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東京地方裁判所 昭和63年(ワ)16162号 判決

一 請求の原因1ないし3の事実は、当事者間に争いがない。

二 被告製品が本件考案の構成要件オの構成を具備しているか否かについて判断する。

1 当事者間に争いのない本件考案の構成要件オによれば、本件考案は、切換えバルブと噴射短筒先端との摺合せ面に、噴射短筒の噴射通路の周囲を取り囲むように弾性O―リングが介装されているという構成を有するものである。

そこで、右構成について考察するに、成立に争いのない甲第二号証(本件公報)によれば、(1)本件考案は、噴霧器の噴射ノズル装置に関するものである、(2)従来、噴射ノズル装置には、通常の噴霧操作のほか、ロングノズル使用の噴霧操作を行うことができるものとして、ロングノズル付きの押釦を予備として備えておき、これを適宜既設の押釦と取り換えて使用する方式のものがあつたが、この方式のものは、取換え操作が煩雑であり、かつ、予備の押釦を紛失するおそれがあるという欠点があつた、(3)本件考案は、右欠点の解消を目的として、実用新案登録請求の範囲のとおりの構成を採用し、これにより、所期の目的を達成したものである、(4)構成要件オに関しては、本件明細書の考案の詳細な説明の項に、「切換えバルブと噴射短筒先端との摺合せ面に、噴射短筒の噴射通路の周囲を取り囲むように弾性O―リングが介装されている」(本件公報一頁2欄一九行ないし二二行)、「ロングノズル2の基部2aの枢支連結部の気密性を保持し、且該ロングノズル2を任意の回動変位々置で拘束するために、基部2aの外周面と、これと対面するソケツト部1dの底部1d´との間にO―リング3が介装されている。」(同二頁3欄三七行ないし四一行)、「このO―リング3は例えばゴム製であつて弾性を有し、ロングノズル2の回動操作時にその基部2aの外周面に大きな摩擦抵抗を与え、もつてロングノズル2を任意の回動変位々置で摩擦保持すると共に、ソケツト部1dの底部1d´に開口されている拡径された噴射通路1c´の周囲を取り囲み、枢支連結部の気密性を保持する。ソケツト部1dの底面1d´は、これと対面する基部2aの外周面に対応する湾曲面とすることができる。」(同二頁3欄四一行ないし4欄六行)、「O―リング3を、ロングノズル2の基端枢支部の気密性保持に加えロングノズル2の水平張出し時の拘束手段として兼用でき、その全体的な構造を極めて簡素化でき、安価に提供できる利点が得られる。更にロングノズル2の基端枢支部、特にその摺動部分は原液との接触により膨潤することがあるが、本考案ではこの膨潤をゴム製等の弾性O―リング3のクツシヨン性により吸収できるので、膨潤による回動性への悪影響を解消でき、常に円滑軽快なる回動性を保持できる。」(同三頁5欄一〇行ないし一九行)旨記載されている、以上の事実が認められる。

2(一) 本件考案の構成要件オによれば、本件考案の弾性O―リングは、切換えバルブと噴射短筒先端との「摺合せ面」に介装されている、というのである。右の「摺合せ面」とは、普通の用語例に従えば、「こすれ合う面」ないしは「触れ合う面」といつた意味を有するものである。ところで、右1に認定の本件明細書の記載によるも、「摺合せ面」とは、切換えバルブと噴射短筒先端との「こすれ合う面」ないしは「触れ合う面」をいうものと認められ、これを実施例に即していうと、「摺合せ面」とは、ロングノズル2の基部2aの外周面と、これと対面する噴射短筒1のソケツト部1dの底部1d´の面であつて、その間にO―リングが介装されると、間隙が生じて、直接こすれ合つたり、触れ合つたりしないが、O―リングが介装されないときには、こすれ合つたり、触れ合つたりする面を構成するものと認められる。そして、「摺合せ面」が右のような構成のものであるから、「摺合せ面」に弾性O―リングが介装されると、右1に認定の本件明細書の記載のとおり、ロングノズル2の回動操作時に、その基部2aの外周面に大きな摩擦抵抗を与え、もつて、ロングノズル2を任意の回動変位々置で摩擦保持するとともに、ソケツト部1dの底部1d´に開口されている拡径された噴射通路1c´の周囲を取り囲み、枢支連結部の気密性を保持するという作用効果を奏するものと認められる。

