大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。
官報全文検索 KANPO.ORG
月額980円・今日から使える・メール通知機能・弁護士に必須
AD

東京地方裁判所 昭和63年(ワ)16480号 判決 1991年4月26日

原告

甲山A子

右訴訟代理人弁護士

那須弘平

井口多喜男

國廣正

被告

株式会社三菱銀行

右代表者代表取締役

乙川B夫

右訴訟代理人弁護士

上野宏

被告補助参加人

甲山C美

右訴訟代理人弁護士

竹下甫

主文

原告の主位的請求を棄却する。

被告は、原告に対し、金一七八万七四六七円及び内金一六一万三九三六円に対する昭和六三年一一月四日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

原告のその余の予備的請求を棄却する。

訴訟費用中参加人に生じ費用は、これを一〇分し、その九を原告の負担とし、その余を補助参加人の負担とし、その余の訴訟費用は、これを一〇分し、その九を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

この判決は、第二項に限り、仮に執行することができる。

理由

一  主位的請求原因1の事実は、当事者間に争いがない。

二  本件各預金の成立、その払戻し及び預金証書の交付の経緯等について判断する。

≪証拠≫並びに弁論の全趣旨によれば、次のとおり、認められる。

1  原告と補助参加人は、亡D代と甲山E雄の子である。

2  甲山E雄は、生前かなりの資産(不動産)を有していたが、昭和三九年二月一九日死亡し、原告と補助参加人及び亡D代が、その資産を相続したが、多額の相続税(約一億七〇〇〇万円)を納める必要があり、その支払いができなかつたので、昭和四一年五月三一日には、一旦延納許可を受け(延納額合計七〇八〇万円)、右相続税の支払いのために、原告、補助参加人及び亡D代が相続した不動産の一部を処分した。

3  原告は、昭和四四年一一月四日ころ、アメリカ人Fと結婚し、アメリカに移住した。

4  本件各預金には、架空名義の定期預金(本件六の預金(丙谷名義)、本件七の預金(丁沢名義)、本件一〇の預金(戊野名義))と無記名定期預金(その余のもの)とがある。また、本件各定期預金は、別紙の定期預金目録記載の各預入日に新たに預けられたものでなく、過去の定期預金が満期になるのに際し、元利合計金が順次切り替えられたものであつて、本件一二の預金は、昭和四六年三月二六日、本件一一の預金は、同月二七日、本件一、本件三の預金は、同年六月八日、本件九の預金は、同月九日、本件二、本件八の預金は、同月一〇日、本件四の預金は、同月一一日、本件五の預金は、昭和四八年九月五日、本件六、本件七の各預金及び本件一〇の預金は、いずれも昭和五一年一月二三日に預けられたものである。

5  補助参加人は、自己の住所録に、無記名定期又は架空名義定期預金に使用した名義、証券番号、満期日をメモしており、その中には、本件各預金のうち、本件一ないし四の預金、本件八、九の預金、本件一一の預金、本件一二の預金の記載があるが、その余の預金の記載はない。

6  亡D代は、補助参加人夫婦と同居し、本件各預金を含む亡甲山E雄の相続財産を管理していた。本件各預金の預金証書は、その使用印鑑とともに、一つの袋に入れられていた。

7  亡D代は、昭和五七年ガンで入院し、一旦退院し、昭和五八年二月一六日に再入院したが、右当初の入院のころから、亡D代名義の定期預金を補助参加人名義に変更したこともあつて、補助参加人夫婦との仲が悪くなり、自己の財産が盗られるのではないか、と不審をいだくようになつた。

8  原告は、昭和五八年六月、亡D代の病気見舞いに来日したが、その際に訴外己原G江から「これお母さんからA子さんに渡すように頼まれたから」と言つて本件各預金の預金証書を渡された。

9  亡D代は、同年六月三〇日死亡した。

10  補助参加人は、亡D代が死亡した後、二、三月後に、被告に対し、本件一ないし四の預金、本件八、九の預金、本件一一の預金、本件一二の預金につき、被告の羽田支店に対し、預金の有無の確認とその証書の再発行を求めた。その際、補助参加人は、昭和四四年五月三〇日付けで訴外大谷興業株式会社に対し土地を売却したが、右各預金は、その売却代金中契約書に記載されない。いわゆる裏金が原資であると説明した。被告は、補助参加人が本件預金の内一部のみについて自己の預金であると主張している上、一年以上経過しても、他に預金者の申し出がなく、補助参加人との取引もあるので、再発行に応じることとした。補助参加人は、被告の右意向を確認の上、昭和六〇年一月一四日付けをもつて、証書の紛失届けを提出し、右預金について証書の再発行を受け、昭和六一年一月二七日、これを解約し、払い戻しを受けた。

