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東京地方裁判所 昭和63年(ワ)2635号 判決 1990年9月26日

東京都足立区西新井六丁目一六番二二号

原告

秋山勝司

同所

原告

秋山シノ

同所

原告

秋山雅俊

同所

原告

秋山守由

横浜市戸塚区舞岡町三五九六番地一

ネオコーポ戸塚舞岡二一八号

原告

小山君恵

東京都葛飾区宝町二丁目二二番一四号

原告

秋山勝光

東京都八王子市山田町一五三四番地一五

原告

時田和恵

東京都日野市多摩平五丁目三番九号

原告

小沢静代

東京都練馬区西大泉一丁目三二番六号

原告

苅部知子

千葉県市川市菅野六丁目一七番七号

原告

樋口三郎

右原告ら訴訟代理人弁護士

高村一木

東京都葛飾区宝町二丁目三四番一一号

被告

アキヤマ印刷機製造株式会社

右代表者代表取締役

小嶌泰隆

右訴訟代理人弁護士

三宅省三

今井健夫

池田靖

内藤良祐

桑島英美

増岡章三

對崎俊一

増岡研介

右輔佐人弁理士

荒垣恒輝

主文

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告らに対し、それぞれ二七〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  右1につき仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求の原因

1  原告らは、次の特許権(以下「本件特許権」といい、その特許発明を「本件発明」という。)を共有していた(持分各一〇分の一)。

特許番号 第九一四一七六号

発明の名称 ユニツト型四色刷オフセツト印刷機の胴配列

出願日 昭和四五年一〇月二日

公告日 昭和五〇年三月一八日

登録日 昭和五三年七月二一日

2  本件発明の特許出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の記載は、本判決添付の特許公報(以下「本件公報」という。)の該当項記載のとおりである。

3(一)  本件発明は、次の構成要件からなるものである。

A 等径の版胴・ゴム胴各二本に対しこれら胴の三倍直径をもつ共通の圧胴一本の五胴で一印刷ユニットを形成すること。

B 右印刷ユニットを二組並置して両圧胴間に同様構造をもつ渡し胴を介在させる胴配列となすこと。

C 共通の圧胴に接する二本のゴム胴の接点間の圧胴周面距離は、ゴム胴転写面の円周方向全長より長く取ることを条件とすること。

D 全ての版胴・ゴム胴が同高さ同間隔になるように配置したことを特徴とすること。

E ユニット型四色刷オフセット印刷機の胴配列であること。

(二)  本件発明は、次の作用効果を奏する。

(1) 従来のこの種装置においては、印刷完了に至るまでに、圧胴と渡し胴との間で多数回の紙の受渡しが繰り返されるから、その回数だけ、当然、見当精度を損ずる機会が生じていることになるが、本件発明によれば、両印刷ユニット間は渡し胴4一本だけで連結することが可能になり、紙の移替え回数をユニット型四色機としては最少限に減ずることを得たので、紙の移替え時のトラブルが激減する。

(2) また、従来装置では、各ゴム胴の共通の圧胴に対する接点間の距離が小さく、前行程印刷中に次行程印刷が行われる関係上、各ゴム胴の胴仕立寸法や印圧量の微妙な相違がダブリ現象となって表れてくる公算が大きいが、本件発明では、圧胴3、3'、渡し胴4の径を版胴・ゴム胴の三倍直径で構成し、各ゴム胴間の距離を十分広くとったので、前述のこの種の四色機の欠陥を解消することができる。

(3) 更に、従来装置では、原動機動力を一、二色間及び三、四色間の二個所に分けて印刷機を駆動する方法をとっているが、このようにすれば、胴の正確な同期回転が得られなくなり、互いに干渉し合う所ができて、紙の受渡し時のミスタイミングを誘発し、更には、ダブリ現象やギヤ目の原因ともなってくるが、本件発明によれば、各圧胴3、3'、渡し胴4の間に遊車となるべき他の渡し胴が介在しないから、原動機動力を渡し胴に与えれば、両圧胴ギヤーは、共に渡し胴ギヤーに追随して回転し、息つき運動するおそれがなく、高価な装置を全く必要としない利点がある。

4  被告は、別紙目録記載のユニット型四色刷オフセット印刷機(以下「被告製品」という。)を製造販売している。

5(一)  被告製品は、次の構造からなるものである

a 等径の版胴・ゴム胴各二本に対し、これら胴の三倍直径をもつ共通の圧胴一本の五胴で一印刷ユニットを形成している。

b 右印刷ユニットを二組並置して、両圧胴間に版胴・ゴム胴の四倍直径をもつ渡し胴を介在させる胴配列となしている。

c 共通の圧胴に接する二本のゴム胴の接点間の圧胴周面距離は、ゴム胴転写面の円周方向全長より長くとっている。

d 全てのゴム胴及び全ての版胴の高さはそれぞれ同じで、各版胴間の間隔は等しく、各ゴム胴間の間隔は、圧胴上は同間隔、渡し胴上はそれより若干長く、また、ゴム胴間の間隔は、版胴間の間隔に比べ、圧胴上では若干小さく、渡し胴上では若干大きくなるように配置した。

e ユニット型四色刷オフセット印刷機の胴配列。

(二)  被告製品は、次の作用効果を奏する。

(1) 従来のこの種装置においては、印刷完了に至るまでに、圧胴と渡し胴との間で多数回の紙の受渡しが繰り返されるから、その回数だけ、当然、見当精度を損ずる機会が生じていることになるが、被告製品によれば、両印刷ユニット間は渡し胴4一本だけで連結することが可能になり、紙の移替え回数をユニット型四色機としては最少限に減ずることを得たので、紙の移替え時のトラブルが激減する。

