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東京地方裁判所 昭和63年(ワ)2261号 判決 1992年3月27日

原告

中国パール販売株式会社

右代表者代表取締役

三宅輝義

右訴訟代理人弁護士

谷正之

塚田斌

中島茂

右輔佐人弁理士

竹内三郎

被告

株式会社ダイケイ

右代表者代表取締役

油谷勁二

右訴訟代理人弁護士

岡豪敏

丸橋茂

右輔佐人弁理士

藤本昇

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、別紙目録記載の包装袋を製造し、販売し、又は販売のために展示してはならない。

2  被告は、その所持する右1記載の包装袋を廃棄せよ。

3  被告は、原告に対し、三〇〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は、被告の負担とする。

5  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二  当事者の主張

一  請求の原因

1  原告は、次の実用新案権(以下「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という。)を有する。

実用新案登録番号 第一五〇七八三三号

考案の名称 おにぎり

出願 昭和五五年五月一九日

公告 昭和五七年九月二五日

登録 昭和五八年九月二六日

2  本件考案の実用新案登録出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の実用新案登録請求の範囲の記載は、次のとおりである。

米に純度の高い若干量のサラダオイルを配合の上炊き上げた飯でおにぎりを造り、該おにぎりは非透水性フイルムで包被しかつ該フイルムの一部が外部に出るようにして容器乃至包装体に収納した構成から成ることを特徴とするおにぎり。

3  本件考案の構成要件は、次のとおりである。

A 米に純度の高い若干量のサラダオイルを配合のうえ炊き上げた飯でおにぎりを造り、

B 該おにぎりは、非透水性フイルムで包被し、

C かつ、該フイルムの一部が外部に出るようにして容器ないし包装体に収納した、

D 以上の構成からなることを特徴とするおにぎり。

4  被告は、遅くとも、昭和五八年六月一日ころから、業として別紙目録記載の包装袋(以下「被告製品」という。)を製造販売している。

5  被告製品は、おにぎりの包装袋であるところ、その中袋は本件考案の構成要件Bにいう「非透水性フイルム」に、その外袋は本件考案の構成要件Cにいう「容器ないし包装体」にそれぞれ該当し、構成要件B及びCにいうとおり、おにぎりを中袋で包被し、かつ、その中袋の一部が外部に出るようにして外袋に収納するものである。ところで、おにぎりを被告製品の中袋で包被した場合において、飯が中袋に付着せず、かつ、中袋を滑らかに外すことができなければ、商品として意味をなさないから、右おにぎりは、本件考案の構成要件Aにいう「米に純度の高い若干量のサラダオイルを配合の上炊き上げた飯」で造らなければならないのである。したがって、被告製品は、本件考案に係る物品であるおにぎりの製造にのみ使用する物である。

6  被告は、故意又は過失により、昭和五八年六月一日から同六二年一二月三一日までの間に、一日当たり一〇万セット、合計一億六七四〇万セットの被告製品を製造販売したものであるところ、被告製品一セット当たりの販売価格は五円五〇銭であり、そのうち本件考案の実施に対し通常受けるべき金銭の額は一セット当たり五〇銭であるから、原告は、実用新案法二九条二項の規定により、被告に対し、右金銭の額に相当する合計八三七〇万円(五〇銭×一億六七四〇万セット)を、自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる。

7  よって、原告は、被告に対し、本件実用新案権に基づき、被告製品の製造販売又は販売のための展示の差止め、被告が所持する被告製品の廃棄、並びに、本件実用新案権侵害による損害賠償請求権に基づき、右6の損害のうち三〇〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求の原因に対する認否

