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東京地方裁判所 昭和63年(ワ)18438号 判決 1993年6月24日

原告

岩瀬靖近

右訴訟代理人弁護士

野澤裕昭

宮本智

被告

社団法人日本アマチュア無線連盟

右代表者理事

原昌三

被告

原昌三

被告ら訴訟代理人弁護士

鈴木誠

松山正一

主文

一  原告と被告社団法人日本アマチュア無線連盟との間において、同被告が原告に対して昭和六三年一一月二七日にした除名処分が無効であることを確認する。

二  被告らは、原告に対し、連帯して五〇万円及びこれに対する平成元年一月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告らは、被告社団法人日本アマチュア無線連盟発行の機関紙ジャール・ニュース(JARL NEWS)に、別紙一記載の広告を同別紙記載の条件で掲載せよ。

四  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

五  訴訟費用は、訴え提起の手数料中の五万円を原告の負担とし、その余は被告らの負担とする。

事実及び理由

第一原告の請求

一主文第一項と同旨

二被告らは、各自、原告に対し、一〇〇〇万円及びこれに対する平成元年一月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三被告らは、被告社団法人日本アマチュア無線連盟発行の機関紙ジャール・ニュース(JARL NEWS)、ジャール・エクスプレス(JARL EXPRESS)の各紙及びCQ出版発行のシーキュー・ハム・ラジオ(CQ ham radio)誌に別紙二記載の謝罪広告を同別紙記載の条件で記載せよ。

第二事案の概要

本件は、被告連盟の会員であった原告が、被告連盟が原告に対してした除名処分の無効確認を求めるとともに、被告連盟の会長である被告原が被告連盟の通常総会でした発言及びその発言を掲載した被告連盟の機関紙の記事が原告の名誉を毀損するものであるとして、被告両名に対し、慰謝料の支払と謝罪広告を求めた事案でみる。

一争いのない事実

1  当事者

原告は、被告連盟の会員であり、昭和五五年からは被告連盟の理事の地位にあった。

被告連盟(略称JARL)は、日本におけるアマチュア無線の健全な発達を図り、会員相互の友好を増進し、併せて、内外の無線科学及び文化の向上と発展に寄与することを目的とする社団法人であり、約一四万人の会員で組織されている。

被告原は、昭和四五年から被告連盟の会長(代表理事)の地位にある。

2  チベットにおける原告の電波発信(本件運用)

原告は、昭和六二年八月八日、中国チベット自治区ラサ市所在のチベット大学において、同大学に無線機器一式を寄贈した後、この機器を使用して電波を発信し、日本のアマチュア無線局一二局と交信して無線局を運用した。原告がこの交信に使用した呼出符号(コールサイン)BTNAは、原告が考案したものであった。

3  原告の理事辞任

被告連盟は、昭和六二年一〇月一〇日、一一日開催の理事会において、原告に対し、本件運用は中国の主権を侵害する違法なものであることを理由として、理事の辞任勧告をした。

原告は、この辞任勧告を受けて、同年一一月一六日、一身上の都合を理由とする辞任願を提出し、同月二八日開催の理事会で辞任が承認された。

4  原告の理事当選と除名への動き

原告は、昭和六三年四月二四日に施行された被告連盟の理事選挙に立候補し、関東地方本部区域選出理事に当選した。

ところが、会員の一部から、原告が再び理事に就任したことは本件運用に対する自責の念が足りない証拠であるなどの理由で、原告を除名すべきであるとの申請が理事会に提出され、被告連盟は、同月二九日、原告の除名申請に係る調査委員会を設置するに至った。

被告連盟は、同年八月二六日、評議員会において、理事会から諮問を受けた原告の除名の件は継続審理としたうえで、原告に対し改めて理事の辞任を勧告する決議をした。しかし、原告は、この勧告には応じなかった。

5  本件除名処分

被告連盟は、昭和六三年一一月二七日、理事会の決議により、本件運用が被告連盟の定款一七条一項二号が除名事由として定める「被告連盟の名誉を毀損する行為」に該当するとして、原告を除名した。

6  被告原の発言と機関紙への掲載

被告原は、昭和六三年五月二九日、被告連盟の第三〇回通常総会において、約一三〇〇人の出席会員の前で、会員からの質問に会長として答え、本件運用に触れながら原告が先に一身上の都合で理事を辞任した経緯を説明した。

被告連盟の機関紙ジャール・エクスプレス(一九八八年六月一五日第一二一号)にこの被告原の説明の内容が掲載されたが、そこには「その晩官憲(公安関係)に踏み込まれ」とか、「実際にはチベットで自作したコールサインで電波を出し、公安関係につかまった」などの記載があった。