(2) また、従来装置では、各ゴム胴の共通の圧胴に対する接点間の距離が小さく、前行程印刷中に次行程印刷が行われる関係上、各ゴム胴の胴仕立寸法や印圧量の微妙な相違がダブリ現象となって表れてくる公算が大きいが、被告製品では、圧胴3、3'の径を版胴・ゴム胴の三倍直径で、渡し胴4の径を版胴・ゴム胴の四倍直径で構成し、各ゴム胴間の距離を十分広くとっているので、前述のこの種の四色機の欠陥を解消することができる。

(3) 更に、従来装置では、原動機動力を一、二色間及び三、四色間の二個所に分けて印刷機を駆動する方法をとっているが、このようにすれば、胴の正確な同期回転が得られなくなり、互いに干渉し合う所ができて、紙の受渡し時のミスタイミングを誘発し、更には、ダブリ現象やギヤ目の原因ともなってくるが、被告製品では、各圧胴3、3'、渡し胴4の間に遊車となるべき他の渡し胴が介在しないから、原動機動力を圧胴3に与えることにより、渡し胴4、圧胴3'のギヤーは、共に圧胴3のギヤーに追随して回転し、息つき運動するおそれが少なく、高価な装置を全く必要としない利点がある。

6  本件発明と被告製品とを対比すると、次のとおりであって、被告製品は、本件発明の技術的範囲に属する。

(一)(1)イ 被告製品の構造aは、本件発明の構成要件Aを充足する。

ロ 本件発明では、渡し胴が、等径の版胴・ゴム胴の三倍直径をもつ圧胴と「同様構造をもつ渡し胴」であるのに対し、被告製品では、渡し胴が、版胴・ゴム胴の四倍直径である点において一応の相違がある。しかしながら、この「同様構造をもつ」の意義は、本件発明が、渡し胴の構成について、端的に「3倍直径をもつ」と表現しないで、このように表現したところからすると、単に三倍というのではなく、「少なくとも3倍」の意味を表現しようとしたものと解される。すなわち、本件発明の渡し胴は、その構成の目的が二組の印刷ユニット間をただ一本の渡し胴で連結し、各ゴム胴間の距離を十分広くとるという点にあり、また、本件明細書記載の従来例と対比しても明らかなとおり、右目的達成のためには、渡し胴の直径は、版胴・ゴム胴の二倍では十分でなく、少なくとも三倍はなければならないとする構成として創出されたものであることが理解され、この理解は、当業者にとって自明である。

被告製品の渡し胴は、その直径が等径の版胴・ゴム胴の四倍であるが、この種装置の渡し胴の直径は、三倍と四倍の間の半端な数値をとることはなく、三倍の上はすぐ四倍となるから、渡し胴の直径が四倍であるものは「少なくとも3倍」の領域に含まれる。したがって、被告製品の構造bは、本件発明の構成要件Bを充足する。

ハ 被告製品の構造cは、本件発明の構成要件Cを充足する。

ニ 本件発明では、全ての版胴及びゴム胴が同間隔になるように配置したのに対し、被告製品では、ゴム胴及び版胴の間隔は、圧胴上は同間隔、渡し胴上はそれより若干長くなるように配置した点において一応の相違がみられる。しかしながら、本件発明にいう「全ての版胴及びゴム胴が同間隔」というのは、渡し胴の構成について「同様構造をもつ」というのが「少なくとも3倍の直径をもつ」と解されることとの関連において、かつ、それと同様の理由により、ゴム胴及び版胴の間隔は、圧胴上は正に同間隔であるが、渡し胴上は「ほぼ同間隔」と解すべきである。これに対して、被告製品では、各ゴム胴間の間隔は、渡し胴上は圧胴上のそれより長く、また、版胴間の間隔に比べると、渡し胴上は長く、圧胴上は短いという相違があるが、その差は僅かであって、その程度の相違は「ほぼ同間隔」に含まれるから、本件発明の構成要件Dと被告製品の構造dとの間には相違はないものとみることができる。したがって、被告製品の構造dは、本件発明の構成要件Dを充足する。

