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東京地方裁判所 昭和63年(ソ)14号 決定 1988年9月21日

抗告人 山本秀樹

右訴訟代理人弁護士 柴田五郎

右同 米倉勉

相手方 株式会社オリエントファイナンス

右代表者代表取締役 阿部喜夫

主文

原決定を取り消す。

抗告人の本件異議の申立は適法と認める。

理由

一  抗告人の申立の趣旨及び理由は別紙のとおりである。

二  渋谷簡易裁判所昭和六二年(ロ)第四七七〇号立替金請求支払命令申立事件の一件記録によれば、次の事実が認められる。

相手方は、昭和六二年一〇月二八日、渋谷簡易裁判所に対し、相手方を債権者、抗告人を債務者として支払命令を発することの申立をしたところ、同裁判所は、同年一一月一三日、支払命令を発し、右支払命令正本は、同月一八日、抗告人に、その住所地に対する特別送達により送達された。

右送達後、二週間の期間内に異議の申立がなかったので、同裁判所は、同年一二月一六日、相手方の申立によって右支払命令に仮執行の宣言を付し(以下「本件仮執行宣言付支払命令」という。)、この正本を同裁判所書記官が直ちに抗告人の住所地に特別送達により送達すべく発送した。しかし、本件仮執行宣言付支払命令正本は同月一八日に抗告人の住所地に配達されたが、抗告人不在のため同月二八日まで世田谷郵便局に保管され、この間抗告人が同局に赴いて受領したり、再送達の申出をしなかったため、昭和六三年一月四日に同裁判所に返送された。そこで相手方は、同月二一日、同裁判所に対し、同人の勤務先に対して本件仮執行宣言付支払命令の再度の送達を実施することの要請及び同人の勤務先は、東京都千代田区神田神保町三丁目二三番地所在のT・M・C・株式会社である旨記載した上申書を提出し、これを受けて同裁判所書記官は、本件仮執行宣言付支払命令を右T・M・C・株式会社を就業先とする就業先送達により送達すべく発送した(以下「本件就業先送達」という。)。

ところが、本件仮執行宣言付支払命令正本は、同月二八日に右T・M・C・株式会社に配達されたが、同会社の従業員不在のため同年二月七日まで神田郵便局に保管されたものの、この間、同会社の従業員が同局に赴いて受領したり、再送達の申出をしなかったため、同月一〇日に同裁判所に返送された。

その後、相手方は、同年四月一九日、同裁判所に対し、「本件仮執行宣言付支払命令が不在との理由により送達ができないため、また送達すべき勤務先も判明しないので通常の方法では送達ができないので、書留郵便に付する送達にて送達されたい」旨記載した上申書を提出し、これを受けて、同裁判所書記官は同月二一日、本件仮執行宣言付支払命令正本を書留郵便に付して送達した(この送達を以下「本件送達」という。)。

一方、抗告人は、同年七月五日に至り、同裁判所において、同人の訴訟代理人弁護士米倉勉が本件仮執行宣言付支払命令正本を交付により受領することにより右正本の送達を受けるとともに、同日、同裁判所に対し、本件仮執行宣言付支払命令に対する本件異議申立を行った。

三  ところで、民事訴訟法一七二条は、住所、居所等において、受送達者にもその代人にも出会わなかったため、通常の交付送達はもとより補充送達も差置送達もできなかった場合であって、かつ、① 就業場所における送達も不奏功の場合、または、② 就業場所が判明していない場合に、書記官が送達書類を住所、居所等に宛てて書留郵便に付して発送する方法により送達を実施することができる旨定めたものであるところ、右①の要件でいう「就業場所」とは、受送達者が現実に雇用、委任その他の法律上の行為に基づき就業するその者の使用者等の住所、居所、営業所または事務所をいうのであり、右②の要件については、書留郵便に付する方法による送達は、受送達者に到達したか否かを問わず、発送時に送達の効果を擬制するものであるから、その要件に該当するかどうかの判断は慎重にする必要があり、同要件に該当すると認定するためには、少なくとも、書留郵便に付する方法による送達を申請する者から当該裁判所に対し、就業先が判明しないことについての積極的認定資料(例えば申請会社の社員の調査報告書など)が提出されることを要すると解すべきである。

これを本件についてみるに、前記認定事実のほか、《証拠省略》によれば、抗告人は、昭和三九年三月に丸新石油株式会社(東京都港区南青山五丁目九番一九号所在)に入社し、以来、昭和六三年八月三一日(右審尋期日)に至るまで同社に勤務しており、本件就業先送達の宛先とされた前記T・M・C・株式会社に勤務したことはないこと、及び、相手方は、本件送達を要請する上申書を提出する際、前記簡易裁判所に対し、抗告人の就業先が判明しないことについての積極的認定資料を何んら提出することはなかったことが認められる。

右事実によれば、本件送達は、前記①、②のいずれの要件をも欠く違法な送達といわざるを得ない。

四  したがって、本件仮執行宣言付支払命令正本は、前記のとおり昭和六三年七月五日に至って、抗告人の訴訟代理人が前記簡易裁判所において受領したことにより適法に送達されたものであり、それ以前においては、抗告人に対し適法に送達されていないのであるから、本件仮執行宣言付支払命令正本が昭和六三年四月二一日に適法に送達されたことを前提として申立期間徒過を理由に本件異議申立を却下した原決定は不当であり、本件抗告は理由があるからこれを取消すこととし、有効な送達がなされた日である昭和六三年七月五日に申立てられた抗告人の本件異議申立は適法と認める。

よって、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 佐藤歳二 裁判官 阿部則之 芦澤政治)

<以下省略>

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