二争点

1  本件運用が原告の除名事由となるか、また、本件運用に関しいったん引責辞任した原告を再び除名することができるか。

(原告の主張)

本件除名処分は、次のとおり懲戒権の濫用であって、無効である。

(一) 本件運用は、チベット大学の許可を得て行ったものであり、違法ではない。仮に違法であったとしても、原告は、中国教育国際交流協会(中国文部省の機関)担当者、チベット大学副学長の承認のもとに本件運用を行っており、違法でないと信じる正当な理由があった。

(二) 本件運用の時間は四〇分と短く、交信局数も一二局と少数であった。本件運用後も、原告は中国滞在中に関係機関から歓待を受けており、中国の主権を侵害したなどの苦情は全くなかったし、本件運用により、被告連盟の活動に実害が発生したことも、その信用や名誉が毀損されたこともない。本件運用は事案として軽微であり、除名処分をするほどの重大性は認められない。

(三) 原告は、本件運用を理由に理事会の辞任勧告を受け、これに従って理事を辞任しており、既に懲戒を受けたものというべきであるから、再び同一の理由で懲戒処分をすることは許されない。

理事会は、原告が理事を辞任するに当たり、次回の理事選挙に立候補することは自由であると認めていながら、原告が当選して理事に復帰すると原告を除名したのであり、信義則に反する。

本件除名処分は、原告に投票した会員の意思を踏みにじるものであり、民主主義の原則に反する。

(被告連盟の主張)

被告連盟は、社団法人として定款と組織を有する自律的な団体であり、その構成員である会員に対し懲戒処分を行うに当たって、一定の範囲の裁量権を有している。本件除名処分は、次の事由を踏まえて行われた合理的な裁量権の範囲内の処分であって、違法ではない。

(一) 中国においては、外国人がアマチュア無線を運用する場合は中国無線電運動協会(略称CRSA)の許可が必要であり、CRSAが唯一の許可機関であって、他に競合する機関はない。CRSAの許可を受けない本件運用は違法である。

原告は、出国前にCRSAに許可の手配を依頼し拒絶されたうえ、北京においても、CRSAの副秘書長汪勲からチベットでは電波の発信ができないと念を押されながら、これを無視して本件運用を行ったものであり、本件運用が違法であることを認識していた。

(二) 原告の本件運用により、被告連盟は次のとおり名誉を毀損された。

(1) 被告連盟は、かねてから、CRSAに対し、中国の放送局が使用している七メガヘルツ帯(国際条約上ハム専用の周波数として定められている)の使用中止を申し入れており、本件運用当時、被告連盟の訪中団がその交渉に臨もうとしていた。ところが、本件運用が中国政府当局に発覚したため、昭和六二年八月一九日に予定されていた中国政府放送部との交渉は中止され、被告連盟の訪中団はその目的を達成することができなかった。その結果、被告連盟は、理事の地位にあるものが行った本件運用を詫びる書簡をCRSAに提出せざるを得なくなったなど、中国との関係においてその名誉を著しく毀損された。

中国側が、被告連盟との友好関係を重視し、公式には原告の本件運用を不問に付する態度を示したからといって、被告連盟の信用が失われ、名誉が損なわれた事実には変わりがない。

(2) 被告連盟の指導的立場にある現職の理事が本件運用を行ったこと、本件運用を理由に引責辞任した理事が短期間で復帰したことから、被告連盟の信用、自浄能力に疑問がもたれ、会員、監督官庁、関係諸団体との関係において被告連盟の名誉が大きく毀損された。

(三) 原告の理事辞任は、懲戒処分を回避するためにされたものであり、これを懲戒処分とみることはできない。

立候補は自由であるとは、立候補を阻止する方法がないという意味である。理事を辞任後短期間で復帰すれば、本件運用に対する引責としての意味はなくなるから、改めて本件運用に対する責任を問うことは信義則に反しない。

会員の懲戒は、その会員に懲戒事由があったかどうかの問題であり、民主主義(選挙)とは無関係である。

2  被告原は、被告連盟の総会において、原告の名誉を毀損する発言をしたか。また、ジャール・エクスプレスの記事は、原告の名誉を毀損するものか。

(原告の主張)

