東京地方裁判所 昭和62年(行ウ)116号 判決 1991年4月26日
原告
猿渡幸秀
被告
国
右代表者法務大臣
佐藤恵
被告
東京国税局長熊澤二郎
右被告両名指定代理人
青木正存
同
横田重男
同
高瀬淳一
同
糸山徹
被告
濱田常吉
被告
早田博海
被告
西田亨
被告ら訴訟代理人弁護士
高田敏明
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
一 被告東京国税局長が原告に対し、昭和六〇年一二月一二日付けでした分限免職処分を取り消す。
二 被告らは原告に対し、各自金四〇〇万円及びこれに対する昭和六〇年一二月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 当事者間に争いのない事実
1 原告は、昭和四六年四月一日、福岡国税局総務部総務課に採用され、税務大学校における研修、東京国税局管内の千葉、品川、浅草税務署勤務を経て、昭和五六年七月一〇日から麻布税務署に勤務していた。
2 被告は原告に対し、昭和六〇年一二月一二日付けで、左記理由で分限免職処分に付した。
記
原告は、麻布税務署法人税・源泉所得税第九部門国税調査官として在職中、昭和六〇年五月二三日から同月二五日までの間及び同年六月三日から同年一二月一一日までの間無断欠勤を続け、しかもこの間、昭和六〇年六月六日総務課長から、また、昭和六〇年一一月一二日には税務署長からそれぞれ東京国税局下十条宿舎二号棟一〇二号自宅玄関あるいは自宅窓越しにおいて口頭により「出勤すること。出勤できない場合には連絡すること。出勤できない理由が病気である場合には医師の診察を受けること。」を命令されるとともに、昭和六〇年六月四日、五日、八日等再三再四自宅に赴き口頭や文書の差し置きまたは電報により「出勤すること。出勤できない場合には連絡すること。」等命令されたにもかかわらず、この命令に従わなかった。更には、昭和六〇年八月一二日及び同月一九日税務署長から、また昭和六〇年九月二〇日東京国税局厚生課長から文書により健康診断の受診命令を発したがこれに従わなかった。よって、昭和六〇年一〇月四日には東京国税局の健康管理医である市ケ谷診療所佐藤所長が、健康診断を行うため自宅を訪ね、来意を告げ面接を求めたが、これに応じなかった。
右記の行為は、国民全体の奉仕者として官職に必要な適格性を欠くものと認められる。よって、国家公務員法七八条の規定により免職としたものである。
二 争点
1 本件免職処分の適法性
2 原告に対する退職強要行為の存否
第三争点に対する判断
一 本件免職処分の適法性
1 (証拠略)によれば、次の事実が認められる。
原告は、昭和六〇年五月二三日から同月二五日までの間及び同年六月三日から同年一二月一一日までの間計一五六日間にわたり、正当な理由なく、かつ、所定の手続きを取らず欠勤を続けた。なお、同年五月二六日は日曜日、同月二七日から六月一日までは休暇を取る旨の電話連絡があり、同月二日は日曜日であり、いずれも出勤していない。
原告は、右無断欠勤中、次のとおり再三にわたる麻布税務署長及びその命を受けた職員の電話、原告宅訪問の際の口頭、文書等による出勤命令に従わなかった。
昭和六〇年六月四日午前一一時五分、麻布税務署法人税・源泉所得税第九部門統括国税調査官被告西田亨及び同署総務課長補佐須藤勝が東京都北区十条台二の二東京国税局下十条宿舎内の原告宅を訪ね、原告に呼び掛け、応答のあった原告の母親に原告に会いたい旨伝えたが、原告から出るなといわれているというのみであったので、麻布税務署長名の直ちに出勤するよう命ずる内容の文書(出勤命令書)を原告宅玄関郵便受けに投函した。
同月五日午後三時三分、麻布税務署総務課長上原龍男、被告西田が原告宅を訪ね、再三にわたり呼びかけたが応答がなく、出勤命令書を郵便受けに投函した。
同月六日午後七時五分、上原課長及び被告西田が原告宅を訪ね、呼びかけたところ、七時三〇分原告が出てきたので、上原課長が、出勤するよう、休むときには連絡するようにとの麻布税務署長の命令を口頭で伝達した。その際、上原課長の欠勤理由についての質問に、原告は、話しても無駄だ、話すことはない、と繰り返し、翌日は出勤するかとの質問に、考慮中だというのみであった。
同月八日午前九時一〇分、麻布税務署総務課会計係長浅川賢治が原告宅を訪ね、原告に呼びかけたところ、原告の妻が出てきて原告は会いたくないといっているというのみであったので、出勤命令書を妻に手渡し、原告へ渡すことを依頼した。
同月一〇日午後七時、上原課長及び浅川係長が原告宅を訪ね、再三にわたり呼びかけたが応答がなかったため、出勤命令書を郵便受けに投函した。
同月一一日、一二日、上原課長は原告に出勤するよう命ずる内容の麻布税務署長名の電報を発信し、右電報はそれぞれ原告宅に配達された。