1  請求の原因1ないし3は認める。

2  同4は、被告製品が別紙目録の構造の説明のとおりのものであることを除いて、認める。

3  請求の原因5及び6は否認する。

三  被告の主張

1  被告製品は、次のとおり、本件考案に係る物品であるおにぎりの製造にのみ使用する物ではない。

(一) おにぎりをフイルムで包み、そのフイルムを飲食時に引き抜くことは、本件考案の実用新案登録出願前に日本国内において公然知られていたところ、本件明細書の考案の詳細な説明には、「従来、おにぎりは米を水で研いで炊き上げたものから造っており、これを商品として軟質プラスチックフイルム等で包装していた。ところが、飯がフイルムに付着してしまう等好ましくなかった。」(本判決添付の実用新案公報(以下「本件公報」という。)一頁1欄二九行ないし三二行)、「本考案は……おにぎり乃至付属する具等を少しも傷めることなくフイルム包装を解くことができる」(同一頁1欄三三行ないし2欄七行)旨記載されており、右記載によれば、本件考案は、右の従来のタイプのおにぎりが存在することを前提として、同タイプのおにぎりについて、フイルムの引き抜きをスムーズに行うために、米に若干量のサラダオイルを配合のうえ炊き上げた飯でおにぎりを造ることによって、おにぎりの表面に滑性を与えるという技術手段を提案したものである。ところで、右タイプのおにぎりにおいて、フイルムの引き抜きをスムーズに行うという作用効果を奏する技術手段には、様々なものがあり、そのうちにおにぎりの表面に滑性を与えるという技術手段に限定してみても、おにぎりの表面にオイル等の滑性のあるものを塗るなどといった技術手段が考えられるのであり、決して、本件考案のように、米に純度の高い若干量のサラダオイルを配合のうえ炊き上げた飯でおにぎりを造るという技術手段によらなければ右作用効果をあげられないものではない。そして、被告製品は、右タイプのおにぎりすべての包装袋として使用することができるのである。現に、被告は、訴外株式会社ヤマト(以下「訴外ヤマト」という。)に対し、被告製品を販売しているところ、同社は、米を炊き上げ蒸らした後、おにぎり成形機に投入する直前に胚芽油を投入した飯でおにぎりを製造し、その包装袋として被告製品を使用している。右の米を炊き上げ蒸らした後、おにぎり成形機に投入する直前に胚芽油を投入した飯は、本件考案にいう「米に純度の高い若干量のサラダオイルを配合の上炊き上げた飯」に該当しないのであるから、右飯で製造したおにぎりの包装袋としても使用される被告製品は、本件考案に係る物品であるおにぎりの製造にのみ使用する物ではない。

(二) 原告は、本件明細書の実用新案登録請求の範囲の「配合の上」という経時的表現は、「若干量のサラダオイルが配合された飯」という形状、構造を表現するために、その製作工程、実現方法を記載したものにすぎず、いわゆる「方法の記載」であって、権利範囲を確定するに際しては除外されるべきである旨主張する。しかしながら、実用新案登録請求の範囲の記載が、文言として方法的であったとしても、技術内容において、実用新案としての保護の対象となる「物品の形状、構造又は組合せ」の範囲内において、そのいずれかの要素を限定するものと解釈することができるときには、右の記載は、構成要件に含めて解釈すべきである。例えば、「……の方法により製作された」物品というように物品の材質等の内容を限定する趣旨で記載されたものであれば、方法の記載としてではなく、考案の構成要件の一つである物品を限定する記載として解釈すべきである。これを本件明細書の実用新案登録請求の範囲の記載についてみると、「配合の上」という用語は、「炊き上げた飯」を修飾しているのであり、物品の材質を限定するものとして記載されていると解釈すべきである。したがって、原告の右主張は、正当ではない。

(三) 原告は、本件明細書の実用新案登録請求の範囲の「炊き上げた飯」という用語は、「蒸らし」の段階を経過して食べられる状態となった米をいうのであって、「蒸らし」の段階終了以前であれば、どの段階でオイルを配合したとしても、右のようにオイルを配合した飯は、本件考案にいう「米に純度の高い若干量のサラダオイルを配合の上炊き上げた飯」に該当する旨主張する。しかしながら、「配合の上」という場合、その「上」という用語は、「……したのち」を意味するものであって、本件明細書の実用新案登録請求の範囲の「米に……サラダオイルを配合の上炊き上げた」という用語は、炊飯前の配水の段階で米にサラダオイルを配合するという意味に読むべきである。そして、このことは、次の点からみても明らかである。すなわち、本件明細書の考案の詳細な説明には、本件考案の実施例について、「おにぎり1は米5kgに対し10〜40cc更に好ましくは12〜30ccの純正サラダオイルを水とともに加えて混ぜた上で炊き込んだ飯を型押しして造る。」(本件公報一頁2欄一七行ないし二〇行)、「サラダオイルは……炊き込みによって飯と一体化するとともに、飯の表面に滑性を付与する一方、油の匂いは加熱によって完全になくなる。」(同一頁2欄二一行ないし二四行)と記載され、そのほかにも、一貫して、米にサラダオイルを水とともに加えたのち炊き込むと記載されており、結局、本件明細書においては、炊飯の前に米にサラダオイルを入れるとしか記載されていない。また、出願の経過を参酌するに、本件考案の出願人である原告は、拒絶理由通知に対する意見書において、「本考案の特徴とするところは、米を炊く際に……サラダオイルを配合し」(<書証番号略>)と記載している。更に、右拒絶理由通知の引用文献である主婦と生活社発行の「料理大事典」の「菜飯」の項には、「①の米(洗米)と②の肉とベーコンを加えて……沸騰するまで強火、その後は弱火で炊き上げ、③の小松菜を入れて、一五分ほど蒸らし……」と記載され、「炊き上げ」と「蒸らし」とは別工程であることが示されている。したがって、原告の右主張は、妥当ではない。

