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東京地方裁判所 昭和63年(特わ)1172号 判決 1988年11月15日

本店所在地

東京都北区王子一丁目一二番一〇号

株式会社天下商事

(右代表者代表取締役 小酒井勝樹)

本籍

東京都北区王子二丁目三番地一

住居

同都同区王子一丁目一二番一〇号

会社役員

小酒井正基

大正一〇年八月一〇日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官井上經敏、同高木和哉出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人株式会社天下商事を罰金一三〇〇万円に、被告人小酒井正基を懲役一〇月にそれぞれ処する。

被告人小酒井正基に対し、この裁判の確定した日から三年間その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人株式会社天下商事(以下被告会社という。)は、東京都北区王子一丁目一二番一〇号に本店を置き、飲食店経営等を目的とする資本金一〇〇〇万円の株式会社であり、被告人小酒井正基(以下、被告人という。)は、被告会社の設立された昭和五六年六月二日から同六二年一一月二〇日までの間被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括していたものであるが、被告人は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上の一部を除外するなどの不正な方法により所得を秘匿した上、

第一  昭和五七年一〇月一日から昭和五八年九月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が四一五二万二四二八円であった(別紙1修正損益計算書参照)のにかかわらず、同五八年一一月三〇日、同都北区王子三丁目二二番一五号所在の所轄王子税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が八四八万四五四〇円であり、これに対する法人税額が二五七万五八〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和六三年押第九九七号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額一六四五万一八〇〇円と右申告税額との差額一三八七万六〇〇〇円(別紙2脱税額計算書参照)を免れ

第二  昭和五八年一〇月一日から昭和五九年九月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が六二九二万三六三二円であった(別紙3修正損益計算書参照)のにかかわらず、同五九年一一月三〇日、前記王子税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一三五一万八五〇四円であり、これに対する法人税額が四八五万三七〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号の2)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額二六二四万六一〇〇円と右申告税額との差額二一三九万二四〇〇円(別紙4脱税額計算書参照)を免れ

第三  昭和五九年一〇月一日から昭和六〇年九月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が六四六四万五一円であった(別紙5修正損益計算書参照)のにかかわらず、同六〇年一一月二九日、前記王子税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一五八五万八五一四円であり、これに対する法人税額が五八六万三三〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号の3)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額二六九八万六〇〇〇円と右申告税額との差額二一一二万二七〇〇円(別紙6脱税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全部の事実につき

一  被告会社代表者及び被告人の当公判廷における各供述

一  被告人の検察官に対する供述調書二通

一  小酒井勝樹、小酒井シヅ、藤城稔の検察官に対する各供述調書

一  収税官吏作成の次の各調査書

1  売上高調査書

2  仕入高調査書

3  給料手当調査書

4  地代家賃調査書

5  雑費調査書

6  事業税認定損調査書

7  受取利息調査書

8  雑収入調査書

一  収税官吏作成の証明書及び領置てん末書

一  登記官吏作成の商業登記簿謄本

判示第一の事実につき

一  収税官吏作成の欠損金の当期控除額調査書

一  押収してある法人税の確定申告書(昭和五八年九月期)一袋(昭和六三年押第九九七号の1)

判示第二及び第三の事実につき

一  収税官吏作成の水道光熱費調査書

判示第二の事実につき

一  押収してある法人税の確定申告書(昭和五九年九月期)一袋(同押号の2)

判示第三の事実につき

一  収税官吏作成の次の各調査書

1  収益分配金調査書

2  有価証券売却益調査書

3  支払利息調査書

一  押収してある法人税の確定申告書(昭和六〇年九月期)一袋(同押号の3)

(法令の適用)

被告会社の判示各所為は、いずれも法人税法一六四条一項、一五九条一項に該当するところ、情状により同法一五九条二項を適用し、以上は、刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により判示各罪所定の罰金額を合算し、その金額の範囲内で被告会社を罰金一三〇〇万円に処する。

被告人小酒井正基の判示各所為は、いずれも法人税法一五九条一項に該当するところ、各所定刑中懲役刑を選択し、以上は、刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第二の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役一〇月に処し、後記の情状により同法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から三年間右刑の執行を猶予することとする。

なお、訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項但書を適用して被告会社及び被告人に負担させない。

(量刑の理由)

本件は、回転式の寿司屋を業とする被告会社の代表者であった被告人が、被告会社の業務に関し、三事業年度にわたり、不正な方法により所得を秘匿した上、合計五六三九万円余の法人税を免れたという事実であるが、そのほ脱額は多額で、ほ脱率も平均して約八〇パーセントを超える高率であって、結果が重大であること、犯行の動機は、営業時間の延長に伴う事業収益の増加に乗じて、経営基盤の強化を図るとともに老後の生活に備えようとしたというもので、特に同情の余地がないこと、犯行の態様も、売上を除外するとともにその発覚を防止するため原料の仕入れを簿外で支出するなどの不正工作をしていたもので、悪質であること等の事情にかんがみると、被告人らの刑責を軽く評価することはできない。もっとも、本件においては、被告人が本件犯行後税務調査の段階から捜査に積極的に協力し、ほ脱にかかる税額につき、速やかに修正申告のうえ未納税額を完納するかたわら、被告会社の代表者の地位を降りて経営の実権を息子の手に委ねるなど反省の情が顕著であること、被告会社においては、本件税理士による適切な税務の指導がえられなかった点を踏まえ、新たな税理士を迎えるとともに売上金の入金のシステムの改善や内部統制機構の充実等の経理面の健全化を図る措置を取り入れ今後の税務申告の正常化を期していること、被告会社及び被告人には前科、前歴が全くないこと、その他被告人の年齢、経歴等被告人らのため有利に斟酌すべき情状もある。

以上のような本件の動機、態様、結果、犯行後の状況、被告人の年齢、経歴等の諸般の情状を総合考慮すると、被告会社に対しては主文掲記の罰金刑に、被告人小酒井正基に対しては主文掲記の懲役刑に、それぞれ処するのが相当であり、なお、同被告人に対しては、前記の情状に照らし、今回は自力更正を期して右刑の執行を猶予することとした。

(求刑 被告会社につき罰金一五〇〇万円、被告人につき懲役一〇月)

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 稲田輝明)

別紙1 修正損益計算書

株式会社 天下商事

自 昭和57年10月1日

至 昭和58年9月30日

<省略>

別紙2 脱税額計算書

株式会社 天下商事

自 昭和57年10月1日

至 昭和58年9月30日

<省略>

別紙3 修正損益計算書

株式会社 天下商事

自 昭和58年10月1日

至 昭和59年9月30日

<省略>

別紙4 脱税額計算書

株式会社 天下商事

自 昭和58年10月1日

至 昭和59年9月30日

<省略>

別紙5 修正損益計算書

株式会社 天下商事

自 昭和59年10月1日

至 昭和60年9月30日

<省略>

別紙6 脱税額計算書

株式会社 天下商事

自 昭和59年10月1日

至 昭和60年9月30日

<省略>

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