東京地方裁判所 昭和62年(行ウ)87号 判決 1990年2月23日
東京都港区浜松町一丁目二七番一三号
原告
八大産業株式会社
右代表者代表取締役
川口勝弘
右訴訟代理人弁護士
小串静夫
同
土屋東一
東京都千代田区霞が関三丁目一番一号中央合同庁舎第四号館
被告
国税不服審判所長
杉山伸顕
東京都港区芝五丁目八番一号
被告
芝税務署長
長原雄介
右被告両名訴訟代理人弁護士
中村勲
右被告両名指定代理人
合田かつ子
同
横川七七一
右被告国税不服審判所長指定代理人
渡部義信
同
中村有希郎
右被告税務署長指定代理人
竹田準一
同
長岡忠昭
主文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告芝税務署長が昭和六〇年四月三〇日付けでした原告の昭和五八年七月一日から同五九年六月三〇日までの事業年度の法人税の更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知並びに同事業年度の法人税の更正及び過少申告加算税賦課決定(ただし、いずれも昭和六二年四月一四日付け裁決により一部取り消された後のもの)を取り消す。
2 被告国税不服審判所長が昭和六二年四月一四日付けでした右通知並びに更正及び過少申告加算税賦課決定に対する審査請求についての裁決を取り消す。
3 訴訟費用は被告らの負担とする。
二 請求の趣旨に対する被告らの答弁
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求の原因
1 原告は、原告の昭和五八年七月一日から同五九年六月三〇日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について、別紙一記載のとおり、確定申告及び更正の請求(以下「本件更正の請求」という。)をした。これに対して、被告税務署長は、別紙一記載のとおり、原告のした更正の請求は理由がない旨の通知(以下「本件通知」という。)並びに更正(以下「本件更正」という。)及び過少申告加算税賦課決定(以下、これらの処分を「本件通知等」という。)をした。
2 右更正等に対する不服申立ての経過は、別紙一記載のとおりである。
3 (更正の請求の理由)
原告は、昭和五八年二月二五日及び同年七月二七日の二回にわたり、住友建設株式会社(以下「住友建設」という。)との間に東京都港区西新橋三丁目一〇一番四等別紙二記載の土地及び建物(以下「本件土地」という。)について前所有者等を立ち退かせたうえ右会社に引き渡す旨の不動産売買及び立退きに関する特殊な契約を締結し、右契約代金の合計額一八億五〇九七万四〇〇〇円及びその売上原価の合計額一二億四四三六万円をそれぞれ原告の本件事業年度の売上及び仕入れに計上して、同期の法人税の確定申告をしたが、実際には本件土地等は本件事業年度末までに住友建設に対する引渡しが完了していないにもかかわらず、誤つて同期の売上及び仕入れに計上したものであり、これは国税通則法二三条一項一号に規定する事由に該当するので、更正の請求をしたものである。
4 (裁決固有の違法)
被告国税不服審判所長は、その裁決において、調査の懈怠による事実誤認及び棚卸資産の販売による収益の帰属の時期に関する法令の解釈適用の誤りにより、本件土地等の引渡しは完了したと認定して本件通知等を適法としたものであつて、右裁決は、その審査手続においても実体に関しても重大な違法があるものである。
5 本件更正は、原告の所得金額を過大に認定したものであるから違法であり、本件更正を前提としてされた本件過少申告加算税賦課決定も違法である。
6 よつて、本件通知等及び右裁決は違法であるから、その各取消しを求める。
二 請求の原因に対する認否
1 請求の原因1を認める。
2 同2を認める。
3 同3のうち、原告がその主張のとおりの確定申告及び更正の請求をしたことを認め、更正の請求に理由があるとの主張を争う。
4 同4のうち、被告国税不服審判所長が、本件土地等の引渡しが完了したと認定して本件通知等を適法としたことを認め、その余を争う。
5 同5及び6を争う。
三 被告らの主張