これに対して、被告製品を示すものであることについて当事者間に争いのない別紙目録の記載によれば、被告製品は、取付部材Bの延設部2には延設部通路8が設けられ、延設部通路8の切換えバルブC側には、凹孔2´を設け、この凹孔2´にゴムチユーブ9を嵌合し、ゴムチユーブ9の外端を切換えバルブCの頭部周辺に密着した構造である。右構造によれば、本件考案の弾性O―リングに対応するものは、ゴムチユーブ9であると認められるところ、ゴムチユーブ9は、取付部材Bの延設部通路8に設けられた凹孔2´に嵌合されているというのであつて、このゴムチユーブ9を取り外しても、凹孔2´の底部と、これに対面する切換えバルブCの頭部周辺とは、こすれ合つたり、触れ合つたりする面を構成しない構造であることが認められる。そうすると、被告製品は、本件考案の「摺合せ面」の構成を具備しないものというべきである。

(二) また、本件考案の構成要件オによれば、本件考案の弾性O―リングは、切換えバルブと噴射短筒先端との摺合せ面に「介装」されている、というのである。ところで、「摺合せ面」の構成に関する右(一)の認定判断によれば、「介装」とは、摺合せ面の間にはさむように装着することを意味するものと認められる。

これに対して、被告製品のゴムチユーブ9は、取付部材Bの延設部通路8に設けられた凹孔2´に嵌合されているところ、凹孔2´の底部と、これに対面する切換えバルブCの頭部周辺とは、前説示のとおり、摺合せ面を構成していないのであるから、摺合せ面の間にはさむように装着されているということもできない。したがつて、被告製品は、本件考案の「介装」の構成も具備しないものといわざるをえない。

(三) 更に、本件考案の構成要件オによれば、本件考案のO―リングは、「噴射短筒の噴射通路の周囲を取り囲む」ように介装されている、というのである。右の「周囲を取り囲む」というのは、普通の用語例に従えば、「まわりをかこむ」といつた意味の用語である。前1に認定した本件明細書の記載によるも、「周囲を取り囲む」というのは、噴射通路のまわりをかこむといつた意味の用語であると認められる。

これに対して、被告製品のゴムチユーブ9は、取付部材Bの延設部通路8に設けられた凹孔2´に嵌合されているのである。右被告製品の構造によれば、本件考案の噴射通路に対応するものは、延設部通路8であると認められるところ、ゴムチユーブ9は、この延設部通路8に設けられた凹孔2´に嵌合されているのであつて、延設部通路8のまわりをかこむように装着されてはいないのである。したがつて、被告製品は、本件考案の「噴射短筒の噴射通路の周囲を取り囲む」という構成も具備していないものというべきである。

(四) 以上のとおりであるから、被告製品は、本件考案の構成要件オを充足しないものといわなければならない。

3(一) 原告は、右2(一)ないし(三)の点に関して、被告製品においては、ゴムチユーブ9は、取付部材Bに設けられた延設部2内の延設部通路8の先端に位置する凹孔2´に嵌合され、その先端を突出させており、その突出した先端が、切換えバルブCの円板状基部と接するようになつていて、延設部通路8がノズル内通路7´又は横方向通路16と連通した際、ゴムチユーブ9が噴射通路を取り囲むようになつているから、被告製品は本件考案の構成要件オを充足する旨主張する。そこで、審案するに、別紙目録の記載によれば、原告の主張するとおり、被告製品のゴムチユーブ9は、取付部材Bに設けられた延設部2内の延設部通路8の先端に位置する凹孔2´に嵌合されているが、右構造によると、前説示のとおり、凹孔2´の底部と、これに対面する切換えバルブCの頭部周辺とは、こすれ合つたり、触れ合つたりする面、つまり、摺合せ面を構成していないものといわざるをえない。また、被告製品の右構造によれば、ゴムチユーブ9は、前説示のとおり、摺合せ面の間にはさむように装着されているということもできない。更に、被告製品は、原告の主張するとおり、右構造を備えたうえ、ゴムチユーブ9の突出した先端が、切換えバルブCの円板状基部と接するようになつているが、延設部通路8がノズル内通路7´又は横方向通路16と連通した際においても、ゴムチユーブ9は、前説示のとおり、あくまで、この延設部通路8に設けらた凹孔2´に嵌合されているのであつて、延設部通路8のまわりをかこむように装着されてはいないのである。したがつて、原告の主張は、採用することができない。

