおり、被告の専有部分、特に地下駐車場部分については、管理費の額を単純に共有持分割合によることなく別に定めるという取り扱いが長年にわたり行われてきたのであり、右見直し案が可決されるまでは、旧管理組合の総会においても、右の取り扱いが承認され、それに従った管理費の徴収がされていたのであって、そのような取り扱いがされてきたことには、それなりの合理的な理由があることなどを考えると、本件においては、二階以上の住居部分と本件事務所・店舗部分、地下駐車場部分とに分けて共有持分比率とは異なる割合による管理費の負担、徴収という取り扱いがいわば事実上の規約として確立し承認されていたとみるのが相当であるから、総会において、この取り扱いを変更して一律に共有持分比率により管理費を負担させることを決議するためには、規約変更の手続に準じて区分所有者及び議決権の各四分の三以上の賛成が必要であると解するのが相当である(五八年区分所有法三一条一項)。

しかるに、前記見直し案の決議に際しては、前記認定のとおり、区分所有者総数四八名のうち、出席者は九名、委任状提出者は一九名であったというのであるから、区分所有者の四分の三(三六名)の多数による議決でないことは明らかであって、右決議はその効力を有せず、したがって、右決議による管理費の負担割合に基づいて、共有持分比率により算定した管理費の支払を求める原告の請求は理由がない。

4  また、旧管理組合が昭和六一年一一月八日の通常総会において、「管理費及び特別修繕費の額については、各区分所有者の共有持分に応じて算出する」との条項を含む規約の改正を決議したこと、右総会には、区分所有者総数四八名のうち、九名が出席し、二八名が委任状を提出していること、決議は、住居部分、事務所部分、店舗部分、地下駐車場部分につき各一個の議決権として採決が行われたこと、被告は右規約の改正に反対したことは、前記認定のとおりである。ところで、規約の設定、変更には区分所有者及び議決権の各四分の三以上の賛成が必要であり、旧管理組合においては議決権について定めた特段の規約は存在しないから、右四分の三の要件も専有面積割合による議決権について考えなければならないところ(五八年区分所有法三八条、一四条一項。したがって、右総会決議については、議決権の定め方に問題があり、本来は専有面積割合によって議決権が行使されるべきであった。)、規約改正に反対した被告の議決権数(一万分の二四一二)と欠席した区分所有者一一名の議決権数(住居部分のうち最小専有面積のDタイプ一戸当たり一万分の一一五である。)とを合計すると議決権の四分の一を超えることが明らかであるから、右規約の改正は、議決権の四分の三の賛成という要件を欠き無効であるといわざるをえない。したがって、現行規約は、被告に対し、共有持分(専有面積)比率により算定した管理費の支払を求める根拠となりうるものではない。

5  右のとおり、被告に対し、共有持分割合に基づいて算定した管理費の負担を求めることは、昭和六一年一月以降についても理由がないことになるが、原告が、管理費について、昭和六三年一月を実施時期としてした増額の決議及び平成二年一月を実施時期としてした増額の決議は、従前の管理費の額を前提として行われる限度では、被告の専有部分についても有効であると解すべきであるから、昭和六三年一月以降の被告の専有部分の管理費の額は、それぞれ次のとおり増額されたものと認められる。

①昭和六三年一月から平成元年一二月まで(AないしDタイプの増額率は、控えめにみて三四パーセントと認めるのが相当である。)

本件事務所・店舗部分 月額三万八五九二円(28,800×1.34=38,592)

地下駐車場部分 月額一万八〇〇九円(13,440×1.34=18,009)

②平成二年一月以降(AないしDタイプの増額率は、控えめにみて四九パーセントと認めるのが相当である。)

本件事務所・店舗部分 月額五万七五〇二円(38,592×1.49=57,502)

地下駐車場部分 月額二万六八三三円(18,009×1.49=26,833)

前記認定のとおり、被告は、右期間中の管理費として、本件事務所・店舗部分につき月額二万八八〇〇円、地下駐車場部分につき月額一万三四四〇円を支払っていたから、結局、被告は原告に対し、その差額として、昭和六三年一月から平成元年一二月までは本件事務所・店舗部分につき月額九七九二円、地下駐車場部分につき月額四五六九円、平成二年一月から平成三年六月までは本件事務所・店舗部分につき月額二万八七〇二円、地下駐車場部分につき月額一万三三九三円を支払う義務がある(なお、管理費の支払日が毎月末日であることは当事者間に争いがない。)。