1 被告税務署長の主張
(一) 本件通知の適法性について
(1) 原告の本件更正の請求の理由は要するに、原告が本件事業年度に帰属する棚卸資産の仕入れ及び売上として計上確定申告したもののうち、本件土地等は、原告が買主である住友建設に対し昭和五八年二月二五日及び同五八年七月二七日付不動産売買契約(以下「本件売買契約」という。)に基づいて売却したものであるが、本件事業年度末までにはその引渡しが未了であつたうえ、本件事業年度後の同五九年一二月四日に至つて東京地方裁判所において原告と住友建設との間で本契約を解除する和解が成立したことにより、前記本件土地等の売却代金に関し、本件事業年度の所得金額及び土地譲渡利益金額等に誤りが生じたことになるというものである。
しかして、原告が本件更正の請求により減額を求める金額等は、次表一のとおりである。
表一
<省略>
(△は、マイナスを示す。)
(2) しかし、原告と住友建設との間で原告指摘の日に、本件土地等について本件売買契約が締結された取引に関しては、その売買代金も別紙二の第一物件(以下、単に「第一物件」といい、別紙二の第二物件及び第三物件についても同様に表示する。)についてはその金額である二億二二三〇万円が昭和五八年一〇月一七日までに、第二物件についてもその金額三億七九七三万円が同年二月二五日までに、第三物件についてもその金額である一二億四八九四万四〇〇〇円が同年一〇月七日までにいずれも支払われ済みであるうえ、本件土地等の買主である住友建設への所有権移転登記手続も、第一物件については、昭和五八年一〇月一七日付けで、第二物件については同年二月二六日付けで、第三物件については、そのうち、東京都港区西新橋三丁目一〇一番八の物件が同年五月二七日付けで、その余の第三物件が同年六月二二日付けで、それぞれ買主である住友建設に対して所有権移転登記がなされ登記手続がすべて完了している。
そのため、原告は、本件売買契約に基づく売却代金の合計額一八億五〇九七万四〇〇〇円及びその売上原価の合計額一二億四四三六万円を本件事業年度の売上及び仕入れにそれぞれ計上したうえ、確定申告をしたものである。
要するに、本件土地等に係る本件売買契約に基づく売上代金が本件事業年度に帰属するとした原告の確定申告時における判断は、相当であつて誤りはなく、これに反し、本件土地等が、いまだ買主である住友建設に引渡し未済であつたと認められず、右売上代金を本件事業年度に計上した確定申告に誤りがあつたものとは認められないのである。
(3) また、昭和五九年一二月四日東京地方裁判所において、原告と住友建設との間で本件売買契約を解除する旨の和解が成立したとの点について、次のとおり、法人税の課税においては、契約解除により既往に遡及して課税を修正することはできないものである。
すなわち、
ア 法人税における課税所得金額の計算上法人が既往の事業年度に計上した売上について、翌事業年度以降に当該売上に係る売買契約が解除された場合の当該売上は、以下に述べるところから、これを既往の事業年度に遡及して修正するのではなく、解除等がなされた事業年度の益金を減少させる損失として取り扱うこととされている。
イ つまり、法人税における課税所得の計算は、いわゆる「継続企業の原則」に従い、当期において生じた収益と当期において生じた費用・損失とを対応させ、その差額概念として所得を算定するという建前になつており、この場合の当期の収益又は費用・損失については、その発生原因が何であるかを問わず、当期において生じたものであればすべて当期に属する損益として認識するという考え方がとらえられているので、仮に既往に計上した売上高について当期に契約解除等があつた場合でも、その契約解除等は、当期に売上の取消しによる損失が発生する原因にすぎないとみることになるのである。
ウ したがつて、原告が本件事業年度に計上した売上に係る売買契約がその後の事業年度において解除されたとしても、当該解除に伴う損失は、当該解除が行われた昭和五九年一二月四日の属する事業年度(原告の場合は、同五九年七月一日から同六〇年六月三〇日までの事業年度に当たる。)に帰属する損失として計上されるべきものとなり、本件事業年度の課税所得金額の計算に影響を及ぼすものとしては取り扱われないのである。