2  実用新案法二八条の規定により、同条所定の行為が実用新案権を侵害するものとみなされるためには、その後に実用新案権の侵害(直接侵害)の事実が発生しなければならないものと解される。ところで、被告は、訴外シノブフーズ株式会社(以下「訴外シノブフーズ」という。)に対し、被告製品を販売しているところ、訴外シノブフーズは、遅くとも本件考案の実用新案登録出願前の昭和五四年八月一日以降、関西圏において、おにぎりをフイルムで包み、そのフイルムを飲食時に引き抜くというタイプのおにぎりを製造販売してきた。そこで、仮に、原告が請求の原因5で主張するように、飯がフイルムに付着せず、かつ、フイルムを滑らかに外すことができるようにするためには、米に純度の高い若干量のサラダオイルを配合のうえ炊き上げた飯でおにぎりを造らなければならないというのであれば、訴外シノブフーズは、本件実用新案権について先使用による通常実施権を有する。したがって、訴外シノブフーズが、被告製品を包装袋として使用したおにぎりを製造販売する行為は、本件実用新案権を侵害するものではないから、訴外シノブフーズに対して販売した分の被告製品の製造販売行為に関する限りは、実用新案法二八条所定の行為に該当しない。

四  被告の主張1(一)に対する原告の反論

1  訴訟ヤマトは、米に食用油を投入して炊き上げた飯でおにぎりを製造しているのであり、右飯は、本件考案にいう「米に純度の高い若干量のサラダオイルを配合の上炊き上げた飯」に該当する。したがって、被告製品は、それが訴外ヤマト製造のおにぎりの包装袋として使用されているとしても、本件考案に係る物品であるおにぎりの製造にのみ使用する物に当たる。

2  仮に訴外ヤマトが米を炊き上げ蒸らした後、おにぎり成形機に投入する直前に胚芽油を投入した飯でおにぎりを製造しているとしても、

(一) 本件明細書の実用新案登録請求の範囲の「配合の上」という経時的表現は、「若干量のサラダオイルが配合された飯」という形状、構造を表現するために、その製作工程、実現方法を記載したものにすぎず、いわゆる「方法の記載」であって、権利範囲を確定するに際しては除外されるべきものである。実用新案は、「物品の形状、構造又は組合せに係る」考案であり、換言すれば、製品自体のうちに空間的に表現された技術的思想であるから、仮に実用新案登録請求の範囲の中に物品の形状や構造を実現するための製造方法、製造過程、順序などが記載されていたとしても、それらは、その考案の構成要件から除外して解さなければならない。そこで、本件明細書の実用新案登録請求の範囲の「若干量のサラダオイルを配合の上炊き上げた飯」とは、「若干量のサラダオイルが配合された飯」の意味に解するのが相当である。そうすると、訴外ヤマトは、若干量の胚芽油を投入した飯でおにぎりを製造しているというのであるから、右飯は、本件考案にいう「米に純度の高い若干量のサラダオイルを配合の上炊き上げた飯」に該当することになる。したがって、右飯で製造したおにぎりの包装袋として使用する被告製品は、本件考案に係る物品であるおにぎりの製造にのみ使用する物というべきである。

(二) 仮に本件明細書の実用新案登録請求の範囲の「配合の上」という用語が物品の材質を限定する用語であるとしても、同実用新案登録請求の範囲の「炊き上げた飯」という用語は、「蒸らし」の段階を経過して食べられる状態となった米をいうのであって、「蒸らし」の段階終了以前であれば、どの段階でオイルを配合したとしても、右のようにオイルを配合した飯は、本件考案にいう「米に純度の高い若干量のサラダオイルを配合の上炊き上げた飯」に該当する。ところで、訴外ヤマトは、おにぎり成形機に投入する直前に胚芽油を投入しているというのであるから、右の胚芽油を投入した飯で製造したおにぎりの包装袋として使用する被告製品は、本件考案に係る物品であるおにぎりの製造にのみ使用する物というべきである。