6  以上のとおりであって、原告の本件未納管理費の請求は、右昭和六三年一月以降の差額分合計一一〇万二三七四円と昭和六三年二月から平成二年一月まで毎月一万四三六一円に対する各月一日から支払済みまで、平成二年二月から平成三年七月まで毎月四万二〇九五円に対する各月一日から支払済みまで、民法所定年五分の割合による遅延損害金(管理費の未払につき遅延損害金を定めた現行規約が無効であることは前記のとおりである。)の支払を求める限度で理由があるが、その余は理由がない。

第三特別修繕費の請求について

一請求原因3の(一)の事実(特別修繕費の総会決議)は当事者間に争いがなく、右争いのない事実と<書証番号略>、証人田中謙次の証言によれば、①原告は、本件建物が竣工後一三年目を迎えて内外装の傷みがひどく、風雨時クラックより雨水が浸入するなどの苦情があるとして、本件建物の外壁下地処理及び化粧防水工事、各種塗装工事、屋上塗膜防水工事、玄関ホール及びロビー床仕上改修工事、基幹給水配管改修工事などを行うことを計画したこと、②昭和六二年三月一四日の臨時総会において、右工事を実施すること、その工事費三五四〇万円を各区分所有者が共有持分割合に応じて負担すること、右負担金の最終支払期限は同年八月一四日とすることなどが決議されること、③右総会には、区分所有者総数四八名のうち、二〇名が出席し、二四名が委任状を提出しており、決議は、住居部分、事務所部分、店舗部分、地下駐車場部分につき各一個の議決権として採決が行われ、議決権総数五九個のうち、賛成が五〇議決権、反対が三議決権(被告)であったこと、④右決議後、原告は、昭和六二年九月一八日、株式会社大林組と右工事の請負契約を締結し、同年一〇月頃着工、翌六三年三、四月頃に完成したこと、⑤工事は、基幹給水配管改修工事を除いて当初予定した内容のものが行われたが(基幹給水配管改修工事を行わなかった結果、株式会社大林組との請負代金額は約二三〇〇万円に変更された。)、地下駐車場については、当初から本件建物の直下部分だけに限って天井、柱、梁、壁、出入口大庇の補修工事(塗装、ピンホール処置)が予定されており、中庭の地下部分については補修の対象となっていなかったこと、が認められ、右認定に反する証人伊豆幸重の証言は措信することができず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

二右総会決議については、前記のとおり議決権の定め方に問題があり、本来は専有面積割合によって議決権が行使されるべきであったが、実質的にみれば、区分所有者総数の過半数及び専有面積割合による議決権の過半数の賛成があったことは明らかであるから、右決議は有効に成立したものということができる。ところで、右特別修繕費を共有持分割合で負担するとの点は、持分全体の約四分の一近くを有する被告にとっては、かなりの負担となることは明らかであるが、右決議に係る補修工事の内容は、建物の内外装防水修理工事等、本件建物全体の維持、存続を図るために必要なもので、決して被告の専有部分と無関係ということはできず、このような建物全体の維持保全のための工事については、個々の区分所有者の受益の程度によってその費用の負担を定めることは事実上困難であることなどを考えると、たとえ地下駐車場のうち中庭の地下部分が補修の対象となっていないとしても、これをもって地下駐車場全体を含めて専有面積割合に応じた費用負担をすべきことを定めた右決議の内容が著しく不公正であるとまではいえないし、また、右のような事情からすれば、原告が被告に対し、右決議に従って専有面積割合に応じた特別修繕費の請求をすることが、被告が主張するように権利の濫用であるとか信義則に違反するということもできない。

三したがって、被告は、特別修繕費として総会で定められた負担割合、負担額による金員の支払義務があるというべきであり、原告の請求は、八五三万八四八〇円及びこれに対する昭和六二年八月一五日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金(年一八パーセントの遅延損害金を定めた現行の規約が無効であることは前記のとおりである。)の支払いを求める限度で理由があり、その余は理由がない。