(4) なお、更正の請求のうち、土地譲渡利益金額に関する取扱いについては、次のとおりである。
ア 租税特別措置法(以下「措置法」という。)は、その六三条において、土地の譲渡等による譲渡利益金額(以下「土地譲渡利益金額」という。)に対する法人税の特別税率の適用対象となる土地等の譲渡等について規定しているが、当該特別税率が適用された土地等の譲渡について、その適用事業年度後の事業年度において、当該譲渡に係る契約が解除された場合には、措置法関係通達(以下「措置法通達」という。)63(6)-5により、当該適用事業年度の当該譲渡に係る土地譲渡利益金額に対する税額について、国税通則法二三条二項の規定による更正の請求をすることができることとされている。
イ 右は、先にも述べた、法人の各事業年度の課税所得金額が、いわゆる「継続企業の原則」に従つて計算されることから、契約の解除があつた場合に生ずる損失は、その契約事業年度に遡るのではなく、その契約の解除があつた事業年度の損金の額に算入されるとする取扱いと異なるものであるところ、措置法通達がかかる取扱いを定めた趣旨は、措置法六三条の特別税率が法人の棚卸資産に帰属する土地等の譲渡等であるか否かを問わずその適用対象とされているため、不動産販売業者はともかくとして、一般の事業会社がたまたま土地を譲渡したためかかる特別税率による法人税を納付し、その後の事業年度において、その譲渡契約が解除された場合には、その契約の解除に伴う土地等の譲渡利益金額をマイナスすべき他の土地の譲渡利益金額が存在しないため、永久に課税の是正ができなくなるおそれもあり、これでは実情にそわず課税の公平が保てないため、土地譲渡利益金額の計算に限つて国税通則法二三条二項の更正の請求の特例を認めることとされたものである。
ウ このため、被告税務署長は、原告が本件土地の譲渡を措置法六三条の特別税率の対象となる土地の譲渡として本件事業年度の確定申告書に記載し確定申告していること、本件土地の譲渡に係る契約が昭和五九年一二月四日に解除され原告が本件更正の請求を行つたことから、土地譲渡利益金額の計算上本件土地の譲渡が本件事業年度になかつたものとして、土地譲渡利益金額の計算を行つたところ、原告の本件事業年度の土地譲渡利益金額は、零円となつたものである。
エ しかしながら、後記(二)において主張するとおり、原告の本件事業年度の真実の所得金額は、申告所得金額を大きく上回る額となるものであり、その課税所得金額を求め、本件土地等の譲渡に基づく土地譲渡利益金額を零円として本件事業年度の法人税額を算出したところ、当該法人税額は確定申告における同額を超えることとなる。
(5) 以上の次第により、原告の本件更正の請求には理由がないこととなつたものである。
(二) 本件更正の適法性について
(1) 原告に対する本件事業年度に係る更正に基づく課税所得金額等(裁決によつて維持されたもの)は、次表二のとおりである。
表二
<省略>
(2)ア 申告所得金額(表二<1>)
一億四七六二万四三〇四円
右金額は、原告が昭和五九年八月三一日に被告税務署長に対して提出した本件事業年度の法人税確定申告書に記載されていた金額である。
イ 売買手数料中否認額(表二<2>)
一億五〇〇〇万円
(ア) 原告は、訴外京成電鉄株式会社(以下「京成電鉄」という。)が昭和五九年五月二九日付け売買契約により、千葉県習志野市谷津三丁目一九八一番の一外の土地(以下「谷津遊園跡地」という。)を訴外住宅都市整備公団に売却するに際し、同京成不動産株式会社(以下「京成不動産」という。)ほか数社と共同でその取引の仲介を行つた。
(イ) 右の仲介により原告は、京成電鉄の代理人たる京成不動産より、右仲介に係る対価として三億円を受領し、これを昭和五九年六月二〇日に収益として計上するとともに、このうち一億五〇〇〇万円を有限会社中央観光開発(以下「中央観光」という。)に対し、谷津遊園跡地売買に係る売買手数料として支払つたとする経理処理を行つている。