ホ 被告製品の構造eは、本件発明の構成要件Eを充足する。

(2) 仮に、本件発明の構成要件Bの「同様構造をもつ」の意義や、同Dの「全ての版胴及びゴム胴が同間隔」の意義について、右(1)のように解することができず、渡し胴は版胴・ゴム胴の三倍直径でなければならず、また、全ての版胴及びゴム胴がきっちり同間隔でなければならないとしても、被告製品は、本件発明と技術的思想を同じくするものであり、本件発明の渡し胴の直径が等径の版胴・ゴム胴の直径の三倍であるのを単に四倍に変え、それに併せて、ゴム胴間の間隔を渡し胴上のものだけ長くするという相違点を与えただけのものにすぎず、このように技術的要素を取り変えてみても、作用効果は本件発明の作用効果と異なるところはなく、その置換手段は本件発明の特許出願当時において当業者にとって容易に採りうることであったから、被告製品は、本件発明と均等のものであり、本件発明の技術的範囲に属するものというべきである。

(二) 本件発明の作用効果は前記3(二)のとおりであり、被告製品の作用効果は前記5(二)のとおりであって、本件発明と被告製品とは、作用効果上相違するところはない。

7  被告は、被告製品の製造販売行為が本件特許権を侵害するものであることを知り、又は過失によりこれを知らないで、昭和六〇年三月一日から昭和六二年一月末日までの間に、被告製品を総売上高一八〇億円相当製造販売した。そして、原告らは、被告の右総売上高の一・五パーセントに当たる実施料相当額二億七〇〇〇万円の得べかりし利益を失った。したがって、被告は、原告らそれぞれに対し、二七〇〇万円を支払うべき義務がある。

8  よって、原告らは、被告に対し、本件特許権侵害に基づく損害賠償として、それぞれ二七〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求の原因に対する認否

請求の原因1及び2は認める。同3(一)は認め、3(二)は知らない。同4は認める。同5(一)は認め、5(二)は否認する。同6(一)(1)ロ及びニ、6(一)(2)並びに6(二)は否認する。同7は否認する。

三  被告の主張

1  本件発明と被告製品とは、本件発明では、渡し胴が等径の版胴・ゴム胴の三倍直径をもつ圧胴と「同様構造」である(構成要件B)のに対し、被告製品では、渡し胴が版胴・ゴム胴の四倍直径である(構造b)点において相違し、また、本件発明では、全てのゴム胴が「同間隔になるように配置」されている(構成要件D)のに対し、被告製品では、各ゴム胴間の間隔が「圧胴上は同間隔、渡し胴上はそれより若干長く、また、ゴム胴間の間隔は、版胴間の間隔に較べ、圧胴上では若干小さく、渡し胴上では若干大きくなるように配置」されている(構造d)点において相違する。

被告製品は、右のような構造を有し、また、各版胴、各ゴム胴、各圧胴及び渡し胴が別紙目録記載のとおり配置されることによって、各版胴が同一の位相を保ちつつ回転するから、一つの版胴を刷版交換位置で停止させると、他の全ての版胴も刷版交換位置で停止することになる。したがって、被告製品は、刷版の同時交換が可能となり、刷版の交換操作が能率化され、刷版の交換時間を大幅に短縮することができる。これに対して、本件発明は、全ての版胴・ゴム胴が「同間隔になるように配置」されているうえ、渡し胴が圧胴と「同様構造」であるという厳しい制約の下にあるので、一つの版胴を刷版交換位置で停止させると、他の全ての版胴も刷版交換位置で停止するという配置をすることができず、全ての版胴の刷版を同時に交換することができない。

このように、被告製品は、本件発明とは、その構成を異にするうえ、本件発明にはみられない作用効果を奏するから、本件発明の技術的範囲に属さない。

2  原告らは、本件発明にいう「同様構造をもつ」の意義は、本件発明が、渡し胴の構成について、端的に「3倍直径をもつ」と表現しないで、このように表現したところからすると、単に三倍というのではなく、「少なくとも3倍」の意味を表現しようとしたものであって、被告製品のように、四倍のものは「少なくとも3倍」の領域に含まれる、と主張する。しかしながら、渡し胴の直径を版胴及びゴム胴の直径の一倍又は二倍としたものは、従来例として存在するのであるから、本件発明が「3倍直径」としたのは、これら従来例と明確に区別するためである。若しも、原告が主張するように、四倍は少なくとも三倍の領域に含まれるとするならば、従来例の二倍も三倍を含むとの解釈が可能となる余地が生じることになって、原告の主張は、従来例の欠陥を指摘した本件明細書の発明の詳細な説明の項の記載と矛盾することになる。また、本件明細書の発明の詳細な説明の項には、「渡し胴4は版、ゴム胴直径の3倍直径をもち」(本件公報一頁二欄二一行ないし二二行)、「渡し胴4の径を版、ゴム胴の3倍直径で構成し」(同二頁三欄三行ないし四行)と記載されているように、渡し胴の直径は、一貫して版胴・ゴム胴の直径の三倍であると記載されているのであって、「少なくとも3倍」であることを示唆する記載は皆無であるから、渡し胴の直径が版胴・ゴム胴の直径の「少なくとも3倍」であると解釈する余地はない。

