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東京地方裁判所八王子支部 平成10年(ワ)1364号 判決 1999年10月29日

原告

平孝一

ほか二名

被告

森淳

主文

一  被告は、原告平孝一に対し金一九九万六四二四円、原告角田英明に対し金一〇七万九一一〇円、原告角田友子に対し金一一二万八一四〇円、及びこれらの金員に対する平成七年七月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その三を被告の負担とし、その余を原告らの負担とする。

四  この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告平孝一に対し金九二六万四五七二円、原告角田英明に対し金一九三万一一〇円、原告角田友子に対し金一二七万八一四〇円、及びこれらの金員に対する平成七年七月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、運転者及び同乗者である原告らが、追突事故による休業損害等について、被告に対し、民法七〇九条に基づき損害賠償請求をした事案である。

一  争いのない事実等

1  平成七年七月一六日午前二時二六分頃、東京都府中市北山町三―三〇―二〇先路上において、原告平孝一(以下「原告平」という。)が運転し、原告角田英明(以下「原告英明」という。)、原告角田友子(以下「原告友子」という。)が同乗する普通貨物自動車(車両番号多摩四八そ七八三)に、被告が運転する普通乗用自動車(車両番号 多摩三三ふ八七六七)が追突する、被告を加害者、原告らを被害者とする交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

2  被告は、本件事故前に電柱に衝突する交通事故を起こし、さらに本件事故現場から約三〇〇メートル手前の地点にある書店のシャッター及び店舗前の自動販売機に衝突し、そこから逃走しようとして進行中、時速五〇ないし六〇キロメートルで原告車に追突し、原告車を押したまま進行し、原告車が前方の民家に突っ込んで停止したもので、本件事故時被告は酒気帯び運転の状態であった(電柱に衝突する交通事故を起こしたこと、追突速度、酒気帯び運転については、乙一の1ないし3、10、その余については当事者間に争いがない。)。

3  本件事故により、原告平は、全身打撲及び頸椎捻挫の傷害を受け、都立府中病院に、平成七年七月一六日から同年八月一七日まで通院(実治療日数五日)した。

4  本件事故により、原告英明は、頭部打撲、頸椎捻挫及び左肩・左膝打撲の傷害を受け、都立府中病院に、平成七年七月一六日から同年一〇月一二日まで通院(実治療日数一二日)した。

5  本件事故により、原告友子は、頸椎・腰椎捻挫及び両膝挫傷の傷害を受け、都立府中病院に、平成七年七月二八日から同年九月一二日まで通院(実治療日数六日)し、奥島病院に同年七月一六日から同月二四日まで、田中整形外科クリニックに同年九月二二日から同年一一月一三日まで通院した。

6  被告は、民法七〇九条に基づき、本件事故による原告らの損害を賠償する責任がある。

7  原告平の治療費は七万三一一〇円、診断書料・明細料は一万二六〇〇円、原告友子の治療費は一一万二九八〇円、診断書料・明細料は一万一二〇〇円である。

二  争点(損害)についての当事者の主張

1  原告らの主張

(一) 原告平

(1) 治療費関係

通院雑費 五五六二円

通院交通費(五日) 三三〇〇円

(2) 休業損害 七三三万円

ア 休業補償 四〇万円

原告平は、たいらという名称でビル清掃業に従事し、一月当たりの給与として四〇万円を得ており、休業日数三二日(事故発生日平成七年七月一六日から同年八月二七日まで)として算出すると四〇万円となる。

イ 外注費用 六九三万円

たいらは京王ストアー等から継続的に床清掃、マット交換、消耗品配達等を請負っていたが、本件事故のため、原告英明がトラックの運転ができなくなったので、同原告が担当していた消耗品の配達業務のためのトラックの運転業務を平成七年七月一六日から同年九月二九日まで三三日間、高橋芳衛(以下「高橋」という。)に一日当たり三万五〇〇〇円で依頼した。そして、原告平は高橋に合計一一五万五〇〇〇円を支払った。

原告平は、本件事故により、原告友子と原告平が主に担当していた京王ストアーの清掃、レンタルマットの交換業務を同原告らができなくなったため、平成七年七月一六日から同年一二月初めまで、クリーンモア サービスこと畑真澄(以下「クリーンモア サービス」という。)に対して京王ストアの清掃、レンタルマットの交換業務を委託せざるをえなくなり、五七七万五〇〇〇円を支払った。

右五七七万五〇〇〇円が認められないとすれば、原告平が、クリーンモア サービスに対して支払った金額は、九月分四万円(乙三の4の京王ストア烏山店以下八件の部分)、一〇月分一五万円(乙三の5の京王ストアー和泉店以下一一件の部分)、一一月分二〇万八〇〇〇円(乙三の6の京王ストアー烏山店以下一一件の部分)の合計三九万八〇〇〇円である。