(ウ) しかし、右の中央観光に対する売買手数料一億五〇〇〇万円(以下「本件売買手数料」という。)は、以下に述べるところから、本件事業年度の損金の額には算入されないものである。
<1> すなわち、原告代表者川口勝弘は、原処分調査時における原処分調査担当者の本件売買手数料に関する質問に対し、
<ア> 本件売買手数料は、実際には暴力団関係者に支払つたものであり、振替伝票に中央観光に支払つたとして記載したのは誤りである。
<イ> 右暴力団関係者に対する支払を証明する領収書等の記録はない。
<ウ> 右暴力団関係者の氏名・住所及び相手先別支払金額は、これを明らかにすることができない。
<エ> 暴力団関係者に対する支払は、昭和五九年六月二〇日に行われ、その支払の場には当時の京成不動産取締役総合管理本部長安藤隆(以下「安藤部長」という。)が立ち会つている。
旨を回答している。
<2> しかし、被告税務署長が右安藤部長に確認したところ、安藤部長は、かかる支払の場に立ち会つた事実はない旨を申述しているほか、振替伝票に記載した支出先である中央観光に対する本件売買手数料の支払事実を原告代表者が自ら否定したうえ、他に真実の支出先を証する領収書等の提示もないことから、本件売買手数料の存在を認めることができないので損金計上を否認し、一億五〇〇〇万円を申告所得金額に加算したものである。
ウ 交際費等の損金不算入額(表二<3>)
一八六万四五五〇円
原告は、本件事業年度の原告の決算報告書に交際接待費の額を一〇二〇万〇六五三円と記載し、同額を措置法六二条一項に規定する交際費等の損金不算入額として本件事業年度の所得金額を計算し、確定申告しているが、被告税務署長が調査したところ、右確定申告における交際費等以外に原告が本件事業年度の決算報告書に記載した厚生費及び消耗品費のうちに、交際費東とすべき原告の同業者及びテナント等に対する接待、供応等に要した支出が次表三に示すとおり、合計一八六万四五五〇円認められたため、同額を交際費等の損金不算入額として申告所得金額に加算したものである。
表三
<省略>
エ 法人税額等の損金不算入額(表二<4>)
一二一四万八〇〇〇円
被告税務署長は、原告が本件事業年度に係る租税公課の額として損金の額に算入した金額のうち、法人税法三八条一項もしくは同条二項に該当し損金不算入となる金額が次表四に示すとおり合計一二一四万八〇〇〇円認められたため、同額を申告所得金額に加算したものである。
表四
<省略>
オ 事業税認定損の額(表二<5>)
二二二万二六〇〇円
原告の前期事業年度(昭和五七年七月一日から同五八年六月三〇日までの事業年度をいう。)の法人税額等の更正に伴う未払事業税の金額二二二万二六〇〇円を本件事業年度の損金の額として、申告所得金額から減算したものである。
カ 課税所得金額(表二<6>)
三億〇九四一万四二五四円
右金額は、原告の申告所得金額(前記ア)に前記イないしエの金額を加算し、前記オの金額を減算した金額である。
キ 法人税額(表二<7>)
一億三二六五万二三〇〇円
右金額は、課税所得金額を三億〇九四一万四二五四円(前記カ)、土地譲渡利益額を零円として算出した原告の本件事業年度の法人税額(ただし、法人税法六八条に規定する「所得税額の控除」後の法人税額をいう。)である。
(3) 以上のとおり、原告にかかる本件事業年度の課税所得金額は、三億〇九四一万四二五四円となるところ、これと同額をもつて行つた本件更正は、適法である。
(三) 過少申告加算税賦課決定の適法性について
被告税務署長は、本件事業年度の更正をしたことに伴い、国税通則法六五条一項の規定に基づき、右更正により納付すべき法人税額(国税通則法一一八条三項の規定により一万円未満の端数切捨て)に一〇〇分の五を乗じて計算した金額を、過少申告加算税の額として賦課決定したものであり、同処分は適法である。
2 被告国税不服審判所長の主張
被告国税不服審判所長に対する裁決の取消しを求める原告の主張は、要するに、被告税務署長が原告に対して昭和六〇年四月三〇日付けをもつてした本件通知等の各処分に存する違法をいうものであるところ、行政事件訴訟法一〇条二項によれば、原処分の違法を主張して裁決の取消しを求めることはできないのであるから、原告の請求は理由がない。