また、原告らは、本件発明にいう「全ての版胴及びゴム胴が同間隔」というのは、渡し胴の構成について「同様構造をもつ」というのが「少なくとも3倍の直径をもつ」と解されることとの関連において、かつ、それと同様の理由により、ゴム胴及び版胴の間隔は、圧胴上は正に同間隔であるが、渡し胴上は「ほぼ同間隔」と解すべきである、と主張する。しかしながら、ゴム胴及び版胴の間隔が異なるものは、従来例として存在するのであるから、本件発明が「同間隔」としたのは、従来例と区別するためである。また、本件明細書の発明の詳細な説明の項にも、「各ゴム胴間の距離AA'A"が等しく」(本件公報一頁二欄三一行)と記載されているが、この「等しく」というのは、従来例の存在を前提として、「等しくなければならない」という意味であって、原告らの右主張のように解する余地はない。

3  原告らは、被告製品は、本件発明と均等のものである旨主張するが、被告製品は、前記のとおり、本件発明とは作用効果を異にするものであるから、均等の要件である置換容易性及び置換可能性を欠き、したがって、被告製品は、本件発明と均等のものではない。

4  原告らと被告との従前からの関係、殊に、被告が原告秋山勝司及び同人の実質的経営に係る東華機械製造株式会社に対して長年にわたって援助してきたことなど両者の関係に照らすと、原告らの被告に対する本訴請求は、極めて背信的であり、許されないものである。

三  被告の主張に対する原告らの反論

1  被告の主張1について

被告製品が、一つの版胴を刷版交換位置で停止させると他の全ての版胴も刷版交換位置で停止する構造になっていることは、被告主張のとおりである。しかしながら、一つの版胴を刷版交換位置で停止させると、他の全ての版胴も刷版交換位置で停止する技術、すなわち、版胴の刷版交換位置の位相を合わせる技術は、本件発明の特許出願前からの周知技術であって、本件発明の実施例である三倍胴の場合、ゴム胴の位置、渡し胴の上下位置をごく僅かずらすだけで設計することができるものである。したがって、右の位相合せは、渡し胴を四倍胴にした構成に特有の作用効果ではない。被告製品の版胴の刷版交換位置の位相合せの構成は、本件発明の単なる設計事項にすぎない。

2  被告の主張2について

本件発明の新規性の重点は、圧胴の直径を版胴・ゴム胴の三倍にしたという点にあるところ、それは、「すくなくとも3倍」を意味するものであるから、渡し胴の「同様構造」というのも、「少なくとも3倍」を意味するのである。

3  被告の主張3について

被告製品は、見当精度を損じることを除去し、また、ダブリ現象を除去するという本件発明の作用効果と同一の作用効果を生じるものである。被告製品の刷版交換位置を揃えるという作用効果は、周知技術の付加によるものにすぎない。

4  被告の主張4について

被告の主張は、著しく事実を歪曲したものである。原告らと被告との間には、被告の主張を根拠付けるような事実関係は存在しない。

第三  証拠関係

本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  原告らは、本件特許権を共有していたこと(持分各一〇分の一)、本件明細書の特許請求の範囲の記載は、本件公報の該当項記載のとおりであること、本件発明は、請求の原因3(一)のとおりの構成要件からなるものであること、被告は、被告製品を製造販売していること及び被告製品は、請求の原因5(一)のとおりの構造からなるものであることは、当事者間に争いがない。