(三) 炊き上げた飯を蒸らした後に、飯の上から胚芽油を投入した場合には、胚芽油を飯全体に行き渡らせることは不可能であり、仮に胚芽油が飯全体に行き渡るように飯をかき回すならば、飯を練る結果になってしまうから、このような飯でおにぎりを製造したとしても、おにぎりとしての商品価値は全くない。したがって、右のような飯で製造したおにぎりの包装袋として被告製品を使用することは、社会通念上、経済的、商業的ないし実用的と認められる用途ということはできない。

第三  証拠関係<消略>

理由

一請求の原因1及び2の事実は、当事者間に争いがない。

二右当事者間に争いがない請求の原因2の事実及び<書証番号略>(本件公報)によれば、本件考案の構成要件は、請求の原因3のとおりであることが認められる。

三請求の原因4の事実は、被告製品が別紙目録の構造の説明のとおりのものであることを除いて、当事者間に争いがない。

四原告主張の被告製品が本件考案に係る物品であるおにぎりの製造にのみ使用する物であるか否かについて判断する。

1  <書証番号略>、証人野澤昭の証言並びに<書証番号略>によれば、訴外ヤマトは、おにぎり及び寿司弁当を製造販売している会社であるところ、昭和五六年八月頃から、その製造するおにぎりの包装袋に使用するため、被告から、被告製品を購入していること、訴外ヤマトは、同月頃から、(1)洗米機で米を洗い、(2)浸漬機を使用して、約五時間、右の洗った米を水に浸け、(3)五升炊きの炊飯器に水に浸けた米四升を入れて、約二〇分間、これを炊き上げて飯にし、(4)約四〇分間、右の炊き上げた飯を蒸らすが、その際、蒸らし始めてから約三〇分後に、炊飯器の中の約二〇cm程度の深さの飯の上から、胚芽油(穀類の胚芽から採れるオイルをいう。主として高級サラダオイルに使用される。)一二〇ccをほぼ均一にふりまき、その後約一〇分間蒸らし、(5)おにぎり成形機の上部にあるホッパーに、右の蒸らして胚芽油をふりまいた飯を投入し、右おにぎり成形機の内部で、右の飯をかくはんしつつ、一つ一つおにぎりを成形し、(6)真空冷却機の中に、右の成形されたおにぎりを入れて冷やし、(7)包装機によって、右の冷やしたおにぎりを、被告製品の中袋に収納し、その上に海苔を合わせて被告製品の外袋に収納して、商品名を「おにぎりエース」というおにぎりを製造し、販売していることが認められる。もっとも、<書証番号略>(三菱化成ポリテック株式会社筑波工場研究開発部主任研究員油井光和作成の報告書)には、財団法人日本食品分析センターによる、訴外ヤマトが製造したおにぎり、炊飯前にオイルを投入した飯及び蒸らし中にオイルを投入した飯の脂肪酸組成の各分析試験結果(<書証番号略>)に基づいてそれぞれ算出したステアリン酸の組成比で基準化したオレイン酸量とステアリン酸の組成比で基準化したリノール酸量について、訴外ヤマトが製造したおにぎりと炊飯前にオイルを投入した飯とでその値が極めて近似していることから、訴外ヤマトが製造したおにぎりは、炊飯前に油を投入しているものと推定できるとの趣旨の記載があるが、<書証番号略>によれば、飯の中に含まれるオレイン酸、ステアリン酸、リノール酸の組成比は、オイルの種類や米の精米の程度などにより必ずしも一定しておらず、また、オレイン酸、ステアリン酸、リノール酸のそれぞれの自動酸化速度(空気中の酸素とオイルとが反応して起こる変化の速度)も、必ずしも一定しているとはいえないことが認められ、右認定の事実に<書証番号略>及び証人野澤昭の証言を合わせ考えると、ステアリン酸の組成比で基準化したオレイン酸量とステアリン酸の組成比で基準化したリノール酸量について、訴外ヤマトが製造したおにぎりと炊飯前にオイルを投入した飯とでその値が極めて近似していることから直ちに、訴外ヤマトが製造したおにぎりが炊飯前に油を投入したものであると推認することはできないといわざるをえず、したがって、<書証番号略>は、採用することができない。原告は、訴外ヤマトは、米に食用油を投入して炊き上げた飯でおにぎりを製造しているのであり、右飯は、本件考案にいう「米に純度の高い若干量のサラダオイルを配合の上炊き上げた飯」に該当する旨主張するが、前認定の事実によれば、訴外ヤマトは、蒸らし中に胚芽油をほぼ均一にふりまいた飯でおにぎりを造っているのであるから、原告の右主張は、その前提を欠き、採用の限りではない。なお、被告は、原告が第一六回口頭弁論期日に提出した甲号各証は、時機に後れて提出された攻撃防禦方法であるから、却下すべきである旨申立てるところであるが、本件記録に徴すれば、右証拠の提出は、原告が故意又は重大な過失により時機に後れてしたものとまでは認定することが困難であり、したがって、被告の右申立は、却下することとする。