四 被告らの主張に対する認否及び反論
1 被告税務署長の主張について
(一) 本件通知の適法性について
(1) (1)の前段を否認し、後段を認める。
(2) (2)の前段について、原告と住友建設との間において本件土地等に関する売買という形式をとつた契約が存在し、その履行の形式で被告主張の日時に金員の授受が行われたうえ、原告から住友建設に対する所有権移転登記が存在することは認める。本件土地等に関して原告と住友建設との間においてされた契約は、本件土地等を含むその地域一帯の土地の地上げを前提とした地上げ資金の借入れを担保するための契約であつて、本件売買契約は、地上げ完了までの原告と住友建設の間のいわば基本的合意に類する性質を有するにすぎないものであり、具体的な売買の効力を生ずる性質のものではない。すなわち、本件売買契約は、地上げ完了後にあらためて行われることが予定されている地上げした土地全域の実測、売買代金の精算及び残物件についての登記を行つた上、最終的に引渡しがされるまで、地上げ資金の借入れを担保するための形式にすぎないものである。
中段について、原告が売買という形式をとつた契約に基づき受領した金員及びその原価等を売上及び仕入れに計上して、確定申告をしたことは認める。しかし、これは、原告が本件土地等の住友建設に対する引渡しをしていなかつたにもかかわらず、これをしたものと誤つて確定申告したものである。すなわち、本件売買契約は、右のような特殊な契約であるから、同契約に基づく金員の授受及び所有権移転登記がされているからといつて、本件土地等の引渡しがあつたとみるのは皮相的な見解である。本件土地等につき原告が住友建設に引渡しをしていなかつたことは、本件所有権移転登記後も本件土地等に隣接して原告が所有していた八大ビルを原告が本社ビルとして継続して使用していたこと、原告は、住友建設から本件土地等を含む一帯の土地の地上げを請け負つていたが、地権者との交渉が難航し、結局いわゆる虫食い地上げに終わり、住友建設が予定していた超高層ビルの建築用地として不適地となつたため、本件売買契約を解除する和解を成立させ、売買代金の返還という形式をとつて地上げのための借入れ資金を返済したものであることなどに照らして明らかである。
後段は争う。
(3) (3)については、一般論としては契約解除がされた場合遡及して課税を修正することができないこと及び被告主張の事実関係を前提とすれば被告主張のような論理あるいは帰結となることは認める。
(4) (4)については、アないしウを争う。契約解除がされた場合の更正の請求であれば、被告主張のとおりであるが、本件は契約解除の場合ではなく、土地譲渡利益がもともと発生していない場合であるから、被告の主張は理由がない。
エを争う。被告は、原告が取得していない売買手数料一億五〇〇〇万円を原告の所得金額に加算したうえで、更正の請求が理由がないとしているものであつて、主張自体失当である。
(5) (5)を争う。
(二) 本件更正の適法性について
(1) (1)、(2)のア及び(2)のウないしオを認める。カ、キを争う。
(2) (2)のイについて
(ア)は認める。
(イ)について、被告主張の経理処理は認めるが、三億円を受領したことは否認する。三億円を原告が受領し、そのうち一億五〇〇〇万円を中央観光に売買手数料として支払つたと振替伝票に記載したのは、経理処理上の過誤である。原告が受領したのは一億五〇〇〇万円にすぎず、その余の一億五〇〇〇万円は京成不動産の主導のもとに暴力団関係者数名に対して仲介手数料として支払われている。
(ウ)の柱書きは争う。
(ウ)の<1>について、原告代表者川口勝弘が原処分調査担当者に述べたとの点は否認する。同人は、国税不服審判官に述べたものである。その内容も、<ア>及び<イ>は認めるが、<ウ>は否認する。<エ>ついては、安藤隆のみならず、長期信用銀行預金部長代理梓広次らも立ち会つている旨を回答している。
(ウ)の<2>について、安藤隆の申述内容は知らず、その余は争う。
(3) (3)は争う。
(三) 過少申告加算税賦課決定の適法性について争う。