二  右争いがない事実に基づき、被告製品が本件発明の技術的範囲に属するか否かについて判断する。

1  被告製品の構造a、c及びeが、本件発明の構成要件A、C及びEをそれぞれ充足することは、明らかであり、この点は、被告も争っていない。

2  そこで、まず、被告製品が本件発明の構成要件Bを充足するか否かについて検討するに、前示当事者間に争いのない本件明細書の特許請求の範囲の記載、本件発明の構成要件及び成立に争いのない甲第二号証によれば、(1)本件発明は、ユニット型四色刷オフセット印刷機の胴配列に関するものである、(2)従来、ユニット型四色刷オフセット印刷機は、その基本構造である胴配列及び胴駆動方法自体に見当精度を損じたり、ダブリ現象を生じるという悪要素を包含している、すなわち、(イ)版胴、ゴム胴、圧胴の三本で一印刷ユニットを形成し、これを四組並置し、この各印刷ユニット間に渡し胴を介在させる構成の四色機にあっては、印刷完了に至るまでに、圧胴と渡し胴との間で多数回の紙の受渡しが繰り返されるから、その回数だけ、当然、見当精度を損ずる機会が生じることになる、また、(ロ)版胴・ゴム胴各二本に対して共通の圧胴一本の等径の胴で一印刷ユニットを形成し、これを二組並置し、二色、三色間を多数の渡し胴又はチェーン受渡し機構によって連結する構成の四色機にあっては、各ゴム胴の共通の圧胴に対する接点間の距離が小さく、前行程印刷中に、次行程印刷が行われる関係上、各ゴム胴の胴仕立寸法や印圧量の微妙な相違がダブリ現象となって表れてくる公算が大きい、更に、(ハ)上例に示す従来の四色機は、すべて胴歯車の強度、摩耗等の考慮から、原動機動力を一、二色間及び三、四色間の二個所に分けて印刷機を駆動する方法を採っているが、このようにすれば、胴の正確な同期回転が得られなくなり、互いに干渉し合う所ができて、紙の受渡し時のミスタイミングを誘発したり、ダブリ現象やギヤ目の原因ともなる、(3)本件発明は、右欠点の解消を目的として、前示本件明細書の特許請求の範囲のとおりの構成を採用し、これにより、所期の目的を達成したものである、(4)この点を実施例に即して説明すると、本件発明は、右の構成のとおりであって、圧胴3、3'、渡し胴4の径を版胴・ゴム胴の三倍直径で構成し、各ゴム胴間の距離A、A'、A"を十分広くとったので、右(2)(ロ)の欠点を解消することができ、また、両印刷ユニット間は、渡し胴4一本で連結することが可能となり、紙の移替え回数は、ユニット型四色機としては最少限に減ずることを得たので、紙の移替え時のトラブルは激減する、更に、右(2)(ハ)のトラブルは、従来の四色機の最も悩みとしたところであって、この対策として同期回転させる種々の装置が案出されてきたが、いずれも、複雑な装置を要し、高価なものになる、また、従来の四色機の胴配列では、たとえ、原動機動力を一個所から伝達するようにしても、各圧胴に動力が伝達されるまでに、必ず遊車に相当する他の渡し胴が介在するから、運転時には、各印刷ユニットが、各個に印刷状態、非印刷状態を繰り返す関係上、遊車に相当する渡し胴との間で息つき回転するおそれが生じ、完全な周期回転が望み難いが、本件発明は、各圧胴3、3'、渡し胴4間に遊車となるべき他の渡し胴が介在しないから、原動機動力を渡し胴に与えれば、両圧胴ギヤーは、共に渡し胴ギヤーに追随して回転し、息つき運動するおそれがなく、高価な装置を全く必要としない利点などがあるとの効果を奏する、以上の事実が認められる。

右認定の事実によれば、本件発明の構成要件Bは、等径の版胴・ゴム胴各二本に対しこれら胴の三倍直径をもつ共通の圧胴一本の五胴で形成された一印刷ユニットを「二組並置して両圧胴間に同様構造をもつ渡し胴を介在させる胴配列をなすこと」というものであるところ、右の「同様構造」とは、渡し胴が両圧胴と同様の構造をもつこと、すなわち、渡し胴が版胴・ゴム胴の三倍直径をもつことを意味するものと認められるところ、前示当事者間に争いのない被告製品の構造bによれば、被告製品の渡し胴は、版胴・ゴム胴の四倍直径をもつものであって、本件発明の渡し胴とはその構成を異にするもの認められるから、被告製品は、本件発明の構成要件Bを充足しない、というべきである。この点に関して、原告らは、本件発明の構成要件Bの「同様構造をもつ渡し胴」の意義について、渡し胴の直径が単に版胴・ゴム胴の直径の三倍というのではなく、版胴・ゴム胴の直径の「少なくとも3倍」を意味するものである旨主張する。そこで、審案するに、前示当事者間に争いのない本件明細書の特許請求の範囲の記載によれば、特許請求の範囲には、「両圧胴間に同様構造をもつ渡し胴を介在させる」と記載されているところ、右記載部分の前に圧胴の構造として記載されているのは、その直径の長さだけであり、しかも、その直径として、版胴・ゴム胴の「3倍直径」と記載されているのであって、この特許請求の範囲の記載によれば、それ自体から、本件発明の渡し胴の構成は、圧胴と同一直径であって、その直径は版胴・ゴム胴の直径の三倍であることが、二義を許さない程度に明確であることが認められる。前記認定の本件発明の内容に照らしても、右の「3倍直径」が、原告ら主張のように、版胴・ゴム胴の直径の「少なくとも3倍」を意味するものと認定することは困難であり、ひいては、右の「3倍直径」は「4倍直径」をも含むと認定することはより困難である。また、前掲甲第二号証によれば、本件明細書には、原告らの右主張事実を示唆するような記載がないばかりか、かえって、本件明細書の発明の詳細な説明には、「圧胴3、3'及び渡し胴4は版、ゴム胴直径の3倍直径をもち周面3等分位置に夫々紙くわえ爪(図示せず)が装着される」(本件公報一頁二欄二一行ないし二三行)、「圧胴3、3'、渡し胴4の径を版、ゴム胴の3倍直径で構成し」(同二頁三欄二行ないし四行)、「各3倍胴の周面3等分位置に公知の紙くわえ爪を装置する」(同三欄一六行ないし一七行)と「3倍直径」のことだけが記載されていることが認められ、右認定の事実によれば、本件発明の渡し胴の構成は、前認定のとおり、圧胴と同一直径であって、その直径は版胴・ゴム胴の直径の三倍であると認めるほかははなく、したがって、原告らの右主張は、採用することができない。

