大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和62年(ワ)9027号 判決 1988年10月04日

原告

斎藤源一郎

原告

品川昌美

原告

江島俊助

原告

渡辺融

原告

保坂基嘉

原告

猪狩進太郎

原告

井上信義

右七名訴訟代理人弁護士

長嶋憲一

若山正彦

被告

泉開発産業株式会社

右代表者代表取締役

安藤太郎

右訴訟代理人弁護士

藤井英男

古賀猛敏

関根和夫

藤井一男

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  原告らが有する被告の経営する泉カントリー倶楽部の別紙会員権目録記載の各ゴルフ会員権がいずれも譲渡性を有することを確認する。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

二  本案前の答弁

1  本件訴えをいずれも却下する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

三  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  被告は、ゴルフ場の経営等を目的として設立された会社であり、千葉県印旛郡印旛村大字吉田字姫宮所在のゴルフ場泉カントリー倶楽部を経営している。

2  原告らは、被告との間で別紙会員権目録の記載のとおりの内容でゴルフ場入会契約を締結し、泉カントリー倶楽部の会員たる地位を有する。

3  被告の経営する泉カントリー倶楽部は、昭和五四年五月七日、理事会を開催して「泉カントリー倶楽部個人正会員会員権自由譲渡は一切これを認めない。」とする決議をしたと称している。

4(一)  しかし、右同日の理事会の右決議は不存在である。

(二)  仮に、右理事会の決議がされたとしても、右決議は次のとおり無効である。

(1) ゴルフクラブ会員権は、①施設の優先的利用権、②会費納入等の義務、③預託金返還請求権という債権債務からなる契約上の地位ないし債権的法律関係であるが、財産的価値が高いことから、取引界においては取引の客体になっている。すなわち、譲渡禁止の特約がないかぎり、独立の財産としてその譲渡性が承認されているのである。

(2) 原告らと被告間の入会契約においても、右の譲渡禁止の特約はなかったから、原告らのゴルフクラブ会員権は当然に譲渡性を有するものである。原告らが受けた会員募集のパンフレットには会員権の譲渡を禁止する旨の表示がなく、その旨の説明をも受けていない。

(3) 原告斎藤源一郎、同品川昌美及び同江島俊助は、譲渡制限の旨を定めたという前記理事会の決議がされた日の前に入会している。なお、被告も右決議の日以前には譲渡禁止の特約はなかったことを自認している。

(4) 原告渡辺融、同保坂基嘉、同猪狩進太郎及び同井上信義は、右決議の日の後に入会しているが、いずれも入会の際には譲渡禁止についての説明を受けていない上、譲渡禁止の旨を具体的に規定したとする泉カントリー倶楽部の会則の配布を受けていない。

5  被告は、右決議に基づき、次のとおり会員権の譲渡禁止の旨を規定した会則を定めて、原告らの会員権の譲渡性を認めない。

「泉カントリー倶楽部会則第一〇条

正会員はその会員権を他に譲渡することができない。ただし、法人正会員は理事会の承認を得て会社が別に定める名義書換料を会社に納入した場合、同一法人内に限りその資格を譲渡することができる。

2 会員権は相続できないものとする。

3 平日会員は倶楽部の斡旋によりその会員権を他に譲渡することができる。ただし、譲渡については、理事会の承認を必要とする。

4  前項により入会を承認された者は会社が別に定める名義書換料を会社に納入するものとし、その納入によって効力を生ずるものとする。」

よって、原告らは、被告に対して、原告らの会員権につき、譲渡人と譲受人間の契約で自由に譲渡することができる旨の譲渡性があることの確認を求める。

二  本案前の抗弁

1  原告らは、未だその会員権の譲渡をし、若しくはしようとしているのではなく、又はその必要があるわけでもない。このような状態で原告らが有する会員権が譲渡性を有することの確認を求めることについては、具体的な確認の利益(即時確定の利益)がない。

2  原告猪狩進太郎及び同井上信義の有する会員権は、いずれも個人平日会員権であり、泉カントリー倶楽部の会則第一〇条3においてその譲渡が認められているものであるから、右原告らには本件確認を求める利益がない。