2 被告国税不服審判所長の主張について
第三証拠関係
証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 請求の原因1及び2の事実は、当事者間に争いがない。
二 本件通知の適法性について
1 原告と住友建設との間において本件土地等に関する売買という形式をとつた契約が存在し、その売買代金という形で第一物件についてはその全額である二億二二三〇万円が昭和五八年一〇月一七日までに、第二物件についてはその全額である三億七九七三万円が同年二月二五日までに、第三物件についてはその全額である一二億四八九四万四〇〇〇円が同年一〇月七日までに、それぞれ支払われているうえ、原告から住友建設への所有権移転登記も、第一物件については昭和五八年一〇月一七日付けで、第二物件については同年二月二六日付けで、第三物件については、そのうち東京都港区西新橋三丁目一〇一番八の物件が同年五月二七日付けで、その余の物件が同年六月二二日付けで、それぞれ完了していることは、当事者間に争いがない。
原告は、原告と住友建設との間の本件土地等に関する契約は、いわゆる地上げ資金の借入れの担保のためにする不動産売買及び立退きに関する特殊な契約であつて、通常の不動産売買契約ではないと主張し、これに沿う原告代表者川口勝弘の供述があるが、乙第二二号証の一及び証人山本達人の証言によれば、本件土地等に関して原告と住友建設との間において締結された契約は、本件土地等に関する通常の売買契約であつて、原告の主張するような地上げのためにする特殊な契約ではなかつたことが認められる。右認定に反する原告代表者の供述は、右証言に照らして信用することができない。本件土地等に関する売買契約書(甲第六ないし第八号証)において、契約成立時に支払われた内金の額が売買代金の五割ないし一〇割とかなり高額であつたこと、また、その結果違約金条項における違約金の額が極めて高額となることも、右認定を左右するに足りないものというべきである。そうすると、原告の右主張は、採用することができず、本件土地等に関する原告と住友建設との間の契約は、通常の売買契約であつたものというべく、第一物件ないし第三物件についてそれぞれ支払われた金員は、その売買代金であつたものといわなければならない。
原告は、本件土地等について、原告から住友建設への引渡しが未だ完了していなかつたと主張するが、住友建設は、右のとおり、原告に対して本件土地等の売買代金を全額支払つたうえ、その所有権移転登記を経由したものであるのみならず、乙第二二号証の一及び証人山本達人の証言によれば、住友建設は原告から本件土地等の現実の引渡しを受け、その一画に仮囲いまでしていたことが認められるから、原告の主張は、到底採用することができない。
もつとも、本件事業年度後の昭和五九年一二月四日に東京地方裁判所において原告と住友建設との間で本件売買契約を解除する和解が成立し、本件売買代金が返還されたことは、当事者間に争いがないが、このように翌事業年度以降に売買契約が解除されて売買代金が返還されたとしても、既往に遡及して課税を修正することは許されず、当該売買代金の返還は解除がなされた事業年度の益金を減少させる損失として取り扱うべきものであるから、右契約解除の和解成立に伴う売買代金返還の事実は、本件において考慮すべき限りでないといわなければならない。
原告は、本件土地等及びこれに近接する一帯の土地の地上げを住友建設から請け負つていたが、地権者との交渉が難航し、結局いわゆる虫食い地上げに終わり、住友建設が建築を予定していた超高層ビルの建設用地として不敵地となつたため、本件売買契約を解除する和解を成立させ、売買代金の返還という形式をとつて地上げのための借入れ資金を返済したものであると主張するが、前記認定のとおり、本件売買契約は、個々の土地の通常の売買契約であつて、原告の主張するような特殊な契約であつたということはできないものであるのみならず、右和解は、原告が本件土地等に隣接して所有する八大ビルを住友建設に売り渡したにもかかわらず、同ビルから容易に退去せず、退去した後に暴力団風の者を同ビルに入居させ、八大ビルの売買契約を解除するという行為に出たため、住友建設において原告を相手方として八大ビルの建物及び敷地への立入禁止を求める仮処分の申請をした際に、原告の方から一方的に本件土地等の売買契約を解除する旨の意思表示をしたためにされたものであつて、地上げがいわゆる虫食い地上げに終わり本件土地等の引渡しが不能となつたことによつてされたものではないことが認められる(乙第一七、一八号証、証人山本達人の証言による。)から、原告の主張は理由がない、
