東京地方裁判所 昭和63年(ヨ)2069号 決定 1988年12月02日
債権者 高橋産業株式会社
右代表者代表取締役 高橋久雄
<ほか六名>
右七名代理人弁護士 加地和
同 大谷眞帆子
同 浜垣真也
債務者 株式会社宮入バルブ製作所
右代表者代表取締役 大山哲浩
右代理人弁護士 塩川哲穂
同 安藤秀男
同 伊藤博
主文
本件仮処分申請を却下する。
申請費用は債権者らの負担とする。
理由
第一当事者の申立て
一 申請の趣旨及び理由
別紙申請書記載のとおりである。
二 申請の趣旨に対する答弁及び債務者の主張
別紙答弁書及び昭和六三年一二月二日付け債務者準備書面記載のとおりである。
第二当裁判所の判断
本件仮処分申請は、債務者の昭和六三年一一月一八日の取締役会の決議に基づく額面普通株式二八〇万株の発行(以下、「本件新株の発行」という。)が、新株発行の必要がないのにもかかわらず、債務者の発行済株式総数の過半数を保有する債権者ら及びその同調者(以下、単に「債権者ら」という。)の議決権の比率を低下させ、会社の支配権を奪うためになされるものであるから、商法二八〇条ノ一〇所定の著しく不公正な方法による新株発行にあたるとしてその差止めを求めるものである。
これに対し、債務者は、本件新株の発行は債務者の設備投資及び金融機関に対する債務の弁済に必要な資金を調達するために第三者割当による発行方法でなされるものであり、著しく不公正な方法によるものではないと主張する。
よって、検討するに、本件疎明資料及び審尋の結果によれば、債権者らの保有する株式数の合計は債務者の発行済株式総数の過半数に達しているが本件新株の発行により過半数に達しなくなることが一応認められるけれども、他方、債務者は昭和五六年一〇月以来無配状態が継続し、その最大の競争会社である株式会社浜井製作所に対し業績面で遅れをとっていること、債務者は昭和五八年から同六二年まで設備の更新のために金融機関からの借入れ等により約一三億円を投下していること、本件新株の発行は、生産設備を更新して右浜井製作所との格差を解消するとともに、金融機関に対する債務の弁済によって支払金利の軽減をはかり、早期に復配体制を確立するためになされること、本件新株の発行の割当先はいずれも従前から債務者と人的関係を有している会社か、又は債務者の主要な取引先であること、が一応認められる。
右認定事実によれば、債務者には本件新株の発行による資金調達の必要性があるから、本件新株の発行が合理性を有しないものとはいえず、その結果として、債権者らの持株式数が本件新株の発行により発行済株式総数の過半数に達しないこととなったとしても、本件新株の発行が著しく不公正な方法によるものと認めることはできない。
第三結論
以上によれば、本件仮処分申請は、被保全権利について疎明を欠くというべきであり、また、本件においては保証を立てさせて疎明に代えることも相当ではないから、これを却下することとし、申請費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 山口和男 裁判官 板倉充信 古部山龍弥)
<以下省略>