被告原は、被告連盟の第三〇回通常総会における答弁で、原告が本件運用が行われた「その晩官憲というか公安関係に踏み込まれ、調査を受けた」、「実際はチベットで自作したコールサインで電波を出し、公安関係に捕まった」という全く虚偽の事実を述べ、被告連盟は、事実関係を調査しないまま、被告原の発言を機関紙ジャール・エクスプレスに掲載し、それぞれ原告の名誉を毀損した。

(被告らの主張)

被告原は、「その夜、官憲というか公安当局の調査を受けるなどいろいろあったようである」と述べただけであり、原告が「官憲に踏み込まれ」、あるいは「公安関係につかまった」とは述べていない。ジャール・エクスプレスの記載は、筆者の主観が入り込んだものであり、被告原の発言を正確に再現していない。

正確ではないジャール・エクスプレスの記載も、「つかまった」とは逮捕を意味するものではなく、摘発されたという趣旨であるから、原告の名誉を毀損したとは考えられない。

第三争点に対する判断

一本件運用の中国法規違反について

1  本件運用当時、中国には、国家体育運動委員会及び全国無線電管理委員会が一九八二年八月五日共同発表した「アマチュア無線局管理暫定規定」や「外国人及び一時帰国の華僑の中国アマチュア無線活動参加に関する規定」があり、これらの規定によれば、外国人は、アマチュア無線局を開局することはできず、アマチュア無線の運用は、地元無線電運動協会の指定する団体アマチュア無線局の活動に参加して、無線電管理委員会からその無線局に付与された呼出符号を使用して行うことができるにとどまり、また、外国人がアマチュア無線を運用する場合は、中国の受入れ機関を通じて地元の無線電運動協会に申請し、その許可を受けなければならないものとされていた(<書証番号略>)。

しかし、当時、チベット地区には、アマチュア無線局は開局されておらず、地元無線電運動協会も存在しなかった(<書証番号略>)。

2  原告は、従前アマチュア無線の電波の発信が希有であるチベットで電波を発信することを目的として、チベット大学にアマチュア無線機器一式を寄贈するため中国教育国際交流協会から招待を受けた訪問団の一人として訪中した(<書証番号略>、原告本人)。

原告は、出国前、この電波発信についてCRSAの許可を得るため、中国教育国際交流協会の担当者白家瑤にその申請方を依頼するとともに、自らも、知人であり、CRSAの実質的責任者である汪勲副秘書長に対して許可を依頼したが、汪勲は、昭和六二年七月二二日ころ「チベットには無線団体もアマチュア無線局もないため、原告の電波運用の手配はできない」と連絡してきた(<書証番号略>、原告本人)。

原告ら一行は、同年八月七日、北京のCRSAを訪問して汪勲らと面会したが、その際、原告がチベット地区での無線の運用の許可を求めたのに対し、汪勲は「許可できない。もし事情が許されるようになり、電波の発射が可能となった場合は、原告を一番最初に許可するから、そのときまでお待ち願いたい」と告げた(<書証番号略>。原告本人はこれを否定する供述をするが、出国前の汪勲からの連絡の事実に照らすと採用できない)。

3  以上によれば、当時チベット地区において外国人が適法にアマチュア無線を運用する方途はなく、本件運用は中国の関係法規に違反したものであって、原告は、違法であることを認識しながら本件運用を敢行したものであるといわざるを得ない。

なるほど、原告は、寄贈した無線機器の設置後、チベット大学副学長の承認を得て、その立会いの下で試験電波の発信として本件運用を行ったものであり、本件運用後も、同大学やラサ市主催の歓迎会に招かれ、また、帰国前には北京で中国教育国際交流協会副会長の歓待を受けて、予定どおり帰国している(<書証番号略>、原告本人)。

しかし、このことは必ずしも本件運用が適法であったことを示すものではない。むしろ、本件運用が行われた夜、地元の警察又は軍隊の関係者と思われる人物が、同行した白家瑤の宿舎を訪ね、白家瑤の申入れにより原告は翌日の電波発信を中止することになったこと(<書証番号略>、原告本人)を考慮すると、本件運用は、チベット大学や中国教育国際交流協会の好意により、又は関係法規の不徹底に起因して事実上許容されたにすぎないものと推認すべきである(証人三好の証言によっても、この点を左右しない)。

二本件除名処分の効力について

1 公益社団法人、殊に被告連盟のような会員相互の友好を目的とした親睦的な団体は、社員が自主的に設立し、社員の定めた自主的な規則である定款に基づき、社員の親睦を図りつつ自主的に運営されるのであるから、社員に対する懲戒処分として行わる除名処分についても、除名事由の決定、該当性の有無等の判断は、法人の裁量に委ねられているとみるべきである。