三  右認定の事実を基に判断する。

原告は、「本件一ないし一二の預金は、亡D代が日本国内における原告所有の不動産の売却代金又は賃料収入をまとめて預金したものである。そうでないとしても、亡D代の預金を原告に贈与した。」との主張し、被告らは、本件五ないし七の預金及び一〇の預金は、亡D代の遺産であるが、その余は、補助参加人の預金であると争つている。

まず、本件預金が原告所有不動産の売却代金又は賃料を原資とするとの主張について判断するに、前示二の認定に係る本件各預金の預入日によると、本件一二の預金(昭和四六年三月二六日)、本件一一の預金(同月二七日)、本件一、本件三の預金(同年六月八日)、本件九の預金(同月九日)、本件二、本件八の預金(同月一〇日)、本件四の預金(同月一一日)の預金は、同一の原資によるもの、本件五の預金(昭和四八年九月五日)は、別の原資によるもの、本件六、本件七の各預金及び本件一〇の預金(いずれも昭和五一年一月二三日)は、同一の原資によるものであつて、その預け入れの日、額から見て、税務署等に知られたくない、いわゆる隠し預金であると推認できること、補助参加人は、預金証書なくして、本件五ないし七、本件一〇の預金を除く各預金を特定し、その紛失届けを提出することができたこと、右預金が補助参加人の住所録に記載されていること、亡D代が、原告の家賃、地代等を預金したのであれば、これを殊更架空名義ないし無記名にする必要はなかつたこと等前示の各事実に加え、原告が、その原資として主張する土地売却又は賃料収入につき、それを具体的に特定し得る証拠も存しないことに照らすと、原告の右主張を認めるに足りないものといわざるを得ない。

次に、原告は、本件各預金がすべて亡D代の財産であつて、原告に贈与された旨主張し、本件五ないし七の預金及び一〇の預金が、亡D代の遺産であることは、当事者間に争いがない。その余の預金について、≪証拠≫は、被告の羽田支店が作成した架空名義等の預金の解明帳であるが、これには本件各預金の記載があり、そこには、亡D代と思われる「甲山D代」「老婦人」「S」とする記載がある。しかし、証人庚崎H郎の証言によれば、右解明帳は、架空名義ないし無記名の預金について、その真の預金者を把握するために作成されたものであるが、同一の家族内でのものは一括して作成する取扱いであつたことが認められるのであるから、右記載をもつて、本件預金が亡D代の遺産であるとは認めるに足りない。

他に、これが亡D代の遺産であることを認めるに足りる証拠はない。

次に、贈与の主張について、判断するに、原告が本件各預金の預金証書を受け取つた経緯は、前示二8のとおりであり、当時の被告と亡D代の前示二7の状況に鑑みると亡D代が、本件各預金の管理を原告に託したものと認められるものの、これを越えて、亡D代が、右預金を原告に贈与する旨の伝言とは認め難く(≪証拠≫中原告主張事実に沿う部分は採用しない。)、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

四  前示亡D代の遺産であることに争いがない預金につき、原告と補助参加人が、その遺産につき、各二分の一ずつの持分を有することは、弁論の全趣旨により、認めることができ、これを左右するに足りる証拠はない。

そうすると、原告は、被告に対し、右各預金の二分の一の支払いを求めることができるところ、右預金の元金が合計金三二二万七八三七円、昭和六三年一一月三日までの定期預金利息及び満期後利息が合計金三四万七〇六一円であることは、当事者間に争いがないから、被告は、原告に対し、右合計金の二分の一である金一七八万七四四九円及び内金一六一万三九一八円に対する遅滞の日の翌日である昭和六三年一一月四日から完済に至るまで商事法定利率年六分の割合による金員を支払う義務がある。

五  以上の次第であつて、原告の主位的請求は理由がなく、予備的請求は右認定の限度で理由があるから、認容し、その余は失当であるから、棄却すべく、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条、九四条後段、九二条を、仮執行の宣言につき、同法一九六条一項を各適用(仮執行の免脱は、相当でない。)

(裁判官 筧康生)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例