(4) 慰謝料 一〇〇万円

(5) 弁護士費用 八四万円

(二) 原告英明

(1) 治療費関係

ア 原告英明は本件事故のため視力障害を起こして視力が極端に低下し、眼鏡をかけないと物が見えない状態となった。

イ 府中病院治療費 一五万四三九〇円

診断書料・明細料 一万六八〇〇円

通院交通費(一二日) 七九二〇円

眼鏡代 三万一〇〇〇円

(2) 慰謝料 一五〇万円

(3) 弁護士費用 二二万円

(三) 原告友子

(1) 治療費関係

通院交通費(六日) 三九六〇円

(2) 慰謝料 一〇〇万円

(3) 弁護士費用 一五万円

2  被告の主張

(一) 原告平

(1) 原告平の休業補償の算定の基礎となる収入及び休業期間については争う。原告平の収入は、平成七年度のたいらの売上げから諸経費を差し引いた額一七八万三五五五円であるから、一月当たり一六万二一四一円であり(一七八万三五五五円÷一一。一円未満四捨五入)、その金額が休業補償算定の基礎とされるべきである。

(2) 原告らが、休業せざるをえなくなったため、継続的な取引先の仕事を外注せざるを得ず、そのために支出した外注費用が損害であるとの主張は争う。

(二) 原告英明

原告英明が本件事故により視力障害を受けたことは争う。眼科通院費用及び眼鏡代は、本件事故とは相当因果関係はなく、被告に賠償責任はない。

第三争点(損害)に対する判断

一  原告平について

(一)  治療費関係

本件事故により原告平は都立府中病院に五日通院したことは当事者間に争いがなく、証拠(原告平本人)及び弁論の全趣旨によれば、原告平の自宅から同病院までの交通費は一日当たり六六〇円と認めるのが相当であるから、原告平の通院交通費は三三〇〇円と認められる。なお、原告平主張の通院雑費は、前記傷害の程度及び実通院日数からみて本件事故と相当因果関係のある損害と認めることはできない。

(二)  休業損害

前記争いのない事実等及び証拠(甲一七の2、二一、原告平本人)並びに弁論の全趣旨によれば、原告平は、たいらの商号で個人営業としてビル清掃業を営んでおり、本件事故により、全身打撲及び頸椎捻挫の傷害を受け、都立府中病院に、平成七年七月一六日から同年八月一七日まで(三二日間)通院したこと、平成六年度のたいらの総収入は二三七九万五九六四円、売上原価が二四七万二九六三円、総経費一九四一万八五二五円の内から固定費と認められる給料賃金二五五万円、減価償却費七〇万五七五〇円、地代家賃四四八万一六〇円、租税公課四〇万七六五〇円、損害保険料五三万二八〇円を控除した経費が一〇七四万四六八五円であることが認められる。

右認定事実によれば、本件事故による原告の休業損害は、総収入から売上原価、経費の内の変動費を控除したものの三二日分であるので、九二万七四一四円と認められる。

式(2,3795,964-2,472,963-1,0744,685)÷365×32=927,414

原告平は、原告平の一月当たりの給与は四〇万円である旨主張し、それに沿う原告平の供述があるが、右供述はあいまいであり、裏付ける書証等の提出がないので、採用できない。

被告は、原告平の収入は、平成七午度のたいらの売上げから、諸経費を差し引いた額が一七八万三五五五円であるから、一月当たり一六万二一四一円である旨主張するが、固定費を全く考慮していないので、採用できない。

次に、原告平は、原告らが本件事故により休業せざるを得なくなったため、たいらが継続的な取引先の仕事を高橋及びクリーンモア サービスに外注せざるを得ず、そのために支出した外注費用が損害である旨主張するので、検討する。

たいらが高橋に対して、一日当たり三万五〇〇〇円で自動車の運転を外注した旨の主張に沿う証拠として甲一二の1ないし4、二一、二五、原告平本人がある。しかし、甲一二の1ないし4を基礎づける送金票、金融機関の通帳等の書証類の提出のないこと、原告平が本人尋問で提出すると述べた高橋にかかる報酬の受領先預金通帳は提出されず、その代わりに提出された高橋の陳述書(甲二五)によれば、その記載内容と甲一二の1ないし4の記載内容との数字が大きく異なること、高橋はフリーのカメラマンであるが、高橋の自動車運転業務に原告平の一日当たりの給与(約一万三〇〇〇円。四〇万円÷三〇)に比し高額の一日当たり三万五〇〇〇円をなぜに支払うのか合理的な説明がないこと、原告英明の前記傷害の程度及び実通院日数、原告英明がたいらから事故前後を通じ同額の給与を受領していたこと(甲九の1ないし3、原告平本人)等に照らし、右証拠はにわかに措信できず、他に原告平の主張事実を認めるに足りる証拠はない。