(二) また、原告は、被告製品の「ゴムチユーブ9」を備えていることによる作用効果は、本件考案の「弾性O―リング」を備えていることによる作用効果と同一である旨主張するところ、前1認定の事実によれば、本件考案は、本件明細書にいう気密性保持、摩擦保持、回動性保持の作用効果を奏するというのであるが、たとえ、被告製品が本件考案の右作用効果と同一の作用効果を奏するとしても、前認定判断によれば、被告製品は、少なくとも本件考案の構成要件オを充足しない別紙目録記載の構造を採用することにより、その作用効果を奏するものというべきである。したがつて、被告製品が本件考案と同一の作用効果を奏することは、被告製品が本件考案の構成要件オを充足しないとの前説示の妨げとはならない。

もつとも、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第三号証及び第五四号証、被告製品であることについて争いのない検甲第一号証、検乙第四号証、被告製品を分解したものであることについて争いのない検甲第二号証、被告製品のゴムチユーブ9であることについて争いのない検乙第三号証及び被告製品のゴムチユーブ9を装着していないものであることについて争いのない検乙第五号証によれば、(1)被告製品のゴムチユーブ9は、材質がゴム、形状がリング状、その寸法が外径二・九七mmないし三・〇二mm、内径一・四一mmないし一・五〇mm、長さ二・六五mmないし二・七四mm、断面形状が矩形である、(2)被告製品は、ゴムチユーブ9が、延設部通路8の切換えバルブC側に設けられた凹孔2´に嵌合され、その外端を、切換えバルブCの頭部周辺に密着しているものである(この点は、当事者間に争いがない。)、(3)被告製品においては、切換えバルブCの突出部6・6の側壁面は、挟持片4・4の孔部5・5の側壁面に接しており、また、切換えバルブCの円板状基部の外端面は、取付部材Bと接していて、切換えバルブCが、取付部材Bに対して、右にも左にも移動することができないように構成されており、したがつて、切換えバルブCが回動しても、その突出部6・6は、常に一定位置に保持され、突出部6・6の軸心、ひいては、切換えバルブCの回動中心が取付部材Bに対して、左右に移動しない、以上の事実が認められる。右認定の事実によれば、被告製品のゴムチユーブ9は、延設部通路8の切換えバルブC側に設けられた凹孔2´に嵌合され、その外端が、切換えバルブCの頭部周辺に密着しているものであるところ、材質がゴムであつて弾性を有するから、ロングノズルの回動操作時にその基部である切換えバルブCの外周面に摩擦抵抗を与え、ロングノズルを摩擦保持する作用効果を有することは否定し難いところであるが、被告製品は、右認定のとおりの構造を有するものであるから、ロングノズルの摩擦保持の作用効果は、ゴムチユーブ9を備えていることによるというよりも、むしろ、取付部材Bの前面の左右に設けられた挟持片4・4と切換えバルブCの頭部左右側面との摺合せ及び切換えバルブCの円板状基部の外周面と取付部材Bとの摺合せによる摩擦抵抗によつて達成されているものと認められる。そうすると、少なくとも、右の点において、被告製品の作用効果は、本件考案の「弾性O―リング」を備えていることによる作用効果と同一であるとはいえない。この点に関して、原告は、被告製品の摩擦保持の作用効果は、ゴムチユーブ9を備えていることによる旨主張するが、右説示に照らし、原告の右主張は、採用することができない。

4 以上によれば、被告製品は、本件考案の技術的範囲に属しないものといわざるをえない。

三 よつて、原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないから、これを棄却する。

〔編注1〕本件考案の構成要件は左のとおりである。

ア 噴霧器の押ボタンより側方へ突出された噴射短筒の先端に、ロングノズルが、略々水平張出し状態から略々垂下折曲げ状態までの間を回動し得て且つ水平張出し状態を保持し得るように枢支連結され、