3  次に、被告製品が本件発明の構成要件Dを充足するか否かについて検討するに、構成要件Dは、「全ての版胴・ゴム胴が同高さ同間隔になるように配置したこと」であるところ、右構成に対応する被告製品の構造は、「全てのゴム胴及び全ての版胴の高さはそれぞれ同じで、各版胴間の間隔は等しく、各ゴム胴間の間隔は、圧胴上は同間隔、渡し胴上はそれより若干長く、また、ゴム胴間の間隔は、版胴間の間隔に比べ、圧胴上では若干小さく、渡し胴上では若干大きくなるように配置した」というのであって、被告製品は、ゴム胴間の間隔が「同間隔」ではないから、本件発明の構成要件Dをも充足しない、というべきである。この点に関して、原告らは、構成要件Dの「同間隔」の意義について、渡し胴の構成について「同様構造をもつ」というのが「少なくとも3倍の直径をもつ」と解されることとの関連において、かつ、それと同様の理由により、ゴム胴及び版胴の間隔は、圧胴上は正に「同間隔」であるが、渡し胴上は「ほぼ同間隔」と解すべきである旨主張する。しかしながら、前掲甲第二号証によれば、本件明細書の特許請求の範囲には、前認定のとおり、「全てのゴム胴及び版胴」が「同間隔」になるよう配置したと明確に記載されているのみならず、本件明細書の発明の詳細な説明にも、「各ゴム胴間の距離A、A'、A"が等しく高さB、B'、B"、〓も等しくなるような位置とする。」(本件公報一頁二欄三一行ないし三三行)と記載されていることが認められ、右認定の事実によると、ゴム胴及び版胴の間隔は、圧胴上と渡し胴上とを区別することなく、「同間隔」であることが明らかである。前認定の本件発明の内容に照らしても、原告らの右主張のように認定すべき根拠を見出すことは困難であり、また、前掲甲第二号証によるも、本件明細書上、原告らの右主張事実を示唆するに足りる記載はない。したがって、原告らの右主張は、採用の限りでない。

なお、原告らは、被告製品の構造、すなわち、版胴の刷版交換位置の位相合せの構造は、本件発明の単なる設計事項にすぎない旨主張するが、前認定判断によれば、被告製品の右構造は、本件発明の構成要件と対応する構造であるところ、両者は、その構成において相違し、被告製品の右構造は、いわば本件発明の構成自体を別の構成に変更したものに当たるのであって、本件発明の構成の中に含まれるものではないから、被告製品の右構造をもって、本件発明の単なる設計事項ということはできず、したがって、原告らの右主張は、採用することができない。

4  原告らは、被告製品は、本件発明と技術的思想を同じくするものであり、本件発明の渡し胴の直径が等径の版胴・ゴム胴の直径の三倍であるのを単に四倍に変え、それに併せて、ゴム胴間の間隔を渡し胴上のものだけ若干長くするという相違点を与えただけのものにすぎず、このように技術的要素を取り替えてみても、作用効果は本件発明の作用効果と異なるところはなく、その置換手段は本件発明の特許出願当時において当業者にとって容易に採りうることであったから、被告製品は、本件発明と均等のものであり、本件発明の技術的範囲に属するものである旨主張する。そこで、検討するに、仮に原告らのいう均等の理論が、特許権侵害訴訟において採用することができる理論であるとしても、原告らの均等の主張は、次に認定判断するとおり、理由がないものといわざるをえない。すなわち、前2認定の本件発明の内容によれば、被告製品のように、渡し胴の直径を版胴・ゴム胴の直径の四倍にし、ゴム胴間の間隔を渡し胴上のものだけ長くするという構造のものは、本件発明の構成に含まれるものと認めることはできず、また、前掲甲第二号証によれば、右被告製品のような構造のものは、本件発明の構成に含まれるものとして本件明細書に開示されているとも認められないところ、原告らは、被告製品が本件発明と均等のものであるとする理由として、前示のとおり、本件発明と被告製品とは作用効果において異なるところはない旨主張するが、被告製品は、一つの版胴を刷版交換位置で停止すると、他の全ての版胴も刷版交換位置で停止するという作用効果を奏する構造であるのに対し、本件発明は、その構成のままでは、このような作用効果を奏しないものであることは、原告らの自認するところであるから、本件発明と被告製品とは、作用効果において異なるものであり、したがって、原告らの右主張は、その前提を欠くものというべきである。この点に関して、原告らは、被告製品の右作用効果は周知技術の付加によるものにすぎない旨主張するが、原告らの主張によるも、本件発明が右作用効果を奏するためには、本件発明の渡し胴の直径が等径の版胴・ゴム胴の直径の三倍であるのを四倍に変え、それに併せて、ゴム胴間の間隔を渡し胴上のものだけ長くするという相違点を与えることを要するというのであって、右の相違点を与えるというのは、既に本件発明の構成自体をそのように変更することを意味し、本件発明の構成をそのまま採用したうえで、それに周知技術を付加するというのではないから、その作用効果にしても、単に周知技術の付加によるものということはできず、したがって、原告らの右主張は、採用することができない。なお、具体的妥当性ないしは衡平の理念の見地に立って考察しても、本件においては、被告製品をもって、本件発明と均等のものと認めるのを相当とするに足りる立証があるとはいえない。以上のとおりであって、原告らの均等の主張は、理由がないものというほかはない。