同月一五日午後七時一八分、浅川係長が原告宅を訪ね、再三にわたり呼びかけたが応答がなかったため、出勤命令書を郵便受けに投函した。
同月二〇日午後七時四五分、麻布税務署総務課総務係長松田満喜及び浅川係長が原告宅を訪ね、呼びかけ、応答のあった原告の妻に、麻布税務署長からの伝言がある、渡したい書類があるのでドアを開けてもらいたい旨話したが、これに応じず、その後の再三にわたる呼びかけにも応答がなかったので、出勤命令書を郵便受けに投函した。
同月二四日午後九時五分、浅川係長及び麻布税務署国税調査官須田勝が原告宅を訪ね、同行した宿舎管理人の妻から原告の妻に呼びかけてもらい、玄関ドアを開けた妻に、原告の健康状態を尋ね面会を求めたが、元気であると応答するのみで、原告と面会できなかったので、出勤命令書を原告の妻に手渡し、原告に渡すことを依頼した。
同月二八日、松田係長及び浅川係長が原告宅を訪ね、再三にわたり呼びかけたが応答がなく、出勤命令書を郵便受けに投函した。
同年七月一六日午後七時五〇分、麻布税務署総務課長鬼竹真人及び浅川課長が原告宅を訪ね、玄関及びベランダから、麻布税務署の総務課長です、本日給与を持参しました、署長からの伝言があります、明日必ず出勤しなさい、と出勤命令を伝達したが応答はなかった。
同年八月一二日午後五時四五分、鬼竹課長が原告宅を訪ね、再三にわたり呼びかけたが応答がなく、麻布税務署長名の健康診断の受診についてと題する文書を郵便受けに投函した。
当月一九日、鬼竹課長及び浅川係長が原告宅を訪ね、再三にわたり呼びかけたが応答がなく、麻布税務署長名の健康診断の受診についてと題する文書を郵便受けに投函した。
同年九月二〇日、東京国税局厚生課厚生専門官飯島幸雄及び同課主任斎藤憲が原告宅を訪ね、再三にわたり呼びかけたが応答がなく、同課名の健康診断の受診と題する文書を郵便受けに投函した。
同年一〇月四日、東京国税局健康管理医の市ケ谷診療所長佐藤民雄、飯島専門官及び斎藤主任が原告宅を訪ね、健康診断を受けるよう再三にわたり呼びかけた。
同年一一月一二日、麻布税務署長有賀秀雄が鬼竹課長と原告宅を訪ね、呼びかけたところ、原告が窓から顔を出したので、原告に対し、休んでいる理由を尋ねたところ、原告は、麻布税務署は分かっているはずだと答え、出勤するように命じられても、どうでも良いことだと答えた。
2 右認定によれば、原告は、勤務先の上司等の再三にわたる出勤命令あるいは健康診断受診命令等に全く応ぜず、何ら正当な理由もなく、かつ所定の手続きをとらず一五六日間におよぶ欠勤を続けたものであり、右事由は、国家公務員は、国民全体の奉仕者として公共の利益のために勤務し、かつ、職務の遂行に当たっては全力を挙げてこれに専念しなければならない旨定めた国家公務員法九六条一項、法律又は命令の定める場合を除いては、その勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職責遂行のために用い、政府がなすべき責を有する職務にのみ従事しなければならない旨定めた同法一〇一条一項違反に該当する。
原告は、右欠勤は、別表記載(略)の被告らの退職強要行為、生活妨害がもたらしたものであるから、正当な理由があり、本件処分は懲戒権の濫用であると主張し、原告本人尋問の結果中にはこれに沿う部分があるが、二で認定のとおり原告主張の退職強要行為等を認めることはできず、本件処分が社会通念上著しく妥当性を欠き、裁量権を逸脱したものとは認められない。
したがって、被告東京国税局長の原告に対する本件免職処分は適法であるから、右免職処分の取消を求める原告の請求は理由がない。
二 原告に対する退職強要行為
原告は、被告らは共謀して原告を退職に追い込むため別表記載のとおりの各言動を行い、右不法行為により原告は精神的苦痛を被ったとして慰謝料四〇〇万円を請求し、原告本人尋問の結果中には右主張に沿う部分がある。
しかしながら、別表記載事項のうち、被告早田に関する(三)の五二の言動は何ら違法性を有するものとは認められず、別表記載事項の被告濱田の言動((三)の二九、三九、四五、四六、五〇、五一、五九、七一、七二、八三)については(証拠略)に対比し、被告早田のその余の言動((三)の一七、二〇、二一、二八、三〇、三六、三八、四四、五七、六二、六三、六四、六五、六六、六八、六九、七三)については(証拠略)に対比して、被告西田の言動((四)の七四、七五、七六、七七、七九、(五)の八〇、八一、八二、八四、八五、八九、九〇、九四、九七、(六)の九九、一〇〇)については(証拠略)に対比し、また、右被告以外の者の各言動についても、(証拠略)に対比し、原告本人尋問の結果中右原告の主張に沿う部分は採用することができず、他に原告主張の別表記載の事実を認めるに足りる証拠はないから、その余について判断するまでもなく、原告の主張は失当である。
三 よって、原告の請求はいずれも理由がないから、これを棄却する。
(裁判官 長谷川誠)