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東京地方裁判所 昭和63年(ワ)2979号 判決 1989年1月27日

原告

株式会社不動産ローンセンター

右代表者代表取締役

萩窪開南

右訴訟代理人弁護士

小林茂実

右訴訟復代理人弁護士

小林公明

被告

小宮山幸子

右訴訟代理人弁護士

市川渡

主文

一  被告は原告に対し、別紙物件目録記載の物件を明渡し、かつ、昭和六三年一二月一〇日から右明渡済みに至るまで一か月金五〇万円の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、別紙物件目録記載の物件を明渡し、かつ、昭和六三年五月一八日から右明渡済みに至るまで一か月金五〇万円の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求の原因

1  原告は、被告に対し、昭和六二年九月九日、二三〇〇万円を左の約定で貸付けた。

イ 昭和六三年一月五日を第一回とし毎月五日限り元利金二三万七〇〇〇円を昭和八二年一二月五日までに支払う。

ロ 支払を一回でも怠ったときは、期限の利益を失い、残金とこれに対する年三〇パーセントの割合による遅延損害金を支払う。

ハ 事務及び取扱手数料として、右貸金の三パーセントと調査料五万円を支払う。

ニ 中途解約されたときは、残元金の三パーセントを違約金として支払う。

2  被告は、右同日、右債務の担保として、原告との間で別紙物件目録記載の土地建物(以下「本件物件」という。)につき、左記の特約のもとに、譲渡担保契約を締結し、この所有権を移転し、その旨の登記を経由した。

イ 登記原因を売買とする。

ロ 被告が期限の利益を失ったときは、原告が確定的に本件物件の所有権を取得し、被告は即時に明渡す。

ハ 原告は、適正な価格で評価し、債務を清算する。

3  しかるに、被告は、第一回の分割金の支払をせず、期限の利益を失い、原告は、本件物件の所有権を取得した。

4(一)  ところで、昭和六三年二月四日現在の原告の被告に対する債権は、

イ 元金 二三〇〇万円

ロ 利息 二一万三九〇〇円

ハ 損害金 五六万七一二三円

ニ 解約手数料 六九万円

ホ 預かり金清算金 一五〇〇円

の以上合計二四四七万二五二三円である。

(二)  そこで、原告は被告に対し、右同日付内容証明郵便で、本件物件の評価額は三〇〇〇万円であること及び被告の債務額が右のとおりであることを通知し、同郵便はそのころ被告に到達した。

(三)  しかるに、本件物件には、先順位の債権額六八〇万円とする抵当権(住宅金融公庫)が存在しているうえ、被告の原告に対する昭和六三年二月五日から同年一二月九日までの遅延損害金を加算すると、被告の原告に対する債権は合計三〇三一万八九二円となるから、被告に支払うべき清算金は存在しない。

5  本件物件の賃料相当額は、一か月五〇万円である。

6  そこで、原告は被告に対し、本件物件を明渡すよう求めるとともに、本訴状送達の日の翌日である昭和六三年五月一八日から右明渡済みに至るまでの一か月五〇万円の割合による賃料相当の損害金を支払うよう求める。

二  請求の原因に対する認否

1  請求の原因1ないし3は認める。

2  同4の(一)のうち、イないしハ及びホは認めるが、ニは争う。原告主張の解約手数料(解約違約金)は、契約上期限前の弁済による解約の場合にのみ適用されるべきで、債務不履行による解約には適用されない。

同(二)は認める。

同(三)は争う。

3  同5は否認する。

4  同6は争う。

三  抗弁

1  本件物件の適正評価額は、原告が本件物件の所有権を取得した当時三五〇〇万円である。したがって、原告は、被告に対し、これより前記の被告の債務額(請求の原因の一のイないしハ及びホ)を控除した一一二七万七四七七円を清算金として支払うべきである。

2  被告は、右清算金の支払を受けるまで、本件物件の明渡を拒絶するし、また、それまでは本件物件の賃料相当の損害金を支払う義務もない。

四  抗弁に対する認否

抗弁1は否認し、同2は争う。

第三、証拠<省略>

理由

一請求の原因1ないし3の各事実並びに同4の(一)のうち、原告が被告に対し、昭和六三年二月四日現在、貸金元金二三〇〇万円、利息二一万三九〇〇円、損害金五六万七一二三円及び預り金清算金一五〇〇円の債権を有していた事実は、いずれも当事者間に争いがない。

そして、<証拠>によれば、原被告間の金銭消費貸借及び譲渡担保契約には、その第三条(4)に期限前の途中解約の場合と同様、債務不履行の場合にも三パーセントの割合による違約金を支払う旨の約定のあることが認められるから、被告は、原告に対し六九万円の解約手数料も支払う義務がある。

したがって、右同日現在の原告の被告に対する債権は、合計して二四四七万二五二三円である。

二次に、請求の原因4の(二)の事実も当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、原告は、被告に対し、昭和六三年二月四日付の内容証明郵便で、本件物件を同郵便到達後一週間以内に明渡すよう求めるとともに、清算後余剰金があれば、これを返還する旨通知したことが認められるが、未だその清算金の有無及び額を通知することなく、本訴を提起し、昭和六三年一二月九日の本件第八回口頭弁論期日において、被告に対し、清算金は存在しない旨意思表示したことは、本件記録上明らかである。

ところで、右日時現在における原告の被告に対する債権額は、前記金員に、昭和六三年二月五日から右日時までの元金二三〇〇万円に対する年三割の割合による遅延損害金五八二万五四〇九円を加算した合計三〇二九万七九三二円であるところ、<証拠>によれば、本件物件の右日時現在の時価は三五〇〇万円を下らないが、他方では本件物件につき、原告の譲渡担保権に優先する債権額六八〇万円の抵当権が存在することが認められるから、本件物件を適正に評価するに当たっては、特別の事情がない限り、右抵当権付の債権額を控除すべきであり、したがって、本件物件の評価額は、結局のところ原告の債権額より低額となり、原告が被告に支払うべき清算金はないといわざるをえない。

そうだとすると、被告の同時履行の抗弁はもはや成り立たず、被告は、原告に対し、本件物件を直ちに明渡すべきである。しかし、清算金の有無の確定までは、その存在を前提とし、同時履行の抗弁権を行使する債務者の担保物の占有は、その権利行使が明らかに不当と認められない限り(なお、前認定の事実によれば、原告の被告に対する昭和六三年二月四日付内容証明郵便による通知には、右時点では清算すべき余剰金があるごとくに記載されている。)、一応適法なものというべきである。そして、弁論の全趣旨によれば、本件物件の賃料相当額は一か月五〇万円を下らないことが認められるところ、原告が被告に対し、清算金がない旨意思表示した日の翌日である昭和六三年一二月一〇日以降は、正当の権限のない占有というべく、右金員相当の損害金を支払わねばならないと解すべきである。

三以上のとおりであるから、原告の本訴請求は、被告に対して、本件物件の明渡しと昭和六三年一二月一〇日から右明渡済みに至るまでの一か月五〇万円の割合による損害金の支払を求める限度で理由があるから、これを認容することとし、その余は理由がないので棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条但書を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官大澤巖)

別紙<省略>

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