また、たいらがクリーンモア サービスに外注した旨の主張に沿う証拠として甲一一の1ないし7(クリーンモア サービスのたいらへの請求書及び領収書)、原告平の陳述(甲二一)及び供述があるが、甲一一の1ないし7は、本件事故による損害賠償請求のため水増して作成された内容が虚偽のものであると認められ(乙二、三の2ないし6、四、原告平本人、弁論の全趣旨)、採用することができず、右甲一一の1ないし7に基づく原告平の陳述及び供述も採用できない。

さらに、原告平は、たいらがクリーンモア サービスに対して支払った金額のうち、九月分四万円(乙三の4の京王ストア烏山店以下八件の部分)、一〇月分一五万円(乙三の5の京王ストアー和泉店以下一一件の部分)、一一月分二〇万八〇〇〇円(乙三の6の京王ストアー烏山店以下一一件の部分)の合計三九万八〇〇〇円が、本件事故による外注費用である旨主張するので検討するに、前述の原告英明の傷害の程度、給料の受給状況等、原告平の前記傷害の程度、実通院日数及び休業期間(約一月)並に原告友子の前記傷害の程度及び実通院日数、原告友子がたいらから事故前後を通じ同額の給与を受領していたこと(甲一〇の1ないし3、原告平本人)等に照らせば、本件事故後一月半後の九月分から本件事故後三か月半後の一一月分までのクリーンモア サービスに対する外注費用は、本件事故と相当因果関係のある損害と認めることはできない。

(三)  慰謝料

前記争いのない事実等及び事故態様、被告の責任の程度その他本件に現れた一切の事情を考慮すると、慰謝料として、原告平について八〇万円が相当である。

(四)  弁護士費用

本件訴訟の難易、認容額等の諸事情によれば、原告平が被告に請求し得る本件事故と相当因果関係がある弁護士費用は一八万円が相当である。

二  原告英明について

(一)  治療費関係

原告英明は、本件事故により視力障害を受けた旨主張するので検討する。本件事故により原告英明の左眼がよく見えなくなった旨の原告英明の陳述書(甲二六)があるが、原告英明は近視性乱視で、視野、前眼部、中間透視体、眼底のいずれにも異常がなく、原告英明の左眼左側がよく見えない旨の症状に対応する眼科的所見は認められないこと(医師の診断書(甲三の3))にかんがみ、原告英明の陳述書から、直ちに本件事故による原告英明の視力障害を認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。そうすると、本件事故による原告英明の頭部打撲、頸椎捻挫及び左肩・左膝打撲の傷害については、証拠(甲六)によれば、治療費が一五万四三九〇円、診断書料・明細料が一万六八〇〇円と認められる。なお、前述のとおり、眼鏡代は、本件事故と相当因果関係のある損害とは認められない。

本件事故により、原告英明は都立府中病院に一二日(眼科診療を含まない。)通院したことは当事者間に争いがなく、証拠(原告平本人)及び弁論の全趣旨によれば、原告英明の自宅から同病院までの交通費は一日当たり六六〇円と認めるのが相当であるから、原告英明の通院交通費は七九二〇円と認められる。

(三)  慰謝料

前記争いのない事実等及び事故態様、被告の責任の程度その他本件に現れた一切の事情を考慮すると、慰謝科として、原告英明について八〇万円が相当である

(四)  弁護士費用

本件訴訟の難易、認容額等の諸事情によれば、原告英明が被告に請求し得る本件事故と相当因果関係がある弁護士費用は一〇万円が相当である。

三  原告友子について

(一)  治療費関係

本件事故により、原告友子は都立府中病院に六日通院したことは当事者間に争いがなく、証拠(原告平本人)及び弁論の全趣旨によれば、原告友子の自宅から同病院までの交通費は一日当たり六六〇円と認めるのが相当であるから、原告友子の通院交通費は三九六〇円と認められる。

(二)  慰謝料

前記争いのない事実等及び事故態様、被告の責任の程度その他本件に現れた一切の事情を考慮すると、慰謝料として、原告友子について九〇万円が相当である。

(三)  弁護士費用

本件訴訟の難易、認容額等の諸事情によれば、原告友子が被告に請求し得る本件事故と相当因果関係がある弁護士費用は一〇万円が相当である。

四  結論

前記争いのない事実等及び前記認定によれば、原告らの請求は、原告平については一九九万六四二四円、原告英明については一〇七万九一一〇円、原告友子については一一二万八一四〇円及びこれらに対する本件事故の日の後である平成七年七月一七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 都築民枝)

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