三  本案前の抗弁に対する認否

本案前の抗弁の主張は争う。

1  原告らの会員権は、被告が現在その譲渡性を認めていないため、他に譲渡することができない状況にある。したがって、被告との関係で原告らの法律上の地位は不安定であるのみならず、会員権の内容が確定せず、また、それに起因して会員権の価額に著しい差異をもたらすことになる。このような状態を除去するためには、確認判決を得ることが有効適切な方法であるから、他に適切な方法がない以上、確認の利益を認めるべきである。

2  原告猪狩進太郎及び同井上信義の有する会員権が個人平日会員権であることは認める。また、泉カントリー倶楽部の会則一〇条3において、平日会員は倶楽部の斡旋によりその会員権を他に譲渡することができる旨定められているが、仮に譲渡を希望しても倶楽部の斡旋がされたことはなく、斡旋がされても、譲渡人と譲受人との間の代金の協議が調わないときの解決方法が示されていないため、譲渡性がないのに等しい。

四  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実は認める。

3  同3の事実は否認する。昭和五四年五月七日の理事会では、正会員権について譲渡及び相続は認めない旨の運営方針が確認されたのである。

4(一)  同4(一)の事実は否認する。昭和五四年五月七日には理事会が開催されている。

(二)  同4(二)の柱書は争う。

(1) 同4(二)(1)は争う。ゴルフ会員権は、ゴルフ場経営者に対する特殊な継続的施設利用を主な内容とする契約上の地位であり、本来譲渡性を有するものではない。

(2) 同4(二)(2)の事実は、否認する。

(3) 同4(二)(3)の事実の内、原告斎藤源一郎、同品川昌美及び同江島俊助の入会の時期については不知。その余の事実は否認する。

(4) 同4(二)(4)の事実の内、原告渡辺融、同保坂基嘉、同猪狩進太郎及び同井上信義の入会の時期については不知。その余の事実は否認する。

5  同5の事実は認める。

第三  証拠<省略>

理由

一まず、被告の本案前の抗弁について判断するに

1  原告の本件請求は、原告らの有する泉カントリー倶楽部会員権が譲渡性を有することの確認を求めるというものであるが、弁論の全趣旨によれば、原告らは、未だその有する会員権を他に譲渡し、又は譲渡しようとしているものではないことが認められる。しかしながら、弁論の全趣旨及び成立に争いのない甲第四号証、乙第一号証によれば、被告は会則第一〇条に規定するとおり正会員権については原則としてその譲渡を認めず、また、平日会員についても譲渡に著しい制限を付していることを認めることができる。

ところで、ゴルフクラブの会員権は、会員とゴルフ場経営者との間の継続的施設利用契約上の当事者としての地位であると解することができるところ、右会員権が財産的価値をも有するものであることは公知の事実であるから、譲渡可能性を有するか否か、どの程度の譲渡性を有するかは、会員権の重要な内容となっているものと解される。したがって、被告が前述のように原則的に正会員権の譲渡を承認しない態度をとっている場合においては、原告らに本件確認請求における確認の利益を認めるのが相当である。よって、被告の本案前の抗弁は理由がない。

二そこで本案について判断する。

1  請求原因1、2の各事実については、当事者間に争いがない。

2  <証拠>を総合すると、昭和五四年五月七日泉カントリー倶楽部の理事会が開催され、請求原因5記載の会則第一〇条に規定するところと同様な内容の決議がされたことを認めることができる。