第四耐震壁の設置請求等について

一主位的請求について

<書証番号略>、証人勝見元彦の証言によれば、建築確認申請の図面上では、本件建物の地下部分に原告主張の壁が記載されていたが、実際には、竣工当初から右壁が設置されたことはなかったこと、本件建物の竣工当時、地下駐車場とこれに隣接する被告の神社敷地の地下部分との間に、仕切りとしてブロック壁が設置されたことがあったが、それは、本件建物の地下部分でなく、被告の神社敷地の地下部分に設置されたこと、その後、右ブロック壁は撤去され、本件建物の地下部分と神社敷地の地下部分とが一体の駐車場として利用されているが、右ブロック壁の撤去は設置当初から予定されていたものであったこと、が認められ、右認定に反する証人伊豆幸重、同田中謙次の各証言は、たやすく措信することができず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右事実からすれば、本件建物の共用

別表一

専有面積

(平方メートル)

専有面積割合

(一万分の一)

戸数

A型

25.24

138

7

B型

22.01

120

7

C型

27.27

149

28

D型

21.14

115

14

被告事務所

19.05

2412

1

被告店舗

37.98

1

被告駐車場

385.97

1

別表二

タイプ

戸数

管理費

月額合計

総月額合計

持分1万分の1

あたりの負担額

(④÷7588)

被告の負担

すべき月額

(⑤×2412)

未払い月数

被告の負担額

(⑥×⑦)

昭和50年

10月

~58年11月

A

7

6,200

43,400

338,100

44.55

107,454

98

10,530,492

B

7

5,300

37,100

C

28

6,600

184,800

D

14

5,200

72,800

58年12月

~60年3月

A

7

7,440

52,080

405,720

53.46

128,945

16

2,063,120

B

7

6,360

44,520

C

28

7,920

221,760

D

14

6,240

87,360

60年4月

~60年12月

A

7

10,440

73,080

568,330

74.89

180,634

9

1,625,706

B

7

8,910

62,370

C

28

11,090

310,520

D

14

8,740

122,360

61年1月

~61年12月

A

7

8,410

58,870

462,630

60.97

147,056

12

1,764,672

B

7

7,320

51,240

C

28

9,080

254,240

D

14

7,020

98,280

62年1月

~62年12月

A

7

8,410

58,870

462,630

60.97

147,056

12

1,764,672

B

7

7,320

51,240

C

28

9,080

254,240

D

14

7,020

98,280

63年1月

~平成元年

12月

A

7

11,280

78,960

620,620

81.79

197,276

24

4,734,624

B

7

9,820

68,740

C

28

12,180

341,040

D

14

9,420

131,880

平成2年1月

~ 平成3年6月

A

7

16,890

118,230

929,250

122.46

295,380

18

5,316,840

B

7

14,700

102,900

C

28

18,240

510,720

D

14

14,100

197,400

合計

27,800,126

部分として耐震壁が設置されたことはないのであるから、被告が共用部分である右耐震壁を取り壊したことを前提とする原告の請求は、その前提を欠き失当である。

二予備的請求について

原告は、耐震壁設置の妨害禁止を請求するが、その根拠は必ずしも明確ではない。被告には現行区分所有法一七条二項に基づく承諾義務があるから、その妨害の禁止を求めるという趣旨であるとすれば、右規定に基づいては、被告にそのような承諾義務があると解することはできないから失当であるし、あるいは、区分所有者の共同の利益に反する行為をしたことを理由に、妨害の禁止を求めるという趣旨であるとすれば、前記と同様の理由により、被告が共用部分である耐震壁を取り壊したとの前提を欠き失当というほかない。したがって、いずれにせよ原告の請求は理由がない。

第五結論

よって、原告の本件請求は、昭和六三年一月以降の管理費差額分合計一一〇万二三七四円と昭和六三年二月から平成二年一月まで毎月一万四三六一円に対する各月一日から支払済みまで、平成二年二月から平成三年七月まで毎月四万二〇九五円に対する各月一日から支払済みまで、年五分の割合による遅延損害金の支払、及び特別修繕費八五三万八四八〇円とこれに対する昭和六二年八月一五日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を、それぞれ求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官佐藤久夫 裁判官山口博 裁判官金光秀明)

別紙物件目録一、二<省略>

別紙A図、B図、C図、D図<省略>

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