2 ところで、(一)<書証番号略>(本件公報)によれば、従来、おにぎりは、米を水で研いで炊き上げたものから造っており、これを商品として軟質プラスチックフイルム等で包装していたが、飯がフイルムに付着してしまう等好ましくなかったので、本件考案は、このような問題点を解決し、例えば、おにぎりをフイルムで包被し、その上に海苔を合わせたものをプラスチック容器ないし包装体に収納して商品とし、食する際には、容器ないし包装体を開けることなくそのままの状態において、おにぎりを直接包被したフイルムのみを抜き取れば、介在していたフイルムがなくなることによって、海苔が直接おにぎりに被着することになり、そのうえで容器ないし包装体を開ければ、海苔が新鮮ぱりぱり、かつ、風味良好な状態でおにぎりをそのまま食することができる等おにぎりないし付属する具等を少しも傷めることなくフイルム包装を解くことができる極めて便利なおにぎりを提供することを目的として、前二で認定した本件考案の構成を採用し、右目的を達成したものであることが認められ、そして、(二)<書証番号略>によれば、本件明細書の実用新案登録請求の範囲には、「米に純度の高い若干量のサラダオイルを配合の上炊き上げた飯でおにぎりを造り」と記載されているところ、右の「配合の上」というのは、普通の用語例に従えば、「配合したのち」の意味であると認められ、また、考案の詳細な説明の記載をみるに、右<書証番号略>によれば、考案の詳細な説明には、「本考案は米に純度の高い若干量のサラダオイルを配合の上炊き上げた飯によっておにぎりを造り」(本件公報一頁2欄九行ないし一一行)、「おにぎり1は米5kgに対し10〜40cc更に好ましくは12〜30ccの純正サラダオイルを水とともに加えて混ぜた上で炊き込んだ飯を型押しして造る。」(同一頁2欄一七行ないし二〇行)、「サラダオイルは純度の高いものを使用することにより、炊き込みによって飯と一体化するとともに、飯の表面に滑性を付与する一方、油の匂いは加熱によって完全になくなる。」(同一頁2欄二一行ないし二四行)と記載されていることが認められ、右認定の事実によれば、考案の詳細な説明においても、米にサラダオイルを配合したのちこれを炊き上げるものとしており、他方、右<書証番号略>によれば、本件明細書には、炊き上げた飯にサラダオイルを配合したものがおにぎりの材料に含まれることを示唆するような記載は存しないことが認められる。以上認定の事実によれば、本件考案は、おにぎりの材料として、単にサラダオイルが配合された飯であればよいというものではなく、米に純度の高い若干量のサラダオイルを配合したのちこれを炊き上げた飯であることを必須の構成要件とし、これにより、本件考案の目的を達成したものであることが認められる。この点について、原告は、本件明細書の実用新案登録請求の範囲の「配合の上」という経時的表現は、「若干量のサラダオイルが配合された飯」という形状、構造を表現するために、その製作工程、実現方法を記載したものにすぎず、いわゆる「方法の記載」であって、権利範囲を確定するに際しては除外されるべきものである旨主張するが、本件考案は、右認定のとおり、おにぎりの材料として、米に若干量のサラダオイルを配合したのちこれを炊き上げた飯であることを必須の構成要件としているのであって、本件考案にいう「米に純度の高い若干量のサラダオイルを配合の上炊き上げた飯」とは、おにぎりの材料である飯の形状、構造を右のとおりのものにしたものと解すべきである。したがって、原告の右主張は、採用することができない。また、原告は、本件明細書の実用新案登録請求の範囲の「炊き上げた飯」という用語は、「蒸らし」の段階を経過して食べられる状態となった米をいうのであって、「蒸らし」の段階終了以前であれば、どの段階でオイルを配合したとしても、右のようにオイルを配合した飯は、本件考案にいう「米に純度の高い若干量のサラダオイルを配合の上炊き上げた飯」に該当する旨主張するが、本件考案のおにぎりの材料である飯は、右のとおり、「米に純度の高い若干量のサラダオイルを配合の上炊き上げた飯」でなければならないのであるから、このうちの「炊き上げた飯」という用語のみを取り上げてこれを論ずることは、本件考案の構成を無視するものであるといわざるをえない。したがって、原告の右主張も、採用の限りではない。