四  以上によれば、原告らの本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないから、これをを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条及び九三条一項本文の規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 清永利亮 裁判官 一宮和夫 裁判官 三村量一)

説明書

添付図面の第1図は印刷機の全体図、第2図は第1図の要部の拡大図である。

添付図面において、1a、1b、1c、1dは版胴、2a、2b、2c、2dはゴム胴、3、3'は圧胴、4は渡し胴を示す。版胴、ゴム胴の直径はすべて等しく、圧胴3、3'は版胴又はゴム胴の直径の3倍の直径をもち、渡し胴4は版胴又はゴム胴の直径の4倍の直径をもつ。圧胴3にはゴム胴2a、2b、圧胴3'にはゴム胴2c、2dがそれぞれ接して、圧胴3、ゴム胴2a、2b、版胴1a、1bで一印刷ユニット、圧胴3'、ゴム胴2c、2d、版胴1c、1dで一印刷ユニットを形成し、渡し胴4が両圧胴3、3'と互いに接して右二つの印刷ユニットを連結する。

各ゴム胴は、ゴム胴2aが圧胴3に接する点5とゴム胴2bが圧胴3に接する点6との間及びゴム胴2cが圧胴3'に接する点5'とゴム胴2dが圧胴3'に接する点6'(点5'、6'は図示せず)との間の圧胴周面距離Eを、各ゴム胴転写面の円周方向全長Fより長くなるように配置し、各ゴム胴間の配置関係は、基礎からの高さB5、B6、B7、B8は等しく、各ゴム胴間の距離は、2aと2b間の距離A4、2cと2d間の距離A6は等しく、渡し胴上の2bと2cとの間の距離A5はA4、A6より若干大きくなるようにされている。

各版胴は、基礎からの高さB1、B2、B3、B4は等しく、各版胴間の距離は、1aと1b間の距離A1、1cと1d間の距離A3、渡し胴上の1bと1cとの間の距離A2がすべて等しくなるように配置されている。

また、前記ゴム胴間の距離A4及びA6は、前記版胴間の距離A1及びA3よりも若干小さく、前記ゴム胴間の距離A5は、前記版胴間の距離A2よりも若干大きい。

なお、原動機7は、ベルト8を介しプーリー9に連動され、更に、中間ギヤー11、11…を介し圧胴3に連動されている。圧胴3のギヤー(図示せず)は、渡し胴4に固定されたギヤー10と噛み合い、該ギヤー10は、圧胴3'のギヤー(図示せず)と噛み合っている。図中12は給紙胴、13はスインググリツパー、14は排紙胴、15は給紙部、16は給紙テーブルを示す。

目録

添付図面及び説明書記載のとおりの胴配列を有するユニット型四色刷オフセット印刷機

第1図

<省略>

第2図

<省略>

<51>Int.Cl2. B 41 F 7/02 <52>日本分類 116 C 015 <19>日本国特許庁 <11>特許出願公告

昭50-6805

特許公報

<44>公告 昭和50年(1975)3月18日

発明の数 1

<54>ユニツト型4色刷オフセツト印刷機の胴配列

<21>特願 昭45-86422

<22>出願 昭45(1970)10月2日

<72>発明者 出願人に同じ

<71>出願人 秋山勝司

東京都足立区西新井6の16の22

図面の簡単な説明

第1図は本発明4色刷オフセツト印刷機の胴配列についてこれを重点的に明示した側面図である。第2図乃至第6図は全て従来形式の胴配列を上記同様に示した参考図で、第2図、第3図は共に版ゴム胴各2本に共通の圧胴1本を用いる5胴V型配列のものを2組並置する形式のもので、前者は2色目3色目間の葉紙の搬送を胴によつて行うもの、後者はチエーン機構によるものを夫々示す。又第4図乃至第6図は共通の圧胴によらず、1印刷ユニツトに各1本の圧胴を備える形式のもので、第4図は胴が全て同直径のもの、第5図は渡し胴が倍胴になつているもの、第6図は圧胴及び渡し胴が倍胴によつて構成されているものを示す。

発明の詳細な説明

従来のユニツト型4色刷オフセツト印刷機は(以下4色機と略記する)、その基本構造である胴配列及び胴駆動方法自体に見当精度を損じたり、ダブリ現象を生じる悪要素を包含している。

即ち、(イ)版、ゴム、圧胴の3本で1印刷ユニツトを形成してこれを4組並置し、各印刷ユニツト間に渡し胴を介在させて構成する形式の4色機にあつては、(第4図、第5図、第6図)印刷完了に至る迄に圧胴と渡し胴との間で多数回の紙の受渡しが繰り返されるから、その回数だけ当然見当精度を損ずる機会が生じていることになる。(ロ)又版、ゴム胴各2本に対し共通の圧胴1本の等径よりなる胴で1印刷ユニツトを形成し、これを2組並置して2色、3色間を多数の渡し胴か又はチエーン受渡し機構によつて連結して構成する形式の4色機にあつては、(第2図、第3図)各ゴム胴の共通の圧胴に対する接点間の距離が小さく前行程印刷中に次行程印刷が行われる関係上、各ゴム胴の胴仕立寸法や印圧量の微妙な相違がダブリ現象となつて表われてくる公算が大きい。(ハ)又上例に示す従来の4色機はすべて胴歯車の強度、摩耗等の考慮から原動機動力を1、2色間及び3、4色間の2個所に分けて印刷機を駆動する方法をとつているが(図示せず)、このようにすれば胴の正確な同期回転が得られなくなり互に干渉し合う所ができて紙の受渡し時のミスタイミングを誘発し、更にはダブリ現象やギヤ目の原因ともなつてくる。