そうすると、このように所有権移転登記も完了し引渡しも済んだ本件土地等の売買代金として、原告が本件事業年度中に住友建設から受領した本件売上代金が、本件事業年度に帰属するというべきであるのは当然であるから、右売上代金を本件事業年度に計上した原告の確定申告に誤りがあつたということはできない。
2 以上によれば、原告のした確定申告に誤りがあるものとしてされた本件更正の請求に理由がないことは明らかであるから、本件通知にはなんらの違法もないものといわなければならない。
三 本件更正の適法性について
1 被告の主張(二)の(1)、(2)のア及び(2)のウないしオは、当事者間に争いがない。
2 原告は、京成電鉄が昭和五九年五月二九日付け売買契約により千葉県習志野市谷津三丁目一八九一番の一外の谷津遊園地跡地を訴外住宅都市整備公団に売却するに際し、京成不動産ほか数社と共同でその取引の仲介を行つたものであること、原告は右仲介により京成電鉄の代理人たる京成不動産より、仲介に係る対価として三億円を受領したとして、これを昭和五九年六月二〇日に収益として計上するとともに、このうち一億五〇〇〇万円を中央観光に対し谷津遊園跡地の売買に係る手数料として支払つたとする経理処理を行つていることは、当事者間に争いがない。
原告は、京成不動産から仲介手数料三億円を受領したことを否認し、原告が実際に受領したのは一億五〇〇〇万円であると主張するが、乙第二〇号証の一ないし、三、第二三号証の一、二、証人安藤隆及び同内藤暢彦の各証言によれば、原告が京成不動産から仲介手数料として三億円を受領していることが認められる。
また、原告は、右三億円のうち一億五〇〇〇万円を中央観光に売買手数料として支払つたと振替伝票に記載したのは誤りであり、この一億五〇〇〇万円は、原告が直接関与することなく、京成不動産の主導のもとに暴力団関係者数名に支払われたものであると主張し、これに沿う原告代表者川口勝弘の供述があるが、証人安藤隆及び同梓広次の各証言によれば、右一億五〇〇〇万円が京成不動産取締役総合管理本部長安藤隆が立ち会い京成不動産の主導のもとに暴力団関係者数名に支払われた事実はないことが認められ、この認定に反する原告代表者川口勝弘の供述は信用することができない。
そのほか、右一億五〇〇〇万円が、仲介手数料として受領した三億円に対する売上原価(支払手数料)として計上されるべきものであることを証する証拠は全くない(京成不動産と原告の間で取り交わされた昭和五九年六月一八日付け覚書である乙第二四号証も、右支払手数料一億五〇〇〇万円の支出を証する証拠とするに足りない。)から、これを損金の額に算入することはできないものといわざるを得ない。
3 そうすると、本件更正には原告の所得金額を過大に認定した違法はないものといわなければならない。
四 過少申告加算税賦課決定の適法性について
右のとおり、本件更正は適法であるから、これを前提としてされた本件過少申告加算税賦課決定も適法である。
五 原告の被告国税不服審判所長に対する裁決の取消請求は、結局において原処分の違法を主張するものというべきであるから、失当といわなければならない。
六 よつて、原告の本訴請求は、いずれも理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 宍戸達徳 裁判官 北澤晶 裁判官 三村晶子)
別紙一
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別紙二
本件土地等の売買状況
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