イ このロングノズルの基端枢支部は切換えバルブを構成していて、

ウ 該切換えバルブは、ロングノズルの水平張出し状態のときは、噴射短筒の噴射通路を該ロングノズルの噴射通路を経てその先端の噴口に連絡する第1の連絡通路と、

エ 同ロングノズルの垂下折曲げ状態のときは、噴射短筒の噴射通路を、切換えバルブ前面に開口された噴口側へ切換える第2の連絡通路を有し、

オ 更に切換えバルブと噴射短筒先端との摺合せ面に、噴射短筒の噴射通路の周囲を取り囲むように弾性O―リングが介装されている

カ 以上を特徴とする噴霧器の噴射ノズル装置。

〔編注3〕本件考案の登録請求の範囲は左のとおりである。

噴霧器の押ボタンより側方へ突出された噴射短筒の先端に、ロングノズルが、略々水平張出し状態から略々垂下折曲げ状態までの間を回動し得て且つ水平張出し状態を保持し得るように枢支連結され、このロングノズルの基端枢支部は切換えバルブを構成していて、該切換えバルブは、ロングノズルの水平張出し状態のときは、噴射短筒の噴射通路を該ロングノズルの噴射通路を経てその先端の噴口に連絡する第一の連絡通路と、同ロングノズルの垂下折曲げ状態のときは、噴射短筒の噴射通路を、切換えバルブ前面に開口された噴口側へ切換える第二の連絡通路を有し、更に切換えバルブと噴射短筒先端との摺合せ面に、噴射短筒の噴射通路の周囲を取り囲むように弾性O―リングが介装されていることを特徴とする噴霧器の噴射ノズル装置。

〔編注2〕本件における目録は左のとおりである。

左の構造を有する噴霧器の噴射ノズル装置

一 図面の説明

第1図 噴射ノズル装置の縦断面図(ロングノズル水平張出し状態)

第2図 噴射ノズル装置の縦断面図(ロングノズル垂下折曲げ状態)

第3図 切換えバルブ部分の第2図Ⅲ―Ⅲ線の断面図

二 符号の説明

A 押釦

B 取付部材

C 切換えバルブ

1 突出筒

2 延設部

2´ 凹孔

3 切割

4 挟持片

5 孔部

6 突出部

7 ノズル筒

7´ ノズル内通路

7´´ 上端頭部

8 延設部通路

9 ゴムチユーブ

10 通路間隙

11 細管

12 小径筒

13 噴口

14 突起

15 小孔

16 横方向通路

16´ 横方向通路

三 構造の説明

本件噴射ノズルの構造は、次のとおりである。

押釦Aの横方向突出筒1の先端に、取付部材Bの後面中心に突設した延設部2を挿入して取り付け、取付部材Bの前面には突起14と縦方向の切割3を設け、切割3によつて左右挟持片4・4を形成し、この挟持片4・4に孔部5・5を形成して、切換えバルブCの頭部左右突出部6・6を嵌入し、切換えバルブCを回動できるように取り付けてある。

取付部材Bの延設部2には延設部通路8が設けられ、延設部通路8の切換えバルブC側には、凹孔2´を設け、この凹孔2´にゴムチユーブ9を嵌合し、ゴムチユーブ9の外端を、切換えバルブCの頭部周辺に密着してある。

ノズル筒7は、中心にやや大径のノズル内通路7´を、また上端頭部7´´に噴口13を形成したものである。このノズル筒7は、切換えバルブCの頭部の第1図縦方向の中心線に沿つて切換えバルブCに挿入されており、切換えバルブCに形成された小孔15と連通している。また、切換えバルブCにはノズル筒7に直角に横方向通路16が形成され、第1図における凹孔2´側の通路16と細管11側の通路16´とはノズル筒7の外周に形成された通路間隙10で連通されている。ノズル筒7の頭部7´´は切換えバルブCの表面より突出している。

この切換えバルブCを第1図に示すように水平状態にするときは、押釦Aの噴射を突出筒1、延設部通路8、ゴムチユーブ9を経て、切換えバルブCの中心の横方向通路16、ノズル筒7の外周面通路間隙10を通り、細管11の前方の小径筒12の先端に至る第一連絡通路を形成する。

また、切換えバルブCを下方に回動するときは、第2図、第3図に示すように、突出筒1、延設部通路8、ゴムチユーブ9を経て、切換えバルブCの中心に位置する小孔15、ノズル内通路7´を通り、噴口13に至る第二連絡通路を形成するようになつている。

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〔編注4〕本件考案の図面は左のとおりである。

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