しかし、除名処分は社員を社団から排除し、社団から享受する利益を全面的に奪うものであるから、その裁量も無限定ではなく、除名をすることが社団の目的、性格、処分事由の内容、手続等に照らして著しく不合理で、裁量の範囲を逸脱したと認められる場合には、除名処分は裁量権の濫用として無劾となるものというべきである。

2  被告連盟は、CRSAと友好関係にあったが(<書証番号略>)、被告連盟の理事の地位にあった原告がCRSAの幹部職員の注意を無視して本件運用を敢行したのであり、無許可でコールサインを自作して電波を運用することはアマチュア無線家にとって最も非難されるべき行為のひとつとされているのであるから(<書証番号略>、弁論の全趣旨)、CRSAとの関係において、被告連盟の名誉は相当程度損なわれたというべきである。したがって、これが会員の除名事由に該当すると判断することにも一応の理由がある。

しかし、CRSAは、本件運用を公式には不問に付している(<書証番号略>)。また、被告連盟は、アマチュア無線で使用している七メガヘルツ帯で中国の放送局が放送をしているため混信が生じるとして、かねてからCRSAを通じて中国政府とこの放送の中止(七メガヘルツ停波)を求めて交渉してきており、本件運用のころも訪中団を派遣していたところ、中国政府当局から、原告がチベットで無許可で電波を発射したとの報告が入ったので調査をするという理由で、昭和六二年八月一九日に予定されていた交渉の中止を通告されたという事実は認められるが(<書証番号略>、証人熊谷、被告原本人)、このことによってこの停波問題の解決が遅れることになったのかどうかは必ずしも明らかではない。したがって、本件運用による実害は生じなかったと認めるのが相当であり、そうであれば、除名の可否については、このような事情も考慮すべきである。

3  原告は、被告連盟の理事会による理事辞任勧告を受けて理事を辞任したが、その経過は次のとおりであった(<書証番号略>、被告原本人)。

昭和六二年八月一三日に帰国した原告は、二一日、被告連盟の理事懇談会でチベットでの電波発射は違法であると追及され、会長である被告原あてに、自分がチベットにおいて免許状のないまま電波を発信したことは軽率であった、会長に進退を一任するとの顛末書を提出した。さらに、原告は、被告連盟の調査を受けた後、同年一〇月八日には、調査をまとめた調書(<書証番号略>)に署名して理事会に提出した。これらを基に、被告連盟は、一〇月一〇日、一一日の両日、理事会を開催し、原告の陳述を聞いたうえ、原告を退席させて審議を行い、原告に自発的に理事を辞任するよう勧告することを決定して、原告に通知した。原告は、当初は辞任をためらっていたが、理事らの説得を受け入れて最終的に辞任を決意し、辞任願を提出した。辞任願には一身上の都合によりと記載されたが、辞任勧告は本件運用の責任を問う趣旨のものであった。

この辞任に至る経過によれば、原告の理事辞任は、実質的には本件運用を理由とする降格類似の懲戒処分と評価することができる。そして、被告連盟の理事会の意向は、原告が次期理事選挙に立候補するのは自由であるというものであったこと(<書証番号略>)に照らすと、原告が理事を辞任した時点でこの処分は完結したものとみるのが相当である。したがって、本件除名処分は、同一の理由によって、再度、原告を懲戒するものというべきである。

4  前記2のとおり、処分事由の内容が除名に値するかどうかにはなお考慮すべき事情があることに加えて、本件除名処分は3のとおり、実質的には同一の理由によって重ねて懲戒するものである。

被告連盟は約一四万人もの会員を擁する団体であり、このような大規模な団体にあっては、条理上、会員の利益を公正な手続によって擁護することが要請されるというべきであるから、本件除名処分は、処分事由の内容及び手続きに照らして被告連盟の裁量権の範囲を逸脱したものと認められ、無効というほかない。

被告連盟は、電波法に基づき郵政大臣の認定を受けて行うアマチュア無線家の養成課程業務や無線設備の保証認定業務などの公的な業務も行っており(<書証番号略>)、社会的に相当な評価を受けている団体であると認められるから、いったん理事を引責辞任した会員が短期間で理事に復帰すると被告連盟の信用、自浄能力に疑問がもたれるという被告らの主張も、心情的にはうなずけないでもない。しかし、本件に関してそのような事態が生じたことの証明はないし、そもそも原告が理事に復帰したのは会員による選挙の結果なのであるから、被告連盟としては、その結果を尊重すべきことは当然であり、対外的にも何ら恥ずべきことではない。

