東京地方裁判所八王子支部 事件番号不詳〔1〕 判決
主文
被告人を禁錮八月に処する。
本裁判確定の日より三年間右刑の執行を猶予する。
訴訟費用は全部被告人の負担とする。
理由
被告人は自動車修理業を営む傍自動車運転の業務に従事する者であるが、昭和三十三年十月十六日小型乗用自動車第五せ―一三九五号を運転し、通称所沢街道を東京都立川市方面より同都北多摩郡砂川町九番方面に向け時速約三十キロメートルで進行し、同日午後七時二十五分頃同町三八四二番地先路上にさしかかつたところその約一時間前に同都八王子市内で焼酎約一合を飲んだが、当日は胃の調子が悪かつたので朝より全然食事をとつていなかつたため平常と違い酒の酔が廻り注意力が散漫となり前方を十分に注視して正常な運転をすることができない虞があつたので、このような場合自動者運転者である被告人としては一旦運転を中止し、もつて事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるにかかわらず、これを怠り、漫然運転を継続し、加えて、同所において被告人の後方から進行してきた自動車の前照燈の光が被告人の自動車の前面硝子に反射して前方を注視することができない状態に陥つたので、自動車を操縦する者としては直ちに減速、或は一時停車をする等して事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるにかかわらず、これも怠り、同速度でハンドルを左に切つて右道路左端を進行したため右道路左側に佇立していた木下孝一(当四十二年)及び尾崎小善(当三十七年)の姿に気付かず、自己の操縦する自動車の前部を右両名に激突させて同人らを路上に跳ね飛ばし、よつて右木下に対し加療約四個月を要する右下腿骨踝部骨折及び頭部挫傷を、右尾崎に対し入院加療約六個月を要する左下腿骨骨折、上顎部骨折及び頭部挫創を負わせたものである。
(証拠説明は省略する。)
を総合して認める。
法律に照らすと、被告人の判示所為中業務上過失傷害の点は各刑法第二百十一条前段罰金等臨時措置法第二条第一項第三条第一項第一号に、道路交通取締法違反の点は同法第二十八条第一号第七条第一項第二項第三号罰金等臨時措置法第二条道路交通法附則第二条第十四条に該当するところ以上は一個の行為で三個の罪名に触れる場合であるから刑法第五十四条第一項前段第十条に則り犯情の重いと認められる判示尾崎小善に対する業務上過失傷害の罪の刑に従い処断すべく、所定刑中禁個刑を選択し、その所定刑期範囲内で被告人を禁錮八月に処し、情状刑の執行を猶予するを相当と認め同法第二十五条第一項に則り本裁判確定の日より三年間右刑の執行を猶予し、訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条第一項本文を適用して全部被告人に負担させる。
よつて主文のとおり判決する。(昭和三五年一二月二七日東京地方裁判所八王子支部)