3  そこで、請求原因4について判断する。

(一) ゴルフクラブの会員権は、前述のとおり会員とゴルフ場経営者との間の継続的施設利用契約上の当事者としての地位であると解されるところ、このような継続的契約上の地位は、法律上当然に譲渡性を有するものではなく、譲渡人、譲受人及び契約当事者の三者の同意の下でのみ、その譲渡が可能であると考えられる。仮に、原告が主張するように会員権が財産権として高額の対価で取引されている実情があるとしても、それが契約上の当事者としての地位である以上、その譲渡は、一方の契約当事者であるゴルフ場経営者の同意が得られなければならないものであって、譲渡人、譲受人間の契約のみで自由に譲渡することができる性質のものではない。この点について、原告は、会員権は本来的にその譲渡が自由であり、特約がある場合にのみその譲渡が制限できる旨主張するが、原告の右主張は採用することができない。なお、実際界において多くのゴルフ会員権がゴルフ経営者側の個別の承諾なく自由に譲渡されているとすれば、それはゴルフ経営者側の事前の包括的な承諾があるからであると解すべきであって、権利の性質上当然に譲渡が譲渡人及び譲受人間の契約のみで自由に譲渡できるというものではないと解すべきである。したがって、ゴルフ会員権を譲渡しようとする者は、事柄の性質上事前又は事後にゴルフ場経営者の同意を得る必要があるというべきである(もっとも、ゴルフ場経営者側において、個々の入会契約に際して、又は一般的な会員の募集に際して、当該ゴルフ会員権がゴルフ場経営者側の個別の承諾を得ることなく、自由に譲渡することができる旨を約し、又は宣言した場合には、そのゴルフ会員権の自由な譲渡性を承認されるべきであることは前述のとおりである。)。

(二)  ところで、原告の本件請求は、被告の経営する泉カントリー倶楽部の理事会が昭和五四年五月七日個人正会員権の自由譲渡はこれを認めないとする前記決議を行い、これに基づき、右倶楽部の会則第一〇条において、会員権の自由譲渡を著しく制限する定めが置かれたところ、原告らの入会契約においては、右の会則の定めの趣旨は契約の内容になっていなかったのであるから、原告の会員権が譲渡性を有することの確認を求めるというものである。そして、原告らの主張によれば、原告らの主張する会員権の譲渡性とは、ゴルフ場経営者の同意を要することなく、譲渡人と譲受人間の契約のみで会員権を譲渡することができる権能をいうものと解することができる。しかし、会員権の性質を前述のように契約上の地位と解する以上、譲渡人と譲受人との間に契約で自由に譲渡することができないことは前述のとおりである。したがって、前述のとおり、原告らの入会契約において、被告の事前の承諾があったというのでなければ、契約の性質上当然に被告の同意なくして譲渡性を有するものではない。そして、原告の請求原因は、結局、入会契約において自由譲渡性について被告の事前の承諾があったというものではなく、前記理事会決定又は会則第一〇条の規定にもかかわらず、ゴルフ会員契約上当然に自由な譲渡性があることの確認を求めるものと解されるから、原告の本件請求原因は、その事実を確定するまでもなく、理由がないことに帰する(なお、本件全証拠によるも、原告らの入会契約に当たり、被告が会員権の自由な譲渡性を承認していた事実を認めることはできない。)。

三以上のとおり、原告の本件請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官慶田康男)

別紙会員権目録

1、原告  斎藤源一郎

会員権の種類  個人正会員

入会日  昭和五三年六月三〇日

入会保証金  金三八〇万円

会員証番号  A〇二三九

2、原告  品川昌美

会員権の種類  個人正会員

入会日  昭和五三年六月三〇日

入会保証金  金三八〇万円

会員証番号  A〇一一六

3、原告  江島俊助

会員権の種類  個人正会員

入会日  昭和五三年五月九日

入会保証金  金三八〇万円

会員証番号  A〇一二三

4、原告  渡辺融

会員権の種類  個人正会員

入会日  昭和五四年九月三〇日

入会保証金  金六〇〇万円

会員証番号  A2〇〇〇一

5、原告  保坂基嘉

会員権の種類  個人正会員

入会日  昭和五四年一二月六日

入会保証金  金六〇〇万円

会員証番号  A2〇〇三七

6、原告  猪狩進太郎

会員権の種類  個人平日会員

入会日  昭和五四年一一月八日

入会保証金  金二五〇万円

会員証番号  H〇〇七二

7、原告  井上信義

会員権の種類  個人平日会員

入会日  昭和五四年八月一三日

入会保証金  金二五〇万円

会員証番号  H〇〇三九

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例