3  前1及び2の認定判断によれば、訴外ヤマトは、蒸らし中に胚芽油をほぼ均一にふりまいた飯でおにぎりを造っているところ、右の蒸らし中に胚芽油をほぼ均一にふりまいた飯は、本件考案にいう「米に純度の高い若干量のサラダオイルを配合の上炊き上げた飯」には当たらないものといわざるをえないから、被告製品は、本件考案にいう「米に純度の高い若干量のサラダオイルを配合の上炊き上げた飯」には当たらない飯で製造したおにぎりの包装袋としても使用される用途を有するものである。この点について、原告は、炊き上げた飯を蒸らした後に、飯の上から胚芽油を投入した場合には、胚芽油を飯全体に行き渡らせることは不可能であり、仮に胚芽油が飯全体に行き渡ように飯をかき回すならば、飯を練る結果になってしまうから、このような飯でおにぎりを製造したとしても、おにぎりとしての商品価値は全くなく、したがって、右のような飯で製造したおにぎりの包装袋として被告製品を使用することは、社会通念上、経済的、商業的ないし実用的と認められる用途ということはできない旨主張する。しかしながら、証人野澤昭の証言によれば、訴外ヤマトは、フイルムでおにぎりを包み、飲食時にそのフイルムを引き抜くというタイプのおにぎりを製造するに当たって、フイルムを滑らかに引き抜くことができるように、投入する胚芽油の量、投入の時期、仕方を工夫した結果、前四1で認定した(1)ないし(7)のとおりのおにぎりの製造方法を案出し、昭和五六年八月頃から、右方法により製造したおにぎりを販売しているが、未だ右おにぎりに関して苦情を受けたことがないこと、訴外ヤマトは、平成二年当時、一日当たり約三〇〇〇個のおにぎりエースを製造販売しており、岐阜県下において、おにぎり製造量で業界第二位の地位にあったこと、以上の事実が認められる。右認定の事実によれば、訴外ヤマトが製造するおにぎりは、十分に商品価値があり、右おにぎりの包装袋として使用される被告製品の用途は、社会通念上、経済的ないし実用的なものであると認められる。もっとも、<書証番号略>によれば、おにぎり製造関連の業者五社は、おにぎり用の飯の製造に際し、いずれも炊飯前にオイルを投入しており、飯を蒸らし中又は後にオイルを投入すると、飯とオイルの混合にムラが生じる、表面にべたつきが生じる、オイル臭さが残る、又は作業能率が悪いなどといった理由により、飯を蒸らし中又は後にオイルを投入していないことがみとめられるが、この事実は、右認定を覆えすには足りない。したがって、原告の右主張は、採用することができない。

4 以上のとおり、被告製品は、本件考案にいう「米に純度の高い若干量のサラダオイルを配合の上炊き上げた飯」には当たらない蒸らし中に胚芽油をほぼ均一にふりまいた飯で製造したおにぎりの包装袋としても使用される用途を有するものであるから、本件考案に係る物品であるおにぎりの製造にのみ使用する物であると言うことはできない。

五そうすると、原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条の規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官清永利亮 裁判官宍戸充 裁判官髙野輝久)

別紙目録

1 図面の説明

第1図は包装袋の外袋の正面図、第2図は包装袋の外袋の縦断面図、第3図は包装袋の中袋の正面図、第4図は包装袋の中袋の縦断面図である。

2 構造の説明

包装袋の構造は、次のとおりである。

(一) 外袋1は、非透水性のプラスチックフイルム製で、正三角形の一辺のみが開口した袋体となっていて、その先端部が水平に切除された切欠部2となり、開口部の一辺に台形状の蓋片3が連設されている。

(二) 中袋4は、非透水性のプラスチックフイルム製で、外袋1よりも若干小さい正三角形の一辺のみが開口した袋体となっていて、その先端部5は、尖った閉塞状態のままで、開口部の一辺に外袋1の蓋片3よりも若干高さのある台形状の蓋片6が連設されている。

別紙実用新案公報<省略>

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