三名誉毀損について

1  原告は、本件運用に関し、中国の官憲ないし公安関係者から捜索、取調べを受けたり、逮捕された事実はなかった(<書証番号略>、原告本人)。

ところが、被告原は、被告連盟の第三〇回通常総会における会長としての答弁の中で、原告が本件運用が行われた「その晩に官憲というか公安関係に踏み込まれ、いろいろあった」、原告が「コールサインを自作して電波を出した、それが公安関係につかまった」という趣旨の発言をした(<書証番号略>)。

2  この被告原の発言の前半部分は、原告が本件運用について公安関係者の捜索、取調べを受けたという虚偽の事実を述べたものと解される。しかし、後半部分は、その発言の文脈からすると、原告が主張するような原告逮捕という虚偽の事実を述べたものではなく、原告が電波を発信したことが公安関係者に捕捉されたという趣旨の発言と解するのが相当である。

とはいえ、これらの一連の発言を聞く側に対しては、「踏み込まれ、いろいろあった」という発言からの連想で、この「つかまった」という表現は容易に原告が逮捕されたことを印象づけるものである。この発言を掲載した被告連盟の機関紙ジャール・エクスプレスの記事すら原告が逮捕されたという意味に読めるものであるし、この総会の質疑応答を誌上再録したというハム・ジャーナル誌の記事が「捕まった」という表記をしているのも(<書証番号略>、聞き手にとっての受け取り方を示すものということができる。

したがって、被告原の発言は、一部において虚偽の事実を摘示し、全体として虚偽の事実が存在したとの誤解を容易に与えるものであったから、これによって原告の名誉を毀損したものというべきであり、ジャール・エクスプレスの記事も、また、原告の名誉毀損に加担したものと認められる。

3  そして、本件運用が行われた経緯、被告原が発言に至った経緯等の一切の事情を考慮すれば、被告らの名誉毀損行為により生じた原告の損害は五〇万円と認められる。これに加えて、被告原の発言が被告連盟機関紙に掲載されたことを考慮し、主文記載の限度で原告の名誉回復措置をとるのが相当である(証人熊谷の証言により、謝罪広告を掲載すべき被告連盟の機関紙としてはジャール・ニュースが適切と認める)。

(裁判長裁判官片山良廣 裁判官本間健裕 裁判官伊東顕)

(別紙一)認容した謝罪広告

謝罪広告

昭和六三年五月二九日JARL第三〇回通常総会において会長である原昌三が昭和六二年八月八日の出来事として、貴殿が同夜中国チベット自治区ラサ市において電波の不法運用により現地の官憲(公安関係)に踏み込まれて逮捕され、調査を受けたかのような発言をし、社団法人日本アマチュア無線連盟がこの発言内容を機関紙ジャール・エクスプレスに掲載しました。しかし、これらは事実無根であり、不適切な発言、記事掲載であったことを認め、ここに謝罪します。

平成  年  月  日

東京都新宿区信濃町二二―三

JARL会長 原昌三

東京都豊島区巣鴨一―一四―二

社団法人日本アマチュア無線連盟

右代表者理事 原昌三

JA1LG

岩瀬靖近殿

(掲載条件) 文字の大きさは九ポイント。一行当たりの字数は問わない。横組の場合は、算用数字を用いる。

(別紙二)原告が請求する謝罪広告

謝罪広告

昭和六三年五月二九日JARL第三〇回通常総会においてJARL会長である私原昌三が確たる証拠もなく昭和六二年八月八日の出来事として貴殿が同夜中国チベット自治区ラサ市において電波の「不法運用」のかどで現地の官憲(公安関係)に踏み込まれ、逮捕され調査を受けたとして貴殿が中国国法を侵犯した犯罪人であるかのような発言をし、社団法人日本アマチュア無線連盟がこの発言内容を調査もせずJARL機関紙等に掲載して貴殿の名誉を毀損し多大の御迷惑をおかけしたことは誠に申し訳けありませんでした。右は事実無根であること、軽率な発言、記事掲載であったことを認め、ここに慎んで謝罪いたします。

昭和  年  月  日

東京都渋谷区桜ケ丘二一―八

JARL会長 原昌三

東京都豊島区巣鴨一―一四―二

社団法人 日本アマチュア無線連盟

右代表者理事 原昌三

JA1LG

岩瀬靖近殿

(掲載条件) 大きさ 縦一五センチメートル、横一二センチメートル。10.5ポイント文字。掲載場所 第一面

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