この発明は従来の4色機がもつ上記した欠陥を除く目的のもとに開発された4色機の胴配列に関するものである。

以下図面についてその詳細を説明する。第1図において、1a、1b、1c、1dは版胴、2а、2b、2c、2dはゴム胴、3、3'は圧胴、4は渡し胴を示す。圧胴3、3'及び渡し胴4は版、ゴム胴直径の3倍直径をもち周面3等分位置に夫々紙くわえ爪(図示せず)が装置される。圧胴3、3'にはゴム胴2a、2b、と2c、2dとが夫々接して印刷ユニツトを形成し、渡し胴4が両圧胴3、3'と互に接して両ユニツトを連結する。このような胴配列下にあつてゴム胴は次の如き条件を満足する位置に設定されている。即ち圧胴3に接する点5、6間の圧胴周面距離Eを、ゴム胴転写面の円周方向全長Fより長くなるように配置するとともに、各ゴム胴間の距離A、A'、A"が等しく高さB、B'、B"、〓も等しくなるような位置とする。

なお、図中7は原動機、8はベルト、9はブーリー、10は渡し胴の中心軸に固定されるギヤー、11は中間ギヤーを示すものである。更に又12、13は公知の給紙胴、及びスインググリツバー、14は同様デリバリーギヤーを示す。

この発明は以上のような構成からなり、圧胴3、3'、渡し胴4の径を板を版、ゴム胴の3倍直径で構成し各ゴム胴間の距離A、A'、A"を充分広くとつたので、前記(ロ)項でのべたこの種4色機の欠陥を解消することができる。その上両印刷ユニツト間は渡し胴4、1本で連結することが可能になり、紙の移し替え回数はユニツト型4色機としては最少限に減ずることを得たので紙の移し替え時のトラブルは激減する。因みに紙の移し替え数の観点からすれば第3図の4色機は本発明同様最少であるが、不安定なチエーンに頼るためチエーンの伸びに対処する装置が必要となり、且つチエーンに支持され紙の運送を司どる数本の運送爪の工作が煩雑でその精度保持が極めて困難である。しかるにこの発明のものは各3倍胴の周面3等分位置に公知の紙くわえ爪を装置するが、形状が円筒形であるためチエーン機構によるものに比較して機械工作が容易で高精度に製作できる。次に前記(ハ)項にのべたトラブルについては従来4色機の最も悩みとした所で、この対策として同期回転させる種々の装置が案出されてきたがいずれも複雑な装置を要し高価なものになる。又従来4色機の胴配列では例え原動機動力を1ケ所より伝達する如くしても各圧胴に動力が伝達される迄に必ず遊車に相当する他の渡し胴が介在するから、運転時にあつて各印刷ユニツトが各個に印刷状態、非印刷状態を繰り返す関係上、遊車に相当する渡し胴との間で息つき回転するおそれが生じ完全な同期回転が望み難い。この発明によれば各圧胴3、3'、渡し胴4間に遊車となるべき他の渡し胴が介在しないから、原動機動力を渡し胴に与えれば両圧胴ギヤーは共に渡し胴ギヤーに追随して回転し、息つき運動するおそれがなく高価な装置を全く必要としない利点がある。更に又圧胴径が大きいことで薄紙から厚紙に至る広範囲の印刷が可能となり、汎用性があつてその上紙くわえ爪は1胴に3ケ所装置されているから摩耗による爪交換が少なく保守が容易である等の利点を併せもつ。

以上のようにこの発明は極めて簡単な構成のもとに従来の胴配列がもつ欠陥を一掃することを得たので、低廉であると同時に見当精度の向上に寄与する所が甚大である。印刷機性能の判定基準に見当精度の良否が大きな比重を占めることを考え合せればこの発明のもつ工業上の効果は非常に大ききいものがある。

<57>特許請求の範囲

1 等径の版、ゴム胴各2本に対しこれ等胴の3倍直径をもつ共通の圧胴1本の5胴で1印刷ユニツトを形成し、これを2組並置して両圧胴間に同様構造をもつ渡し胴を介在させる胴配列となすとともに、共通の圧胴に接する2本のゴム胴の接点間の圧胴周面距離は、ゴム胴転写面の円周方向全長より長くとることを条件として、全てのゴム胴及び版胴が同高さ同間隔になるように配置したことを特徴とするユニツト型4色刷オフセツト印刷機の胴配列。

第1図

<省略>

第2図

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第3図

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第4図

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第5図

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第6図

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特許公報

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